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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
23/197

すごかったんだなって

今回は長めです!

始まる変化は止まらない……。

楽しんでいただけると幸いです!

懐かしい思いを馳せながらカインとラッカーの後を追う。 この焦りや不安に駆られるこの気持ちが、あの小さき少女が私にとってかけがえのないものになっていることに不思議な驚きと言葉に表せない程のもどかしい想いがそこにはあった。 私は思考を正常に上手く動かせないくらい、様々な思考が頭を駆け巡る。壊れたように理解しづらい思いが錯綜して、自分でも何を思っているのか上手く表現できずにいる。

そんな私を、心配とは違う目で見るカイン。 何かを隠していると本能が訴えかけるが無視をして、混乱してるぐちゃぐちゃな思考を一旦ストップする。

「そういやよぉカイン。 あたいらを止めようとする奴がまだ他に内部にいるってのは本当なのか?」

この状況下の中で、また混乱しそうなことを言い出すラッカー。 だがそこでまた疑問が浮かぶ。

カインは何を知っているのだろうか? あの泣き虫で弱そうなあいつが何故ここまで行動力を発揮できている?

「ラッカー、その話はまた後だ。 ルーダもまだ混乱しているみたいだし、その件も追々説明しよう。 足止めを企てている奴はもう目星がついている」

そこには私の知らないカインがいた。 強く賢く行動力もあり、さすがに泣き虫だとは思えない程の優秀な人間がそこにはいた。 お前は誰だと言いたくなりそうになるくらい変わっていた。新たな不安が生まれる。

カインは、カインなのか? 私が今まで見てきた優しく弱く、たまに賢くて泣き虫なカインは偽物? それとも今目の前にいるカインが偽物?

「カイン………お前は、誰だ?」


その時の顔は今でも脳裏に焼きついているように、はっきり覚えている。


時が止まった。 否、とても遅く流れているような不思議な感覚。 視界に映る世界が暗くなったような幻覚、彼の、カインの顔は、今まで見てきた悲しい表情よりも、とても深い心からの悲しみが強烈に表れているように感じた。 だがその表情は様々なことを物語っているような感じもして。 まるで、ずっと前からこの日が来るのを理解していたような、ついに来たかと言わんばかりの顔は。 それでも気づかれたくなかったと言っているように思えて。

あぁ、どう言葉で表すべきか。 私の知る限りの知識ではまだ足りないようだ。 この天才の私でも。

「………ごめん」

■■■ ■■■


カインside……


その一言で血流が騒ぎ出す。

緊張や不安、だがそれを強く押しのけて僕を襲うのは深い悲しみ。 分かっていた筈の、予想していた筈の、予想通りの状況に、僕の心は揺れる。 いつか来ると覚悟していた覚悟が、どれだけちっぽけなものであったか認識する。

ルーダの瞳には、不安や疑いの念が込められていた。 とても怯え混乱しているように見えるその目は、いつかの出来事を連想させた。

どうやら僕は知りすぎたようだ。

後悔の波が押し寄せる。 悲しみと混ざり合う。 嘆く暇など今は無いと言うのに、心はやはり言うことを聞いてくれないか。 この一瞬でよくもまぁこんなにも思考を働かせられるようだ。 だけど、今はこれは優先すべきことじゃ無い。 頭では分かっているのに、自然と思考はそれに働くんだ。 ルーダが今あの子を一番に思っているように、僕も……。

