もう間違わないよ
今回は少し長めです。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
「やっと20階っス……」
「長すぎだよ、さすがに疲れるぅぅ……」
19階からついに地下20階に降りようとしていた。 だがここからは……
「止まれ」
機械じみた声。 それはバーオリーでもビーダでも、ましてや俺の声でもない悲しげな声。 全知のお陰で知ってはいたが、まさかこれだとは……
「どこまで胸くそ悪い施設なんだ……ここはよ」
突然の登場に他の2人は息を呑む。
「き、気づかれてないっスよね……?」
「じゃあ、なんでこっちずっと見てんだろ……」
容姿は幼女、それに半機械だと……?
全知よ、敵を示せ!
特別警備型戦闘兵器KD724203番号機。 半機械であり、服従紋入り。 どんな能力でも無効にする謎の能力を使用する。 本名ミカロ・メレージュ、5歳。
「ビーダ、服従紋ってなんだ」
「ふ、服従紋は名前の通り絶対服従させられる紋章のことだよ。 奴隷よりも強制力が強く扱える人は少ないはずだよ。 でもよりによってなんで半機械人間に……?」
困惑の表情を浮かべるビーダ。
確かに人なら分かるが半機械だとあまり無意味に近い気もするが。 でも今は……
「一歩でも前に進んだら、敵とみなし攻撃を開始する」
幼い子供とは思えないほど、冷酷な声で行く手を拒む。
「すまない。 俺達はこの先にいるはずの仲間を救わなくちゃいけないんだ。 止まってられる暇はない!」
俺は大きく一歩を踏み出す。
「残念」
吐き捨てるように言って突っ込んでくる半機械。
あぁ本当に残念だ。 君のような敵がいるとは、改造。 改めて吐き気のする最低な行為だ!
「できればこいつを殺さずに行きたい! 動きを完全に封じるぞ二人共!」
「うっす! 了解!」
「確かにこんな美少女殺すなんて俺にはできないっスからねっ!」
良かった。 2人も殺す気がないことが分かった。
だが、小柄な半機械はすぐに体制を低くし、俺の目の前まで来る。
攻撃はしちゃいけない。 受け流すんだ。
ガチャっ……
「んなっ!?」
突然どこからか小柄な体格には見合わない大きさのハンマーを取り出した。 しかもそのハンマーは全方向にヘッドがあり、六角形の形のハンマーだった。
どこから取り出したんだ、今のは!
すかさず、下から上へ俺の腹にめがけてアッパーのように振り上げてくる。 俺はそれを刀を抜き受け流そうとするが……
「重、い………んっ!?」
受け流、せない!
受け流そうと、剣身を滑らせようと迫り来るハンマーを走らせたら、力を加えている方向を切り替えてきた。 小柄な体格を捻り、俺の刀を弾く。 いきなりの切り替えに俺は後方によろめいてしまう。
「なかなか器用だな……」
すぐに半機械は床を蹴り、よろめき尻もちをついた俺をハンマーで押し潰そうと振り上げる。
「今だ!」
「「拘束!」」
左右にいたバーオリーとビーダが、空中でハンマーを振り上げている半機械に向かって魔力でできた鎖を放つ。その鎖が半機械を拘束しようと蛇のように鎖が近づくが、それを振り上げていたハンマーを真横の構え、体を高速で回転させハンマーで全ての鎖を弾く。そして着地。 その隙をみて、刀で俺はハンマーを斬ろうと右手に刀を持ち素早く半機械に近づく。 が、それすら読まれたのか、右手に持つハンマーを重りに半機械は時計回りに回転し、俺はハンマーの方向へ床を蹴り走ったのを空振りしてしまう。 そして回転させ勢いづいたハンマーがカウンターを仕掛けてくる。 すぐさま俺は右肘を曲げて、刀で防ごうとするが重いハンマーの攻撃に押され、壁に吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
壁にヒビが入る。
「カイン!」
「よくもやってくれたっスね!」
バーオリーが指先を上に向け、ピストルのように右手を構えて半機械に向ける。
「穿て」
直後、バーオリーの指先に太陽のような火炎を放つ火が小さく宿り、バーオリーの掛け声と共に、それは半機械へ放たれる。 それなのに、半機械は無表情のまま。
無詠唱に近いたった一言で、ここまでの魔力の魔法を放つとは。 だが、このままだと……
また同じだ。
「待て!!」
俺は半機械の前に立ち塞がる。 バーオリーの放った魔法が俺めがけて勢いよく来る。
「カイン! なにしてんすか!? そんなの守る必要ないっスよ!!」
バーオリーが焦り始める。 だが、ここを退くわけにはいかない。 そしたら……
「そうしたら、この子が死んじゃうじゃねぇか……!」
そんな状況など構わずに、背後にいる半機械はハンマーを構えて俺に攻撃しようと動き始める。
「カイン! 避けてよ! 死んじゃうよ!」
ビーダが叫ぶ。 足が震えている。
「身体強化!!」
ドスッ!!
