3-13 暴露
ソファーに身を預けて、王様の言う大事な話がいつ聞けるのかとイライラマックス状態で待っていた僕を、向かいにある愛用の椅子に腰掛けていた王様がガン見してきた。その王様の動作につられるように、隣に座っている宗次も僕の方へと振り向いてきた。
何か言えよと言うような顔で無言の圧力をかけてくる2人だが、こっちはそれどころじゃない。2人の期待に応える余裕なんてない。
・・・聞き間違いじゃないよな?
いや、でも。
いや、え、ちょっ。
わからん。
わからんわからん。
は?
タイムスリップってあのタイムスリップだよな?
僕がやろうとして失敗したあの時渡りの力のことだよな?
それを王様がやった?
は?
何言ってんの?
んな話あるわけないだろ。
あ、あれか、ドッキリか!
王様と宗次が僕を騙そうといい感じのドッキリを考えたんだな。
いやあ、だとしたら納得できるわ。
あーなんだ、ドッキリか。
「あー、ダメだ。こいつ、完全に頭がいっちまったみてえだ。」
「そりゃそんな流れで暴露したら誰だってこうなりますって。・・・おーい、樹。戻ってこーい。絶対一人で考えてたって埒が明かないから、とりあえず俺らの話を聞いてくれ。」
でもわざわざこんな時間に僕を呼び出してドッキリをかけるだけって、正気の沙汰じゃねえぞこの2人。よっぽどストレス溜まってんのかな。
いや、でも確かに有り得るな。
王様からすると朝の僕の反逆に対する意趣返しという動機がある。戦いのせいですっかり水に流れた感じだったけど、あれをいまだに根に持っているんだったら、朝の一幕で溜まったストレスをこれでチャラにしようとしたと考えることはできる。むしろこの人ならこういう手を一番好んで使うだろう。
宗次の僕に対する動機は説明するまでもなく、玲那関連だな。なんで王様と結託しようという流れになったのかだけは不明だけど、鬱憤を晴らすためだったら王様と手を組むこともするかもしれない。
うん、でもこれではっきりしたな。これはドッキリだ。間違いない。
「おら、いい加減こっち戻ってこいや!」
自分の中で結論が出たからようやく王様の方へ視線の照準を合わせた。するとなぜか王様は僕の目の前で立っていて、これまたなぜか僕の頭を一発しばいてきた。
「痛って!!!!!」
「はあ、あんたって人は・・・。」
「お、やっぱ壊れたものを直すには叩いてみるのが一番だな!」
そしてなぜかドヤ顔かましている。ジンジンと熱を持った後頭部を抑えて蹲っている僕は完全にそっちのけにされている。
「やりたい放題すぎませんかねえ!?」
「ああ、悪かったとは思ってる。反省はしてねえけど。」
「あっけらかんとそういうこと言うの本当王様らしいですねえ!!!」
でもこれで今朝の一件が綺麗さっぱりなかったことになってくれるのなら、むしろ安く済んだと考えるべきか。
「あのなあ、国王さん。いい加減普通に話をしましょうや。こんなふざけたことしてたら本当に夜が明けますよ?」
「はあ!?誰のせいで時間食ってると思ってんだよ!」
「7、8割方あんたのせいだよ!」
2、3割は自分に非があることは認めるんかい。てかまだやるんかいこのドッキリ。
「ストレス溜まりすぎでしょ2人とも。いや、僕が悪かったのはわかってるよ?わかってるけども。僕が悪かったのは認めるけども!今日のところはもう帰してもらえませんかね!?」
どうせやるとしても、もう日を改めて欲しいんですけど・・・。
「いや待てって樹。愛想を尽かしたくなる気持ちもわかるけど、お前は特に知っておかないといけない内容なんだって。」
「お前が僕に色々仕返しをしたい気持ちはよくわかる。けど今はそんなことをしている場合じゃないことだってわかるだろ?」
「こうなった以上、急を要するかもしれないんだよ!疲れているのはわかってるけど、話を聞いてくれって。」
「俺からも頼む、タツキ!俺の知っている歴史から外れてきている以上、お前の協力が必要不可欠なんだ!」
おいおい、なんで急に2人して必死に引き止めようとしてくるんだよ。そこまでしてこのドッキリを続けたいのか?
とすると、何かこの部屋に仕掛けが施されていると考えるべきか。今発動させるしかないトラップがきっと部屋のどこかにあるはずだ。
じゃあここはもう強行突破するしかない。これ以上この2人に付き合うのはもう勘弁したいからな。
「あ、おい!!!」
「待てって、タツキ!!!」
ソファーから跳ねるように立ち上がり、目の前に立っていた王様を避けて、そのままドアに向かって走り出した。流石に実力行使にまでは出てこないと見込んでの動きだったけど、どうやらうまくいったようだ。
文句なら明日以降嫌という程聞くから、今日はもう解放してもらうぞ、王様、宗次!
