おいてゆけ
今回は長いです。
楽しんでいただけると幸いです。
火の海によりできた炎があちこちで残り火となり燃えている戦場で、カインからのメッセージを受信したルーダ以外の仲間達は、兵士達と戦いながらも互いに目線を合わせ頷き合う。
覚悟を決めていた仲間達は、望まぬ結果を受け止める。
「あたいらは、ルーダが到着次第撤退する! いいな!」
ラッカーが他の仲間達に魔力通信で確認をとる。
「「「「了解!」」」」
すぐに一斉に返事が返ってくる。 戦況は今の所こちら側が押しているからか、声色からは余裕が伺えた。
「でも、ロッカスどうするね! さすがに置いてけないよ!」
ミーマの心配する声が聞こえる。
「すまない、心配かけたようじゃな。 わしは既にラッカー達と合流しておる」
「それなら良かったね! あ、あとバーオリーは?」
安心した声色で次の問いを言った直後、他の仲間達の空気が凍りつく。
ラッカー、ネイチャン、ロッカスは、11546とルーダがビーダだけを連れて帰って来た時点で、薄々気づいていた。 だがどうやら、ミーマは姉のビーダの事ばかり考えていたらしく、バーオリーのことを一時的に忘れてしまっていたらしい。 余裕ができたことで、気づかなかったことに今気づいたのだろう。
ラッカーは苦虫を噛み潰したような表情で、誤魔化そうとする。
「ミーマ、今は戦闘中だ。 だから戦いのことだけを今は」
「お亡くなりになられました」
「ちょっ、お前!」
きっぱりと真実を告げる11546に、ラッカーは慌てることしかできなかった。
「遅かれ早かれ知ることなのですから、変わることのない事実をいつ知っても大差ないことでしょう。 それなのに何故ラッカー様は、今は伝えるべきではないと言うのですか」
一時的に魔力通信を切ってラッカーが言った文句を繰り返し言い、説明する11546。
「そうだったのね……だから、姉上は……」
「ミーマ、今のは冗談だ! あたいが代わりに怒っといてやるから別に気にしなくても」
「大丈夫ね。 ラッカー。 それより今は、ルーダが来るまで」
プツン、とミーマの魔力通信が切れる。 その直後、
こいつらをストレス解消代わりに叩き潰すねぇぇぇぇ!!!!
と、怒号に駆られたミーマの叫び声が再び、少し離れた所から聞こえる。
「元気ですね。 ミーマ様は」
「あれは感情任せに暴れてるんだよ。 ったく良かったよ。 ミーマが落ち込まなくて」
敵を叩きのめしながら、悠長に話すラッカー。
「どうして落ち込むのですか?」
「………ミーマは、なによりも仲間を大切にするお人好しだからさ」
そう言ってラッカーはある日のミーマの言った言葉を思い出していた。
『この感情は、他人のために使うね。 仲間のために、私が使いたいんだよ。 共に喜び、共に怒り、共に哀しみ、共に楽しむ。 その仲間が、もし皆が死んでしまったら。 私も別な死に方をすると思うよ』
心無くした生きる死人になるね。 私ね、ラッカー。 これは姉上しか知らないことなんだけど、私は。
私は、孤独が一番怖いんだよーーーーーーーー
「ラッカー様?」
11546がラッカーの雰囲気が変わったことに気づき声を掛ける。
「ん、あぁ。 ごめんごめん、ちょっとだけ考え事してたぜ」
そう言ってラッカーは、次々と目の前に立ちはだかる敵を倒していった。
■■■
ルーダside……
「はぁ、はぁ……」
息を荒らげながら地上に戻って来ると、地下に行く時と同様仲間達は敵兵士達の波を食い止めるべく戦っていた。
「ごめぇぇん! 今戻ったよぉぉ!」
仲間達に聞こえるように叫ぶ。 同時に敵にも充分に聞こえてしまい、兵士達の一部がこちら側に攻めて来た。
「魔力通信使え! 馬鹿ルーダ!」
ラッカーが魔力通信で、ルーダに説教じみた声色で叫ぶ。
「わっ! ごめん!」
