後は頼む
今回はいつもよりは少なめです。
楽しんでいただけると幸いです。
ロッカス、元傭兵。
本当は本部にスカウトなどされていない。 カインと共に自らの意思で入ったのだ。 後悔などしていない。 辞めたいと思ったことはない。
すべては家族のため。 闘っている。
「それで。 どうしたいんだいロッカス」
今でも頭上よりも上の地上から、響き渡る爆音をバックグラウンドに問う。
「教えてくれんか」
その問いに答えるロッカス。 その言葉はロッカスの覚悟を示す言葉となる言葉だった。
「ここなのか」
ここでいいのか? なんて問いかけない。 ひとりの男が覚悟を示したのだ。 ただそれでも、確認ぐらいさせてくれ。
「ここなんじゃよ。 ここでいいんじゃ。 ここで、果たす」
「そうかい。 分かったよ」
全知ーーーーーーーーーーー
「悪いなカイン」
「謝らないでくれよ。 それに、お前さんの望む未来は。 ……実現したぞ」
そんな台詞。 何も知らない人からしたら、意味不明な台詞。 でも、ロッカスにとっては大切な。 とても大切な言葉である。
だから。
こんなかっけぇ老いぼれ爺さんでも、こんなに涙を溢れさせ嗚咽と共に泣き崩れるのだ。
元傭兵長。 生ける伝説。
でも、今だけは。 ただの家族思いの父親だ。
「あぁ……あっ、うぁ……くっ。 ふっ、ぁあっ……あああぁ……」
「お前さんが頑張った結果だよ」
そうだ。 お前さんは頑張った。 俺はそれを手伝えなかったけれど。
「だ、だがっ。 わしは……濡れ衣を着せてしまった………ひぐっ、ぅ」
やはりあの研究は、お前さんのだったんだな。
あの瞬間を振り返る。
自分の罪を深く自覚し、その罪は変わらないが。 それでもと、捨てきれずにいた罪悪感と憧れから生まれた偽りに近いような良心で。 ロッカスに手を貸した。 それでも拭え切れない罪意識からの最後の行動があれなのか。
「あの裏でやったことを教えてくれとは言わない。 悪いことではないことと知ってるしな。 それでも、あいつは元から罪人だったんだ。 いつかどこかで償いを求めていたあいつの最後が、悪じゃないからあれで良かったんだよ。 きっと」
最後くらい悪じゃないことをしたかった。
確かあいつはそう言っていた。
「そうか……クロート……」
涙の雨も少し弱まってきた。 俯いている。
ロッカスと話すのもこれが最後か。 なら、そろそろ……
「そろそろ教えてくれよ。 ロッカス、お前さんの闘う理由となる昔を」
「その能力で、見れるんじゃないのか」
「確かに見ようと思えば見れるさ。 なにもかも」
なにもかも見れちまう。
「なら勝手に、見れば、いい……」
また涙を零しはじめる。 目頭を押さえるロッカス。
「老いぼれになると……ここまで、涙脆、く……なるもの、なのか……」
そう言うと、彼は胡座をかきながら頭を下げた。 涙滴るのを気にせず頭を下げた。
息を吸う音が聞こえた。 瞬間、
「感謝する!!!」
一瞬ビビるくらいの声量で、泣きを声量と気合いで吹き飛ばすくらいの勢いで。 部屋中に響き渡る。 そんな声とは似合わず、目から滴る涙が、床に落ちるのが見える。
「そして。 ………頼む」
空気が一瞬重くなる。 その言葉の重みを耳から全身へ伝わる。 落雷のような。 その雷に重さを足したような。
「あぁ……」
そんな一瞬が溶け去り、俺は謎の使命感のような。 大きなやる気を感じる。
「でももう大丈夫だ。 安心していけ。 もう目処が立っている。 クロートの残した結果と都市部にいるある奴に会えれば、お前さんの望むゴールに辿り着けそうだ」
ロッカスは顔をあげた。
その頬には涙の後の、濡れた顔があった。
「そいつぁ……ありがてぇ……」
ニイィ……っと笑って見せる笑顔。 それはただの家族思いの父親の顔。
いつかの過去の顔。 まだ何にも染まっていない顔だ。
そうか。 それが昔の…………
「でもなぁ。 そんなに感謝されたって俺もクロートと同じ部類だぜ?」
