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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
39/197

今更気づいたって

少し遅れました。

楽しんでいただけると幸いです。

雨が止んだ。


ルーダside……


静かになった地下。

戸惑う11546を背後に、息を引き取った動かないカインを抱きしめていた。

いろんな感情がぐちゃぐちゃになっている中、いくつかの疑問も残った。

「なんで、お前さんが……」

現実逃避をするように、目を閉じる。 涙は流しきった。 もう、カインはいない。

死体を目の前に横たわらせて、空を仰ぐ。

光の柱によって、綺麗に穴が空いた施設。 その穴から見える青空からのスポットライトを浴びているような、久しぶりの喪失感。 今日は、客はいないんだな。

私は意図的に意識を手放した。

今は眠りたい。 そんな気分だ。

あぁ。

私は………


バーオリーside……


カインが目を閉じる少し前……

「よし、この方法なら救えるかもしれないっスね!」

「だけど、これじゃあ送る側は必ず死んじまうことになるよ! やっぱダメだ! こんな方法は」

俺達は光の柱の後、カインの変化などをビーダと話し合っていた。 光の柱跡の下の方からはルーダの声も聞こえて、そっちの方はカインに任せることにしたのだ。

そして俺達は、光の柱が起きた時に感じた大きな力と、その中心にいたカインを見て、カインが死に急いでいる状態だと悟り、この後起こるであろう最悪の終わりをどうにかしようとしていた。

幸いビーダミーマ姉妹もあのような能力のようなものをカインと共に行動していた時に感じたことがあるらしく、密かに調べていたらしい。 が、ほとんど分かっていない状態だと言う。

だが、もしかしたらここの本部の機械等使えば、最悪の終わりを回避できるかもしれないという可能性にたどり着いた。

「でも仕方ねぇっスよ。 犠牲が付きものなんすから挑戦ってもんは」

「それでも! ダメなもんはダメだ! そんなのカインは望んじゃいない!」

「カインは今一時的半死人状態みたいなもんなんすから、死人に口なしっスよ。 あれ、でも半分だけだから、半口?」

と言いながら紙に鉛筆を走らせる。 俺達が今居るのはカインとグリンが戦った階のとある実験室。

「半口ってなんだよ。 ってそうじゃなくて! 誰も誰かが死ぬことを望んじゃいないって言ってんだよ!」

口うるさくビーダは作戦の否定をし続ける。 まぁ作業しながら言っても説得力がなぁ。 まぁ状況が状況だし、時間もあんまないから仕方ないのかもだけど。

「俺が望んでる」

「はぁ?」

「俺の人生は、ここいらで終いっスよ」

腑抜けた表情をするビーダ。 きっと冗談だと思われてんだろうなぁ。 でも、俺の力を生かすにゃあ、とっておきの場面なんすよ。 今この時は!

紙に鉛筆を走らせる。 鉛筆を走らせる。 走らせる!!

「よっしゃ! できったっすよ! ビーダ!」

「お、おぉ……」

予想通りの反応っスねぇ。 まぁ仕方ないか。 これから人殺して人救う装置作るんだから。

「あとはカインが一時的に死ぬのを待つだけだな!」

「不謹慎な! だけどよバーオリー。 この計画……作図? 設計図……いや、説明書? ……この変なの書いたからってどうやってカイン救うんだ?」

「そりゃあ最後のお楽しみってやつっスよ!」

「簡単に説明してくれないか。 少し手伝っただけだけど全然分からん! 情報屋としてなんか悔しいんだよ!」

「うーむ、簡単に言うと。 いろいろ書いて頭使って作って、ビーダが押したりしてカインをいろいろして救うってことっスよ!」

「………」

おやおや、黙っちゃったっスね……

「お子ちゃまには早かったっスかねぇ?」

プチン

「私はエルフじゃボケェ!!」

「ぐへぇ!」

少女に顔面に飛び蹴りされる日が来るとは……

少し飛ばされて、頬を擦る。 俺は残りの時間をビーダをからかいながら楽しむことにしようと考える。

そしてビーダに向かってからかうように変顔という表情で馬鹿にしながら少し考えて。

「ビーダ、カインがどうなろうとあいつの味方で居続けてくださいよ?」

「当たり前だぁ!」

「まだ怒ってるんすねぇ!」

最期になると、いろいろ人は変わると聞いたが確かにその通りだと思った。

昔に戻った気分だ。

■■■

11546side……


冷たくなったカインは横たわっていた。 その横ではルーダが眠っている。 彼女は涙も止んだと思っているのか、一切拭わずに眠ってしまった。 眠っていてもまだ流しているというのに起きる気配もない。