「撤退ね! ルーダ、地上に帰るよ!」
「今地上に出たばかりなんだけど」
「もっと上の地上にだよ!」
戦闘中とは思えない日常会話のようで、ルーダは帰ってきた実感が湧いて笑みがこぼれた。
傍にお前さんはいないんだけどな。
「ふあぁ……ん? あらあら、ルーダ帰ってきたのね。 じゃあ、そろそろ撤退しましょうか。 艦隊も動き出したようだし」
欠伸をして、ひとりだけ違う空気感で話すのはネイチャン。
「おい寝てんじゃねぇよ。 あたいらは今もな………艦隊だと?」
「来ます。 上空です」
11546の声に私達は真上を見る。
直後、上空に巨大な魔法陣が描かれ一隻、巨大な戦艦が現れる。
突如、
『いっちばん乗りぃぃぃ!! やっぱりさぁ、俺ぁ天才なのよ。 分かるぅ? なぁ、君達の塵同然の脳みそで理解できますかぁ? えぇ? やっぱり試験体型新艦でも俺ぁ使いこなせるって訳ぇ、いぇーい!』
『隊長、マイクついてます!』
『うぇ? あぁ本当だねぇ、俺ぁ気づかなかったよぉ! 俺の馬鹿! 発射しちゃいなさい!』
『え、は、はい!』
嵐のごとく戦艦から聞こえる会話はすぐに止み、砲口が私達のいる戦場に向けられる。
「全力で逃げるぞ!」
ラッカーが地を蹴った。
「うむ、了解じゃ」
ラッカーの言葉に返答し動き出すロッカス。
「それよりも一旦合流ね! 姉上のいる場所へ!」
合流を呼びかけるミーマ。
「まずは自分の身を守ることが先決かと」
冷静に対処する11546。
「いいや、合流した方がいいだろう」
私も動き出す。
「死にたくないよぉぉ助けてぇぇぇ」
喚くネイチャン。
「艦隊の到着だぁぁ」
「逃げろぉぉ巻き込まれるぞぉぉ」
「待て! 今の声、まさか艦隊長か……?」
「俺今日死ぬのか……」
相手の兵士達も慌てふためき、四方八方逃げまわる。
そんな混乱に陥った地上を知らずに、上空に浮かぶ一隻の戦艦は次々に砲弾を撃ちまくる。
次々と戦場に爆発と爆風があちこちで生まれ、クレーターができていく。 あまり深くないクレーターを見て、核都市の地の硬さが伺える。
『あひゃひゃひゃひゃ、ゲホゲホッ……』
『その笑い方いります?』
こっちでは、こんな酷い目にあってるのに上では軽くトーク中かよ。 飛行船隊の奴らもやられているのに、笑えるかよ普通。
そんなことを思いながら上空の戦艦を一瞥し、仲間達との合流を急ぐ。
「とりあえずネイチャンとビーダの所に集合だ!」
私は強めに魔力通信を使い仲間達に指示を出す。
「もう着いたね!」
「分かりました。 ルーダ様の指示ならそうします」
「到着したぞ」
「あぁ、分かったよ。 あたいも合流……したよ!」
私が着く頃には、他の仲間全員揃っていた。
「よし、揃ったね!」
「でも集まったら集まったで、確実に狙いやすい的にされるぞ」
ラッカーがそう指摘した直後、砲弾が数発も私達に向けて撃たれる。
「ほら来やがった」
そう得意気に言うラッカーの横を通り、私は撃たれた砲弾に手を翳し、
「重力操作」
砲弾を一度その場に止めて、正反対に向き変え戦艦に向け放つ。 直後、
『無重力、それと爆破』
先程うるさくしていた隊長であろう声が戦艦から告げる。
『だからマイク入ったままですって!』
『ありゃ? すまんすまん、忘れとった』
そんな会話の直後、放たれた砲弾は無重力になり私の重力操作から外れた。 そしてその場で爆発。 爆煙が空の一部を覆い隠す。 それからすぐに、
『突撃ぃ!』
気づいた時は、爆煙の中から戦艦の船首が目の前に飛び込んで来ていた。 戦艦ごと斜めに地に突き刺して私達を殺す気なのか。
「マジか……」
「馬鹿げておるのぉ」
ただただ驚愕と呆気にとられているラッカーとロッカス。 ビーダは開いた口が塞がらない状態で、11546は指示待ちの兵隊のような顔つきでそれを眺めていた。
