そして振り向き始める。
今回はいつもより短めです。
楽しんでいただけると幸いです。
「んじゃあ、行くかぃ。 エルト」
雰囲気が違った。 博士からは、話したくないと言うような感じはなく、ついに来たかと言うような感覚が感じ取れた。
道を歩き始めるーーーーーー
「何処に行くんだ?」
「いいからついて来いよ。 ここじゃ話すのもなんだから、私のお気に入りの場所に連れてってやるって言ってんだよ。 さぁ、来い」
俺は博士について行く。
「着くまでは時間かかるから、雑談でもしようか」
「そんな遠いのか……」
博士は歩きながら、雲ひとつない澄んだ青空を見上げた。 俺もならって見上げる。 いい天気だ。
「お前さんは、本当にここが天界だと思うか?」
唐突に質問を問い掛ける博士。 歩きの速度は変わらず。
「俺も同じ疑問を抱いている。 世界は本当に天界だと思っているのかってな」
「お前自身はどう思っているんだ?」
ここで話すかどうか悩むが、俺の地球知識から考えて正直に答えてみた。
「俺は普通にこの世界も、空に浮かぶ星と一緒だと思っているよ。 だけど、この世はどうやら天界と言われていて、まぁ宇宙に出て見なきゃ真実は分からないが、もしかしたら天界と考えた方が都合のいい奴らが居るのかもしれないな」
そう言って博士の方に目線を向けると、博士は歩きながら俯いて目を見開いていた。 あれ、この世界じゃ非常識過ぎたかな、この考えは。
「どうした?」
「あぁ、お前さんが懐かしい考えを話すもんでな。 昔の同僚を思い出してたんだ。 お前さんが、あいつと同じ考えを話すもんだから少々驚いてな。 久しぶりな感覚がしただけだ」
同僚? 研究仲間かなんかか。 博士が驚くこともあるんだな。
「博士はどう思っているんだ?」
「私か? 私は何とも思ってないさ。 どうでもいいよ、そんなこと」
なんと無責任な。 自分は意見を持たず、他人の意見だけに興味を示すか。 あんたそれでも博士かよ。 ジト目で博士を見る。
「な、なんだよエルト」
「なんでもないっスけど」
■■■
「まだすか?」
「まだだなぁ」
相当歩いた筈だが、一向に着く気配がない。 道は長い。
「暇だから、質問するよ? この世界は今どんな状況なんだ? 多少人間も居るが機械の生き物も、いや生き物の機械? も結構多くいるが……」
「………そうだな、私が知っている限りだと人間の数は減少傾向にあり、機械類は増加傾向にあると言うことだ。 機械が生まれてから世界は機械の進歩に全力を注いできた。 特に人型や生物型の機械をだ。 だから今の時代、人型は勿論、動物型を始め魚類や虫類までもが開発され続けている。 機械の戦争がいつ起きてもおかしくない状況だが、それを防げているのは中心深部核都市エヴェン・トリディースのおかげだろうな。 あそこにいる上層部の野郎共が支配を仕切っているから平和は表面上でも保たれている。 まぁあいつらは今、いろいろと放棄しているから、弾圧も強制も何も起こっちゃいないが」
意外と詳しいんだな。 核都市の方はあまり知らない方かと思っていたが、いろいろ知ってそうだな。
「博士は核都市には行ったことはあるのか?」
「いや………ないな。 多分」
「いや、多分って、覚えてないのか?」
「覚えてねぇなぁ。 まぁこの歳だしな」
歳? そういや博士は何歳なんだろうか。 見た目からすると若そうに見えるが。 しかも話しぶりからして、自分の目で見たような感じがしたし。
「なぁ、博士今は何歳だ?何年生きてる」
「おいおいお前さ〜ん。 レディーに年齢を聞くなんてマナーがなってないねぇ、そういやエルトって何歳だ?」
質問を質問で返した!? マナーなってないのはあんただろう。
「て言うか、それ初めて会った時の自己紹介で言ったんだが。 18だよ、18」
「そうか? そうだっな、うんうん」
なんか誤魔化された気がする。 物忘れが激しいのかな?