「頼む、待ってくれ、アガミ・タツキ!!!!!」
どんな言葉をかけられようと、全てを無視してさっさととんずらこく覚悟が確かにあった。そんな固い覚悟を持って目の前のドアノブに手をかけようとしたはずだった。
だけど、王様の今の叫びはそんな僕の覚悟を粉々に打ち砕いていた。
「ぷっ!ちょ、ちょっと国王さん。必死になってフルネームを言おうとするのはいい考えだけど、間違って覚えてんじゃないですか。アマナシですよ、あいつの名字。」
宗次は咄嗟の王様の発言を聞いて思わず吹き出していた。それからしばらく笑いを押し殺すようにくっくっくと静かに笑っていた。
それもそうだろう。宗次は知らないはずだからな。
「・・・なんでその名を知ってるんですか?」
「一番最初にお前に会った世界でお前が教えてくれたんだよ。ーーーお前の昔の家名なんだろ?」
阿神。それは僕が10歳の時までに名乗っていた名字だ。
でも僕はその名を王様にはおろか、宗次にすら公表したことがなかったはずなんだが。
「・・・は!?樹の旧姓!?」
王様はいつの間にかさっきまでのおふざけモードではなく、それこそさっき昔話をしていた時のような真剣な顔で、真っ直ぐ僕の目を射抜かんとばかりに視線を合わせてくる。
・・・ありえない。絶対に僕は阿神の名を名乗っていない。
そもそもその名自体、耳にしたのも数年ぶりなんだから。
最後にその名を口にしたのは、タイムマシンを作ったあの研究所の場所を探すときだったはずだ。
いや、でもまさか・・・。本当にあり得るのか・・・?
「少しは信じてみようって気になったかよ、タツキ?」
まるでその自信のほどを示すように、真剣モードだったはずの王様はその硬い表情を崩し、ニヤリと笑った。
本当にあの人はタイムスリップをしてきたっていうのか・・・!?
* * *
すでに記憶から消えかけていた呼び名を呼ばれたその動揺のあまり、ついついさっきまで座っていたソファーに戻ってきてしまった。
王様はそんな僕を満足そうにみつめながら、元いた椅子に再び腰掛けてニヤリとしている。
「なんでも聞いてくれていい。それでお前からの疑惑が晴れるならなんでも答える。」
腕を組んでまっすぐ見つめるその眼差しには、自信が漲りまくっているのがわかる。王様はただのハッタリをかます気なんて全くないということを全身で表しているのだ。
どこからそんな毅然とした態度でいられるのか、今の僕にはまるで理解ができない。けど、そこまでの自信があるのなら、色々つついてやろうじゃないか。
「そもそもタイムスリップなんてどうやったらできるんですか?」
まずはこれだ。そもそも、これを行おうとして失敗した成れの果てが僕と宗次なのだ。そんな僕ら相手にタイムスリップをしてきたと言うのなら、その手段を説明してもらわないと。
「仕組みは結構複雑でな。でもお前たちが乗ってきたあのタイムマシンが鍵なのは確かだ。ただあのタイムマシンには、お前たちの言う『時を渡る力』は備わっていなかった。」
「何!?俺らの設計が甘かったって言うのか!?」
誰よりもあのタイムマシンの設計に自信を持っていた宗次は、欠陥を指摘されたことが気に召さなかったようで大声をあげた。
「だとしたら、あのタイムマシンにはどんな力があるって言うんですか?僕らが作ったタイムマシンは一体なんだったって言うんですか!?」
何も備わっていなかったなんていう結論はあり得ない。だって確かに僕らはあの機械を作動させた結果として、この異世界にやってきたのだから。
「説明しようとすると難しいが、敢えて言葉にするなら『転移能力』ってとこか。あー、そういえばお前らは『テレポーテーション』とか言ってた気がするな。」
テレポーテーション・・・。ということは、
「修理自体はうまくいってたってことだな。とすると、やっぱ時間を操作するシステムに欠陥があったってことか・・・。」
「じゃあ、僕らが乗ってきたあのタイムマシンは、本当はタイムマシンなんかじゃなくて、ただの転送装置だったってことになるのか?」
「今までのお前たちもそんな感じの結論に行き着いていたな。ーーーだからそこに、俺たちの文明である魔術の力を合わせたんだ。」
「・・・まさか、それが闇魔法か!?」
まるで何かが繋がったと言うような顔で王様を見る宗次。
「そういうことだ。そしてお前にタイムマシンの修理を頼んだのもそういうわけだ。ーーー万が一今回の作戦が失敗した時のための保険として、またこの世界をやり直せるように。」
でも残念ながら、僕の方は何一つピンとこない。何も繋がってこない。
「闇魔法には、記憶に直接働きかけるものがいくつかあってな。タツキは実際にヘボに一回やられてるからわかるだろ?」
「やられている?・・・あ、あれのことか!!!」
