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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
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実戦練習

楽しんでいただけたら幸いです。

「………うぇ?」

今まで出したことのないような声を出して、俺はシエルに顔を向ける。

「うぇ、じゃなくて、今回のフリクエ全部エルトひとりでやってみない? その双剣での戦闘を自分のものにするってことでさ!」

そう言って小悪魔っぽく笑みを浮かべながら言うシエル。

今の俺の機械やら人やらで苦悩している思考にぶつけるように、可愛いらしい普通の女の子っぽい仕草で、なんという無茶振りなことを吐くんですかこの子は。

「それ、絶対に無事では帰れないパターンじゃん……」

つい数秒前までの遠足気分的なウキウキだった心持ちが消えて、死への誘いみたいな空気を感じている俺は。 冗談でしょ? と顔で訴えかけた。

「でもどの道戦えなきゃ死んじゃうよ?」

「いやぁ……そりゃあそうだろうけどさ。 こういうのって地道に順を追ってやるもんなんじゃないの? ほら、最初は基礎的鍛錬をしたりして体をつくり、様々な試練みたいなのを乗り越えていってさ……」

「じゃあ、このフリクエがそれら全て補うものって考えればいいんじゃない?」

小悪魔め……

人らしくなったと思ったら悪魔にジョブチェンジですか……

まぁ俺の捉え方が悪いんだろうけど。

「それに、もう博士からいろいろ知識等はもう習得済みでしょ? ほら行くよエルト!」

そう言って、俺の後を歩いていたシエルが小走りで俺を抜き去り、手を伸ばす。

あれぇ? ついさっき俺がやったやつじゃんか。 なにこれ、仕返し? もしかして怒ってる?

「はっ……まさか自分よりも弱い奴が調子乗ってたからシエルさんはお怒りなのでは?」

小声で聞こえぬよう早口で呟く。

「怒ってないから、早く行こうよ」

ひぃぃ! 地獄耳!

俺は少し重い足取りでシエルについて行った。

■■■

「ここが、地上……」

そこには壮大な枯れ果てた大地が広がっていた。 所々ゴツゴツしていて、草も少ししか生えていない。 遠くの方へ目をやると、微かに緑の山やゴツゴツした何も生えていない山も見える。 そしてなにより、遠く遠方には大地ごと浮かんでいるビル等がそびえ立つ天界都市が見えた。 遠すぎて細かい所まではよく分からないが、多少緑もある。 しかし、天界都市の真下部分は天界都市の影のせいか暗くてよく見えない。

「はい終了〜」

そう言うと、シエルは手を伸ばすのを止めた。

俺は魔法が使えないから、シエルの魔法により遠くを見ていたのである。

望遠鏡でもあればなぁ……

「それにしても、生き物の気配すら感じない場所だな。 大地一見してみれば平地に近いし、ある程度なら俺も見渡せるけど、敵らしきものはなにもないぞ?」

「まぁここら辺は比較的に安全だからね。 さ、目的地に行くぞー」

そう言うと足下の地に片手をつき、俺とシエルが入るほどの大きさの魔法陣を描く。

「おっ!?」

驚く俺に構わずシエルは叫んだ。

「転移!」

「うわっ!」

思わず瞬きをしてしまう。 魔法陣が一瞬光を放ったように感じたからだ。 そしてすぐさま目を開けると、

「え」

そこには大森林が広がっていた。 どこを見渡しても木。 木。 木。

「すげぇ……!」

ただただ驚きと感動を噛み締める。 自然と笑みがこぼれ、シエルの方を向く。

「ふんっ……」

そこにはドヤ顔をして胸を張っているシエルがいた。 俺の喜びをみて満足感に浸っているのだろう。

「さてエルト。 ではあいつを倒してみるがいい! ひとりで!!」

そう言って満足感を出しながらシエルはとある方向へ指をさす。

その方向に目を向けると、木々の奥にゴブリンと思わしき魔物が4体いた。

俺は慎重に見て分かる程度の情報を読み取る。

身長は俺の胸あたり。 一体は手ぶらで他の二体は棍棒らしき武器を所持。 もう一体は弓矢か。 背中に筒を背負っている。 矢の本数はここからじゃ見えないため分からない。 今の状況は4体とも輪を組んで何か話し合っているような様子。 まだこちらには気づいていないと見ていいだろう。

ここからの距離は、大体……分からん。

「エルトは慎重だねぇ」

「は、初めての戦闘なんだよ。 いいだろ、こんくらい時間かけても」

木々の影を上手く使い接近。 まずは手前の手ぶらのゴブリンを倒すのが無難だが、やはり遠距離攻撃の弓矢のゴブリンを早めに倒しておきたいな。 いや、でも本当にこの選択であっているのか? うーむ、前世でもっとゲームするべきだったな。

今回は直剣にせず双剣のままで戦ってみよう。

「エルトまだ? 今日はまだ他にクエあるから早めに頑張ってね」

先程の満足感は薄れて、苛立ちを湧きたたせるシエル。

「りょ、了解しました……」

ご立腹であるシエルさんにこれ以上怒られないよう、ルーダ博士の操り人形時にやった技でもやってみるか、

「なっ!」

シエルに急かされたせいか、今考えていた戦略をほぼ無視して、足下の石をひとつ掴み取り走り出す。 そして瞬時に右手で左腰の鞘から片方の剣を抜き取る。

なるべく足音が鳴らないように意識するも、草が揺れる音が響いて無駄だと知った。 直後、全力疾走でゴブリン達に近づく。

当たり前のように、ゴブリンは音がする俺の方に気づき目線をこちらに向けようと顔を動かす。 その僅かな時間の中で、石を俺とは別の方へ投げる。

音があっちに出れば警戒する方向は増えて、二体だけこっちに振り向くという算段だったが、石が大きすぎたのか、棍棒を持つ一体のゴブリンが投げた石をキャッチ。

「んなっ!」

一瞬走る速さが緩みそうになる。 クソっ! 飛んで着地と同時に斬る予定が……

「くっ!」

弱音を吐く心を鞘に入れ足を動かす。 跳躍は無しで行く!

