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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
39/72

2-幕間 約束

 王宮の3階にあるバルコニーに人影が一つ。すっかり日が落ちた夜の王都を眺めながら物思いに耽るのは、見た目は20代前半だが実年齢はすでに40近い、がたいのいい長身の男。すでに夜風となった冷たい風に短い茶髪と、動きやすさ重視と言って軽装を身につけておきながら、かっこいいからという理由でつけられた邪魔くさいマントをなびかせ、ただひたすらに視線を王都の方へと泳がせる。


 何も言葉を発さないでいるその様子は、誰の目から見ても何か悩み事を抱いているのは明白だろう。ましてや普段は自信と威厳に満ち溢れた、いわゆる王者の貫禄のようなものを漂わせているだけに、このどこか儚げな雰囲気を纏っている姿というものは、見たものに驚きを与えることは間違いない。


 とはいえ、夜の帳が下りたこの時間に一人夜風を浴びに来るのはここ数日だけを切り取ると、何も珍しい話ではない。すでにこの数日の間に2度訪れており、今回を含めると3度目となっている。もっとも、一人でこの場にいられているのは今回が初めてなのだが。それを嬉しく思う反面、誰かに傍にいて欲しいという真逆の感情もまた同時に沸き起こってくるのが、本人にも不思議でならない謎の現象だ。・・・いや、その謎の現象が発生する理由は彼自身理解しているはずなのだが。


 昨日の夜から残党狩りの時間も含めたら今日の深夜にまで及んだ大規模な魔獣との戦争。それは、国を治める立場にある彼にとっては見過ごせない大事件だった。今までの魔獣との小競り合いは、犯人が特定されていたこともあって全く気にする必要のない類のものであったのに対し、今回の襲撃は犯人不明であり、それも今まで犯人であった人物の犯行ではない可能性が極めて高いという状況にある。原因不明の大規模な魔獣による襲撃。彼の腹心であり親友でもあるザイロンにその原因究明を一任してあるとはいえ、その不安を拭いきれないのは王という立場にある以上、仕方のないことなのだろう。


 さらに、心配事はそれだけではない。彼の愛娘であるマイヤが、その戦争の終焉の際に顔を見せて以来、この王宮に帰ってきていないのだ。思えば、昨日は彼女にとっても苦難の一日であっただろう。部屋に閉じこもっていた時はまだ微笑ましいという感情のみだったのだが、そこから魔王による襲撃があり、彼女の頭を悩ませていた張本人であるタツキが身代わりになって目の前で魔王に連れ去られるという事件に発展し、傷心しているところに魔獣の襲撃に遭うという悲劇の連続だったのだ。肉体的にも精神的にも相当疲弊しているだろう。何事もなく帰ってきてほしいという心配をするのも当然である。


 そして極めつけは、その拉致されたタツキの記憶喪失である。彼の記憶が失われたことは完全に予想外の出来事であり、その出来事が王に与えた影響は計り知れない。特にマイヤにとってはかなり大きな傷になることは容易に想像がつく。何せ、先の魔獣戦争でタツキの姿が見えないだけで大きな不安を抱いていたくらいなのだ。その身に何かあったと知ればどうなることやら。

 今回ばかりはあの魔王にも灸をすえてやらないといけない。今まで彼に行った仕打ちを全て加味しても、さすがにタツキの記憶を奪った罪は償えない。それほどまでに、タツキの記憶喪失は大きな痛手なのだ。


 「タツキにとっても、マイヤにとっても、俺にとっても。―――あいつにとっても、な。」


 唯一希望があるとすれば、彼の記憶はそれほど大したものではなく、忘れていた人間の顔を再び見るだけでその記憶が再生されていることだ。ならば、マイヤの記憶も例外なく戻ってくれるはず・・・。なのだが、なぜかそうはならないという謎のマイナス方向への自信があった。こればかりは本人にも説明はできないのだが、直感的にそうなのではないかという予測をしていた。

