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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第3章
71/72

3-31 白光

2ヶ月以上空いてすいません。

別の話をまた一つ書いて賞に出してました。

またそのうちこちらでもあげようかと思います。


初魔獣キルを記録した樹たちの試練の様子を引き続きご覧ください。

 全身の光速化を解き、持っていた剣を宗次に返す。


 ふぅーっと一つ大きな溜息をつくと、後ろから僕らの名前を呼ぶ声が聞こえた。


 「すごい、そっちの作戦もうまくいったんだね!」


 明るい表情で僕らの健闘をたたえてくれる玲那だったけど、こっちは2人の力を合わせてこのスピードだ。

 それにさっきまでは体調が悪そうだったのに、今の戦闘ではまるで全く力を使っていないとでも言い出しそうなくらいに元気そうな姿。なんだか自信をなくすなあ。


 ただまあ、形はどうあれ無事に7匹の魔獣をこちらは無傷で突破することができた。

 宗次の力のおかげで僕もようやくみんなの役に立つことができたし、その宗次も狙撃という謎の才能を発揮していたし、玲那に関しては1人魔獣を数匹相手できる圧倒的な強さを見せつけた。


 少し前にこの世界にやってきたばかりで右も左もわからなかった僕たちが、いつの間にかここまでできるようになったんだ。

 それが喜ばしいことなのかはさておき、ただ脅かされるだけの弱者という立ち位置は卒業できたと思っていいだろう。


 「でも妙だぞ。」


 勝利に少しだけ気が緩んでしまっていた僕らを咎めるように、宗次は不穏な言葉を口にした。


 「敵が弱すぎってか?」


 「こちらとの戦いに完全に集中していたかっていう疑問も確かにあるが・・・。周りが静かすぎると思わないか?」


 「そうなの。蒔田君も言うように、さっきの戦いの最中から突然周りに微かに感じていた魔獣の気配がどんどん遠ざかっていた気がしてずっと私も気になってた。」


 警戒心を強める宗次に、何やら気になる発言をする玲那。


 「遠ざかっていく?僕らを避けていったってことか?」


 「ううん、どちらかというと私たちのことなんて目もくれないで、って言った方が適切かも。もともとさっきの蒔田君が起こした爆発であたりの魔獣の気配はなくなっていたんだけど、そこから戻ってくるんじゃないかと心配してたら突然一斉に私たちがいる方向とは真逆の方向に向かって走っていったの。」


 「一斉に走っていった?」


 違う種類の魔獣たちが一斉に同じ方角に移動を開始した・・・。

 

