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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第3章
63/72

3-23 夢現

 「はっはっはっはっは!!!どうだタツキ、お前がずっと会いたがっていたレナを連れてきてやったぞ!!!」


 馴れ馴れしく名前を呼んできたのは、僕の記憶の中ではボロボロでもう完全に生きる気力を失ったような目をしていたはずの茶髪の男。それがなぜか高らかな笑い声と共に、思いがけない人の名前を呼んだ。


 「う、嘘だろ・・・。本当に玲那なのか・・・?」


 「樹君!?やっぱりこの人の言ってることは間違いじゃなかったんだ!」


 背の高さが僕の知っている頃より少し低く感じるし、髪の長さも少し長くなっている。シルエットだって昔より一段とスラッとしているし、出ているところも昔より出ている。顔には昔の面影がはっきりと残ってはいるものの、やはり幼さが少しなくなっているというか、垢抜けたというか。

 容姿が自分の知っている彼女のものとは少し違っているものの、この胸の高鳴りが目の前の女性こそが長年自分が会おうと思っても会えなかった、もう一度関係をやり直したいと願った、この世界に来るきっかけを作った、運命の女性なのだということをこれでもかというほどに主張してくる。


 「は・・・はは・・・。こりゃ一体どういう運命のいたずらなんだろうな。」


 それでもやっぱり疑わざるを得ない。


 ーーーなにせここは魔法や魔獣なんてものが存在し、人間同士が殺し合いを始めるような異世界空間なのだから。


 「ほら、まずは食事にするよ。エリーゼ!」


 「はいなのです!すぐにとりかかるのですよ!」


 目の前の非現実を疑いなくなるような現実に対峙している横で、小柄な少女がなにやらキッチンらしき場所へと向かい、あの喋る鳥を呼び寄せている。

 その呼び声に誘われるように虹色の翼を羽ばたかせる様子はとても幻想的で綺麗だとは思った。

 でもそれ以上に、キッチンに立つ少女がほんの一瞬で行った行為があまりにも衝撃的すぎてそちらに気が向いてしまった。


 「え、今ブラックホールから食料を出した・・・?」


 「すごい・・・。あんな黒魔術、魔王さんだって使わなかったわ。」


 何もない空間からいきなり物を出すという、いよいよ理解不能な超常現象を目の前で見せられたのだ。

 ただ、そんな通常なら唖然とするような出来事に対しても、僕のよく知る彼女は全く持って想定外の反応を示していた。


 「ちょっと待て。今さらっと黒魔術とか魔王とか言ったか?」


 「え、あ、うん。実はそこのガルディンさんに会うまでは、魔王を名乗っている人に色々と世話をしてもらっててね。だからこの世界については少し知ってるんだ。ここがどこなのかっていうのはもちろん全然わかってないんだけどね。」


 苦笑いを浮かべる玲那。

 内容が色々とぶっ飛んでてどこにつっこめばいいのかわからなくなるけど、とりあえずまずはこれを聞くべきだろう。


 「なあ、玲那はいつからこの世界に来たんだ?」


 「うーん、正確な時間はわからないけど、半年くらいはここにいたんじゃないかな。樹君の方がきっともっと長いだろうけどね。」


 半年!?こんな訳の分からない世界に半年もいたってのか!?僕なんかまだ・・・、


 ーーーいや、違う。単純に僕の体感時間が狂ってるだけか。あまりにも長い間、陽の光が差さない暗闇の中で生きていたせいで、僕がこの世界にどれほどの時間を過ごしたかが全く把握できていないだけなんだ。


 っておい。気が動転しすぎて一番肝心なところを聞いてないじゃないか!


