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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第3章
51/72

3-11 不明

 「終わった・・・かよ。さすがにちっとばかし無理したかもしんねえ。」


 そう言うと、王様は片膝を地面につけてその荒い呼吸を整えようとしていた。


 「いくら王様といえども疲れは出るもんなんですね。」


 「俺だって人間やめてねえっつの。今日一日の俺の活動を思い出してみろや、労働っぷりが異常だろうがよ。」


 珍しく本気で疲労が蓄積されているようで、いつもの声にもどこか力強さが欠けている。


 聞いたところによると、僕が意識を失っていた間に魔王さんとひと悶着あって僕と一緒にダウンしてたらしい。

 そこから単身、例のドラゴンの破壊光線を一人で受けきって、そこから一対一で戦闘。そして最後に、あのドラゴンの破壊光線をも凌ぎそうな威力の雷を、制限時間を設けられた環境の中で撃ち出した。


 ・・・むしろなんで片膝つく程度の疲労しか溜まってないのこの人?とっくに人間やめてない?


 「それよりタツキ、見ろ!ギガントドレーギアに動きが!」


 「は!?動き!?」


 言われるがままに頭部を失ったドラゴンを見てみると、そこには目を疑うような現象が起こっていた。


 ドラゴンの全身が黒い煙に包まれていたのだ。その煙のせいで、さっきまでは森のどこにいても全身のどこかしらが見えていたはずなのに、それが全て黒い煙によって隠されてしまっている。


 「なんの煙ですかあれは!?」


 「わからん!魔力とも違う何か奇妙な気配を感じる。」


 王様の反応を見ているだけでも、間違いなくイレギュラーが起きているということがわかる。


 ということは自然現象ということでもなさそうだ。とすると、やっぱりあの魔獣が何かやっているってことになるのか。


 まさかとは思うが・・・。


 「あいつ、自己再生能力とか持ってないですよね!?」


 「頭部吹っ飛ばしておいてまだ意識があるってか?そんな生命体だよそれ!」


 そんな言い合いもなんの気休めにはならない。おいおい、頼むから第2ラウンドだけは勘弁だぞ・・・?



 「・・・吹き飛ばせ!」


 そんな嫌な想像ばかりが頭でぐるぐるしていたところに、耳馴染みのある声が飛び込んできた。


 「・・・お嬢!それに姫様も!」


 声の方へ目をやるとそこには、さっきまで横になっていたはずのお嬢と姫様が森の中から姿を現していた。


 「ご無事でしたかタツキ様!お父様もご無事のようで何よりです!」


 「ご無事で済むかは煙の中身次第だ。」


 さっきのお嬢の叫び声は魔力を行使した合図だったようで、そのお嬢の得意魔術といえばお馴染みの風魔術だ。


 つまり、さっきの掛け声はお嬢があの黒い煙に向かって風を放った合図だったということだ。そしてその目論見は功を奏し、煙は霧が晴れるかのようにあっけなく吹き飛ばされていった。


 漆黒のベールが剥がされたその中身はどうなっているのか。僕ら4人はその先に待ち受けている光景にくぎ付けになっていた。


 そこに待っていたのは、

 

 「は!?」

 「魔獣が!?」

 「ちっ!?」

 「縮んでる!?」


 頭部を失って平衡感覚を失ったドラゴンの死骸が、全身から黒い煙を噴出して縮んでいく異様な絵だった。



 「もう訳がわからないわね、あの魔獣。」


 「・・・謎が多すぎる。」


 

 気がつけば、シャミノさんとファイアーマンもこちらに合流していた。なんとか全員とてつもない疲労と軽傷が目立ちはしているが、なんとか無事に作戦を成し遂げたらしい。



 その後、お嬢の提案を受けてドラゴンが縮んでいった場所へと全員で向かった。

 するとそこには、さっきまでの巨体を一切感じさせない、中型の大きさのドレーギアの死骸が頭部を失った状態で無残に転がっていただけだった。


 果たしてあの黒い煙はなんだったのか。あれが巨大化の原因だったのだろうか。

 

 様々な謎を残していったあの巨大龍だったが、僕らが危惧していた、復活劇という最悪の展開にだけはならずにその生命活動を終えた。


 でも僕は、そんなことよりも一つ気になることがあった。



 このドラゴン、前にどこかで見たことあったような気がする。ありえないのはわかっているんだけど、しっかりとこの両目であいつの姿を確認したことがあった気がするんだよな・・・。 


            *     *     *


 「若!姫!無事じゃったか!!!」


 「言ったでしょう義父殿?ガルディンもいるんだし心配はいらないって。」


 王都と外を隔てる門をくぐった僕らを待っていたのは、すでに懐かしく思える顔ぶれだった。

 こうして改めて見ると、師匠はいろいろと整っているんだということを再認識せざるを得ない。ちょっと長めの白髪には艶のようなものがあってきちんと手入れされているのがわかるし、身に着けている装束のようなものにも皺一つなく清潔感抜群だ。どこぞのぼろ雑巾村長とは大違いだ。

