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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
28/197

一人が一機へ

今回は少し短めです。

ルーダ視点に戻ります。

何度も繰り返しても拭えない想い……

楽しんで頂けたら幸いです。

「うおおおおおああ!!」

ドサッ!

あれ、あまり痛くない。 そうだ、少女は……大丈夫そうだ。

どうやら死体がクッション代わりになったらしい。 だが辺りを見渡してみると、巨大な道、大量の死体だらけだった。 だが洗浄されているのか、見た感じは普通の人間であり、腐ってもいない。 でも生きてはいない。 全員が死んでいる。

死体がない空いてる場所に移動した。

「そうだ、インカムっ」

と、耳を触るがインカムが外れていることに今更気づく。 どこかで落としてしまったのかもしれない。

「ははっ……どうすりゃいいんだよ」

そう独り言を呟き、腕の中抱かれる少女の体を見る。 安らかな顔をしてやがる。

でも生きてはいない。

感傷的になり始める心に私は強がろうと自分にビンタをするが、痛いだけだった。

「こんな時、お前さんは私の顔をさすっていたよな……」

呟いて、冷たい少女の手を自分の頬に当てる。 自然と涙目になる。

眠っているように見える少女を優しく地に寝かせた。

それが逃げの行為だと分かっていても、辛かったから。

少女の横に、背を向け座る。

あぁ、どうせ誰も生きちゃいないし。 お前さんも眠っているようだし。 私は適当に独り言でも呟こうか。 子守唄でも歌ってあげようか。 なぁ。

「ねぇ、お前さん」

私はな、お前さんの母親になりたかったんだよ。 いいじゃねぇか、何度でも言わせてくれよ。 叶わぬ、届かぬ願いだけどさ。 そういや、お前さんは本当の母親に、会えたか? 会えたらいいな。 会えてるように願おうか。 この願いなら、まだ天に届きそうだ。

静寂は静寂しか答えない。 誰もなにも返事など何もしない。もちろん、傍らの少女も。

やっぱり孤独は辛いよな。 知り合いがいる今となっちゃ尚更だ。 お前さんもこんな気持ちだったんだろう? 傍には花の代わりに、お前さんの抜け殻、そのうち起動する半機械人間の体がここにいるよ。 でも、やっぱり辛いんだ。 こんな近くにいるのに、とても遠いところにいるみたいで。 現にそうだから。

やり場のない気持ちが溢れ、口から零れ出す。 仕方なく、次々に。

お前さんを見ていると、過去の自分が頭に過ぎる。 抑え込むように忘れていた、あの辛い日々の中にいた私を、嫌でも思い出してしまうんだ。だからかな、救いたいと。 守りたいと強く思ってしまったのは。 そんな思いで、孤独の中、花に水をあげる君の元へ行った。 そしたら、お前さんは笑っていた。 悲しかった。 懐かしき慣れたはずの感情が私を襲うのだ。お前さんのせい。 その強がった笑みは。 いつかのあの日を連想させる。お前さんの笑みが私を悲しませたんだ。 そんな出会いがつい数ヶ月前で。 お前さんは、私が失くした感情を蘇らせた。 それと同時に、お前さんは……。 いろいろ変わったな。 改造所ももうあんなだ。 カインもやっと長年の夢が叶うのに喜んでんだろうな。 なぁ、お前さんの。 私は、あの強がっていた笑みを、本物に変えれたかな。 お前さんになにを残せたかな。 お前さんの中に私は、どんくらいいんだろうな。 片隅でもいい。 それでもいいから、

なりたかった。

なりたかった、なりたかった。 なりたかった! なりたかった!!なりたかったんだよ……。

お前さんの、代わりでもいいから、母親に。 何故だか、お前さんが愛おしくてたまらねぇ。 こんなの初めてなんだ。 強く思うんだ。 お前さんの隣で笑い合えたらって。 きっと楽しんだろうなって。 何故だ何故だ、何故こんな私らしくないことを、いつまでも! って。 思うよ。 絶望しか感じなかった出会いまでの日々。 だがいきなりこんな狂ったような変化。 他人から見りゃそう思っている奴らもいるはずだ。