 「さっきの爆弾に何か別のトラップを仕掛けたとかは?」


 「いや、とっさにそこまではできねえよ。何か意図せぬ二次災害が起きたのなら話は別だが・・・。」


 「それに、動いたのは背後にいた魔獣だけじゃないと思う。さっき蒔田君があのボスを倒してから、あたりの魔獣の気配がしなくなったもの。」


 聞けば聞くほどに不気味な現象だ。

 あたりから突然魔獣が消えたなんてことが本当に起こりうるのか。


 「とりあえず、理由はともかく俺たちが動きやすくなったことには間違い無いんだ。今は俺たちの目的を果たす方が先だろ。」


 「仮にイレギュラーが発生していたんだとしても、祠さえ見つけてしまえば試練は達成したことになるはずだしな。じゃあ一呼吸終えたら進もうか。」


 作った武器を魔力に戻し身軽になった宗次と玲那はいつでも行けるとばかりにこちらを見つめる。

 そんな2人の眼差しが今は頼もしくて仕方がなかった。


            *     *     *


 すっかり静かになった森の中のど真ん中を堂々と歩く2人。

 なぜ2人なのか。それは、


 「うん、やっぱり魔獣の姿は1匹も見当たらない。」


 宗次に背負われながら僕は光の玉を使って別の場所の探索をしているからだ。魔獣に襲われる心配が低い今だからできる戦略だ。


 「でもこうなっちまうと俺の作戦はもう使えねえな。」


 「そうなんだよね。危険はぐっと減ったけど、本来の目的を果たすのが難しくなっちゃった。」


 宗次が立てていた作戦はこうだった。


 何か仮に大事な場所なんだとしたら、間違って魔獣の攻撃に巻き込まれて壊れるようなリスクは絶対に避けるはず。

 ならその祠の周りには魔獣がいない可能性が高いんじゃないか。

 だからひたすら魔獣を避け続けて、いつか魔獣のいない安全地帯にたどり着いたらそこに例の祠があるはず。


 その考えに従って玲那の力をフル活用していたわけなんだけど、気がつけば全域から魔獣がいなくなっていた。

 それもおそらく宗次が言っていた祠のエリアにたどり着いたから、というよりは何か別の理由で魔獣がいなくなっただけって感じがするから、ただただ路頭に迷っているだけになっている。


 僕らが祠のある場所に近づいたから消えたという可能性もあるんじゃないか、ということでこうして僕は光の玉に自分の視覚を宿して2人とは違う視点から祠を探しているんだけど、今のところ成果は上がっていない。


 「やっぱりがむしゃらに探したって埒が明かないか。」


 突然自分の体が固いものに当たったので慌てて視覚を自分の身体に戻すと、一本の大きな木にもたれるような体勢にされていた。

 そしてそれに倣うように、宗次と玲那も僕の隣に腰を下ろして長い息を吐いた。


 もう森に入ってから4時間以上は経過しているはず。

 その間僕らはずっと緊張の糸を張り詰めながら、一度は魔獣との実戦も交えながらもなんとかここまで休憩も取らずにやってきた。

 とりあえず周囲に魔獣がいないとわかった今、その糸が緩んだのだろう。だいぶ気の抜けた顔でだらりと足を伸ばしている。


 「腹減ったなあ・・・。」


 「食えるものと言えば、さっき倒した猿の肉くらいしかねえぞ。」


 「うへえ、そんなもん調理もせずに食べたら病気になって死にそうだ。」


 でも魔女からは、食事の用意なんてできないのが普通だからと昼飯を持たせてはくれなかった。欲しかったら現地調達でなんとかしろと。

 魔法は習ったけど、食える魔獣の選別も解剖方法も調理方法も全く教わってないんだから現地調達なんかできるわけがない。


 「食事にありつきたかったら、さっさと目的を果たして帰ることってことかもね。」


 「本気を出せば昼飯までには帰れるような難易度ってことなのか?ノーヒントだったんだから、そんなドンピシャで場所を割り出すなんてできるはずがないだろ。」


 はっきり言って、こんなに広い森の中でどれくらいの大きさなのかもどんな見た目なのかも教えられていないのに、探し出せなんて無理難題にもほどがあるだろう。

 ましてや、本来ならこんな平穏な時間はなかったはずだし、魔獣に襲われながら探すことになっていたんだぞ。普通だったらとっくに死んでるんじゃないのか僕たち。


 でも、課題はいつも激ムズだったけど、決してできない課題を出すようなことは一度もしなかったのも事実。

 とすると、必ず何かいい攻略法があるはずだと思うんだけど・・・。


 大樹の祠・・・ねえ。今のところ大樹なんて名前に相応しい木すら見つかってないんだけど。

 てかそもそもこの森に大樹なんて存在するのか?

 確かにこんな馬鹿でかい森なんだし、探せば他の木よりもでかいやつはいくらでもあるはず。

 でも空から見たところ、際立って大きい木なんてないらしいし、大きいものなんていうと中央にそびえ立つ知恵の塔くらいとのこと。他は大体同じくらいで、上から見たら違いなんてわからないらしい。



 そもそも大樹の定義ってなんだ?

 他より大きければ大樹か?それとももっと別の定義があるんじゃないのか?

