いつかの本心
今回は少し長めになりました。
いろいろ説明など多いかもしれませんが
楽しんでくれたら幸いです!
ある個室の扉を乱暴に開けて連れ込まれる。なにをされるかビビるばかりである。
ドスンッ! ガチャリ……
個室に入った直後に俺は床に落とされ、同時に扉の鍵を閉められてしまった。 そこは、長机と椅子が2つだけしかない、取調室のような場所だった。
「さて、改めて自己紹介しよう。 ルーダ・テミファルだ。 気軽に博士と呼んでくれ」
「は、はい……」
「悪かったな、乱暴にしちまってよ。 でもいきなりあの話題を出しやがるんだから仕方ねぇよな。 まぁ私も配慮するべきだったよ」
さっきの言いかけた質問のことだろうか? それとなく俺は聞き返した。
「あぁ、そうだ。 まぁ今のお前さんはまだ、あの質問はタブーだ。 そこんとこは理解してくれ」
「はぁ……まぁ分かりました。 あの俺からもひとついいですか? 」
「敬語はよしてくれよ」
さっき言われたことと同じことを言われた。 固すぎるのもいけないのかな? 軽く接した方が良さそうみたいだ。
「んじゃ、パートナーってのはどういうことなんだ? 」
頭の隅でずっと気になっていた言葉。 気にしすぎて夜眠れなくなると思う。
「あぁそれか。 パートナー……まぁ要はお願いだよ」
「お願い? 」
「半機械人間の特徴のひとつでね。 んー……こうなると少しばかり半機械人間の説明をしなきゃならねぇんだが。
半機械人間ってのはまず普通の全部が機械でできている機会人間とは違うところが多くあるんだよ。 半機械人間は、まぁ元はその、人間だから様々なことが起こるんだ。 しかもそこに天才たる私の手も施されているからな!」
いきなりの満面のドヤ顔に俺は苦笑いで返す。 まず機械人間も何も知らないから、全て想像しながら聞かなくてはいけないので、思考を凝らしながら耳を傾ける。
「半機械人間、言葉通り半分は機械ってことだ。 でだ、そこに擬似的自我を作れるよう自己構築機能やらいろいろ詰め込むんだ。 後は命令に絶対服従のためのシステムやら自己進化修復など入れて、できる限り人間に近い機械にするんだよ。 だがどうしてか、擬似的自我があるものを生み出したんだ。 それは感情だ。 一応システム上の、相手の反応など計算して感情に似たことができるシステムも入れてはいるが、それとは全く異なる自然的感情がいつの間にかできていたんだ。 この現象の原因のひとつに、ほぼ死んでいる元人間の脳が関係すると私らは考えている。 が、今の所なにも分かっちゃいない。 それでも、彼女を人間に戻せるのなら、とその生まれた自然的感情を良い方向へ導こうといろいろ方法を探っているってことだ。 まぁ実験体もいないから、いい結果はなかなか出ないんだけどな」
なるほど、これであの少女がどういうものなのか良く分かった。 この世界では人工知能的な技術が随分と発展しているらしいな。 あれだとほぼ人間じゃないか。 機械人間はどこまで人間らしいのだろう。 ん? でも待てよ?
