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半機械は夢を見る。  作者: warae
第3章
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始まりの始まり

3章。

楽しんでいただけると幸いです。

天界都市クロスピア・ヘヴンのとある建物の一室。

重く固い扉が音をたてて開く。

「お時間です」

「……」

使用人が声をかけるも、返事はない。 代わりに響くのは鎖を引き摺る音だけ。

真っ暗な部屋の奥から、のそのそと鎖を引き摺り扉へと歩くのは、ひとりの少女。

首はもちろん、手首足首に繋がれた重い鎖を音を鳴らしながら引き摺り扉まで辿り着く。

「申し訳ございません。 私が無力なばかりに……」

「……構わないわ」

使用人の女はポケットから鍵を取り出すと、少女に繋がれている鎖を次々と外していく。

「囚われてるだけマシな方よ。 下にはもっと酷い目に合っている子供たちがいるもの」

「………」

今度は使用人が返事を返さず黙り込む。 とても悔しそうな表情を浮かべて、すぐにいつも通りの穏やかな笑顔を張り付けた。 そして口を開く。

「今日は午後から会議ですので、その時がよろしいかと」

少女は使用人らしき女の言葉を聞きながら、壊れかけのクローゼットを開き、正装に着替える。 正装の内側には短剣や暗器を隠し持ち、やるべき事を成すために準備をする。 割れかけている汚れた鏡を手で軽く拭き、自分に喝を入れるように両手で頬叩く。

朝、真っ暗な部屋にパチンと音が響く。 床も壁も天井ですら傷だらけの部屋から、少女は一本踏み出して扉から出た。

「布でございます」

使用人らしき女は少女に濡れた布を渡す。 どこかから無理に破ったような布だが、とても高品質な白い布だった。

それを少女は受け取り、微かに汚れていた顔を拭く。 その後両手を拭いて布を戻す。

「よしっ!」

少女は目を見開いた。 気合いを入れて、今日も一日頑張る意志を強く持つ。

やらねばならぬことがあるその少女は、まだ留めていなかったボタンを留め、鎖によってできた傷跡を隠した。

「貴女様はお強い。 ですが、どうか無理のなさらぬようお願い致します。 貴女こそが希望そのものなのですから」

「分かってるわ。 必ず成し遂げる、必ずね……」

立ち止まる。 窓の外、天界都市の中心にそびえ立つ、巨大な塔を視界に写して拳を握る。

「必ず。 偽りの正義を砕いてやるわ……」

「……私はいついかなる時も味方ございます。 どこまでもついて行きましょう」

決意を今日も強く引き締め、王室へ続く扉へ歩き出す。

■■■

冷たい風。

まるで肌を切り裂くかのごとく、冷え切った空気は、俺の肌に鋭い寒さを与える。

「寒さに負けてちゃなにもできないよ。 ただそこで震えて暖かくなるのを待ってればいい」

「なにしてんだよお前! シャキッとしろ! シャキッと!」

それぞれが武器を片手に前にいるなにかに立ち向かう。

俺以外にも震えて立ち止まってる奴は何人かいるけど……

「大丈夫。 必ず倒せるよ。 君たちなら」

後ろから声がした。

その直後、大きな笑い声がする。 そして別な場所では鼻で笑い、別な場所では魔力のような力を溜め始め、武器を持ち直し、魔法陣を展開し、構えをとり………

各自が戦闘態勢に入る。

「あぁ」

「そうだな」

「そうだったよなぁ!」

「俺たちは、なんたって」

「俺たちは─────────」




「俺たちは……」

「起きてくださーい」

ドスッ!

「ガハッ」

腹にチョップが叩き込まれる。 同時に痛みが俺の意識を鞭を入れるように覚醒させ、目が覚める。 そして横には、少し満足気なシエルがいた。

「いてて……もう少し優しく起こすという発想はできなかったのか……」

「起きないのが悪いんでしょ! 昨日は夜遅くに帰ってくるし!」

「いや、あれはルーダ博士が」

そう言いかけて止まる。 昨日、ルーダ博士から聞いた長い長い話を思い出したからだ。

同時にシエルが嫉妬のような可愛らしい表情を浮かべていたから、思わずまじまじとシエルの顔を見てしまった。 あの話を聞いたからだろうか。 少しづつ人に近づいてるようなシエルを見ると、何故だかとても泣きたくなってくる……!

「シエル……」

「な、なに?」

お前頑張ってきたんだなぁ……

そうだよなぁ。 頑張ってここまできたんだよなぁ……

記憶は消えてっかもしれないけど。 ……なぁ。

「お、怒ってるの? でも表情分析だと何か違う感じがするし………あっ! さっきの痛かったとか!? ご、ごめんね、やりすぎちゃったかな?」

慌ててるシエル。 どこからどう見ても普通の女の子。 見た目はすこし機械な所もあるけれど、でもここまで人っぽく接しているし。

「俺はもう、何だか感動したぞ! 感動した! 嬉しいぞぉぉ!!」

そう叫び、寝起きテンションでシエルに飛びついて抱きしめようとベッドから飛んだ瞬間。

「え、なに?!」

と短い台詞を言った瞬間に、横に素早く移動して躱す。

え、なにっ!?

