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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第3章
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3-10 初陣

 「やはり知能はあると思って間違いないかと。周りの取り巻きに時間を稼がせて、その間に自分は大技の準備をする。この動きは普通の魔獣にできるものではありません。」


 「・・・だが不可解な点もある。」


 「何が気になるの、エンガ?」


 まるで燃え盛る炎を象ったような赤色の髪をしたこの大男が、村でもちらっと聞いたエンガって人のようだ。身体からあふれ出る血気とは対照的に、寡黙な態度がとても印象的な人だ。


 ただ、彼からもまた何とも言えない嫌な気配を感じる。あのキザ男やぼろ雑巾の顔を見たときに感じたあの落ち着かない感じ。無意識に心臓の鼓動を早められているような不思議な感覚。焦燥感が内からあふれ出てくるような気持ちの悪い感覚だ。


 「・・・なぜあいつはまたもあの攻撃を仕掛けてきた?」


 「なぜって・・・、それをする余裕があると判断したからではないですか?」


 「いいえ、確かにいい点を抑えた疑問よ。―――だって普通、ここまでこちらを疲弊させたのなら、後は直接踏みつぶすなり、尻尾で薙ぎ払うなりで片が付くじゃない?」


 「確実に仕留めるためにこの方法をとったと考えることもできませんか?」


 「・・・時間をかければかけるほど、我らに再起の時間を与える。・・・愚策だ。」



 突然、あのバカでかいドラゴンを倒す作戦を立てろと言われても、情報がほぼゼロに等しかったからこうして情報収集をしているわけなんだけど・・・。

 普通にこの人たち、頭よくないですかねえ!?絶対僕いらないよねえ!?聞いてた話と違うよ王様!?


 『あいつらは今混乱の最中のはずだ。だからお前の冷静な分析力がきっと役に立つ。あいつらをまとめ上げて、必勝の一手を考え出せ!』


 とか決め顔で言ってたけど、めっちゃ冷静じゃないこの人たち!?普通に僕抜きで議論進んじゃってるよ!?



 ということで僕は、聴覚だけを議論に集中させて視覚と脳みそを作戦会議と並行して行われている、木々の隙間からわずかに見える王様とドラゴンの戦闘に集中させていた。戦況はどうやら拮抗状態っぽい。こちらに関しては王様の予想通りの展開みたいだ。


 『いくら俺の力が唯一の有効打になるからって言っても、さすがにあの巨体を無策で倒すってのは厳しいと思う。・・・腹立たしい話だけどな。』


 バリバリと音が聞こえるってことは、王様からも何度か攻撃を試みているはずなんだろうけど、一向に戦況が動いているような気配はない。ドラゴンの咆哮が響くばっかりで、ダメージが入ったって感じの悲鳴は聞こえないし。


 でもかと言って、あのドラゴンから攻撃を仕掛けている様子も感じられないけど、これは一体どういうことだ?技の反動で動けない的なパターン?なんか両腕もだらーんとしているように見えるし。身体を少し捻るくらいの動作しかしていない。動きもなんか鈍い。

 でも、ガードがかなり固い。あの龍鱗に魔力耐性とかある感じなのか、雷がいまいち本来の破壊力を出していないように見える。


 てか、そもそもでかすぎなんだよあのドラゴン。王様のサイズと比較するとその差が月とスッポンレベルだ。人間と蜂が戦っているくらいのサイズ感。そりゃ攻撃が効いていないって言われても納得するしかないわ。


 どうやら、これは本当にこちら側の作戦の内容で勝敗が決する流れみたいだぞ。随分とプレッシャーのかかる任務を任されたもんだなおい。・・・勇者になるための一歩なんだ、これくらいじゃないと燃えないけどな!


 「どうですか、タツキ様?何か思いつきましたか?」


 などと1人気合を入れ直していたところに、会議の輪から外れていたのが気になったのか、姫様がこちらに話を振ってきた。


 ちなみに、姫様は目の周りが少し腫れていて顔全体に何となく赤みが差しているんだけど、表情そのものは力が漲っていると言わんばかりの輝きに溢れている。

 ・・・ちなみに手を握ったのは僕の方からだったのに、今ではしっかりと姫様の方から固く握られている状態です。さりげなく愛情表現をしてくるあたりがまた何とも可愛い。


 なんてのろけワールドに1人足を踏み入れていたら、いつの間にか会議の参加者はみんな僕の方をじーっと見ていた。な、何とも気まずいというか、話しづらいというか。



 「思いついたというか、いくつか整理しておきたいことがあるんですけど。」


 でも決して僕も無策で今までの話を聞いていたわけじゃない。気になる点はいくつもある。というか、今の戦闘の様子を見て気になることが増えた。

 

 「何かしら、坊や?」


 「今のところあいつがやってきた攻撃って、子分たちをけしかけるのと、例の極太黒白レーザービームを撃ってきたってだけですよね?」


 まず一つ。あいつの行動パターン的なものだ。さすがにリアルな世界っていうのもあるから一概には言えないかもしれないけど、普通ならもうちょっと攻撃のバリエーションがあってもいいと思うんだよ。戦闘が始まってからどれくらい経っているのかは知らないけど、さすがに取り巻きを突撃させて自分は後ろからビーム撃ってるだけってのは不自然すぎないか?