 「そもそもなんで君がここにいるんだ!この世界は僕と宗次しか知らないはず・・・。」


 と自分で言って、自分でその答えに気づいてしまった。


 「宗次か?」


 「・・・偶然この前蒔田君に会った時に君の話をしてね。それで彼があまりにも意味深なことを言うものだから、彼の行動をこっそり観察させてもらっていたら、あの機械を見つけたの。」


 あいつ、玲那に何を言ったんだよ・・・。てか宗次のやつ、僕がタイムマシンに乗ってから研究所に来てたってことか。


 「そういえば蒔田君は一緒じゃないの?君を私に引き合わせるって言ってたから、てっきり君達は一緒に行動してるのかと。」


 「いや、僕はこの世界に来てから今までずっと牢屋の中にいたんだ。だからもし宗次がこの世界に・・・。」


 この世界に・・・。

 この世界に来ていたとして、この場にいないってことは・・・。


 まさか・・・。

 いや、流石に考えすぎか。

 でも玲那は宗次が僕を連れ戻しに行くって言ってたのを聞いているんだよな。


 「蒔田君もきっとこの世界に来てるわ!だって私があの機械を発見したのは蒔田君を尾行した時なの!」


 確信を持ったようにそう話す玲那。でもその表情から伺えるのは知り合いがもう1人この世界にいる可能性に安堵する様子ではない。


 「それでいつまで経っても彼があの建物から出てこないから痺れを切らして中に入ったら、彼はどこにもいなかった。だから彼も間違いなくあの機械に乗ってこの世界に来てるはず!!!」


 玲那のこの焦った表情と、体が無意識に動いている様子を見る限りだと、おそらく同じ考えに至っている可能性が高い。

 とすると、僕らは今ここでこうして時間を潰している場合じゃない!


 「・・・わりいが、そのソージってやつはもうこの世にはいないと思った方がいい。」


 「なっ!?」


 そんな焦りで全身の血液が煮え激ろうとしている中、その温度を急激に冷やすような冷静な言葉がさっきとは違う方向から飛んできた。


 「お願いガルディンさん!!!もしかしたら私たちの友達がまだこの世界のどこかに・・・」


 「ーーーいねえんだよ。もう俺らと王都にいる数人しか、この世界には人間の生命反応がねえんだ。」


 この場から酸素を奪うかのような発言。玲那の懇願に対してかけられた言葉は、僕から呼吸のやり方を忘れさせてしまうほどの衝撃を与える。

 

 「・・・嘘つけよ。」


 「嘘じゃねえ。俺たちがこうしてレナを助けに行けたのも、あいつの生命感知の魔法に従ったおかげなんだよ。その生命感知が、もう王都にある12の生命反応以外に生存者はいないって言ってるんだからもう・・・。」


 「またそうやってあんたは諦めるのか!?その魔法とやらを信じるだけで、あんたは自分の足で生存者を探そうともしないつもりか!?」


 生命感知?魔法?知るかそんなもん!

 そんなおいそれと信じられない超常的なものを信じて、まだどこかで生き延びているかもしれない親友を探さないという選択肢がどうして取れる!?


 「・・・ううん、ダメだよ樹君。もし本当にその生命感知の黒魔術を本当にあの女の子が使えるんだとしたら、本当に王都以外にはもう、」


 あわやイケメンの胸倉を摑みかかろうというタイミングで、僕と考えを同じにしていると思っていたはずの玲那から耳を疑うような発言が飛び出た。


 「はあ、何言ってんだよ玲那・・・?まさか玲那までそんな戯言を信じるっていうのかよ!?」


 「信じたくない!信じたくないけど・・・、現に私はその力のおかげでこうして命を救われちゃったんだよ。私が生きていることが、その魔法が本当だということを証明しちゃってるんだよ・・・。」


 そのまま瞳から大粒の涙を零しながら、床に倒れこむ玲那。まるで宗次が本当に死んでしまったということに一切の疑いを持っていない様子で。

 

 「おいおい、だってあの宗次だぞ?あの悪運が強くて、どんなことが起きても平気な顔してさらりと乗り越えてくるやつだぞ?」


 「・・・うん。」


 「僕と一緒にあの機械を作り上げた、頭の回転においては右に出る者がいないあの蒔田宗次だぞ・・・?」


 「・・・うん。」


 「玲那だってあいつのことはよく知ってるよな?あいつはいつだって・・・。」


 「・・・・・・。」


 僕が言葉を重ねれば重ねるほど、玲那の嗚咽は激しさを増す。僕がどれだけあいつの凄さを語ったところで、金髪の男は希望の言葉を口にしようとはせず、ただ黙って僕の顔を見つめる。