 それこそ、屁理屈じゃないけど知恵の塔だって本棚は木でできているんだし、大樹という見方はできる。まあ仮に塔のどこかに祠があるんだとしたら、この長い間ずっとここで過ごしていた僕らが見つけられないこともないと思うし多分違うと思うけど。

 じゃあ・・・、


 「数本の木が密集していて、それが遠くからだと大樹に見える・・・とか。」


 そう呟いたところで、宗次の目の色が急に変わった。


 「おい樹、今なんて言った?」


 「え、だから数本の木が密集していたら、もしかしたら大きな木に見えなくもないかなーって。」


 「そっちじゃない、遠くから見るって方だよ!」


 急に宗次は飛び上がり、僕と玲那の前に立つと1人興奮した様子で話し始めた。



 「ーーー塔に戻ろう。そこにきっと大樹の祠を見つける手がかりがあるはずだ。」


            *     *     *


 ずっと感じていた塔からの魔力を辿って、僕らはなぜか魔獣がいなくなった森の中を進んだ。

 塔から出発してずっと気を張りっぱなしだったメンタルはいくらか余裕が生まれており、あまり体力を消耗することなくあっさりと塔へと戻ってくることができた。


 決して実家とは呼べない見た目と大きさなのに、なんやかんやこの世界に来てから一番長く過ごしているのがこの塔だから、なんとも言えない安心感を抱いてしまう。


 「魔女は・・・いないな。塔の外で何かやってるかと思ってたけど。」


 「中でゆっくりしてるだけかもよ?」


 「いや、それはないと思う。魔獣が森から消えたこの現象と魔女の不在に因果関係がないとは思えない。」


 魔獣が一斉に動き出すということは、暴走したと考えることもできるけど、一方で統率されているという見方もできる。

 暴走を始めたんだとしたら今頃魔女はその対応に追われているはず。

 魔獣の統率を始めたんだとしたら、統率しないといけないような事態に直面しているはず。


 ってことは、今この森で僕らの試練以外に何か別のイベントが発生しているんだろう。

 それがなんなのかはさっぱり検討つかないけど。


 ま、それよりも僕らは本来の目的を果たさないと。


 「宗次、僕らは何をしたらいいんだ?」


 「何を、って言われるとやることは今までとあまり変わらない。けど、大樹の祠はほぼ間違いなくここから見える範囲にあると推測できる。」


 「その心は?」


 「理由は2つ。まず1つは、万が一祠に何か異常があった時に、塔から見える場所にないと素早く察知できないこと。」


 うーん、まあその可能性は確かにあるけど、この森で異常があった場合は魔獣が騒ぎ出すし、魔獣の視界をジャックする能力を持っている魔女からすると、それだけでこの理論が成立するかは怪しいな。


 でもまだ2つ目がある。それで、と僕は宗次に先を促した。


 「2つ目は、この前樹と伊理夜が魔獣に襲われた時に魔女が使っていた『移し身』という力は、自分の目で見える場所にしか使えないってこと。何か異常があった時に真っ先に駆けつけないといけないはずだから、塔から見た時に何かしらの目印になるようなものがあるはずだ。」


 移し身。

 確か僕が足をやられて動けなくなっていた時に、魔女がそれを使って僕ら全員を塔まで送ってくれたんだっけか。

 聞いた話によると空間に作用する魔法の中でも最上位の魔法で、瞬間移動みたいなものだったらしい。


 まあ確かに目的地まで瞬時に移動するために塔から見える場所に設置する、って理論はわかる。

 でも、それって・・・。


 「本当に目に見える形で目印なんて残すと思うか?あの魔女なら、自分にしかわからない方法で目印を作ると思うのは僕だけか?」


 「十中八九そうじゃないかと思ってる。でも、目に見えない形だったとしても、今のお前なら何か手がかりを掴めるんじゃないかと思ってな。」


 「めちゃザックリとしてるなあ!?」


 実質今宗次から提供された情報は、


 ①この塔から見える場所にある

 いや、でしょうね。この森のど真ん中に位置してるわけだし、空飛んじゃえば森全体見渡せちゃうからね。


 ②僕の白魔術の力 or 玲那の黒魔術の力がパワーアップしてるからなんかわかると思う

 内容がフワッフワ。なんかって何よ?そもそも空を飛ぶ力はないから森を見渡す力なんてないぞ?


