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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
44/197

おやすみなさい、いってきます

今回はとても長いです。

楽しんでいただけたら幸いです。

「…………」

私は相手の腹から剣を抜いた。

『がぁあ!』

相手が腹を抱え後ずさる。

そんな相手の顎辺りを蹴り飛ばす。 後方へと吹き飛ぶ。 相手が宙を舞っている間に、上へ手を翳し、

「収束」

途端に槍は円状に私を囲み、一気に手を翳している上へ集まり始めた。 ある程度近くになったら火に変わりその火達が収束し、そのうち巨大な火槍ができあがる。

「大火槍」

『っ!?』

そう言い槍を相手に放つ。 そして相手に当たる瞬間、

「爆炎と化せ」

炎の大爆発が相手を飲み込んだ。 さらに吹き飛ばされた相手は、上手く着地し一瞬ふらつきながらも体制を低くして、地を蹴り突進してくる。

『人の話も聞けねぇのかクソ野郎ぉぉぉ!!!』

相手は至近距離まで来た瞬間、素早く横に軽く飛び、私の真横から軽く跳躍して私の左頬に膝蹴りをくらわす。 すかさず両手で相手の膝蹴りした足を掴み、瞬間移動で真上の空中へ。 振り上げて、勢いよく相手を真下にぶん投げる。 背中から着地した相手。 そこに踵落としをするが、すぐに相手は立ち上がり後方に跳躍。 踵落としにより軽くクレーター、穴が空き、地が壊れ一瞬だけ地の破片が飛ぶ。 その中で大きい破片を掴み、空中の相手に投げつける。 と同時に瞬間移動をする。 相手が飛んできた破片を壊した直後、背後に移動し背中を思いっきり殴り飛ばす。 相手はそのまま地に勢いよく転がる。 その後、腹に刺さったままの剣2本を抜き取り、血を吐き出しながら、その剣を魔力へと戻し吸収する。

「はぁ、はぁ……やっぱりな……」

それしかないから。 大切にする。 それはいつしか、本物になっていく。 時間の積み重ねとは厄介なものだな。

お前さんの言葉、やっと理解できたよ。

「お前さんを助けてやるよ」

『助けるだと!? ここまでしておいて、助けるなんて戯言。 今更貴様の口が言うかぁ!』

血を吐き、地を蹴り、生まれた運命に屈せずに。 守り続けたんだよな。 失くしたくなかったんだよな。 なら、優先するしかない。 お前さんを壊してでも、お前さんの守りたかったものを守る。 それが助けになるのかは分からないけれど……

『なにをごちゃごちゃと! 言ってんだぁぁぁ!!』

真正面、純粋な拳。 真っ直ぐな拳。

あぁ。

そんなことを思ってしまうよ。

ズバッ……!

『ぐっ!!』

瞬時に魔力で剣を作り、相手の右腕を斬り落とす。 だが相手はすぐさま魔力を集中させ魔力の義腕や義手を作りだす。 そして私の剣を握り折り、殴りかかる。 それを左腕でガード。 だが、それを先読みしていたかのように相手は肩を上手く回転させ軌道を変え私の腹へめり込むパンチをいれてきた。

