最期が訪れるまで
今回は長めです。
舞台は改造後の少女の精神世界。
そこで少女は……
楽しんでくれると幸いです。
それは改造後まで遡るーーーーーー
ねぇ、ルーダ。 今すぐに会いたいと願ったら、会えるのかな。 痛い思いをして、お母さんを何回も呼ぶんだけどね、お母さんは来てくれないんだ。 でも同時にね、ルーダのことも頭に思い浮かんだんだ。 なんでだろう。 目の前の私に聞いても分からないみたいなんだ。
彼女は奥の暗闇に閉じこもってしまいました。
お母さんもルーダもここにはいない。 寂しい。 お花を育てていた時はこんなこと一度も無かったのに。 あなたも何故か悲しそうな顔をするのなんでだろう。
私に問い掛けているのでしょうか。 残念ながら私はプログラムであり人工物であるがために、適切な答えを持ち合わせていません。
そうなんだ……。
いませんが、貴方様の悲しみを表す表情を見ると不思議な感覚に陥ります。 どうやら私は貴方様のその表情を止めたいらしいです。
か、悲しくなんてないよ! 私はここまでルーダのおかげで生きてこられたんだから、今更また助けて欲しいなんて、思ってない、よ。
苦しげに答える少女。
嘘ですね。 ということは本心がそれですか。 いいじゃないですか。 助けて欲しいと素直に言えば。 人は協力し合って生きていく、一人では生きていけない生き物でしょう?
…………じゃあ! それなら……助けてって言えば助けてくれるの……? この声は、ちゃんと届くの!?
少しの間を置いて、少女は、溜め込んでいたものを吐き出すように。 隠していたそれらをぶちまけるように、その本心を明かす。
知ってるよ!! お母さんもお父さんももう居ないんでしょ!? 私を守るためにお母さん死んだこと、もう気づいてるよ…………あの花が咲いてる、あの場所に帰ってこないことも!
その声は、精神世界に響き渡る。 少女を構成する過去の記憶が、砂嵐にかすみながら次々に一瞬の出来事かのように切り替わっていく。 少女の精神状態が再び不安定になった証拠だ。
誰ももう来ない! 誰も助けになんか来ない! みんなみんな私の前から消えてくんだ! ルーダだって、いつか私の前から、消えるんだ……。 そして私も消える……。 どうせ、君も消えちゃうんでしょ……?
涙目で私に問う少女は、なにか答えを求めるが、それを拒んでもいる矛盾した目をしていた。
残念ながら私は消えることができません。 私も貴方様と同じように消えてしまいたいのですが。
そんなことを私は言いながら、このようなことを言っている自分自身に違和感を覚える。 このような機能、存在しただろうか。 と。
消えることができないって……! あぁ、そうだったね。 君は私だったね、新しい方の。 ごめんね。
何故謝るのですか。 謝罪を受けるようなことをされた覚えはありませんが。
このようなやり取りを、数時間、数十時間、何日間も続けて私達は過ごしていた。 身体は少女には見せられないほどの痛みとグロさに溢れていて、私の機能で、意識を精神世界に閉じ込めて、身体と干渉できなくし状態もなにも知らせず感じさせないままにした。 少女の身体の約半分は改造されている最中。
人とは愚かである。 ひとりの少女の命すら容易く奪い利用し壊していくのだから。 状況から見るに、この少女以外にも多くの者達がこのようなことを受けているそうだ。 これが当たり前に感じたら、多少少女から受け継いだこの人格や性格、知識などが狂ってしまうだろう。 それだけは、なんとしてでも避けなければいけない。
よぉし、思いついたよ!
どうやら決まったらしい。 今日は少女が私を呼ぶのに名がないから不憫だと、朝目覚めてからは、思いつきで始まってから今まで考え込んでいた。
君に私のことを教えるっていうのが私の今の役目、最後のやることなんでしょう?
少女は、私に時間がある限り様々なことを教えてあげると約束をした。 その姿にはすごいとの驚愕の言葉しか出なかった。 自分が私のせいで死んでしまうというのに、それを受け入れて私のためにと、最期の時間を私のために使っているのだから。
そうですね。
軽く返事をする。 それを聞き、次に満足気に口を開く。
教える、おしえるからとって、君の名前は今日から『シエル』だ! ね、いいでしょ? ねっ、ねっ!
少女は満足そうに嬉しそうに、私に輝く笑顔を見せてくれる。 ここで駄目と断ったらどんな顔をするか気になるところだが、やはり素直にお答えしましょう。
いいお名前ですね。 私、感無量です。 初めての名前、頂戴いたします。
と、少女の前で、おふざけ半分で跪く。 それを見て、慌てる名付け親の少女。
そんなことしなくていいよ! 私達は友達なんだし!
