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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
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今度こそ。

今回で第2章終わりです。

楽しんでいただけると幸いです。

移動機械を降りて改造所に戻って来た私達を待っていたのは、解放された多勢の人々と元改造員だった。 お祭り騒ぎの中、私達はそこまで気分高くいられるはずもなく。

カイン、バーオリー、ネイチャン、ロッカス。

4人との別れを経ての帰還であって、その祭り騒ぎも弱めてしまう。

だが、悲しんでいるのは私達だけじゃなかった。

私達が核都市に行ってる間に、地上に残された者達は他の改造所全てを襲撃。 その中で助けられなかった者、殺された者も多くいた。 それでも全ての改造所を壊滅させることに成功。 囚われていた全てを解放し、無残に使われていた死体なども家族に返したり、身元が分からないものなどは埋葬したりしていた。

みんながみんな改造を止めるために戦っていたのだ。

こんな時だからこそ楽しく騒いで見送ってやろう、とどこかの馬鹿が高らかに叫んで、その馬鹿が伝染し祭り騒ぎになったという。 今も最初の勢いからは弱まったものの泣きながら笑いながら楽しく騒いで死者を弔っていた。

そのような騒ぎ声を遠くで聞きながら、少女と初めて会ったあの地。 機械の瓦礫や残骸が山のようにある中、一輪の花が元気よく咲いているあの地へと11546と共にやって来ていた。

「ルーダ様」

「………」

私は無言で答える。 何を言いたいのか、私ははっきりと分かっている。 もっと早くに、言われるべき言葉。

11546の行き場の無い怒り。 それを最も受けるべきは私なのだと。

私に背を向けたまま、一輪の花に視線を落とす11546。

「あの御方は。 いえ、あの子はいつも、御家族と特に母親とこの花を想っておられました。 それと、ルーダ様のことも」

歯を噛み締める。 拳を握る。 あの時の、あの瞬間の記憶が脳裏に蘇る。

「あの子はとてもお優しい人でした。 機械である私が自分の内側に入り込んでも、あの子は恐れたり怯えたりせず、私を怖がらせないよう優しく接してくれました。 私を受け入れてくれました。 奪われる側が、奪う側にこんなにも優しくするなど、最初は馬鹿なのかと疑っていました。 ですが、時が流れるにつれ純粋な優しさだと気づいた時、私は私に怒りを覚えました。 なんともお恥ずかしい。 そしてどこまでも、自分より他人のことを想っておられました」

懐かしく振り返るように話すその口調は、ここから悲しみが混ざった口調へと変わりだす。 ただただ、胸が締め付けられる。

「ーーーーーーそして切り替わりを終えた後でした。もうあの子の目には私の姿が見えていないことに気が付きました。 あの子に見えているのは進むべき最期の道だけ。 その道を歩く瞬間のあの子の顔は今でも忘れられません。 記憶を失っても尚、あの子の無意識は別れを拒んだのです。 記憶の無いあの子は何も理解することはできず、ただただ自然と零れる涙に疑問を抱いておりました」

そこで一旦11546は話すのを止めた。 そして、その場で俯きながら振り返り、走り出して跳躍し。

「あそこまで優しかったあの子の本心が。 やっとその時見えた気がしました。 その瞬間からずっと抱き続けているこの気持ち………」

11546は拳を固く握る。 私は何もせず彼女の言う言葉を聞き続ける。

「何故、助けなかったのですか!!!!」

頬にめり込む11546の拳。 そのまま後方に吹き飛ばされ、背後の機械の瓦礫と残骸の山に激突した。

すぐに11546は私との距離を詰め片足を後ろに上げる。 私は即座に両腕でクロスさせ防御体制に入る。

「何故、私を選んだのですか!!!」

11546の足が両腕辺りを蹴り飛ばし、私は宙へ投げ飛ばされる。

すぐに11546も跳躍して私よりも高く飛び、仰向けの私の腹に両手を合わせて腕を振り下ろした。 そのまま地に撃墜される。

「何故、あの子がここまで悲しまなければならないのですか! あなたは、それでも、親ですか!」

その言葉が。 深く深く、胸につきささる。

「義理でも! あの子に呼ばれたのなら! どうしてこんな選択をしたのですか! あなたは!」

深く深く。 抉るように。

「だから、あの子は最後の最後に涙を流し」

「救えなかった!!!!!」

11546の台詞を言い終わるのを待たず。 私は言った。

「救えなかった! 救いたかった! 救うことができなかった!」

叫ぶ。 私の声に黙って聞く11546。

「そうさ、私は助けられなかったよ! 暴走もしたし、あいつの目の前で残酷なものも見せちまった! 勝手に連れ回したりして、改造所に連れて行かなければ、別な未来がもしかしたらあの子に待っていたのかもしれない。 その可能性を潰して私はあの子をこの場所から連れ出した。 ここで少女の母親を見てしまって、私は勝手ながら母親代わりをしてるんだと自画自賛の泥沼にハマっていたさ!」

溜めていたものを吐き出すように。 私は伝えたいことを言う。

「それでも、偽りじゃない! あの子を想う気持ちは嘘じゃない! あの子に頼まれたんだよ。 もうひとりの私をよろしくねって。 約束しちまったんだよ。 だから守る。 救えなくとも、約束は絶対守ってみせるとそう決めた。 それはもしかしたら罪滅ぼしかもしれない。 本当は守りたくないなんて思う自分も心ん中にいるかもしれない。 だけど、それでも。 あの子が残したあの子の大切なものを、しっかり愛そうと決めた! ………私は、この選択に、後悔は。 ない」