僕が記憶を失う原因になったんじゃないかって言われているあの夢の世界のことだろう。
「脳に直接働きかけることで、相手の記憶を混乱させたり、逆に記憶を脳内で再生させるなんてこともできる。いわゆる幻惑ってやつだな。」
「あれはもう一種の現実と言ってもいいほどですよ。幻だったと言われてもなかなか信じられなかったですから。」
それはまるで、夢を実体で経験しているかのような不思議な感覚だった。あの学校帰りの夕焼けなんて、本物だったとしか思えない再現度だった。
今の説明からすると、実際に昔見た夕焼けの景色を再現したということになるのだから、本物そっくりで当然なのだろうが。
「そんな過去の出来事すら擬似再現する力を持つ闇魔法。ーーーもしその力に、お前たちが乗ってきたタイムマシンの転移能力を合わせると、何が起きると思う?」
片方の手を闇魔法と見立て、もう片方の手をタイムマシンが持つ転移能力と見立て、両手を合わせるジェスチャーをしてみせる王様。
それが何を意味するのか。
いや、そういうことなんだろうという仮説はもうすでに頭にあるんだけど、俄かには信じられないのだ。
そんなことできるのか?
いやでも、現に王様はこうしてタイムスリップしたと言っている。
「闇魔法が見せる過去の幻に、自分を転送した。あんたが言っているのはこういうことなのか・・・?」
「ま、さすがはタイムマシンなんてもんを本気で作ろうとした奴だ。そこらへんの想像力は素直にすげえと思うわ。」
「でもだとしたら、今僕らがいるこの世界は闇魔法が見せる幻ということになりませんか?」
幻に転送する。それがもし王様がタイムスリップと言っている行為の正体なのだとしたら、こういう可能性が出てくるのではないか。
王様はタイムスリップしたと自称しているが、本当は幻という名の新しく作られた世界に転移しただけってことになるんじゃないのか。
仮にそうなのだとしたら、その幻の世界に生きる僕らって一体なんだって言うんだ・・・?
「・・・とまあ、今の説明だとそう勘繰っちまうと思うが、ソージやお前の想像とは違って現実はもっと単純だ。」
そんな僕らの不安をよそに、王様は明るくそう言ってのける。
「タイムスリップに必要なのは、タイムマシンの持つ転送の力と、闇魔法が持つ過去を引き出す力なんだよ。要は、故障したタイムマシンの修復と闇魔法を自在に操る奴の存在さえあれば、万能ではないがタイムスリップが可能ってこった。」
うーん・・・。単純と言ってはいるが、その説明があまりにもざっくりとしすぎていて、本当にそれだけでタイムスリップなんて人間離れしたことをできるのかという疑問が頭につきまとってくる。
「ま、お前らがそこに疑問を抱くのは仕方のねえ話だけどよ、俺からするとお前らがそのタイムマシンを作れたってことに疑問を抱いてんだからそこはチャラにしろや。本来、タイムスリップの一番の問題点が、お前らがやってのけたその転送を実現する手段を確立することなんだからよ。」
なるほど、お互いわからないことがあるんだからしょうがないと。おまけに僕ら側としてもその仕組みを王様に言って聞かせることはできないしなあ。
なにせ、
「とは言っても、僕らも一から作ったわけじゃないですし。」
そう、僕らもまたタイムマシンを本当の本当に一から作ったわけではないのだから。
「ああ、それも聞いてる。ーーーほぼ全壊状態のタイムマシンがそっちの世界にあったんだろ?」
と、割と聞いたらびっくりすると思って言った内容だったのだが、あっさりと王様にこう言い返されてしまう。
「・・・それも過去の僕が説明したってことですか?」
「ご名答だ。」
説明したはずがないのに、それを知っているということは、やはりタイムスリップしたということなんだろう。作り話とは思えないほどの証拠をこれだけ並べられても、なお王様のことを疑うというのは自分でもどうかとは思う。でも、それほどまでに信じがたい話なんだよ。
「でもさっきあんたは万能じゃないって言った。てことは、何か制約があると見た方がいいんだろ?」
それでも宗次は話を先に進めていく。王様がタイムスリップしているかを疑うという段階はすでに終えているような切り替えの早さだ。
「ああ、いくつか欠点はある。それも正直言って、致命的なことが結構あって困ってる。」
そう言って王様は苦笑いをした。あの王様がこんな顔をするのだから、本当に心底困るような内容なんだろう。
「例えばどんなことが?」
「まず、この方法では肉体は転送できない。転送できるのは意識、つまりは『魂』だけってことだ。」
人差し指を立てて、王様は答えた。
魂。言い換えると中身ってことだろう。ということは、知識や記憶は引き継げる。が、
「肉体は過去に戻ったらその時の身体になるってことですよね?」
「そうだ。とは言っても、これに関しては利点と欠点があるんだがな。」
