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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
51/197

三度目

今回は少し長めです。

楽しんでいただけると幸いです。

???side……

「鎧は……」

この世界で機械文明が生まれる遥か昔の時代。 当時の人々は、魔を司る魔神を倒さんと奮起していた。 暴走にも似た好き勝手に暴れる神を人々は恐れ、王国が軍隊を送っても倒せずにいた。 その時現れたのが当時の最強傭兵ロッカスだった。

だがその時の人々は知る由もなかっただろう。 外見には見られなくともハーフエルフであったロッカスは長く時を生きていた。 かつてロッカスが呼ばれていた名は、『勇者』である。 今となってはおとぎ話の主人公。 生ける伝説だ。

「最期の最後まで、平和のために戦う、か」

ならば、世界最強の男の最期。 見届けないわけにはいかないな。

■■■

ロッカスside……


「援護を頼む」

「でもひとりでいけるの?」

ネイチャンは心配そうに聞いてくる。

「なに、今の俺なら大丈夫だ。 それに、そっちもやるべき事があろう。 そのためにまだ、死ねんだろ?」

「……ふふっ、そうね」

「……任せる」

身体強化を瞬時にかけ、台詞の終わりと同時に空気を蹴り奴のいる戦艦に突っ込む。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

大剣を握りあと少しで間合いに入るその瞬間、戦艦がその場で回転していきなり距離を詰めて来た。

「死ねぇ!」

奴の声が響くと同時に、戦艦が回転しながら体当たりをしようと迫る。 即座に俺は大剣を真横に構え、迫る戦艦に突き刺した。 それでも構わず回転を続けるので、突き刺さった大剣を握りしめながら振り回される状態となった。

「時間操作魔法、時間停止」

視界の端でネイチャンが手を翳しながらそう告げるのを聞き取る。 直後、勢いよく回転していた戦艦が急にピタリと止まった。 その反動で俺は振り子状態になるが、それを利用し一回転して真上を飛ぶ。 すると戦艦の上までやってきて、そこには奴がいた。 腕を前に突き出して、俺は叫ぶ。

「来い、我が剣よ」

すると軽く握った手に収まるように大剣が現れる。 戦艦に突き刺さっていた大剣を転移させたのだ。 その柄を握り、構える。

「あひゃひゃひゃ、ゲホッ。 ここまでもう来たかい!」

そう言う奴を見てネイチャンは驚いていた。

「なんで動けるの!?」

時間操作魔法、時間停止。 その名の通り時を止める魔法だろう。 だがしかし、奴はその程度じゃ効かない。 何故なら、

「おい」

呼びかけると同時に、斬撃弾を振り放つ。

「ん?」

その斬撃弾を片手で振り払うかのように消滅させた。

「やはりお前は、お前でいいんだな」

そう問うと、奴は唇を歪める。

「自己紹介がまだだったなぁ。 俺ぁ、戦艦隊隊長ツアルチェ・アゼガルドン。 転生前はかつて、魔神と呼ばれていた者だ」

その言葉が俺の中で確信に変わった。 いや事実だろう。 ネイチャンからも殺気を感じる。 直後、俺と対峙している魔神の頭上にネイチャンが転移する。 瞬時に魔神の頭上に何重もの魔法陣が展開され、その標的目掛けてネイチャンが構えていた。

「気が変わった。 私もやるよ」

そう言っている間にも、魔法陣が更に展開され魔神の周囲を取り囲んでいく。 その取り囲んだ魔法陣から無数の黒い手が伸び出て魔神を取り押さえた。

「黒手の鎖」

そして頭上に展開された魔法陣が色濃くなり、

「黒獄の竜巻」

辺り一帯の光が一瞬失われ、魔法陣がその瞬間の闇を吸い込み、黒炎と化して魔力と生命力を上乗せし空気を圧縮し螺旋回転させ、圧縮した空気を刃に変えて放つ古代の魔法が頭上から魔神へ襲いかかる。

その間に俺も手を翳し、

「擬似魔剣、複製」

すると黒手の鎖の邪魔にならないよう、魔神の周囲の空いている空間に次々と擬似魔剣を創り出していく。 剣先を魔神に向け、数百本の擬似魔剣を魔神に突き刺した。 腹や腕、顔面や頭、足や背中など全身に刺していく。 その間にもネイチャンの放つ竜巻は勢いを弱めず放ち続けている。

