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半機械は夢を見る。  作者: warae
第2章
21/197

変化が始まった

今回も少し長めです。

少しづつ変わり始める……。

楽しんでいただけると幸いです。

その後、改造所に連れて行くと騒ぎになった。 チーム内にしか紹介はしていないが特にカインが、その子の事情を話し終わると同時に泣き崩れながら了承してくれた。 他のチーム員の人達も了承してくれた。 だが、チーム員は少女のことより私の豹変ぶりに驚いてた。

「ルーダって、こんな奴だったっけ」

「知りませんなぁこんな人。 もっと冷酷な雰囲気醸し(かも)出しているはずなんですがねぇ」

「ふふふっ、この子可愛いわねぇ」

「絶対あたいらが守ってやるからな!」

泣き終わって冷静を取り戻し、喋り出したカインに続き次々と喋り出すチーム員一同。

カインの次に口を開いたのは、眼鏡いつもかけていて本を持ち歩いている男クロート。 暇があれば本を読む読書家。 次に口を開いたのが、お姉さんみたいな雰囲気を垂れ流しにしているグラマーな女ネイチャン。 こいつは何故か名前と見た目がしっくりくる。 最後に口を開いたのは、筋肉がそこそこある男気の強いボーイッシュな女ラッカー。 元格闘家だが、貧乏な家のため、ここで日々精進しているらしいが、ほとんどグリン室長が仕事を背負っているため罪悪感を感じている。 ここにいる他にも4人チーム員が居るが、連絡で了承をとっている。 少なからず、このチーム員は誰もが改造に対し、批判的意見は持っている。 だからか、小さき少女をきっかけに、私達のチームは動き出そうとしていた。

あの子と私が出会って2週間が過ぎた。 もう誰もが少女と仲良くなっている。 私も3日に一度は、ゴミ捨て場のクレーターの花に水やりに行っている。 当然のことだが、母親は来ない。 それを聞く度に少女は悲しげな表情を浮かべる。 どこか無理をしていないか心配になる。

「今日はなにして遊ぶ?」

「こら、今日はあたいが担当の日だろっ! ネイチャンはどっか行ってろ、しっしっ!」

「私はふたりで遊びたいなぁ」

「ほらぁ?」

「くっ……優しき天使の願いは叶えなくては……」

遠くの方でネイチャンとラッカーが、小さき少女の面倒をみていた。 それを見て、私の内側には熱が籠る。

そこに

「変わったよね、ルーダって。 あの子が居てくれて本当に良かったよ」

その言葉に私は反射的に、近づいて来たカインの胸ぐらを掴む。

「あの子が不幸で、何が良かっただよ。 あの子は、ずっと独りでなぁ……」

声が震える。 だが、そんな私に対しビビりもしないカインは、そのまま喋りだす。

「それだよ。 あの子は確かに不幸だ。 家族も失くし独りぼっちだった。 だけど、そんな境遇の子のおかげで君は変われた。 過ぎ去った過去は、どうしようとも戻らないんだ。 だけど、変わらない悲しい過去は、新たなものを生み出してくれた。 今の君だよ」