 そして隣に立っている眼鏡アラフォーイケメンは、もはや言葉が必要ないくらいの整いっぷりだ。黒い白衣というよくわからないものを常に身にまとっているが、こちらもまた汚れひとつなくきれいな仕上がりを保っている。こちとら、森の中を走り回ったり爆風をもろに浴びたりと、心身共にボロボロだというのに。


 「よう、爺にザイロンか。王都の警備ご苦労だったな。」


 「あれほどの魔獣、今回ばかりはわしも参戦した方がよいかと思っておったが、見事じゃったぞ若。」


 「随分と時間がかかっていたようだね、ガルディン。・・・もっとも、君が戦っていなかったからだろうということはわかっているけどね。」


 姫様曰く、空の灰色は王様のあの必殺の一撃が空に届いたと同時に、まるで漫画やアニメの世界みたいにパーッと晴れていったらしい。あの目薬魔法が切れたのは、あの一撃が放たれてから少し経った後だったから残念ながらそれを目にすることはできなかった。


 そうしてようやく本来の色を取り戻した空だったが、僕らがここへ辿り着くころにはすっかり橙色へと変わってしまっていた。僕らが王都を飛び出していったのが、本来なら朝食を終えるくらいの時間だったはずだから、もうかれこれ10時間くらい経ってる計算になるのか。

 ・・・やばい、意識し始めたらお腹の虫が急に活性化し始めやがった。てかちょっと待て、今日の僕まだ何も口にしていないよな?


 「言っとくけどわざとじゃねえからな、ザイロン。お前の善意が結果的に仇になったんだ、一言謝罪がほしいくらいなんだが。」


 「僕の善意・・・?―――ああ、ヘボのことか!なんだ、あいつがそんなにお荷物だったのかい?」


 「荷物どころの騒ぎじゃねえよ!村の奴らとドンパチ始めるわ、俺をぼっこぼこに殴るわ、その反動であいつも戦闘不能になるわ、それでマイヤの魔力使うわ、そのまま何もせずに帰っていきやがるわでもう散々だ!」


 「あっはは・・・。これは後でお仕置きだね。」


 軽い笑いを浮かべながらも目が笑っていないザイロンさんに、尋常ない恐怖を覚える僕なのであった。


 「ところで若、娘や孫の姿が見えんが一緒じゃなかったのか?」


 「あー、シャミノ様とサラならカルシウ村に寄ってから帰る手筈になっています。今回の騒動を受けて色々と話し合わないといけないことがありましたので。」


 手筈・・・というと少々語弊がある気がする、とツッコミをいれるのは脳内だけに留めるのがよさそうだな。


 でも、あれは半ば脅迫みたいなものだったと言わざるを得ない。



 『お前はエンガと一緒に村に行ってこい。・・・フウランの仇はとった。それだけ伝えたらまっすぐ帰ってこい。』


 『で、でもガル・・・』


 『―――王命だ!異論反論は聞かねえ。・・・行け!!!』



 あの時の王様の威圧感は、さっきの巨大龍の放っていたあれが赤子に思えるほどの凄みがあった。あのシャミノさんが一言も言い返せずに従ったのだから。そんな母を心配に思ったのか、お嬢は一言王様に告げてから、村に向かって歩きだした母の後を追いかけていった。


 だから今この場にいるのは、僕と王様と姫様の3人だけ。師匠がその様子を不審に思うのも無理はない。


 「でもガルディン、今回の事件は僕らも他人事で終わらせるわけにはいかないよ?」


 「・・・ああ。あんな奴がこっから先また前触れもなくポンポン出てこられたらたまったもんじゃねえ。」


 前触れもなく、という部分が非常に恐ろしいところだ。あいつが出現した瞬間を僕は見れていないけど、目撃者はみんな口を揃えて、何もない場所に突然現れたって言っていた。

 それが仮に本当だとしたら、今この世界は結構やばい状況にあると言っていい。徐々に魔獣の出現頻度は増えているし、規模もまたどんどん大きくなってきているんだ。このペースを維持されたら、持久戦で押し負けるし、さっきのあれが何匹も出てきた日には、真面目に王国滅亡の危機だ。


 「じゃが今は、疲れをとることが最優先だ。消費した体力と魔力を回復させねば、次の襲撃が本当にまずいことになる。ほら、まずは王宮に戻るとしよう。」


 「・・・確かに義父殿の言うことも一理ある。僕も、家で寝かせてある双子たちとその子守を頼んできたメイギスと一緒に家事を一通り終えてからそちらに向かうことにするよ。その間に3人は戦闘の疲れを癒すといい。見たところ、マイヤちゃんとタツキ君は魔力が尽きているようだしね。」


 見ただけで僕らの魔力が空っぽなことを見抜いたぞこの人。さすが王都最高の魔術師ってところか。 



 とりあえずは本拠に戻って休息をとるということで場がまとまったので、僕ら5人はそれぞれの家に向かって歩き出した。ナユリア家も王宮からかなり近いから、ほとんど帰路は一緒なんだけどね。


 「後でシャミノたちも帰ってきたら会議を行う。お前ら二人も参加してもらうからそのつもりでいろ。」


 「わかりましたお父様。」


 ん、お前ら二人?僕のほうも見ているってことは。


 「ぼ、僕も参加するんですか?」


 「お前はさっきの戦いで自分の存在価値を証明した。これでようやく名実ともにマイヤの護衛として認められたってこった。今後はザイロンと一緒に参謀役としても働いてもらうからな。」


 ・・・ん?