「ぶはっ」

血を吐く。 後ずさる。 だがすぐに距離を詰めようとする相手。

『何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ何故だ…………』

迫る拳。

やばい。 もう防ぐ余力が。 槍の影響がここまで……

トン……

『なんで……殺しちゃったんだよぉぉ…………』

弱々しい拳。 そしてなにより思いがけない言葉に拍子抜けしてしまう。

『大切だったんじゃねぇのかよぉぉ……』

泣いていた。

過去の私が、私の目の前で泣いていた。

それは一部の記憶が大部分であるが故に、感じてしまう悲しみ。 今更なにも変えられない。 嘆くことしかできない。 葛藤がもうひとりの私を襲ったのだろう。

なら、今私ができることは……

「帰ろう」

コツン………

私は額を相手の額につけた。

「共有」

相手から、最後のピースを入れるように記憶が流れ込んでくる。 相手も同じ記憶を受け取っているのを感じる。

だが、このままだと。 いや、解放しなきゃ……

ブワッ……

「え……?」

途端に、不意に涙が溢れ出す。

何故忘れていたのか。 今になって、相手の言葉の全てが胸に突き刺さる。 同時に、相手の激しい感情の跡も感じた。

本来は記憶だけが戻ってくるはずなのに、その記憶に対して長く激しい感情を抱えてきたことにより、相手自身の想いなども芽生え新たな記憶となり流れ込んでくる。

まるで本当に自分が2人存在するかのような感覚。

そんな状況の中、相手は、

『あぁ、あぁ、あああぁぁぁぁああああ!!!!』

頭を抱え叫びだし、相手は私から距離をとった。

精神世界の中、相手の声が谺響する。

そうだったのか。 やっぱり我なのか。 だからか。 仕方がなかったのか。 手遅れだったのか。 別な道があったはずだ。 あの時こうすれば! あの時、そうだ。 あの時に……! どうしてだ。 どうしてなのだ! どうしてそんな、そのような選択を! 何故何故何故何故ぇ! どうして気づかなかった! 何故忘れていた! 思い出していれば! 忘れていなければ!こんな結末には!

そのような相手の騒がしい内心が響き渡り、静まりかえって。

『もう……会えないのか……?』

悲しみ。 絶望。

それらが包み込んだ声が。

涙と共にこぼれた。

その記憶しか知らなかった彼女が。

その記憶しか知らない故に叫んでいた彼女が。

真実を知り、その激しい感情の色を。

さらに濃く深くしたーーーーーーー

『本物よ』

俯き唸るように。

『我を』

涙を血の色に染まらせ。

『殺せるか』

殺してくれと嘆願した。

響き渡る相手の想い。

間違いがあって、直せないと気づいたから。

もう、それしか道がないから。

そうだ、あの時と同じだ。

あの記憶だけを糧に生まれ落ちた時と。

それしかないから。 それしかないのならば。 全力で。

ただいまと言わせてくれよーーーーーー

『うおおおおおおおぉぉぉぉぁぁぁぁぁぁああああああ!!!!』

それは、一言で言えば。 暴走。

ばんっ! と地を叩き、相手の周りから数本の触手のようなものが地から生える。 重力操作を巧みに使った結果だろう。 その触手のような地から生えたものは、勢いよく私へと突っ込んでくる。

「なら、おかえりって。 私は言おう」

地を蹴る、なんて言葉では表現できないほどの速さで走り出す。 一瞬で触手を避け、相手の目の前まで迫る。

『あぁぁ!!』

素早く手元の空気を圧縮し魔力も混ぜこみ、相手の腹へ右手を叩き込む。

「空波」

『がぁぁ!』

圧縮させた空気と魔力の爆破に方向を加え、狙った腹に体を貫通するように攻撃する。 そのまま相手は後方へ吹き飛ぶ。 が、すぐに体制を立て直す。 そしてすかさず私に向け手を翳し、

『千の氷槍』

唱えた直後、私を囲むように氷でできた槍がいくつも出来上がっていく。

「なっ!?」

分身と言えどそこまで使えるわけがない。 と、なると、

「限界突破か」

だが暴走化での限界突破は自壊が付き物だ。 全力だな。 さすがは私の分身だ。

「千の」

『強制停止』

「っ!」

魔力が止められた。 まさかここまで使えるとは……

『刺し殺せ!』

四方八方から氷の槍が向かってくる。

頭を働かせろ。 魔力が使えなくても私はまだやれる。

まず始めに同時に氷の槍が三本。 真横の右からと左肩から斜め上、胸へ真正面から。 右からの槍を右手で掴み、槍を回して左斜め上から槍を破壊、しようとしたが槍と槍が触れた瞬間に自動相殺。 正面から槍は先端部分を蹴り上げ軌道を大幅にずらし、他の槍と相殺させる。

「相殺か」

最初の槍の位置からの発射は、軌道からして相殺しないよう位置づけられている。 軌道をこちら側が弾き変化させても、軌道修正は行なわれないらしい。 ならば、体術で軌道をずらし続けて自分の体に当たらないようにすればいい。 だが、