「あの話のことか。 だがそんなこと知ったことではないぞ」
「お前さんなぁ……」
頭を搔く。 俺だって罪を背負いし人間のひとりだってんのに。
ここまで感謝されると、過去の罪意識が舞い戻って来そうだ。
否、もう戻っている。
「カインよ。 お前も良い奴だ」
「いや、だから俺は」
「ただのわしの恩人じゃよ」
そう言ってロッカスは立ち上がる。 涙は止まったらしい。
「もう行くのか」
「あぁ、お別れじゃ。 カイン」
背を向けるロッカスの背は、とても。 とても。 大きく逞しく気高く。
本当にこの背中が、守れなかった父親の背中だというのか。
いや違うな。
救い出した、最高な優しい父親の背中だ。
「あの世で待ってな。 すぐ送る」
「そりゃあ、ありがてぇなぁ」
解放。
彼の願い。
俺には分からない。 親になったことなどない。
だが想像ならできる。
きっと。
辛い日々だったんだろうな。
あぁ、この死に急ぎの老いぼれが。
かっこいいじゃねぇか。
俺もなってみたくなるじゃねぇか。
そんなジジイに。
全知よーーーーーーーーーー
ロッカスは傭兵だった。 それはもう遥か昔の話。 それはまだ世界が機械文明に染まっていなかった昔の時代。
当時の職業のひとつである傭兵と言う職で、暴れまわっていたロッカス。 大剣片手にいくつもの戦争などで功績を残し、傭兵長という前代未聞の立場を手に入れた男。 強すぎるが故に、彼が喧嘩などを起こした日には、国の軍が警戒態勢に入るほどだったらしい。
ある日、魔力を司る魔神のひとりの支配に抗い、たったひとりで喧嘩を売った。 結果、魔神の腕一本を持ち帰り、傷だらけで生還。 英雄と呼ばれ、その時に使用した大剣が後に神殺しの武具という名の伝説の仲間入りになる。
その後、平和が訪れロッカスは結婚し、ひとりの男の子に恵まれ平和に過ごすが、機械文明が始まり、核都市の改造本部の奴らに妻と息子を捕えられてしまう。 ふたりは強制的に発生させる不老不死の実験体として集められた。 他にも様々な人々がいて、毎日悲鳴は止まない。 時期にこの実験で成功したエネルギーを生贄の檻で注入されるエネルギーとして使われる。 ふたりは実験成功者として不老不死者になるが、実験初期だったからかいくつものの副作用を代償として受けた。 幻覚や幻聴、様々な病気や精神崩壊等も発生する。 改造本部は後に、ふたりがあの傭兵長の家族だと知り、家にふたりを強制帰還させた。
そんなことも知らず長期の任務から帰ってきたロッカスは、すぐに違和感を感じ取る。 途切れそうな意識の中、ふたりは『改造』というキーワードを伝え、また半永久的な苦しみに飲み込まれた。 ロッカスは怒りに燃えた。 憎悪が溢れた。 その後も、一向に死ぬことができないふたりは苦しみ痛みに悶える。 ロッカスが目の前にいるというのに自殺を図ったり、病気などで死んでは生き返りを何度も何度も繰り返した。 それを何も出来ないロッカスはただただ見ていることしかできずにいた。 止めても無駄なことくらい分かっていた。 その後もそのようなことは続き、妻は幻覚と幻聴に怯えて地下室に篭ってしまった。 息子は自殺と生き返りを幾度となく繰り返し、更なる精神崩壊を起こして狂人化してしまった。 やむを得なく、妻がいる場所とは違う別室の地下室に鎖で繋いだ。
ロッカスは生きるのが苦しくなってきた。 それでも、あのようなふたりを残して死ぬことはできなかった。
元々ハーフエルフだったロッカスは、エルフ族に頼み込み長寿できるようエルフの血を強めてもらったりした。
そして、元凶である『改造』を探しに旅に出る。
その後、カインと出会い改造所へ………
「そうか……」
今この瞬間も、ロッカスの家族は苦しんで痛みと共に死んでは生き返りを繰り返しているのか。
救わなくちゃな………
あのかっこいい悲劇の父親の願いのために。
読んでくれてありがとうございます。
ロッカスは先に歩きだした……
次回はルーダが暴れだす……!?
次も読んでくれると嬉しいです。