 「そのれーざーなんとかっていうのはわかりませんけど、おそらくタツキ様の発言は正しいと思います。」


 「そう考えると確かになんだか妙よね。普通の中型のドレーギアの方がまだ多彩な動きをしてきそうなものなのに。」  


 「・・・今も受けてばかりで攻撃はしていないぞ。」


 やっぱりこの世界で何匹もの魔獣を狩ってきた人たちも違和感を覚えるってことは何かおかしいんだ。となってくると、次に疑問として浮かび上がってくるのが。

 

 「じゃあ次に聞きますが、この魔獣が出現したのってどこでしたか?」


 「出現場所ですか・・・?えーっと、あれは多分、」


 「・・・森のさらに先。おそらく、山脈の入り口の手前あたりだろう。」


 「山脈と森の間にはそんなに距離はないけどね。それがどうかしたの?」


 「いえ、一つ不審に思う点がありましてね。―――あれだけでかい怪物がこれだけの時間をかけて、たったこれだけの距離しか移動していないってどうも不自然のような気がして。」


 当たり前の理論だけど、身体が大きければ大きいほど一歩一歩の距離は大きいはず。それが、姫様たちの妨害があったとはいえ、まだ森の途中を進行中っていうのはあまりにもペースが遅すぎる。


 「おそらくですが、一緒にいた魔獣たちに進行速度を合わせていたのだと思います。あの集団の司令塔のような役目を果たしていたので。」


 「基本、魔獣って群れを成して行動することが多いし、そこは不自然ではないと思うわよ?」


 群れで行動するっていうのは初耳だな・・・。でも残念ながら、それでは僕の疑問の答えとしては納得できない。


 「いえ、不自然だと僕は思います。どう考えてもおかしい。」


 「何が不自然なの?特にドレーギア系統は固まって行動する傾向にある魔獣なのよ。そんなおかしな―――」


 「じゃあシャミノさん、想像してみてください。今シャミノさんの前を生まれたての赤ちゃんが四つん這いで前に進んでるとします。その赤ちゃんを抜かさずに後ろをついていけって言われたらどうなると思います?」


 「どうなるって・・・。―――そうか!確かに不自然だわ!」


 お、さすがシャミノさん。これだけで気づいてくれるとは。


 「え、タツキ様、どういうことですか?」


 「歩きずらいんですよ、すごく。赤ちゃんの匍匐前進の速度は遅いから、どうしても追い越してしまいそうになるんです。」 


 「でも、それなら歩幅を調整したらいいだけの話では?」


 「人間ならそれができますけど、それをあんなでっかい龍ができると思いますか?」


 「・・・確かにできないかもしれません。でもそれなら、一歩踏み出せるだけの距離ができたら進むという動きをすればいいのでは?」


 「だとしたら多分、あの大きさだと10歩くらいで今のあの位置に辿りつきますよ?確か状況説明を聞いたときに、何度もあの魔獣の足音と思われる地鳴りが聞こえたって言ってませんでした?」


 「そう、たった10歩でここまで来たと仮定すると、私たちが何度も感じたあの地鳴りの説明がつかないのよ。それに少なくとも私は、あの魔獣が急に動いたところを見ていない。それってやっぱり―――」


 「・・・一歩の歩幅が狭い。・・・だが、それを証明したところで何になる?」


 「さっきも言った通り、あれだけの大きさの魔獣がこれだけの時間をかけてここまでしか来れていないって不自然なんですよ。―――だから普通に一歩を踏み出すという行為ができないんじゃないかと思いましてね。」


 あの無口な人が突然口を開いたから思わず心臓が飛び出そうになったけど、どうやら僕の仮説に思うところがあると思ってくれたのか、軽く頷きを返してくれた。


 「つまり、ギガントドレーギアが合わせていたのではなくて、周りの魔獣がギガントドレーギアの歩行速度に合わせていたって言いたいの?」


 「知能があるって姫様が言ってたのに、攻撃を一切自分が受けに行かないのはなんでだろうって思っただけです。そしたらこういう考えになったってだけで、確信はないです。」


 魔獣の生態に関しては、僕なんかよりもほかの3人の方がよっぽど詳しいんだ。いくらでも僕の仮説を否定しにかかってくるだろうと思ってたけど、これは意外といい線いってるんじゃないか?


 「あの・・・一つよろしいですか?」


 と思ったら、姫様が手を挙げた。さっきからずっとうめき声をあげていただけだったし、何か穴でも見つけたのかな。


 「今の話って矛盾していませんか?確か、歩幅を短くすることはできないっていう話だったはずなのに、いつの間にか結論が、あのギガントドレーギアの歩幅は短いってことになっていますが。」


 お、さすが姫様。やっぱり僕の触れてほしいポイントに触れてくれた。 


 「そう、だからきっと普通の方法では動いていないんですよあいつ。ちょっと変わった方法でここまで進んできたんじゃないかと思って。」


 「ちょっと変わった方法???」


 「ってどんな方法なのかしら、坊や?」


 さあ、だいぶ回りくどい問答をしたけどこっからが本題だ。


 


 「多分あの魔獣、関節がないんですよ。」



            *     *     *


 『作戦が決まったら覚えたての白魔術で合図しろ!―――なに、お前は冷静だと広い視野で物事を考えられる力がある。ま、調子に乗ったりすると途端にダメになるけどな、はっはっはっはっは!!!』


 そう言い残して、王様はあのドラゴンに向かって突っ込んでいった。僕が本当にあいつを打倒する方法を考えてくれると信じて疑わない足取りだった。


 なんで僕なんかをここまで信用できるのだろう、と考えるのはまたマイナス思考の渦に囚われていると叱られそうだからやめておく。けど、ここまで信頼されているとなるとそれはそれで不思議だ。

 だって、今まで何一つ成果を上げてないんだから。


 『お前は2か月前のあの時、ヘボが魔獣襲撃には関わっていないってことを、状況に基づいた論理的思考で証明してみせた。あれは誰にもできることじゃねえ。一種の才能だ。』


 でも王様はそう言って珍しく僕を褒めてくれた。一国の王にそこまで言われたら、もうやるしかないじゃん?