そして、最後の一本が突き刺さったと同時にネイチャンの技も終わり、その瞬間に大剣を構え魔神との距離を詰める。

「斬」

真上から真下に斬り、一回転して、真横に一閃する。 すぐに流れるように斜め下から振り上げて斬り、先程回った方向と逆で一回転して一閃。 そして少し後ろに距離をとり、瞬間移動で大剣を魔神の胸目掛けて貫く。

「突」

そして大剣を抜き取り、軽く跳躍して最初よりも倍の力で真上から真下へ一刀両断する。

「断」

そして魔神から距離をとる。 直後頭上から、

「重の(ぎょく)

ネイチャンはひとつの小さな玉を落とす。 それが魔神の頭に当たった瞬間、魔神の姿が消える。 否、まだ姿はあるがそれはだんだん薄れていく。 よく見るとそれは残像だった。

真下の地の深くに魔神はいた。

神でも逆らえないと言われている伝説の最強魔法のひとつ『重の玉』は重力魔法の頂点である。 重力という概念を持っていない者でも何であろうと重さの概念を植え付けその重さに抗えずに地に這いつくばらせる絶対魔法。

だがこのような魔法は初代大賢者にしか使えないと聞いていたが、ネイチャンよ。 どこまで犠牲にしたのだ。

「よ、よしっ……」

ネイチャンがよろめく。 俺はすぐ近くに転移してその体を支えた。

「大丈夫か?」

「ええ……」

全然大丈夫見えない。 この状態を見る限りだと、元はあまり魔法の手練ではないと見受けられるが。

「ネイチャンは休んでおけ。 後は俺が魔神の相手をする」

「無茶よ! わ、私も……」

「ダメだ。 ネイチャンが最後には元通りにできると言ったから俺はある程度全力で戦えるのだ。 次はたぶん本気でいかなきゃいけない。 ネイチャンに死なれては、戻るものが戻らない。 戦場を戦場のままにして死ねる程、俺は戦いを望んじゃいない」

俺の言葉にネイチャンは俯く。 その時だった。

「はっはっはっは! まだこの世に玉の遣いがいたとはな。 だがそんなもの、とうの昔に克服した」

重の玉が落とされた穴深くから声が響く。

「玉の遣い?」

ネイチャンが困惑した表情を浮かべた。 となると、その魔法、どこで覚えたのだろうか。

「伝説の最強魔法の一種、(ぎょく)魔法を生み出した初代大賢者。 彼は魔法使いの頂点という玉座にいたようなものだからか、彼しか使えないその魔法が偶然にも使えたりした者を玉座からの遣い、玉の遣いと呼ぶんだ」

それでも困惑の表情を浮かべるネイチャン。 この反応から察するに初代大賢者も知らなそうだ。 その時、

「毒沼」

声がしたと思ったら、地上のその穴を中心に広範囲に渡り街ひとつ分の地がドロドロした濃い紫の沼地へと変わる。 そしてその沼は人や建物をゆっくりと飲み込んでいく。

「蝕霧」

次の声と同時に穴からは更に濃い黒よりの紫の霧が溢れ出す。 その霧はたちまち沼化した街を包み込んでいき、建物や木々は霧に触れた途端腐敗し、人々も腐り生きる屍と化していた。

「ネイチャンは離れて魔力をねっていてくれ。 元通りになる魔法でもあるのだろう? きっと時間がかかるはずだ。 後は任せてくれ」

「はぁ、はぁ……分かったわ……ごめんね、お願い」

呼吸荒くしてそう返事をするネイチャン。 やはり限界以上に負担をかけていたのか。

ネイチャンはその場から離れ始める。 ネイチャンの頭上の歯車状の魔法陣の中心にある小さな魔法陣は、今までよりも黒く輝きを放っていた。 のに何故かその魔法陣だけヒビが入っていた。

