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7.
少女は笑わなくなった。
ピエロは芸を忘れてしまった。
森の広場にきょうもふたり。
静かな時間が過ぎていく。
カレシはね。
カレシはね。
とても素敵な人だったの。
はじめはとても、やさしかったの。
少女の言葉のひとつひとつが。
ピエロのこころをしめつける。
ピエロのしらない少女の世界。
ピエロのしらない他の男。
少女の語るひとつひとつに。
ピエロのこころはしめつけられて。
ピエロは不思議な気持ちをおぼえた。
嫉妬という名の気持ちをおぼえた。
ピエロは少女に笑ってほしくて。
なんとかしたいとおもっているが。
あいにくと。
森のピエロはひとりもの。
いままでひとりで生きてきて。
なぐさめるという芸をしらない。
芸をするなと言われては。
不思議なピエロに成すすべはない。
ピエロはいつもボンワリ立って。
少女の話を聴いていた。
日のおちるまで聴いていた。