「いや、利点の方がはるかに大きいでしょうよ。逆に身体ごとタイムスリップなんてしたら、時間的制限が生まれることになる。」
「・・・俺が言おうとしてたのにまた先に言いやがった。でも利点はそういうことだ。身体的経験や魔力の修練度、貯蔵量が失われるのは痛いが、それでも身体が老いるってのはいただけないからな。」
宗次に意気を挫かれながらも、王様は話を続けた。
ただこの利点、場合によっては欠点になりかねなくないか?だって、
「でも仮に肉体ごと戻れていたら、その世界には王様が2人存在できたことになりますよね?そしたら、この問題がもしかしたら解決していたかもわかりませんよ?」
王様の戦闘力は今日の戦いでしかと思い知らされたんだ。それが2人もいるんだったら、未来がどうなるかは知らないけど、大抵のことは実力行使でなんとかなるんじゃないかとか思ったり。
「それは考えたことがなかったな。・・・たしかにそうだな、俺が2人いればこんなことにはなってなかったかもしれねえな!!!」
「いや、興奮しているところ申し訳ないが、そんな状況が本当に何の問題もなく実現するかっていう問題がある。同じ世界線に同じ人間や2人も存在できるのか、とかな。」
「・・・はあ、お前には夢がないなソージ!」
「夢物語を語って事が上手く運ぶならいくらでも語りますけど?」
どうしてこの2人が会話をするといつも仲がこじれていくのだろうか。これはもう馬が合わないの一言では済まされないような気がしてくるな。
「あーもう、起きるはずのないことを巡って喧嘩するのはやめましょうよ。それで王様、他の欠点もまだあるんですよね?」
宗次を睨みながらも、王様は溜め息1つでなんとかイライラを吐き出して、気持ちを入れ替えようとしている。
「ったく・・・。んで次の問題点なんだが、過去の自分がこのタイムマシンに入った事がある時にしか戻れねえんだよ。」
「そりゃまたよくわからない制約ですね。それだけで、タイムスリップできる時間軸がだいぶ限られませんか?」
「よくわからなくもないだろ。転送するには転送元と転送先が必要で、それを繋いでいるのがタイムマシンだって言うんだったら、転送もタイムマシンからタイムマシンにしかできないってことじゃね?」
あいつの言っているのは僕らがこっちの世界に来た原理と同じことだろう。
僕らはタイムマシンに乗って異世界へと飛んだけど、飛んでいる間はずっとタイムマシンの中にいたし、タイムマシンごと異世界へと飛ばされた。要は、タイムマシンを介さないとタイムスリップは不可能だと。
こっから先は推測だけど、僕らが行ったのはただの違う世界への移動だったからタイムマシンごと移動できた。。でも時間軸を超えるときは、タイムマシンごとは無理だった。だから、転送先にすでにタイムマシンがないと実現不可能だということなんじゃないか。
「・・・お前ら、察しが良すぎてつまんねえわ。」
「伊達にタイムマシンのために年月費やしてないってことですよ。高校大学っていう大事な青春時代を投資したんですから、それくらいの対価はないと。」
と言っても王様には伝わらないか。昔の僕がそこらへんについて説明していたら通じるかもしれないけど。
「ま、補足説明しておくと、転送できるのは魂だけだから、その魂を憑依させる先がないとどうしようもないって話だ。」
「だから過去の王様がタイムマシンに入ったタイミングに合わせて魂を飛ばさないと、魂は王様の身体に憑依できずにタイムマシンの中で漂うだけになってしまうと。そういう理解でいいですか?」
「魂のみの状態っていうのがどういう状態なのか興味はあるんだけどな。でもそれがわからない以上は、確実な手段をとるしかねえだろ?」
「ますます肉体ごとタイムスリップできた方が良かったような気がしますね。」
「そう、さっきのところで言ってた利点と欠点のうちの欠点の部分の大きなところはここだな。できねえことを悔やんでも仕方ねえんだけどよ。」
ケロっと王様はそう言うが、これってまあまあ致命的な欠点になりかねないぞ。
「でも逆に言えば、事あるごとにタイムマシンの中に入っていれば、割と自由に時間の設定はできるってことじゃないのか?」
「と、俺も最初は思った。だから2周目は、タイムマシンの中で毎日暮らすくらいの勢いで過ごしていたんだけど、どうやらそんな都合よく世の中ってのは回ってないみたいでな。」
「その言い方だとそれじゃあダメだったって言い方ですけど?」
「だからそうだと言ってるんだよ。ーーーこれが最後の問題点、タイムスリップは1周目の時の俺の過去にしか戻れない。」
王様は真剣な表情でそう告げた。
とはいえ僕からすると、なんかまたよくわからん問題点が出てきたなっていう感想しか出てこない。
これは一体どういう理屈なんだ?
