もっと、ずっと
今回は、表面上だけでも温かい日常は……
楽しんでいただけると幸いです。
花はいつも通り元気に咲いていた。
「今日も綺麗だな」
「そうッスね。 まぁ俺は初めてのご対面ッスけど」
「でも、お母さんがまだ来てない……」
その少女の一言で場の空気が暗くなる。 同時に落ち込み始める少女。
「ど、どうすんすかルーダ」
「お、おう。 ま、まずは水やりだ」
小声でバーオリーと話し、持ってきていたジョウロで水やりをする。
「私が、やるっ」
少女が涙目で私に手を伸ばしてくる。
また堪えてやがんなこいつ。 子供は子供らしく泣けばいいのに。
「分かった。 なら貴様にこの任務を任せよう」
と、少女に渡して少し後ろに下がった。
「馬鹿野郎、アホ、間抜け、わからず屋、世間知らず、言葉遣い下手女王め」
いきなりバーオリーに罵倒される。 その目は割と本気で呆れた目をしていた。
「なんだよバーオリー、嫉妬か?」
「違ぇよ、不器用人。 普通、幼い子に貴様とかはねぇッスわ。 ってかこの際だから言うが、大半の言葉遣いはもう慣れたし何も言わないっスけど、やっぱり貴様はねぇッスわ」
とても人をイラつかせる様な表情で言ってくるバーオリー。 少し後ろに引き気味で言うのも更に腹が立つ。
「はぁ? 私は今までこれで生きてきたんだよ。 貴様に言われる筋はねぇよ」
「うわぁ、今絶対に俺が指摘したからわざと貴様って言ったッスよね? うわぁ〜」
「喧嘩は駄目だよっ」
言い争いそうな雰囲気の中を割って入ってきたのは、小さき少女。 とても大人気ない気持ちが募る。
「ねぇねぇ、ルーダね、悪い子なんすよ? 悪口ばっか言ってんすよ、直した方がいいッスよねぇ」
腰を下ろし、少女の耳元でバーオリーが言う。
おい貴様、なに少女を味方につけようとしてんだ。 それは卑怯だぞおい。
「うんっ」
即賛成する少女。 純粋な表情で言うもんだから、私の気持ちが揺らいでしまう。
「ほらほらぁ、こっちもこう言ってんすから、直さなきゃあ」
「くっ……んじゃ何て言えばいいんだよ」
正直、この言葉が定着している以上、しっくりくるものが思いつかない。
「貴様以外で適当にいくつか言ってみたらどうすか?」
「……………貴様、いや……貴君、貴公、諸君? 貴方、てめぇ、お前……お前!」
しっくりとまではいかないが、これでどうだろうか、バーオリー達に聞くと
「さん付けした方が良いってお母さん言ってたよ?」
と少女から助言を貰う。
いや、人名じゃないっスけどねとバーオリーが言うが、この子の意見も取り入れたいと思う私がいて、了承。 それから何度か練習(?)をして
「お前さん、よし! お前さん」
「……なに馬鹿なことしてんすか」
「良かったね、ルーダ」
守らなくては、この笑顔。 そんな気持ちを抱きながら、水やりをして改造所に戻る。 戻った後、また私の変化にチーム一同は驚きを隠せなかった。
■■■
それから、一ヶ月後ーーーーーー
私はグリン室長に呼ばれた。 そういや今日は少女を見ていないなと思いながら、室長室に入る。
「残念な知らせだルーダ。 私の力不足だったようだ。 だが仕方なかったんだ、あの子はそう言う運命だったんだ。 君に出会ってしまったから」
グリン室長は何故だか暗い表情で俯きながら話す。 そして後半は何故か私を悪者扱いした。
だが、それよりも。 あの子がそう言う運命だったとは何だ。 私の心の中、すぐにモヤがかかり始める。
「どういうことだか説明をしてくれよ。 グリン室長」
無意識に睨む私の表情など気にせず、いきなりのことに問う。 同時にグリン室長の顔は険しくなる一方だ。
予想できてしまう思考を振りほどき耳を傾ける。 否定の心の声が内心に響き渡る。 まさか、いや違う、の繰り返しだ。 現実逃避一歩手前、あの子の元に走り出しそうな、探しに行けと訴える本心を抑えて、グリン室長が口を開くのを待った。
「捕まった。 あの子が改造チームに捕まった。 それも特部にだ」
その言葉を聞いた直後の大きな衝撃。 全身が鳥肌立ち、目が自然に見開かれる。
「てめぇ………っ!」
行き場のない、どうしようもない怒りを込め声を絞り出す。
