表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
半機械は夢を見る。  作者: warae
第1章
6/197

きっかけ

今回は子犬探し!

無事に森から子犬を見つけだし帰れるのか……!

少しでも楽しんでいただけたら、幸いです。

そういえば子犬探しって、飼い主からの依頼だろ? ここら辺一帯は工場みたいな建物ばかりなのに、どうやったらここまで子犬1匹で来れるんだ? 工場とかに子犬も連れて出勤とかしてるのか? その飼い主さんは」

特に無言で森林を歩いていたので、会話がてら依頼についての情報でも聞こうと俺は質問を問いかけた。 子犬1匹の体力でここまで来れるか謎だったからだ。

「そうだね、工場に連れて来ていた時に逃げ出しちゃったんだよきっと。 でもこういうのは結構多いからね。 いろいろ事情もあるし、仕方のないことなんだよ」

仕方ないか、まぁ子犬だしな。 子供は好奇心旺盛だし、逃げ出して冒険してみたいとか思ったんだろうな。 早く見つけてやろう。 そんなことを思っていたとき、

「っ! 猛獣の気配を感知した。 今から討伐に向かうけど、エルトはひとりでも平気?」

すごいな、もう見つけたのか。 武器も持たずどうやって討伐なんてするのだろうか。 まぁシエルなら動物くらい楽勝か。 俺は頷いて答える。

「平気平気! 子犬探しくらいは俺でもできると思うし、見つけたら森の外で待ってるよ」

「そう。 なら行くけど、あまり無茶しないでね。 私の分析によると、エルトは全然戦えそうにないし」

そう言って、軽々と近くの木に登り、太い枝を走って飛んで、すぐさま奥へと消えて行った。 なるほど、俺の戦闘力は相当低いようだな。 少し気を落として、足取り重く俺も歩いて子犬探しを続行した。

■■■

シエルと別れてから数十分、未だに子犬は見つからず、俺は森をさまよっている。 子犬の名前でも聞いときゃ良かったな。 見つけてもなんて呼べばいいか分からない。

「こ、子犬ぅ! 出てこーい!」

……恥ずかしい。 名前聞いときゃ良かったな! せめて鳴き声とか聞こえればいいのに。 まぁでも動物だし、この世界ではどんな飼われ方してるのかな? 地球と同じならいいんだけど……。 そんなことをひとり、木々の間を歩きながら考えていると、

クゥーンーーーー

「おっ!」

俺はすぐに声のした方向へ歩みを早める。 やっと終わるという開放感、異世界に来て初の仕事完了の達成感、俺頑張ったと思う自己満足感など、いろんな気持ちを迎え入れる心の切り替えをし、期待を胸に、声の主へ辿り着く。

「あ、え……?」

別な気持ちが心に生まれる。 思ってた、想像していたものと違う。 開放感も達成感も自己満足感もなにも得られず、ただそこにあったのは、話を聞く限りの予想できるこの世界の現実。 たとえそれが人間じゃなくても、反射的に目を逸らそうとしてしまう。

そこにあったのは、無残にも壊れかけている子犬のロボット……否、この世界では機械と言った方が合っているのだろう。 小さな子犬をモデルにしていて、左前足は完全に無く、右らへんの背が大きく酷く抉られている。 左目は押し潰されていて、後ろ足の爪あたりはぐちゃりと踏み潰されたかのよう。体中はその他に多くの傷を負っていた。 その状態で地に倒れていて、それでも主に助けを乞うように、頭を空に向け、頭上に小さく吠えていた。 今意識して聞けば分かる。 その声も、機械じみていて生き物ではない声だと。

「なんだよ、これは……」

倒れながらも吠える機械の子犬の周りは、大きな足跡で覆われていた。 俺がここに来る前に、子犬は何かに襲われたことが分かる。 俺の異世界知識からすると、恐らくこれをやったのは、魔獣。 それか、シエルが今戦っているであろう猛獣か。

「だ、大丈夫……か?」

恐る恐る俺は子犬に近づく。 子犬は気配を感じ取ったのか、吠えるのを止めた。 見た感じだと、子犬は俺に気づいた瞬間逃げようとしたが、全くと言っていいほど体が動かないからか、無抵抗で俺が近づくことを受け入れる。

クゥーン……

とても弱々しい鳴き声、機械だというのに生き物のように小刻みに震えている。 無残な姿に、逸らしそうになる目線を頑張って堪え、機械の子犬に安心を与えようと静かに抱き上げる。

「もう、大丈夫だ。 飼い主の所に戻してやっからな? 大丈夫だぞぉ」

子供をあやす様に語りかける俺。 自分でも分かっている。 馬鹿馬鹿しいと、非現実だと、こいつは機械で生きていない。 それに対し、俺は機械じゃなく息をする生き物、俺は人間だ。 だが、やはり見捨てられないな。 どれだけおかしなことでも、過ぎれば全ては過去のこととなる。 今だけでも大馬鹿野郎に、

グオオオオオ!!