ネイチャンはと言うと、座ったままビーダに膝枕をしていて、
「あらあら」
と、ビーダを撫でていた手を地に着かせ、私達の立ち位置が入るくらいの大きさの魔法陣を地に描いた。
「転移」
そんな一瞬の出来事の中、ネイチャンは全員を改造本部の出入口付近へと転移させる。 完璧な転移。 瞬きをした瞬間景色が変わったような、一瞬の出来事。 戦艦が突き刺さる瞬間よりも早い瞬間で成し遂げたというのか。
遠くでは爆煙が薄れていく中、戦艦が斜めに地に突き刺さっているような、なかなか見れない光景を目にしていた。
「はっ、いつの間に」
我に返ったラッカーが驚いている。 すぐに私の方を見るが、私は首を横に振る。 そしてネイチャンの方に視線をやると、ネイチャンは私に向かって、しーっと人差し指を立てていた。
その時、
『あっれぇれれっれぇぇ? おかしいなぁ。 誰もいないやぁ……………あぁ、なるほど! いやぁ素晴らしい、見事な転移だねぇ! ゾクゾクしちゃう!』
『あのぉ、マイク………いえ、もういいです』
と、声がしたと思ったら戦艦が再び浮かび上がる。 そしてこちらに向かってきた。
「やべぇな、全速力で逃げるぞ!」
「でもラッカー、姉上はまだ目を覚ましていないね!」
「そうよ、そうよぉ」
「ならばロッカス様におぶって貰えばよろしいのでは……」
「そうよ、そう……駄目でしょ! 私が動けない理由が無くなるじゃない!」
「そうですか。 なら別の案は……」
緊急事態だと言うのに呑気なものだ。 そんなことを思いながら、その会話を聞いていると、戦艦の進む音が聞こえてくる。
「悠長に考えている時間は無さそうだな。 他に何かないか11546」
「そうですね……即使用可で時間がかからず人数も充分に運べる魔法は……」
「えっ!? 魔法? 行く手段を考えているのに、何もわざわざ魔法に限定しなくたって……」
ネイチャンが焦りだす。 そんな姿を見てラッカーは「行きも帰りもよろしくねぇ」「嫌じゃぁぁ」と話しているが、何かあったのだろうか。
「魔法陣で行きましょう」
絶望により開いた口が塞がらない状態になるネイチャン。 正直私もそんな心境である。 緊急事態だからと言ってこれは酷い。
「私が展開するので、後は……そうですね、ルーダ様とネイチャン様でお願いします」
と言って、この場にいる私達全員が乗れるくらいの大きさの魔法陣を空中足元に描く。
「さぁ乗ってください。 早く出発した方がよろしいですよ」
そう11546は言い空に目線を向ける。 戦艦はもうすぐそこまで来ている。
「ふえぇ……」
ネイチャンはビーダをミーマに預け、魔法陣の端に乗る。 私もネイチャンの横に乗る。 そして全員が乗ったことを確認し、魔力を魔法陣に注ぎ込む。 すると魔法陣は飛んだ。
この魔法は、魔法陣飛行。 今となっては使える人はいても使う人などいない不良魔法。 魔法が開発された遥か遠い昔の時代の初期の魔法のひとつなのだから。 魔法陣を空中に描き、その円状の魔法陣の上に乗って飛んで移動するという、至ってシンプルな魔法なのだが、なにせ魔力消費量が尋常ではない。 魔力消費多量魔法ランキングトップ5に入るほどだろう。 しかもその魔力消費量は、乗せる物や重さでも変わる。 ただでさえ術者が乗りながらでもきつい魔法を数人乗せて使用するのだから、魔力が尽きて意識を失うのも時間の問題である。 更に、そこに逃げるための速度もつけるのだ。 普通の人ならば生き地獄確定である。 今回は平行移動をしないで移動するのだから重力を魔法陣に発生させるために魔力を更に使用している。 魔力の方に集中しすぎると、ただ乗っている人の声が聞こえなくなるというバグも起こるから厄介だ。
いくら魔力があるからって、これはやばい。
「あああああああああああああああああああああああああ」