込み上げる怒り、なぜ救えなかったという疑問、殺されるんじゃないかと焦り、その時自分は何をしていたという、また別の怒り。 感情は混ざり合い、本能が取り戻せと叫び出す。 本能が蘇れと囁きだす。
「このことは、まだ君にしか伝えていない。 何を言っても無駄だと思うが、俺は言う。 諦めろ。 特部の背後には本部がいる。 しかも先程、不審な行動の可能性が出たために本部直下の監視部がこちらに向かっている。 お前のような戦闘経験豊富な手強い奴らばかりだと聞いている。 そんな状況下の中で特部に手を出すのは非常にまずいんだ。 分かってくれ、俺も苦渋の決断に何とか踏み切ったんだ。 お前も知っている通り、俺は仲間が最優先事項、悲劇を生きる可哀想な少女一人と天秤をかけて俺の決意がどちらに傾くかお前は知っているだろう? だから………お前も諦めろ。 これは俺が二度目に出す、室長絶対命令だ!!」
長々と私を説得させるため話す室長。
あぁ分かっている。 今手を出せばまずくなることも、お前さんが苦渋の決断をしたことも。 絶対命令をするほどの事態なんだろう。 だが、それだとお前さんは、あの子と私たち仲間を天秤にかけた時点で……
「室長、お前さんはずっとあの子を仲間だと見ていなかったのか? それとも、こんなまずい状況になっちまったから、それを理由にあの子を見捨てたのか? お前さんが内心どう思おうとも勝手だがよ、お前さん以外はあの子を仲間だと思っているはずだぜ? 今までも今この瞬間も、そしてこれからもな」
負の感情を押し殺して、グリン室長の考えを改めさせようと言葉を選びながら言う。
ここで争っても何も生まないことを私は知っている。 彼も私の大事な仲間のひとりだから。 誰も望まない選択は避けようと決めたから。 お前さんはどうなんだ、なぁグリン室長。
「やはり、命令を無視するのか。 お前も」
「お前も?」
その時、背後の扉が開かれる。
「やっぱ俺らを説得できないんすからルーダなんてもっと無理っスよ」
「その通りだね。 あたいら全員失敗してんだからルーダ説得なんて夢見すぎだ」
そこにはバーオリーとラッカー、そしてカインがいた。
これはいったいどういうことか。
「おいおい、元天才様が混乱してるっスよ」
「やぁルーダ大丈夫かい? 実はね、グリン室長はルーダを説得する前に僕らに説得させようとしていたんだ。 だけどことごとく失敗してね。 望み薄のルーダを説得させようとしていたんだ。 まぁ結果は予想通りだったけどね。 それにしても、ルーダは普段からあんなことを考えていたんだね」
にこやかに笑いながら言うカイン。
私はついさっきの言動を思い出して、顔を赤らめる。 ああああ、なんて恥ずかしいことを私は…………!!
「俺の完敗だよ。 好きに暴れてこい。 俺はチームの改造をいつも通りして待っているから………」
グリン室長は落ち込んだ様子で了承をくれた。 何処かに違和感を漂わせながら。
「それじゃあ行こうかルーダ。 他のみんなも準備に取り掛かっている。 まぁまだ作戦会議もこれからなんだけどね」
カインが私に手を伸ばす。 自然と私はその手を掴んでしまった。
あつい。
そのままなされるがまま部屋を出ていく。 だが部屋を出る直前、
「あとで………………の………を………で………くださいね室長」
そんなカインの小声。 そして部屋を出て扉が閉まる直前、グリン室長のとても歪んだ顔が見えた気がした。
人間とは恐ろしいものだ。
温かな日常は崩れていく。 孤独な悲劇のヒロインの幼き、小さき少女が無事であるようにと、強く願ってしまうその心にはまだ、拭えきれない大きな違和感、疑問が張り付いていた。 それでも本能のままに、少女を求めて手を伸ばす。 彼女の心に、なくてはならない大切なものとなっていたということに、薄々気づき始める。 それらの想いを抱え走る。
なにが駄目だったとかなんて、全てが過ぎた過去となった今じゃ何もわからないだろう? 分かったところで、もう手遅れだ。 だから、同じようなことにならないように、今を大事に前よりも良く生きたいと思うんだ。 今現在のここにいる私の考えさ。
エルトは違和感を感じ始めるーーーーーー
そしてルーダは更に話し始めた。 煙草の煙を、風に乗せながら。
読んでいただきありがとうございます!
次回は、 カインが活躍……?
次も読んでくれたら嬉しいです。