だけど。 でもな。 私は知っている。 答えはもう、分かってる。 分かってるんだ。 私は知らなすぎた。 こんな憎しみしか感じない世界に居すぎたせいか、温かさに触れるのが恐かったんだ。 私は、愛を知らない。 知らないんだ。 お前さんと違うから。 見てきた世界が、居た世界が違う。 違ってしまったんだ。 本来なら出会うはずもない。 はずなのに、出会ってしまった。 触れてしまった。 この汚れた手でお前さんを見つけてしまった。だから……。 私も、私も。 私も……! 私もっ!! 家族が、欲しかったんだなって。 涙した。 こんな世界じゃなかったら、そっちの世界だったなら! でも、でも、でもでもでも! もうなにも叶わねぇ! もうなにも変わらねぇ! もうお前さんはいないんだって!

ぽつりぽつり話していく。 時には自分に語りかけるように。 時には激昴して。

その瞬間、

「大丈夫ですよ」

顔を上げる。 と。

涙を拭うひとつの手。 その手は冷たくもどこか温かい。 声はとても機械じみていて、そして表情(かお)は。

「っっ!!!」

止まる。 なにかと聞かれたら、全てが。 否、ひとつだけ止まらないものがある。 涙が、どうしても止まらない。 ないはずのものが、何故か温かみを帯びて止まらず流れる。 そこにいたから。

あぁ、お前さんがいる。 朗らかな表情、でもどこか機械じみていて、それが強がっていた不器用なあの表情を連想させて。 思い浮かべてしまう。 面影を重ねてしまう。 あの小さき、今は亡き少女の顔と。

「申し遅れました。 私は11546と申します。 よろしくお願い致します」

丁寧な言葉遣い、機械じみた口調。 半機械人間の証。 そこで少女の死を更に強く実感してしまい、更に涙が零れそうになる。

ここまで涙脆かったかな、私は……。 しっかりしなくては、あの子と約束したのだ。 この子も守ると。 たとえ中身が違おうが関係ない。 私の愛しいお前さんだと。

涙を必死に拭い、挨拶を返した。

「貴方様はルーダ様ですね? 一件、メッセージが送られてきています」

それは。

「精神世界により、私、11546は精神世界での最期の記録を残してあります。 その中のひとつのメッセージです。 この行為より貴方様への好意が予測できます。 メッセージを表示し読むか否か、お選びください」

それは。 ……っ!

「よ、読みま、す」

恐い。 それが本心だった。 少女に嫌われてしまうことが、一番の不安要素。 だが、ここで読まずにはいられない。 どんな形であれ、それが少女の本心ならば。

そのようなことを思っていた私に対し。

どうして機械であるお前さんが、そんな顔をするんだよ。

「ありがとうございます……」

深々と礼をする。 そして上げられた顔は、とても感謝で満ちていた。 人間らしい温かい表情、微笑む唇、笑う目、そしてなにより。 流れる片方の涙。 まるで、生き返ったかのようなそれは。 私の目を見開かせる。 死体だらけのこの空間に光が差し込んだような錯覚がする。

「メッセージ後は、私独断で貴方様に聞いてもらいたい記録も提示します。 それではメッセージを開示します。 『ルーダへ』」

初めてのメッセージは初めてを与えてくれた少女から。

機械じみていて、人間じみている、少女の半機械人間が語るそれを読み終えるころには、きっと。 私に新たな熱が篭ったことだろう。

これが、別れる、本当の悲しみだと…………。

これより機械じみた彼女が読むのは、少女が捕まり改造され、精神世界で擬似的自我の作りものの心と対話をし、少女が死ぬ間際まで思っていたことを、擬似的自我が言葉にした文章である。 最期になにを思っていたか、それはまるで手紙のような。

人間ではなく擬似的自我であり、少女を奪ってしまった身である11546は、ルーダ・テミファルに静かに語り始めるのだった。

ねぇ、ルーダーーーーーー

読んでくれてありがとうございます!

次回は、また視点が変わり少女へ。

少女がなにを思い最期を迎えたのか……

次も読んでくれたら嬉しいです。

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