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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
59/197

束の間の平和

今回は短いです。

楽しんでいただけたら幸いです。

俺はひとり、部屋の中で相棒となる自分の武器を振り回していた。

戦いが起こることを予想して、天界都市へ行く準備を行っていた。 と言っても、ある程度必要な物はシエルが魔力でできた空間に入れて持っていくらしいので、俺達はほぼ手ぶらな状態で行くことになる。 あとであの魔法教えてもらお。

「っ、っ! ………なるほど、言われてみればめっちゃ振りやすいなこれ」

この武器を買った店の店長スート曰く、様々な魔法の付与が施されているらしく、使用者に合うよう自動的に調整されているらしい。 しかも研がなくていいなんて……

「異世界の武器はすげぇ、なっ!」

ブォンッ!

部屋に素振りの音だけが響く。 こんなの前世でやると絶対怒られるなぁ……

そんなことを考えながら、片方の剣をもう片方の剣先に添えてみる。 そして軽く、くっつけぇとか思っていると、ガチャガチャ音を立てて片手直剣が出来上がる。

「………異世界の武器、すげぇな……」

回転斬り、真上から真下へ両断、様々な角度からの斬りつけ、突き、一閃、瞬時に双剣に戻して、適当に振った後、瞬時に片手直剣に戻して斜めに腕を振る。

…………おぉぉ……………すごいわ。 なんか妙にしっくりきすぎていて、何か、なんだろう。 言葉に表せないほど、なんか……気持ちいい。

そんな感動を噛み締めながら、軽く手から離すように投げる。 そしてキャッチ。 双剣に戻して、まるでサーカスのピエロとかがやっているショーのように、お手玉のようにポイポイ投げてみる。

「あれ……?」

こんな芸俺なんかにできるわけないと思ってたのに。 できたこともないのに。

ーーーーーーーーできる!

「うおおぉ……」

調子に乗って双剣を投げて遊んでみた。 更にテンション上がってきて、近くにあった木のコップも加えてみた。 ら、即失敗した。

「エルトー、何かあったー?」

下の階からシエルの声が聞こえる。 俺は焦りながらコップを机に置き、双剣を鞘に収めた。

「ななんでもないよーっ?」

そうだった、俺は居候の身だった。 他人の家で俺は今双剣投げて遊んでいたのか……

……ここが異世界で良かった。

そして勢いよく双剣を鞘から抜き、また素振りをしていると数秒後。

「なにしてるのかな。 エルト」

ひっ!!

扉から聞こえたその声に振り向くと。

扉から半分顔を出しているシエルが無表情でこちらを見つめていた。 影がかかっているから余計恐ろしさを増しているシエルの顔を見て、俺はすぐに剣を鞘に収めた。 その時、さっきの落下で空いたのだろう床の小さい穴に気づき、即ベッドの上に武器を置いて、穴に被さるようにスライディング土下座をする。

「ごめんなさいっ! もうしませんから!」

「今穴を隠すようにしたの、なんで?」

ひぃぃ!! シエルさんよく見ていらっしゃるぅぅ!!

俺はどうすればいいんだ。 ここで退いて穴の存在を認めるか、しらを切って謝り続けるか。 いやでもしかしっ! どうせもうバレてるだろうし、バレていなくても時間の問題だ。 しかも相手は分析も使える。 畜生どうすればいいんだ!?

シエルさんを怒らせてはいけない。 何故なら、食事担当であるシエルさんを怒らせたら、その日の食事が、ある意味素晴らしいものになるからである。 お約束の料理下手なことはないシエルさんは、だが自ら別な方向の味の料理も作れるため彼女の本気の下手料理はとてつもなくやばいのである。

確か、前にルーダ博士がシエルを怒らせるようなことをして、その日の食事は全て凄いことになった。 強制的に食べさせられ、強制的に地獄へ落とされる。 しかも目覚めるタイミングなどを調整しているらしく、目覚めた時には夕飯時でまた地獄を見た。 ルーダ博士は、もう慣れているっ! なんて事を言いながら一口目で白目むいていたっけ。 ってかあれ俺絶対に無関係だったと思う。 無罪である俺を巻き込みやがって……!