全身に力を入れ、背後からくるハンマーの攻撃に耐える。 それでもダメージは体に染み渡る。 眼前にはバーオリーの放った炎の弾丸が迫っている。
「「カイン!」」
2人の呼ぶ声と同時に、視界に写る世界がスローモーションのようにゆっくりに感じる。 神経を冴え渡らせ、集中する。
俺はなんのために、この力を手に入れた……
もう二度と! 選択を間違わないためだ!
全知よ、絶対に、すべてを切り抜ける最善策を提示せよ!
額に紋章を浮かび上がる。 それを無視して俺は力を使う。 頭の中に様々な情報が入り込んでくる。
そしてーーーーーー
「そうか……」
それしかないのか。 あぁ、仕方ないな。 俺は欲張りなんだ。 全部全部無事でいて欲しいんだ。 夢は叶わないけれど、あぁ。 仕方ねぇか……
もう、間違わない。 今度こそ守るよ。
世界はいつもの速度でまわる。
「強制転移!」
直後、バーオリーとビーダの姿が消える。 よし、成功。
心の中でガッツポーズして、バーオリーの放った魔法を受け止める。
「ぐっ……!!」
熱い、痛い。 でも、まだ死ねない!
「っ!」
突如、火炎の爆発が巻き起こる。 それでも、背後で先程から俺を攻撃し続けている半機械には被害がないように、その爆発も受け止める。
爆発が止んで気が一瞬抜けた時、背後から更に強い力で吹き飛ばされる。 壁に激突、それでも俺は立ち上がる。 血が頬を伝う。 呼吸は荒く、視界の至る所に炎が舞い上がっている。
「大丈夫か……?」
無表情の半機械の幼女に言う。 どこまでも機械じみている彼女の顔に、一瞬だけ悲しみが混ざった気がした。 きっと思い込みだ。
「さぁ、君にとって最後の戦いを始めよう」
そんな台詞を無視して、ハンマー片手に向かってくる半機械に対して、俺も構えをとる。
「今、楽にしてあげるよ」
殺意を一切込めず、子供をあやす様に、優しく言う。
「大丈夫だよ」
軽く斜めに上から下へ刀を振り、真横に一閃。 目にも留まらぬ速さでハンマーを斬り、最後に核を突く。 ハンマーは途端に粉々になる。 それを見越してか、すぐさまナイフを取り出し、距離を詰めてくる。
「重力操作」
ナイフの刃を左手で優しく触れ、折り曲げる。 その使い物にならなくなったナイフを軽く、武器を持つには似合わない彼女の小さな手からスっと奪い、足元に落とす。
「もう武器は持たなくていいんだよ」
俺と彼女の立つ床以外のすべてをめちゃくちゃにする。 魔力を破壊に変えて放出した結果だ。 それでも反撃しようと、小さな拳を構える彼女の額に2本、人差し指と中指をつける。 すると彼女の動きは完全に止まる。
「全知よ、神は降臨した。 何もかも覆す力は我にあり、今この時、悲劇の少女を救うと決める。 残酷な運命をも退け、それらすべての業を背負う我が身に刻むといい。 全ての肩代わり、解放は待ったなしだと」
口から血が溢れ出す。 体中痛みが走る。 苦しみが駆けていく。 悲しみが流れ込み、怒りが舞い降りる。 それとは真逆に、目の前の半機械の幼女は、溶けていくように、容姿も少しづつ変わっていく。 否、戻っていく。
彼女から淡い光が、少しづつゆっくりと溢れてきて、指を腕を伝い、俺に流れてくる。 その度に苦しさも痛みも増す。
「っ!?」
『やめて! 連れて行かないでください!』
『やめてくれ! 娘に罪は無いだろ! 関係ないだろーが!!』
ふたつの怒号が引き金のように、彼女の記憶であろう景色が脳に流れ込んでくる。
…………
『寒い、暗いよ……』
震えてる。 ここは、檻の中?