「ふんっ」

その場で高くジャンプする。 すると、まだ発射していない槍が向きを修正した。

どうやら発射方向の修正は可能らしい。 きっと他の槍と被らないように、軌道も様々だろう。 だが結局はゴールが私だと分かっているからタイミング勝負か。

そんな思考を巡らせている間にも槍は次々と発射される。 相手はなにかの技を発動するために魔力に集中している。

「っ」

右手で槍を掴み、盾代わりとして使う。 そして相殺。 そしてまた次の槍を掴み相殺させる。 だが、そのような作業を繰り返していると発射される速度がどんどん増してきた。 この技の特有か。左手で掴み取り、ペン回しのように回しながら背後に腕を回し相殺。 右手で掴み、右からの槍を相殺。 左手と左肘で2本掴み、横から来た槍を2本相殺させるが、一本逃し口で噛み取り、右手で別の槍も取り背後から来る槍を半回転し右腕を振り相殺。 回転の勢いで口の槍も飛ばし相殺。

「っ! 軌道が複雑になってきたか」

いきなり大きい軌道を飛び、不意をつくように向かって来た槍をギリギリ後ろに縦に一回転してジャンプして避ける。 さらに大回りの軌道で向かって来る槍が視界の端に見える。 数は三本。 高さからして狙いは腹辺りか。 いくつかの槍を先程と同様相殺させた後、一本の槍を掴み取り、大回りして来た槍が三本腹に向かって同時に来るのが後数メートルの時に、タイミングを見計らい、両足で高くジャンプ。 地に背中を見せ空中で一瞬仰向けになる。 そして素早く自分が立っていた地に、縦に掴み取った槍を突き刺す。 同時に大回りの軌道で来た槍三本が同時にその突き刺した槍に当たり、計4本の槍が相殺される。 だが空中で手ぶらになった私を他の槍が狙いに向かってくる。 空中で瞬間的に回転して、槍の穂先に横から回し蹴りをする。 軌道をほぼ直角に変えることができたが、一瞬見た感じ槍は一切傷がついていなかった。 その後空中に着地するまでに、体を捻ったりなどして槍を避ける。

「槍は硬ぇし、キリがねぇな」

それにしても、あいつはいったいなにをしようと……

と一瞬相手の方を見た。

「っ!」

相手は私に手を翳していた。 もう片方の手は上に翳していた。

『大氷月』

唱えた直後、瞬間的に私の頭上高くに氷が現れ、やがてそれは

「どこまで限界突破する気だよ」

巨大な氷の月が作られた。

『落星』

ゴゴゴゴゴゴ……

頭上高くの氷の月が落下してくる。 そんな状況下でも槍は構わず私に向かってくる。

「くっ!」

地を蹴り、槍の包囲網を抜け出る。 相手の元へ走るが、槍も構わず方向修正して発射してくる。

ドドドドドドッ……

少しでも走る速さを緩めたりでもしたら足に突き刺さってしまう。

現に一歩遅れで、走った跡に正確に槍が突き刺さっている。

『どうした!? 逃げるだけか! そんなんじゃなにも守れねぇぞぉ!』

言いたい放題言ってくれるな。 こんな状況じゃ……

『大氷月! 大氷月! 大氷月! 大氷月!』

「んなっ!?」

『落星!!』

いくつもの氷の月が降ってくる。 それは全て私に向かって……

「あ」

ズドンズドンズドンズドン………

氷の月が全て地に着く。 その下敷きになる私。 外からは残りの槍が地に着いた氷の月に突き刺さる音がする。 そしてその音が止んだ瞬間に

ズゴォォン……

『は?』

全ての月を吹き飛ばした。

「本物との差を教えてあげるよ」

『っ!!』

相手からしたら遠くにいた奴が瞬きをした瞬間に目の前にいる気分になるのかな。

相手が驚いている隙に背後をとる。

「解除」

そう言いながら相手の背に触れる。 強制停止は相手の魔力を止めることができるが、そのかわり術者の体のどこかに解除紋ができて、それを敵に触れられたら魔力の停止がすぐに切れる。

「空波」

相手の背に手を当てたまま空気と魔力を一瞬で圧縮して発動。 そのまま発動した方向に吹き飛ぶ。 地に転ぶ相手の元に数秒で行き、転がる相手を止める。 そしてその場で軽く地を踏む。 直後、相手が転がる地がある程度の大きさで四角形、四角柱が地から生える。 そのいきなり生えた勢いで空中に投げ飛ばされる相手。 落ちる前に私は指を鳴らし音に魔力を込め目の前の四角柱をいくつかの欠片に壊し、魔力で空中を舞わせ、人差し指をクイッと上にあげる。 すると四角柱の欠片が勢いよく空中を舞う相手を襲う。 更に高く宙を舞う相手。