 おお?


 おおおおお?


 なんか僕の株が爆上がりしてないか!?


 え、これは大幅なクラスアップじゃないの!?すごい、すごくない!?


 「なんだい、これまた大幅な格上げだねタツキ君。何かすごいことでもしたのかい?」


 「い、いやあ、それほどでも。」


 「謙遜することはないのですよ、タツキ様。今回の勝利は間違いなくタツキ様がもたらしたものなのですから!」


 お、おおおおお!!!!!


 姫様の顔がいつになくキラキラしている!

 これだ、こういう期待や羨望に満ちた眼差しで見つめられてこその、頼りがいのある彼氏というものだよな!


 「まったく、情けない顔をしおって。あんな奴が姫の傍におると考えただけで、」


 「まあそういうな、爺。今回に関しては贔屓目でも誇張でもなんでもなく、ギガントドレーギアを倒すことができたのはあいつのおかげなんだ。」


 「ふん、あの小童にそのような力はないということくらい、この爺にはわかりますぞ!若の贔屓目がすぎるのも爺はよーく知っておりますぞ!!!」


 「じゃあ後の会議で、あの戦場に行った奴ら全員に聞いてこい。―――あいつはやっぱり見込んだ通りの男だったんだよ。」


 「・・・そんな笑顔を見せられたら、もう何も言えんわい。」


 何やら師匠が王様に向かって騒ぎ立てているけど、まあいつも通りの光景というべきか。


 「とにかく後で、君が成した功績というものを僕もじっくりと聞かせてもらいたいものだね。」


 「王様に聞いてくださいよー。自分の口から言うと自慢話みたいでなんか嫌ですしー。」


 「・・・そんな惚気たっぷりのどや顔をしていたら意味がないと思うよ?」


 え、そんなにひどい顔してた?確認のために隣にいる姫様を見る。すると、ニコリと一つ笑みを返し、


 「あまり見たことのない、自信に満ち溢れた顔をしていますよ?」


 と姫様はどこか嬉しそうに言った。そこでようやく、姫様とじーっと見つめ合った状態になっていることに気が付いて、全身がカーッと熱くなっていった。反射的に姫様から目を逸らすと、その逸らした先で今度はザイロンさんが少し恥ずかしそうにしながら僕らを眺めていた。


 「そんな数秒見つめ合っただけで顔を真っ赤にしないでもらえるかな2人とも。見ているこっちが恥ずかしくなってくる。」


 そしてその一部始終を見せつけられる形になったザイロンさんは、目を逸らしながら溜め息交じりにそう言った。 


 背中にむず痒い感覚を覚えたので、少し早歩き気味に進みだした僕だったけど、どうやら考えることは同じだったようで、なぜか隣にはさっきと全く距離が変わっていない位置に姫様がいた。


 その様子を見て思わず笑ってしまった僕らは、そのまま自然と手をつないで王宮まで帰った。何やら背後から突き刺すような視線だったり、好奇に満ちた視線を向けられているような気がしてならなかったが、姫様は満足そうに顔を赤らめていたので、僕もまた自然と笑みがこぼれるのだった。


            *     *     *


 「あんなでかい化け物も倒しちまうなんて、さすがガルディン様だ!!!」

 「キャー、ガルディン様ぁぁぁ!!!!!!」

 「かっこいい、かっこよすぎる!!!!!!」

 

 あのアホみたいに疲れた超規模戦闘を終えた僕らを迎えたのは、熱狂的といえるほどの国民の歓声だった。あ、違うな。国民たちが迎えているのは『僕ら』じゃないな。


 「ガルディン様ああああ!!!!!こっち見てええええ!!!!!」

 「あら、後ろのほうにザイロン様もいらっしゃるわ!!!!!」

 「ザイロン様あああああ!!!!!今日もかっこいいわあああああ!!!!!」


 うん、王様とザイロンさんだけだな。僕を含むほかの人たちにはまるで目もくれてないわ。


 「はっはっはっはっは!!!この俺がいる限りこの国は安泰だ、安心しろ!!!!!」


 そしてそんな黄色い歓声に応えるように、王様もいつもの元気な声で対応している。

 しっかしいいよなー、一言何か言うだけで王都全体が震えるような熱狂の渦が巻き起こるんだから。


 いや、別に羨ましくもなんともないんだからね?そりゃあ、あの人は僕なんかとは比べ物にならないくらい身分が上の人なわけだし。そもそも、僕なんかが行動を共にできている時点でありえない話なんだし。