 結論:力技


 「って見切り発車やないかい!」


 「いや、ちゃんと勝算はある。」


 「なんで?玲那だって空から一度この塔を見ているはずなのに、それらしきものは見てないって言ってただろ?」


 「いや、まだお前自身の目で見ていないだろ?」


 「はあ?僕自身が見ることに何の意味が・・・、」


 とまで口に出したところで、慌ててその先の言葉を飲み込んだ。

 と同時に、宗次が何を言いたいのかが一斉に頭の中へ流れ込んでくるような、知恵の濁流に脳みそが満たされていくような感覚が押し寄せた。


 「そうか、大樹の祠にもこの塔と同じ結界が張られているかもしれないってことか!」


 「そういうことだ。だから樹がもしその祠を目にすることがあれば・・・、」


 「黒い結界が見えるはずだから場所が特定できるってことね!だから森を全方位見渡せる場所に来る必要があったのか!」


 「現状、空の上から森を見下ろす方法なんて、さっきまで使っていた樹の光の玉を上空に飛ばすくらいしか方法がない。それに、魔獣に襲われる危険性のないここで探索ができるんだったら、絶対その方がいいだろ?」


 別に試練の途中で塔に戻ってきたらいけないという縛りがあったわけでもないしな。

 おまけに、あの光を扱う魔法は上方向に飛ばすとそこから横軸に光を移動させることができないという性質も、全方位を見渡せるこの塔の敷地内で使えば安全かつ全体を見渡せる。


 「じゃあ、期待に応えるとしますか!」


 自慢げな宗次と期待で顔をキラキラさせている玲那の願いに応えるように、僕は塔の外壁を背もたれにして座り、魔力を集めた右手を空高く掲げた。


 「飛べ、光よ!!!」


 その右手から離れた光球は、背後の塔には遠く及ばなくはあったけど、しっかりと森のほぼ全周を見渡せる高さまで飛んでいった。

 昔の自分の力ではせいぜい森の木のてっぺんの少し上くらいまでが高さの限界だったことを考えると、この塔に来ただけで魔力の扱いも桁違いに上達している。



 そんな自分の成長を密かに喜んでいると、それは本当に小さな歪みだったけど発見してしまった。



 「ーーーここから北北東の中央あたりにある円状に並んだ木々の中央に、ほんの少しだけこことよく似た魔力を発している場所がある!!!」


            *     *     * 


 やっぱりどこを見渡しても景色は緑と土色しか存在しない。いったいこの森は元の世界でいうどれくらいの大きさを誇っているのだろうか。

 人間離れしたスタミナと魔法の力を持ってしても全貌をこの目で見ることがかなわないのだから、確実に1つの街くらいの大きさはあるのだろう。

 じゃあその街の中から、地図も渡されていないのに1つの建物を探すっていう作業がどれほど辛いのか。改めて考えるとめちゃくちゃなミッションだな、これ。


 でも僕たちはちゃんとここまでたどり着いた。本当に、ここまで。


 「見て、あの木!」


 玲那が指差す方向には、他とはほんの少しだけ幹が太い2本の木があった。一本は少し白ばんでいて、もう一本は少し黒ずんでいる。

 そして決定的に他の木とは違うのが、


 「塔と同じ魔除けの結界だ。それに白い方から何だかすごい魔力を感じるぞ。」


 「うん、私もなんか感じる。魔王さんが大規模な魔法を使う時の、周りの空気が不思議な質量を持ったような気配がするよ。」


 相変わらず宗次は察しが悪そうな表情を浮かべているけど、ここが目的地でほぼ間違い無いと思う。


 「俺にはほんの少し大きいだけの木にしか見えないが・・・。これが祠だとして、ここで何をしたらいいんだ?見たところ何もなさそうじゃね?」


 「いや、絶対この木には何かある。これだけ濃密な魔力が溢れてるんだ、何かその力の源があるはず。」


 おまけに、これは僕が使っている白魔法と同じ気配。でも今まで、ここまで大きな白の魔力を感じたことは一度もない。

 でもなぜか隣の黒い方の木からは何もしないんだよな。この差は一体なんなんだ?


