パートナー
今回は関係が発展?するかも。
楽しんでいただけたら幸いです!
博士の適当な見送りの後、俺は少女の後について行きながら、依頼場所へと向かっていた。 俺はどこに向かうかさえ、まだ教えられていないが。
「そう言えばさ、君のことはなんて呼べばいいのかな」
さすがに番号で呼ぶのは抵抗があった。 これでも相手は女の子だし、生きてるふうに見えるから機械扱いをあまりしたくはない。 まぁ内心機械っぽいとか思ってはいるんだが。
「博士と同様11546と呼んで構いませんよ。 それが嫌でしたら、どうぞご自由にお呼びください」
「んー……やっぱり固いなぁ」
名前についての話題をいきなり変えてく。 やはりこっちが先かな。 彼女はいきなりの話題変換に少し戸惑いの表情を浮かべた。
「固い、ですか?」
「なんていうかさ、もっと女の子っぽくと言うか、普通と言うか……」
「そのようなデータは持ち合わせていませんが……」
「自分の好きなように、自由に俺と接してみてよ」
「難しいですね。 少し擬似的自我内の人工意識で編み出してみます。 データ更新中……」
彼女は立ち止まって、目を閉じた。 幸い人通りの少ない道だったので、他の通行人の邪魔にはならなそうだ。 俺も呼び方でも考えるか……。
11546……どんな意図があってその番号が付けられたのか未だに分からない。 付けた人は何を考えそう名付けたのだろうか。 名付けた? 機械なら名前のデータを上書き保存みたいにできるんじゃないか? 11546と言う名前の記憶もデータに残ると思うし、よしやってみるか!
「って、名前がまだ思い浮かばねぇんだった……」
んー何かないかな。 11546、そういや心を教えるとか言ったっけ。 心、教える……おしえ、しえる……シエル!
「そうだ! シエルにしよう! 」
ピピッ
「更新完了……どうしたの? エルト」
「!!!」
ギャップ萌えというやつだろうか。 さっきまで機械じみていた少女が、普通の女の子のような話し方に変わった途端、ここまで胸にくるとは……。 いい!
「どうしたの?」
少し困惑の表情を浮かべながら、顔を覗き込んでくる彼女に俺は照れながら後ずさりをする。 すごいな。
「名前……えーと、呼び方を決めたよ。 俺は今日から君を『シエル』と呼ぶことにするよ。 良かったら、それで名乗ってくれると、俺的には嬉しいんだが」
「………」
シエルは、少し口を開けながら止まっていた。 まるで時が止まったかのように。 あれ!? まさかショック受けてる? やっぱりまずかったかなぁ。
「ご、ごめん。 気に食わないのなら、忘れてくれ」
「い、いえそういうわけではなくて。 ですね。 あのなんと申し言うか……嬉しい?ですかなとか、思ったりですね。 あははは……」
シエルはさっきまでの機械じみた口調と、更新後の口調がぐちゃぐちゃになりながら喋っていた。 彼女は照れているのだろうか。 視線を下に向け混乱しているかのように、焦っている。 俺にはそんなふうに見えた。 彼女が、人間に近づいたと、自然に思ってしまった。
「嫌じゃないならいいんだ。 改めてよろしくな、シエル」
■■■ ■■■
あぁ、なんということでしょう。 あぁ、この感覚は。 熱くて熱い、この熱はなんなのでしょうか? 口調を更新させたばかりだと言うのに、もうバグを起こらせて、しまっているようです。 彼にいただいた名前、別に嫌という訳じゃないのに、呼ばれるたびに、熱が籠る。 全然悲しくもないのに、これは。 あぁ。
擬似的精神内でも口調のバグが発生しているようで、なかなか私は思考を上手くコントロールできずにいた。
あの時と似ているね。 博士を思い出してしまう。 今ここにはいないのに、なんでですか。 名前、名前……私を呼ぶ、名称……名前、
「みんなと、同じ……」
ふと音声機能の信号にバグが少し発生したことが分かった。 私の内側のどこかで、番号じゃないことに、なんらかの思考が働いているようだ。 それが発声させたと考える。
「ん? なんか言った?」