「………ごめん」

試行錯誤の末、絞り出すように出た言葉は謝罪。 今謝っても、その場しのぎに過ぎないことを知っている。 ならば、何もかも終わった後なら、ちゃんと答えよう。

逃げるように思考を完結させて歩みを早めた。

「……作戦会議のため僕が作った部屋に行くよ」

■■■ ■■■

一瞬の深い思考を無理矢理留めて先を急ぐ。 今はあの子の奪還が最優先事項だ。

そこに

ガシャンッ、ガシャンッ

2体の機械兵が現れる。

「まさか本部にもう気づかれたってのかい?」

「あぁ、そうらしい」

カインが焦り始める。

「くっ……ぶっ倒しゃあいいんだろ?」

私は気持ちを切り替える。 とにかく急がなきゃいけねぇんだと自分に言い聞かせる。

「んじゃ右のはルーダやってくれ。 あたいは左をやる」

「了解だこのやろう!」

「こんな時に無力ですまない。 お願いしますふたりとも」

カインの台詞が終わると同時に、私はすぐさま床を蹴る。 距離を瞬間的に距離を詰められた機械兵はすぐに対応できず、私は素早く自分の右手の拳に左手を添えて相手の胸に肘打ち。 その後、流れるように肘を下向きに曲げて、ドアをノックするイメージで右手の甲を相手の鼻の位置に強打させる。 それに怯む隙に、最初に肘打ちして凹んだ機械兵の腹に、更にまた流れるように上半身や腰を回転させ、左ストレートを叩き込む。 そのまま機械兵は後方に吹き飛び、私は更に強く床を蹴り、吹き飛んでいる最中の機械兵の、凹んでいる腹に両足で蹴りを入れて床に強く落とす。 そのまま機械兵の腹を貫通し機能停止する。 振り返り、ラッカーの方を見てみると、壁に思いっきり叩きつけられ機能停止している機械兵と、その前で勝ち誇っているラッカーがいた。 壁には多少のヒビが入っている。

「っしゃー! 人間様の力なめんなぁ!」

「これで相手側も更なる追手を寄越すだろうね。 先を急ごうか」

■■■

カインの部屋に入り、カインはいきなり自分の本棚に魔法のような詠唱をする。 すると本棚がスライドして地下へと続く階段ができる。 中に入るとカインは壁の一部を押した。 本棚はスライドして、何もなかったかのように本棚が戻った。

「なんだこりゃ……」

ただただ驚いている。 こんな装置がこの改造所にあったのか、そんなことをカインに聞いてみると

「ははは、これは僕が作ったやつさ。 とりあえず中に行こうか」

「あたいらも初めて見た時は驚いたよ」

「あぁ私も驚いた……」

けれどラッカーのような理由ではない。 この装置には見覚えがある。 だが確か作れる奴はこの世界でひとりだけだったような気がする。 曖昧な記憶を探るが、時代が変わり作れる奴が増えただけなのだろうか。 ならカインは……

「あの装置を作ったのがカインなら、その作り方は誰から教わったんだ?」

ビクリ反応するカイン。

「これは、その……あれだよ。 ………秘密です」

「怪しいなぁカイン。 あたいらにも教えてくれたっていいだろ?」

ラッカーが追い討ちをかけるように聞いてくる。

「そ、そんなことよりも作戦だ作戦! 早く急ごう!」

カインは焦りながら歩みを早くした。 まるで逃げるように歩くカインに私達はついて行く。 そして数分後、ある扉に辿り着く。

「ここだ」

ガチャリ……

扉を開くと、そこには見たことがない部屋があった。 木製のテーブルと椅子、今は機械街でたまに見るくらいしか数がないランタン、冷蔵庫や机がある。 机の上には本や資料が山積みに散らかっていた。 窓はひとつも付いておらず壁も床も木製。 今の時代、ほとんど金属でできている物ばかりのため、本格的な木造の部屋は新鮮味を感じた。テーブルには紙や、あれは鉛筆だろうか。 そのほか機械が発達していない一昔前の文房具類がそこにはあった。

そしてその場に居たのはグリン室長を除いた改造チームフルメンバー達。 バーオリーやネイチャン、クロート以外は、久しぶりに会う奴らばかりだ。

「変わった趣味してんだろカインって。 あたいらはいろいろ驚かされるばかりだわ」

「まぁまぁそんなこと置いといて、ふたりとも空いている席に着いてくれ」

カインがまた逃げるように、私達に座るよう促す。

「さてと、カイン早く始めようじゃないか」

そう言うのは、この中で一番体のごつい男ロッカス。 傭兵としての経歴を持つが任務に失敗しクビになる。 路頭に迷っている最中に本部にスカウトされこの職に就くが、即後悔し辞めたいと懇願するも拒否される。 根はとても優しい奴で、改造に行くと決まってカインの横でカインレベルじゃないが、ずっと震えている。 だがその震えはカインのような悲しみからではなく怒りから。

