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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
43/197

「ただいま」って言ってよ

今回は長いです。

楽しんでいただけると幸いです。

「はぁ、はぁ……」

カイン……

地下への階段を走り降りながら、頭の中ではもうひとつ別なことを考えていた。

いつからだろうか。

私が私じゃなくなってしまったのは。

そもそも私とはなんだ。

どの私が正解で、どの私が不正解なのだ。

どれが本物か分からない。

もしかしたら、今の私は偽物なのかもしれない。

あの私が正解なのかもしれない。

だとしたら、私は。

どうすればいいのだろうか……

そんな自問自答の思考を、無理やり押し込めて。 今はカインの無事をただひたすら祈り足を動かす。

「カイン……」

いつからだろう。

あいつが隣にいてくれるようになったのは。

いつからだろう。

あいつが救いとなったのは。

いつからだろう。

あいつとあの子さえいればいいと思ったのは。

いつからだろう。

こんな満たされないものを、満たしたいと思うようになったのは。

いつからだろう。

私がカインを、

『おい』

響く声。 どこからともなく聞こえるその声は。 聞き覚えのある声。

精神世界ーーーーーー

『なんで貴様がそんなものを手にしようとしてるんだ』

その声の主は私。 過去から生まれたもうひとりの私。

否、

過去と今の差が生んだ人格のようななにかだ。

『なんで貴様だけが救われるんだ』

悲しげな表情で訴える。

『貴様は名を思い出した時にはもう全部思い出したんだろ? その上で我らを否定するつもりか?』

悔しげに放つ言葉。

誰にも分からない、私しか知らないこと。

『どうしてだ。 どうしてなんだ。 我らは元はひとつだったはずだ。 我らは特別な存在だった! 2人が死んでもひとりでやってきた! その時の努力を、その時努力した我らを見捨てる気か! 切り離して、自分だけ救われる気か!』

その言葉は。

無意識的にやってしまった私の罪により、芽生えた私の気持ちの表れ。

まるで自問自答。 これは自問自答。

望まない分裂。 時間の長さに痛感せざるを得ない。

「好きでしたんじゃない……」

『なら受け入れろよ』

「受け入れたら死人が多勢出る。 罪のない者のもだ」

『じゃあなにか。 我らに消えろと』

「違う。 私は私を消さない」

『でも受け入れないんだろ?』

「人を無差別に殺すのなら、受け入れられない」

『んじゃあ、結局我らは邪魔ってことか』

「……なぁ、お前さん」

『あ?』

終わりが見えない自問自答に終わりを与えるために。

無理やり押し込めるという選択肢を、また選ぶことにする。

でも、今回はなにかが違った。

『おいおい、内心が丸聞こえだぜ? さすがに気づいてんだろ? どちらも我なのだから、思っていることも共有しようと思えば簡単だって。 何故なら全部が全部、我というひとりの思考の手のひらの上で芝居してるようなもんだからな』

そうかい。 ならもういいや。

『は?』

「誰がっ! 好き好んで、自分を嫌って! 嫌な部分を切り離すんだ!!」

それらはいつも無意識に行ってしまうことであり。

自らの意志で、切り離そうとする奴らは、いつも皆不幸のどん底にいる。

誰もが幸せを望んだはずだ。 誰もが、普通を望むんだ。

最初に抱えた純粋な本心。 生きるにつれてそれは汚れ、好きでもないことを好んでしまうように壊れていく。

悲しくて悲しくて悲しくて悲しくて。 憎悪がゆっくり包み込む。

やり場のない負の感情は、いつしか長い年月を経て自分へと向けられて。

無意識はそれを察知したかのように。 悲しい残酷を生んでしまった。

「だから! お前さんも私なら、そんな悲しいことは言わないでくれよ」

あの2人だってこんなの望んじゃいないだろ。

『……変わったな。 我よ』

『羨ましいかぎりだ』

『妬ましい。 憎くて、羨ましい』

『我らもそんなものが欲しかった』

『我らもそう思えたらいいのに』

『あぁ』

いつの間にか、精神世界には多くの過去の私がいた。 どれもが憎悪や悲しみに囚われている私達だ。 そのどれもが、悲しい過去の瞬間の私。 思い出すだけでも辛い日々。 そこで生きた私達。

『我も』

『我らも』

『そんな時を過ごしてみたかった』

『決着をつけよう』

『過去に押しつぶされるくらいの今など』

『消えてなくなれ』

場所、精神世界。 想像も可能となるこの世界で、数十人の自分と戦う。

それは、まるで自問自答。

思い出した過去の記憶を追憶する作業のようなもの。

『ぐはっ』

ひとり倒すごとに、記憶は鮮明に蘇る。


『手を繋いだりして、何がそんなに嬉しいんだか』

標的を確認しながら、罪無き人々を眺め呟く。


どこか見覚えのある景色。 一瞬の走馬灯のように。

流れては消える。 私に溶け込む。

『ぐふっ』

またひとり、記憶が蘇る。


『何故我は、こんな赤ん坊ごときを救ったのだろうか』

背中には何発もの撃たれた跡。 腕には切り傷が複数。 それでも手放せずに抱えるのは、寝息をたてて我の魔力に包み込まれながら寝ている小さな赤ん坊。


その後も、記憶は蘇り続ける。 悲しい記憶や困惑の記憶。 疑問の記憶や別れの記憶。 残酷な記憶や死の記憶。 痛みの記憶、苦しみの記憶、残虐の記憶、暴走の記憶、黒い記憶、闇の記憶…………

