1-3 変態vsイケメン
こちら天梨樹、現在の状況を報告いたします。現在、私は公然わいせつ罪を犯した犯罪者としてよくわからない世界の超豪華な宮殿に連行されたという状況でございます。うん、どうしてこうなった。
僕の前にいるのは、町の人からのクレームを受けて立ち上がった正義のヒーロー!・・・とは言い難い感じの気怠さを全身から感じさせている超絶イケメン。さっきまで周囲には思わず目がくらむような美女が何人もいたし、こいつ確実にリア充だな。爆ぜろ。
そして今の状態は、宮殿の玉座の間みたいなところに兵士二人が僕の左右でにらみを利かせている中、クソリア充が玉座の中央にある椅子で足を組みながら座り、僕を見つめている。ん、こいつ偉い感じの人なのか?
「ガルディン様、勝手に町に飛び出されては困るとあれほど言っているではありませんか!おまけに騒ぎまで起こして!
「まあそういうな爺よ。俺も退屈していたんだ。俺の秘密基地で雄たけびをあげて立てこもっている男がいると報告を受けたのなら行くに決まっているだろうよ。そしたら思わぬ収穫だぞ?変態が釣れた。」
「このような者をわざわざここまで連れてくる必要はなかったのでは?こやつはただの変態でありますぞ。わざわざ王の手を煩わせなくてもこのような者さっさと兵士に任せて牢獄にぶち込んでおけばよかったのではありませんか?」
「爺よ、それはいささか甘いと思うぞ俺は。何せ、こいつは俺の秘密の隠れ場で用を足そうとした不届き者だぞ?こやつは俺が直々に裁いてやらないといかん。」
「とは申されても、若は今やこの国の王であらせますぞ。たかが一人の変態の相手をしている暇など・・・。」
あと一人、イケメンの隣には爺と呼ばれている人が立っていた。しっかし、この二人の会話を黙って聞いていると、随分な言われようである。いや、一応すべて事実なだけになにも言い返せないんだけど。
「あのー、それで僕の話はいつ聞いてもらえるので・・・。」
「変態は黙っておれ!」
「誰が変態じゃクソジジイ!さっきから黙って聞いていたら変態だの不届き者だの言いたい放題言いやがって。そもそも何者なんだあんたら!いったい何の権利があって僕を・・・。」
「何者・・・だと?」
その場の空気がその一言を発した一瞬で凍りついたのを感じた。拘束していた兵士二人も爺と名乗るものも、イケメンが放った一言で完全に動きが硬直していた。
「俺が誰か本当に知らないのかお前?」
「あ、ああ。僕はさっきこの世界に来たばかりだと言ったはずだ。この世界がいったいどんな世界であんたがいったい何者かなんて僕が知るはずないだろ!?」
「なんと無礼な!?王よ!即刻この者を処刑なされよ!」
「はっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!
・・・今までいろんなバカと出会ってきたが、俺を知らないと抜かすバカは初めてだ。なあ爺?」
「ざ、戯言にござろう。この国、いやこの世界に住む人々なら若のことを知らぬと申すものなどおるはずがありますまい。」
「ならば理にかなっているではないか爺よ。こやつは先ほどこの世界にやってきたと抜かしおった。ならば俺のことを知らなくても何も不思議ではあるまい?」
「な、それは・・・。しかしそのような話信じられるはずが。」
「どれほどこいつの話が理にかなっているか、聞いてみるのも悪くないだろ?だからここに連れてきたんだ。」
なるほど、こいつは相当な有名人なのかなどと考えているうちに、イケメンはようやく僕の方に向きなおったみたいだ。
「何者かと聞いたなお前?教えてやろうではないか。俺の名はガルディン・クランジア。このクランジア王国を統べる王なんて役目を押し付けられている。まあ、言ってみればこの世界で一番偉いやつってことだな俺は。」
* * *
「んで、自称異世界の住人のお前、まず名前を聞かせてくれ。]