 「嘘だ・・・。こんな訳の分からない世界で・・・。あんな訳の分からない獣なんかに・・・。」


 こんな現実とは到底思えない異世界で。

 2次元の中としか思えない意味のわからない世界で。



 親友があっさりと命を落としたなんて。



 「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 そんなのあんまりじゃないか。




 「ーーーおいおい、膝を抱えて絶望するのは早いだろうが。何のためにお前は命がけで俺を守ったんだよ?」


 両手で頭を抱えて倒れ込んだ僕の片腕を引っ張り上げて、無理やり霞む視界の中に自分の顔を割り込ませる自称王。


 「この理不尽な現実に抗うためじゃなかったのかよ?過去に戻って全てをやり直すためじゃなかったのかよ、なあ!?」


 「やり・・・直す・・・。」


 ・・・そうか、まだ終わっちゃいないのか。


 そうだよ、まだ何も終わってないじゃないか!


 「そうだ、お前が言い出したことだ!こんなクソッタレみたいな人生をやり直す方法があるってな!諦めたらそこで終わりだってな!」


 そうだった。


 何をあっさり膝をついて全てを諦めようとしてるんだ僕は。


 それをあろうことか、同じセリフをかけたその相手に諭されるなんて、みっともなさすぎる。


 ーーーそれに、隣で同じように涙を流している玲那をそのままにしておいて、泣いていられるはずがない。


 「・・・すいません。みっともない姿を見せました。」


 「ったく、頼むぞおい。せめて好きな女の前でくらい、しゃんとした態度でいろや。」


 「ちょ、急に何を言ってんですか!」


 なに勢いに任せて僕が玲那を好きだってことをバラしてんだ!?アホなのか!?何やっちゃってくれてんの!?


 「こんなご時世だ。今更隠すこともねえだろ。それに、言えるときに言っとかねえと後悔するかもしれねえからな!」


 なんて言いながら、全く悪びれた様子もなく僕の背中をバシバシと叩いてきた。馴れ馴れしいわ、デリカシーはないわで色々と最低だなこの人!


 「ま、安心しろ。お前は俺の命の恩人で、生きる希望をくれたやつなんだ。絶対に裏切るような真似はしねえよ!」


 「たった今僕の十数年の気持ちをあっさりと暴露した人に言われても、何の重みもないですけどねえ!?」


 何をちょっと自分の株を上げようとしてるんだ。もうこの場の空気は色々とめちゃくちゃだぞ。

 ってまずい、そんなことを言ってる間に玲那が僕の方をじっと見ている。まだ少し目元が赤いけどどうやら涙は止まっているようだ。


 「あ、そのだな、玲那。今この人が言ったことはだな。」


 「・・・うん、そうだよね。まだ諦めるには早いよね。」


 何を言われるかと身構えてその第一声を待っていたら、こちらのやり取りなんてお構いなしの感想。玲那はまだ少し鼻をすすりながらではあったけど、少しだけ笑顔を見せていた。


 「こんな時に隣で騒がれてると、さっきまで泣いてたのがバカみたいじゃん。」


 「いや、泣いているのが本来なら正解なんだけどな。」


 こんな訳の分からない状況で、友人がいきなり死んでしまったと伝えられたら取り乱す方が普通なんだ。むしろ、こんな状況でもう前を向ける玲那のメンタルが怖いまである。

 でもそんなのはあくまで表面上のものだ。きっとそうに違いない。だったらせめて僕が強くないとあらないと。


 「でも泣いているままじゃいけないんだよね。蒔田君のこと、まだ助けられる可能性が残ってるんだよね?」


 「うん。ごめん、玲那。僕が取り乱している場合じゃなかったよな。」


 視界の端でニヤリと笑うイケメンがいてどうも落ち着かないけど、とりあえずは少し冷静になれたか。まさか僕の恋心を平気な顔して暴露したのも、わざとだったのか?

