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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
52/197

古き英雄の責務

今回は長いです。

楽しんでいただけると幸いです。

大剣が聖なる光を灯して、空に薄い光の線を一直線に描く。

その柄を握る手は、更に力を強め気合いが一段と入る。

俺は今、飛んでいた。

頭上より遥か高くから落下している爆弾と化した戦艦が分裂して何十隻にもなり落ちてきている。 地上に着弾するのは時間の問題である。

「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

雄叫びをあげ魔力を大剣に流し込む。 だが、

「おいおいぃぃ、邪魔しないでおくれよぉ、俺の敵さんよぉ」

やはりそう易々と止めさせてはくれないらしい。

だが、落下速度からすると俺の元まで戦艦よりも速く来れる者はいないだろう。 まだまだ距離はあるように見えるしな。

「複製魔法、擬似展開、重の玉、分裂」

「っ!?」

そんな台詞が響くと、頭上から無数の小さな玉が降ってくる。 俺は瞬時に大剣に流し込んでいた魔力を使い、大剣を振って斬撃弾を放つ。 だが、擬似魔法で作られたとは言え重の玉を斬撃弾で防ぐのは不可能であり、すぐに無数の玉に斬撃弾は無残にも消えてしまう。 俺は大剣を盾代わりに重の玉を防ぐが、大剣の剣身にいくつもの玉が降り注ぎ、自分よりも何百倍もの重力が上からかかる。

「くっ……」

筋肉が軋む。 徐々に重さは増していく。 止まぬ重い雨に耐えながら地上に視線をやると、沼地と化した地に穴が無数に空いている。

沼地であろうと関係ないってことか。 それに、ネイチャンが危ない。

「クソッタレがぁぁぁぁぁっっ!!」

まだ守らなきゃ。

剣身に降り積もった玉を薙ぎ払い、大剣を振り回す。 もちろん重さ硬さには劣るが、落ちる軌道は変えられる。 大剣を全力で様々な角度で振り回し、まずは自分に当たらないよう軌道を少しでもずらす。 ひとつでも体に当たれば、重さに抗えず地上に引き戻される。

腕を振り刃で玉に当て、流れるように肘を曲げ柄頭でかすりそうになった玉の軌道を変え、肘を曲げて剣身で頭上から降る玉を薙ぎ払い、両手で握り肘を高速に動かして、察知魔法を駆使して上から降る玉を次々と剣先で弾いて軌道を変える。 その後すぐに斜めに振り横に薙ぎ柄頭で弾き、剣身で払い続ける。 片手で大剣を握り、空いた手に強化魔法を何重もかけ、肘打ちや殴って軌道をギリギリ変えて対処していた。

だが、このままじゃずっとここに止まったままになる。 この雨が止まなければ、上のラスボスにも手を出せない。

「魔法は苦手なんだがなぁ! 擬似魔剣、特大複製、擬似大魔剣!」

そう言うと、俺の足元に巨大な魔法陣が俺を中心に描かれる。 更にその魔方陣を囲むように少し大きめな魔法陣が展開されていく。 その魔法陣ひとつひとつから巨大な魔剣が出てくる。 だが、魔法陣の下から魔剣が出てきているものも所々ある。

「っ……魔力操作ぁ!」

全魔剣に自分の魔力を流し込み操る。 片手では全魔剣を巧みに操り雨を防ぎ、もう片方は大剣を握り自分に降り注ぐ雨を防ぐ。

ガガガガガガガガガガッ!!