「うっす! 早くやるぞ!」

「私達の調べてきた努力見したるね!」

次に元気に良くそう発言するのは小さなエルフ姉妹。 姉のビーダと妹のミーマ。 姿は幼いが60を軽く越えている。 仲が良くコンビネーションもなかなかで、何より情報集めや調べものでは改造所のなかで上位の腕を持つ姉妹はチームでできる自慢のひとつ。 今回もなにやらいろいろと調べてきてくれたようだ。

「全く遅いですぞカイン。 早く始めましょう」

眼鏡をクイッと上げていつも通り本を持って口を開くクロート。

「ルーダ、ここ空いてるわよぉ」

隣の空席をポンポンと叩き誘うのはネイチャン。 いつも通りの優しい雰囲気に、自然と不安も(ほぐ)される。 私はそのままその席に向かう。

「んじゃあラッカーはここ座ればいいッスよ。 ほらほら」

バーオリーもネイチャンのように少し乱暴に椅子を叩き、座れと促す。

「てめぇが隣かよ畜生」

少し苛立ちながらバーオリーの隣の席に着く。

バンッ

軽くカインが自分の目の前のテーブルを両手で叩き、全員からの注目を集める。そしてカインは自分の椅子の前に立ったまま話を始めた。

「まず作戦を話し合う前に、部外者の身を捕縛しようと思う」

その一言で全員に緊張が走る。

「この中にグリン室長のようにこの僕達の行動に納得していない奴がいる。 後から邪魔をされても面倒だ。 今回のことでグリン室長と関わりがあるかまでは分からないが今の内に捕らえておこう。でも僕はこういう乱暴なやり方を、ましてや仲間にするのは心もとない。 だから白状してくれないか、なぁクロート」

その一言で全員がクロートに目線を向け、クロートは焦り始める。

「はぁ? なんで俺がなんですか! 俺は違う! 違いますよ!」

「いいや、お前だよクロート。 このことに関してはビーダミーマ姉妹に調べさせたことのひとつだ。 それにビーダとミーマは自分達の個人情報を提示できるだけ俺にしているし、俺も同時に彼女らを調べたから信憑性はある。 お前が裏でやろうとしていたことは、結構凝っているもんだと分かった時は驚いた。 ビーダ、ミーマ、教えてやってくれ、クロートの犯そうとした罪を!」

「うっす! ラジャっす! ミーマ準備するぞい」

「もう準備完了してるよ姉上!」

テンション高く始める姉妹。 場の雰囲気が少し和らいだ気がした。

「まずは私から言うぞぉい! クロートがやろうとしていたこと、それはカインと同じ改造所の終わりだったんだ! しかぁし、それに至るまでの手段を犠牲有りでの考えの下で行おうとしていた。 改造所で働く者なら誰もが知っているであろう犠牲者の死体捨て場と、生贄の檻が何百とある地下にいる生存者や改造所で働く我々全てが死ぬと言う犠牲を得て達成するのがクロートの企てた作戦であるぅ! だがそこには肝心の本部への攻撃は含まれておらず、クロートは今のこの状況からの完全なる脱出が最終目標だと推測する。 理由はいくつかあるが、そのひとつに、クロートのことを調べた結果、彼は元は上級貴族のひとりだったが、ある研究を独自にしていたのがバレて追放される。 結果ロッカス同様、スカウトされこの場に辿り着いたのだ」

元気よく話すビーダ。 それとは反対にクロートの表情は曇っていく。

続いてミーマも話し始める。

「だけど、この職場に着き地獄のような場所だと思い知った彼は、この改造所内で働く者の中から自分と同じような不満を持つ者を慎重に選抜して、改造所破壊を企てるよ。 それと同時進行でなにやら別の研究も始めたらしいよ。 何の研究かまでは、もう研究成果表を提出したらしく分からなかったけど、その研究に人体実験が組み込まれていたのは確かね! しかもクロートはその人体実験用の人間を、大金を使い地下の生贄の檻から確保していたらしいね。 酷い野郎ね、吐き気するわ! そして、そのいつも持っている本も、実は改造所破壊の仲間との通信手段であり、仲間達に密かに取り付けた発信機で、悪巧みしていないか監視もこっそりしているんだよ! しかも仲間ひとりひとりの弱味を握っているから、仲間達は全員絶対服従ね! でも盗聴器は付いてなかったし誰と会っているかなどは分からないらしいから、仲間全員に取材できたね! ざまぁね! ざまぁ!」