 だから僕は姫様の下へと走っていた時にも、王様に負ぶられながら見ていた魔獣の様子を思い返していた。その後の作戦会議が始まった時も、王様と戦っているときのドラゴンの動きをずっと観察していた。


 そこで気づいたんだ。身体は捻るけど、腕は動かさないし、後ずさりもぎこちない。立派な羽根と尻尾も動かす気配がない。首はゆっくりとだったら動いてるけど、機敏ではない。


 ―――まるで、全身がカチカチに固まってしまっているかのようだ。戦闘の様子を見てそう思わずにはいられなかった。


 そう思ったからまず、その今の考えを根底から覆す可能性のあるような攻撃手段をとることがあったかを尋ねた。答えはやっぱりノーだった。それどころか、それをもしされていたら自分たちは死んでいたんじゃないかという話まで聞けた。


 次に、ここに来るまでにどれほどの時間をかけたかを聞いた。答えは、あいつが出現してから今に至るまでの時間全てを使っていたということだった。

 そこでほぼほぼ確信した。あのドラゴンは移動がとんでもなく遅い。足までカチカチに固まってるから、膝を曲げられなくて進みが鈍いんだって。膝を曲げずに足を大きく前に出そうとすると、身体のバランスが崩れやすい。だから、小刻みにゆっくりと短い歩幅で進むしかなかったんだと。


 普通は人間もほかの動物も、ちゃんと関節を使って歩幅を調整するから、こんな手段なんて思い浮かべづらいだろう。こんな不自然な移動方法は、きっと本能のままに生きる魔獣ならとらないっていう固定観念もひと役買っていると思う。僕だって、ここ最近の修行があまりにもハードだったから気付けたんだ。

 ・・・まさか、スクワットをやりすぎたせいで足を曲げるのも辛くなって、足を棒のようにピンと張っていつも稽古場を後にしていた、あの経験がまさかこんなところで活きるとは。


 てなわけで、あとは直接戦った本人から情報を得られれば作戦が固まる。

 合図の光を出してもうそれなりの時間が経つんだけど・・・と思っていたら、ちょうど帰ってきたみたいだ。



 「よっっっと!!!―――おう、タツキ!それにお前らも無事みてえだな!」


 「お父様!魔王様からあれだけの攻撃を受けた後だというのに、あまり無理をしないでください!」


 「そんなことを言っておきながら、もうあんたに頼るしかないのだけれどね。」


 すこーし疲労の色が見えるけどまだまだ十分元気そうな王様を、女性陣2人組はそれぞれの形で迎え入れる。2人とも素直に歓迎の言葉を言わないが、パーッと明るい表情を見せていることが、それを示しているのだろう。


 そんな2人をよそに、あの寡黙炎男は一言も発さない。表情もとても険しい。何かこの2人の間に因縁でもあるのかと疑いたくなるほどに、王様を見る目が歓迎ムードではない。


 「作戦をお伝えする前に、一つだけ確認をさせてください。―――あいつの両腕両脚は動きそうですか?」


 さっさと本題に移る前にどうしても聞いておかないといけないのがこれだ。これの返答次第では、さっきまで長々と自分の推理を整理していたのにも何の意味もなくなる。


 という不安がよぎったのもほんの束の間。僕の質問を聞いて、いつもの悪そうな笑みを浮かべた王様の顔を見ただけで、全てが自信に変わった。


 「何にも心配はいらなさそうだな?」


 「あれだけ信頼預けられたんですから、泥舟を用意するわけにはいかないでしょうよ。それより、頼んでいたあの件はうまくやっておいてくれました?」


 「こっちも何も心配いらねえよ。あとはお前の指示一つだ。」


 親指を立てて準備完了の意を表す王様。ただの保険用に頼んでいたトラップだったんだけど、まさかこれに作戦の成否を左右するんじゃないかというくらいの重要な役目を担わせることになるとは。


 「じゃあ、あとはこの作戦を伝えるだけですね。」


 「なんだよお前。いつもと違ってやけに自信満々じゃねえか。」


 ・・・確かにそう言われてみれば、なんか今回はあんまり不安とかそういうのがないな。


 「なんなんでしょうね。みんなの命がかかってるめちゃくちゃ重要な局面ってことは重々わかってるつもりなんですけど。」


 いつもなら、一歩後ろから事態が好転するのを願うことしかしないはずの僕なんだけど。


 自分が首を突っ込んだことが原因で、物事が悪化してしまったらどうしようと考えてしまう僕だけど。


 あの時みたいに自分が歯車を余計に狂わせてしまうんじゃないかって怖くなるのがいつも通りなんだけど。


 それでも、今回はあの時とは違う。


 今回は、僕を信じてくれる人がいる。


 僕に期待してくれる人がいる。


 心の底から護りたいと思う人がいる。


 だから、弱気になっていたらダメだって心を奮い立たすことができる。


 無理だったらどうしよう、じゃない。


 今こそお世話になっている恩返しをするチャンスだと思うんだ。


 そう思うと、本当不思議なものでね。


 「全く失敗する気がしないんですよ。これっぽっちも。」


 「ふっふっふ・・・、ふっはっはっはっはっは!!!!!―――いい顔してんじゃねえかおい!こいつは本当に大船かもしれねえな!!!!!」


 高らかに笑い声をあげる王様。それにつられるように、姫様とシャミノさんもこちらを見て自信たっぷりの笑顔を向けてくれた。

 険悪なムードが漂っていた炎の人も、黙って一つ頷いた。どうやら、僕のことは敵視していないみたいだ。よかった。


 改めてあたりを見ると、僕に運命を委ねると決心してくれた人たちはとてもいい表情をしている。士気は、僕と王様が来る前とは比べものにならないくらいに高いと言っていいだろう。


 「よし、それではこれから作戦をお伝えします。あのでかい面と態度の魔獣を倒す秘策を。」


 

            *     *     *


 相変わらず空は濁りきっていて、現在の時刻がどれくらいなのかまるで見当がつかない。そういえば、僕がどれくらいの時間を狂った状態で過ごしていたのかを聞いていなかったな。とりあえず結構な時間が経っていたのは聞かなくてもわかる。

 王様の気絶、魔獣の出現、小型中型の魔獣たちとの戦闘。これらのことが起きていたと思うと、一日の4分の1くらいは意識がなかったんじゃないか?