いつの間にか視界にバグのようなものが起こり、次の瞬間ルーダが眠りに着いたのを確認した。 何故かカインは死んでいる。 いったい何があったのか分からない。

すると、カインの名を呼ぶ声が近づいて来る。 彼女は、ルーダの話の中に出てきたビーダという少女だろうか。 いや、エルフであるらしいし少女かどうか。 今は外見だけで判断することしかできないようだ。 様々な機能が停止している。

「あ!」

どうやら私の存在に気づいたらしい。 少し離れた場所で立ち尽くしている私に近づいて来た。

「良かったぁぁぁ!!! 無事だったのかお前ぇぇ!! 心配したんだぞぉぉぉ!!」

いきなり顔あたりに飛びつき抱きつくビーダ。

そうか、あの子は仲間達に愛されていたのだったな。

「すまない、もう貴方様のしっている少女とは違うのだ」

「それでもいいよぉぉぉ!! 無事で何よりだぁぁぁ!!」

なんてお優しい方か。 あの子は幸せ者だな。 最期も救われて欲しかった……

こんな私との再会でも涙してくれる彼らは死なせる訳にはいかないな。

でもしかし、カインは……

「あ、そうだ! カイン連れてくからルーダのこと見ててくれ!」

「死体になにかするおつもりですか」

「いいや違うよ。 いや、どうかな? まぁバーオリー最後の仕事らしいんだ。 絶対成功させなきゃあいつが報われねぇ!」

そう言ってせっせとカインを背負いどこかへ行った。

静かになった地下。

「誰も……いなくなら、な……いでよ……」

寝言だろうかルーダからそんな言葉が聞こえる。

「ここにいますよ」

そっとルーダの手に手を添えた。

■■■

バーオリーside……


昔からそうだった。 からかい好き、他人を怒らせたりするのが面白おかしくて、いろいろやらかしていた。 勉強をサボっては、いたずらに専念したあの日々。 楽しかったなぁ。

そんな過去を送ったからか、魔法が扱えても、魔法が使える人なら必ずできる基本的な魔法しか俺は出来ずにいた。 まぁ魔法を使えない人も当たり前にいるこのご時世、マシな方かもしれないが。 そんな俺は魔法で遊ぶようになっていった。 今思い出したらくだらない、いたずらのための魔法を編み出していった。 だがある日、なにかをきっかけに俺に新たな能力を備わった。それが、俺の最後の仕事の鍵だ。

「バーオリー! 持ってき、連れてきたよ! ほらカイン!」

物扱いか……

「よぅし、じゃあ始めるっスよぉ!!」

神経を冴え渡らせる。 集中する。 いろいろ書き込んだ紙を丸めて飲み込み「えっ」ビーダの引き気味の反応を聞いた後、視界に飲み込んだ紙に書いてあったものが浮かび上がる。 そこに俺の想像力で文章等を実体化させるため、部屋中にある部品や機械等を手を翳し動かし操る。 発想力で足りない部品は、要らない部品を改造し補う。 創造力で組み立てていく。

「え、なにこれ……」

驚愕に口を開くビーダ。

「改造だよ」

脳に大きな不可がかかり細胞のほとんどが死滅するかわり、作りたいものをその場にある物で作れる、再現できる。 改造できる。 これが俺の能力。 それには設計図などその他もろもろの情報を書いた紙を飲み込むまで情報を取り込まなきゃできない能力。 死とは割に合わない能力だ。 だけど、死ぬのを覚悟して能力を使ったカインを見て、そんなカインのために使いたいと思ったんだ。

ガチャンッガチャガチャッガガガガギュルギュルガチャ…………

ビーダからしたら、何も無い空間に手を翳し動かしたりしてて奇妙なんだろうなぁ。

「っ!? 待って! これってまさか、いちから作ってるのか!?」

何を今更……

「そうッスよ」

「え、ってことはなんだ。 見たこともねぇ電子回路作ってこの世にない新たなコンピューターを作ってるってことなのか!? なのか!!?」

な、何を今更……おっと、これはこっちだった。

「これは情報屋として黙ってられねぇぞ。 そんなもん核都市が喉から手が出るほど欲しがる代物じゃねぇか!」

いちいちうるさいっスね。 こっちは最後の大仕事中だってんのに。 まぁいい。 ここにアヴァロネスの回路を付けて……さぁ終わりだ!