あの時のブーメランを思い出せ!

俺は走りながら、右腕を左肩の方へ回して軽く片方の剣を握る。 腰は僅かに左へ曲げて。

ゴブリン達はと言うと、奥では石をキャッチしたゴブリンと隣にいる弓矢のゴブリンが石を見つめて、なんだこれ? みたいな顔を浮かべて首を傾げている。 手前のもう二体は棍棒を構えたりして立ち向かう戦闘態勢に入っている。 手ぶらの奴根性ありすぎだろ!

距離はもう少しだ。 手首を上手く使え、回転をかけるんだ! 腕に力を入れろ、勢いよく! 肩をしっかり回すんだ、しっかり投げるんだ!

自分に今からやる動作を言い聞かせ、頭の中で瞬時にシュミレーションをする。

そして、ゴブリン達がいる木々がない地に出た瞬間。

「行くぞ!!」

荒い呼吸と共に、舌を噛み緊張して強ばる体に力を巡らせて、肩を肘を手首を手を。 動かした。

ブンッ!

勢いよく投げられた剣は、回転して少し曲がった軌道を描いてゴブリン達に投げられる。

反射的に一番手前の手ぶらゴブリンは両腕で顔を覆い隠すように防御体制へと入り、隣の棍棒持ちゴブリンは、腕を掲げて棍棒で剣を落とそうと動き出す。 だがもう遅い!

棍棒は空振り、勢い乗っていた手前棍棒持ちゴブリンは前に転ぶ。 手ぶらゴブリンは腕と首を斜めに斬られる。 それでも勢いが止まらず剣は回転して後ろのゴブリンも襲う。

弓矢ゴブリンは次の攻撃に警戒して俺に向けて弓を構えて、もう一体の棍棒持ちゴブリンは棍棒で防ごうとするも棍棒もろとも首を更に斜めに斬られ絶命。 そのまま剣はカーブして後方の木に柄を当て、弾けたように宙で回転し地に落ちる。

同時に弓矢ゴブリンが矢を放つ。

「わっ!」

俺は反射的にしゃがみこみそれを回避。 しゃがんだ俺を狙おうと弓矢ゴブリンは弓を構えるも先程転んだ棍棒持ちゴブリンが邪魔で狙いが定まらない。

そして転んだゴブリンが起き上がる。 地に落ちた棍棒を拾おうとした隙に、あの戦いの時の操り人形時を思い出しながら、左手で背の片方の剣を抜き、息を吐いて止め、柄に手を当てて、低い姿勢で拾おうとするゴブリンとの距離を詰めた。

「っ!」

そのまま胸を刺す。 柄に当てた手に押す力を加え深く刺す。 痛みで怯み口から血を吐くゴブリンに構わず、右胸に刺したので、柄に当てていた右手で剣を持ち替え、刺したままの剣を横に振り斬る。

「……」

そして低い姿勢から元の姿勢へと立ち上がり、もうほぼ絶命しているゴブリンを後ろの弓を構えるゴブリンへと蹴り飛ばす。 弓を構えていたからなのか避けずに死体を受け止める。

同じ身長なのだろう。 同じようなゴブリン二体がぴったり重なっている一瞬の状態を見逃さず、距離を詰め、剣を両手で握り死体の顔面目掛けてグサリと突き刺した。 当然ぴったり重なっている下の弓矢ゴブリンの顔面も突き刺され、後に動かなくなった。 そこには血溜まりができた。

「………」

そして落ちたもう片方の剣を拾いに木のそばまで来て腰を低くすると。

グラッ……

「あれ……」

膝から崩れ落ちてその場に尻もちをついてしまった。

自分が今持っている片方の剣を置き、血の付いた両手に目を落とす。

ははっ……

「まだまだだなぁ……俺は………」

俺は、疲れた。

荒い呼吸を整えながら、剣を二本拾い鞘に収める。

「大丈夫?」

シエルの声が背中から聞こえる。 振り返ると、なにかに後悔をしているような表情を浮かべたシエルがいた。

「……大丈夫だよ」

その声がまだそこにいてくれる限り、俺はまだ立ち上がれそうだよ。

だから、次こそは失わないように。 頑張らないと。

「さ!! 行こうぜ、シエル。 次はなにを倒せばいい?」

その後俺は、薬草集めのクエ3つ、ゴブリン討伐クエ4つを2日間野宿しながらクリアしまくった。

そうして俺は今。

最後の薬草集めのクエ中に、不幸か運命か。

「あん時ノ、人間様じゃねぇカぁ……」

あの時の鬼人と対峙していた。

読んでくれてありがとうございます。

次回、鬼人との対決にエルトは……

次も読んでくれると嬉しいです。

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