1-6 勇者誕生(?)
「お、お父様は私を護るという使命すら放棄されたというのですか・・・。」
時は、目の前の美姫が驚きのあまりはしたない言葉で発狂したほんの少しだけ後になっている。急に怒り始めたと思ったら、さっきまでの状態に戻っては、本気でショックを受けている顔をしている。今にも泣きだしそうでとても見ていられない。
「お父様は、お父様はとうとう私のことまで面倒くさいとお思いになられたというのですか・・・。」
「ま、まあ姫様、少し落ち着いたら・・・」
「別に私だって好きであの魔王様に襲われているわけではないというのに・・・。私だってできればお父様にはご迷惑をおかけしたくないと思っているのに・・・。それなのにお父様は女の人と遊ぶ方が私の身の安全よりも大事だというのですかああああああああああああ!?」
「ちょ、姫様!姫様!しっかりしてください!別にあの王様だって何か考えがあるかもしれないじゃないですか!いくら何でも愛娘の身の安全よりも大事なものなんてあるわけないに決まってるじゃないですか!」
「・・・そう思いますか?」
「そ、そうですよ!さっきまで王様は遊んでいるように見えて実は立派に国の治安を守っているって言ってたばっかりじゃないですか!きっと僕を勇者にするって言ったのも何か裏があるんですよ!」
「・・・いくら何でもそれは無理があるんじゃ・・・。」
「ほ、ほら、例えば僕が勇者になったって聞いた魔王が完全に油断したところを王様が颯爽と討伐する!みたいな作戦とか!敵を欺くにはまず味方からっていうじゃないですか?」
「・・・まあ確かにそうとも言いますけど。」
「大丈夫ですって!何とかなりますよ!僕だって戦い方を教えてもらったら少しは役に立ってみせますって!」
「・・・本当ですか?」
「まあちゃんと戦えるようになったらですけどね?」
「私のこと護ってくださいますか?」
「ま、ままま護りますよ?」
顔が近いです!近いですよ姫様!あとそんなウルウルした目で見ないでください!あとその上目遣いもやめてください!惚れる!
「・・・私の勇者になってくれますか?」
「なります!!!なってやろうではありませんか!!!!!」
こいつちょろい男だとか思った人は一回僕と全く同じ目線になってこれを味わってみてほしい。断る勇気が出ないどころか反射的に惚れてるから。
* * *
というか僕そもそも王様にすら勇者やるなんて一言も言ってないのにいきなりやります宣言して大丈夫なのかねえ。まず勇者って何をすればいいんだろ。
「ところで姫様。」
「はい!何でございますか勇者様!?」
「もう勇者確定なのね。」
なんだろう、この話を強引に承諾させる力は親からの遺伝なんだろうか。父も娘もそのルックスで数多の男女たちをこうして使役していったのだろうか。恐ろしい。
「それで勇者様!何やら聞きたいことがあったのではございませんか?」
「ああそうだった。結局僕は勇者になって何をすればいいの?」
「そうですね。まずはこの国を魔王の魔の手から救っていただかなければなりませんわ。」
「いや、ハードル高くない!?まだ戦闘の仕方も教わってないよ!?」
「大丈夫ですよ。だいたいどのゲームも最初は主人公のレベルは1からスタートですよね?」
「ゲームと一緒にしないでくれますか!?これ一応リアルだから!僕の命が懸かっているから!」
「あ、一応死んでも24時間以内に教会で神父の祝福を受けたら復活するのでご安心を。」
「えええええ、死者蘇生可能なのこの世界!?」
「はい、だから死んでも何回でも生き返ることはできますよ?ただ、痛みはもちろん感じますし、肉体は死ぬちょっと前の状態に戻るので老いや病気には勝てませんけどね。」
なんだろう、途端に現実味が無くなってきたなこの世界。というより急に物騒になってきたというか。
「でも、私たち王族は復活することができないんです。」
「え、どうして?」
「私たちは王家の血を受け継ぐ存在ですから。たとえ教会であろうとも私たちの身をいかなる理由があろうと弄ぶことはできないという決まりがございます。一説によると王家の血は一度失われると二度と復活させることはできない神聖なものだという噂も聞いたことがあります。だから本来、私たちは戦いなどというものには無縁であらねばならないのですが・・・。」
「そこで問題になってくるのが魔王っていうわけね。」
「はい、本来魔王様はお父様と共に戦いの技術を身につけた同志だったのですが、とある理由より仲たがいなさってしまったという話を伺いました。」
「なるほどねえ。つまり魔王は別に根っからの魔王の一族とかそういう訳のわかんない謎設定ではないのね。」
「でも事あるごとにこの国にたびたびちょっかいを出してきているのは事実でございます。それになぜか魔王様はこの国にやってきては私を攫おうと躍起になって私のことを毎回探しているみたいなのです。」
「なるほど、王様が最初僕を見たときに今度はそういう手をみたいなこと言ってたな。あれは魔王が僕を潜伏させたって勘違いしてたわけか。」
「このような事態になっている以上、私たちもこのまま黙って魔王様の好き放題させるわけにはいかないという話になっていたのです。」
「それで今回、こっちから魔王を黙らせに行こうという計画の主役として僕に白羽の矢が立ったわけね。」
「本来ならば、お父様が乗り込んで魔王様の本拠地を破壊するという話になっていたのです。でもなぜかお父様は、そのような重大な任務を見ず知らずのあなたにお任せするようなことをなさりました。せっかくイケメンボイスで「お前のことは俺が守ってやる」って言ってくださったのに!」
このお姫様ってもしかしてファザコンなんだろうか。というよりお父さんが娘にまで色目を使う異常者なだけだろうか。なんにせよこの親子やっぱり怖え。
「つまりその敵の本拠地を潰すなんていう大層な役目を今回僕が任されちゃったっていう認識でいいの?」
「そこまではお父様に直接お尋ねしないとわかりませんわ。いくらあのめちゃくちゃなお父様であってもいきなりそんな危険なことをさせるとは思えませんけど。」
「まあそこは、あの王様が女遊びから帰ってくるのを待つしかないか。」
「まったく、こんな大事な時期に女の人を連れまわすなんて何を考えて・・・。」
「た、大変ですううううう!!!」
「どうしたのサラ血相を変えて?」
「ま、魔王が町に接近中ですううう!!!」
「何ですって!?」
「なんて言った今!?」