 「ザイロン様!また今度うちの店に寄ってってくださいね!」

 「ザイロン様が来られるなら、いつでも指名を空けておきますから!」


 「ははは、ありがとう。また時間ができたら会いに行くから待っててくれ。」


 っておい妻子持ち。あの女たち、どう見たって夜のお誘いじゃねえか。なに平気でまた会いに行くとか言ってんだよ。シャミノさんとお嬢がいなくてよかったなおい。危うくまた家出禁だったぞこのエロ河童。


 そんなことを考えていると、師匠が王様の周りに群がる人たちから逃げるように後ろから駆け足で僕らのほうにやってきた。


 「まったく、毎度毎度これじゃからたまったもんではないわい。」


 「お父様の人気は、思わず嫉妬してしまいたくなってしまうくらいですよね。」


 そう言われてみれば、王様と一緒に王都を出歩く機会ってなかったな。大体姫様が一緒にいるってパターンばっかりだから、王様がこうして王都で国民と接しているのを見るのは、もしかすると一番最初に会ったあの時以来じゃないか?


 「なぜかザイロンさんまで人気ですけどね。」


 「・・・あとであやつには、問いたださんといかん内容があるがな!」


 あ、そうじゃん・・・。なんでセーフだと思っていた自分がいたんだろうか。あの2人以上に聞かれたらまずい人がここにいたじゃないか・・・。


 ま、全部自業自得や。ご愁傷さまです、ザイロンさん。


 「いつか私もあのように慕われるような王になれるでしょうか?」


 内に煮えたぎるような怒りを秘めた爺さんをよそに、姫様は王様とザイロンさんを囲む人々を羨望の眼差しで見つめていた。


 「逆になんで全く姫様が見向きもされていないのかが僕には謎なんですけど。その、彼女だからとかいう贔屓目をなしにしても、姫様って・・・。その・・・、ね?」


 「・・・???」


 な、なんだ。ただ一言可愛いと言おうとしただけなのに、なんかすっげえ恥ずかしいんだけど。   


 「だ、大丈夫ですかタツキ様?何やらお顔が真っ赤ですよ?」


 「い、いやあ何でもないです!なんでもないんでもう忘れましょう!?」


 「は、はあ。よくわかりませんがそうしますね。」


 耳がめっちゃ熱い。たった一言を口にしようとしただけで全身が熱い。


 「はあ・・・、何をしとるんじゃ全く。よくもまあそんなんで姫様の彼氏なんぞが務まっておるな!というかわしはまだ認めておらんがな!!!」


 「急に勝手に怒るのやめてもらえませんかねえ!?あと、さっきまでグサグサと背中に視線を刺してきてたの僕知ってますからね!?」


 どうして視線って目には見えないのに、ああも物理的な不快感を感じてしまうのか。いや、師匠のあれはもはやただの視線じゃないな。あの全身から溢れ出てる嫌なオーラを視線として発射してると解釈するのが正しいかもしれない。とにかく、それくらいに師匠に見られるのは嫌だ。


 「あとお前は知らんだろうから言っておくが、あまり姫にそういう類の話はするな。」


 そんな師匠が、急にこっそりと距離を詰めて僕に小声で耳打ちしてきた。その内容の不穏さに、一瞬何を言われたのかよくわからなくなって、発言内容を改めて聞き返そうとしてみたが、すぐにさっと距離を取られてしまったので、これ以上の追及ができなかった。今のやり取りがあまりにも一瞬だったから姫様には気づかれなかったのもあって、話を膨らませずらい空気を出されたのも一因だ。


 

 そんな中、僕らの進路前方に何やらやんちゃそうな子供が3人並んで立っているのを発見した。まるで通せん坊をしているようだったので、僕ら3人も速度を落としてその子供たちの前で立ち止まった。

 見たところ小学生くらいかな?僕の肩よりも背が低いし。


 「あら、子供たちまで出迎えに来てくれるなんて珍しいですね。」


 「おまけにあの感じだと僕らの出待ちじゃないですか!?やりましたね、姫様!」


 やっぱり純粋な子供たちの中には、ああいう社会に汚れた大人たちよりもこっちのほうが人気出るんだねえ。いやあ、わかってるな最近の子供たちは。


 さて、せっかく僕らを待っていてくれたんだ。ちょっくらファンサービスを・・・。


 と思っていたら、子供たちが何やらポケットの中から取り出したぞ。


 ・・・あれは、小さいレンガか?


 「おまえが王様をこまらせてるんだろ!!!」

 「そーだそーだ!おまえがきてから王様はぼくらとあそんでくれなくなった!」

 「おかーさんが言ってた!おまえがきてからぼくらのくにがおかしくなったって!」


 ・・・え、なにこの展開?ちょ、ちょっと待て!そのレンガを投げるのは危ないって!お、落ち着け!


 「えいっ!!!」


 あのガキども、本当に投げやがった!!!って一個的外れなところに飛んで・・・、ってあのクソガキどこ投げてんだ!そっちには姫様が!


 「姫様、危ない!!!!!」


 「えっ!?」


 まずい、間に合わない!!!あのコースだと顔面直撃だぞ!?