 ついちょっと前まで痛くてしょうがなかったというのに、また懲りずに正座をしながら僕はそんなことを考えていた。すると、


 「・・・あれ、ここは・・・?」


 不意に至近距離から声が聞こえてきた。声の主は、僕の目の前で横になっている青緑髪の美少女だ。


 「・・・サラ!?気が付いたのねサラ!!!」


 いち早くそれに気づいた姫様が、お嬢の手を握ったままの状態で、横になっている身体の上に覆いかぶさるように抱きついた。


 どうやら、僕がなけなしの魔力を使って行っていた治療が実を結んだようだ。


 「お嬢、大丈夫か?どこか痛むところはないか?」


 「お、重いですよマイヤ様・・・。あ、あれ?そこにいるのはタツキさんですか?」


 「うん、間違いなく僕だよ。どうやら意識はしっかりと戻ったみたいだな。」


 何か身動きを取ろうとするお嬢だったけど、もはやのしかかっていると表現した方が適切に思える状態の姫様がいるせいでなかなか動きずらそうだ。


 「本当に・・・、本当に目を覚ましてくれた・・・。サラ、サラ!!!」


 「あっははー・・・。どうやらだいぶ心配をおかけしてしまったようで・・・。」


 お嬢がどうしてこんなことになっていたかの説明もなんとなくは聞いている。その説明を聞いた感想としては、本当に生きているのが奇跡だと言わざるを得ない。

 目を覚まさないお嬢を発見した時の姫様のメンタルがどれだけズタボロだったのかというのは、想像する必要もないくらいに明らかだ。


 「気を失う前の記憶はあるか、お嬢?」


 「はい。ぼんやりと、ですけどね。・・・そうだ、マイヤ様、タツキさん!魔獣は!?」


 お嬢の問いかけを受けて、ようやくお嬢の拘束を解いた姫様がドラゴンのいる方向へと目をやった。


 「もう終わりますよ、サラ。心配しなくても、タツキ様とみんながこの悪夢を終わらせてくれます。」


 その答えを聞いて、横になったままの体勢では見えないはずのドラゴンの顔と僕の顔とを交互に見やって、いまいち納得のいかなさそうな表情を浮かべたお嬢。


 「まあ、確かに話せばちょっと長くなるかも。だから説明は後で。―――もうそろそろ、僕も行かないといけないから。」


 そう言って、まだ少し疲れが残る下半身に鞭打って立ち上がる。すると、まるでそれが合図だったと言わんばかりのベストタイミングで合図の音がした。


 「え、ちょっと!?何ですかこの地響きは!?」


 ドドドドド―――――ンっと、ここまで聞こえてきた爆発音が、僕ら3人の聴覚だけでなく、振動として触覚にも伝わってきた。何も知らないお嬢は、正体不明の爆発に不安を隠しきれないようで、飛び跳ねるように上半身を起こした。


 姫様もまた立ち上がり、取り乱していたさっきまでとは一変した、真剣な表情で僕の目の前に立った。


 「ではタツキ様、ご武運をお祈りします。・・・何も手伝えない愚かな私を許してください。」


 「何言ってんですか姫様、僕が来るまではお手柄だったんでしょ?それに、たとえまだ魔力が残っていたとしても、ここに置いていってましたからね。」


 さすがにここから先は危険がたくさんの戦場になるわけだし、これ以上姫様を危険なところに連れていくわけにはいかないって。ただでさえ全身に色んな傷があちこちにあるっていうのに、もう傷ついてほしくないんだよ。


 「―――信じています、タツキ様。必ず、無事に戻ってきてくださいね。」


 少し潤んだ上目遣い。少しだけ震えている両手。それでも不安を押し殺すように、気丈な笑顔を振りまく姫様。


 そんな様子の彼女を見た僕は、反射的にそっと身体を抱き寄せてしまっていた。


 「・・・ぁ。」


 「絶対帰ってきます。・・・落ち着いて話し合わないといけない議題もたくさんありますしね。」


 姫様の優しい暖かさを全身で受け止めていると、このまま時間が永遠に止まってしまえばいいのにと思いたくなる。


  

 ・・・でもどうやら、向こうは僕と同じ気持ちではなかったようで。


 「・・・そうです、そうですよ!色々と私からも言いたいことがあるんですからね!本当色々と、あるんですからね!」


 あれ、なんかこっちを見る姫様の目がちょっと怒ってるように見えるのは気のせい?気のせいだよね?


 「ほら、お父様がきっと向こうで待っていますよ。頑張ってください!」


 するっと僕の抱擁から抜け出した姫様は、なぜか僕から一歩距離を置いてきた。


 「あの・・・姫様?」


 「ご武運を!」


 「なんか突然棘のある言い方になってません!?」


 「いいえ、ちょっと嫌なこと思い出しただけですよ、気にしないでください!」


 「めっちゃ気にします!僕も今それめっちゃ気にしてるんで、今はお互い忘れましょう!!!」


 やっぱ姫様根に持ってたーーーーーーーー!!!


 いや、当たり前だよなあ!?さすがに玲那とのあの一件を全部水に流してくれているなんていう都合のいい話あるわけないよなあ!?


 「・・・ふふ、怖がらずにちゃんと真っ直ぐ私の下に帰って来てくださいね?」


 「いや、その笑顔とっても怖いんですけど!?」


 こうして僕は、目が笑っていない姫様の笑顔に見送られる中、背筋にすごーく嫌な冷や汗をかきながら、僕は逃げるように王様のもとに向かって走り出した。


            *     *     *   


 タツキから作戦を伝えられたシャミノとエンガは、巨大龍の前方の森で魔力を溜めながら身を潜めていた。

 

 先の戦闘で相当な量の魔力を消費した2人にとって、今練り上げている魔力がおそらく最後の一発になるになることは間違いない。エンガにはまだ大剣とその大剣に常に宿っている炎の力があるので、攻撃手段はいくらでもあるのだが、シャミノにとって魔力の枯渇は、現在のマイヤのような何もできないただの一般人に成り下がることを意味する。つまりは、この作戦が失敗してしまうと、対魔獣部隊の戦力が大幅にダウンしてしまうことになる。


 「・・・あの青年が例の?」


 「例の、と言われても私には何のことを指しているのかよくわからないわ。・・・ま、大方あの村長が、あの坊やが魔獣襲撃の糸を引いているとでも言ったんでしょうけど。」


 あの無を極めたようなみすぼらしい男の姿が頭に浮かび、シャミノは一瞬眉をしかめる。が、仮にもその人を主と定め従っている人間の前でそんな態度をとるのに抵抗を感じたのか、すぐに表情を戻す。


