やっと踏み出せた遅すぎる一歩は
今回からはカイン目線です。
楽しんでいただけたら幸いです。
カインside……
「ということなんだ」
俺は残ったメンバーに、グリン室長のことや今の状況を説明した。
「だからこれより、ルーダと半機械人間の救出に向かう!」
これから目指す目標を高らかに宣言するが、今まで仲良くしてきた少女がもういないことにメンバー達はショックを受け、重い空気が漂っている。
「みんな落ち込む気持ちは分かるが、今は心の整理をゆっくりとしている時間は無いんだ。 本部地下に運ばれているルーダと半機械人間がどうなるか分からない今、俺達は当初の最終目的地であった本部へと少しでも早く駒を進めなくてはいけなくなった。 すまないが、気持ちを切り替えて戦ってほしい!」
深々と礼をする。 その態度にメンバー達もやる気を出す。
「仕方ないっスね……あの子が居なくとも、あの子の体を背負った半機械人間はいるんスし、救わなきゃっスからね」
「……あたいも、その半機械人間を守らなきゃいけない義務みてぇもん感じてるし、もういっちょ行くかい」
「私もまだ戦えていない。 この肉体を生かしきれていないしのお」
バーオリー、ラッカーと続きロッカスも口を開く。
「可愛いあの子がもういないのは、本当に残念だけど。 今は前を見なきゃいけないのね……」
ネイチャンも今だけは立ち直ってくれたようだ。
「ありがとう、皆。 早速だが、これからの動きについて説明するよ。 ビーダ、ミーマ、道を示した紙を全員に配ってくれ」
「うっす、了解だ」
「わかったね、はいどうぞよっ」
いつもよりは元気が少ないビーダミーマ姉妹。 やはり、あの時は堪えていたんだな。
「今回は俺が説明する、だから」
バンッ
俺は強く机を叩く。 全員の視線が俺に向く。
「ここからは気合い入れて聞いてくれ。 これは、ルーダと少女が残した命が懸かってるんだ」
全員に緊張が走るのを表情から読み取る。
「まず手元の資料を確認してくれ。 この改造所から本部への道を示している。 俺達はここで準備を終えた後、即刻本部へと向かう。 そのためには本部のある核都市へ、つまりはここ機械街グランド・ロボヘルツから天界都市クロスピア・ヘヴンズへ行くこととなる。 が、ビーダミーマ姉妹の古い仕事仲間の働きにより、今回限り特別に核都市へと続く移動機械、まぁ古くてもう使われていないやつだが利用ができるようになった。 このことがバレるとビーダミーマ姉妹の仕事仲間に俺達全員が罪人となり天界都市を敵に回すことになるので、そこは慎重に行動する。 ちなみにその移動機械は天界都市の地下にあるため、俺達でも潜入しやすい。 これらは全てビーダとミーマの功績だ。 改めて感謝を言うよ」
「私達は頑張ったのだ! えっへんだ! えっへん!」
「改めてお礼を言われると、何か照れるね……」
腰に手を当て胸を張るビーダと、モジモジして照れるミーマ。
本当に感謝してるんだぞ。 ありがとう。
「そして移動機械に乗ったら、核都市に着くまで結構な時間がかかる。 その時に体を休めてほしい。 核都市に着いたら、速やかに目的地である本部へと向かう。 できるだけ他人に見つからないよう移動する。 もし見つかったら、それこそ人生の終わりだと思え。 本部への道のりは、この地図を参考に走り抜けるつもりだ」
そう言い、懐から一枚の薄汚れた紙を取り出して、全員に見せた。
「なんなのぉ、これぇ?」
「あたいじゃ全く分からねぇな」
その紙には、丸が2つと、その間をくねくねといろいろ曲がっただけの矢印線が描かれていた。
「この丸は、多分最初の移動機械で着いた場所の地点で、こっちの丸は目的地である本部を指してるんだと思う。 で、この曲がりくねった線は、どう通れば着くかっていう、言わばナビみたいなもんかな」
「なるほど……行先までの道のりをこの紙は教えてくれてるんスね」
「だが、使う移動機械は古いものなのだろう? なら最初の地点は変わってくるんじゃないか?」
ロッカスが紙を睨んで問う。 ごついロッカスが顔を近づけたからか、ネイチャンやラッカーなどが、顔を引っ込めた。