 ・・・いや、ないな。


 「ううん、大丈夫。2人のやり取りを見てたらまだ希望はあるんだって思わせてくれたから。」


 「おう、任せときな!俺が全部元どおりにしてやるからよ!」


 「いやそこは空気読んで僕の見せ場作ってくださいよ!」

 

 「ん?ああ、すまんすまん!お前だって見栄張りたいよな!」


 もうこの満面の笑みを浮かべているこの顔をガムテープでぐるぐる巻きにしてやりたい。


            *     *     *

 


 テーブルに置いてあるのは、なんの肉なのかがさっぱり検討つかないけど、噛めば噛むほどうまみが溢れ出てくる謎のステーキ。それをどこか深みのある塩っぽい何かを振りかけて食べるというシンプルなものだったけど、とりあえず久々のまともな飯にありつけて嬉しい限りだ。あの謎の離乳食のような気持ちの悪い物体を胃袋に流し込む生活とはおさらばだ。

 とはいえ、いきなりこんな噛み応えのあるものを渡されると、顎の退化を感じてしまうな。一切れ口に頬張るだけですごい疲労感が溜まる。


「んで、そのあんたたちが乗ってきたっていうあの機械が時空跳躍を可能にするものだったとして、それをどうやって修理するのよ?」


 食事をするという行為に苦戦している間にも、食事の場は今後の対策についての会議で盛り上がっている。ただ、この謎の少女からタイムマシンの修理方法について聞かれたけど、とりあえずは現状を知らないとなんとも答えようがない。


 「それはわかりません。今タイムマシンがどういう状態で、何の機能が使えないのかを分析するところから始めないと無理です。」


 「じゃあまずはこいつをレージの家まで運ばないといけねえってことだな。」


 「そのレージって人の家にタイムマシンがあるってことですか?」


 誰かの家にタイムマシンがあるって一体どういう状態なんだ?確か僕がこの世界に来た時って、なんだか広い場所のど真ん中にいたような記憶があるんだけど。

  

 「私がその機械に乗ってこの世界にやってきた時に、魔王さんの家に座標が設定されてしまっていたみたいなの。やっぱり樹君は別の場所に着いたってことだよね?」


 「僕の場合は王都の中だった。その中でも中心地っぽいところだったんだけど、着いた瞬間に不審者扱いされて即牢屋にぶち込まれた。」


 今思い返しても僕が牢屋にぶち込まれた理由は理不尽と呼ぶしかないものだった。

 まさか僕が乗ってきたタイムマシンがこの世界では価値のある遺産扱いされていて、不法侵入の罪に問われるなんて。


 「お前、まだそんな妄言吐いてんのか?んな機械は王都にはねえっつってんだろ。」


 「じゃあ僕が投獄された場所はどこだったって言うんですか!?」


 「知らねえよ。少なくともこの国の王族である俺が知らねえっつってんだから知らん。お前が連行された時に俺が立合ってれば何かわかったかもしれねえけどよ。」


 退屈そうに肉を頬張りながら、あしらうようにそう言い捨てるイケメン。すでにこの論争は檻の中で何度もしたから今更感はすごいが。


 「そんなのどうでもいいわ。とりあえずあのでかい金属の塊を直すんでしょ?ならさっさと魔力が回復したその騒がしい男を連れて行きなよ。」


 目の前に座る、いまだに自己紹介すらされていない謎の女の子が、この場を仕切るように隣に座るイケメンに命令を出す。

 

 「ま、それもそうだな。いくらここが安全だからって、あの機械が壊されちまったら終わりなわけだしな。」


 「あの、本当にここは安全なんですか?」


 玲那の質問のおかげで、ここが安全だということが一般常識のように認識されているわけではないことがわかって密かに安心する。

 玲那より間違いなく長い間この世界にいながら、この世界についての知識はほとんどないからな。一応この場所の名前が「知恵の塔」って言うのは、隣の一段低いテーブルで器用に翼で道具を使って僕らと同じ肉をゆっくり食べている鳥に教えてもらったけど、それが果たして僕らがさっきまでいた王都からどれだけ離れた場所なのかだとか、そもそもここにある大量の本はなんなんだとか、そういった説明が一切なされていないのだ。