後ろをついて来るエルトが聞いてくる。 良かった。 聞かれなかったみたいだ。 でもなんでだろう。 何故ここで、私は安堵しているのか。
「なんでもないよ、エルト」
今は何故だか、後ろを振り向けない。 だがそのことに、あまり疑問を感じない。 だが、その疑問を感じないことに疑問を抱いている。
「そうか。 でも何かあったら言えよ? まぁ俺じゃあなんの役にもたたないと思うが」
とんでもございません。 あなたは、君は私に名前を与えた時点で、君という存在が、かけがえのないものになろうとしているのですだからね。 また、私に精神内の口調のバグが起こり始める。
名前、か……。 単なる区別するための、種類分けをするための看板みたいな道具だと考えてきたが、こんなにも私をおかしくするものだったとは。 だけど、嫌ではない。 悲しくもない。 博士は、悲しみ以外にも、いろんなことがたくさんあると言っていたけれど、その内のひとつがコレなのかな。 少しずつ私の内側は安定していき、気づいた時には、いつも通りの状態に戻っていた。
「もう少しだよ。 エルト」
■■■ ■■■
俺は今、ちょっとした後悔を胸に抱いていた。 今更気づいたんだが、俺の名は『エルト』彼女に付けた名前は『シエル』、『エル』被りじゃねぇか!と今更ながら気づき、どうしたものかと悩んでいる。 博士とかに、ややこしいとか言われそうだなぁ。 どうしようか、変えることも今更できないし。 シエルもシエルと呼ばれたとき、なんだか嬉しそうに見えたし、本当どうしたものか……。 はぁ、今更なぁ、今更今更。 だんだん今更ゲシュタルト崩壊に陥りそうなので、思考をストップさせる。
「もうすぐだよ」
ちょうど俺の中で、思考をストップさせた直後にシエルに声をかけられて、俺は顔を上げる。 少し先の所には、大きな木々が立つ大森林が見えてくる。 なんか猛獣とか出てきそうな雰囲気で、まだ少しは距離はあるのに、時折、鳥の鳴き声などが聞こえてくる。
「そういや今からやるフリクエって、どんなことやるの?」
「今からやるのはね、ある子犬探しと……」
なんだ、迷子探しか。 しかも子犬ってことは、この森林は動物達からしてもあまり危険じゃないのかもしれないな。 子犬は迷い込むくらいだし。
「猛獣討伐だよ」
「ごめん、お腹痛くなってきちゃった」
と、森林とは正反対方向に向き変え、今まで辿ってきた道に進もうとする。
ガッ
だが、何故か全く進まない。 圧力を感じる肩を見ると、いつの間にかシエルが、がっしりと俺の肩を掴んでいた。 力強いねシエルさん。 さすがです。
「子犬探しと猛獣討伐が一緒の場所だからって博士が両方受けてくれたんだよ。 行くよ!エルト!」
一瞬間を置く。
「仕方ないか……猛獣ってどんなのだ?」
弱いのでありますように!弱いのでありますようにぃ! 俺はまだ、死にたくない。
心の中でそう祈ってるのがバレたのか、シエルはジト目で俺を見ている。
「表情などの分析から、エルトからは、逃げたいという気持ちがとても強く出ていることが分かったよ……」
「さぁ、猛獣は会ってからのお楽しみだ! いざ行こうじゃないかシエル!」
女の子の前で、無様な格好は見せられないと本能が俺を動かす。 だが震えはおさまらない。 やる気を見せれたと思い、チラッとシエルを見ると、今度は彼女が俺の震えている足元を見ていた。 くっ、早く出発した方が良さそうだな。 勇気を振り絞って、前進!
「だって怖いもん! さぁ、行こう!」
2人の俺が表舞台に同時に出た瞬間である。
「じゃあ、初めてだから私が猛獣討伐の方をやるよ。 エルトは子犬探しを頼んだよ」
「ありがたきお言葉。 了解です! 必ずやり遂げる!」
こうして俺の初仕事は、俺の不甲斐なさのせいで、ひとりでやることになった。 そういや子犬をこんな森林の中で探すのも結構危険そうだな。 シエルに、どんな子犬か教えてもらい、想像しながら俺達は森林の中へ入って行った。
読んでいただき、ありがとうございます!
次回はシエルと別れて子犬探し。
森の中、初仕事は上手く終えられるか……?
次も読んでいただけると嬉しいです!