『ぐはっ!』

血を吐く相手の真上に瞬間移動し、拳を固める。 拳を始め右腕が薄赤く染まる。 それは全てとても小さい魔法陣。 構えて腕に力を軽く入れて、

「歯を食いしばれ。 後は私が背負うから」

『じゃあ、』

ドォォォン………

腕に力が入る。 相手の腹に渾身の拳が入る。

帰って来なよ。 もうひとりの私よーーーーーーーー

地に叩きつけられ巨大な深いクレーターが相手を中心にできる。 視界に写る地は、視界の端までヒビが入っている。 そしてすぐに相手の元へ着地。

彼女の頭を持ち上げ自分の膝に乗せる。

『そんな……顔し、て。 殴る、んじゃ……ねぇ、よ………』

そこで私は涙を零していることに気づいた。

何故泣いているのか分からなかった。

相手は自分の分身なのに。

『この、精神世界じゃあ……貴様は、それになれるのか……』

羨ましいなぁ。

彼女の本心が精神世界に響く。

貴様はやっとその出会いを掴み取れたのか。

過去の我々が望んだ解放を。

拭いきれない過去の暴虐。 記憶。 執念。 悲しみ。 怒り。

長すぎる年月を経て生まれてしまった罪の産物。

そして完全に溶け始める彼女の体。 記憶が完全になっていくのが感じる。

その時、

ピコン……

精神世界の中だというのに、外とは時間の流れも違うというのに。

ひとつの画面が現れる。 そしてそこに写る景色は、外の世界のもの。

私と彼女が困惑している時に、

声がした。

その声は、

とても懐かしく

とても聞き覚えがあり、

いつも隣で聞いていた声

声だ

誰の声?

でも、なんだか

懐かしい

泣きたくなるほど

幸せな情景が頭の中に鮮明に自然に

思い浮かぶ

謎の現象

でも当たり前の現象

思い出が

思い出しそうで

思い出せない

『ハハッ……こりゃ、ぁ……泣き、たく……なるぁ……』

分からない

思い出せない

『本物さんは、覚えて……ねぇのかい? 誰誰誰誰の、ことを」

よく聞き取れない部分があった

その時、



あぁ

やっと

やっ……と

やっと報われたのか

やっと生まれたのか

やっと救われたのか

やっと終わったんだな

そうか

そうかそうか……

ならば今日は

お前の誕生日だ

お誕生日おめでとう

ルイダ

ついに遂げたんだな

どのくらいかかったんだ

きっと私の想像を絶する時間だったのだろう

すまない

本当にすまなかった

お前は今

憎悪に満ち溢れているのかもしれない

今すぐ私を殺したいと

殺意を湧き立たせているのかもしれない

だが

残念ながらお前の願いは叶わない

何故なら

お前がこの映像を見ている世界では

きっと

私はこの世にはもういないだろうから

お前には

多くの辛い仕打ちを与えてしまった

多くの悲しみを

多くの怒りを

私がお前をそうさせた

すまなかった

謝った程度で

許されるとは思っていない

私ひとりの命で

償えきれるとは思っていない

大きな私の罪だ

その罪の結果が

お前だ

本当は今すぐにでも

誕生日を祝って

お前を

誰誰誰誰と共に

抱きしめてやりたい

だが

できない

できないんだ

始めはあいつを止めるためのお前だった

しかし

情が移ってしまった

やはり私も人の子

心を捨てきれなかった

お前に

生きてほしかった

生きててほしかったんだ

死に行く私は

その隣にいなくてもいい

誰誰誰誰とお前が生きていてくれれば

こんな汚れてしまった命

この世界に生を受け

お前のためだけに使い切ったこの愚かで馬鹿な命

くれてやる

断頭台へ連れて行くといい

そして

あの世から見守れれば

それでいい

それでいいんだ

……

もう

お前の中には

私という存在がいないのかもしれないな

もしいたとして

それはもう

お前の敵としての

私なのかもしれない

くっくっくっ………

………

悲しいなぁ

もう

忘れて、

しまったのかぁ

それとも

覚えているかぁ?