 「この塔の周辺は私の力が作用していて、どんな魔獣だろうと侵入できないようになっている。とはいえ、今あんたたちがここにいるように、人間は普通に入ってこれるけど。」


 「それでも誰かが来たら、お前の魔力感知に引っかかる。不意打ちも小細工もできねえ以上、正面からの殴り合いになれば俺とお前でなんとでもなる。」


 当然のように魔獣を寄せ付けない結界だの魔力感知だの言われてるけど、こればっかりは慣れるしかなさそうだな。悲しいかな、玲那は当然のようにその事実を受け入れて胸をなで下ろしているわけだし。この半年で相当色んな超常現象に触れてきたんだろう。


 「つーわけだ、本当は今すぐにって言いたいところだが、レナの体力が心配だ。俺もまだ本調子じゃねえし、とりあえず今夜は活動終了だ。明日から本格的にタイムマシンの修理に乗り出すぞ。」


 「いくらここが安心とは言っても、私があんたたちを連れて逃げ出したことは知られてしまってるわけだし、向こうだって何か策を講じてくるかもしれない。悠長にしている暇はないと思いなさい。」


 ペロリと肉を平らげた2人は同時に席から立ち上がると、隣で幸せそうに肉を頬張っている鳥のテーブルに空の食器を置いてこの場を去っていく。

 謎の女の子はいかにも自分の居住スペースって感じのところに戻っていき、イケメンは真っ直ぐ建物の外へと歩いていった。


 「詳しい話を全くしてくれないんだけど、結局僕らの今の状況ってどうなってるんだ?」


 「あーそっか、私はここに来るまでに色々説明してもらったけど、君はずっと寝てたから何も知らないんだね。」


 何も知らない同士だと思っていた玲那から想定外の発言。

 え、何、自分の置かれた状況を理解してなかったのって僕だけだったの?


 「ふぇええええぇぇ。お腹いっぱいなのですよ・・・。」


 隣で後片付けを押し付けられても、幸せそうにしている鳥。こいつですら全てを知っていそうな口ぶりだったし、いよいよ仲間外れにされていた説が濃厚だな。


 「樹君はどこまで把握しているの?」


 まずはお互いの認識を一致させることから始めようと、玲那は誰もいなくなった正面から椅子の向きを隣にいる僕の方へと向ける。


 さて、どこまでという疑問を投げられたわけだけど僕は本当に何も知らないに等しい。

 どれくらいかわからない期間を牢屋の中で過ごしていたら、ある日突然外が大変なことになっていると言われ、それを聞いた隣の牢の人がいきなり檻をぶち壊して脱出。生き残るために必死に後をついて行ったら、事件の黒幕的な人に遭遇。

 その黒幕の一味に敗れたイケメンを何とか立ち直らせようとしたけど、そうしている間にボスから破壊光線を放たれて、それが直撃して死んだと思っていたら、なぜか次の瞬間にはここにいて・・・。


 「多分さっきのあの女の子に助けられたってことなんだよな・・・。」


 「あの人はこの場所の番人を務めてるエフィーさん。本当はこの塔から出られないっていう制約があるらしいんだけど、この騒ぎがあったから制約を破って王宮まで様子を見に行ったら、王様と樹君がいたって言ってた。」


 ということはやっぱりあの人があのビームから僕たちを護ってくれたってことか。危うくゲームオーバーになるところを間一髪で助けてもらったと。漫画でも読んでいるのかと思いたくなるほどのご都合主義だけど、それで命が助かってるんだからご都合主義万歳だ。


 「人は見かけで判断したらいけないっていうけど、あんな子があの攻撃を防いでくれたって考えるととんでもない世の中だな・・・。」


 そんな世界も魔獣に襲われて今や滅亡の危機なわけなんだが。って冷静に考えると相当狂った状況だな。

 