 単純に記憶が戻らなかったと伝えられた時のショックを緩和する自己防衛を無意識に行っているだけなのかもしれないが。


 「それでももう賽は投げちまった。予想外の出来事がこれ以上起きないうちに何とかしねえと。」


 押し寄せる感情と悩みの渦に翻弄されてますますその表情を険しくするガルディン。


 「それがマイヤを・・・。この国を護るってことだろ、ミアラ?」


 自分の全てを信じ愛してくれた最愛の妻の墓前で、ガルディンは王としてではなく一人の男としての時間を過ごすのだった。



 そうして一人夜風に当たること十数界。王都を一望する彼の視界に、女性の方に肩を預けながらこちらに向かって歩いてくる一組の男女が映り込んできたのだった。  


            *     *     *


 「ま、あらかた予想はしていた。なーんか嫌な予感が拭いきれなかったからな。」


 「・・・お見通しだったってことですか。ですが奇遇ですね、僕もこうなる気はしてましたよ。」


 「ま、しゃあねえわな!何せお前が俺の期待に沿った報告をしてきたことなんか一回もねえからな!許してやるからそこに土下座しとけ!」


 「いやそれ許してませんよね!!!???」

  

 タツキのマイヤとの記憶はやはり回復しなかった。しかし、相当な叱責を覚悟していたタツキにとって、ガルディンのこの軽い反応は完全に想定外だった。


 「なんだよ、いつもみたいに騒ぎ出したと思ったら急にハトが豆鉄砲食ったような顔しやがって。」


 「この世界にもその言い回しあるんですね。・・・いや、その。もっと落ち込まれたり罵倒されたりするかと思ってたもので。」


 「罵倒されたいとかやっぱりてめえマゾじゃねえか・・・。っておいてめえ!何俺の娘に変な言葉吹き込んでんだ!!!いらん知識をあいつに与えんじゃねえ!!!」


 「されたいとは言ってないし!?てか結局罵倒されるんですか僕!?」


 と言っても、マイヤにマゾヒストという言葉を教えたタツキはもういないのだが。身に覚えはないのに実際に自分が犯した罪に問われるというのは果たしてどういった心情なのだろうか。


 「はあ・・・。まあこの展開は大方予想通りだとして、だ。マイヤにはその事実を伏せているんだろ?なのによくもまああれだけあいつを笑顔にさせられるなおい。」


 記憶喪失のことを伏せているという予想ができたのは、帰宅早々マイヤに入浴を勧め、2人きりで話がしたいと言ってタツキがガルディンを自室へ連れ込むという行為に出たからだろう。

 

 ならばもう少しタツキの方から気まずそうな雰囲気が出ていそうなものだと思っていたのだが、予想以上に帰宅時の2人の関係が良好に見えたのがガルディンの目には奇異に映ったのだろう。


 そのガルディンの抱く謎をさらに深めるように、タツキは目を伏せがちにして「いや、そのですね。」と前置きをした。


 「王様の知らないところでまた色々とありましてね・・・。」


 が、いつまで経ってもその先を濁そうとする態度に、ガルディンは段々とイラつきを覚える。そのイラつきを隠そうともせず、二人掛けのソファの真ん中で大きく貧乏ゆすりを始める。

 その様子に合わせて、そのソファの目の前にある椅子に腰かける樹の心中には、更なる焦りがじりじりと浸食してきていた。


 「なんだよ、言いたいことがあるならはっきりと言え。いつもいつもそう肝心なところでもじもじしやがるから俺は、」


 「僕、姫様と付き合うことになりました!」


 「お前のことを根性なしのヘタレ野郎・・・。―――今なんつった?」

  