覚えていないのかもしれない

だけど

楽しかったよ

お前と誰誰誰誰との日々は

私の宝物だ

だけど

お前の生きた年月

それは私の罪の表し

それでも

どうか

それでも

悲しみだけじゃっ

なかったはずだ

お前の周りには

誰がいるのだろうか

仲間はいるか?

友達はできたか?

大切な人はいるか?

こ、恋人はいるのか?

少なからず

出会いがあったはずだ

その出会いを

大切にしなさい

別れの時は

悲しみなさい

泣きたい時は

泣けばいい

ふふっ……

笑いものだろう

こんな姿を残しちまうなんて……

だが

お前にも分かる時が来るさ

私は、

本物の人の親になれずとも、

お前の親に

なりたかったよ

なれたかなぁ

なれたなら

いいなぁ

……

あぁそうだ

過去より

未来へ

メッセージでも送ろうか

おーい

ルイダ

なぁに? 誰誰誰誰

未来の自分へメッセージを送ってみないか?

メッセージ?

そうだよ、自分に送るお手紙みたいなものさ

お手紙ぃ? あっコレかめらって言うやつ!

そうそうこれで送るんだよ

にひぃ!

ル、ルイダちゃん? 画面ギリギリまで近づいたりなんかしてなにしてるの?

笑顔だよ! 笑顔! 誰誰誰誰に笑顔が一番って教えてもらったの!

か、可愛い……っていい歳したおじさんがなにを言ってんだよ……

にひぃ! にひぃ!

誰誰誰誰! 紙ない? 鼻血出ちゃって………あっ、ロリコンじゃないからね!

にひぃ! 辛い時は笑うんだぞぉ! にひぃ! 誰誰誰誰が言ってたから間違いない!

ロリコン? まぁいいからこの紙で早く血を止めてください

ありがとう〜恩に着るよ

あれ? このボタンなんだろ?

ポチッ



終始映像に出てくる男は涙目だった。 所々で涙と鼻血を出していたが。

途中から出てきた小さい女の子。 ずっと笑顔の練習をしていた。

声だけが一度入った女の人の声。 これもどこかで聞き覚えがあった。

なんだろう。この胸を締めつけられる気持ちは。

『そろそろ、帰らなきゃ』

映像が終わりを告げ消えた途端、ボロボロのもうひとりの私が呟いた。

その時だった。

まるで導きのような。 頭上高く視界に写る全ての頭上が、あたたかい光に満たされた。

それを見て、帰ると言っておきながら膝に自分の頭を預けているもうひとりの私は、私の服を掴む。

『消える時が来たんだ。 記憶も全て見ることができた。 背負ってきたものがやっと降ろせる。 なのに。 今は、手放したくないと思ってしまうんだ。 この記憶が我だから、我はただ元に戻るだけ。 なのに消えると思ってしまうのだ』