隣では悲鳴をあげながら魔力供給をしているネイチャン。
辛いだろうなぁ。 だが、私なんて魔力供給プラス魔法陣の操作もしなきゃならないから、悲鳴なんてあげる余裕もない。 操作もなかなか難しい。 この天才な私でもだ。
そんなことを考えながら、建物を次々に避けて速度を少しづつ上げ、戦艦に捕まらないよう逃げている。 その戦艦はと言うと、私達よりも更に高く上空で、まさかの戦艦ごとひっくり返しデッキを真下に向け、砲弾を乱射中。 建物とその砲弾を避けながら進んでいる。 背後では建物などが破壊されている箇所もある。 好き勝手しすぎていると思う。
『あひゃひゃひゃひゃ……ゲホゴホッ……何故当たらないんだぁ畜生!!』
『この戦法使うたび本当に、重力を操作する魔法あって良かったなとしみじみ思いますよ……』
そんな会話が頭上から聞こえてくる。 直後、目の前の大きなビルが砲弾によって壊されこちら側に倒れてくる。
「くっ! ネイチャン、魔力供給上げるぞ! 重力を強める!」
「嫌じゃぁぁぁ!! 畜生ぉぉぉ!!」
弱音を吐きながら、ヤケクソになるネイチャン。
前方斜め上からビルが倒れてくる。 瓦礫やビル内にあった物であろう机や書類、様々な家具が落下して来る。 その中には、当然ビル内にいた人達の姿もあって。
「ルーダ! 人が、人が落ちてきてますよぉ!」
「分かってる!」
だが、こちらも助ける余裕もない。 この魔法陣から魔法を使えば魔力供給をしている私達の負担になるため、後ろのラッカー達も魔法を使うことは難しい。
私にできないことはないが、先の戦いにより消耗しすぎたせいか、上手いようにはいかない。
「くそ!」
魔法陣を横に回し、螺旋して進んでいく。 そして軌道を調整しながら落ちてくる瓦礫や家具、人を避けて進んでいく。 だが、その軌道も読んでいたのか、落下物などの落ちてくるタイミングを見計らい、戦艦の砲弾が一直線上に撃ち込まれる。 それを魔法陣を限界まで捻り、ギリギリで躱す。 一発でもくらえばこの魔法陣は軽く吹き飛ぶし、ビーダも危ない。
「おいおい、こんな状況下で、当てようとするのかよ」
どんだけ頭がキレる奴があの戦艦にいるんだ。 驚愕の一言だ。 技術が果てしなく高い。
そして、またあの声が響く。
『おぉ! すげぇなぁ! よく躱したなぁおいおいおい! でもでもでも、そろそろ、この追いかけっこもお終いですよぉ? そっちにゃあ、他の出遅れ達が待ち構えてるんだからさぁ!』
『出遅れたと言いますか、貴方が勝手な行動しただけですけどね』
『はぁ? 待ち構えるとかめっちゃ、めっちゃつまんなくなぁい? やだよ、退屈なだけでしょーが! それよりも、先手必勝! 突撃して叩く方が絶対楽しいってよぉ!』
『はいはい、そうですねー』
緊張感の無い会話が上空で響き渡る。
だが、そうだな。 そろそろおいとましますか。
目の前には、最新の移動機械が設置されている駅のような場所だ。 あそこから行けば、地上に出られる。 ゴールまであと少しだ。 だが、
「ひえぇ……なんなんですか、あれは」
十隻以上は確実にいる戦艦の壁。 全部ではないが、艦隊だ。 となると、飛行船隊の言ってたことが正しいのなら、背後のうるさい声の主は、艦隊長か。 艦隊長、情報は先代までのしか知らないから、情報は皆無だ。
「あそこを抜ければ終わりだってのに……」
「でもルーダ、行きの時は古い方の移動機械で私達は来たんですよぉ」
「なにっ!? では、更に東の方へ行かなくては」
「でも、そうしたら一緒に艦隊さん方まで連れて行くことになりますしぃ、そしたら古いですし壊れかけですから、あそこの移動機械すぐに壊されちゃいますよう?」
「なりゃどうすれば……」
私が頭を抱えていると、ネイチャンはにっこり笑った。