「くっ!」

頭のおかしな、機械を生き物のように死守する全平等人間になってやる!

子犬を抱きかかえ、その場を離れようとした直後、背後から大きな雄叫びがした。 振り返るとそこには、4メートルくらいはあるんじゃないかと思うほどの大きな獣がいた。 あぁどっかで似たようなものを見たことがあるぜ。 やっぱりいるんだな、異世界なら。

「魔獣がぁ!」

グガァァァ!!

俺が叫ぶと同時に魔獣も雄叫びをあげる。 俺は、そのタイミングで両手で機械の子犬をしっかり抱えて、前方に走り出す。 背後には大きな魔獣。 俺の腕の中には、今この瞬間守るべきものがある。

「俺の初仕事、絶対クリアしてやるぜぇ!」

ドゴンッ

背後から何かが倒れる鈍い音。 ここは森林の中、どうやら奴は木を切り倒しながら来ているようだ。 振り向けない以上音だけで判断するしかないようだ、 足を1秒たりとも止まらせてはいけない。 そんな気がする! と思ってた瞬間、

ドゴンッ!

先程聞こえた鈍い音が、すぐ隣で聞こえる。 は?と隣を見ると倒木が俺の方向に倒れていた。 向きは少し違ったからか、今のは当たらなかったが、どうやら奴は木を切り倒して、俺を倒木の下敷きにする気らしい。 しっかりした知性持ってんのかい。

「クソッタレがぁぁ!」

走る両足をフル稼働させる。 倒れてくる木に当たらないように、目の前に立っている無数の木を背にしながら走り抜ける。 おかげで倒れてくる木は、移動により背後になった木にぶつかり、俺に当たらず倒れてくれる。 このままなら森を抜けれる! と安心したのは束の間、

バサバサッ

あまり聞かない音に、俺は思わず走りながら振り返る。 なんだと……!? そして、いつの間にか俺は奴を見失っていてーーーー

ドシィィン……

目の前で大きな着地音。 俺の周りの木々全体が空気と共に、大きく振動し揺れた。 恐る恐る目線を前に向ける。 なんなんだ、このボス感はよ……。

そこにいたのは、先程の魔獣。 だが確実な変化が、そこにはあった。

バサリ……

所々、鋭くなった毛皮や少々変わった体格。 そしてなにより、翼があった。

「おいおい、マジかよ。 なかなか見ねぇぞ、そんな姿」

さっきはよく見ていなかったが、相当やばいなこいつは。 パッと見は動物で言う巨大な兎。 だが耳の毛皮などは1本1本鋭く光沢感がある。 背中はその鋭い毛皮が何重にもなって鱗と化していた。 顔は兎とあまり変わらなく、唯一、眼球に浮かぶ瞳は白色になっていて、どこを見ているかよく分かるほどだ。腕は毛皮があっても分かるくらいの筋肉で、その先は木を簡単に切り倒せるほどの鋭く長い爪があった。 で、足はまるでカンガルーだ。 跳躍力が、すごそうで毛皮にこちらも包まれてはいるが筋肉がパンパンである。 そして背から生えている翼。 毛皮の鋭さを更に強化したような質感のある大きな翼。 兎にはあまり似合わない大きさをしている。 正直、逃げ切れるか分からない。

「俺、今日死ぬのかな……くっ!!」

弱音を吐き、瞬時に歯を食いしばる。 眼前の魔獣をこれでもかと睨みつけ威嚇する。 まだ死ねるかよ。 だってまだ、俺の腕の中で鳴いているやつがいるんだからな。 ちゃんと直して、飼い主様に返すんだよ! 俺は心の中で叫ぶ。 地を蹴り、俺がやるべき、できることを精一杯やる。 走れ!

「うおおおおおおおお!!」

グガルル……グォォォォォォォォ!!

ビチャッ……バサッ

唾液のようなものが落ちる音がした。 奴は腹でもすかしているのか? 続いて、羽ばたく音がする。 奴の飛ぶ速さには到底勝てそうもない。 なにかいい策はないか!? その時、

「あれ? なにしてるんですか? エルト」

ちょうど目の前を通り過ぎた俺に話しかけてくるのは、シエル!

「おぉ! じ、実はな……」

と、話し始めるのと同時にシエルの手を引っ張る。 走りながら、事の顛末を話した。

「なるほど、ではアレを倒せばいいんだね。 ……巻き込んじゃうかもしれないから、エルトは止まらずに走り続けて!」

木に登りながら叫ぶシエル。 強い味方だなシエルは!

「了解だ!」

俺は機械の子犬を抱えながら、森の出入口へ走った。 それにしても、子犬も機械なのか……いったいこの世界はどうなっている? これを見る限りだと、生きる機械の数が相当多いのではないのか?と疑問を俺は抱き始めたのだった。

そういや、シエルが言っていた子犬の特徴と違うような……?


読んでいただきありがとうございます!

次回は飼い主さんに子犬を返します。

だけど……?

次も読んでいただけたら嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