どれもが、パズルみたいにひとつひとつのピースとなり私に溶け込んでいく。

私という本来の私が形成されていくような、戻っていくような不思議な感覚。

バラバラだった、切り離されていたものが。

切り離したものに宿った意思が壊れ、収束していき……

「あとはお前さんだけだぜ」

『………』

どの私も私を殺そうとしなかった。 悲しみにより動かされていた操り人形みたいに、倒すと成仏していくかのように溶けて消えていった。

だがひとりだけまだ倒せていない。

それは、さっきまで一番口論をし合い、私の体を何度も乗っ取り暴れた私。

そして、それらを見る限り一番凶暴な私であり、一番大きな大事な記憶の一部分だということ。

「最後のピース、戻って来てくれないか」

『これは貴様には荷が重い。 貴様程度には無理だ』

「なんだよ、結構優しいんじゃないか」

『ほざけ』

貴様は我がぶち殺す。 そして、我が生きるのだ。 ……のためにも!

相手の内心が精神世界の中響き渡る。 一部分聞き逃してしまったが。

『決着をつけよう。 ルーダ・テミファル!』

「戻らせる! 過去の私、ルイダ・テミファル・ヴァース!」

同時に地を蹴り、真正面迎え撃つ。

怒りに染まった表情がだんだん近づいてくる。

そして至近距離になった瞬間相手は拳を顔面目掛けて伸ばしてくる。 その殴りを先読み、拳を横から相手の内側へ左手のひらで押し、流れるように左足を軸に時計回りに半回転。 勢いに乗って右手の甲を相手の顔面真横に当てようとする。 だが相手もそれを先読みしゃがむように体制を低くし顔面には当たらず空振り。 だが相手は頭よりも上の位置に左手を出していて、空振った私の右手を掴み取り、相手も左足を軸にその場で勢いよく時計回りに回転。 その勢いで私は相手に振り回される。

『クソ野郎ぉ!』

ブンッ! と私を斜め上に投げる。 私はすぐさま体を丸めて縦回転。 そして綺麗に着地し、同時に走りだす。 相手もこっちに走ってきていた。 再び対峙、かと思いきや至近距離になってきた直後、相手は走るスピードを緩め右足を軽く上げ、思いっきり地面を踏む。 その衝撃で私が走っている地が直角に立つ。 すぐさま地に向く体を反対方向、上に向け勢いよく直角の地を蹴る。 相手に背中を見せながら直角の地から平地へ帰る。 着地した直後、相手は魔力で作った剣で突き刺そうとしてくる。 それも先読みして着地する直前に魔力の剣を作っておいて正解だった。

胸に向かって来る剣の先端を、すぐに胸の前に剣を出して相手の剣先を剣の握りに引っ掛けさせ真上に瞬時に上げる。 相手に一瞬の隙ができる。

『器用な真似を……』

同時に上がった腕に力を込め、相手に縦に腕を振る。 みえみえの攻撃に、すぐさま相手は体制を立て直し剣を横にして、私の上からの攻撃を防ごうとする。 反射的に相手が力んだことを一瞬確認して、勢いよく振った腕を剣と剣が当たるギリギリで止め一瞬の困惑が相手を襲っている瞬間に、体を一回転させながら体制を少し低くし、相手の脇腹を斬りつける。

『はっ……』

それを読んでいたのか、相手は体制が低い私の顔を真横から蹴り飛ばす。 顔から飛んで体制が上手く整えられず、地に転がる。 だが転がる勢いをすぐに殺しながらなんとか体制を整える。 そして前を向いた瞬間、

『何故貴様は切り離したのだ?』

拳が眼前にまで迫っていた。 距離はもう縮まっていた。

メリッ……

すぐに首を横に動かし、鼻が潰されるのを防ぐ。 が避けることはできず鼻の横を殴られる羽目になる。 また吹き飛ばされる。 宙を飛んでいる間に周りの地形が変わる。

『何故なのだ』

それは相手の重力操作。 私の周りの地形を中が空洞になるように球体を作る。 その空洞に私が入るように作られていく。 私はすぐに球体の内側の壁に激突する。

「ぐはっ……」

その変わり果てた球体の真上の穴から相手が見下ろしている。 こちらに手を翳している。 先程の殴りで視界が揺らぐ。

「私は……」

『もういい。 大獄炎ひとつ火の海』

唱えた直後、球体内は火の海に変わり始める。 四方八方火しかない。 出口は真上の穴だけ。 だが、その穴も。 閉じられる。

スタッ……

外から着地音。 少し離れた所に相手の気配を感じる。 が、今はそれどころじゃない。

「くっ……どうすれば……」

その時、

『大獄炎ひとつ炎の竜巻!』

「っ!」

途端に足下から炎の渦が巻き起こり、次第にそれは膨れ上がり火の風と共に勢いが増していく。 それは球体ごと飲み込み、

「ああああああ!!」

高く空中へ放り投げられるように炎の竜巻に襲われる。 宙を舞う私の近くへ瞬間移動する相手は私の真上へ手を出し、私に向け手を翳し、その手にバチバチッと一瞬電気のようなものが見えた気がした。 瞬間、