所々震えた声で話すもうひとりの私。 空気が重く感じる。 ボロボロなのは私が攻撃したから。 消えるのは私がそう選択をしたから。

「なぁ。 もうひとりの私」

『なんだ、本物よ』

「お前さんは、私になって辛かったか」

この問いは、ずるいと思った。 何様なのだと思った。

無意識とはいえ、記憶を切り離したのは私であり。 結果、彼女達が生まれた。

彼女達は、生まれ落ちて。 辛かったのだろうか。

少しでも生きる幸せを感じられたのだろうか。

そもそも生きてるかどうか怪しい存在。

けれど、自分の意思を持った事実は揺るがない。

だから。

『辛かったよ』

一瞬その問いに驚き、ゆっくり目を瞑り彼女は答えた。

答えと同時に、私は下にいる彼女に視線を落とせず、上を向く。

『でも』

答えが続いた時、私も目を閉じた。

それはまるで現実逃避のような。

現実から目を背けるように。 悲しまないように、と。

瞼を閉じることで、そんな思考が頭の中を駆け巡る。

『ありがとう』

思いがけない答えに、閉じられた瞼は弾かれたように見開いた。

ゆっくりと視線を落とす。

そこには、視線を逸らし横を向きながら話す彼女の顔をがあった。

『記憶を全て見た瞬間、思ったんだ。 ここに自分の、世界に一つの我自身の意思があって良かったって。 この意思がなかったら、怒ることも嘆くことも、悲しむことも』

そこで彼女はこちらに視線を戻して言った。

『感謝の言葉を言うこともできなかったのだから』

そう言い終えると、私の膝から頭を上げ起き上がる。

光の天井からは、雪のようにたくさんの小さな光が降り注ぐ。

『本当は、我々以外にもまだたくさんの我らがいたのだ。 細かく記憶が切り離された結果、姿を具現化できてない奴もいるがな』

小さい光、否、記憶の欠片が戻ってくる。 ひとつひとつの小さな意思達が溶けていく。

『ん、あぁ。 ははっ……』

誰もいない方向を向き、まるで誰かと話すようないきなり意味不明なことを話し出すもうひとりの私は。

どこか悲しそうで嬉しそうな表情を浮かべた。 そしてこちらに向き直り、

『ずりーなぁ。 本物よ、いや。 もうひとりの我よ』

困惑する。 何を言っているのか分からなかった。

『最期の仕事だ』

理解ができない。 わけがわからない。

なのに。

「なのに……」

その雰囲気を体は覚えていた。

懐かしい気分に心が囚われて、まるで若返ったみたいで。

なんだったっけ。

確か、あれは。

不意に一瞬だけ膝が力を失くす。 その場に崩れてしまう。

重たい心から、荷物が降りていく。

目の力が抜けてく。 緊張が走り、去っていく。

足の力も抜け、その場に座り込んでしまう。

口は軽く開き、息は少し荒い。

嗚咽が喉奥で響く。 外に出ないように、静かに息を呑むように口を閉じる。

時間って、こんなに進むのが遅かったっけ。

その時だった。


日陰を作る雲。

暖かな日差し。

それらが描かれている青空。

草原。

そよぐ風の中で草や花が微かに揺れる。

誰も歩いていない小道。

小さすぎず大きすぎない木造の家。

そんな背景の中、私はいた。

そしてなにより、背後にいる人。

身動きは少しもできない。 なのに何故か心地いい。

誰がいるのか分からない。 でも大丈夫。

だって、知っているはずだから。

思い出せるはずだから。

私は。

そんな思考を巡らせ風に当たっていると。

『嬉しそうだな、もうひとりの我よ』

目の前に突如もうひとりの私が現れる。

『どうやら我らにも役割があったらしいな。 これで少しは我らに自分の存在理由があったんだと言える』

「ごめんね、いろいろやっちまってさ」

『今更謝るんじゃねぇ。 それに、もういいんだ。 記憶があれば、やっと見れるんだから』

「そうか。 じゃあ私からも、ありがとうなお前さん達」

いつの間にか、彼女の背後にはいくつもの小さな光が浮いていた。

『ふっ……』

彼女の表情が悲しみに包まれた気がした。

そしてすぐに口元は微笑んで、目は遠くを見つめながら私を見据え。

『……ルイダ・テミファル・ヴァース、もといルーダ・テミファル。 永遠はどの世界にも無い。 だけど。 英雄は現れる。 いつか、きっと』

「………さすがは、もうひとりの私だ」

『じゃあな。 もうひとりの我よ』

蒸発。

光と共に。

お別れ。

もうひとりの私達。

過去を生きた私達。

「おやすみ、みんな」

その時、少し強い風が吹く。 元気よく草花、木の葉が揺れた。

雲が散歩している。 日差しはずっと暖かい。

眩しいなぁ。

彼女達の最後の記憶が。

最期くらい幸せであってほしい。

なぁ。

お前さんが本物なら、どんな結末を迎えたんだろうな。

そんなことを思ってしまうのだった。

完全と言っていいほど、彼女達の意識は消え失せてしまった。

今の私だから思えることなのだけれど、本当は。 生まれたのなら、寿命が来るまで元気に生きていてほしかった。 救えたかもしれない。 救えたのかもしれない。 救えたはずの命のような命。 寂しさを残していくなんて、さすがもうひとりの私じゃないか。

目頭に熱が篭もる。 熱が、篭もる。

ーーーーーーーー涙を拭った。

「待たせてすまない。 少し会話相手になってくれないか?」

振り向く。

そこには、微笑んだ優しい顔があったーーーーーーーー


『にひぃ」

読んでくれてありがとうございます。

全てを思い出し、前に進むルーダ……

次回、カインを救い出すためルーダが走る一方、カインは……

次も読んでくれたら嬉しいです。

遅れてすいません! 次回の投稿は来週末予定です。

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