 流れるように浴びせられる罵倒の中でわずかに聞こえたその衝撃的な告白に、思わず腑抜けた声で聞き返してしまったガルディン。


 「先ほど、改めて僕の方から姫様に告白をしまして。それを姫様が承諾してくれたので、晴れて僕らはお付き合いしている状態になりました。」


 聞き返したことでより詳細にその内容が伝えられてもなお、不意に顔面にパンチを食らったような顔で頭上に疑問符を浮かべているガルディン。


 「おつ・・・きあい・・・???」


 「はい、男女交際です。」


 「お前と・・・マイヤが・・・???」


 「はい、ほんの数十界ほど前から。」


 「・・・なんで???」


 「なんで!?」


 なおも全く現実を受け入れようとしない彼女の父親に、とうとうタツキの方にも動揺が走る。


 「いやいやいやいや、だって記憶ないんだろ?」


 「ないですよ。姫様との記憶は、昨日の夜カルシウ村で目を覚ました時からの記憶が最古です。」


 「てことは、実質まだ出会って一日経ったくらいのもんなんだろ?」


 「そうですね、現在の僕の中ではそんなような感じです。」


 「・・・なんで???」


 「いやだからなんでってなんですか!?」


 実りのない質疑応答を重ねてもますますガルディンの頭は混乱を続ける。先ほどまでの豪快な笑い声はどこへやら、今はただ気迫ゼロの腑抜け声でただただ無理解を示すのみだ。


 「記憶・・・ないんだろ?」


 「だからそう言ってるじゃないですか。」


 「じゃあどうして告白なんてできる?」


 「うーん・・・。告白した当初とかは随分と悩みましたけど、今ならこう答えられますね。―――好きになるとわかってるから、です。」


 「・・・は?」


 その予想外の答えに、とうとうガルディンは眉根を寄せて唖然とするしかなかった。何の根拠もない自信。なのに一切の迷いや後悔という感情が感じられないこの照れくさそうな笑顔。まるで、すでにその彼女に心酔しきっているかのようなその屈託のない笑顔がガルディンには信じられない。


 「でもお前、それだったらレナのことは?」


 「それは・・・。そこに関しては色々思うところがあるのはわかりますが、今はもう姫様がいるので。・・・散々その感情への葛藤は過去の自分がやってきてくれたと思うので、その葛藤した記憶のない現時点の僕は過去の自分をただ信じることにします。これが過去の自分が選んだ最善の未来だということを。」


 昨日魔王の家に押しかけて、拉致とも言える強引さで無理やり連れだした一人の女性がガルディンの脳裏をよぎる。しかし、それすらもかき消すような強い意志を目の前の男は口にした。そこに迷いなんて一つも感じられない。

 正直、理由を耳にしてもこの笑顔の理由はガルディンには理解できない。何も理解できない。だが、心の内に込み上げてくるのは無理解への不快感なんてものではなかった。

 むしろそれとは真逆ともいえる感情だと言えるだろう。


 「・・・はっはっは。」


 「お、王様?」


 「ふっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!!」


 部屋中に轟くガルディンの高笑い。そのあまりの豪快さに、幸福そうな笑顔を浮かべていたタツキが今度は眉を顰める有様だ。笑っている張本人にはそんな様子は目に入っていないようだが。


 「いやはや本っ当、お前は面白い!お前は常に俺の予想を裏切ってきやがるな!」


 「は、はあ。それは褒められてるんですかねえ?」


 「ったりめえだ!俺には考え付かない思考回路を持つ人間なんて貴重だろ?お前といると、新しい価値観ってもんが形成されていく気がするぜ。」


 「いや、あんたと同じ思考回路を持つ人の方が少ないでしょうよ・・・。」


 「仮にも一国の王である俺の予想を覆す力を持っているんだぞ?少しは自信もてや、はっはっはっはっは!!!」


 なおも豪快に笑い飛ばすガルディンにタツキはあきれ顔で不満を表明。笑うという行動一つでさっきまでの互いの表情を逆転させるという快挙を成し遂げる。


 「でもそうか、マイヤのあの幸せそうな顔はやっぱそういうことだったってことか。」


 「え、なんか言いました?」


 「俺の娘に手を出した覚悟はできているんだろうなって言ったんだ、聞こえなかったのかてめえ?」


 「急に喧嘩腰!?」


 冷静になってようやくガルディンの胸中に襲い掛かる、娘に彼氏ができたという事実。自分で彼氏を結婚相手に推薦したことまであるくせに、いざ彼氏面をして目の前に座られていると謎にストレスゲージが溜まっていくのを感じてしまう複雑な親心。


 「なんか変なことしやがったらその命吹っ飛ばすからな!?」


 「そして唐突な死刑宣告!?」


 「あん!?死刑宣告ってことは変なことする気満々ってことかてめえ!?」


 「変なところに気づかないでくださいよ!?言葉の綾ってやつですよ!」


 不用意な発言で火に油を注いでいくタツキ。しかし油を注がれた割には、すぐにしんみりとした表情を見せるガルディン。この安定しない情緒を前に、タツキの精神的疲労が急速に蓄積されていく。


