帰りたい場所
今回は少し長めです。
楽しんでいただけると幸いです。
ルーダside……
「はぁ、はぁ……」
走っている。 止まぬ火柱の熱さと光に頬が照らされ熱を帯びながらも、汗など構わず階段を降りていく。 呼吸は更に辛くなってくる。 それでも歩みを止めないのは、大切な人を救い出すため。 たとえ彼と同じじゃなくても。
走り続けている時、ついに火柱の源が見えてくる。
「あそこか!」
やっと見つけた火柱が溢れている部屋の周りは、火の海と化していた。 その部屋に続く道はほぼ燃えている。 煙を出し、今にも床や天井が崩れてもおかしくないほどに酷い状況だった。
でも、そこにカインがいるのならば!
一瞬立ち止まった足を動かす。 床を蹴り火を超え煙の中を進んでいく。 火柱を回り込むように走る。 奥へ奥へと進むにつれ、燃え盛る火は更に高さを増していく。 横に飛び壁を走る。 見えてくるのは部屋への入口。 炎と炎の間へ飛び込む。
たとえお前さんがいなくとも、そこにいる気がした。
「うおおおおおああああ!」
飛び込むと、すぐ目の前に床が現れる。 咄嗟に体を丸めて着地。 体を何回か転がして起き上がる。
「カイン!」
すぐに辺りを見回す。 だがそこには誰の影もない。 もちろん、彼の姿も。 あるのは壁一面の巨大な画面。
そこで異変に気づく。 火柱が一切起こっていない。 それどころか、自分が今飛び込んで来た出入口を見ると、外も何も起きていないように見える。 炎がどこにもない。 でも確かにこの部屋から炎は溢れていた。 火柱もこの部屋からだろう。
「はぁ、はぁ……カインは、どこだ?」
ここじゃないとしたら、別の部屋を探してみるしかないか。
そう思い外に出ようとした瞬間、
『待って』
声がした。 誰もいないはずの部屋から、私を引き止める声。 その声はとても幼くて、歳からすると、あの子と同じくらい。 そんな、男の子の声。
声がした方向へ振り返ると、そこには見知らぬの子どもがいた。 輪郭が光よりも眩しい白い光に包まれている謎の男の子。
「え? 誰……」
いきなりの登場に呆けてしまう私。 それに対して男の子も首を傾げ「お姉さんこそ誰ですか?」と聞いてくる。 このような状況だというのに2人して悩んでしまった。
「今忙しいけど、外出るぞ少年」
そう言うと、男の子は首を左右に振った。 そして巨大な画面を指して、
「あそこにいるよ」
「えっ?」
振り返り画面を見る。 けれどカインの姿は無い。
「あの中に閉じ込められてる」
「は、何を言って」
と、男の子の方を見るといなくなっていた。 見回してもどこにもいない。 誰もいない。
今のはいったい……
半信半疑で私は画面に近づく。 画面に映るのは反射した私の姿だけで。 カインの姿など、やはりどこにもない。 走り続けた疲れが来たのか、軽く膝が折れ始める。
「どこにいんだよ、カイン」
疲れてしまったのか、画面にもたれかかる。
疲れてしまったのだろうか、体に力が入りづらい。
疲れてしまったんだ、溜め息を吐く。
疲れたのか、まだ探す部屋が山ほどあるのに。
疲れているんだろう、ここにカインがいる気がしてならない。
疲れた、口から今まで抱えてきた重力よりも重い気がするほどの、たくさんの想いが零れ始める。
もう会えない。 そんな考えから逃げるように独り言しながら体を休める。
こんなことをしている暇などないと分かっていながらも……
■■■
カインside……
足音、足音。
近づいてくる。
そして姿を現したのは、やっぱりルーダだ。
溜め息が出てしまう。 今の自分を見られたくない。 見えないと分かっていても、ルーダの前にいることが嫌で仕方なかった。 そんな意志とは裏腹に、ダメージを負った体はなかなか言うことを聞いてくれない。
炎に包まれた俺は、ただただ辺りを見回し俺を探すルーダの姿を眺めているしかできなかった。 そんな時だ。
「……っ!?」
息を飲む。 いつの間にかそこに居た男の子。 少年。 そいつはルーダに話しかけて、画面の方、俺のいる位置を指さしていた。
あの子は、あいつは……
「なんっ……でっ……?」
ただただ困惑する。 何故あれがいるのか分からない。 理解が追いつかない。
あいつは、過去の俺だ。 断言できる。 自分の過去の姿くらい覚えてる。 記憶が覚えている。 だけど、何故そこにいるのかが分からない。
困惑して頭を悩ませていると、ルーダがこちら側に近づいてくる。 ルーダが影になり過去の自分が見えなくなると、いつの間にか消えていた。
「っ」
困惑していた思考が、ルーダが近づいて来たことで吹き飛び、反射的に後ずさりをしてしまう。 画面ギリギリまで近づいてくるルーダ。 見えていないことは理解していても逃げようとしてしまう自分に嫌気がさす。
そしてルーダは片手を画面に触れ口を開く。
『そこに、いるのか?』
久しぶりに聞こえた声。