後悔なんてしたら、怒られちまう。 顔向けできなくなる。 さすがにあっちでも会えずじまいなのは、嫌だから。

「………」

11546は少し考え込み、微笑んだ。

「やはりルーダ様にはあの子が、あの子にはルーダ様が必要なのですね」

「あぁ、必要だ。 たとえそれが、お前だとしてもな」

そう言うと、11546はふふっと乾いた笑みを浮かべた。

「私は無責任なことをしてしまいました。 あの子が消えていなくなる前、私はやってはいけないことをしてしまいました。 あの子と過ごした時間、何よりも楽しく、何よりも短かったあの一時、またいつか笑い合うのを夢見て、私はあの子の欠片を盗んでしまいました」

「………? お前さん、何を言って……」

「今度は絶対に離さないでくださいね」

そう11546は言うと、大量の光が現れ、それらが宙に浮かぶ11546を包み込んだ。 軋む音が鳴り響く。

「な、何をする気だ!?」

「………」

光は11546を包み込み空に昇っていく。

それはまるで、あの子との別れの瞬間を連想させるような……

その時、光の中から声がした。

「私の行き場の無い怒りは、たとえ八つ当たりだとしても、貴女様を許しはしない。 決して。 ですが、やはり誰誰誰には幸せでいて欲しいから。 たとえ私がその場に居なくとも、笑っていて欲しいから。 次こそは、ちゃんと守ってあげてくださいね。 ルーダ様……」

解けるように、蒸発するように光は空高く昇っていく。 けれども、なにも連れ去らず光だけが昇っていった。

そして宙から落下する11546。 目を閉じたまま落ちるその体を受け止めた。

まるで、どこまでも。 まるで、あの子との別れが繰り返されたいうな感覚に。

腕の中、目を覚ます11546は。

否。

「そういぅ……ことか……馬鹿野郎がよぉ……」

いつもいつも、みんな自己犠牲野郎だ。 自分を大切にしてくれよ。

どんなに嫌っていようと、悲しむ者がいるんだからよぉ……

目の前の奇跡に複雑な気持ちを抱きつつ、私は彼女を抱きしめた。

「どうして、泣いて、いる、の……ですか?」

いつの間にか泣いていた私の涙を優しく拭うのは。

どこか機械じみている声、半分機械の半機械人間11546。

なのに、どうしてだろうか。 どうしても、どうしても。

あの子の面影が重なって、懐かしさを感じ取ってしまって。

止まらない。 止まらない。 止まらないんだ。

涙が、止まらないんだ。

嬉しさ半分、悲しみ半分、怒りちょっと。

まるで生き返ったかのような錯覚に溺れ、さっきまで一緒に戦っていた仲間の消失に悲しみ、自分を犠牲に切り替わる馬鹿さに怒り。

「どうして、だろうなぁ……私にも、分からねぇや………」

その時、私は夢見てしまう。

誰誰誰がいて、隣にあの11546と反対側に私がいて誰誰誰を取り合っている。 それを微笑みながら眺めている誰誰誰の家族。 小さな一輪の花に今日も水やりをする誰誰誰に駆け寄って、「手伝うよ」って言う。

夢見てしまう。

みんなが、平和に楽しく生きていれば、いいのに。

ただそれだけでいいのに。

それすら叶えるのができないなんて。

こんな世界、大嫌いだ。


■■■

現在。

エルトside……


「…………」

長い話を聞いた俺は、黙り込んでしまう。

いろんなことが過去に起こって今がある。 当たり前のことだけど、とても大切なこと。

「今のシエルは……」

「そう。 3人目だ。 最初の少女、次に半機械の11546、そして最初の少女の生まれ変わりである可能性のある少女が今ってことだ」

信じ難い話ではあるが、ここが異世界だと思い出すと信じられなくもない話に聞こえてしまう。

明日からのシエルに対する態度が変わっちゃいそうだな……

「……改めて頼もう。 あいつに心を教えてやってはくれないか。 見捨てないでやってくれねぇか。 私はあの子のためなら何でもする。 あの子の名前もろくに思い出せていない馬鹿野郎だけど、なんだってしてやる。 でも私はこれから忙しくなるだろうから、二人きりになることも多かろう。 だから! もしやましい事を11546にする気なら………今ここで切り落としてやる」

頼み事どこいった……

「わ、分かってるよ。 言われなくとも、シエルは最初と比べて人間らしくなって来ているから。 それよりも忙しくなるって、まさかガースラーが言っていたカインの亡霊のこと?」

「………お前さんは、あんまし首突っ込むな。 11546の事だけを集中していればいい」

「りょ、了解……」

「うっし、んじゃ帰るぞ! エルト」

そう言って、話の中で出た転移をいきなり発動して数メートル先に移動するルーダ博士。

「ちょっ、まだまだ聞き足りないことがあるんだけど!」

足早で博士の元に走り出す。

壮絶な過去、聞いた俺は何も言えなかった。 でも、何も思わなかった訳じゃない。

少し、シエルに聞いてみるか……


そんなふたりを見送るように、機械の瓦礫と残骸の山ばかりの中、一輪の綺麗な花が風に揺らいで揺れていた。 そんな瓦礫と残骸の山の裏、懐かしき過去話に耳を傾けていたひとりの男は、そのままかつての改造所跡地へと歩いて行った……

読んでくれてありがとうございました。

少女との出会いから今までの過去。

次回からは第3章に入ります。

次も読んでくれると嬉しいです。

次回の投稿予定は来週末からです。

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