空中での大量の魔剣と俺対、降り注ぐ擬似魔法で作られた重の玉の雨の攻防戦が始まっていた。

「おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいおいぃぃぃぃぃっっ!!! なぁに防いじゃってぇんの? やられなきゃダメでしょーがぁ! 腐っても勇者か、正義の味方さんかこの野郎ぉ! うーんうんうん、目障りだけど、考え方を変えよう。 うん、うんうん、うんうんうんうん……お前さぁ、善良な民とか好きだったろう? ならばそいつらだけ、ぶっ殺してやるよぉぉ。 雨は辞めだ。 お前が正義の味方ってんなら、守ってみろよ、視界に写る全ての街の善良な民をよぉ。 魔力操作ぁぁ!!」

「なっ!?」

そんな声が高らかに上空で響き渡ると、雨は一瞬止まり、全ての玉が全方向に散り散りに飛んでいった。

「重の玉の潰されちゃあ、痛てぇだろぉなぁ。 あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ゲホゲホッ!」

「てめぇぇっ!!! っ、複製複製複製複製!」

魔剣を何十本、何百本と数を増やし魔力操作で、散り散りになった玉を追う。 そして玉に追いついた一本の魔剣が回転して玉に刃を当てるが、その瞬間複製された魔剣が呆気なく消滅する。

擬似魔法で作られた重の玉に負けた……!?

「おぉ、驚いてる驚いてるぅ。 魔剣は本来、魔力の強い者が使うほど性能が上がるものだと教えられてきた。 その通りに作られ始まった魔剣が魔力操作程度で本領発揮は難しいんじゃないかなぁぁ? 初期の魔剣じゃないんだからさぁ」

初期の魔剣、初代大賢者の時代の魔剣か。 確かにそうだ。 俺自身が使わなきゃ、それは普通の剣よりはほんの少し精度がひとつ上の剣となるだけだ。 それじゃあ、擬似とは言え重の玉に勝てる訳がないか。

「ど、どうすれば……!!」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ゲホッ……お前はただただぁ民が重さに死ぬのを見てることしかできないんだぁよぉぉ! 」

そんな声が聞こえる。 その時だった。

『主、主は何を望んだ』

「……死守だ」

『守るべきものは、なんだ』

「……あぁ」

分かったよ。

ひでぇな。

また死ねってか。

大剣に言われ、俺はまた大剣を握り、目を瞑る。

「大千里眼」

瞬間、俺の頭上を囲むように魔法陣が縦に現れ、そこから目玉がギョロリと出てくる。 それは全方向を見ると、すぐに消えた。

そして、その場に大剣を突き刺す。 空間にヒビが入り、俺の足元の魔法陣は収束していく。 そして消える。 足元の空間に突き刺した大剣には魔法陣が無数に描かれていく。 空間のヒビからはこれでもかと聖なる光が輝く。 その光は俺を包み込み、色が全て光と化す。

目を開く。

それは人の理を外れた魔法、人外魔法のひとつ。

「異伝子魔法、自身操作。 自我創身」

「んぁあ!? おいおいぃ、ふざけるなよぉそれを今発動するかい。 分身!」

上空からの声と同時に、俺の周りに数人魔神の分身体が現れる。 だが、同時に俺の周囲四隅に外を向き構える俺が4人がいた。 直後、ドパッと俺の周囲に血が弾ける。 そして四隅にいた俺は消えた。 否、

「ぐふっ」「がはっ」「ブフッ」「あひゃ?」「んっ」「ぐはっ」「えっ」「なっ」「がっ」

一瞬、同時に周りにいた魔神の分身体は数度斬られていた。 そして所々に4人の俺が大剣を片手に立っていた。 目線を斬り伏せた魔神の分身体達に送っていた。

「もう遅い」

ひとりの俺が言う。

「この魔法は既に展開され発動した」

別な俺が言う。

「これでもう守るべきものは守れただろう」

また別な俺が言う。

「もう安心だぴょん」

4人目の俺が言う。 同時に他の3人の俺が俺に気まずそうな視線を送る。

魔法苦手なんだって。 故意じゃないって。 誰が好き好んで語尾に「ぴょん」なんて付けるかよ。

人外魔法がひとつ、異伝子魔法、自身操作。 自我創身は分身魔法の頂点に君臨する完全分身魔法。 全く同じ自分を何人も作ることが可能であり、自分とほぼ同じ自我を作り出すことのできる究極の分身魔法。 大千里眼を使えば大体どこにでも自分を作り出せる。 ほぼ全く同じ思考をしているので、言うことを聞かないなんてことはなく、そこにいるのは正真正銘自分自身である。 その代わり本体である自分はその場から動くことはできなくなる。 そして魔力や気力、生命力など持つ全ての力がどんどん削れていく。