どうやらこの世界で一番偉い人に最初の最初に出会ってしまっていたらしい僕はその王様を名乗るイケメンから質問ラッシュを浴びせられていた。それに、態度は一変、さっきまでは汚物を見るような目だったのに対し、今は珍獣を見ているかのような目をしている。
「天梨樹・・・です。」
対して僕は、突然目の前のめちゃくちゃな態度のイケメンが、この世界の一番のお偉いさんに早変わりしてしまったことで、さっきまでの勢いを完全に消失させていた。
「長い!お前の国のやつの名前はみんなこうなのか?長ったらしくて呼べたもんじゃねえ。」
「じゃ、じゃあ樹で構わないので・・・。」
「うん、その方が短くていい。それでだタツキ、お前は俺の秘密基地に乗ってこの世界にやってきたなどと言ったが、お前はいったい何者だ?どういう経緯でここに来た?どうして公然わいせつ罪などとばかげた真似を・・・」
「話します!話しますからこれ以上変態扱いしないでください!」
こうして、変態の汚名を撤回してもらうために、僕は見ず知らずの王様に僕の過去の恋愛話からタイムマシンを作成し、ここに飛ばされてしまったことまですべて洗いざらい白状させられてしまった。
* * *
「ほう、やはりド変態ではないか。」
「いや、なんでそうなるの!?」
結局、話は振り出しに戻っていた。
「勝手にその女の子が自分を好きだと決めつけて無理やりセ〇〇〇させようだなんてあり得ねえ話だ。なあ爺?」
「全くでございます。やはりこの者は生まれたときから変態だったのでございますよ若。」
「うるせえええ!反省は8年間たっぷりしたわ!そのためにわざわざタイムマシンまで作ったんじゃ!そしたらこんな場所に、こんな場所に・・・。もう何なんだよ僕の人生・・・。」
異世界の住人にすら僕の過去は否定されてしまうらしい。僕の黒歴史は永遠に黒歴史らしい。
「ま、お前のその謎に壮大なストーリーが嘘だとも思えんしなー。どうやらこれは本当に異世界からの来客ということで間違いなさそうだぞ爺。」
「とても信じがたい話ではございますが、どうやらこの者の申すことは常識外れではありますが嘘偽りがあるとは思えませぬな。変態だけど。」
「一言多いなジジイ!?」
とにかく僕の渾身の演説の甲斐あって国のトップには理解いただけたようだ。まずは何より。
「話は理解したが、これからどうするんだタツキ?話を聞く限りそのタイムマシンとやらは機能していないのであらばお前の世界に帰ることは不可能だが?」
ここにきて鋭い質問が飛んできた。いやそもそもタイムスリップした先が異世界でしたーって言われて数時間で目的なんて定まるわけないでしょ。
「修理をするしかないですかねえ。このままこの世界に居座るわけにもいかないし、一刻も早く元の世界に帰らないと過去改変どころじゃないですし。」
「一人ですべてやろうとするつもりなのかお前?この世界の何も知らないお前が一人でこの先やっていけると思っているのか?」
「そ、それは・・・。」
全くのド正論で返す言葉が出ない。正直この世界で独りぼっちにされた瞬間死亡が確定するんじゃないかと思うくらいには生きていけるビジョンが見えていない。
という弱気な姿勢と表情を前面に出して困っていますアピールをする僕を見て、なぜか目の前にいる傍若無人な王様は突然ニヤニヤとし始めた。なんだあまりいい気がしない。そう考えていたのはどうやら僕だけではなく。
「ちょ、ガルディン様?何をお考えに・・・?」
あの一言多い爺さんまで何かを心配し始めた。だが王様は僕の顔をまっすぐ見据えてまたにやりとしている。
「タツキ、お前の生活は俺が保証してやろう。」
そして放たれた言葉は僕にとっては神のお告げのような一言だった。
「は?え、いやいいんですかそんなことしてもらって。」
その一文だけ見ると神のお告げのような一文だった。その一文だけだったら。
「その代わりに俺からの条件を一個呑んでもらう。」
「ま、まさかガルディン様・・・?」
「何ですか条件って?」
何だろう、すごく嫌な予感がする。
「ちょっと俺の国の勇者になってくんない?」
ほら、なんか面倒事にになるにおいがプンプンする。