その言葉に私の中も揺れ動く。 だがこの反応は至って普通であるとすぐに理解する。 だがとても光栄である。 少女は、友達というほどの友達が今までにひとりもいなかったからだ。 元々人見知りが強く、それが直る頃には両親がもう傍からいなくなり、他人と接する機会が減り、母親の帰りを待つため数ヶ月程、あの花咲く場所に居たらしい。 そして不運にも今に至ってしまっているのだが。 それでも、ルーダとの出会いは本心から楽しげに語る少女にとっては、不運ばかりではなかったらしい。 だが、それでも……。
名付け親が亡くなってしまうことを知っていると、悲しみの感情が湧きますね……。
もうっ! 暗い話は一旦禁止にしたでしょ!
すいません、少々口に出してしまいました。
悲しみ疲れて、もう悲しみたくないと先週くらいに暗い話は禁止だというルールを少女は設けた。 少女こそ、数多くの悲しみを背負い込んでいるはずなのに、最初の対話以来、ほとんど本心からの悲しみを見せない。 私に気遣っているのだろうか。
■■■
それからどれくらいたっただろうか。 ルーダがこの部屋に来る3日前くらいに、少女は私からしたら今更だが、精神世界の中で想像したものを創造できることを知る。 だが、最初に創造したものが少女の見て見ぬふりをしていた悲しみを起こさせる。
お母さん……。
時折悲しそうな表情を浮かべて呟く時があったが、今回はその悲しみが長い間ルーダと言う女性に会えていないからか膨れ上がっていた。 それが引き金となったのか、少女の背後に少女の母親の姿が現れる。 そして背後から少女を抱き締めた。
え……
少女が驚愕の表情を浮かべ、それがすぐに喜びと困惑の表情で塗られ、精神世界の隅まで響くくらいの泣き声をあげて母親に飛びついた。
うわあああああぁぁぁぁん!! お母さんだぁぁ、会いたかったよぉぉぉおおおお!!!
母親は少女の頭を撫でてなにかを言うが、その口から声は出ず、口パク状態になっていた。
えっ……お母さん? なにも聞こえないよ……?
涙で顔を濡らしながら問う少女。 まだ少女は、これが記憶の中の母親だと気づいてはいないようだ。 これを伝えるべきかどうか、とても悩ましい。
え、聞こえない。 何も聞こえないよ、お母さん……。
次は不安からの涙目になる少女。 次の瞬間、精神世界は姿を変える。
これは、なんでしょうか?
母親だろうか。 先程見た母親よりも若々しい母親が、少女を抱き抱えているのだろう。 今見ているのは、その抱き抱えられている少女目線の主観映像。 母親は、不安に染められた目で遠くを見つめていた。 その目線を追うように少女も目線を動かす。
窓の奥。 遠くにある山が噴火した。 なにかが飛び散っている。 遠すぎてなにが飛び散っているのかは視認できない。 その噴火に驚き瞬きをする少女の目。 そして上を見上げて母親の顔を捉える。 母親は不安から悲しみへと染められた目で、涙を流していた。 片手で口を抑えている。 叫ぶのを堪えている様子だ。
これは、少女の記憶の中……?
パパ……?
どこからか、今の少女の声が聞こえた。 パパ……とは父親だろう。 だがどこにも父親らしき男性は視認できない。 次の瞬間、更にまた精神世界の姿が切り替わる。
過去の記憶の中だろう。 今の少女よりも背が小さめで、片手を自分よりも背が高い女性、おそらくは母親と手を繋いで歩いているのだろう。 場所は、今の時代では珍しい木造建築の家の中、外に続く扉に向かって歩いている。 記憶の中の少女の目線は正面にいったり母親を見上げたりと行ったり来たりを繰り返している。 なにかを楽しみにしている子どもを容易に想像できた。 手を繋いでいる母親も優しく微笑んでなにかを喋っている。
扉を開けると、花が咲いている庭があり、その庭の中にパラソルの付いたテーブルと椅子が置いてあった。 このような物は見たことがない。 とても珍しいものだろう。
そこにひとりの男性が先に座っている。 空いてる2つの空席は少女とその母親の席だろう。 そう考えると、あそこに座っているのは少女の父親だろうか。
あっ。
そこで目が覚める。 夢を見るように、少女の記憶の中を見ていたらしい。 少し離れたところに、記憶の中から創造された過去の母親が、少女に膝枕をしていた。 少女も寝ているらしい。 少しづつ姿が薄れていく記憶の母親は人差し指で静かにと優しく微笑んで促す。 私はそれに頷いて答える。
パパ、ママ……。
少女の寝言が静かに響く。 やはり少女も、自分自身の過去の記憶の中を見ているらしい。
最後なんて、言わないでよ……。 またこうして、3人で……。
ゆっくりと、苦しげに呟く少女。 過去にいったいなにが……?