 「とにかく調べてみよっか。魔獣除けの魔法を残していくくらいだもの、絶対何かあるはずよ。」


 そう言うと玲那は恐れることなく2本の木の元へと歩いていく。なんとまあ逞しいこと。

 感心しながら僕もその後ろをついていく。


 しっかしこうして近くまで寄ってじっくり見ると、なんともまあ神秘的な木だ。魔力を宿す木なんて今まで見たことなかったけど、魔力を養分として育ったからなのか、まるで木目がそのまま中から飛び出してきそうなほどに活き活きとしている。枝も一本としてまっすぐと伸びているものがなく、魔力で歪んだように曲がっている。


 ーーーそのあまりの異質さに思わずその幹に手を伸ばした時だった。


 「え、ちょ、なんだこれ!」


 「木が急に白く光りだしたぞ!?」


 触れた箇所から眩しい光が急にピカーッと溢れ出す。

 と同時に、周りに撒き散らしていた魔力たちが一斉に持ち主の元に戻ろうとするように集まりだす。


 「な、なにこれ!樹君が触ったところに向かって魔力が集まりだしてる!?」


 周囲の魔力が僕の手を包むように密集する。

 それだけじゃない、木の中に宿っていた魔力までもが僕の手に向かって放出されている!?


 「なん・・・だこれっ・・・!右手からごっそり魔力が・・・!?」


 木から放たれる魔力に抗うように、勝手に体内の魔力も1点に向かって吸われていく。


 「なにが起きてるの!?」

 「わからん!おい樹、大丈夫なのか!?」


 「うっ・・・、な、なんとか耐えられるけどこの勢いで吸われ続けると保たない・・・・!」


 まるで光速魔法の全身化ができるようになって間もない頃と同じようなスピードで魔力がなくなっていく。この短期間で相当魔力の貯蔵量は増やしたはずなのに、それでもあと数分も耐えられる自信がない。

 ああ、これはちょっとやばいかもしれない。ペースを落とさずにずっと全力疾走を続けてるような感じだ。疲れてるからちょっと減速したいのに、それを許さないとばかりに周りの魔力が僕の右手をこの木から離すことを拒んでくる。


 でもわかる。

 これが魔女がここに僕たちを連れてきたかった理由なんじゃないかって。

 今までずっと魔力の貯蔵量を増やそうと無茶な注文をしてきたのも、このためだったんじゃないかとすら思う。


 今日この時に試練の日を設定したのも、これに耐えられるくらいの力を手にしたと認めてくれたからなんじゃないか。

 だとしたら、あとはこの苦しさに耐えることに専念するだけだ。耐えろ。気合いで耐えろ。


 この木の中の魔力と自分の魔力が反応して融合していってる感覚。

 この右手の周りに凝縮されている途轍もない白の魔力の塊に自分の魔力が混ざることで、化学反応のような何かが今右手を包む光の中で起きている。


 頼む、保ってくれ、僕の魔力!

 あとちょっと、多分あとちょっとでなんとかなるんだ!


 「み、見て!光がだんだん縮んできたよ!」


 「なんだ!?大きな木の枝、じゃないな。もっと縮んで・・・、っておい、まさか・・・?」


 丸く大きな光の玉だったものがだんだん楕円型になり、枝のように細くなり、枝からどんどん縮んで、それは最終的に手で握れるような長さにまでなって・・・。


 と次の瞬間、その木から甲高い音と共に白い魔力の柱が現れ、天を貫くように上へと伸びていく。

 何が起きているか全然頭は理解していないけれど、この光の爆発によって魔力の吸収が止まった。十分な量の魔力を吸い付くしたってことなのか?どうなってるんだ一体。

 そんなことを考えていると、その光の柱はいつの間にかゆっくりと消えていき、消えた光の中から何やら白い棒のようなものが現れる。


 「こ、これって・・・!」

 「おいおい、マジかよ・・・。」


 その棒のようなものを、僕は何度もこの目で見てきた。

 ついさっきもこれの黒色のバージョンのものを見た。

 何度もこれさえあればと密かに夢見ていた。


 本当に、目の前のこの白く輝く『剣の柄』は、僕が望んでいたものなのか。

 