「おいおぉい、彼女はもう離脱ですかぁい?」

背後から声がする。 俺は左足を軸に回転し大剣を背後にいるであろう魔神目掛けて振る。

「おおぉとぉ」

横に振った大剣を体制を低くして避けた魔神。 その低くなった頭の上を大剣が通り過ぎる瞬間に、下から剣身目掛けてアッパーを食らわせる魔神の反撃。 横に振った腕が下からの衝撃により上に一瞬上がるが、即座に腕力でよろめきを止めて大剣を握る力を強め、上から下へ目の前の魔神目掛けて一刀両断する。 が、斬ったのは空気だけであり、魔神は俺の背後数メートル先に転移していた。

よく見ると魔神は傷一つついていなかった。 先程の攻撃なら多少は傷がついていてもおかしくはないと思うのだが。

「あぁどうして無傷なんだってか? それはあれだよぉ、戦争の中を生きる兵士ならばぁ誰もが使えた奥の手。 身代わり魔法、空殻操術。 まぁこれをどっかのお偉ぇさんがぁ、無様な魔法だとかほざきやがってから使う奴は減ったけどぅねぇ」

身振り手振り面白おかしそうに愉快に喋る魔神。

「何故そのような古代の魔法ばかりを知っているんだ?」

「うーん、魔神、だから?」

「ほざけっ!」

距離を詰め大剣を上から下へ斜めに素早く振る。 だが、またもやそこに魔神はいなく空気だけを斬っていた。 背後からの気配に回転して真横に一閃。 するとそこには確かに魔神がいた。 斬った感触はあるが、不思議なことに数メートル離れた所にもうひとり魔神がいる。 すると俺が斬った魔神が「はぁずれぇ」と言って消えた。

「分身か」

「そうそう、分身さ」

そう魔神が言った瞬間周りに何人もの魔神が出現する。

「面倒な真似をしやがって……昔みたいに圧倒的力ってもんで叩きのめすことはしないんだな」

「考え方を少し変えてみただけだよぉ」

そう言うと全魔神が同時に動き出す。 背後からひとりの魔神が魔力剣で斬りかかろうと腕を振る気配がした。 俺は大剣の柄を持ち変え手首の向きは変えずに背中に腕を大きく回す。 そして背中に回った大剣で背後からの攻撃を受け止める。 と同時に真正面からの魔神の接近を許してしまう。 その正面の魔神は魔法陣を片手に展開させ、小さめの光線を魔法陣から俺の顔目掛けて放つ。 背後に視線を向かわせていたので、顔を横に向けながら視線を正面に戻し、間一髪でその光線を首を曲げて回避。 だがその回避した光線が、他の魔神の反射魔法により跳ね返ってまた俺目掛けて迫る。 俺は片足軸にその場で回転すると同時に柄をまた持ち変えて、横からちょうど襲いかかってきた魔神達共々間合いにいた魔神達を一閃する。 そして、再び迫り来る光線を、最初に左膝を曲げて斜めに体制を低くして避け、また反射されると後々面倒なので、通過する瞬間に肩を回し腕を振って大剣で光線を横に両断する。 すると光線はその場で弾けて消えた。

「その大剣、やはりなにかありそうだよなぁ」

「いったいどんな特殊なのが取り付いてんだかぁ」

「邪魔だなぁ邪魔だなぁ。 その大剣はぁ」

口々に魔神達が喋る。

この大剣は名こそ無いし、強い能力が備わっているわけでもない。 ただ切れ味は一切衰えず、どんなことをしても滅びないだけの不老不死な大剣である。

「戦闘中によく喋るようになったな。 魔神!」

「そりゃあ、ただの戦闘じゃない死ねぇ!」

俺の目の前に転移して、魔法陣を展開させた拳で殴りかかってくるひとりの魔神。 俺は体制を低くし腕を振り上げ、俺に迫る腕を斬り落とす。 そして胸辺りを突き刺し、そのまま左斜めに斬り裂いた。 そしてその魔神も今まで通り消える。