「これに関しては確かな理由はわからん。何度繰り返しても、飛ばされるのはいつも同じ場所、同じ時間なんだよ。」
「ここにきてだいぶ曖昧な問題点が出てきたな・・・。ここで説明を抜かれると、俺らも納得がいかないんだが。」
「仕方ねえだろ、俺だって納得いってねえんだから。お前たちの見解では、肉体自体が1周目のものだから魔法が干渉できるのも1周目だけなんじゃないかってことらしいけどな。」
僕らの見解、って今まで王様が出会ってきた僕らってことか。紛らわしい。
「魔法に関しては俺の専門外だから、そう言われると何も言えないな。」
「その台詞もすでに何度も聞いてきた。魔法は専門外だから確証はねえが、っていう前置きをしていつもお前らはその見解を述べるんだ。」
「・・・なんかそう考えると気持ち悪いな。」
宗次の意見に賛成だ。自分が言った記憶はないのに、いかにも僕らが使いそうな言い回しだっていうのが余計に信憑性が増して気持ち悪い。というか現に、宗次が今使ったしな。
でも原理はともかく、そうなってくると一つ大事なことがある。
「ということは王様、あなたはいつもどこからこの世界をやり直しているんですか?」
「あ、あー・・・。それ聞いちゃう?」
「一応聞いておこうかなと思いまして。今まで何をしていたのかを知るという意味も込めて。」
「そ、それってそこまで大事なことか?」
ん、なんだか急に歯切れが悪くなったな?何か言いづらいことでもあるのか?
「そういやあんた、数え切れないほどこの世界をやり直しているって言ってたしな。いつも同じ時間に飛ばされるとも言ってたが、何度もやり直せるってことはそれなりに近い時間には戻れてるんだよな?」
「そ、それはだな・・・。」
え、なんでそんな気まずそうな顔するの?
・・・なんか嫌な予感というか、背筋がザワザワするんだけど。
「い、いつまで戻ってるんですか王様?」
「ーーーに、24年前だけど?」
* * *
24年。
なぜか恥ずかしそうにそう言った王様だったが、その内容がもたらすインパクトは絶大だった。
それを覚えていられないほどの回数やり直しているって言うんだ。
「あ、あんたは一体何歳なんだ?」
「俺か?今39だけど?」
「・・・茶化すところじゃないってことくらいはわかりますよね?」
「仕方ねえだろ、本当の歳なんてとうの昔に数えるのをやめたんだから。」
王様の苦笑いの対応に、流石の宗次も信じられないとでも言うような表情だ。
「おいおい、やめてくれよ。いくら俺でもそんな化け物を見るような目で見られるのはちっと堪えるっつの。」
でもどうやら僕も宗次に負けないくらいのひどい顔をしていたみたいで、割と本気で傷ついてそうな王様。
「で、でも、正直俺が何年生きてるかなんてどうでもいい話だろ?今はどうやってこの国を存続させるか話し合うのが一番だ。そうは思わねえか?」
「わかっています。わかってますけど、ちょっとスルーするにはあまりにも内容が衝撃的すぎるといいますか・・・。」
5回やり直すだけで、120歳は確実に超える。9回やり直すだけで200歳を超える。
人間が同じ時間を何百年も生きれば、普通は精神が崩壊するだろう。なのにどうしてこの人は正気を保っていられるんだ・・・?
どうしてこの人はこんなにも感情豊かに僕らと会話することができるんだ・・・?