『やぁ、今回の新入りもチビか……安心しろ。 まだ痛い目には当分あわねぇさ』
優しそうなおじさんが話しかけてくる。 それでも震えは増すばかり。
…………
『痛いよぉぉぉ!!!』
機械が迫る。 内蔵が……あぁ、もう見たくない。
『今回もよく鳴くな。 そうだ、不老のアレを持ってこい』
『え、でもこいつには必要ないと思いますが』
『こんぐらいの体格の奴、本部欲しがってただろ。 きっと新たな兵器開発だ』
なにやら、2人の改造員が話している。 聞けば聞くほど胸くそ悪い。
…………
『お母さん、お父さん…………』
次はどこだ。 この記憶はいつ、終わるんだ。
『出ろ』
目の前の扉が開く。 その先にはーーーーーー
俺はその光景を見た直後、全意識が拒絶反応を起こした。 脳が最大級の警報を鳴らす。 瞳は背けるのを忘れ、瞼が無意識に閉じるように、流れ込んでくる記憶を見ている視界を閉じた。
意識が戻ってくる。
目の前の半機械だった少女は、まだ所々機械のまま。 それでも頑張って自我を取り戻し堪えていた。
「たす……け、て………」
彼女の口が動く。 喉から彼女本来の声が鳴る。 言葉を、まるで初めて喋るように発する。
その台詞と同時に俺は涙を流す。 何故? と自問して答えが分からぬまま、俺は次の行動に移す。 無意識に。
俺じゃない声が重なりながら、俺は唱える。
「「全知よ、奇跡を待つ時は過ぎた。 今この時いつかの償い果たす時なり。やっと来れた、お返しだ。 忘れた断罪、今こそここに」』
俺はいったいなにを言っている。 何故、こんなにも感情が昂るのだ。
「「救済を。 神がいなくとも、我ここにあり。 歯車、今一度」』
瞬間、俺と彼女を無数の魔法陣が囲む。 魔法陣ひとつひとつは小さく、その魔法陣からはスポットライトのように温かな魔力を感じる。 そして。
俺達は光に包まれる。 ゆっくり、ゆっくり光の渦。
やがて、それらは溶けるように消えていく。
「良かっ………た……」
目の前の普通の幼女は、ミカロ・メレージュは泣いている。 ありがとうとごめんなさいを繰り返して。
この選択は間違いじゃなかった。 助けられたのだから。
でも、服従紋があるから……
「逃げ、ろ。 君を……殺したくは、ない」
その時思った。 なんて無責任だと。 だから……
「全知よ、彼女を、家族の元へ返せ!」
絞り出すように声を張る。 吐血の勢いが増す。 痛みも苦しみも増す。 あの声はもう重ならない。
すると、彼女の姿は消えた。
「…………行かなきゃ」
服従紋による命令に抗いながらも、足を引きずり、ミカロの半機械という運命を肩代わりして、俺はルーダの元へ歩みを進める。
時期にこの服従紋が、俺の能力を支配する前に、やり遂げなくてはいけない。
そんな俺は、どこか懐かしさをひどく感じていた……
その頃、家族の元へ帰ったミカロ・メレージュは、奇跡的な再会に家族と共に涙していた。
読んでいただきありがとうございます。
次回は、ルーダと再会……?
次も読んでくれたら嬉しいです。