 「———ぬうんっ!!!」


 慌てて腕を伸ばしてレンガと姫様の間に割り込ませようとするも、絶望を感じかけたその時。白い刃のようなものが、姫様に向かって飛んでいたレンガを粉々に砕いた。


 「な、何が起きて・・・、痛って!!!」


 その謎の現象に気を取られていたら、思いっきり右肩にレンガの一つが直撃した。その後ろのほうで、最後のレンガが床にたたきつけられて割れる音も聞こえた。


 「はは、あたったあたった!!!」

 「悪はせいばいだー!!!」

 「おとーさんにほーこくだ!あのうわさの悪いやつをこらしめたってじまんするぞー!!!」


 僕にレンガが当たったのがよほど嬉しかったのか、子供たちはキャッキャッと声を上げながら、全速力で去っていった。


 それにしてもなんと悪意に満ちた顔をするんだこの子供たちは。これが本当に子供のすることなのか・・・?


 「姫、無事か!?」


 「は、はい。ですがタツキ様が肩に!」


 「だ、大丈夫ですよこれくらい。さすがに子供の肩力でしたし、軽傷で済みそうです。」


 とはいえ、普通の石をぶつけられたのと比べると結構痛い。それに先の戦闘の疲労もあるからか、当たったところに満足に力を入れられない状態になってしまっている。


 「・・・行くぞ、若に異変を悟られる前に。」


 そんな僕の顔をちらっと見た師匠は、僕の怪我を気遣うこともなくすたすたと歩きだした。


 師匠が僕の心配なんてしたことないから、その反応に今更抗議をしようという気は湧かなかったけど、この国の政を取り仕切っている立場の人間が、この治安の悪さを見て見ぬふりをしようとするその態度には、些か納得のいかないものがあった。


 「師匠、さすがに今のは・・・」


 「言いたいことはわかる!じゃが、ここ最近の王都外での魔獣騒ぎで民たちも気が立っているということも理解してやってくれ。」


 気が立っている・・・?そんな理由でどうして僕がこんな目に遭わないといけないんだ?


 ・・・なあ、師匠?あんたは今、どういう理屈で僕の怒りをこらえさせようとしているか、冷静になって考えてみたほうがいいんじゃないか?なあ!?


 「で、ですがタツキ様は今回の戦闘の功労者です!そんな人に対してこのような仕打ち・・・!」


 「それをさっきの者たちは知らないじゃろう?・・・それにあの口ぶりじゃと、どうやら噂は本当のようじゃしな。」 


 その噂がどんな内容なのか、今の仕打ちを考えれば、聞かなくてもなんとなく想像はつく。どうせ、僕が来てからこの国がおかしくなったとか、魔獣騒動に僕が関わっているとかいう根も葉もないやつだろ。


 「そんな噂、セイラス様やお父様が嘘だと一言言ってしまえばお済みになるでしょう!?」


 「それで済まなかったから今回のようなことが起きたのじゃ。・・・今の王都の混乱ぶりでは、それが嘘だと証明できる確たる証拠がないと、なかなか民たちの心に蔓延る不安を取り除くことができぬのよ。」


 ・・・ふっはっは。これまた随分と理不尽な話だな。嘘か本当かもわからない噂に扇動されて、僕の名誉が汚されているのか。命張って外の脅威に立ち向かった人間に対して、何の力も持たない一般人に過ぎない分際がとやかく言って、害をなしてきているのか。



 なんだこの国。腐ってやがる。


 「ですがそれも今日で終わりですよ、タツキ様!何せタツキ様はあの伝説級の魔獣であるギガントドレーギアの討伐に大きく貢献した勇者なんですから!」


 今ばっかりは、その姫様の励ましの笑顔もあんまり心に響きそうにない。単純に疲れているっていうのもあって、なかなかこのイライラが収まってくれそうな気配がない。身体の内側からムカムカムカムカっていう黒い感情が湧き出てきて止まらない。


 「・・・残念じゃが、それも公表できるかどうかは怪しい。」


 「え、なぜですかセイラス様!?今回の一件で間違いなくタツキ様の冤罪を晴れるはず!」


 「今回の小僧の功績を公表すると、それはそれで新たな問題が浮上するのじゃ。」


 「・・・どうして一般人風情の僕がそんな力を持っているのかって騒ぎになるんでしょう?その感じだと、僕が魔術や剣術の修行をしていることは秘密にされているって感じですし。」


 これもまた、大方の予想はついていた。そもそも僕に戦う力があるって知れ渡っていたら、あの子供たちは報復を恐れて攻撃を仕掛けてこなかったと思うし。


 「そ、そんな・・・。それだったらタツキ様への誤解はいつになったら解けるんですか!?」


 「・・・国の情勢が安定してどうなるか、じゃな。」


 どうなるか。この言い方からもわかるけど、下手すると僕は一生この国の人たちから嫌われながら生きていくことになる可能性だってあるってことだ。


 「・・・はっはっはっはっは!!!!!」


 「た、タツキ様?急にどうされたのですか?」


 「これが笑わずにいられますか!?こっから先どれだけ頑張っても、周りからはレンガを投げられ続けるんですよ?こっから先どれだけ必死こいて修行しても、これじゃあもう姫様と一緒に外へ出かけることもできないんですよ!?」


