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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
61/197

カウントダウン

楽しんでいただけたら幸いです。

転移所。

俺は今そう呼ばれている建物の前にいた。 前売り券売場のようなこの場所は、天界都市に入るための唯一の入口らしい。 シエルが今手続きをしている。

「それにしてもここから見る都市も凄ぇな……」

でも何故かここからでもダーク・サイドは見えない。 ここが天界都市を外から見れる一番近い場所だなんて職員は言ってたのに。

「エルトー行けるよー」

「おっ」

ついにか!

「はい転移」

「え?」

え?

いつの間にか、全く知らない場所にいた。 さっきいきなり職員らしき人の声が聞こえた気がしたんだが。 その直後にこれか。 心の準備ってもんを知らねぇな? あの職員。

「ここが……天界都市……」

そんな小さき俺の苛立ちには気づかず、シエルは辺りを見回して感動していた。

転移所の職員曰く、どこに転移するか分からないから転移した後、自分達の足で目的地まで行けとのこと。 帰りについて聞いたら、転移所が都市内にも何ヶ所かあるらしくそこから帰ればいいらしい。 転移場所はもちろんどこだか分からない。

遭難が当たり前だと笑いながら言ってたな。 笑い事じゃねぇ。

はぁ……

溜息ひとつ、そして俺も顔を上げる。

「っ……」

ビルがそびえ立つ。 道路ではない歩道がその間を流れていて、人々はそこを歩いたり走ったりしていた。 ここに車が走っていたら、俺は絶対勘違いをしてしまったことだろう。

それでも、まるで戻ってきたような感じがして。 なにか胸に熱いものが溢れ出す。 軽く目頭が熱くなった。

一日たりとも忘れていな……くはないな。 けれど、覚えている。 懐かしいその光景は。

「日本に戻ってきたみたいだ……」

そんな台詞をいとも容易く口からこぼしてしまうのだった。

「にほん?」

「っっ……あぁ、なんでもないよ」

急な可愛さと感動に浸るこの心は激しく熱を灯らせ頬を熱くする。 体温がそれにならうように上昇して、微かに手汗で手が濡れる。 緊張が波のように押し寄せ、穴があったら入りたい心情に陥る。

「ほら行こう! まずはスートのクエをクリアしなきゃな!」

そう言って俺は逃げるように、手汗を拭いて歩き出す。

■■■

「ここに来た時体温上昇してたけど大丈夫?」

あまり聞かない独特な台詞が横から飛んでくる。

今はスートに頼まれたクエストクリアのため、目的地を周りの人などに聞いて向かっている途中だった。

「うん、まぁあれだよ。 俺もこの都市見てすげーってなってただけだよ」

「ほんとかなぁ? 驚きとは別な感情が大きかった気がするけどなぁ?」

「ほ、ほほんとぅだよおぉ?」

今転生してきたなんてバレたら面倒くさいことになりそうだ。

「でもいつもと話し方がちょっと違くない? なんか焦りが丸見えだよ? しかもなんで目を合わせてくれないのかな? 喋りもかんでるし、怪しさ満点だよ? ねぇ、さっきどんないやらしいこと考えてたの?」

いや、いやらしいこと確定ですか!?

「別にやらしいことなんて考えてないですよ? あれですよあれ。 すげぇなーって」

「なんでいきなり丁寧な話し方になるの? しかも最後のはさっきも使ったよね?」

「…………………」

「ねぇなんで黙り込むの? ねぇなんで? ねぇねぇねぇ」

「こ……」

「こぉ?」

ひっ……!

「こ、故郷に似てるなぁって……思ったんです、よ……はい……」

「へぇ」

「へーって、ほんとだからね! 本当にそう思ってたんだから! 俺もう嘘ついてないから!」

「もう?」

「はっ……!!」

墓穴を掘って、隠してたものがどんどんバレていく。

もうこわい……

「……あーっ! あそこじゃないか? スートの言ってた武器屋ってぇ! よし行こう! 今すぐ行こう! 全力でダッシュでシエルよりも早く行こうっ!」

「なんで私よりも早」

シエルの台詞が言い終わるよりも早く俺はスートに頼まれていた物を抱え走り出した。 逃げるように!