「見た目若そうなのに、中身はおばさ」
「あ?」
「中身も若そうだなー」
瞬時に棒読みで嘘を吐く。 危ない危ない、また目潰しをされるところだった。
「だろっ?」
舌を出して言ってくる。 若さでも出しているのだろうか。 そういや俺の世界ではそういうのあまり見なくなった気がする。 なんかイラッときて
「ババア」
とボソッと小声で言ってみる。 すると博士の顔が鬼の形相に変わった。 と思ったら、
グサっ
視界が真っ黒暗闇に飲まれた。 あれ、何も見えないや。 あ、そうかあの鬼は幻覚だったのか。
「って痛ぁぁぁ!」
「私からのありがたい天罰じゃ。 重く受け止めぃ……」
「すみませんっしたぁぁ!」
なんだこれ、徐々に痛みが湧き上がるんだが。 痛む目を擦り歩く。 そろそろ着けよ、もしかしたらまだ目潰し受ける可能性あるんじゃないかと俺はビビりながら足を動かした。
■■■
「見えてきたぞ。 あともう少しだ」
「おっ、え?」
やっと座れると期待と共に顔を上げて見たら、その先は、瓦礫と機械の残骸が積み重なった山々が各地にある、ゴミ置き場だった。
「この先だ」
山と山の間を抜けて歩き続ける。 進むにつれ、山が大きくなっていき足元も瓦礫と機械の残骸で埋まっていく。 そして
「あぁ、あったあった。 ここだよ」
そう言って博士が見つめる先には、小さなクレーターができていて、その真ん中らへんには一輪の花が咲いていた。 そこだけは、瓦礫や残骸が避けられた形跡がある。 白色と桃色が綺麗に彩るその花は、元気に咲いていた。 この花どこかで見たことあるような……なんて言ったっけな。
「この花、こんな環境でよく咲いてるな。 見事な綺麗な花だ」
「だろ? 3日に一度は水やりに来てんだよ。 そう言われると育てがいがあるってもんだ」
えっ!博士が育ててんの!?と大袈裟にリアクションし、一発げんこつをくらう。 すいません。 目潰しじゃなかったことに、心の何処かで感謝する。
「この花はな、昔は11546、シエルが育ててたんだよ。 ……まだ人間だった頃にな」
やはり彼女は元人間だったのか。 ってことは料理屋のあれも……。
「最初それを見て私は、こいつ馬鹿だなーって思ってた訳さ」
「は?」
「いつ死んでもおかしくないあいつは、自分よりも花を優先していたんだ。 こんなゴミばかりの山の中、花なんてすぐ枯れる。 なのに一生懸命育てたりなんかしちゃってさ。 無意味で無駄な誰にも感謝もされない何の利益もないことをしてんだぜ? あの頃の私からしたら、何故そんなことをしてるんだって疑問が湧いたよ」
「冷たい考えだな」
「赤の他人なら普通の捉え方さ。 まぁ今となっちゃ、他人でもねぇし、もうあいつは覚えちゃいねぇ……」
そう言って博士は、ポケットから煙草を1本取り出し、軽く振って吸い始めた。 え、今どうやって火をつけた? ていうか、この世界にもあるんだな、煙草。 あっちとあんま形状も変わらないし。
「博士煙草吸うんだな」
「もう今はやめたけどな。 たまに吸うんだよ、昔みたいにな。 いいから座れ、ちょいと長くなるぜ。………私にはもう時間が限られているんだ」
「気になることが聞こえたが、あえて追求しないで従ってやるよ」
言われた通り、その場にあった機械の残骸に腰を掛ける。 博士の煙草の煙が、博士の吹いた煙が、交差し交わり宙を舞う。 そして、博士は口を開く。 俺の聴覚に緊張が走った。
「今から話すのは、私が11546、シエルとの出会いから今に至るまでの出来事……」
読んでいただきありがとうございます!
ついに語られるルーダと11546の出会いの過去
次回からは基本的にルーダ視点で過去の出来事が描かれていきます!
次も読んでくれたら嬉しいです!