 「あ・・・。」


 「・・・くっくっく。はっはっはっはっは!!!!!」



 ここまでの憎悪を抱くのはいつぶりだろうか。この前の宗次への怒りは、全面的に僕のほうに大きな過失があると認めているからなしとして、これはもう小学校のあの時以来かもしれないぞ。


 思えばこの理不尽ぶりだってよく似ているじゃないか。3人の子供がトリガーになっているところまでよく似ている。


 「・・・早く行くぞ。またこの小太刀の出番が来る前に、さっさと王宮へ戻らねば。」


 忍び装束の中に忍ばせていた小太刀を鞘に納めて、師匠は早足で歩を進めた。


 このやり場のない苛立ちを抱えたまま、僕もまた師匠に続くように早足で歩きだした。


 そんな僕を痛々しく見る姫様の眼差しに気づいてはいたが、今はその同情の気持ちですら僕のイライラを増幅させる要素にしかなりえなかった。



            *     *     *


 王宮に着いてからは、まるで今日一日何事もなかったかのように時間が過ぎていった。


 まずはやり場のない怒りと疲労を抱えながら浴場へと向かい、いつもより長めの入浴を済ませた。その長風呂の甲斐もあって、全身のポカポカ感と一緒にイライラもいくらか緩和されたので、思いのほかすっきりした状態で食事の間に向かうことができた。


 食事の間へと足を運ぶと、そこにはすでに同じ工程を一足先に終えた王様と師匠が座っていた。その2人に倣って僕も定位置の椅子に腰かけると、何やら今日の朝のやり取りを急に思い出して、なぜか王様の顔を見るのが怖くなったりした。

 一方の師匠は、珍しく僕と目を合わせるのが気まずそうなオーラを出していてどこか新鮮だった。口には出さないだけで、もしかしたらさっきの騒動にそれなりに責任を感じているのかもしれない。そんなことを考えていたら、ますますイライラが治まってきた。


 それから間もなくして姫様も合流し、いつも通りの夕食の時間を過ごした。姫様による食後の召使たちの仕事の手伝いも、今日ばかりはみんなに止められたので、食後の幸福感を珍しく4人で満喫することができた。


 姫様もまた、食事の最中にちらちらと僕の顔色を窺うような素振りを見せてきたので、もう心配はいらないという意味合いも込めて、今作れる一番自然だと思う笑顔を見せたら、なぜか向こうからは何やらひきつった笑みが返ってきた。

 あの反応はどういうことだったのだろうかと食事の後に聞いてみると、無理して笑っているのがまるわかりで苦しくなったとのことだった。自然なスマイルとはこうも意図的に作ろうと思うと難易度が高いのか。



 とまあここまではよかったのだが、やはり平和な時間と言うものは長くは続かないもので。



 「おいおいおいおい、ふざけてんじゃねえぞあいつ!!!!!」


 食後しばらくしてこの王宮で行われるはずだった、魔獣対策会議の参列者を巡って事件は起こった。


 来客の合図とともに王宮へとやってきたのは、ザイロンさん、お嬢、そして宗次の3人。


 そう、シャミノさんの姿がなかったのだ。その理由を王様がお嬢に問いただしたところ、さっきの怒号が飛び出たってわけなのだ。一足先に2階の応接間で会議の準備をしていた僕らの下にも届くほどの声量だった。


 

 怒りを露わにしながらも、客人の3人を僕らがいる応接間に招き入れた王様は、明らかに不機嫌という領域を超えた状態だった。

 果たしてその理由がなんだったのか。僕と姫様と師匠、誰が勇気を振り絞ってその内容に踏み込もうかとアイコンタクトで争っていたら、まさかの人物がとんでもない第一声を発した。


 「怒るくらいなら、自分が行けばよかったんじゃないですか?こうなる可能性もゼロじゃないってことくらい、慧眼のあんただったらわかっていただろうに。」


 その神をも恐れぬ物言いで物申したのは、呆れ顔をした宗次だったのだ。


 『き、貴様!この国を統べる王に向かって、なんという口の利き方を!?』


 普段なら即座にこんなような発言で抗議の声を上げるはずの師匠も、驚きの方が勝っているようで、宗次にくぎ付けになっているだけで何か言おうとする気配がない。


 だから誰にも口を挟まれることなく、王様の答えが返ってきた。


 「あいつが俺を裏切ることを予測しろってか!?あいつに限ってンなことするなんて微塵も想定してなかったに決まってんだろ!」


 案の定、返事は荒々しい語気を伴ったものだった。だがあろうことか、それでもなお宗次はなぜか煽り口調で続ける。


 「2ヶ月前はえらく自信満々に未来の展望を話してみせた割には、直近の未来に一喜一憂してますけどこれってやっぱり、この前の話も結局妄言の類だったってことでいいんですか?」


 「違う!!!―――次にその話をここでしたら消し飛ばすからな、てめえ!!!!!」


 そして見事にその煽りに乗せられた王様が、限界寸前まで怒りのボルテージを上げている。って何してくれてんの宗次さん!?