確かにその通りだ。 だが……
「そこん所は安心してくれ。 もう解決済みだよ」
そう言って、自分の頭をコンコン人差し指で叩く。
「なら良いのだが」
俺は紙を一旦懐に戻し話し続ける。
「それで、本部に辿り着いたら、その本部内にいる奴らに見つからず地下へと向かう班と、本部内のお偉いさん暗殺班に別れて行動する。 まずは地下へと向かう救出班にバーオリー、ビーダ、俺で行く。 暗殺班に残りのネイチャン、ラッカー、ロッカス、ミーマで行ってもらう。 ビーダとミーマは常に状況報告や情報交換などを優先をしてくれ。 暗殺班で、ロッカスの立ち回りは、そっちは見つかる可能性が高いから見つかった時の対処に尽くしてくれ」
「了解だ」
「うっす!」
「分かったね!」
「よしっ。 ではこれにて作戦会議を終了する。 各自準備に取り掛かってくれ。 全員の準備が出来次第出発する!」
そう言うと、各自メンバーは準備に取り掛かるため、一旦部屋から出て行く。 一応全員にはまだインカムを持たせてあるから大丈夫だろう。
「カイン、地下で行動している彼らはどうするね?」
ミーマが俺に尋ねてきた。
きっと、仲間がひとり減ってしまったのだから気になるのだろう。
「大丈夫だよ。 ここに来る前に地下に寄って来て彼らには、治療等全て終わり次第施設で当分は保護してくれと頼んでおいたから。 これも全ては君たちビーダミーマ姉妹のおかげだ」
そう、この姉妹には様々な面で助けてもらっている。 保護施設だって、約7割以上が情報屋として培った厚い信頼の上での関係で成り立っているのだから。 感謝してもしきれないほど、力を貸してもらっているのだ。
そんなことを俺が思っていることなど一切知らず、照れるミーマ。 そこに割って入るようにビーダも来る。
「どうだぁ! すごいだろぉ私達ぃ!」
元気よく胸を張り言うビーダ。 俺は思わず頭を撫でてあげる。
それを見て、ミーマもビーダの隣にジャンプして
「え、えっへん!」
と、ビーダの真似をする。
照れながらするミーマに癒されながら、ミーマの頭も撫でてあげる。
この合法ロリめっ!
「やっぱ誰も欠けちゃならねぇよな……」
ボソリと呟く。
さっきまで、この癒される顔が悲しみに染まっていたのだと思うと。
「ん、なんか言った? カイン」
「いいや、なんでもないよ」
聞かれてなかったのか。 良かった。 聞かれていたら、なんとなく恥ずかしい。 今更かよって自分でも思うけど。
「さて、俺も準備をしようかな。 ビーダもミーマも準備を済ませておけよ?」
「うっす!」
「了解ね」
そう言って部屋から出ていく。
……これで俺よりも年上だと思うと、いろいろ複雑だな。 どう接しればいいのか。
そんなことを考えながら、会議室から出て本棚の仕掛けを戻し、別の扉を開けて自分の部屋へと入る。
「数年間使ったこの部屋とももう最後かぁ」
資料が部屋中に散乱している。 特に机上がとても散らかっている。 ビーダミーマ姉妹と共に調べた資料や独自で調べた資料までもがある。 本棚には機械についての本が汚く入れられていて、本棚の前にはノートの小山がいくつも築かれていた。
「まるであの日みたいじゃないか……」
まず床に落ちてる資料を整理する。そして机上の資料。 どれもが努力の結果だ。
資料を片付け終えると、部屋が少し広く感じた。 と言っても、机と椅子、本棚にベッドだけの部屋だけど。
数十分後……
「さてと、それじゃ行くかな」
ベッドの上に置いていた刀を持ち、ベッドの下から小さな手のひらサイズの箱を取り出してポケットに入れる。 そして精神を集中させ神経を鋭くさせ、
「全知よ、この部屋にある情報全て保管せよ」
途端、なにかが入り込むような感覚に襲われる。 が、それはすぐに止んだ。
「行くか」
扉を開き、自分の部屋から出る。
あの頃とは違って、明確なゴールがある。 だけど、今回は残り時間が少ない。 それでもルーダを救出し、改造と言う悲劇を終わらすのだ。
カインは、やっと歩き出した。
読んでいただきありがとうございます。
次回はついに核都市へ動き出す……
次も読んでくれたら嬉しいです。