 「じゃあこの知恵の塔って名前だっけか。ここは僕たちがいたあの町からは離れた場所にあるってことなんだよな?」


 「そのはずだよ。少なくとも王都からここへ来るにはかなりの距離があると思う。私が魔王さんの家でガルディンさんとエフィーさんに助けられた時は、エフィーさんがこの塔に転移する魔法を使ってくれたから一瞬だったけど、普通に自分の足だけを頼りにしてたら間違いなく数日はかかると思う。」


 さらっと転移する魔法とかいうパワーワードが聞こえた気がするけどもうそこに触れるだけ無駄だな。

 とりあえずここはなかなか辺鄙な場所にあって、そのエフィーって子が結界を張ってくれてるから魔獣も近寄ってくれない場所になっていると。

 よくもまああの絶望的な状況から、こうして一息つけるまでになったもんだ。


 「それで世界が終わりを迎えそうだけど、まだタイムマシンさえ修復できれば逆転の目はある・・・か。奇跡が積み重なりすぎだろ。」


 皮肉にもこの世界に来るきっかけとなってしまったタイムマシンが、自分たちの命を救う切り札になっていることがまたなんとも・・・。


 「でも一番の奇跡は、あんたがあの時ギリアンテの一撃を完璧に防ぎきったことよ。あれがなかったら私があんたたちをここに転移させることもできなかったわけだし。」


 玲那の方を向いていた方を向いていたせいで、背後を取られる形で渦中の人であるエフィーさん(ちゃん?)が現れる。

 それも全く予想外の言葉を引っさげて。


 「防ぎきったって誰が?」


 「だからあんただって言ってるじゃない。あんたが両手から光の結界を張っているのを私はこの目で見てるんだから。」


 興味津々とばかりに再び自分の正面の椅子に座ってこちらを見る。

 からかっている様子もないし、そもそもからかう理由がない。


 「あんた何者?今まであんたみたいな人間が王都にいたなんて話は聞いたことがないし、こことは違う世界からやってきたなんて素っ頓狂なことを言い出す奴は、この長い人生でも会ったことがないわ。」


 まじまじとこちらを眺める瞳には、まるで初めて見る動物と遭遇したかのような好奇の色が見えるのに、なぜかその発言内容は年不相応という謎のちぐはぐ感がある。


 「そりゃずっと牢屋の中に入ってたからな!なんなら外に出たのも久しぶりだし、初めて魔法を見たのもついさっきだからな!?」


 「あの宝器の一撃を防いだくせにその言い訳は苦しいわね。あれは光魔法を極めた人間にしかできないようなものなのよ?って、使ったあんたにそんなこと言うだけ無意味か。」


 「待て、僕は本当に知らないんだよ!あの時のことは本当に何も・・・、」


 と言いながら、なんでそこまで強く否定しているのかと思ってきた。まあ戦力として数えられると困るし、危険因子だと判断されるのも困るけど、どれだけ期待されたところで自分でも再現方法はわからないわけだし、どれだけ騒いでも一緒だよなこれ。


 「まあなんと言おうが、使えた以上は白魔術に相当な資質があるのは確かだし、この際どうでもいいわ。もしその時を渡る機械とやらがなかったら、約束通りあんたは私の僕になるのよ?」


 ・・・は?僕?約束?何の話!?