まぁ今回は俺の魔法の技術がどこか変で、少しおかしい自分ができてしまったようだが。 2度目の使用だと言うのに。

そんなことを思いながら大千里眼で他の俺の状況を見る。

ある所では標的になった人の前に出て盾代わりに、ある所では人気の無い地に叩き落としたり、ある所では飛んでいる最中に軌道を変え別な所に着地させたり、と様々な対処をしていた。 ……数百人の俺が頑張っている姿に、俺は違和感を感じてしまう。

「もう玉を落としても無駄そうだなぁ。 消耗戦も嫌だしなぁ。 じゃあその分身でこの数十隻の戦艦を止めてみるかぁ? あぁ?」

また頭上から響く声。

「なに、すぐに止めてやるよ」

そう俺が言うと、周囲にいた4人の俺が剣先を上に向ける。 大千里眼で見ると、全ての俺が剣先を数十隻の戦艦に向けている。

「忘れたか、魔神。 俺の大剣は、魔剣であり、聖剣でもあるということを」

そう言うと、全俺が声を揃え叫ぶ。

初代大賢者の究極光魔法のひとつ、

「「「聖撃一閃線」」」

数百人の俺の向ける剣先から放たれる光の一線。 それを様々な方角から数十隻の戦艦を貫いていく数百の光線。

そして数十隻の戦艦の一部が暴発。 そして連鎖するように次々に爆発が続いていく。 その威力はここまではっきりと衝撃波を感じる程。

「終わりだ、魔神!」

「あぁ、終わりだなぁ?」

声は、横から聞こえる。 すぐに目線を声がした方向に向ける。

「!!?」

そこには、何も無かった。 直後、布が破けたかのように、一隻の戦艦が姿を現す。 そしてちょうど俺達の横を通り過ぎて地上に向かって落ちていく。

透明化だと!?

「地上を死守するぞ! 戦艦を止める!」

周囲の4人の俺や各地の俺が頷く。 4人の俺は戦艦を追い、各地の俺は転移を繰り返してこちら側に向かっている。

口から血が零れ落ちる。 分身の維持のための負担に限界が見えてきていた。 だが、こんな状況で解除などできるはずもない。

4人の俺の内2人は、魔法破壊の魔法を限界まで大剣にかけて戦艦に攻撃をしていた。 魔法陣をいくら破壊しても次々に魔法陣が展開される。 他の2人はデッキに入り込み、魔神本体と対峙していた。

俺は彼らから目を離し、数十人の俺に通信を行った。

「お前達、思考は大抵同じだからもう分かっていると思うが一応言っとく。 ネイチャンを死守するぞ。 どんなことが起ころうと彼女を信じ守るのだ」

「「「御意」」」

最後の頼みの綱である彼女は何があっても絶対に守りきらなくてはいけない。 今現在でも魔力をねっているであろう彼女を信じて。

そしてまた大千里眼で4人の俺を見ると、まだ2人と魔神は対峙していた。 他の2人は、いない? 探してみても戦艦の周りにはあの2人の俺はいなかった。

「……っ!」

違った。 先程対峙していた2人の俺は傷だらけでデッキの端に追いやられていた。 その2人の俺を守るように立ち塞がるのが、先程魔法陣を壊していた2人だ。 まさか、全く歯が立たなかったのか!? 魔神の方は無傷のように見えるし。