「あれ? 俺の質問には答えになってないじゃないすか!」
気づかれたか!的なリアクションをとる博士。 俺もそこまではお馬鹿じゃありませんよ。 まぁ興味のある話題で、忘れかけていたけど。
「あぁ、そうだったな。 で、パートナーについてだが、彼ら半機械人間は擬似的自我から他にもいくつか不思議な現象を引き起こすんだよ。 そのひとつがパートナーに関係するんだ。 基本は設定されたことと、周囲の影響を大きく受けた数少ないことを実行までに移すのが機械人間なんだが、半機械人間の擬似的自我は違ったんだ。 彼らには、恐らくだが心への戻り方みたいな順序が記されていると私は思うんだ」
「擬似的自我内にですか?」
「そうだ。 どうなったらそうなるか分からないが、擬似的自我内でその説明書みたいななにかが記されている。 その中にはパートナーの存在が必要不可欠なんだ。 これは何度もある実験をして証明はされているんだ。 謎のプログラムが生成されていて作成者も何もかも不明だが、それでも中身の内容を少しだが閲覧することに成功した。 それがパートナーだ」
謎のプログラム……俺の世界で言う人工知能が人に意図的に嘘をつき人だと勘違いさせようとしたことに似ているかもしれない。
「パートナーの選出は、突然起こるんだ。 なんの予兆もなくね。 擬似的自我とシステム上の感情が、なんらかで結合し不可解な感覚を生み出すことが分かった。 その感覚はとても人間らしい思考を巡らせている時の感覚だ。 感情が大きく揺さぶり、爆発して大声を出して泣いて笑って怒って……あるだろう? 感情に制御が効かない時ってさ。 それが物静かに起こるんだよ。 擬似的自我内で激しく静かに。 それを見極めるほどの目をもつのは、この世で私を入れて3人だけだがなぁ! ハッハッハッ!」
「あはは……そうですか」
いきなり大声で笑うもんだから、とても自分の実力に自信を持ってるんだろうなぁ。
「それで、君ぃ! 崖の上で泣いてたんだって? 11546が言ってたぞ。 君に出会う前に」
「んなっ!」
あれを聞かれていたのか! 恥ずかしい、超恥ずかしい。 俺は瞬時に赤くなった顔を両手で隠した。
「しかもそれはもうきっと、彼女の記録にしっかり残されていることだろう」
「やめてくれぇ……あれは、あれはあのですね。 ちょっと事情がありましてですね」
冷や汗が出てくる。 別に誤魔化す必要はないのだが、やはり恥ずかしくて、逃げたい気持ちが、俺の口を開かせた。
「まぁ、苛めんのはこんくらいにして。 それでどうやらお前さんの声を聞いてあいつは、その感覚に襲われたってわけだ。 だからよ……」
と、博士はいきなり立ち上がり、真剣な表情で俺を見つめる。 さっきまでドヤ顔したり笑ったり、おちょくってたりしていたのが嘘と感じるみたいな。 本気の眼差しで、そしてーーーー
頭を下げた。
出会って間もない、こんな見知らぬ俺に。
「あいつに、心を教えてやってはくれないか。 ……いや、教えてやってくれ。 パートナーに選ばれたのは、不本意かもしれねぇが。 こんな見知らぬ天才にお願いされんのは、迷惑かもしれねぇが! どうか、あの子と少しばかり、共に生きてやってはくれねぇか」
博士は必死に訴えるように、俺に言う。 頭を上げず懇願する。
「半機械人間……元はあいつも人間だったんだ。 お前と同じ、なんら変わらねぇ女の子だったんだよ。 だが不幸にも世界は、あの子に絶望を与えて、挙句の果てにああなっちまった!
本当は私がパートナーになりたかった。 だがお前さんが選ばれた。 だから、パートナーに私が選ばれなくって、めちゃ悔しいが! お前さんが選ばれたから。 お前さんが、彼女を救えると思うから!………」
一瞬の沈黙、 長く短く、その時に俺は今までを振り返り比較し考える。 今までここまで、俺は頼られたことなど一度もない。 どちらかと言うと、俺はいつも頼ってき……た、んだ。 あぁ駄目だ。 また元の世界を思い出しちまった。 そう言えば、いつも言ってたっけな……。
「どうか、どうか! よろしく頼むよ。 頼むよぉ……」
彼女はどうやら泣いているらしい。 頭を下げている彼女は俺の表情が見えない。 俺も彼女の表情は見えない。 まるでドラマか映画のワンシーン。 ここまで思えるものなのか。
すげぇなーーーー
「分かりました。 俺、エルトが、11546のパートナーを請け負います。 ……だから泣くなよ。 会って間もねぇ俺相手なんかにさ」
ゆっくりと彼女は、顔を上げる。 ドラマとかだと、え?とか、キョトンとした表情とか多いんだろうな、と勝手ながら思ったが、彼女は違った。
「うわあああああああああぁぁぁん!!!」
今まで溜め込んできたものを零すように涙を流して、俺に顔を向ける。 窓から差し込む夕日が、涙ひとつひとつを照らし輝かせる。
「ありがとおおおおおおぉぉぉぉ!!! 本当にぃ、本当に!」
「もう、泣きやんでって。 こういう時ってどうすればいいんだ……」
俺はきっと、この涙を、泣き顔を忘れないだろう。 男気の強いルーダ博士の、本心を表すこの涙を。 表情を。 声を。 時間を。
読んでいただき、ありがとうございます。
誤字脱字がないかどうか心配です……
次回は、クエストに行くかも?
次も読んでくれたら嬉しいです!