距離的には百メートルくらいか。 よし、俺の今までの努力上なら、8秒台だって軽く……

「ん!?」

よく見ると、その武器屋の前で笑顔でこちらに手を振る影ひとつ。 さらによく見るとそれはさっき置いてきたはずのシエルさんではありませんか。

その瞬間俺の走りは減速の一途を辿った。 半機械人間とはいえ本気のダッシュで少女に負けたのだから。

「あっちでは4番目くらいの速さを持つこの俺が……」

ガクッ……

重い足取りでシエルの前までたどり着くと俺は膝から崩れ落ちた。 そのままシエルに届け物を奪われ俺を置いて中に入っていった。

数分後笑顔でシエルは店から出てくる。

とても自慢げなドヤ顔を決めて、店近くに体育座りしていた俺を見下す。

そして次に優しさと慈愛で満ちた笑顔でシエルは俺に手を伸ばす。

「行こうっ! 博士を探しにっ!」

小悪魔が天使に変わる瞬間だった。

俺はその手を掴み、立ち上がる。

内心、茶番は終わりだと燃える俺がいる。 まぁそうだよな。 ここでうじうじしていても仕方ないしな。

「んじゃあ行くか。 本来の目的を果たしに」

「うんっ!」

何故シエルがここまで嬉しそうなのか俺は知る由もなかった。

ま、いっか。

二人並んで歩き出す。

直後。

ビリッッッ……

突如、俺の頭の中にとある景色が流れ込む。

誰かふたり並ぶ景色。

そして自然と俺は隣のシエルを見ていた。

「? どうしたの?」

「あ、いやっ……なんでもないよ」

謎の景色。

そして不意にシエルを見たくなった。 と言えばいいのだろうか。

不思議な現象なのに違和感は一切ない。

何故? どうした? あれはいったい……

「……今はこんなことを考えてる暇はないもんな」

俺は小声で自分にそう言い聞かせると、いつの間にか止まっていた足を動かす。

「さぁ、行こうぜ!」

「……うんっ!」

ずっと不思議そうに俺を見ていたシエルも気を取り直したのか、元気よく返事をして歩き出す。

ルーダ博士。 あなたは今どこにいるーーーーーーー

■■■

シエルside……


内側で正体不明のバグを感知した。

不意に熱が篭もる。

元気よく歩き出したエルトはどこかよそよそしく感じてしまう。

何故だかそんなエルトに苛立ちを感じている私は。

同時に起きたバグや熱は。

なにか関係があるのだろうかと、只今自己分析中である。

「それにしても、見渡す限りそっくりだなぁ……」

小声で他人に聞かれぬよう呟いているエルトの声を拾う。

私もそれにならって周囲に目を向けた。

高い建物が並んでいる。 どこの方向を見ても視界に建物が入る。

「これじゃあ、屋上に上がらないと広い空は拝めないね」

小声で呟いてみる。

「ん? なんか言った?」

「ううん、なんでもないよ」

エルトがこちらを振り返り聞いてきた。 それに反射的に顔を別の方向へ向けた。

何故?

自問。 疑問。 無意識的に顔を逸らしてしまった。 熱は帯びるばかりである。

問題は一向に解決しない。 それどころか疑問が増えるばかり。

だけど……

今までエルトといる時に何度か感じてきたものを今、感じていた。

懐かしい。 そして、バグによる熱? ではないこのあたたかい熱。

私はこれを知っている。 けれど私は知らない。

でも。

ここで知れると、思う。 この都市で。

きっとあの家に帰る時にはきっと。

なにか大切なものを、この体に宿しているはず。

そんな不可解な予想を何故か捨てずに抱えている。

大丈夫、まだ歩ける。

エルトとルーダ博士が生きてる限り、どこまでも。

「ん? どうした、シエル。 なんか複数の感情がごっちゃになったような複雑な顔して」

「んっ!? あ、いや……なんでもないよ! さっ、行こうっ!」

「うん? お、おう……」

立ち止まってしまっていた足を動かす。 別にエルトに気づかれてもいいが、今知られると博士探しの邪魔になるかもしれないから気づかれぬようにしよう。

私はそんなことを思い歩きながら、適当に博士を探してる風に周りを見たりする。

頭の中では、あの時のことを思い出していた……


私は、ルーダ博士とエルトが外出中だったあの日。

家の中、部屋の中、ひとり。

気づいてしまったのだ。

擬似的自我内のまだ解明されていない深層域の奥に無意識的に生まれた時計。

自身の精神世界に入り込み、更に集中し精神システムを強制可動させ、擬似的自我の擬神経をフル可動してやっとの思いで辿り着いた奥の時計に分析を入れると。

寿命時計。

分析に分析を重ねた結果、半永久的に生きることも可能な半機械人間にはほぼ縁のない寿命に関するなにかが起きていた。

もし擬似的自我が生み出したものならば擬似的寿命となる可能性があるため、寿命体験版みたいな感じで実際は死ぬことがないと予測できる。 が、分析結果によると『寿命時計』という名前だけが出てきただけで一切の情報が無いため、予測しようにも情報が少なすぎる。