 一歩前に進み出て、その膨大な魔力で空気中に浮かんでいるそれを右手で握る。

 そしてこいつにそっと魔力を注ぎ込んでやると・・・、


 「・・・ははっ、本当に剣だ。白魔法の魔術剣だ!!!」


 白く輝く綺麗な騎士剣が、僕の目の前に現れた。


            *     *     *


 「どうなのです!?あの3人の様子はどうなってるのですか!?」


 「だからそんな短期間で・・・、あっ。」


 「な、なにが起きたのですか!?」


 「レナが体調を崩して、ソウジが声をあげたせいでバレそうになってる。」


 「えええええ!大丈夫なのですか!?」


 「・・・お、そこで例のバクダンを使うのか。なるほど、やっぱり戦の勘はなかなかいいわね、あいつ。」


 「お、ちゃんと必死の塔登りの成果も出しているのですか!それはエリーゼも鼻が高いのです!」


 魔獣の視界を通して樹たちの試練の様子を眺める魔女と、その実況を隣でバサバサと騒ぎ立てながら聞いているエリーゼ。

 ひたすら気配遮断を使って魔獣から逃げる展開が続いて、退屈そうな表情を浮かべていた2人だったが、突然の3人のピンチに熱がこもっていた。


 「でもそこで暴れてたって、一生大樹の祠にはたどり着かないのですよ?」


 「ちょっと頭を捻ればすぐに場所くらいは特定できそうなものなのに、気が逸ってすぐに森の中に入っていったからなあ。こりゃ本当に1日中かかるかもしれないわね。」


 「それだと先に魔力が底を尽きて限界なのではないのですか?」


 「それで死んだらそれまでのこと。ま、あれだけしごいたんだから各々の限界は把握してるはずだし、やばいと思ったら帰ってくるでしょ。」


 「わざわざ塔からの魔力を強めて帰り道がわかりやすいようにするなんて、エフィーもなんやかんやで人が良すぎるのです。」


 「ま、あいつらが言う『ヒント』とやらを与えてやらないと、流石にちょっと厳しいだろうしね。これが果たして有意義な情報だとあいつらに伝わるかは微妙だけど、もうこれ以上手は貸さ・・・。」


 「え、エフィー?どうしたのですか?」


 流暢な魔女の喋りが突然止まり、首を傾げながら何事かと伺うエリーゼ。


 「ったく、間の悪い女ね。よりにもよって、ここでようやく動いてきたか。」


 「動く?なにが動いてるんですか?」



 「ーーーあいつらのお迎えだよ。おまけに迎えにあがったのは・・・、へえ、面白いことになりそうね。」


 ニヤリと笑うと、魔女はすくっと立ち上がり塔の入り口へと歩き出した。


 「まさか、王都からまた誰か来たのですか!?」


 「そ。おかげで森の中の魔獣が一斉にそいつに向かって走り出していったし、私もちょっと様子を見てくるわ。」


 「き、気をつけるのですよ!!!」


 