 「いやいやいや知らんし!?そんな約束した覚えないし!?」


 「あの王子と約束したのよ。あんたは私の協力を取り付けるための交渉材料にされたってわけ。」


 「あのイケメンエセキング何してくれとんじゃあああああああ!?」


 ニヤリと色っぽい笑みを浮かべて、その見た目だけはなかなか可愛らしい女児童擬きはこの場から去っていく。最後に見せたその悪戯っぽい笑顔の裏に、あのイケメンのしてやったりな笑顔も含まれていると思うとじわじわと胸の内からメラメラと燃える何かを感じる。


 「ま、まあ、タイムマシンを修理したらいいだけだし、ね?」


 「また一つ、意地でもタイムマシンを修理しないといけない理由が増えたな・・・。」


 理由の中でも群を抜いてしょうもない理由なのは間違いけどな。


             *     *     *


 「なんか色々と災難だね・・・?」


 「この世界に来てから災難続きなんだよなあ僕。」


 「ずっと牢屋の中に居たんだってね?自然な流れでさらっとすごいことを暴露されて驚いてたんだから!」


 「そうなんだよ!聞いてくれって!」


 僕が色々と話しているのを、玲那がうんうんと表情豊かに相槌を打つ。

 それはまるで、中学時代のとある休日の一幕のように穏やかな時間で。

 何ものにも代えがたい大切な時間だと感じていたあの心地よい時間で。

 青春を棒に振ってでも取り戻したいと強く願ったあの時間で。


 こんな訳の分からない異世界ではあったけど、それが再び叶っている。あの頃から見た目も雰囲気も結構変わってしまっているが、僕がずっと夢見ていたあの頃の再現が今ようやく叶ったのだ。



 「ーーー泣くほど辛かったんだね。」


 「ち、違う!これはそういうのじゃ・・・。」

 

 それは勝手に涙が流れてしまうほどの想いが詰まった時間だった。


 「でも絶対大丈夫だよ。樹君ならタイムマシンを直して、蒔田君やこの世界を救ってあげられる!」


 「うん・・・、それはそうだ。そうなんだけど。」


 「そうなんだけど・・・?」


 だからこそ、そんな多くのものを犠牲にしてようやくたどり着いたからこそ、この時間を当たり前のものとしてはいけないような気がしてしまった。


 「玲那はどうしてこの世界にやってきたんだ?」


 「それは・・・、蒔田君を追っていたらいつの間にか、」


 「じゃあなんで宗次を追ったんだ?」


 覚悟を決めたくせに、なぜかそれを引き延ばそうとする僕のクソみたいな性格がなかなかそれを口にしようとはしない。

 そしてそんな卑怯者な僕に対して、それでも玲那は絶好のパスをくれた。


 「ーーー君に会うためだよ、樹君。」


 「・・・僕に?」


 小さくうなずいて薄い笑みを浮かべる玲那。

 たったそれだけの仕草だったのに、なぜだか僕の両目からはさっきから涙が溢れ出して全く止まってくれそうになかった。


 「ーーーごめん。」


 「え?」


 「ごめん、ごめん、ーーーごめん、玲那!僕は、僕は!!!」


 そんな笑顔を向けられる資格がない。

 自分の犯した罪にろくに向き合おうともせず、ひたすら逃げ続けた人間に向けていいような笑顔じゃない。

 もっとズタボロにメンタルを引き裂いて、二度と立ち上がることを許さないくらいの憎しみを向けられるべきだ。


 「本当はもっと早くこうして君に謝罪をするべきだった!自分の醜さから目を背けたくて、さっき君に会うまではずっとあの時のことはなかったことにしようとしていた!向き合うことが怖くて、君から本格的に拒絶されるのが怖くて僕はずっと!!!」


 とても前なんて向けたものじゃない。

 とても顔なんて見れたものじゃない。

 自分の罪を、恥を、過ちを。

 タイムマシンを作っていたあの数年間。牢に繋がれていたあの長い期間。

 日付の感覚すら忘れてしまっていたけれど、それでも必ず毎日あの時のことを思い出していたと断言できる。


 「・・・もういいんだよ。」


 「いいわけがあるか!こんなの僕が君に与えた苦しみとは比べたら・・・!」


 「ーーー今の樹君の顔を見たら私にだってわかる。君はもう十分すぎるほどに苦しんだんだよ。」


 不意に何やら柔らかい感触と心地よい香りに包まれる。下を向いたまま前かがみになっていた体が正面から支えられ、心も体も全てを委ねてしまいたくなるような安らかさに、喉元から出かかっていた言葉が全てせき止められる。