カインの言っていることは理解はできている。

絶望しか感じず、時期に何も感じなくなっていた私の心に熱を灯してくれた、あの出会い。 少女の悲しみは、無駄ではなかった。 私を大きく変えてくれた。 だけど、

「そんなの、素直に喜べるかよ……」

言い方を変えれば、あの子が不幸になってくれたから私は変化を掴み取れた。 あの子が不幸じゃなかったら私は変わらなかった、と思う。 複雑な気持ちだ。 だから、

「そんなこと、口にすんじゃねぇよ。 あの子が笑ってりゃ、私は何故か嬉しい、ただそれだけさ。 根は何も変わっちゃいねぇよ」

私はそう吐き捨てると、ポケットから煙草を一本取り出して、軽く振り口に咥える。

「おいおい、ここは禁煙じゃなかったっけ」

「うるせぇ、お前のせいでイラついてんだよ。 こっちは」

その場にあった椅子に再度腰を下ろした。 続けてカインも隣に座る。 そして、遠くで元気に笑う小さき少女を、窓から眺めていた。

ふと、私らしくもない考えが思い浮かぶ。

「このまま、この時間が続けばいいのにな」

呆けた顔をしてこちらを見るカインの表情が視界の隅に見える。 だがその表情はすぐに穏やかになった。

「でも、改造は消さなきゃね。 この時間には不必要過ぎる」

口角を上げ喋るカイン。

どこか嬉しそうに見えたのは気のせいだろうか。

私はそこで押し黙る。

この気持ちを話した方がいいか。 疑問を解くには私の知らない答えを知る、誰かに聞かなければならない。 気になって気になって不愉快ななにかを、不本意だが私はカインに聞くことに決めた。

それは大きな一本。

「なぁカイン、最近さ。 いつも通りの改造の筈なのに、改造室に入ってねぇ筈なのにさ。 何か胸がズキズキするんだ。 本当に訳分からなくてさ、どうしてこうなるんだよって感じだ。 とても苦しいんだ、最近の改造はよ。 ……でも何故か懐かしくも感じるんだ。 なぁどうしてだと思う?」

唖然したままの表情を浮かべるカインが視界の隅に見える。

だがそこから返事は来ない。 数秒待っても返事が来ないのでふざけているのかと、カインの方を向く。

「おい、聞いてんのかカイン……っ!?」

カインは口を微かに開けたまま、涙を流していた。

「ルーダにも心があるんだね。 ……今までごめん」

弱々しい口調で言うカイン。

「はぁ? 貴様ふざけるよ、この天才な私でも心くらいあるわ!」

声を軽く荒らげて、再度カインの胸ぐらを掴む。 だが、彼は何故か満足そうに、笑顔を保ちながら涙を流していた。

「一体何に涙を流しているんだ貴様は」

呆れて胸ぐらを掴んでいた手を離す。

改造の時の絶望した涙以外でカインが涙を流すのを、私は初めて見た。 遠くでは少女の笑い声が響いていた。 明日は水やりに行かなきゃな。

■■■

「私も水やり行くよ」

「いや、おじちゃんと遊ぼうよう」

「犯罪臭がするなぁ。 隔離でもするか」

「賛成ですぅ」

今日は元々グリン室長が担当の日だったが、私が水やりに行くと言ったら、少女も行きたいと言い出して、グリン室長は少女に懇願していた。 だがその様子を見たカインが、ちょうど近くにいたネイチャンと共に、少女からグリン室長を引き剥がし何処かに連れて行ってしまった。

「おじちゃんと遊ぼうよぉぉぉぉぉ………」

「現行犯逮捕、グリン室長」

「また会えますよぉ室長」

ズルズル引き摺られ部屋から消えるグリン室長。 彼は毎日地獄のような時間をほぼひとりでこなしていて、窶れた心の癒しになるからと担当の日はいつも以上にテンションを上げて、少女をたくさん笑わしていた。 最近は、その癒しをバネに改造仕事をしているらしい。 が、少女と触れ合うたび改造の時間がだんだん辛くなっていっていると思う。 前よりもやる気が出て、前よりも絶望し悲しみ、前よりも楽しむ時間が増えている。 グリン室長、おつかれだな。

そして、今に至るーーーーーー

「今日はお母さん居るといいなぁ」

「もし居たら、今日はチーム全員で宴会だな。 室長が」

「そんな金、室長にはないっスよ」

少女を真ん中にして右に私、斜め後ろ左にバーオリーが歩いている。

バーオリーは、マイペースで何でもできる私からしたら室長の次に改造に関して実力のある男。 だが、ほとんど顔を出さずたまに来ては、改造室に勝手に入りグリン室長の手伝いを勝手にして、改造が終わる前に勝手に出て行く勝手気ままな奴。 だが、最近は小さき少女が居るからか、前よりは顔を出すようになり、バーオリーの担当の日はしっかり改造所に来て面倒を見ている。 だがバーオリーは少女に改造所のカメラの死角だけを移動して案内したり、外に連れ出して周辺を散歩したりと、危険な行動もしている。 そのため、バーオリーが担当の日は、決まって別の誰かの担当の日と被らせている。