「ま、俺は強さも化け物級だからな。ってことはある意味、俺って本物の化け物かもな、はっはっはっはっは!!!!!」
そんな僕らの動揺を吹っ飛ばすように、王様はいつものように高らかに笑ってみせる。
それでもやっぱり、今まで39年しか生きていないと思っていた人が、いきなり何百年も生きているタイムトラベラーだと言われた衝撃はちょっとやそっとでは消えてくれない。
「・・・はあ、いつかこの世界が平和になった日にはいろいろ話してやるから、今はとりあえず飲み込んでくれや。俺がこの境地に辿り着くまでの歴史を語るには、ひと月あっても足りねえんだよ、わかれ。」
なおも変わらない僕らの視線に、ようやく観念したように王様は溜め息混じりにそう言った。
でも確かに何百年も今まで生きてきたんだ。きっといろんな紆余曲折があって今の王様が生まれたに違いない。僕らの想像の範疇をはるかに超える時間を生きてるんだ。王様の反応が想像と違ったって、よく考えたってそこまで驚くほどのものでもないのかもしれない。
ひとまずはそういうことにしておこう。いつかまた暇な時間があったらちょっとずつでいいから、その片鱗を聞かせてもらうことにしよう。
「じゃあせめてこれだけ聞かせてもらっても?」
「言ってみろ。」
「今のあんたは何のために生きてるんだ?」
宗次の質問は、どうやら王様の不意を突くことに成功したようで、一瞬王様の目が泳いだ。
「妙な質問するじゃねえか。何か裏がありそうで答える気が失せるな、おい。」
「今のところ裏だらけのあんたには言われたくないな。・・・単純に今回の周回で、今までとは行動パターンを変えた理由を知りたかっただけだ。」
行動パターン、というとあれか。なんで今回の周回では、今までの周回のようにタイムマシンの修復を第一にしていないのかっていうことか。
その理由が、王様の心情に何かしらの変化が生じたからなんじゃないかと宗次は睨んでいるわけだな。
その質問に対し、王様は無言で何か考えているような仕草を見せている。それが何に対するものなのかは推し量れそうにないが、王様の顔は明るいとは言えない。ということは、これもまた言いづらいことなんだろうか。
しばらくの沈黙の後、ようやく王様は口を開いた。
「ーーー全てはマイヤのため。それが一番しっくりくる答えだろうな。」
悩んだ末に出された答え。なのだろうが、どうも僕にはしっくりこなかった。ここで姫様の名前が出てくるのを想定していなかったからってだけなのかもしれないけど。
「どうしてここで姫さんの名前が出てくるのかって疑問はあるが、そういう言い方をした以上は語る気がないんだろうな。」
「察しが早くて助かるぜ。ただ、この国を背負う王として、今の言葉に嘘偽りがないことは誓わせてもらう。・・・この誓いが、今の俺にかけられてる疑いを晴らす効果を持つかどうかは知らねえけどな。」
半ば自虐気味に笑う王様。あのなんとも気まずそうというか、申し訳なさそうな表情を見ていると、それだけで信じてあげてもいいんじゃないのかという気が沸き起こってしまうのが、あの人の得なところだよなあ。
ただ、相手はあの宗次だ。あるときは自分の感情の赴くままに行動するくせに、あるときはこれ以上ないくらいに打算的に、そして合理的な判断を下す男だ。少なくとも、僕みたいに感情に流されるようなタイプの人間ではない。
そんなことを内心思っていた僕だったが、宗次からの言葉は思ったよりも柔らかかった。
「何百年も生きてる人間が、ここで娘のためだと言えるんだったら大丈夫か。」
宗次はそれだけ言うと、これ以上の追及をしようとはしなかった。言い出しっぺが口を噤んだのだから、僕からも特に言うことはなくなってしまった。
「・・・これだけぶっ飛んだことを言っときながら隠し事をするなんて非常識もいいとこだってことくらいわかってる。おまけにその理由が、ただ単に俺の意地の問題だって言うんだから救いようがねえ。だからいくらでも心の中で罵倒してくれて構わん。」
罵倒、ねえ。
流石に自分の娘のためだって言って、何百年も世界をやり直してる人間を罵倒する気は沸かないかなあ。
「これだけ長い人生過ごしておいて、まだプライドがあるだなんて言われたら、それはもう逆に尊敬に値するよ。」
