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6.
ある日ピエロが広場にいくと。
少女はひとり、泣いていた。
森の広場の切り株に。
腰をおろして泣いていた。
カレシがね。
カレシがね。
さいきんとてもつめたいの。
わたしに会ってくれないの。
美しい少女は泣きながら。
ぽつりぽつりと言葉を漏らす。
カレシがね。
カレシがね。
あんなに愛してくれたのに。
あんな好きだと言ったのに。
わたしに会ってくれないの。
わたしを愛してくれないの。
少女は涙をこぼしつつ。
ぽつりぽつりと言葉を漏らす。
ピエロは少女を笑わせようと。
少女に笑ってもらおうと。
パントマイムをはじめたが。
こんなときに、ふざけないで。
少女は不意におこりだす。
ピエロは少女に笑ってほしいが。
あいにくと。
芸のほかにはなにももたない。
ピエロはひたすらおろおろと。
日のおちるまでうろたえた。