 「・・・やはり、主の言は偽りだと?」


 「ええ、あなたにとっては悲報かもしれないけどね。でも、あの坊やにそんなことをする力もなければ、動機も度胸もないわ。魔獣襲撃の原因はもっと別のどこかにあると思った方がいいでしょうね。」


 むう、っと一言発したエンガの顔色はあまり明るいとは言えない。どのような葛藤が彼の頭で繰り広げられているのか。それを推し量れるだけの付き合いの長さを持ち合わせていないシャミノには、迷宮入りの題材だろう。


 「でもこれからは、私もできる限りの支援を行うつもりよ。―――そしてきっとガルディンにも、少しはその気が生まれ始めたんじゃないかしら。」


 「・・・何を馬鹿なことを。あの御仁が我らのために動くなどありえん。」


 腕を組み、周りの空気を威圧するようなオーラを放つエンガ。その傍に控えているシャミノはそのオーラをもろに浴びているはずだが、一切の変化を見せることなく再び話し始める。


 「私も正直な話、あなたと同じ考えだった。・・・でも、ガルが坊やを連れてこの場にに来たのを見て考えが変わったわ。今までのあいつなら、私とマイヤちゃんとサラだけを連れてさっさと王都に戻るってことをしてもおかしくなかったもの。」


 そう言いながら思い浮かべるのは、今までのガルディンが発してきた数々の村に対する罵詈雑言。そしてそれを口に出すたびに歪んでいったガルディンの整えられた顔立ち。


 「きっとあいつも私と同じように、わからなくなってきたんじゃないかしら。―――本当にあなたたちが、ギルガライト様と母さんを見殺しにしたのかってことを。」


 「・・・今更何を。当時は聞く耳を一切持たなかった貴殿らが。」


 「言いたいことはわかるわ。・・・当時は私たちも混乱していたのよ。状況証拠も揃えられていたし、何より同じ戦場にいたお父さんがそう証言していたし。」


 練り上げられた魔力が徐々に覇気のように体に纏われていく。そして、まるでそれに呼応するかのように、2人の間の空気もまた重くなっていく。


 「でもそれから時間が経つにつれて、娘やマイヤちゃんが村の扱いに疑問を抱き始めるにつれて、私の心にも何か今までとは別の、憎悪とは別の何かが生まれてきた。そして今日、自らの命を犠牲にしてまで私たちの命を救ってくれたフウランを見て、何か今までの負の感情が音を立てて崩れていくのを感じた。―――あなたたちにとっては本当、何を今更って感じでしょうけど。」


 当時の出来事をフラッシュバックさせながら、シャミノは長い言い訳を言い終えた。そんなシャミノの長い独白に口を挟まず、黙って最後まで聞き届けたエンガだったが、顔色は一つも変えることはなかった。やがてシャミノの語りが終わったことを悟ったエンガは、その重い口を開いた。


 「・・・今は作戦に集中するべきだ。・・・全てはあの魔獣を討ってから考える。」


 はたしてどんな皮肉が飛び出すのか。無意識に身体を強張らせ身構えていたシャミノは、そのエンガの的を逸らした言葉に少々ほっとした反面、自分の気持ちに対する回答が聞けなかったことへの不満も募らせた。



 しかし、シャミノが次の言葉を声にする機会は訪れなかった。


 彼女らの前方、魔獣がいるであろう方向から、爆発音が連続してあたりに鳴り響いたのだ。

 爆音と爆風の猛襲に、手を地につけて何とか体勢を崩されないように堪える2人。それは数十秒にわたって続いたが、2人は何事もない様子だ。



 「・・・合図だ、参ろう。」


 「ええ、まずは魔獣狩りね。坊やの作戦、成功させてやるわ!―――顕現せよ、すべてを覆い呑む水の塊よ!!!」


 シャミノは、溜めこんだ魔力を膨大な水に変換。巨大な水の塊を遠い前方にいるはずの魔獣へ目がけて放出した。


 「・・・炎技、業火炎!」


 前方に勢いよく発射された巨大な水の塊を追うように、エンガの大剣からはメラメラと輝く炎の刃が描かれた。


 やがて両者はギガントドレーギアの目の前で接触した。

 炎はあっけなく水に呑まれて消滅するかに思われたが、炎は触れようと迫る水を触れる寸前で蒸発させていく。

 そして魔獣の目の前で、互いが消えるか消えないかのせめぎ合いを繰り広げた結果、炎は見事にその巨大な水の塊を蒸発させきった。辺り一帯に大量の水蒸気をまき散らしたところで、その炎も力尽きたようにその寿命を終えた。


 その結末を静かに見守るエンガ。だがまだその隣に立つ女性は、再び魔力を練り上げていた。炎と水が互いの存続をかけた戦争を繰り広げている間に練り上げた魔力で、シャミノは再び魔法を行使する。


 「凍てつけ、空気よ!」


 掛け声と共に現れたのは、半径50㎝ほどの氷の球体。しかし、その氷はただの氷ではない。魔力が形を成してからというもの、常に白い煙のようなものを発しているのだ。


 その白い煙に包まれた球体が、水蒸気の溜まり場と化した空間に投げ込まれる。


 すると一見、何事も起きそうになかったその現場は、時間の経過とともに徐々に視界が悪くなっていった。そしてその空間は1分も経たないうちに、濃い霧が立ち込める視界不明瞭な空間へと変貌した。


 「さあ、あとは坊やとガルに任せましょう。」

 

 「・・・ああ。」


            *     *     *


 『とってくる行動は多分2パターンです。村に向かって進みだすか、攻撃をしてくるか。多分攻撃してくると思いますけど、王様の予想通り倒せなかったら、足場だけでも悪くしておいてください。』


 『足場だあ?なんでまたそんな回りくどいことしなきゃいけねえんだよ?』


 『あれだけ大きい魔獣なんです。足場が悪かったら、動きを制限できます。それに万が一、王様に作戦を伝えている間に、魔獣が村に向かって進み始めようとしても、進行速度を遅らせられますし。』