 「あ・・・。」


 「もういい・・・もういいから・・・。君が今でも変わらない君のままでいてくれただけで私はもう十分だから。」


 耳元にそっと囁かれるのは、僕が無限回と聞きたがっていた声の一生聞くことのできないと思っていた言葉で。それはもはや夢なのか現実なのかの区別もつかなくなるほど理性を吹っ飛ばしていくような言葉で。

 ーーー何年かかっても一生振り払えないんだと諦めていた深淵の闇に、一筋の光を与える魔法のような言葉だった。


 「・・・変わっていた方がよっぽどマシだっただろ。」


 「そりゃあ、少しは変わった方がいいと思うこともあるけどさ。」


 「少しなわけ・・・」


 「でも勇者になるって約束してくれたのはあの時の・・・、今の樹君でしょ?」


 勇者。


 この声で発されるこの一言には、他のどんな人間が発するそれをどれだけ積み重ねても敵わない重みがあった。


 「勇者・・・。」


 「そうだよ、君があの夕暮れの橋の上で私に約束したんだよ?まさか8年も私のこと考えていたのに、忘れちゃったなんて・・・」

 

 「ーーーそんなわけない!そんなことあるわけがない!」


 それはもはや自分の人生において黒歴史とも言えるフレーズ。厨二病を拗らせていた自分がムードに流されて勢い任せに言い放った、もはや告白と言っても過言ではない、青さ満点の誓いの言葉。

 と同時に、何があっても必ず守ると自分に言い聞かせてきた自分の行動指針とも言える言葉。それを破ってしまい、今や呪縛となって心を締め付けるためだけに存在すると思っていた言葉。


 「でももう僕には・・・。」


 「それを決めるのは君だよ?」


 でも耳に入ってくる言葉は僕をその鎖からも解き放っていく。


 「まだ私は忘れていないし破られたとも思ってない。じゃあ後は君次第でしょ?」


 「まだ・・・、まだ玲那は僕に期待してくれるのか・・・?」


 そんなあらゆる苦しみから救ってくれる存在を確かめるように、下を向いていた僕の顔は自然に上へと持ち上げられる。


 「うん。どうやらあの程度じゃ私も君のことを嫌いになれないみたいでさ。ーーー私を孤独な世界を連れ出したのは君なんだから、責任持って最後まで面倒みてほしいな・・・なんてね。」


 するとそこには、頬をリンゴのように真っ赤に染めながらあの夕日よりも輝く笑顔を見せる、大人になってもあの頃の面影を強く残した僕の想い人の姿があった。


 「ちょ、ちょっと、なんでそこでまた泣いちゃうの!?」


 「な・・・泣いてないし・・・。こんなんで勇者が泣くわけないし・・・。」


 でも涙腺はどんどん緩んでいって、その何よりも眩しい光を放つ幼馴染の笑顔はまたも見えなくなっていく。


 「仕方ないなあ、もう。」


 そんなぼやける視界の中でも、熱っぽい空気を纏ったその太陽がこちらに近づいてくるのがわかった。


 そしてなぜかお互い目を瞑ると、


 ーーー唇にその蕩けるような熱を纏った柔らかい感触が伝わり、それ以外の全てが世界から切り離されたような感覚へと落ちていく。



 幸せな感覚に脳みそがぐるぐると渦を巻くように平静を失っていく。



 その永遠に続くことを望んだ感触は、やがて名残惜しそうに離れていく。



 その離れていく何よりも尊い感触の行方を探し求めて、その閉じられた重い重い瞼をゆっくりと開く。



 するとやっぱりそこにはもう・・・。





 「・・・え?」


 「・・・え?」


 長い睡眠で未だ覚醒しきっていない頭。視界もまだ照準が定まらず所々が重なった見えるような状態の中。




 ーーー顔を真っ赤にした玲那が、なぜか知恵の塔で適当に用意された僕の寝床の隣に座っていた。

今年はどれだけ進められるか。

すでに2月に突入していますが、今年もコツコツ頑張ります。

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