半分呆れ気味ではあったが、残り半分は本気でそう言っているような感じが今の宗次からはした。
そんな宗次を見てちょっと安心した様子の王様。それでもまだ少し心配そうに、今度は僕の方を見てきた。
なので僕も、今できる一番優しい笑顔を王様に返してみた。
「そんな引きつった笑みを浮かべられると余計に辛いんだが。」
「え、嘘でしょ!?慈母のような笑みをイメージしてみたんですけど!?」
「ロボットの笑顔の方がまだ自然だと感じるレベルだったぞ今のは・・・。」
「お前までそんなこと言うのか宗次!?」
ここでようやく、久々に心の底からだと感じられるような笑い声が部屋に響き渡った。そう考えると結果オーライに思えなくもないが、笑顔の不自然さの改善はどうやら急務かもしれない。
「本当、お前に出会えたことだけは胸張ってよかったって言えるぜ。」
「ん、何か言いました?」
「さあて、俺のことは信じてもらえたようだし、いよいよ本題に入るぞ!これからのことについて作戦会議だ!」
「俺にははっきりと聞こえてんだよなあ・・・。」
* * *
「つまり、この世界は今までの世界とは違う運命をたどり始めていると?」
王様曰く、世界というのは、同じような行動さえ取っていれば、訪れる未来もまた同じようになるのだという。多少の誤差程度では未来は揺るがないらしく、その証拠に今までの世界はほぼ同じタイミングに同じイベントが起きていたらしいんだけど。
「今回は色々と流れを変えちまってるから仕方ねえ。それでも、今日のギガントドレーギア襲撃までは明らかに大きな変化ってのはなかったんだよ。でも、ここまで今までの歴史と違う出来事が起きちまった以上は、今まで通りの動きにこだわる必要もなくなったと思ってな。」
それで今回の暴露というような流れになった・・・と。
いや、よく考えたらそれは違うか。だって、
「でも僕には、今までは正体を明かしてきていたんですよね?むしろ、今までの動き通りじゃなかったのは僕への対応だったんじゃないですか?」
「ああ。お前が関連する出来事については全て、今回が初めての取り組みだ。今まではお前も宗次もタイムマシンの修復作業で大忙しだったからな。」
つまり、僕が王様にあの無茶振りをされたところからすでに新ルートへ突入していたってことか。
「でも変な話、今まで僕に王様のタイムスリップのことを黙っておく必要ってあったんですか?別に黙っておいてほしいと言われたら、誰かに話すつもりなんて全然なかったんですが。」
仮に誰かに言いふらされると困るという理由だったのだとしたら、それは少し寂しい気持ちになるなあ。なんというか、信用がないって言われたような気分になるし。
・・・それに宗次はすでに知っていたのに僕が知らなかったっていうのがますます気に入らなくなる。まるで宗次は信頼があるって遠回しに言われているような気がするというか。僕は今日の魔獣退治で実績を上げるまでは信頼されていなかったんじゃないのかとか変なこと考えてしまうというか。
そんなことを思っていると、王様は後頭部をぽりぽりと掻きながら「あーそれはな。」と申し訳なさそうに言った。
「今回に限っては、お前にこれを明かすと色々とお前に迷惑をかけると思ったんだよ。」
「僕に迷惑?」
どうやら僕が思っていたようなことではなさそうだな。でも僕に迷惑ってどういうこと?
「いやだって、今回の俺の計画を成功させるにはお前の協力が必要なわけだからさ。この世界に来てすぐのお前に、『俺は何度もこの世界をやり直してるんだ!それでこの国を救いたいから、お前も力を貸してくれ!』なんて言ったらどう思うよ?」
いや、どう思うって言われても・・・。
そんな、いかにもそれが現実には起こらなかったことのように言われてもさ?
「どう思うも何も、同じようなことを実際に言いましたよね!?」
「はあ!?バカ言え、そんなことを言った記憶は・・・」
「『ちょっと俺の国の勇者になってくんない?』とか言ってましたよね!?それってさっきの発言とあんまり変わらなくないですかね!?」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・んなこと言ったっけ俺?」
「ぅおいっ!!!!!」
なに素で忘れてるみたいなオーラ出しとるんじゃ!間違いなく言ったからなあんた!?