 『ははーん。でもそれならもっといい方法があるぜ。―――遅れてくる破壊ってのはどうだ?』


 魔獣の破壊光線を受ける前にタツキと交わした会話を、ガルディンは思い出していた。


 ガルディンは、タツキが作戦を考えている間にギガントドレーギアと一戦交えていたが、ただ攻撃の応酬をお見舞いしているだけではなかった。  


 地魔術。それはモノの生成、強化に深く関わる魔術。ガルディンは生まれながらにしてこの地魔術に高い適性を持っていた。持っていたのだが、彼が得意とするのは地魔術本来の生成強化方面ではなかった。


 通常の地魔術の用途である『創造』とは正反対の『破壊』という方面。モノの核を知る者にしか行使できない力。その力にガルディンは愛されたのだ。


 そんな地魔術の中でも特殊な方面に秀でた能力を持つ彼にとっては、破壊の衝撃を操ることすら朝飯前。魔獣の周囲の大地に破壊の衝撃を記憶させる神業すら容易にやってのけてみせたのだ。


 「まあ、こいつの力がねえと無理だけどな。」


 そう言って、ガルディンは金色の輝きを放つ柄を眺める。


 代々、王位を継ぐ者に与えられる宝器。自分の魔力を注ぐだけで超常の力を宿し、所有者の力をも強化する、いまだ原理の解明が行われていない武器。

 ガルディンはこの宝器を使うことで、自身の持つ地魔術の力を強化し、時を超えた破壊という人間離れした技をものにしている。


 「いずれ、こいつの解明もあいつにやらせてみるか。あいつならきっと面白え見解を言うだろ。」


 作戦開始までの時間を負傷者の治療、つまりはサラの意識回復に使いたいと言って、作戦会議の間に残ったタツキの顔を思い浮かべるガルディンの表情は明るい。



 作戦を開始するのは4界ほど経ってから。シャミノとエンガが目的地に到着して魔力を練り上げるまでの時間を考慮した時間配分になっていた。


 『主な攻撃手段があのブレス攻撃だけってわかった以上、時間はたっぷりかけて大丈夫でしょう。仮にブレス攻撃が飛んできても、王様が食い止めてくれますし。それに、仮にあの魔獣に知能があるという姫様の言葉を信じるとすれば、あいつはきっと村に向かうと思います。今までの話を聞いたところ、5界程度じゃそんなに進めないと思いますし、王様が張ってくれた罠にうまくかかってくれる位置に自ら移動してくれると思えばむしろ好都合です。』


 長々とタツキが自慢げに、時間配分に問題はないと宣言していたことも考えると、特に心配することもないだろう。万が一タツキの自信満々の予想が外れた場合に備えてという意味合いも兼ねて、こうしてガルディンは単身いつでも攻撃できるような位置で身を潜めているのだ。


 とは言っても既に3界は経過している。もうあと少しすれば、仕掛けを発動させて作戦開始の合図を出さないといけない。


 「お手並み拝見だな、タツキ。お前に俺の娘を預けられるかどうか、改めて品定めさせてもらうぜ。」


 ガルディンはいつもの子供のようなあどけなさが残る笑みを浮かべて、宝器である金の柄に魔力を注ぐ。すると柄は通常の剣のような形態ではなく、柄の両端から黄色く長い刀身を現した。


 魔力に反応して真の姿を見せた双刃剣を勢いよく地面に突き立てるガルディン。すると、今の行動によって生じた地面の亀裂から橙色の光が噴出してきた。

 そしてその光に呼応するかのように、遠くの方にも同じ光が現れる。その場所はあの巨大龍の足元。作戦開始前までは直撃から逸れた位置に設置したはずの罠は、この4界の間で巨大龍がわずかに前進していた影響で、見事に直撃する位置で発動した。


 「けっ、この時点ですでにあいつの読み通りってか!―――それじゃあ行くぜ、作戦開始だ!!!!!」



 遠くに見える橙色の光の一瞬の煌めきが始まりを告げるように、地面に記憶させていた破壊が一斉に爆発音を立てて行われていった。そのあまりの威力に、あたり一帯に轟音と衝撃が伝播していく。


 数十秒続いた破壊が周りの大地を崩壊させていったようで、ギガントドレーギアはバランスを崩し倒れる。

 と言うのが、惨状を真っ先に目にしたガルディンの予想だったのだが、実際の現場は予想外の展開を迎えていた。



 崩れた大地の溝に両脚が見事に嵌まって、魔獣は身動きが取れなくなっていたのだ。その巨体からなる重さが、崩壊した大地によって体勢を崩すという原理よりも、崩壊した大地の中へとそのまま垂直に落ちていくという、通常ではありえない状態を生み出していた。


 「ま、マジかよ!?どういう仕組みだよこれ!?てか重すぎだろこいつ!?」


 その有様に、ガルディンも一人きりだということを忘れて、思わず驚きを口にする。


 そして1人驚きながら魔獣を観察していると、巨大龍の下半身を覆い隠せるほどの質量を持った水の塊が、突然森の中から姿を現した。

 このままいくと魔獣にぶつかると思ったのも束の間、水の塊が飛んできた方向と同じところから、明らかに濃い魔力を宿した炎の斬撃が、水の塊にぶつかっていった。その炎の刃は水塊の中でも消えずに燃え続け、逆に水の方が炎によって次々と沸点に達し水蒸気へと変えられていった。


