狂った日々だった
今回からはルーダ博士と11546の出会いの過去編!
いつもよりも長めです! 誤字脱字あるかもしれません。
基本的にルーダ視点でいきます。
楽しんでいただけると幸いです!
黒く冷たい。 冷酷宿るその瞳には温かい感情など微塵も映っておらず、ただただ絶望が淀んでるいる。 耳に入る悲鳴や断末魔、罵声や怒声などもう彼女は聞き慣れてしまった。 耳を塞いで悲しい音や声を拒んでいた彼女は、そこにはもう見る影もない。
「嫌だぁぁぁ! 痛い痛い痛いよぉぉ!!」
「静かにしろ、今は大事な改造中なんだ」
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁ!!!!」
近からず遠からず、何処かの部屋から鳴り響く声は非人道的な行為を連想させる。 それがこの世界である。
「またか……」
この改造所に来て数年、毎日のように子供を中心に数々の人々の悲鳴が鳴り響いている。 もうこんな声に今更何も感じないが、だからと言って聞いていたいとも思わない。
「少し散歩でもするか……」
白衣のポケットに手を突っ込んで歩くのは、瓦礫と機械の残骸が積み重なってできた山々が、あちこちにあるゴミ置き場。 特に目的も何もないが、暇潰しに歩いてみた。 また午後からは改造の時間がやってくる。
「それにしても、眩しい青空だな。 またあの日みたいに黒く染めてやろうか」
独り言をしても意味などなく、ただただ歩いて私は改造所に戻る。
ここは第2改造所。 生きた死にかけの人や小さい捨て子、老人や罪人など人々に見捨てられた人が回収され人体を機械に改造される施設。 そして、改造後は人と認められなくなる。 改造後は機械の進歩のため様々な研究・実験に使われる。 ちなみに他にも第1改造所は主に死体を改造する施設で、改造後は機械人間の研究・実験に、第3改造所は動物等の改造する施設で、改造後は兵器などの研究・実験に使われる。 よって第1から第3の研究所・実験場があり、それらをまとめる本部と死体保管庫、人と動物を同時に閉じ込める檻が地下に何百とある。 生きてるものには全て、鎖が繋がれていて逃げ出すことができない。
「さて、嫌な時間が来たね。 ルーダ」
椅子に腰を掛けてコーヒーの入ったカップを片手に外を眺めていると、ひとりの男が近付いてくる。 彼の名はカイン・アヴィエール、私と同じ改造チームのひとり、要は同僚だ。
「嫌だと? いつものことだろう。 そろそろ貴様も慣れたらどうだ?」
「僕は絶対慣れないよ。 いつも言ってるじゃないか。 慣れたら僕は人間止めてやるよ」
いつもこいつは、こんなことを言っている。 嫌なら逃げ出せばいいのに。 行動と言っていることが矛盾しているんだよ。
「ほぉ、なら貴様も改造されてあぁなりたいと言うのか」
ちょうど目の前の窓の外を通りかかった荷台者に積まれた失敗した改造人間、通称『半機械人間』の壊れた死体の山を指さして言う。 すると彼の顔はすぐさま青ざめる。 そして震えた口から小声で言葉が零れ、
「ふざけるな………僕は改造される側ではない。 将来、この改造の全廃止をする者だ!」
後半は声量が増して、高らかに宣言する。 別に立ち上がらなくてもいいだろうに。
「フッ、夢の見過ぎだぜカイン。 現実を見てみろよ、世界はこんなに汚れてる。 これをしたのも人間様だぜ?」
そう言うと、カインは悔しそうに表情を変える。 だが根の部分はまだ諦めてはなさそうだ。
「行こう、最悪な時間が始まる……」
「あぁ、いつものだな。 そんなんじゃいつか壊れるぜ? カイン」
静かに歩き出すカインを追って私も歩き出す。 持っているカップの中のコーヒーはこぼれない。
■■■
「来たか、天才野郎と馬鹿野郎」
「そうだ、私は天才だ」
「僕は馬鹿じゃないっ!」
改造室の扉を開くと、速攻で私達に話しかけるのは元騎士のグリン・トーオット室長。 私達のチームが使う改造室の責任者である。
「今回はこの3人だけでいいのか?」
実際にはチームは9人までいる。 この人数はどこのチームでも原則これで、規模が小さいと数人でやったり、規模が大きいと全員参加は勿論、他のチームと合同の時もある。 まぁこっちは人だから合同なんて滅多にないが、第3改造所ではよくあるらしい。 あそこの改造所は規模がでかいからな……。
「あぁ、招集されたのはこれだけだ。 今回はあまり時間がかからなそうだからな。 喜べカイン、お前の嫌いな時間はこれで今日は最後だぞ」
「そんなの喜べるか! 僕が本当に心から喜ぶ時は、これらの改造全てが全部廃止になり、この世から跡形もなく消え去った時だけだ!」
「ハハハ、そうかよ。 だがそれにしても毎度毎度お前の勇気には驚かされるぜ。 カメラの前だぞ?」
「はっ!!」
カインは部屋の天井四隅を見て慌てる。 改造室には必ずカメラが設置してある。 そして改造後は室長が、そのカメラで録った映像を本部に送信しなければならない。 違反的行動をしている者がいたら、即刻強制死刑される。
「仕方ねぇなぁ。 俺の編集技術で今回も助けてやるよ。 同僚が死ぬなんざ目覚めが悪いからな」
「いつもいつもありがとうございます!」
グリン室長は映像の編集技術が高く、これくらいの音声操作くらいは容易にできる。 本部はグリン室長の編集技術など微塵も知らないが、いつもそのおかげでカインは命拾いをしている。