 こうなるのも、あいつらの天命なのか。やれやれ、悪運の強さだけは世界一かもしれないわね。


 心の中でそう呟くと、魔女はその侵入者が来た方向へ駆け出した。


            *     *     *


 「邪魔っ・・・くさい・・・わね!!!」


 苛立ちを前面に出しながら緑色の魔力を纏った左腕を横に薙ぎ払うと、今にも攻撃を仕掛けようと様子を窺っていた魔獣たちが綺麗に水平に真っ二つになって倒れていく。


 だが無惨にくたばる屍の上を次から次に踏みつける新たな魔獣たち。地上から、空中から、そして中には地中から。

 力で敵わないなら物量で、と言わんばかりに突撃してくる尖兵たちを、血生臭い戦闘の経験の中で身につけた卓越した体捌きで次々と撃破していく。


 ただ、そんな人間離れした力を持ってしても、サラの足は入り口から数十メートル進んだところから前に進めていない。


 「こんなところで・・・、消耗してる・・・、場合じゃないの・・・よっ!!!」


 両腕両足から風の刃を飛ばして、相手の攻撃が届かない位置から一撃必殺の攻撃を無数に繰り出す。

 いつの間にか周りに青々と生い茂っていた木々は、攻撃範囲内に入っていたものはことごとく切り倒されていた。

 そうして相手の足場を封じると同時に周辺の視界の確保に成功したサラは、意を決してその空中を舞うようにしていた身のこなしから一転、両足で強く地面を踏みしめると、正面にいる魔獣たちの頭上を飛び越えていくように流れていく。

 警戒していた不可視の一撃に見舞われることもなく、サラはまた数メートル塔への距離を縮める。

 が、その先にはやはり厚い魔獣の壁の層が展開されていた。

 こんなやりとりを繰り返して、すでにサラはこの森の中で数時間も消費している。必要最小限の魔力で魔獣たちをいなしてきたとは言え、少しずつ表情に疲れの色が現れ始めていた。



 「ーーーいい動きをするわね。丸腰で魔獣の群れに突っ込んで、あんな軽々と葬っていくなんて、まるで魔獣狩りの申し子とでも言わんばかりだわ。でもそんなのじゃいつまで経っても塔にはたどり着かないんじゃなくて?」


 「誰っ!?」


 呼吸をするように再び四肢に魔力を宿そうとするサラの耳に、妖しく笑う女の声が届く。そのまま一番近くにあった木を使い動きを止めてその声の主を探そうとするも、止まった先に狙いすますように飛んできた3本の矢のような羽が邪魔をする。