要するに謎である。 いきなり生まれた、そうとしか言えない。

ただひとつ言えることは、危険であるということ。

半機械人間には基本的に寿命などない。 大体は戦いか実験に使われ死というより壊れ果てる。 擬似的自我諸共。

だがしかし、これはその基本的一般常識を凌駕する存在。 そんな存在をいくら分析しても突き止められなかったためか、私の中にある全てがその時計を危険視した。 擬似的自我の深層域からは即刻対処するべきだという意志が強まりを見せる。 まるでもうひとりの自分が危険信号を鳴らしているみたいだ。 それ程までの存在。 博士に聞きたかったが、その時には都市に向かっていたため聞き出せなかった。


けれど幸いにも寿命時計はまだ動いている。 全くどういう仕組みか分からないただの時計。 動いているうちは焦らず慎重にいこう。

「…………だけど、いやだなぁ………………」

限界まで声量を下げて呟いた。 前を歩くエルトは気づかない。

まだ。

まだ、博士とは。

エルトとは。

別れたくない。 一緒にいたい。

なんて。

機械らしからぬ思考を持ってしまった私は。

機械からしたら半端者である私達が、私が。 機械という枠組みから逸脱した思考を巡らせてしまったから、こんなふざけた『寿命時計』なんてものが自然的発生が起きたのかもしれない。 と。

我ながら馬鹿馬鹿しい考えをしてしまった。

「なんか腹減ってきたなぁ。 飯にでもしないか? なぁ、シエル? ……シエルっ!?」

こちらを振り返り話し掛けてきた。 途端に驚きと戸惑いの表情を激しく浮かべる。

ような気配を感じたーーーーーーー

その時。 その時エルトに話し掛けられてようやく自分が今なにをしているのかに気づいた。

馬鹿な私は思考を深く巡らせてしまったようで、いつの間にか私は。

その場にしゃがみこみ蹲り。 膝を抱えて顔を埋めていた。 エルトの声にようやく私は顔を上げる。

「なっ、なにしてんだよシエル! どうした? なにかあったのか? 大丈夫か、シエル」

慌てて駆け寄って来てくれるエルト。 そんな動作が何故か懐かしく思えて。

「ご、ごめんなさい……なんか考え事しちゃってて……」

「か、考え事って……まぁ大丈夫ならいいんだ。 さ、行こう? シエル」

そう言って私に手を差し伸べてくれる。

「なにも、聞かないの?」

恐る恐る尋ねてみた。

怒られるだろうか、なんて思考を巡らせながら。

「なにも聞かない。 シエルが大丈夫なら、それでいいんだ。 話したいことがあるなら話せばいい。 俺は追求はしない。 待つだけだ。 さっ、飯にしようぜ? 腹減ったからさ」

と、私の手を掴んで引っ張って。 照れくさそうに、羞恥心全開の表情で本心を話すエルト。

言い終えた後も顔を逸らして両手で顔を隠す。 耳まで真っ赤である。

相当恥ずかしかったのだろう。 それでも私を元気づけるために……

「まだ。 一緒に……生きたいな」

限界の限界まで声量を下げて呟く。 心の中では大声で呟いた。

寿命時計。 そんなふざけた存在があるからこそ、生を大切にしようと今初めて思えた。

死んでしまうという可能性が、別れへ繋がってしまうから。

まだ、生きたいと。 寿命を知った半機械人間は。 希うのだ。

「ありがとっ……行こっ!」

「うおっ!」

仕返しだ。 さっきと同じように。

エルトの手を引っ張って、歩き出す。


この時、シエルの心が人へまた一歩近づいたのを、エルトは知らない。

読んでくれてありがとうございます。

ついに天界都市の中へ!

次回、あの少女が登場……

次も読んでくれると嬉しいです。

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