皆、少しづつ変わり始めている。 少女が居ない少し前までは、皆顔が死んでいた。 ほとんどのチームも同様、誰もが絶望し悲しみを抱き、罪悪感や背徳感など多くの負の感情を持ち歩いていた。 それを見るのも耐えられないと、ある日を境にグリン室長は自分から、犠牲になりにいき、できるだけチーム員の心を治すのに尽力したが、グリン室長の心ももうズタボロだった。 「本部の監視カメラさえ無ければ、密かに捨て子の犠牲者だけでも救い出せるというのに」そんなことをカインが前話していた。 今の私ならよく分かる。 この子に会った時、この子のような子供まで改造に使うのは間違っている。 家族に見捨てられた悲劇の主人公に、どこまで悲しみを植え付ける気だ。

「どうしたの?」

「ん?」

「さっきから気難しい顔してますよ。 どうしたんすか」

ふたりに指摘され気づく。 どうやら顔に出てしまっていたらしい。

「なんでもねぇよ。 ほら見ろ、もう少しだ」

誤魔化すように私は言う。

花のあるクレーターが見えてくる。 今日もいい天気だ。

「お母さーん!」

少女がいきなり走り出す。 だけど私は危なっかしいその走りを止めない。

少女は今でも心から信じているのだから。 自分の母親が、あの場所に戻ってくるのを。 そのような気持ちは、止めてはいけないと思った。 毎度思うことだが、本当に今までの自分を思い浮かべると私らしくない。

「危ねぇっスよぉ」

バーオリーが小走りで少女を追う。 私はいつの間にか微笑んでいた。

そんな自分が不思議に思えて、それと同時に虚ろだったあの頃の私を否定しているようで、過去の自分が足を掴むような感覚がする。

そりゃあそうか。 だってここは私があの子と出会い、私が変わった場所だからな。

「私を忘れる気か?』

背後から声がする。 だが背後に気配はない。 それは過去の自分からの声。

「私を爪弾きにして、前に進むのか? ずっと共にいたのに』

具現化する程、辛かった日々だったのだと。 今この瞬間、ついに意識的に気づく。 無意識にはずっと気づいていたのだ。 意識は、それを拒んだ。 心とは難しいものだ。

「仕方ねぇだろ、あの子に出会っちまったんだからよ。 何故かとても心にくるんだ。 本当に分からないものが。 お前も気づいてんだろ? もう眠れや」

「拒まないでくれ、私は孤独も何もかも嫌いなのだ』

私は過去の私を思い浮かべる。 なかなか上手くは思い出せないが、私は私を拒まないように、あのときを思い出して……

「大丈夫、私の中でただ眠ってろ。 もう進まなきゃいけない時間なんだ」

「……ありがとう』

なんだか自分に感謝された感覚だからとても不思議な感じがした。 過去との対話、私は大きく私が変わったことを自覚した。 もう絶望しなくていいのだ。

「何してんすかルーダ、早く来てくださいよ」

「あぁ、今行く」

バーオリーに呼ばれ私も小走りに走り出す。

せめて今だけでも、この時間を大切にしたいと、私はいつの間にか思うようになっていた。 前まではこんなこと思ったことも、多分なかったと思う。 この子の何に惹かれたのか、まだ分からないが、守らなくてはいけないものができたのには変わりない。

どうか、いつまでもこのままで。 そんな、大切にしたいという私らしくない気持ちが私の心の中、根強くあることに、今の私はまだ気づかない。

読んでいただきありがとうございます!

次回は、カインが………?

次も読んでくれたら嬉しいです。

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