「だからここは、年寄り達に任せなさぁい」
「は?」
「あぁルーダも歳だけ見れば、今は私よりも年寄りだったわねぇ」
なにを言っているんだ。 そんな台詞が思い浮かんだ時、
突然、ネイチャンは魔法陣から両手を離して、
「あ、おいっ……」
私の頬を、その両手で包み込み、顔を近付ける。
まるで、世界の時間が速さを忘れたみたいだ。
「無理をしないで、いい子になりなさい。 あなたは、立派な人よ」
あれ。 この台詞どこかで……
温もりから我に返った時には、魔法陣から身を投げる瞬間のネイチャンがいて、
「忘れてもいいじゃない。 思い出してもいいじゃない。 大事なのは、そこから何を得るかよ。 ルイダ」
ばいばい。
手を振るネイチャン。 同時に、記憶のどこかから聞こえた別れの言葉が、重なった。
世界が元の速度を取り戻す。
そしていつの間にか、ネイチャンがいた場所にロッカスが立っていた。
「まぁ、そういうことじゃ。 若い命は、老いた命を踏み台にして行け」
私に微笑むロッカス。 そして魔法陣から飛び降りた。
後ろでは、全員が呆然としていることしかできなかった。
そして最後に聞こえた言葉は。
「「転移」」
いつの間にか魔法陣は消えていて、古い移動機械の目の前に、私と11546、ラッカーとミーマ、それと眠っているビーダがいた。
そこで思い出す。 ネイチャンが、誰だったかを。
記憶が優しく教えてくれる。 記憶がまた語るのだ。
あぁ、そうだった。 そうだったね。 私達は……
何度目だろうか。 記憶に。
過去に泣かされるのはーーーーーーーー
■■■
ネイチャン&ロッカスside……
「友だちのためだもの、仕方ないわ」
その女。
まるで天使のように、頭上に一定の大きさの魔法陣描き。
その魔法陣の中に、更に歯車のように魔法陣をいくつか大小分けて描く。
更に自分の足の裏にも魔法陣を描き。
背中にも、彼女の身長と同じくらいの大きさの魔法陣を描き。
片目の瞳には、魔法陣と未だ誰も知らぬ紋章を宿した。
そして、敵に手を翳した。
「恩人への恩返しのため、仕方がないんじゃ」
その男。
空に手を翳して。
その手に魔力が収束し、手のひらの空間が歪み。
その手を自分の心臓に近付けて、右真横に一閃。
いつの間にか、その手には。
いつかの、伝説の大剣が握られていた。
そして、剣を敵へと向ける。
二人は生まれた時代こそ違えど、誰かのためにと今この戦場に立つ者である。
そして、未来のため死することを臆せず、彼女の彼の背中を見送る者である。
それ故に、戦う者である。
「死にたいと言ったら嘘になるわねぇ」
「誰も死にたいと最初から思う者は、いるはずもないじゃろうて」
並ぶ二人、最後の平和に話せる一時。
「欲を言うと、あの子の最期まで見届けたかったわぁ」
「わしも、最期の最後まで家族の傍に居たかったわい」
震えるのをやめた二人は。
「でも、これ以上寿命を長くするのも難しいだろうしぃ」
「エルフの血でも、永遠が無いのは当たり前らしいのぉ」
逃げ切ることばかり追い求めていた一人は。
「最期くらい好きに暴れなきゃ損ってもんよぉ」
「好きに、というよりかは自分らしく、じゃな」
強さばかりを追い求めていた一人は。
「楽しかったわねぇ」
「あぁ、楽しい時間じゃった」
過去の誤ちを、やはり、忘れきることは。
「あの瞬間を、忘れてしまいそうになるほどに」
「あの瞬間が、忘却の彼方手前までゆくほどに」
できなかったーーーーーーーーーーーーー
「さぁて」
「それでは」
自らを裁くことが出来ぬが故の、罪滅ぼしの時間だ。
これしか償いを知らぬのならば。
ただ、ひたすらに、自分らしく、
いこう。
読んでくれてありがとうございます。
次回、共闘。
次も読んでくれたら嬉しいです。
次回の投稿は来週末予定です。