「俺だってこんなの胸クソ悪ぃんだ。 騎士やってたから少し慣れちまってるだけさ。 俺もお前と同じ騎士などしたことない青年だったら、同じことを言ってるよ」
「もう青年って言える歳じゃねぇだろ」
グリン室長は40を軽く越えている。 それが癇に障ったのか苛立ちを見せるグリン室長。
「黙れ天才クソ野郎。 さぁ、ちゃっちゃと終わらしちまうぞ」
「クソはいらないかなぁ」
「あぁ、嫌だなぁ……心が折れるぅぅ……」
ウィーン……
床が開き、中から出てきた寝台に縛り付けられているのは小さな男の子。 目を黒い目隠しで覆われ耳の穴には鉄の耳栓、木で作られた猿轡ががっしりと付けられていて、両腕両脚は寝台に固定されていて、首と手首足首には鎖が繋がれている。 その先には鉄の球体。 男の子は涙を流して呼吸を荒らげ、抜け出そうと必死に抵抗している。 だが寝台はビクともしない。
「フーっ! フーっ! フーっ! フーっ!」
「見てられねぇよぉ……」
「……いつも通りに、まずは耳栓から」
「了解」
強力な磁石で耳栓を抜く。 その途端に一瞬男の子の動きは止まり、すぐに抵抗が更に荒くなる。 大抵最初の耳栓を抜く作業をすると、安心感により動きが静かになるか、焦りや不安、恐怖により更に荒くなるかのどちらかだ。 今回の男の子は後者らしい。
「次は、目隠しを。 カイン」
「え、嫌だ。 やりたくねぇよ」
「そこまではまだ技術が上がっていないんだ。 早くしろっ」
「うぅ……」
次にカインが恐る恐る男の子の目隠しを外す。
「ひっ!!」
「っ!」
カインとグリン室長が驚く。 別に驚くこともないだろう。 よくあることだ。
男の子の目は開かず、血を大量に流した。 目隠しにより涙しか流れなかったのか、外した途端、血が洪水のように流れ出る。 よくこういうことはある。 抵抗し続ける人の眼球をくり抜き、猿轡を早い段階から付けるという非人道的行為。 だが、ここに運ばれてきた彼らは、もう人ではなくなるのだから、人扱いはほとんどされない。
「くっ……そがぁ……!!」
声を絞り出すように、声量を堪え言うグリン室長。
「あぁ……あぁ、あぁぁ………あぁ……」
カインも頭を抱えて、いつも通り精神不安定になり混乱している。 怯えて震えている。
「いつも通りだ。 室長命令だ、ふたりとも部屋から出ろ」
「ならいつも通り言うが、私はまだできるぞ?」
「僕は嫌だ。 何もしてない。 違うんだ、やったのは本部で。 僕じゃないから、僕じゃないから。 来ないでくれ。 あぁ、あぁ……あぁぁ………!!」
カインは更に精神が不安定になり始めている。 どこからどう見てもいつも通りの光景。
「カインもいつも通りあぁなっている。 カインを連れて出てくれルーダ」
「私はまだやれるぜ。 甘く見るんじゃねぇ、私は天才様だぞ?」
「室長命令だ、ルーダ……何度も言わせるなよ…………っ!!!」
これが元騎士の威圧感か。 いつも通り、力強い睨みを向け、出ろと促す。
「へいへい」
私は諦めて、いつも通りカインを担ぎ部屋から出る。 そして部屋の前の椅子にカインを投げ飛ばし、椅子に腰を掛けた。 その直後、
「痛いよぉぉぉ!! 誰か助けてよぉぉぉ!!! あああああああああ!!!!」
中から聞こえる泣き叫ぶ声はきっとさっきの男の子の声。 それを聞いてカインは更に体を縮こませガタガタ震えだす。 ずっと小声でやめろを連呼している。 あぁ、いつも通りだな。
ガキッ、バキボキッ……キュイイィィィン……
「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」
中から聞こえるのは機械の音、男の子の断末魔、骨の砕ける音。
そして……。
血が吹き出す音、機械が接続する音、切り刻む音、内蔵が潰される音、なにかが取れる音、様々な機械の音、男の子の徐々に弱くなる断末魔、そしてーーーーー
「またかぁぁぁぁ!!! またこの手が救えるはずの!! 幼き命を踏みにじったのかぁぁ!! おい! 答えてみろよぉぉ!! いつまでこうして! 俺は罪を重ねるつもりだぁぁぁぁ!!! この、クソッタレがぁぁぁぁぁ!!!! いつになったら!! 俺は!!! ……………罪なき命、救えるんだ……………くっ!! うわああああああああああああああああああ!!!!!」
グリン室長の叫び声。 なにもかもいつも通りに終わる。 数分後、
ガチャリ……
「改造は終了し無事送り終わった。 俺はもう戻る」
死人のような死んだ表情で、グリン室長は足取り重く帰っていく。
彼は元騎士、それ故か悲しみをできるだけ与えないよう、私達にはほとんど改造をさせてはくれない。 そしてその仕事放棄を隠すため、彼は徹夜で毎日映像の編集技術を知人から極秘裏に学んでいるらしい。 映像なんてもの天界都市か核都市にしかねぇはずなのに、一体どんな偉い立場の知人なんだ? それにしてもバレたらチーム全員強制死刑かもな。
これが日常。 これを数年間やって過ごしている。 だが私はそんな日常を、心の何処かでカインみたく胸クソ悪く思っていたのかもしれない。 そんな気持ちを抱かせたのは、あいつに出会ったから。 全てのきっかけを作った、あの子ーーーーーー
読んでいただきありがとうございます!
次回は、ついに幼き…………。
次も読んでくれたら嬉しいです!