 「人間!?それとも知能を持った魔獣!?」


 「知能を持った魔獣、か。いい発想力ね。さすが、といったところかしら?」


 飛んできた羽を風で打ちはらうサラの目の前に突如現れたのは、全身紺色の服を身にまといながらも、ところどころに眩しい肌色が露出している、自分よりも幼く見える少女。

 それでもサラは一切の油断を見せることなく、今にもその腕から全てを両断してきた刃を振るう構えで睨みつける。


 「あんたがガルディン様を洗脳してタツキさんたちを監禁している魔女ね!?」


 「・・・そう思われている方が気は楽だけど、なんだか無性に腹立たしいわね。」


 「なにが目的でこんなことをしたの・・・って、さっきから邪魔なのよ!!!」


 話を遮るように打ち込まれる羽に痺れを切らしてその飛んできた方向に向かって斬撃を飛ばすと、梟のようなシルエットの鳥がそのまま木の上から地面に落ち伏せた。


 「あーはいはい、これ以上殺されると面倒だからやめて。」


 パンパンっと2度手を叩くと、それまでは地上からグルグルとうめき声をあげていた魔獣たちが一斉に大人しくなり動きを止めた。


 本当なら歓迎すべき状況の変化。

 だがそれはかえって、サラの警戒態勢を極限まで引き上げる結果を招く。


 「さて、サラ・ナユリア。あんたは私に挑む愚か者?それともここで大人しく尻尾を巻いて王都に戻る臆病者?」


 「私の役目は、マイヤ様の大切なものを全て取り戻すこと。そのためにあんたを倒さないといけないのなら、躊躇いなんてしないわ!」


 丸腰だった片手に魔力を集めると、その魔力を細長く整えてレイピアのようなものを作り上げる。

 その剣先を魔女に向けて今にも一直線に飛び込もうとするサラだったが、その肝心な相手からは全く戦う意思が感じられない。


 「じゃあ別に私を倒す必要なんてないからさっさと帰ってくれない?」


 「・・・は?」


 「なにをどう思ってここに来たのか知らないけど、万が一ここで私が死んだら一番困るのは多分タツキ達だと思うわよ?」


 「それは一体どういう・・・」


 退屈そうにそう言って塔に戻ろうとする魔女。その言葉の真意を探ろうと声をかけるサラだったが、それに足を止めることなく魔女は歩き出した。


 「待ってよ、今のどういうこと!?」


 「はあ・・・。あんたのその考えなしな性格はどっから来たのよ。いくらなんでも全然似てないじゃない。」


 「さっきからなにを言って・・・、」


 「こっちの話よ。ほら、勝手にこの森に入ってきたことは見逃してあげるからさっさと帰りなさい。」


 手を2度払って王都に戻るように促す魔女だったが、サラはまだその魔力で作った剣を握ったままこの場を離れようとはしていない。


 「待ちなさい!いいからタツキさんとソージを返して!」


 「心配しなくても明日明後日には戻るわ。というか逆に今まで何してたのよ。あいつら、全然王都から連絡がないって随分と心配してたわよ?」


 「そう言われて素直に引き下がれると思う?そもそもあんたがガルディン様をあんな風にしなかったら私たちだってもっと早くここに来れたわ!」


 「そんなこと言われても知らないわよ。私が洗脳だの催眠術だのをかけたんだと思ってるのならお門違い。なんなら私だってあいつの被害者なんだから。」


 「じゃあどうしてガルディン様はあんな風になっちゃったのよ!?あんなの・・・、もはや人の姿をした魔獣じゃない・・・。」


 牢屋での一幕を思い出して、サラはまた少し背筋に冷たさを感じる。あの腕を掴んだ時の感触と、掴んだ時に向けられた羅刹のような眼光がフラッシュバックする。


 「あれはもう人間の精神を捨てているけど、それを私のせいにされても困るわね。あれの中に宿っているのは数百年分の恨みであって、断じて私の黒魔術なんかじゃないわ。」


 「数百年分の恨み?さっきから適当なことを言って誤魔化してるんじゃないでしょうね!?」


 「文句があるならあんたの父親たちに言いなさいよ。元はと言えば、全部あいつらとその先代たちが悪いんだから私は知らないわ。」


 会話が噛み合わないイライラをぶつけるサラと、自身が経験した過去を有耶無耶にして話すことしかできないイライラをぶつける魔女。

 互いに決して歩み寄ることができない事情を抱えている以上、もはや話し合いで解決させることは不可能。


 そう感じていた2人は、しかし突然視界の端に映された大きな白い光の柱に意識を逸らされた。


 「な、なんなの今の光?明らかに異常な規模だったけど・・・。」


 「なんやかんやでどんな難題を出したって成し遂げるんだから、素直に恐れ入るわ。・・・腹立たしいけど結局あいつの見立ては全部正したってことか。」


 「ちょっと、勝手に1人で納得しないでよ!」


 「はあ、今なら魔獣の声もしないはずだし、自分のその風魔法で聞いてみたらいいんじゃない?」


 なんでそれを?っと疑問に思う気持ちもあったが、サラはその言葉通り、風から伝わる音に耳を澄ませる。

 そしてそこから聞こえてきた声に、サラは思わず眉をあげる。


 『こ、これって・・・!』

 『おいおい、マジかよ・・・。』


 「・・・ははっ、本当に剣だ。白魔術の剣だ!!!」



 「この声は、タツキさんたちの・・・!?」


 「あんたらがあいつらを放っておいた間にここで何があったのか。あとは直接本人から聞けばいいんじゃない?」


 「そうさせてもらうわ!」


 タツキの声を聞いたと同時に、サラは森のなかを駆け抜けるように飛んでいく。


 「結局、あのクソ王子からの注文は全部達成したわけか。そう考えると、なんだかあいつの言いなりになってたみたいで癪ね。」


 風のように飛び去っていくサラの後ろ姿を見ながら、魔女はポツリと呟く。

 

 

 「ーーーでもこれでタツキもいよいよ化け物の仲間入りね。そして、私の願いも・・・。」

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