 「なあ、タツキ。」


 「何なんですかもう。今日の王様はいつも以上に疲れますよ。」


 「二つほど約束しろや。」


 「一つは姫様の幸せとして、もう一つは何ですか?」


 当然のようにそれを口にするタツキに頼りがいを感じる反面、そのドヤ顔に無性にイラつきを覚えて、タツキを睨みながらにやつくという気持ちの悪い顔を完成させてしまう。


 「勝手に決めつけんじゃねえよボケ。まあ、あたりだけどよ。・・・それで二つ目だ。―――後悔だけはするんじゃねえ。この先何があろうと、さっきてめえが言った『最善の未来』ってやつを信じ抜け。」


 あれだけ自慢げにガルディンに大口をたたいておきながら、その数十界前にすでに一度後悔してナユリアウーメンに泣きべそをかいていたタツキは、思わずその言葉に硬直してしまう。だがそれでも、間髪入れずにとは言い難い速度ではあったが、


 「はい、必ず。」


 と、そう二つ目の約束の承諾を口にするのだった。


 「けっ、返事だけはいつもいいのがかえって憎たらしいなおい。」


 「それだけは自分の取り柄だと思ってますから。」


 そう言って、ガルディンとタツキは互いに表情を緩めるのだった。


            *     *     *


 「まったく、あれだけ姫を心配させておいて、ようやく姿を見せたと思ったら一国の王を自分の部屋に連れ込むなど、万死に値する不敬っぷりじゃ!!!」


 「それでやっと自分の部屋に戻ってきたと思ったら、お前が我が物顔で部屋をうろついていたわけなんだが、これも不敬罪ってことでいいか爺?」


 タツキの部屋を後にしたガルディンを待ち構えていたのは、灰色の忍び装束のようなものを着た、長い白髪の老人だった。自分が生まれた頃から常に見続けてきた顔であるだけに、何の感情もわかなくなっているようだが。


 「んで、わざわざ勝手に許可もなく人様の部屋に入り込んだのはいかなる了見だ?」


 「そんな深刻な話をしに来たわけではないんですがな、ただ・・・。」


 「よし、深刻じゃないなら帰れ!」


 「最後まで聞いてくだされ若!!!どうしていつもそうやってわしを追い出そうとするのか!?」


 すでにこのやり取りをかれこれ30年ほどは続けていることもあり、お互いの手口は知っているとでも言わんばかりのスムーズなやり取りをする2人。お互いに楽しそうな顔をしていないせいで、傍から見るとかなり仲が悪そうに見えるが、これが彼らにとっては日常であり、挨拶のようなものなのである。


 「ごほん、それで話を戻しますがな、若。」


 「その若って言うのをやめろって何回言えば・・・。」


 「む、これは失礼。改めて、王はここ最近は一体何をされているのですかな?」


 「な、何って言われてもな。ちゃんと仕事はしてるだろうが。なんか文句でもあるのか?」 


 その予想外の問いかけに、ガルディンは意気を挫かれたように気弱く答える。


 「確かに治安は今まで通り維持されております。ですが国民からは、『最近王様の姿をあまり見ない』だとか、『忙しそう』だとか、『昔みたいにフラフラしていない』だとかいう報告が上がっているのですよ。」


 「ほ、ほう?実際最近は何かと飛び回っていたのは事実だな。異世界から人が来たり、ヘボが来たり、挙句の果てには魔獣の大群の襲来ときたもんだ。確かに王都に姿を見せることも少なかったし、忙しかったし、フラフラもしていなかった。」


 「そう、そこですぞ王よ。今までの王だったら、どんなことがあっても国民とのコミュニケーションという名分で女と遊んでいたではないですか。」


 「随分と人聞きの悪い言い方だなおい。まあ本当だから何も言えねえけどよ。」


 なぜか顔を赤らめて恥ずかしそうに頭を掻くガルディン。その様子を見て思わずため息が出てしまうセイラス。


 「まあ話を戻しますが、あの若造がこの王宮で生活を始めてからというもの、王が何やら変わられたように感じるのはわしも同じでしてな。・・・それに、この前はあのバルコニーにまで足を運ぶようになられて。」