だがしかぁしっ! 今は容疑者、否、もう現行犯である。

「………最後に言い残すことはある?」

慈悲なのだろうか。 もう完全に俺の言い分を無視してラストスパートかけてきた。

そうか。 もう、手遅れか。

重い頭を上げて、俺は口を開く。

「願わくば、最後に美味しいものを食べて、天界都市へ行きたいです……」

俺の中では、天界都市が天国へ自動変換されていた。 それでも行き先は地獄に決まっている故、無駄だと言うことは百も承知である。 要は命乞いである。

「あぁ、確かに。 明日から行くんだもんね。 博士探しに」

お?

「……そうっっ!! だから、罰は帰ってきてからでいいんじゃないかなっ!」

と、俺は笑顔で立ち上がり歓喜に吠えた。

瞬間、シエルの目線は瞬時に床へ注がれる。

「あっ」

俺はその時気づいた。 未だに少したりとも、シエルさんの無表情が変わっていなかったことに。

ふぁっ!?

やられたっ!

よく見ると穴は深く空いていた。 しかもシエルさんの動く視線を追うと、他にも穴や傷がついた床や壁がちらほら。

「あー……」

俺も血の気が引いて無表情になる。

またあれを味わうのか。 また悪夢に苛まれるのか……

「……なにか、言い残すことあったりする? エルト」

………

「せめて、明日の昼には出発したい……です……」

「分かった! 調整しとくよ!」

終始扉から半分影がかかった顔を覗かせながら、にこやかに笑うシエルは。 スキップをしているような弾む足音をたてて下の階へ降りていった。

「…………ひっ…………………」

部屋に立ち尽くしたまま、短く小さい悲鳴が口からこぼれる。

俺はその数十分後、再び地獄と再会したのだった。

そんな平和な休日は阿鼻叫喚を舌で感じた瞬間、瞬く間にゆっくりと過ぎていった。

■■■

朝。

「ん……」

目が覚める。 ぼやけた視界に目をこすり、辺りを見回した。

「……朝……だと…………!?」

悪夢からの生還を果たした俺は、無事に朝を迎えられたらしい。

昼じゃ、ないだと……?

シエルさん調整してくれたんですね……

自分に鞭打つように顔を叩き、朧げな意識を覚醒させる。 ベッドから起き上がり、相棒を持って下の階へ降りた。

「おはよう、エルト。 よく眠れた?」

「よく眠れなかったけど、無事に起きれたよ」

朝食を食べて支度する。

片方の剣を左腰に、もう片方を左斜めに背中に装備する。 いつの間にかこれが当たり前になってしまっていた。 最初の装備ミスが、何故か俺にはしっくりきてしまう。

「エルトー、行こー?」

外から、シエルの声が聞こえる。

この異世界に来て、一番最初に出会った彼女は。

最初会った時の機械じみた雰囲気が、今は人に近い普通の雰囲気に感じられる。 ルーダ博士に頼まれた通りに、俺はシエルになにかを与えられているだろうか。

まぁ今は、このままでいいかな。 と。

思ってしまっている。 けれど。

まだまだ、知らなくてはいけないことが多そうだから。

自ら選択して進むしかない。

「博士、あなたの帰りなど待っていられない。 俺の勘が良くないことを感じている」

軽く振り返り、綺麗に掃除された部屋を見る。

なんだか、短い時間しか過ぎていないのに、とても名残惜しい。 もう帰ってこられない気がするから。

「今行くよ!」

俺は外に出た。

シエルと共に、博士に会って聞き出すために。

天界都市クロスピア・ヘヴンへ行くために。

読んでくれてありがとうございます。

次回は、ついに天界都市へ向かい始める……

次も読んでくれると嬉しいです。

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