「ま、まあそれでも確かタイムマシンを直すためって言ったはずだろ?これから迫り来る魔獣との戦闘に参加してもらうとは言ってなかっただろ!?」
「いや確かに言ってなかったけど!それでもなんか魔王討伐とかいう、今考えれば訳のわからないことも言ってましたよ!?」
「あーなんか言ったかもなー。それはあれだ、お前がだいぶ昔に言ってた空想上の異世界の話を持ってきたんだったんじゃねえかな。」
昔っていうと、だいぶ前の世界の僕のことか。あーもう、自分じゃない自分の話をされるのはどうも気持ち悪いな。
おまけにその空想上の異世界って絶対2次元の話でしょ。よくわからんけど、なんかのRPGのゲームの話か、異世界系の漫画かラノベの話でもしたんだろ。
でもよく考えたら、魔王討伐に行くのも魔獣との戦いに参加するのもさしたる違いはないか。一体どうしてこんなことになったのやら・・・。
・・・・・・。
・・・・・・。
「いつの間にこれから迫り来る魔獣との戦闘に参加することになってるんですか!!!!!?????」
「なんだよ急にうるせえな!今日しっかり任命しただろうが。『参謀役として働いてもらう』って。」
「え、ええ・・・。あれって、これから毎回今日みたいな戦闘があるたびに今日みたいに戦うってことですか?」
「なに今更ビビってんだよ。さっきはあんだけ誇らしそうにしてたじゃねえか。それにそのほうがマイヤからの好感度も上がるぞー?」
・・・姫様をダシにされると何も言えないんだが。
「ほら、今ならマイヤの名前を出すだけでこんな風に黙ってくれるが、来てすぐの時のお前にこんなこと言ったって、タイムマシンを修復したら即帰るって言ってきかなかったと思わねえか?」
そりゃそうだろう。当時は全くこの世界に愛着なんてなかったし。全く戦う力もなければ、異世界転移恒例のチート能力もあるわけでもないし。やる気なんてゼロだったと言っていい。戦う力は今もないけど。
「でも、それを強制することも王様ならできたじゃないですか。今までの王様の経験を全部話して頼みこめば、当時の僕でも少しは考えを変えたとは思いますけど。」
「そんなことをして無理やり戦ってもらったって、お前自身やる気が出なかっただろ。嫌々魔術の勉強をさせられ、嫌々剣術を鬼教師に指導される。それじゃあ意味がねえよ。」
「意味がないって・・・。かと言って、僕が姫様にここまでの好意を抱かなかったら僕は多分・・・」
とここまでを口にして、突然身体に異変を感じた。
途端に背筋があり得ないくらいに冷え始め、全身の毛が逆立ち、おびただしい量の鳥肌に覆われた。
きっとその原因は、きっと今僕の頭の中を埋め尽くしている、この考えたくもない嫌な想像のせいなのだろう。
・・・嘘だ。
いや、まさかな。
そんなこと・・・あるわけ・・・。
「・・・樹、何かに気づいたようだな?」
しばらく沈黙を保っていた宗次が久々に声をあげたが、その言葉の内容のせいか、顔を見ることができなかった。
「おいおい、変なこと考えてねえだろうな?」
「変なことっていうのは違うだろ、国王さん。身の潔白を証明したいのかもしれないが、結局はあんたの描いたシナリオ通りなんだ。ただきっかけを作っただけだとかいう逃げは今の樹には通用しないと思うぞ?」
その会話の内容を聞いて、ますます鳥肌がその粗さを強くしているのを感じた。体感温度は真冬の北海道並みだと言っていいかもしれない。
「王様。」
「待て、タツキ。落ち着け。話せばわかる。」
「僕が姫様のことを好きになったことすらもあなたの計算通りだとでも言うつもりですか・・・?」
今の僕がどんな顔をしているのかは僕にも想像がつかない。
「まさかとは思いますけど、あの時玲那を拉致したのもこのためだったんですか・・・?」
それでも、王様の額を流れるあの冷や汗の原因が僕が放っているプレッシャーのせいだろうということは言うまでもなさそうだ。
「何か・・・。何か言ったらどうなんですか!?」
いつの間にか勢いのままソファーから立ち上がって、椅子に座る王様を見下ろす形になっている。
それでも、僕からの圧を受けているはずの王様は、困った顔で何も言おうとしない。
「・・・否定してくれないんですか?一言違うと言ってくれるだけで済むと思うんですが?」
一向に王様は僕と目を合わそうとしない。視線を交わすことすら避けようとしている。
その様子に、ついに僕の頭の中は真っ白になってしまった。
「・・・嘘・・・でしょう・・・?」
「・・・・・。」
「全部あなたの世界を救うために、僕の感情すら操作されていたって言うんですか・・・?」
「・・・・・。」
「ーーーなんか言えよこの卑怯者が!!!!!!!!!!!!!!!!」
こうして、王様との喧嘩から始まり、玲那との決別、巨大龍との戦闘、村の過去の暴露話、そして王様のタイムトラベラー宣言と続いた長い長い1日はようやく幕を下ろした。
同時に、この世界に来てからなんやかんや一度も失われることがなかった王様への信頼が、粉々に砕け散った。
この話が今までで一番書くのに苦労したかもしれない・・・。
何回原稿をおじゃんにしたことか・・・。