 「なんだよ、言いたいことがあるならはっきり言えや。いつも無駄に口数が多いお前らしくねえ。」


 いつもと違い歯切れの悪いセイラスの発言にしびれを切らしたガルディンが、十数界前にタツキに放った言葉を再利用して核心に迫るよう促す。それと同時に、お互いに険しい表情を見せつつも柔らかい雰囲気を保っていた空気が凍りつき始める。 



 「・・・では単刀直入に、と言えるかはわかりませぬが質問を。―――若、何を隠されている?」


 その問いかけと共に、ガルディンの胸に稲妻のような衝撃が走る。それはいつか尋ねられるとはわかっていたものの、それに対する策を一切用意できなかったままこの時を迎えてしまったバツの悪さだった。


 「か、隠すって言うのはまたなんか嫌な表現使いやがるじゃねえか爺。まるでバレないようにコソコソ裏で活動してるみたいな言い草で、聞いててスッキリしねえな。」


 「だがわしがそういう表現をあえて使ったのは、そういうニュアンスを前面に出したかったからですぞ。あのタツキという男が来てからというもの、若はどこか真剣な目をすることが多くなった。一つ一つの言葉に真剣みを帯びるようになった。一つ一つの行動に、確固たる意志を感じるようになった。


 ―――まるで、あの男の存在に影響されているかのように。」


 言葉と共に鋭くなるセイラスの眼力に耐え切れず、思わず目をそらしてしまうガルディン。その行動がセイラスに、今の発言が図星であるという証明になってしまっているとも知らずに。


 「教えてくだされ。若は一体何を考えておる?」


 目が揺らぐ。足が揺らぐ。心が揺らぐ。思惑が頭を駆け巡る。最適解を導き出そうと脳が回転する。だがそれが結論を出すことはなく、ガルディンは沈黙を選択せざるを得なくなってしまう。


 なおも、セイラスの鋭い眼はガルディンの全身を刺し貫いている。黙秘し続けることを無言で糾弾し続けている。そこに優しさなど一片もない。ただそこにあるのは、裁判官と被告人のような裁き裁かれるような関係のみだ。

 その空気に耐えられず、ガルディンは渋々口を開いた。


 「今はまだ言えないと言ったら、怒るか?」


 「・・・先日も言ったじゃろう、わしは若の味方じゃと。じゃがな、それを誰にも相談もせず、一人で行動に移しているのを見るのは心配なんじゃ。ましてや近頃、異常事態も頻発しておる。それに若が無関係とは思えんのですよ。」


 「っ!それは違う!俺は何一つ関係ない!」


 あらぬ嫌疑をかけられ、ガルディンは即座に否定の言葉を重ねる。


 「では一体何をしているのじゃ。何をそこまでひた隠しにしておる?・・・何をそこまで一人で抱え込んでいるのか、この爺にくらいは教えてくれてもよかろうに。」


 「それは・・・。まだ誰にも話すことはできない。お前への信頼がどうという問題じゃないんだ。わかってくれねえかセイラス?」


 ガルディンは縋るような声でセイラスにそう漏らす。それこそまさに、裁判官に無罪放免を懇願する被告人のようだった。その様子にセイラスは、憂いの表情を一層強めていく。


 「あの男が・・・。タツキが関係しているのですかな?」


 『タツキ』という言葉を初めて口にしたセイラスの目には、いつも以上の敵対心を含んでいるようにガルディンには見えた。


 「あいつが原因ってわけじゃねえ。あいつに影響を与えられているという表現も半分は誤りだ。それでも、あいつが来たから俺が今こうして忙しくしているというのは事実だ。」


 「あの男が一体なんだというのだ!あやつがここへ来てからというもの、この国の和が乱されているように思えてならんのじゃ!」


 「それは違う!あいつが、その異世界とやらでタイムマシンとか言う機械を作ったせいで、3人もこっちの世界へ迷い込んできてしまったのは確かだ。でも、昨日の魔獣は関係ねえ。あれだけは関係ねえはずだ。」


