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第二の殺人

 吹奏楽部の部室に着くと、そこには異様な光景があった。

 入り口のドアが開いており、その付近には血の足跡がある。足跡の位置から察するに、誰かが吹奏楽部の部室から出た跡のようだ。

 嫌な予感がする式たちだったが、吹奏楽部の部室を覗くと、その予感が当たってしまったことを知る。

 そこには、喉にフルートが突き刺さった状態で倒れている水瀬聖奈の姿があった。


「み、水瀬さん……」


 榊がその光景を見て絶句する。


「榊さん、隼人さんに連絡をしてほしい」

「あ、はい……」


 そう言った後、式は死体に近づき、その様子を観察し始めた。

 喉に突き刺さっているフルートは首の後ろまで貫通している。傷口の周りは当然血が滴っていた。

 だが血はまだ乾き始めてすらいない。これを見るに、まだ死んでから時間が経っていないことがわかる。

 式は時間を確認した。十二時五分。十二時過ぎといったところか。

 胴体や足などは特に異変はない。血がついているところもないのを見ると、死因は喉を貫通させられたことで間違いないようだ。

 式は一応目視の範囲で他に外傷がないかを調べたが、それらしきものはなかった。

 他に気になるところといえば、何故か手にナイフを持っているという点だ。


「……」


 一通り見て、生じた疑問が一つ。


(なぜフルートが喉に突き刺さっているんだ?)


 この疑問には二つの意味がある。

 まず一つ目は、言葉の通り何故フルートが喉に突き刺さっているのかということ。他に目立った外傷がない以上、毒を飲ませた等の内部からの殺人でない限り、死因はこのフルートを喉に突き刺したことによるものだと推測できる。

 だがフルートは殺人の道具としては向かない。こんなものを振り回しても人を殺せるとは思えないということに加え、喉に突き刺そうとしても簡単にかわされてしまうことだろう。

 次に本当にフルートが喉を貫通したのか、という点。フルートは頭部管も足部管も先端は丸くなっており、どう考えてもこれで喉を貫通するほど突き刺すことなどできない。

 仮にできたとしても、それは突き刺すというよりもねじりこんで入れるようなものだ。しかし傷口を見てみると、ねじりこんだ跡ではなく、刺々しいような跡がある。どうみても喉に突き刺さっているフルートでこの傷口を出せるはずがない。

 つまり、水瀬の死因はフルートとは別の何かで喉を貫かれたから、ということになる。

 死体を観察していた式だが、死体付近にある一つの紙切れに気づいた。確認してみると、そこには『思い出の場所で永遠に』と書かれていた。


「これは……」


 今朝騒がれていた軽音楽部での殺人の時にも、この手紙が死体付近に落ちていた。ということは、水瀬を殺害した犯人は軽音楽部の殺人にも関与している可能性が高い、と式は推理した。


「式くん、隼人兄さんは今からこちらに向かうようです」


 隼人に連絡を終えた榊が戻ってきた。


「ありがとう」

「それで、何かわかりましたか?」


 榊は錯乱していたものの、少し落ち着きを取り戻したようだ。


「この殺人、少し変なんだ」

「変というと?」

「このフルートを見てほしい」


 式は先ほど自分が推理したことを榊に話す。


「なるほど。確かに不自然さは感じますね」

「それともう一つ思ったことがある」


 式は死体付近に落ちていた紙切れを指差した。


「これは井田さんが殺された現場である軽音楽部の部室にも落ちていたものだ。ということはこれは犯人が落としたものというわけで、この二つの事件は関連性があるってことだ」

「そうですね」


 榊も同意のようだ。

 現時点で生じた疑問を元に考えてみたものの、やはり犯人特定には繋がらない。隼人たち刑事が現場を調べ、新しい情報が見つかるのを待つしかなさそうだ。

 そう考えているうちに、隼人が急ぎ足で部室に到着した。


「隼人さん、来てくれましたか」

「ああ……。死体が発見されたということだよね」


 走ってきたせいか、辛い表情を浮かべている。


「ええ。死体になっていたのは水瀬聖奈さんです」

「さっそく調査お願いします」

「そういいたいところなんだがね」


 隼人は頭を悩ませていた。


「どうしたんですか?」

「実は、もう一つ死体が見つかったんだ」


 その隼人の言葉に式と榊は驚愕した。


「え!? 誰のですか」

「まだはっきりと確認したわけじゃないんだけど、通報者の言葉によれば亡くなったのは吉野貴子らしい」

「そんな、吉野先輩が……」


 榊は水瀬が死体で発見されたときよりもショックを受けていた。


「式くん、君は吉野貴子の殺人現場に行って調査をしてくれないか」

「え、俺がですか?」


 突然の提案に式は驚く。


「ああ。僕はこの現場を調べるから、あっちには行けない。一応何人か刑事を向かわせているから、彼らと一緒に協力してくれ」

「でも、俺が入っていいんですか? 表立って協力はしづらいって言ってたのに」


 式は先ほど隼人に言われた言葉を思い出す。


「まあ、本来ならね。でも今はここを調べたり、向こうの現場を調べたり、井田健二の自宅で調査をしたりと、人員を分散しているから人手が足りないんだ。応援をこれ以上呼ぶのも難しいと本部では言われた。だから君が調査をしてほしい。もちろん検死や現場捜査などは僕たちが行うから、何か不審な点を見つけたら報告する、といった形になるだろうけどね」

「わかりました。俺にできるならやります」


 式の言葉を聞いて力強く頷く隼人。


「ありがとう。事件が起きたのはミステリー研究会の部室らしい。場所はわかるかな」

「はい」


 その場所なら忘れもしない。

 式がこの学校に来てから初めて遭遇した殺人事件である元ともいえる場所だからだ。


「私も行きます」


 ショックを受けていた榊が話に入ってきた。


「榊さん。大丈夫なの?」

「ええ。吉野先輩は灯篭館の時にもお世話になった方です。私は彼女の敵を討ちたいのです」

「わかった。君たちは現場に向かってくれ」


 式と榊は大急ぎでミステリー研究会の部室へと向かった。

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