途中毒舌を吐きながら、クロートが裏でやっていたことを次々と暴露していくミーマ。 クロートは汗を何度も拭いている。

「何故そこまで知っているのですか!?」

ついに白状しているような台詞を吐くクロート。 それに追い討ちをかけるように話し出すビーダ。

「うっす! 全部調査した結果である。 爆弾の設置も先週終わったらしいが、ミーマと私が頑張って昨日全て取り外した! 私達は頑張ったのだ! えっへんだ! しかもお前の仲間達も全て昨日解放した! あ、お前の仲間達を解放した後、一緒に爆弾処理したからあいつらも頑張ったんだった。 うん、私達は頑張ったのだ! はっはっはっは!」

テンションマックスで話すビーダ。 きっと調べている最中、胸クソ悪くて、今この瞬間それら全てをぶつけているんだろう。

「クロートのことは調べると調べるだけ最悪な評判がどんどん来るんね! 上級貴族の時に密かに研究した時の犠牲者は数知れず、裏では同じ上級貴族の弱いもの虐めに没頭していた時期もあったとか、それを警察に突き出しても立場を理由に見逃して貰おうと多くの汚い真似をしてきたとか、いろんな優しい上級貴族が言ってたよ! 普通の一般人では会えないはず上級貴族でも、クロートの話を出した直後すぐに迎え入れてくれたね! 優しかったよあの人達は」

ほとんどが嫌な性格の人間が多いと言われる上級貴族でも、良い奴は居るんだな。

そこでカインが口を開く。

「よってお前が脱出しても向かう所は冷たい牢屋の中だよクロート。 お前が今までやらかしてきた罪でも数えてな。 ロッカス縄でこいつを」

怒りで満ちた、私の知らないカインが居る。

「あぁ、承知した」

カインがロッカスに頼むと、ロッカスは普通の物より太い縄でクロートを縛り付ける。 クロートは絶望しているのか、全く抵抗せずそれを受け入れた。 そしてカインはしゃがみこんでクロートの耳に何かを詰め込む。

「これは……?」

「耳栓だよ。 聞かれた後に何か行動されても困るからね。 作戦は君には教えないことにする」

にっこり不気味に微笑みカインは立ち上がる。

「さぁ、作戦会議を始めようか。 一度言ってみたかったんだ、こんな台詞」

そう言ってカインは自分の席に着いた。 緊張が再度全員に走る。 ビーダとミーマはまだ喋り足りなそうな顔をしている。 まだ調べてきた情報でもあるのだろう。 作戦会議でもふたりが活躍しそうだな。


私の知っているカインは、きっとここで死んだのだろうか。 私が今まで見てきたカインが偽りだと思ってしまう程に、あの瞬間は衝撃的だった。 悲しみを体現していたあの表情(かお)は、私の心に大きく傷を付けた。 だけども、何故か嬉しさがあったのを、今となって気づく。 どのカインもカインだが、今までずっと見せてこなかったカインを見せてくれたのだと。 だがそれは何かが起こる予兆、前触れ。

カインはすげぇんだぜ? だってあいつはなーーーーーーー

エルトは、話と話の間のルーダ博士の喋りを聞きながら、ガースラーが呟いていたような小声で言っていたあのことを思い出していた。

カインの亡霊………ということは……………。

煙草を吸い終わり、ルーダ博士はまた一本取り出して軽く振り、また口に咥えて吸い始める。 次に口を開くのに差程(さほど)時間はかからなかった。

読んでいただきありがとうございます!

カインがついに動き出す!

次回は、始まる……!

次も読んでくれたら嬉しいです!


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