手を翳す。 俺にしか見えない仕上げのボタン。

「再改造!」

全てが作られる。 無数の部品が材料が俺の目の前で組み立てられてひとつの機械が完成する。

見た目はただの巨大な画面。 壁一枚見えなくなってしまうほど大きい。

「よし、これ飲ませろ」

ビーダに紫と桃の間の色合いをした液体が入ったコップを渡す。

うげっ! と言い受け取り渋々カインに飲ませるビーダ。

「あとはカインを画面に近づければそれでいいっスよ」

「そうするとどうなるんだ?」

「………俺の、仕事が終わるんすよ」

「じゃあ、仕事が終わらなければ、バーオリーは死なねぇんだな?」

「は、ビーダ何言って」

「死なねぇんだな!??」

部屋に静けさが舞い降りる。 俺は黙り込んでしまう。

それじゃあダメなんすよビーダ。

「どっちにしろ死ぬんすから。 やらないなら俺がやるッスよ」

カインを生き返らす。 電子世界に息を吹き返らす。 俺の自己犠牲の能力をフル活用して作った装置で、カインを生き返らすんだ。 あとはカインの能力で外に出られるようにもなるだろう。 そんな計画の最後にそりゃあないっスよ。 ビーダ。

「どうしてもバーオリーが死ななきゃならねぇのか!? 他の道はねぇのかよ!」

「この装置を作った時点で俺が死ぬのは確定してんすよ。 だから」

「ならその装置をぶっ壊す! そうしたらお前は死なねぇ!」

………

「そんなん分からないっスよ」

「私の勘だ! 間違いじゃねぇ!」

やっぱりそうなのか。

でももう間に合わないよ。

「だから」

俺はビーダが何かを言う前に、彼女との距離を縮めた。 カインを奪い画面に走る。 こんなに冷たい人は生まれて2人目ッスよ。

でももう追いつけないよ。

授業抜け出していたずら仕掛けに行って、バレた時に逃げ切るためにこの魔法だけは練習したっけ。

「おらよっと! ほら生き帰るっスよカイン!」

画面に向かってカインを放り投げる。 背後では手を伸ばして慌てながら追いかけて来るビーダ。 カインの体は光となり画面に吸い込まれて……

さぁ、これで終わりっス。

あの子もこんな気分だったんすかね。 お別れって。

お別れと言やぁ、あのお別れ会やっぱ行けば良かったっスねぇ。 何十年前の話か。

「バーオリー!」

手を伸ばして跳躍して来るのは、あの日の憎き愛しきあいつの生まれ変わり。

ダメダメ、そんなんじゃ俺は捕まらないっス。

頭に強烈な圧力がかかり始める。

あはは、俺も来世で。

「ここいらで俺は失礼するっス! 俺を追いかけるなんて真似すんじゃねぇっスよ! ビーダ!」

さぁて死ぬぞ。 今まで出会ってくれた全ての仲間達に家族に感謝感謝感謝!!

ありがてぇっスなぁ!

………これもおめぇの計画内っスかぃ、誰誰誰。

途端に顔を中心に爆発する。 爆風がビーダを壁に吹き飛ばす。

残されたビーダはひとり部屋の中で初めての涙を流す。

うっ、うぅ……うう……

「仲間とお別れだなんて誰だろうと私は嫌だぞぉぉぉ!!!」

うあああああああああああああああ!!!!!

ひとりが死んで、ひとりが生き返った。

ビーダは思う。

これほど嬉しくて。 これほど悲しいことはない。


「あ。 姉上が泣いてる……」

地上にいるミーマが涙目でそう呟いた。


「やはり予想は外れてくれないのか……全知よ」

画面の中、電子世界の中から外を見てカインが悲しげに呟いた。

読んでくれてありがとうございます。

次回はあの男がカインの元へ……

次も読んでくれたら嬉しいです。

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