 「ま、待ってくださいお父様!シャミノ様が裏切られたってどういうことですか!?」


 た、確かに!ハラハラしててスルーしかけたけど、さらっとすごい情報ぶっこまれてたな!?


 「あいつが、シャミノが若を裏切ったと申すのか!?」


 「ま、待ってよマイヤ様、お爺様!別に母さんは裏切ったわけじゃ―――」


 「・・・俺の意思に反して、勝手に1人で村に残ったんだぞ。これが裏切りじゃなかったらなんだって言うんだよ!!!!!」


 お嬢のフォローを遮るように王様がさらに怒りを爆発させた。


 「君の言いたいこともわかるが、少し落ち着いたらどうだいガルディン?確かに君にとって、彼女があの村に肩入れするのは裏切りにも等しいと感じるのも無理はないけど、今回はことがことだ。多少は仕方がないことだと目を瞑ってやってくれないか?」


 「でもだからって、あのクソ叔父に手を貸すなんて俺は許さねえ!!!」


 「・・・君がさっさと助けに行っていれば、そもそもこんなことにはならなかったんじゃないのか?」


 ザイロンさんは一切語気を荒げることはしなかった。が、この場にいた全員が、今の言葉にザイロンさんの怒りが含まれていたのを感じ取ったはずだ。

 まるで、言葉の節々に凍てつくような冷気を纏わせていたかのようだった。気がつけば僕の両腕には鳥肌がびっしりと埋め尽くされていたくらいだ。

 その冷気にあてられたのか、王様もこれ以上叫び散らすことはしなかった。


 「さて、もうそろそろ建設的な話し合いをしたいところだが、まずはみんな座らないかい?」


 そう言われてようやく、こんなに話し合いにうってつけのテーブルと椅子が用意されているというのに、誰一人として腰を下ろしていないことに気が付いた。


 ザイロンさんの声掛けに応じるように、各自一番近くにある椅子に座り、円卓上のテーブルを7人で囲むような姿勢になった。


 

 一瞬で烈火のごとく怒っていた王様を黙らせて、この場を取り仕切ってしまったザイロンさんの手腕を素直はすごいとは思ったが、賞賛することはできそうになかった。だって、さっき立ってしまったおびただしい量の鳥肌がなぜか一向に引いてくれなかったからだ。


 魂ごとザイロンさんに恐怖しているような、そんな気分だった。


            *     *     *  


 「まずはこの状況がいかに大きな危うさのもとに成り立っているか、改めてそれぞれが認識してほしい。明日明後日のうちに、あの村が崩壊する可能性だって十分にあるんだ。そうなると、今度はこの王都に危険が及ぶ。そうすると・・・」


 「そんなことよりよ、まずはあのギガントドレーギアが発生した原因について話し合ったほうがいいだろ。これから毎日あんなデカブツが現れたら、どう足掻いたってこっちの押し負けるんだからよ。それなら、あいつを出現させない方法を考えねえと話にならねえ。」


 「ですがお父様、それが判明していたらとうの昔にザイロン様が気づいているのでは?」


 「そうだね。そして心苦しいことに、それをガルディンに報告できていないということはそれが判明できていないということだ。」


 魔獣の出現条件。この世界に住む誰もがそれを知らないというのは、僕の中でも常々疑問だった。それなのに、人々は魔獣を食料源としても利用している。よくもまあ、こんな不安定な存在に自分たちの生活を委ねられるな。おまけに今度は、自分たちの身がその不明瞭さゆえに危険に晒されている。


 心の内だからオブラートに包まずはっきりと言わせてもらおう。この国の人たちはバカなんじゃないだろうか。バカは言い過ぎかもしれないが、少なくとも平和ボケしてると言わざるを得ない。


 だってこんな大事な案件、普通なら国が総力を挙げて突き止めないといけないような超重大情報じゃないか。それをザイロンさんただ一人に任せているだけというのは、少々理解に苦しむ。


 というか、この国ができてからどれほどの年月が経っていると思ってるんだ。それでも何一つわかっていないということが本当にあるのか?


 「いやはや、君の言ってることはごもっともだね。でも仕方がないだろう?魔獣について調べるのはこれまでご法度だと伝えられてきたんだから。」


 え、ちょっと待て。もしかして今の全部声に出てた!?


 「だからそのご法度というのがよくわからないんですよ。―――そもそも色々とよくわからない決まり事が多すぎやしませんかこの国は。」


 と思ったら、どうやら僕が思考の渦にとらわれている間に宗次が全く同じ疑問を抱いたようで、それを直接問いただしていただけだった。もちろん、ある程度はオブラートに包まれていたと思うけど。・・・包んだよね宗次さん?