 やがて炎は水を全て蒸発させたと同時に消滅し、現場は遠くから見ていてもはっきりとわかるほどの湿気に満ちた。


 その一連の過程を、ガルディンと魔獣は身動き一つ取らずに眺めていた。いや、魔獣側にしては、取ろうにも取れなかったという表現の方が正しい。


 「お、王様!爆発音がしたので来ましたが・・・。す、すごい!まるで巨大な浴場でもあるのかと思いましたよ!」


 ガルディンの身体の硬直を解いたのは、背後から走ってきたタツキの声だった。だが、気配を事前に察知していたおかげで、突然の声に肝を冷やされることはなかった。


 「まだだ。まだこっからが本番だ。」


 ようやく孤独から解放されたというのに、タツキの姿を一瞥すらせずにガルディンは現場を眺め続けていた。

 その様子を見たタツキもまた横に並んで、動きがありそうな現場を見守る。


 すると、湯気が立ち込めていた空間の中に、何やら白い煙を放つ丸い球体が投げ込まれた。


 「なんですか、あれは?」


 それが何かわからなかったようで、隣にいる青年は疑問を口にする。しかし、ガルディンはすでにそれが何かを見抜いていた。


 「氷塊。それも、周囲を冷やすのに特化した形状のやつだ。―――さすがの手際だな、シャミノのやつ。」


 「まさかドライアイスですか!?あんな大きいものを投げ込んだら・・・、なるほど!水蒸気が冷やされて霧になるんですね!?」


 何に例えたのかがわからなくて、いまいち同調しずらい気持ちになるガルディンだったが、それでもこの後何が起きるのかにおおよその見当をつけたことに、素直に称賛の声を送った。 


 本来なら、シャミノとマイヤがよく行う芸当。視界を奪う常套手段として利用しているのを何度も目にしていたガルディンはすぐに察しをつけていたが、魔術の素人であるタツキが即座に同じ考えにたどり着くとは思っていなかったのだ。


 などと心の内で感心している間に、現場は先ほどとは比べものにならないほどの視界の悪さになっていた。


 「魔術で霧を作り出すなんて、相変わらずぶっ飛んでますねこの世界は。」


 「作り出すも何も、意図的に作らねえとできねえだろこんなの。」


 「・・・ああ、そうか。この世界は気温も安定してますし、雨も降りませんしね。」


 妙に納得がいったような素振りで頷くタツキ。そんな様子をガルディンは、どことなく困り顔をしながら眺めていた。この世界にはない常識を持ち出されたことで、タツキの考えに共感できなかったことに寂しさのようなものを感じたのだ。


 「そちらの世界では自然とこんなものが発生するような過酷な環境なんだな・・・。」


 そんな小声での呟きは、超常現象を目にして興奮状態にあるタツキの耳には届かなかったようだ。


 「これなら多分いけます!王様、とどめを刺しに行きましょう!」


 だが、それとは同時に別の感情もまたガルディンは抱いていた。


 「やっぱ頼りがいあんな、おい。」


 「え、なんか言いました?」


 またもやタツキの耳には入らなかったが、むしろそれ幸いとばかりに今度はひときわ大きな声を張り上げた。


 「っんでもねえよ!しゃあっ、行くぜえ!!!!!」


 その顔には、彼と親しい者でもなかなか見られない、心からの笑みを浮かんでいた。

 

            *     *     *


 魔獣の動きの拘束と視界の奪取。結構な無茶ぶりだと思っていたのに、あっさりと応えてくるあの2人と目の前にいるこのイケメンの恐ろしさと頼もしさよ。


 とは言っても霧はいつかは晴れるもの。設けられた制限時間内になんとしても決着をつけないと、持久戦に持ち込まれたらこっちに利はない。この霧の生成で多分シャミノさんもガス欠になるって言ってたし、これで戦えるのは王様とあのファイアーマンだけになってしまった。これでまた新しい魔獣でも召喚されたら最悪な展開になる。 


 「ちゃんと掴まってろよタツキ!振り落とされんじゃねえぞ!?」


 「意地でも張り付いてやりますよ。そちらこそ、もういけますか?」 


 「おうよ、こいや!」


 すでに本日3度目になる、この王様の背中に負ぶられる体勢。ただ一つ違うものがあるのは、今回は双方の合意のもとだということだ。だから僕の方にもある程度の覚悟はできている。・・・まあ怖いものは怖いんだけど。


 それでも、後ろで作戦がうまくいくのを祈っているっていう展開よりも、直接僕もドラゴン狩りに参加するっていう展開になってしまった以上はぶーたら言ってられない。僕の一手が戦況を変えるなんて胸熱展開、これはもう行くしかないじゃん?


 よし、ということでまずは精神統一。魔法を行使する前のこの身体の奥が少しぞわぞわってする感じが未だに慣れないな。


 「それじゃ、いきますよ。・・・はあっ!!!」


 そして、魔法を唱えた後のこの気怠い感じ。これもまだ慣れない。これがいわゆる魔力が身体から抜けていくってことらしい。


 それで、何の魔法を使ったかと言うと、


 「おお、ちゃんと修行の成果が出てんじゃねえか!」


 「おお、すごい!我ながらこれにはびっくりですよ!」


 僕が最初に習得した魔法。ちゃんと名前があったと思うけど、僕はもう『目薬魔法』って呼んでるやつ。詠唱の手間なく唱えられる唯一の魔法にして、得意なやつ。


 だが実は、この魔法の本当の効果は目薬なんてものではない。正確には、目に光の力を与えることで視界を明瞭にするっていう魔法で、これがあれば目くらましとか、視界を奪う系の攻撃を防ぐことができるという代物。一回、風呂場でためしにやってみたら、湯気で曇っていた視界が綺麗になったのを思い出して、今回使ってみたんだけど、結果は・・・大成功と言っていい。


 あれだけあたりに立ち込めていた深い霧が綺麗さっぱり消え去っている。効果はそれだけじゃない。なんと、どんよりとした灰色に覆われていた空が爽やかな青色が戻るという効果まであったのだ。

 うん、やっぱり空は青色に限るな。


 「じゃあ、行くぞ!!!」


 僕と同じ景色が広がっているはずの王様は、迷うことなくドラゴンのところへと飛翔した。命綱なしの状態で、空中に一瞬で投げ出されるとやっぱり怖い。うう、これなら僕には目薬使わなければよかった。霧で下が見えない方がよっぽど気が楽だったろうに。


 なんて思っていると、ドラゴンの方にも動きがあった。


 「やっぱり始めましたね、あの溜め行動!」


 「はっ!本当に未来予知でもしてんのかってくらいに作戦通りじゃねえか!」


 周りが見えない。腕も翼も尻尾もろくに動かせない。わずかに動かせた足も今は地面に埋まっている。

 そんなときに、未確認飛行物体がこちらに飛んでくることに気づいたら、唯一持ち合わせている攻撃手段で迎撃しようとしてくるだろうというのは、容易に想像つく展開だ。


 「は、のろまの愚図ドレーギアめ!俺についてこれると思ったら大間違いだぞ、おらあ!!!」


 口を大きく開いてあの黒白い光を溜め始めたドラゴンは、こちらに照準を合わせようとゆっくり顔を動かすが、王様のスピードに翻弄されてなかなか合わせることができずにいる。


 そうしてこちらの位置を特定できずにいる隙に、王様はドラゴンの前方の地面、王様の罠によって荒地と化した場所に一時着陸した。



 改めてあいつの足元に着地すると、その規格外の大きさに驚かされる。だって、見上げても顔の位置が高すぎてしっかりと見れないんだぞ?でかすぎだろ!


