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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
62/197

弱き者を殺す掟

楽しんでいただけると幸いです。

どのくらい歩きまわっただろうか……

こうしてシエルとふたりで天界都市を歩いて歩いてる人に聞いたりしてルーダ博士を探しているが、見つかる気がしない。

前世なら女の子とふたりきりで歩くなんてテンション上がる展開なのに。 少しづつ溜まっていく疲労が早くも俺の足を止めようとしていた。

「それに比べ……」

シエルは疲労など一切見せずに淡々と歩きながら博士を探している。 さすがは半機械人間だな。 全く知らない赤の他人に余裕で博士について聞いたりしていて、捜索能力がこんな俺よりも遥かに高いことが伺える。 さすがは半機械人間だな……

「なぁシエル、そろそろ休まない?」

俺の体内時計だと昼くらいだし、腹減ってきたし、一度寝っ転がって休みたい。 俺も脚だけなら改造してもいいかもなんて思いすら湧き起こっている。

だが、そんな俺に対してシエルはまだまだやる気を見せている。

「そうだね。 じゃあ後三時間くらい探したら休もうか」

三時間も休み無しに歩くのなら、三時間後俺はベッドに辿り着くまでに倒れているだろう。 なんせ、天界都市に着くまでの距離をシエルに身体強化を脚に集中的にかけられた状態で全力疾走して来たのだから。 荒い呼吸や疲労等を抑えるドーピング的魔法も複数かけられていたため、今頃になってその時の疲労感が俺を蝕んでいるのだ。 まぁそのドーピング効果も途中で弱くなっていったんだけど。

「あのー……非常に言いづらいんだけどさ。 もう疲れたから今日はもう休みた」

ドゴォォン……

俺の嘆願を遮るように爆発音が斜め頭上から響く。

そしてその爆発音を引き金に周りの人々が悲鳴をあげ始める。

「なに!?」

驚いてシエルは俺の後方斜め上へ視線を送る。 俺もその視線を追って振り返る。

そこには。 とある建物の屋上、少女と大男が対峙していた。 男を中心に爆煙が舞っていて、彼らのいる建物が少々軋みガラスの破片や屋上の手すり等が歩道にいた人々に降りかかる。 そんなことはお構い無しに大男は雄叫びをあげて少女に襲いかかる。

「エルト!」

「あぁ!」

シエルに呼ばれ目を合わせる。 機械じみていた瞳と人の瞳の両方を持つ両目には戦う意志が見える。 俺はその思いを汲んで返事をする。

溜めていた疲労を吹き飛ばし俺は足を動かした。 続いてシエルも共に走り出す。

「俺は屋上の方に行く! シエルは下の人達の手当てを行ってくれ!」

「分かった!」

驚きと恐怖にパニくる人々の間を駆け抜けて俺は屋上に向かった。 シエルは傷ついた人の応急処置に取り掛かる。

屋上に出ると大男がフードを深く被った少女に攻撃をしていた。 だがそれらの攻撃を紙一重に余裕をもって躱し続ける少女。 反撃をする気はないように見えた。

「このっ……避けんじゃねぇ!」

大男は苛立ちを見せる。

「なめてんのか! この野郎!」

一切反撃をしてこない少女に叫んで拳を何度も突く。

そんな苛立つ大男の懐に、いつの間にか俺がいることも知らずに。

なら俺も苛立ってやろうか……?

なんてふざけた思考を巡らせ、先程休むチャンスを砕かれたことを思い出し、それを腕力の原動力に変える。

固く拳を握る。 まだ奴は俺の存在に気づかない。

たまに来る大男の拳を避けながら体制を更に低くさせる。 後ろで躱しまくっている少女の驚きの視線を背に受けながら、俺は地を思いっきり蹴った。

「クソッタレがぁ!!」

「ぐふぅっ!!?」

拳の連打がいきなり止んで、大男は仰向けに空中を舞う。 いきなりの事態になにもかも追いつけていない大男はそのまま受け身も取れずに床に背から着地。 その瞬間に、相手の溝に肘を打ち込み、着地の衝撃を更に強めた。 感情任せに放った肘打ちは、まだ少し残っていた身体強化の余韻が作動したのか屋上の床に大男を中心に八方のヒビをいれた。

