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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第1章 
4/72

1-2 見知らぬ世界にて

こちら天梨樹、現在の様子をお伝えいたします。

ただいま、眼前には見慣れない西洋風の建物に、めっちゃ綺麗な宮殿がそびえ立っております。さらにさらに、赤、青、緑、黄と辺りを歩いている人たちの髪の毛が色とりどりとなっております。さらにさらにさらに、町を歩く人々は、町の中心に機械とと共に颯爽と現れた僕に目もくれずに日常を送っている。


「っておかしいよね!?なんで僕に誰一人興味を示さないの!?俺結構なボリュームで騒いでるよね今!?」


 完全にいないもの扱いされているのが癪に障るがそんなことを言っている場合ではない。まずは自分がおかれた状況を整理しよう。まず、ここは明らかに日本でも過去でも自分の家でもない。いやまあ過去じゃないというのは完全否定できないけど、絶対に僕が戻りたかった過去の現場ではない。とするとここはいったい何年何月何日のどこなんだよ。


 「もしかして俺、未来に飛ばされたのか?」


 仮に未来だったとしてもこの光景は異常すぎる。いったい何がどうなればこんな頭カラフルな世界が生まれるっていうんだよ。というより、それ以上に不自然なのが、


 「こいつら、日本語しゃべってやがる・・・?」


 見た目は完全に日本人とはかけ離れているにも関わらず、道行く人々の会話の内容はなぜか理解できてしまうという異様な事態。ゲームやアニメの中では当然のように行われているくせに、いざ目の前にそんな状態を作られるとこうも気持ちが悪いものか。


 

 うん、完全に来る場所を間違えた。帰ろう。


        *     *     *


 「しっかし、何だったんだこの世界は。現実とかけ離れすぎてて気味が悪い。異世界かなんかかと疑いたくなるレベルやわ。」


 タイムマシンの中にさっさと退散した僕は設定をさっきとは真逆の9年後の未来に設定しなおした。場所はもちろんタイムマシンを発明した天梨研究所、日付は今日、3月7日に設定。


 「9年前に戻ったらこうなったんだ。少なくとも同じ時間だけ時を進めれば元の世界に戻れるだろ。」


 僕は、再び不安と期待を込めて転送スイッチを押すことになった。


 「ん?」


 あれ、稼働しねえ。


 「んんんんん???」


 これ、もしかしてやべえパターンのやーつ?


 「嘘だろ?嘘だと言ってくれよ!?元の世界に帰らせてくださいよおおおおおおおおお!」


 うん、よく見る一回使ったら故障して二度と使えなくなるパターンのやつでした。


        *     *     *


 「どうすりゃいいんですかあこれ?」


 一瞬にして帰る場所も変える過去も失ってしまった僕は、タイムマシンの中で絶望に打ちひしがれていた。この絶望感、玲那に逃げられて一人ホテル街に残されたあの日並みにやべえな。

 とはいえ、タイムマシンの中に籠ることすでに1時間。空腹感とのどの渇き、それに何より尿意が僕の体を容赦なく襲ってきていた。


 「いつまでもここで籠ってるわけにはいかないんだけどさ。だけどさーーー。」


 外の風景は僕の行動力を奪うには十分すぎるほどの破壊力があった。こう思うと、異世界系主人公の適応力ってマジで頭がおかしいってことがよくわかる。


 「怖えよお、だって明らかに俺の知ってる世界じゃねえしーー。平気で手から火とか出してきたらやべえじゃん。」


 さらに籠ることおよそ30分。未だに僕は狭いタイムマシンの中、一人泣き言をたれている。しかしそんな僕の心の中に、尿意だけは土足で上がり込んでくる。我慢はすでに限界の域に達しようとしていた。


 「ううう。」


 「ううう。」


 「う、ううう・・・。」


 「ええい!!!!」


 あ、頭の中の僕が何かを決断したようだ。あ、ドアをこっそり開けた。あ、ズボン脱ぎ始めた。あ、僕、町のど真ん中で用を足そうとしてるようだ。



 「ガチャ。」



 あれ、ドアが開いた。あれ、目の前に人がいる。なんか立派な服着た人が目の前に立ってる。周りにめっちゃ女の人いる。あれ、用を足してる俺をじっと見てる。・・・あれ?


 

 「お前、俺の秘密基地で何してんだ?」



 「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああ!」



 僕はこの日一番の絶叫を上げることになった。


        *     *     *


 「んで、お前は俺の庭で何堂々と〇〇〇〇しようとしてやがるんだ。」


 「は、入る時はノックくらいしてくださいよ!?」


 「ここは公共のトイレじゃねえぞ!?ふざけてんのかお前!?」


 突如俺の目の前に現れた男はド正論を振りかざして僕に説教をしてきた。ったくなんてタイミングで開けてきてんだよ。


 「お前が出てくんのをずっと待ってたんだよ。なんか変な奴が町のモニュメントの中から突然出てきてなんか叫び始めたと思ったら、ずっとその中から籠って出てこねえって連絡があったからよ。」


 「がっつり僕のこと認識してんじゃねえかよ!?なんであんなにも反応なかったんだよあの時。」


 「少しでもお前に反応を示したら災難が降りかかるって考えたんじゃねえの?当然といえば当然だな。」


 「いやこの町の人のスルースキル半端ねえな!?」


 てかこいつずっと僕がここに籠ってる間見張ってたのかよ。大した根性だなおい。


 「お前、ここらじゃ見ねえ顔だな。さてはまたあの野郎の差し金かあ?」


 「いや僕も急にここに飛ばされてきたから何が何やらなんだけど。」


 「今度はそういうパターンで来やがったか。まあいい、とにかくお前の話は宮殿でじっくりと聞かせてもらおうか?」


 「え、僕このままあんたに連れていかれるの?」


 「ったりめえだろ。突然町に現れて路上でわいせつ行為働こうとしたやつを放置なんざできるか。おら、来い!あ、君らは今日はもう帰ってもいいよ。」


 「はい、ガルディン様!どうかお気を付けて。そこの不埒ものを裁いてくださいませ。」


 取り巻きの女たちを帰らせると、ガルディンと呼ばれていた男は、呆れ顔で俺のうなじをものすごい力で掴んできた。


 「ちょ、痛い痛い痛い痛い!やめてくれ!僕は怪しいものなんかじゃない!僕の話を・・・」


 「超絶怪しいから!抵抗するともっとひどい目にあわせるぞ?ほら、さっさと歩け!」


 

 見知らぬ世界に来て2時間余り、わたくし天梨樹は眺めるだけだった宮殿の中に、犯罪者として入ることになりました。

 






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