 それでもちらっと、顔の付近に集まり始めている黒白い光が見える。この至近距離であれを撃たれたらさすがにちょっとまずいかもしれない。 


 「あれを暴発される前に決めてしまわないと!」


 「そう焦らせんじゃねえよ!得物に魔力込める時間がいるって言ったろ?」


 霧の目的は2つ。


 1つ目は、視界を奪って魔獣を混乱させること。もっと言うと、あのブレス攻撃を誘発させること。


 誘発する理由はただ一つ。口を開かせたかったんだ。

 外側がバカみたいに硬い、魔力耐性ばつぐんの皮膚に覆われているんだったら、皮膚が張られていない内側を攻撃するしかないっていう理論だ。


 最初の最初は、よくある部位が柔らかい関節部分を攻撃するっていう予定にしようと思ってたんだけど、まさか関節までガッチガチにされてるとは思わなかったから、こうするしかないじゃんね。


 ということで、あえてブレス攻撃を誘う必要があったから、ここまで大掛かりな下準備をしたってわけ。



 そして2つ目はこの時のため。距離を詰めた状態で、王様の渾身の一撃を放つための時間を稼ぐこと。罠の発動のために魔力を行使しないといけなかったから、前もって溜めるということができなかったことと、溜めた魔力でドラゴンの口内を狙い撃ちしないといけないという条件から、至近距離で準備する必要があったというこの2点を考慮した結果のこの作戦だ。


 とは言っても、霧が晴れるまでにこの作業をやってもらわないといけないのだから、制限時間はやはりシビアかもしれない。人工的に作り出した霧がどれほど持つかわからないし、僕らは2人とも目薬の効果があるせいで霧が今どんな状態なのかがわからない。


 発見されるリスクが逆に低そうな至近距離をあえて選んだけど、ばれたら逆にブレス攻撃を避けられないっていうデメリットもある。こちらはこちらで地上から口を狙い撃ちしないといけない以上、あいつがブレス攻撃を撃てないくらいの至近距離に行ってしまうとこちらの攻撃も当てられない。


 「まだかかりそうですか、王様!?」


 「確実に1発で仕留めるんだろ!?ならもう少しくれ!」


 焦ったってしょうがないのはわかってるけど、多少はやっぱり不安になるじゃん?


 だってさ?


 だってドラゴンが、何かに気づいたようにこっちの方を向こうとしてるからさ!?


 「これ気づかれてませんか!?」


 「ちっ、さては魔力を感知しやがったか!?」


 やばい、やばいんじゃないか!?

 いや、焦るな。まだこっちを向かれたってあのブレス攻撃は撃てないはずだ。

 でも待て。別に最大まで溜めてから撃ってくるっていうルールなんかないよな?


 え、ちょっと待って?これこっち向いた瞬間に撃ってきたら終わりじゃない!?


 

 あ、これやばい?今、目が合ったよね?ねえ?今発射の合図っぽい光だしたよね?



 あ、これ終わったわ。



 人生終了のお知らせですわ。 





 っていう展開はもう飽きたんだよ。



 「かましたれ、タツキ!!!」



 「―――照らせ、ライトおおおおおおお!!!!!!!!」



 王様と並行して溜めていた僕の残り全ての魔力をつぎ込んだ魔法は、サッカーボールくらいの大きさの光の球となって、ほぼ真上の角度に向かって僕の両手から一つずつ放出された。



 そしてそれは、見事にドラゴンの口・・・ではなく、両目に直撃した。


 「―――――――――――――!?」


 今、霧がどれくらいの濃さなのかは知らないけど、突然真下から直視できないレベルの輝度を持った光を放つ球体が飛んできたら普通はどうなるか。


 いくら皮膚が硬かろうが、眼球のつくりまではどの生物も大抵は一緒だ。だからきっと今あのドラゴンは、虫眼鏡で太陽を見るよりもはるかに辛い目の眩みに襲われているだろう。それを覆い隠せる両手も動かない。となると、その瞼を閉じるしかないだろう。


 そしてその瞬間に生まれる一瞬の隙。普通ならのけぞったりして、照準が定まらないなんて話もよくあるが、相手は身動き一つとるのにも苦労するやつだ。おかげで、ブレス攻撃の発射が中断されたままの状態で動きが止まっている。



 ということは、だ。



 お口ががら空きなんですよね!



 「今です、王様!!!!!」


 「おらあああああ、これでしまいだああああああああ!!!!!!!!!!」


 

 王様の裂帛の気合いを込めた一撃が、今まで聞いたことのないほどの雷鳴の轟きを乗せて放たれた。金色の双刃剣を包み込むように纏われた魔力の塊は、雷の極太光線となって目にも止まらない速さでドラゴンの口へと吸い込まれていった・・・はず。


 いや、ほら。こんな曖昧な表現になるのも仕方ないじゃん?だって、そのレーザービームみたいな一撃、あのドラゴンの顔よりもでかかったんだから。


 ただ、間違いなく言えるのは、




 あの魔獣は死んだってことだ。



 「いやあ、これは・・・。」


 なぜなら、そのレーザーのような雷の塊が通り過ぎていった跡には、魔獣の頭部もろとも消え去っていて、何も残っていなかったからだ。  



 「・・・これ、僕の作戦必要だった?」


 そのあまりの破壊力を前に、僕はそう呟くことしかできませんでしたとさ。




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