「がはっ……!」

やべっ、やり過ぎたか……? ……まぁいいか、こいつが全部悪いんだし。

床のヒビを見て焦るが、全部大男のせいにして自己完結。

振り返って少女に声を掛ける。

「大丈夫か?」

だが、そんな俺に少女は青ざめていた。

「な、なんてことを……」

「?」

「お前……なんてことを……」

ただただ不安や焦りが感じ取れる少女の反応に、俺はただただ疑問符を浮かべた。

「お前、外の者だな? だが、普通こんなことに首を突っ込むか……? いや、あれくらいの実力の持ち主なら正義感からそうしてしまうのも分から無くはないが……いやだが……」

小声で軽く俯き一人言を呟き始める少女。

「あの、なんか駄目な事でもしちゃったかな。 俺」

「っ……お前は何も知らんでこのようなことをしたのかっ!」

おぉ、助けた人にいきなり怒鳴られた……

「お前……ここは、天界都市だぞっ!」

「うん、知ってるけど?」

知ってるけど、なに?

それを聞いて今度は「こいつ馬鹿なのか?」なんてことを言ってるような表情をして俺に顔を向けた。 そこで俺は思い出す。 ほんの数時間前にシエルと話していた時を。

「……あ。 掟か」

「馬鹿者! 今更じゃ遅いわ! 早く逃げんか! いや、もう遅いか……。 馬鹿者! あの馬鹿男と共に地下に落とされるぞ! 馬鹿者! 馬鹿者!」

おぉ……少女からこんなにも馬鹿呼ばわりされる日が来るとは。 でもなんか可愛いな。

だが、そんな時……

ピーーーーーッ!!!

「ん、笛?」

鼓笛とかでよく聞くような音が全域に響き渡るのが聞こえる。

「チィッ……今日は奴らは今会議中という絶好の機会だというのに……今日はどうやら地下に降りれそうもないな。 お前のせいだからな! この馬鹿者!」

「えぇ?」

えぇ? もうなにがなんだか分からな、

「私は」

っ!?

いきなり少女に距離を詰められる。 そして俺だけに聞こえるような小声で囁く。

「私、いや我の名はディア・シュミーヌ。 この名を忘れるな。 その正義、いつか誘うと思うから」

「へ?」

そしてすぐに距離をとる少女は。

「必ず生きていろ! 必ず助ける!」

そう言ってどこかに行ってしまった。 もうなにがなんだか分からない。

「エルト!」

その直後にシエルが屋上にやって来る。 それと同時に。

ズドンッ……

とても重い音が目の前に現れる。 そこには、機械のゴーグルとマスクをした全身武装の人型戦闘兵器という言葉が似合いそうな謎の人(?)がいた。

そして静かにこいつは重さを感じる機械じみた声で言う。

「罪人2名発見」

瞬間。

「っ!! 逃げろ、シエル!」

本能的に危険だと察した俺はすぐにシエルへ叫ぶ。

だがすぐに相手はカウンターの如くすぐに重さ宿る声を発する。

「逃走無意味。 罪人ハ男2名ノミ」

その言葉にすぐに察したシエルは声を張り上げる。

「わ、私もこの件に関与したよ! だから私も」

「否。 応急処置等ハ正シキ行為。 罪ハ無イ。 例エ罪人ヲ庇オウトモ、罪人認定ハシナイ」

「へぇ……あそこで寝ている大男だけじゃなく、人助けした俺までもを罪人扱いする気か」

そんな俺の言葉に返答は無く、ただ無慈悲に最期へのカウントダウンを突きつける。

「最期二言イ残ス事ハアルカ」

重さ宿るその声に、無機質な声に、悪意は無くとも人を助けた者すら罪人扱いするんなら。 どうやらこの世界に勇者なんてものはもういてはいけないみたいだな。

「随分と、弱者に優しくない世界だな」

「エルト! 逃げて!」

そんなシエルの叫びを俺は無視して拳を固める。

「そんな世界は、見過ごせねぇなぁ!!」

拳を突き出す。 俺よりも大きい体の機械野郎に。 視界の隅ではシエルが手を伸ばしてこちらに走ってくるのが見えた。 直後。

ドッ……

重い。 とてつもなく重い衝撃が胸に当たる。 衝撃を食らう肌は痛みを通り越してなにも感じない。 ただ後方に勢いよく飛ばされる。 声すらまともに出ない瞬間。

その後、建物の壁にぶち当たる。 そこで声を取り戻したかのように血が吐かれる。

「はっ……!!」

一瞬すぎる。 今、奴に胸を蹴られた。 そしていつの間にかさっきまでいた屋上が遠くに見える。

やばい、シエルがいるのに……

そんな思考をボロボロになりながら巡らせた直後。

シュッ……

「っ!?」

目の前に奴がいた。 そして俺の胸ぐらをその大きな機械の手で掴むと、見ていた景色が一瞬にして変わる。 どうやら最初にいた屋上の真上にいるらしい。 そう頭の中で理解した瞬間。