「くっ……しゃあねぇな……」

『主、覚悟は決まったか』

「あぁ、もうやろうか」

柄に当ててる手に力を入れ大剣を空間のヒビが引っこ抜く。 するとヒビは元の空間へと戻っていく。

そして光は更に増して俺を包み込む。

「解除!」

直後、全ての俺が消える。 そして俺は口から大量の血を吐き、身体中に傷ができて血が散った。 代償の表れだ。

「ほおぅ」

魔神が呟く。 そして俺の方を向いていたのだろう。 後ろに振り向いている。 そして魔神が俺の転移した気配を読み取りこちら側を向く瞬間、剣身で魔神の体を薙ぎ払った。 魔神は後方に吹き飛ばされ壁に激突して部屋に転がる。

「はははは……俺ぁ倒したからってぇこいつがぁ止まるこたぁねぇんだぜぇ?」

その台詞の終わりと同時に俺の目の前に転移して、魔力で作られた剣で俺の顔面目掛けて突き刺してくる。 俺はそれを剣身を片手で掴んで砕いた。 だが、それを予測していたのか、剣を瞬時に手放し手のひらをこちら側に向けて魔法陣を描く。

「闇撃落閃光」

直後、頭上から瞬間的に三本の黒い光線が落ちてくる。 俺はそれを後方に軽く飛んで避け、

「追尾」

その黒い光線が地に着く瞬間、曲がって俺に迫る。

「聖撃一閃線」

大剣の剣先から光線が放たれ、俺はそのまま横に腕を振り、黒い3つの光線を薙ぎ払った。

「なるほどぉ、最後の勇儀か」

俺の薙いだ剣筋の下に体制を低くして接近していた魔神は、俺の腹に手を当て、

「空波」

空気が圧縮され後方へと吹き飛ばされる。 すぐに体制を立て直そうとするが上手くできない。 すると魔神は吹き飛ぶ俺に腕を伸ばし、自分側へ引き寄せる仕草をする。 すると途端に俺の腹辺りに重さと熱さを感じる。

「獄炎鎖」

燃え盛る鎖が巻かれていた。 そして手綱を持つのは魔神。 勢いよく引っ張られ、魔神の方へ近づく。 そして魔神は片手に魔法陣を描き、そこから鋭い氷のドリルを生み出す。 視界の端にも魔法陣が展開され、そこから同じ獄炎鎖が顔を出していた。 ドリルで攻撃をした後にまた更に獄炎鎖で縛り付け身動きが取れないようにする気か。

俺は大剣を握りしめドリルが当たる瞬間、ギリギリ地に足を付け床を蹴りその場で回転し、ドリルを持つ腕を斬り落とす。 そして案の定迫る他の獄炎鎖を断ち切り、魔神が次の行動に移す前に自分の足元に手を翳し、

「聖撃爆龍」

魔法陣が瞬時に3つ程三角形のように展開され、中心から光の大爆発が起こる。 その衝撃で自分に巻かれていた獄炎鎖を解き、魔神から距離をとる。 だが、すぐに距離を詰めようとその爆発を跳躍し飛び越えこちらに向かってくる魔神。

「はははっ、さすがだなぁ元勇者ぁ! 元傭兵長ぉ!」

そう言う魔神に構わず、光の爆発の中から生まれた光の龍が一度上へ這い出て、跳躍中の魔神を上から食らいつく。 そして更なる先程よりも大きな光の爆発を起こして龍は消えた。

「さっすがぁだねぇ」

背後の声に、俺は前方に軽く飛んで回転し腕を振る。 瞬時に大剣に魔力を流し込み背後にいた魔神へ斬撃弾を3連続放つ。 それをひとつひとつ掴んでは砕いていく魔神。

「お前さぁ、俺に勝ったことないのにぃ、どうしてそこまで頑張んだぁ?」

「今こそ勝つからだ」

床を蹴る。 腕を振り上げる。

「なんだそりゃあ」

俺に向かって手を翳す。 俺はそれを確認した後に、空気を軽く蹴り、魔神とは逆の後方へ軽く空中で退いた。

「ん?」

「聖魔剣技、聖魔十断」

戦艦のデッキに縦と横に一閃大剣を振る。 十字に戦艦は斬られ、四等分される。 だが、すぐに魔神はこれを修復しようとするはずだ。 その一瞬でも見せる隙を突いて今度こそーーーーーーーー

