経験値稼ぎはチートで
今回も続く魔獣族討伐!
楽しんでいただけると幸いです。
機械街グランド・ロボヘルツに攻めようとしている魔獣族の大群との戦いは今の所、人間側が推している。 だがそれでも次々と来る魔獣族の数に、一部の参加者達は疲れを感じてきているようだった。 そんな中、俺の体は、俺の意思はなくあやつり人形のごとく勝手に動き暴れていた。 戦う感覚だけが浸透してくる不思議な感覚に俺は徐々に慣れてきた。 シエルも俺の近くで戦っているらしいが、体の動きの速さのせいで、なかなか見れない。 というか、俺の体すげぇな! これで何度目の自画自賛……。
『次、行きます』
更に俺の体は疲れを感じず戦い続ける。
次の魔獣族と対面した直後に奴の足を斬りつける。 それでも目の前にいたミノタウロス似の魔獣族が斧を振る。 が、素早く斧の振り下ろされる軌道を読んで避け、振り下ろす瞬間に右手首に手のひらで相撲のように地面に向かって斜めに突き出しをし、腕の軌道を外側へ変える。 すると前のめりだった魔獣族の態勢が、転倒するように傾き、それに加え先程の突き出しにより、上半身の重心が斜めに地面へと傾いた。 その隙を待ってたかのように、タイミングよく反時計回りに片足を軸に回転し勢いを生み、左足で態勢を前のめりに崩した一瞬の隙に、相手の後頭部に回し蹴りをする。 そして相手は顔面から地面に倒れる。
『こういう時も、確実に死を与えることがポイントです。 もしかしたら反撃してくる可能性がありますので』
そう言って、倒れた瞬間に、魔獣族の首を斬る。 俺は今、戦いの講座でも受けているのだろうか。 いや、まぁあまり間違いでもないか。 それにしても、慣れって恐ろしいな。 観客気分で俺は戦い方を学んでいた。 次に、顔がカバ似の魔獣族が大きく口を開き威嚇しながら突進してくる。 見た目からは地球のカバよりは牙が少し大きい感じか。
接近してくるカバ似の魔獣族に対し、体を低く腰を下げて、こちらも素早く距離を詰めようと走り出す。 あと少しで交わる瞬間、地を蹴り魔獣族の大きな口へ高く飛ぶ。 空中にいるまま魔獣族とすれ違いそうになった瞬間、双剣の片方を大きく開いた口の牙を斬り落とす。 そのまま魔獣族とすれ違い、相手は悲鳴のような鳴き声をした。 その隙を見逃さず、姿勢を低くして接近。 それに気づいたのか、魔獣族は振り返り、手に持つ棍棒を振りかざす。 だが既に遅く、魔獣族の股の間をスライディングして抜け、その瞬間に足を数回斬りつける。 そして背後をとり、双剣を魔獣族の首に真横から左右共に刺し、自分の方へ力強く引く。 ズパッ、と音がして血のような液体が流れ出す、 それでもまだ倒れない魔獣族。 生命力が強く、あと数秒程で死を迎えるが、攻撃を1回するほどの時間には十分で、棍棒を真横に振ってくる。 それを双剣で防御するが、力に押され空に飛ばされる。 空中で、その後のカバ似の魔獣族の死亡を確認する。
「って空じゃねぇか! 落ちて死ぬなんてオチじゃねぇだろーなぁ!?」
死ぬ覚悟はしてきたつもりだが、やっぱりまだ死にたくない。 しかも自分の体が思うように動けないときた。 すると、
『スート、よろしくお願いします』
『はいはい。 やれやれ、人使いが荒いなぁ。 君も大変だね、エルト』
スート? え、まさかあの武器屋のか!? なんでこの通信に入ってんだ?
『聞きたいことがあるとは思うが、まぁ今は飲み込んでくれ。 状況が状況だからな。 そんじゃ行くぜ! トレンサーマジック! これで魔法が使えるようになるぜ。 まぁ俺が貸すってだけで、一時的だがなぁ! 』
『了解です。 ご協力ありがとうございます。 身体強化!』
すると、途端に自分の体力等が強化された感覚に襲われる。 成長……じゃないな。 なんだこの感覚は。 ん? 下ばかり見ていて気づかなかったが、空から見た魔獣族の大群は、まだまだ遠くに続いていると知った。 なんだよ、この数は……!?
『エルト様、感覚が狂うかもしれないので気をしっかりとお持ちください』
「え?」
直後、通信の人工知能さんの雰囲気が変わった気がした。
『……無双するぜ』
空中にて自由落下中、の体を縦回転させる。 あと少しで地面。 魔獣族の頭上に落ちるよう体の向きなど微調整して落下する。
ガッ……!
両足で魔獣族の頭を掴む。 重力により体が落ちる前に、次は体を横回転に素早く切り替えて、魔獣族の頭を地面に叩きつける。 一瞬のことで、その魔獣族は何も抵抗ができなかった。 そして首を斬る。
あの回転……体操競技を思い出した……。 てか物理どうなってんだよ。 重力を操るがごとくの体の動き方。
『重力が邪魔だな。 操るか』
「え?」
心が読まれた気がする。 雰囲気もだいぶ変わってきたな。 次から次へと魔獣族が来る。 そして、俺を囲むように魔獣族が立ち塞がる。 どこを見ても魔獣族……包囲された!?