ブォン……

全力投球されるように奴に屋上へ投げ落とされる。 大男の寝ている位置から数メートルの所に落下。 俺と大男のいた辺りの床が崩れ落ちる。

「エルトーっ!」

シエルの悲鳴が聞こえると思ったら、背中に強い衝撃が襲う。 どうやら着地したらしい。

だが休む暇は無いらしい。 朧げな視界で捉えたのは奴が俺に向かって落下して来たのだ。

「殺す気だな……くそっ」

なかなか上手く力が入らない体に鞭を入れるようにして太ももを手で叩く。

動け! 動け!

でも動かない身体。 近づいてくる奴。 そんな時。

「やめて!」

奴が崩れてできた床穴に入る時、奴に向かってシエルが体当たりのごとく跳躍して魔法陣を手元に展開し翳した。

馬鹿野郎。 それじゃあお前も落ちちまう。

奴はその瞬間その場で一回転して回し蹴りをシエルにしようとした。

「っ! シエル!!」

ガギィン……

「やめんかい……」

その瞬間の瞬間。 剣を片手に奴の回し蹴りの足を受け止めて、跳躍して落下する直前のシエルをもう片方の腕でキャッチした。 そこに現れたのは……

「ガースラー!?」

シエルは驚きの声を発する。 俺も驚きを隠しきれず開いた口が塞がらなかった。

「お主、こっちの嬢ちゃんは正しき事をしたんじゃろ? なら武力行使はいかんじゃろ。 殺しがいかんこの都市でお前さんもそれを犯すつもりかいのう? さっさと地下に落として終いすりゃあえぇじゃろがぃ」

「……了解」

「エルトぉ!」

ガースラーが俺に向かって叫ぶ。

「生きてりゃそのうち会える。 死なんこったな。 シエルはこっちでしっかり預かっとく。 死ぬんじゃないぞ!」

そう言って、シエルを抱えたままどこかに行ってしまう。

「ま、待て! どういうことだ!」

「待って! ガースラーどういうこと!? エルトはーーーーーー」

「ーーーーーーーー」

「ーーーーーーーー」

ふたりが遠のいて行き、言葉が上手く聞き取れなくなっていく。

どういうことだ! ただ謎だけが俺の頭の中を埋め尽くす。 疑問符がこれほどかと浮かび、同時に自分の弱さやなにも知らない自分に苛立ちすら覚えてくる。

「貴様ラハ地下行キダ。 安心シロ。 地下ト言ッテモダークノ方ダ」

は? 分からない。 なにがなんだか。

「分からねぇ……畜生」

ボロボロの身体は動くことを止めていた。 疲労が鎖のように俺の自由を縛りつけているみたいだ。

そしてプシューというなにかが噴出する音と視界に広がった謎の煙を最後に俺の意識は途切れた。


そしてーーーーーーーーーーーー


目が覚める。

「んぁ……」

朝日が差し込んでこない。 ここは俺の部屋じゃない。

あれ? たしか、俺は天界都市に来て……

そこで思い出して俺は名を叫ぶ。

「シエル!!」

ガバッと起き上がる。

そこに彼女はいない。 そこに全く面識のない知らない人がいた。

「お、おはよぅ……」

全く知らない男の子がびっくりした様子で俺を見た。 そしてすぐに部屋から飛び出していく。

「新人が起きたよーっ!」

新人?

そんなことを思いながら、武器の確認をして窓から外の様子を伺う。

「なんだ、ここは……」

全てが影に飲まれた世界。 真っ暗の中いくつもの古そうな灯りが見える。 そのおかげで大体のものは真っ暗で見えないなんてことはないが、まるで本物の地下街に来たような感覚だ。

そんな外を見て驚いている時、背後から声がした。

「どぅも……」

外の灯りのような弱々しい声が聞こえた。 振り返るとよぼよぼのお爺さんとさっき飛び出していった男の子がいた。

「ようこそ新人さん。 知っとると思うが、ここは下界ダーク・サイド。 さっそくで悪いが、あんた、何をしでかしてここに落ちてきたんじゃ?」

どうやら俺は、天界都市スカイピア・ヘヴンの真下にある犯罪公認地帯、下界ダーク・サイドに人助けをした結果落とされてしまったらしい。

読んでくれてありがとうございます。

天界都市に辿り着いてすぐに落とされたエルト。

次回は離れ離れになったシエル視点から始まります。

次も読んでくれると嬉しいです。

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