と目線を魔神へ向けた時、数十センチで体が触れるくらいまで魔神は接近していた。 とてつもない威圧感を放ちながら、口元をこれでもかと歪ませて、目元はただ遊戯を楽しむだけの子供じみた目で、それは殺しを本気で楽しむ狂人の顔がそこにはあった。

魔神は片腕を反対の肩まで回し、剣の柄を掴むような仕草で、まるで鞘から抜刀するような仕草で動かす。 するとそこには禍々しい黒く紫で紅の色が混濁し混ざり合った片手直剣が生み出される。 魔力剣とは明らかに力が違う剣だ。

「さすがだけどさ、俺には適わないよ。 まだまだ勝てないんだねぇこれが」

挑発にも似た声色で囁くように言う魔神に、俺は恐怖をよりも恐怖に似たなにかを感じていた。 そのせいか、やけに時間が遅く感じる。

「聖ぇなる断罪、光と闇の混濁。 光は影を飲み干して黒より暗い月となる。 暗闇は光を奪い聖女を産み落とした。 互いは違いなる存在へ変わり果て、幾千もの罪に染まる姿じゃあ、見えていたものは見落としてしまうのだろう。 別れが始まりならば、出会いは終わりへの道標。 光が絶望への始まりならば、闇は希望に似た虚構の正義。 天は夢、地は真実、子どもの泣き声、獣の喘ぐ声、また同じ。 我はただその夢を覚ます引き金、代わりは変われない。 全てを断ち切り、見えた先に何も望まない。 君臨せし、ここに出でるは黒き血の魔剣アヴィスウェルトピア」

時の流れの中で淡々と笑みを崩さず、心から笑っているような表情で悠々と語る魔神。 そして顕現する剣は完全な形を成して現れる。 剣先は俺の額に向けられ、すぐに魔神は肘を曲げ斬る構えをとる。

俺は何も出来ず、何も言えず。 ただその行動を見ていることしかできなかった。 それはきっと魔神の時空間に囚われているからだろう。 本来の時間じゃ今は一瞬なのだろう。 今現在その瞬間の中にいる。

「刹那」

そう呟くように魔神は言うと、魔神の持つ剣が呼応するように黒く黒く眩い暗い光を放つ。 その黒光は周りの戦艦以外の空間すらも壊していく。 軋んでヒビが入りずれていく景色を背景に、一閃。