そのまま空振って空中を舞う俺の背中に、俺が床に着地するよりも早く、先程のチョップを叩き込んでくる。

「ぐへっ!」

そのまま腹から床に勢いよく着地。

意識覚醒しきってなかったさっきまでの俺を殴りたいと思った。 完全に目を覚ました俺は、痛みを充分に味わいながら、窓から差し込む日光に照らされるという一日の始まりを過ごした。


その後朝食を済ませ、いつの間にか当たり前のように相棒の双剣を背中と腰に一本ずつ装備した。 そして外に出て目的地まで歩いていた。

今日もシエルと俺でフリクエをしに行くのだ。

「そういや博士は?」

あの後、博士と別れてから一度も会っていないがどこに行ったんだろう。

シエルなら何か知っているかな。

「博士なら、今日朝早くに書き置きだけ残して出掛けたよ。 『大事だから少しの間留守にする』だってさ。 エルトが来るまでは当たり前のようにこういうことあったから大丈夫だと思うけど……」

「けど?」

シエルはそこで機械的な無表情で話し出す。 きっと記憶でも探ってんだろうな。 たまに最初会った頃の機械じみたシエルに戻ることがあってちょっと怖い。 そしてこういう時は大体……

「たまに博士、傷を負って帰ってくる時があったんですよ。 そしてなんか悔しげな口調になって。 酷い時には部屋で静かに泣いている時もあります。 その時私はいつも心配になりますんですよ」

今の口調と機械じみた口調が混ざっても少しおかしな口調になるも、シエルの言いたいことは分かった。 傷を負うってことは何か危険な事をしているからだろう。 ただであの博士が傷を負うなど到底考えられない。 ましてや、あの過去を聞いた後じゃあ。 しかも……

「泣いてた、か……」

その言葉に反応を示すかのようにシエルは横で頷く。

思い当たる節は、やはりカインと言うルーダ博士の仲間かな。 『カインの亡霊』なんて事も言ってたし、様子を見るに、その亡霊を嫌ってるように感じたんだが。 ルーダ博士の事がいまいち分からない。 あの話を聞いた後だと尚更、何故その亡霊を敵視するのか謎だ。

「となると、俺の予想はその亡霊が……」

偽物ってことだな! それ以外検討がつかん。 でも偽物であることの証明はできているのだろうか。 あの博士の事だし、根拠はなにかしらあるんだとは思うけど……

「エルト? 亡霊とは、何の話ですか?」

まだ少し機械じみた口調が抜け切れていない感じに聞いてくる。

「ん? あぁ」

さすがにシエルにあの話をするのは酷だろう。 分析によって何かしら気づかれるかもしれないが、ここは黙っておこう。

「なんでもないよ。 そういえば、今日のやるフリクエってどんなのだ?」

「ふふんっ!」

ん? なんだ、このよくぞ聞いてくれたな! 的な反応は。 全くと言っていいほどそのような気配は感じなかったんだが。

シエルは立ち止まって胸を張り口を開く。

「なんとついになんと! 地上クエが解禁されたのです! 魔獣討伐での戦績が認められて、高難易度の地上フリクエが受注可能になりました! やったね!」

いや、あれは博士が全部操ってただけで、俺はまだ戦えないんだけど。 戦える気がしないんだけど。 ってか高難易度って言った? 今。 いやいや無理だって!

「あのさ、忘れてるのかどうか知らんけどさ、あの時は俺はただの操り人形で」

「もう地上フリクエは受注済みなのでご安心を!」

いや人の話聞いてないねこの子! 地上フリクエどんなのか俺知らんし、死にに行くようなもんだし! 平和なクエ行こうよぉ……

「早く行こうよ! エルト!」

そう言ってこっちに手を伸ばしながら走り出すシエル。 何とも楽しげなその表情に、俺は完全にその瞬間だけシエルが半機械人間であることを忘れていた。 そして、そんなシエルの姿に俺は。 過去の未練を重ねていた。

悲しく懐かしいな。

「待ってよシエル!」

そして瞬時に表情筋を働かせ笑顔を作る。

シエルは半機械人間だ。 きっと分析されて気づかれる。 でも悟らせない。 この感情を今気づかれてはいけない。 これは俺の問題だ。 他人への影響など少しも与えてはいけない。 これは俺の問題だから。

駆け出す。 シエルの伸ばす手を掴めるほどラブコメ主人公ではない。 ただただ照れくさいんだよ畜生!

俺はそのまま手を伸ばし走り出したシエルを追い越す。

「置いていくぞ! 早くしな、シエル!」

そう言って優越感に浸りながら走って数秒後。

シエルから「そっちじゃなくてこっちだよ」という言葉に足が止まり、さっきとは比べものにならないほど減速した速さでシエルの元へ走り出した。

「……全力疾走なんて、するんじゃ……なかっ、た………」

こんな俺が高難易度のクエ行って、生きて帰ってこられるだろうかと本気で思った。


■■■

そんなエルトとシエルとは別に各所では大きな事態へ進もうとしていた……


「なにも知らずにいれば、幸せなこともあるんだ。 どうか、そのままで……」

そう言って機械街に背を向け天界都市に侵入するのは。

ルーダ博士こと、ルーダ・テミファル。



「そろそろ動くぞぉ!」

「やるべき事はやったね! あとはお前達次第ね!」

「早く行くぞぉぉ!!」

とある部屋の中と外。 大きく元気な声を発するのは。

ルーダ博士の仲間だった、とある姉妹。



「………」

とある場所で世界を見つめ歩くのは。

亡霊か否か。



「ちっ……」

天界都市のとある場所で塔を睨みつけるのは。

山登り好きの元冒険、ガースラー・オンバルコン。



「そろそろ会議が始まります」

「分かったわ。 では後の事はお願いね」

「かしこまりました。 いつも通りの手筈で」

「行ってくる!」

「お気をつけて」

そのような会話を交わすのは、天界都市のとある場所で正装ではない汚れた派手ではない装備で。

地下に降りて行くのは、人々を救わんとするひとりの少女。


混乱が少しづつ近づいていることにエルト達は知る由もない。

読んでくれてありがとうございます。

ついに始まった3章!

天界都市でなにかが始まる予感。

その頃エルト達は……

次も読んでくれると嬉しいです。

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