『終わりだ、我よ。 大獄炎ふたつ落雷如く火柱』

雷を宿した火柱が、落雷の如く至近距離で私を襲う。 一瞬で地に叩きのめされる。 クレーターが何重もできるほどに跡をつけ、私は地にめり込んだ。

「がはっ……」

『辛いだろうな。 精神世界と外の行動を共に行いながらだもんな。 だが、こっちの貴様がこの有様なら、さすがに外側にも影響が及ぶんじゃねぇのか? そうすれば、我が乗っ取りやすくなるということだ』

呑気に、勝利を確信したみたいに語る相手。

確かに同時並行でやるのは集中力も労力もいる。 だが、カインのためにもこの足は止めることができない……!

『そうかよ、なら死ね』

一気に上からこっちに向かってくる相手は。 余裕そうな表情を浮かべ、至近距離になった瞬間手を私へと伸ばして、

『大獄え』

ゴスッ

体を思いっきり捻り、相手の頬へ殴りをいれる。 相手は殴られた方向へ吹き飛ばされる。

そりゃあそうだよな。 どんなのでも、相手はこの私だ。 天才の私だ。 たとえどんな記憶を持って生まれようと、私の一部だ。

「そんな強敵相手に手なんか抜けるわけねぇなぁ」

『っ!? そうか、意識は全部ここにあるってか』

「外は安全な所で休んでいる状態だ。 早くお前さん倒してカイン救わなきゃならねぇんだから、こっからは」

本気だ……

相手の背後に着く。

『なっ!? いつの間にっ、っ!』

相手の背後から体制を低くして左へ素早く足を弾くように蹴る。 上手く斜めに相手を一瞬宙に浮かせ、その瞬間に体制を整えながら回転し右から相手の顔を真横から蹴る。 そのまま真下へ相手の顔を地にめり込ませる。

『ぐっ!』

少し距離をとるため軽く後ろ飛ぶ。 そして、

「千の火槍」

そう唱えると、空中に火を纏った槍がいくつも現れる。 体制を整え始める相手へ手を翳し、

「突き刺せ」

無数の槍がバラバラに相手を突き刺そうと突撃していく。

『うおおおおおおおおお!!!』

両手に魔力の剣を持ち、抗い始める。

それを数秒見て、私はあの頃の気持ちになった。

地を蹴る。 瞬間移動で相手の目の前に移動し、魔力で瞬時に剣を作り相手の腹を突き刺し貫通させる。 相手も反射的に両手に持つ剣を腹に刺してきた。

グサッグサッ……

『何故……』

「この技は命令に従うが、主人が巻き込まれても命令を実行し続けるんだ」

『違う。 何故貴様がここにいる』

戸惑いと鎮まらない怒りの表情が私を睨みつける。

「覚えていないのか? 元から私は、弱いものいじめは嫌いなんだよ」

どちらかと言うと、そう。

助ける側になりたかった。

あの幼き日。 初めてばかりの、あの平和な。

幸せな日々を送っていた私の想い。

思い出したのは今日だけど。

「それに私は特別なんだ。 この程度で死にはしないし死ねない」

『…………そういうのばかり残して、これは切り離しちまうのかよ』

記憶が切り離された結果生まれた人格。 それが彼女達だった。 どこにも行く宛のない記憶は、それだけを持ったもうひとりになってしまった。

『ずっと、ココが痛てぇんだ』

突き刺した剣から手を離し、胸に手を当てる。

『これしか持ってないから、毎日毎日これしか見れねぇから』

悲しいんだ。 でもあたたかいんだ。 でも苦しいんだ。 痛いんだ。

『でも、大切な気がするんだ。 なのに貴様は切り離した。 何故だ、忘れてはいけないはずなのに』

記憶の選別。 無意識に行われたそれは自分に害ありそうなものを切り離した。 だがそれは……

『我はずっと、ずっと……』

グサッグサッグサッグサッ………

話しているのにも関わらず、次々に刺さる槍。 刺さっては炎となって消える。 が、数が尋常ではない。

ゴフッ……

相手の口から血が溢れ出す。

私の口からも静かに血が流れ出る。

そこで私は唐突に思い出す。

帰ってきた記憶達が、私にヒントをくれた。

けれども、それが示すのは救われない答えだった……

読んでくれてありがとうございます。

過去との決着へ。

次回、激戦の末に……

次も読んでくれると嬉しいです。

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