「魔神という名なのに、今回は魔法をあまり使わないのだな」

そう言うと、再び口々に分身体である魔神達が喋り始める。

「いいやぁ? 使ってるさ、今も」

「お前さぁ、まぁだ気づかないのかぁ?」

「なにか足りないだろう? なぁにぃかぁ」

「あひゃひゃひゃひゃ、ゲホッ……そのぉ足りねぇ頭でぇ考えろよぉ」

「ひぃんとぉ、別に離れて魔力ねってる彼女には手は出してませぇん」

「あの程度は、脅威にすらならんしねぇ、死ねぇしねぇ死ねぇ? 死ねぇ〜」

「そぉそぉ、なんの殺意も感じない殺る気も感じないぃ、そんな攻撃は目じゃない視界には入らなぁぁい」

「さぁさぁ、お待ちかねぇ、カウントダウンお始まりぃ」

「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃ、ゲホゲホッ……」

まるでおちょくるように、子どものように、馬鹿にするように喋る魔神達。 俺はいつでも攻撃に対処できるように構えていた。

ゴゴゴゴゴゴ……

「ん?」

頭上遥か高くから聞こえる音。

なにかが、来る………

「なぁお前ぇ。 最初に俺が乗っていた戦艦……どこに行ったんだろうなぁ?」

笑いながら魔神の言う言葉に、俺は頭上を見上げ戦慄した。

「まさかお前らさぁ、俺を倒すことに夢中で攻撃連発してた時ぃ、戦艦の存在忘れてたろぉ?」

また笑いながら別の魔神が言う。

「マジかよ、クソが」

魔法を凝らして良く見てみる。

とてつもないほど速い勢いで衝撃波を放ちながら落下してくるのは、一回り魔法により巨大化した戦艦。 そしてその戦艦の至る所に魔法陣が描かれ、展開されていた。 魔法陣でコーティングされた戦艦、様々な魔法がかかっていた。 その中には本体であろう魔神の姿もいる。

少し分析しただけでも、物凄い数の爆破魔法、速度魔法、重力魔法、反射魔法、増幅魔法など、伝説級の魔法が幾多にも何重にもかけられた、言わば世界一危険な巨大爆弾といったものが隕石レベルで落下しているということだ。 しかもそれら魔法陣は、今現在も描かれ展開されていっている。

核都市の空がどこまであるかは分からないが、あの戦艦の状態を見る限りだと……

まさか宇宙レベルとか言うんじゃねぇだろーなぁ!

「何千の魔法陣を抱えた戦艦だぁよ。 落ちたらここら一帯はどうなるかなぁ」

笑いながら言う魔神に俺は叫ぶ。

「ふざけているのか、お前! あれじゃあ、核都市自体どうなるか」

「はははっ、敵陣の心配たぁよっぽど余裕のようだぁなぁ」

「なればなるこそ、プレゼントタァイムとでもいこうかぁねぇぇぇぇ!!」

そうひとりの魔神が叫ぶと、分身体である魔神達の体が薄れ始める。

「魔神の分身体ぃ」

「舐めたらダメよぉ」

「あの恨みぃ」

「絶やすことを知らぬが故の」

「絶望を見せるぞぉぉ」

「「「分裂」」」

全ての魔神達が上空に手を掲げそう叫ぶと、遥か高くから聞こえる音が増した。

「魔法化」

その上空から声が響く。 直後周りにいた分身体である魔神達が消える。 俺は恐る恐る上を見上げた。

落下している爆弾化した戦艦が、数十隻に増えていた。

時が遅くなる感覚に襲われる。 だがそれは幻であり、それはすぐに解かれた。

大剣を握り直す。 ごくりと唾を飲み込む。

こんな状況、子どもの頃なら正義の味方を夢見たあの日々ならば、心躍る状況だろうな。

そんなことを思う。 思ってしまう。

何故なら。

これが終わりに思えてしまうから。

「今こそ再び、命をかける時……」

聖なる熱き光が、大剣を包み込む。 心臓を包み込む。

武器って言うのは、時々意思が宿るらしいんだ。 それは絶体絶命な時、どれだけ強い想いを胸に命をかけられるかっていう状況の時に、ごく稀な奇跡的現象らしくて。 いつの日か、誰かがそう教えてくれた。

『主、何を望むか』

「全身全霊全力で、最後の。 死守だ」

ネイチャンに託して、俺は俺のやるべき事を成すために、更に高みへと飛んだ。

読んでくれてありがとうございます。

「三度目の障害か……」

次回、それでも守ることを選んでしまった。

次も読んでくれると嬉しいです。

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