 「色々と決まり事が多いのも無理はないんだよ、ソージ。それほどまでにこの国は、過去に悲惨な歴史を歩んできたんだから。」


 「これでもお父様が大幅な改革を行った結果なのですよ。まだその頃は私も幼い赤子でしたけどね。」


 「『魔獣誕生の神秘に触れると、それを利用して国家転覆を企む者が現れるかもしれないのでそれを禁ず』。そんな先のわからない恐怖に怯えて、眼前の恐怖から目を背けさせるよくわかんねえ言い伝えならぶっ潰すしかねえだろ。」


 うん、当時もそんな自慢げな感じのノリで言ったんだろうなあってことがよくわかるよ王様。

 

 「という鶴の一声から始まった計画だったんだ。だけど、さすがに言い伝えを破ったと国王自らが高らかに宣言すると、国の治安が乱れる可能性があるだろう?だから僕が内密に調査に乗り出しているってわけだ。・・・結果はまあ聞いての通りだがね。」


 確かに王様の判断のほうが合理的で共感はできるけど、よくそれだけで代々の言い伝えを平気で踏み倒せたな。僕が魔術を勉強できているのも、王様のその踏み倒し能力の賜物だから声を大にしては言えないけど、普通そういうのって遵守しようってなるもんじゃないの?誰も止めなかったの?


 「もちろん、わしは猛反対したぞ!?」


 「あ、やっぱり?師匠なら絶対止めるだろうなあって思いましたよ。」


 「じゃが魔獣の一件は若の意見に頷ける点も多かったからな。それに時期が時期じゃったしのう。」


 「時期ですか?」


 「おい、爺。いらんことを言うな。」


 何か追加情報を得られそうな流れだったのに、王様がまあ恐ろしい顔で制しにかかったので終了のお知らせだ。


 「じゃあその革命好きの国王様に、あの村をああまで敵対視する理由を説明してもらいたいんですが?もちろん決まり事だからっていう理由は抜きでお願いしますよ?」


 そんな若干怒りが収まりきってない様子の王様に、なぜかまた煽りじみた口調で宗次が口を開く。ってなんでさっきからそんな王様に対して喧嘩腰なのお前!?


 「・・・お父様、私からもお願いします。今回のような事件が起きた以上、この場にいる人間全員がその真実を知る権利があるはずです。」


 でも今度は姫様も宗次に乗じて王様に詰め寄っていた。そういえばもはやだいぶ昔のことのように感じられるが、僕と姫様が王様を相手取って村について聞き出そうとしていたのは、まだ今朝の話だったんだな。


 「ちなみに勝手ですまないがガルディン、僕たちナユリア家の中でもマイヤちゃんにこれ以上隠し事をするのは反対だという声明も出ているんだ。君がひた隠しにしても、いつか僕らのうちの誰かが話すだろう。」


 「はっ、本当に勝手な判断をしてくれたもんだなザイロン!いったい誰の権利をもってそんなことを言って・・・」


 「次期女王となられるそこのマイヤちゃんの権利に決まっているだろう。―――ガルディン、君が何をその心の底に秘めているのかは知らないけど、いい加減にマイヤちゃんを残酷な現実から目を背けさせるのはやめたらどうだい?」


 ここで再びこの主従の間で苛烈な火花が飛び散っている。すでにさっきの局面で1勝しているザイロンさんはここでも強気な態度だが、今回は王様の目の色も違う。これは激しいやつになるかもしれないぞ。


 「・・・別にこれ以上村のことについて隠すつもりなんかサラサラなかったっての。この会議をこのメンツで設けた以上、話す気でいたっての。」


 と思ったのも束の間、今回も王様があっさりと折れてしまった。あれ、そんなに潔い人でしたっけあんた?


 でも、よく見ると目の色は依然として変わってない。となると、これはまた別の何かに対する覚悟なのか・・・?


 「若、言いづらいのならば代わりにわしが話しても・・・」


 「馬鹿言え。言うんだったら俺の口から言ってやるよ。この腐りに腐った決め事が生み出した負の連鎖をよ。」


 負の連鎖。


 その言葉を耳にした瞬間、現場の空気がひりつくような感覚を味わった。


 真実を知っているものは、その内容に。


 知らないものは、その言葉に込められているだろう、これから語られる物語の重さに。 



 僕と姫様には言いたくなかったと言っていたその真実。



 「マイヤ、タツキ。お前らはあの村がどういう村か知ってるよな?」


 ん?そういえばあの村の存在意義って説明されたことがあったっけ?よく考えたら一度もそれを疑問に思ったことがなかったような。それともあれか、姫様の記憶と一緒にそこら辺の知識も吹っ飛んでるのか?


 「はい、もともとは魔獣の数を調整する役割を持っていたんですよね?それを様々な資源としても活用できるというザイロン様の研究から、今では王都の資源調達としての役割を持つ重要な村、そう認識しています。」


 とかなんとか悩んでいるうちに、姫様が優等生感あふれる完璧な答えを返している。さすが一国の姫と言うだけあって博識だなあ・・・。



 なんてその答えを聞いた瞬間は思った。


 けどそれは大きな誤りだとすぐに気づいた。  



 「あの村は魔獣の食材調達のためにある村でも、魔獣を撃退するためにある拠点なんかでもねえ。」



 王様、お嬢、師匠、そしてザイロンさん。

 全員の顔が姫様の答えを聞いて、一瞬にして曇ったのを僕は見てしまったから。




 「あの村は、叔父貴を殺すためだけに作られた村だ。」


           

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