耳に届いた声。
一声だけで、再会を喜んでしまう自分がいる。
後ずさってしまった俺は。 だが、それ以上に。
遠い。
ルーダの声が聞こえて、瞬時に思ってしまう。 現に、もう俺とルーダの間はこんなにも遠いのだと、今更気づく。 喜びと悲しみが混ざり合う。
いるよ。
そんな一言さえ、言い出すのがもどかしいのに。 それは声に出せずにいる。
敗北がここまで俺に影響を与えるのか。
なんて弱いんだろう。
その後、ルーダは膝を折り、反対に向き画面に背中を預け座った。
『そこに、いるんだろう? カイン』
疲れきった声色に、全身が微かに震え始める。
こんな俺のために頑張ったのか、と。
縋るように、近づいた。 背を向けるルーダの後ろに座る。 ルーダの背を見て、俺は謎の罪悪感に襲われる。
『なぁ、もう私は。 お前さんに会えないのか?』
胸が締め付けられる。 言葉が槍となり心に突き刺さるようだ。
二度と、悲しませたくなかった、のに。
『カイン、私は救われたんだ。 お前さんにさ。 お前さんがあの名前で呼んでくれたのがきっかけで、見て見ぬふりを続けてきた過去に向き合えられた。 忘れちゃいけなかったって、気づいた』
語るルーダの言葉が、俺を苦しめる。
そんなことを言われてしまったら、俺はーーーーーーーー
「俺は、そんなに褒められることをした訳じゃない。 全然ダメな人間さ」
零れた言葉は、俺の本心を呼び起こそうとする。 きっともうひとりの自分が傍にいたら、殴ってくるだろうな。
『カイン、お別れなんて嫌だぞ』
「……そうだね」
『お前さんがどう思おうと、私は救われたんだから』
「……救えた、のかな……?」
自信が欠けてく。 重さが増す心。
『また会いたいよ』
「……」
俯く。
『お礼をさせろよ』
「……」
『ねぇ、カイン』
「………俺は」
まるで、まるで……
『お互い頑張ろうよ』
その声は、力強く。
『だって、なぁ』
頼り甲斐があって。
『私は』
そんなルーダを俺は。
『お前さんを、幸せにしてやりたいからな!』
その雰囲気、自信、やる気。
状況こそ違うけれど、あの前向きな姿は。
あの日の俺だ。
「ははは……それは、こっちの台詞だよ」
『死ぬんじゃねぇぞ』
「これじゃ死にたくても死ねないな」
『また笑い合うぞ』
「なかなか聞けない台詞だな」
『次は私が救うから』
あぁ、やっぱりどこまでも強くて、それでも弱くて。
「かっこいいな、ルーダは」
まるで物語の主人公。 それに比べて俺は、ヒロイン止まりの立役者。
『カイン、私を知ってくれてありがとう』
そう言ってルーダは立ち上がる。
「見方によっては、ただのストーカーだね」
そう言って俺も立ち上がる。 向きを変え、背中を向き合わせる。
『……あの子に、最後に会わせてくれてありがとう』
「あらら、バレてたか」
頭を軽く搔く。 重かった心が軽くなっていくのを感じる。
『また、絶対に。 会おうね』
「あぁ」
足音が聞こえる。 その音は遠ざかる。 遠い距離が更に遠くなる。 力強く歩く足音を聞きながら、俺の体を包んでいた炎が薄れていくのを感じた。
いつの間にか、目の前には輪郭だけを形取った薄い光がいた。 大きさからして少年だろうか。
『別れの挨拶に来たよ』
その声は、あの時の機械の声。
『頑張んなきゃだな』
「そうだね、ちょうど今喝を入れてもらったところさ」
にしし、と笑う彼。
『次も失敗?』
「いいや違う。 大失敗からの超成功劇だ」
とても懐かしい。 戻ってきたみたいで。
『さっすが、やっぱり変わらないな』
「ふん、先生を誰だと思ってんだよ」
すんませーん、と両手合わせ軽く頭を下げる彼の姿が、だんだん薄れていく。
「もう時間か」
『そうみてぇだな、んじゃまた頑張れよ! じゃあな先生! 』
ちゃんとやることやりきってから来いよ! それまで待ってっからよ!
蒸発するように消えた彼は、声だけこの場に響かせいってしまった。
俺は目頭をつまむ。 まだだ、まだなんだな。
まだ頑張る理由がある。 また頑張る理由ができた。
「先生、もう一度頑張っちゃうぞぉぉ!!」
何度目かの台詞を声高らかに叫び、自分を奮い立たせた。
ルーダ、ありがとな。
もう救われたよ、なんて言っても。 やる気に満ちているルーダのことだから止まらないだろう。
なら、俺もここで足踏みしている暇なんてないってことだ。
《後は任せたよ。 俺は俺のやるべき事をする。》
全知を使い、ルーダ以外の仲間達全員に送信する。
「さぁ、行くか」
愛する人にここまで言われて、立ち上がれないほど俺は男を捨てちゃいない。
俺は、未来での再会のため、電子世界の奥へと歩き始めたーーーーーーーー
別れを別れで終わらせないために。
読んでくれてありがとうございます。
カインは、歩きだしたーーーー
次回は、ついにルーダ達は核都市脱出に向けて動き出す……
次も読んでくれると嬉しです。