『重力操作』
直後、取り囲んで襲おうとしていた魔獣族達がいきなり態勢を崩す。 その隙に、片足軸に高速回転して腕を広げ、双剣で見事に周りにいた魔獣族の首を跳ねた。
『まだまだ行くぞ』
距離を詰めて肘で顎を真上に強打し、目にも留まらぬ速さで魔獣族の胸を斬っては、遅れて表れる切れ目に手を突っ込み、心臓と思われる内蔵を引きずり出す。 嫌な音が耳に響くのを何とも思わずに出し切り、その心臓と思われる内蔵を、真後ろの他の魔獣族に目眩しのように、顔面に投げる。 トマトが潰れるような音と同時に、内蔵を引き抜かれた魔獣族を振り返りもせず反対側の胸部に向けて、剣を持つ腕を真横に振り刺して、それをスタートの合図のように刺した直後、視界を血で奪われた魔獣族の元へ走り出す。 そして両手を思いっきり同時に振り双剣を両方とも投げる。 その投げた剣は見事に、拭っている手の指の間を抜け、血で紅く染まっている魔獣族の眼球に両目とも両方の剣が突き刺さる。 そして、刺さった剣両方共に強力な重力操作をかけ重くする。 すると、剣が重すぎて眼球の奥へと少しづつ刺さっていく痛みに、魔獣族は吠える。 激しい戦場の中、その声はあまり響かず距離を詰めて身体強化の力強いアッパーをくらわせる。 吹き飛ばされた魔獣族は、頭が空中で逆さになり、それを狙ってか、その瞬間更に双剣の重さを何倍にもした。 そしたら、魔獣族は頭から地面の重さに耐えきれず勢いよく落下。 そのまま死んだ。 双剣を見たら、重すぎて双剣が魔獣族の脳を斬っていた。 双剣を拾いあげた。
まだまだ数のいる魔獣族を前に終わりが全く感じられない。 体力勝負だとこっちが不利だろう。 数的にも体力的にもこちらが負けている。 唯一勝てているのは戦力ぐらいか。 それにしても、エグいなぁ戦い方。 すると、壁の方から声がする。
「お前らぁ! 大砲の準備ができたぞ! 一旦下がれぇ!」
は? 大砲? 急いで離れる俺達。
ガチャンッ……ウィーン……
「ちょっと待て。 あれはデカすぎなんじゃ……」
『お、あれは……』
『へぇ……まさかまた見れる日が来るなんてなぁ』
「あれが博士の言っていた……」
いつの間にか近くにシエルも来ていた。 ん? 博士?
「博士が関係してるのか? あの大砲」
「あ、はい。 あれは博士が天才だと言われていた頃に開発した大砲、巨大全距離型光線大砲試作品4号だね。 危険すぎる、強すぎるを理由に大砲製作を打ち切られた要因のひとつだよ」
あの博士は世界でも壊そうとでもしてるのか……。 まぁ子供の頃に想像したりとかしなくもないが。 それを現実で作っちゃうのかね。 まぁすごいのは認めるけど。
「あの元天才野郎に礼を言う気はねぇが、これがあって本当に良かったぜ。 いくぜぇ、巨大全距離型光線大砲試作品4号! ドカンと1発、十数年ぶりにぶっぱなすぞ! ……うてぇぇぇ!!!」
ひとりの掛け声により収束していくエネルギー、破壊が起こると本能が告げる。 唾を飲み込む。 緊張が俺を痺れさせる。 危険なのは分かるが、見てみたいと小さい子供のような欲求に駆られ、目が離せない。 そしてーーーーーー
ズドドドドドドドォォォォォン!!!!!
大砲より放たれたエネルギーの収束した光線は、大地を大きく揺らし抉りとっていく。 魔獣族は一瞬で灰と化して消え、遠くの山をも貫き、近くの壁や建物が軽く吹き飛び平地になっていく。 爆風の嵐が巻き起こり、衝撃が止まずに地面を襲う。 そして。 爆風が去り、光線が戦いの終わり告げた後の目の前の地は、焦げた跡や崩壊した壁や建物、爆風により吹き飛んだ雲のせいで、空は晴れていた。 ははは……どんだけの威力だよ。
「す、すごかった……ね」
さすがにシエルも驚愕の表情を隠せずにいる。
「あぁ、そうだな。 ん? 体が自由だ。 あれ、キューブもいつの間にか戻ってる」
久しぶりに感じる自分の体の指導権と経験値を稼ぎ過ぎた感覚に俺は、とてつもない疲労感を味わった。 うっ……何もしてないのになんだこの疲れは。
「あ、ホントだ! いつの間に戻ったんだろうね」
「謎多い機械だな。 このキューブは」
何がともあれ、無事魔獣族の大群から街を守れたし、シエルはこうして無事に生きてるし、良かった。 よっしゃ、ミッションコンプリートだぜ! でもどうしてもまた疑問が……いや、確信がついた。 最後の通信の声……あれは博士だな? ってことは、まさか……?
小さな苛立ちと、大きすぎる疲労感を抱え、シエルと雑談をしながらいつも通り帰り道を歩く。 1週間とか言ってたのに1日で終わってしまったな。 そんなことを考えながら、シエルの笑顔に無意識に癒されながら戦いは幕を閉じた。
読んでいただきありがとうございます!
次回は、戦いが終わったと思ったら……?
次も読んでくれたら嬉しいです。