その時、薄れていく母親が、我が娘であろう少女の額に顔を寄せて
『ごめんね』
と、母親であろう声で言って。 少女の額に優しくキスをした。
そして溶けるように、薄くなり消えてく少女の母親は。 完全に姿が見えなくなると同時に、目を覚ます少女。 その目は、泣いていた。 額に手をあて、温もりを感じたのか、流れるように落ちる涙の勢いが、 静かに強まった。
大丈夫、大丈夫だよぉ、もうちゃんとっ! お母さんとぉ、お別れしたんだからぁ……!
私がいるのに気づき、強がるように言う少女。 だが涙は止まらないので、その強がりに説得力はなく。
でも、すぐ会えるからって! 私は、頑張ったんだって! 言ったから大丈夫だもん!
言っていることに、理解が追いつけなくなってくるが、少女が頑張ったことは理解できた。 傍に駆け寄る。 しゃがんで、顔を合わせ、私なりに優しく頭を撫でてあげる。
うわあああああぁぁぁぁん! お母さぁぁぁん!!
それを引き金に、少女の泣き声は再び鳴り響き、私に抱きついてきた。
この時、精神世界とはいえ、初めての人間の温もりを私は感じた。 たとえ、相手が悲しみに染まっていたとしても。
だが違和感が生まれる。 父親の存在はどうしたのだろうか。
お父さんは、いなかったの?
グスッ、ヒグッと泣きべそをかきながら、少女は答える。
お父さんとは、会えなかったよぉ。 私のお父さん……誰なのぉ?
どうやら思い出せないらしいが、記憶の中にはちゃんといたのでいつか思い出すだろうと私は判断し、悲しみや不安などに駆られて震え抱きつく少女を、私も抱き締めた。
いつか、会えるといいですね。
■■■
遠くから大きな音が聞こえる。 それは戦闘音。 どうやら戦いが始まってしまったらしい。 もう手遅れだということを考えると、とてもやるせない。
少女も、母親との記憶の中での再会後、ルーダと言う女性にも会いたがっている。 だけど、この精神世界から抜け出さなきゃ、外の自分の身体に意識を戻すこともできないし、外の世界の状況は私だけにしか分からない。 私こと擬似的自我は、精神世界と外の少女の身体内とを行き来できるためである。
うーん、外に出られないんだよね?
そうですね。
ならさ、ルーダにメッセージとか残せないかなっ?
少女は困った顔から閃いたと言い出しそうな顔に変え、私に提案してきた。 なら私にできることは、死が間近の少女を全力でサポートすること。
なるほど、それは良い考えですね。 ですが、貴方様には文を書く能力があまり無い方だと思いますので、伝えたいことなどを申してください。 私がそれを文章に置き換えます。 それとも、音声で伝えるボイスメッセージにしますか?
うーん、どっちも!
了解です。 この短時間でどこまでいけるか分かりませんが、全力でサポートします。
そうして、少女は、ルーダと言う女性に対する想いを自分なりに言葉にしていく。 私はそれらを文に綴る。 だが、後半は少女は泣きながら本気で伝えたいことを言葉にしていった。
そうか、少女は母親と再会を記憶の中だが果たし、ルーダと言う女性とはもう再会はできないのかもしれないのか。 しかも、もう死んでしまうため二度と会えないということになる。
それから、何度か終わりを促したが、やっぱりまだ! と何度もメッセージ作りをやめなかった。 もしかしたら、これがルーダと言う女性との最後の関わりになるのかもしれないと、少しでも長くしていたいのだろう。 メッセージを綴ることによって、今この瞬間、ルーダと言う女性と繋がっていると錯覚しているのかもしれない。
ルーダ……ルーダぁ……!!
貴方様にとってお母さんとはまた違った大切な方なのですね。
それは。 少女の最後の、最期の全力。 死ぬ瞬間まで、ルーダと言う女性を想い綴った、最期の言葉達が。 その、ルーダと言う女性の心に届くことを願い、私もその瞬間のために今やるべき事を……やりたいことを、精一杯頑張ろう。 機械であることを忘れるほどの時間。
貴方様に、最後の祝福を。 最期に。
ん? なんか言った?
いいえ、なんでもありませんよ。
終わりも近いというのに、私は人間らしく嘘をついてしまったようだ。
読んでくれてありがとございます。
次回は少女の最期ーーーーーー
なにを思い少女は終わりを迎えたのか……
次も読んでくれたら嬉しいです。