それはまるで当たり前にように流れる日々にいきなり巨大な恐怖が舞い降りたかのように。

一瞬。 瞬きよりも速い一瞬。 瞬間の中に流れた一瞬。

そして時の流れは平穏を取り戻す。 空間も軋んでいたことを忘れたかのようにただそこにあった。

俺はというと斬られた感覚すら感じない。

否。

俺は血も出さず、勝手にずれていく視界に痛みも感じず倒れ始まる。

「お前の、負けだよ」

倒れている最中、俺は途切れそうな意識を繋ぎ合わせ大剣を握りしめて、片手には魔法陣を展開し回復魔法を発動する。 無駄な足掻きだと分かっている。

「だが、ただでは」

ゴハァッ

多量の血を吐きながら声を出す。

「転ばねぇぞ! 魔神」

抗う俺に更なる笑みで見つめる魔神。 まるで攻撃を待っているかのよう。

ならば、くらえ……

片手に別の魔法陣を描く。

「生命限界活動開始」

それは勇者御一行にしか使えない大賢者から授けられた最期の魔法。 ほんの短い時間だけ自分が完全に死んだとしても復活して戦える最後の足掻き。

後方へ軽く飛び魔神との距離をとる。 そしてバンッと大剣の剣身を剣を持たない片手で叩き、剣身に魔法陣を描く。 同時に自分の心臓の近い胸辺りにも魔法陣を展開させる。

戦艦はもう止められそうにない。 でもこいつは生かしちゃおけない。 すまないネイチャン……

そして。 ……すいません。 私は貴方を助けられない。

目を瞑り、開ける。 一瞬の黙祷。

「許せ、善良な民よ。 憎め、守りきれなかった私を」

それは今までの救えなかった人々への想い。

「はっはははははははっっははっはははははははははっはは!!! さぁ来いよぉ! お前の最後の全力を受けてやる!」

「これはオリジナルなのだ魔神、名など無い。 故に、名を名乗ろう。 元勇者、ロッカス・グレニエル! 元傭兵長、ロッカス・ウェンダー!」

そう言って構え、床を蹴る。 光は俺に、大剣に収束していく。

気づいていたから、こんな最期にしたんだろうか。

気づいていたから、こんなにもーーーーーーーーーーー

「今思いついた。 魔王を滅ぼすための魔王殺しの技、平和の光」

魔王の笑みは最高潮に達した気がした。

「ははっ、なんてふざけた技名だ」

限界まで大剣に、俺の心臓に光が収束して、放つ。 大剣からは全方向に光線が放たれて、カクカクと曲がって、幾つもの光線が魔王を様々な方向角度で襲う。 そして大剣に収束した光が薄れ始めた時、自分に収束した光を、俺の魔力気力生命力などを全て大剣に込めて、無傷の魔王の前に跳躍して、光輝く大剣を掲げる。

「おいおいぃ、眩しいじゃねぇか」

全ての光線を剣で防いで、満面の笑みで、狂気が抜けた普通の笑みで言う。

「さようならだ、魔王」

「俺はこんなんじゃ止まらないぜ?」

腕を振る。 大剣で斬る。 斬るーーーーーーーー

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

グサリ……

移動機械の目の前。 聖魔剣を地に突き刺す。 俺は戦艦から転移した。

刺した瞬間一線の光が上に突き出る。 同時に別の箇所からも同じ光の線が突き出る。 こことは違う場所に三本、剣が刺さっている。 沼地ではない所ギリギリに配置した剣は四角形を上手く描いていた。

「四壁地刻」

唱えると、4つの剣は光線を描いて地に光線の四角形を刻みつけた。 そして薄い光の壁が出来上がる。

少し遠くのビルの上では俺が隠れて発動させておいた光の究極防御魔法に包まれたネイチャンが、内側から光の厚き壁を叩いてなにかを訴えている。 俺はそれに笑みで答える。

そしてついに戦艦が墜落する。 途端に戦艦に展開されていた魔法陣全てが起動して大爆発の嵐を巻き起こす。 この壁の内側にいる生き物は全て死ぬだろう。 俺はその爆発に巻き込まれる。 それでもしっかり立ち、地に突き刺した大剣の柄頭の上に手を添えていた。

「先にいくぞ……」

一言零して、立ちながら。

俺はその生涯の幕を閉じた。


「はははっ、どこまでも守ることしか頭にない野郎だな」

そんな勇者を眺めながら上空で魔神と呼ばれた者は笑っていた。

■■■

とある場所で嘆く声ふたつ。

「なんでっ、なんで!! なんでお前がいんだよおおおおおおおおおお!!!!!!!」

とある地下室。

ガチャガチャと鎖を激しく打ち鳴らし、壁を床を叩き叫ぶ。

「なんでそこにいるんだ! お前はまだそこにいちゃダメだろうがよおおおおお!!!」

少年は泣きながら叫ぶ。


また、別の地下室では。

「あなた……」

鎖に繋がれた重い両手を持ち上げて、顔を覆い隠す。 隠した顔、頬に伝うはあたたかな悲しみの涙。 許しを乞う喉奥から出るその声は、誰にも届かない。

「ごめんなさい……あなたは、優しすぎよ……」

読んでくれてありがとうございます。

ロッカス、死す。

次回、それぞれが夢見たもの。

次も読んでくれると嬉しいです。

次回の投稿は来週末予定です。

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