 「そんなことどうしてわかる!?あいつらがああして王都の外で刺激を与えていることで魔獣が活性化してしまった可能性だってあるでしょうに!」


 「それこそ何も根拠がねえじゃねえか!仮にそうだとしたらタツキがここに来た時点で襲撃が起きたはずだろうが!」


 「んな・・・!ど、どうして若はそうまでしてあの男の肩を持つんじゃ!あやつは異分子じゃ!国を統べる側としては、あやつの存在は不安要素でしかないだろうに!」


 タツキの処遇をめぐる二人の国の重役の論争は熱を増していく。裁判官と被告人という立場は今や、検察官と弁護人という全く別のものに変化していた。

 だが、追及の手を緩めないセイラスの言葉に、ガルディンの感情はついに爆発寸前にまで達しようとしていた。そして息を一度強く吸って再び強い眼差しでセイラスに向き合った。


 「タツキは異分子かもしれねえが、この国に必要な奴なんだよ!お前にはわからねえかもしれねえけどよ・・・。


 ―――あいつはこの国の希望なんだ!!!!!」


 ガルディンの心からの叫びが部屋中に反響する。一昨日の晩に破壊され、昨日の内に新たに備え付けられたドアにまで振動が行き届く。

 部屋の入口で立ったまま話し続けていた二人の間に沈黙が流れる。お互いの感情の昂りが先の一言で静められる。

 ガルディンの言葉の意味を理解しようとセイラスは精一杯に頭を働かせる。だがそれは、開始早々に脳がエラーを起こしてスキャンに失敗。全く意味が分からない言葉としてセイラスの頭の中で処理される。

 わからない。一国を統べる立場にある王が、なぜあのような異分子を希望と呼ぶのか。あの戦闘能力も常識も真っ当な人格すらも持ち合わせていない男のどこにそのようなものがある。


 セイラスの静まりかけていた感情は、理解不能という解を導き出したと同時に再び昂り始める。


 「若は・・・。王は・・・、気でも触れたのか?」


 「失礼な。俺はガルディン・クランジア。いつだって俺は正常だ。」


 「ではあの男のどこにそのような可能性が見出せるというのだ!?何をもってそんなことが言える!?わしにもわかるように説明してくだされ!」


 「・・・それも含めて今は言えんのだ、爺。でもすべてはこの国のため。


 ―――そしてミアラと交わしたあの約束のためだ。」


 「な・・・。約束、じゃと・・・。」


 感情的になるセイラスとは対照的に、理性的に言葉を返すガルディン。だがその言葉には先ほどの叫びと同じくらいの、いやそれ以上の重みがあった。

 その重みを感じ取ったセイラスは、今度こそその激情を鎮めることになった。ガルディンの言う『約束』。それがどれほど大切なものかを、セイラスはこの世界に生きる誰よりも知っていると自負しているからだ。

 

 その約束を遵守するために行動していると聞かされたら、これ以上セイラスからかけられる言葉はない。言いたいことは山ほどある。喉元には数多の言葉たちが噴火寸前のマグマのように浮上してきている。それでも、それらすべてを飲み込むしかない。飲み込ませるだけの影響力を持っていた。


 「むぐ、うぐぐぐぐ。」


 「ずるいとは思ってる。でもこの一言で納得して引き下がってくれ。」


 ガルディンも、ああ言えばセイラスがこのような反応を示すであろうということを見越していた。そんな自分のずる賢さに、珍しくガルディンは自己嫌悪の気持ちに苛まれる。こんな手段を使ってでも真実を隠匿しようとする自分自身への迷いのようなものもきっとそこには含まれていただろう。


 「・・・若、最後に一つだけ。」


 「許す。」


 「たとえ王という立場になっても、人間という器を超越することはできませぬ。人間は1人で生きていけない生き物なんじゃ。限界が来たと思えばいつでも誰かに頼るがよろしい。それを誰も責めはせんし、非力だと笑いもせん。―――孤独な戦いだけは選ばんでくだされ。」


 王の力になれない非力さを嘆くかのようなその思慮の一言は、王の心を労わるどころか余計に悲痛に染め上げる結果となってしまった。奥歯がギシギシと軋む音がガルディンの身体に響き渡る。目を合わせるのも気まずく、床へと視線を放り投げる。自分自身への怒りを堪えるように二つ握りこぶしを作る。


 「・・・いつか必ず笑顔でお前に一部始終を語ってやるから待ってろ。それまでくたばるんじゃねえぞ、爺。」


 「まだあと50年は生きられそうな気がしておりますぞ。それまでにケリをつけてくだされよ、若。」


 「はっは!!!この状態があと50年続いたら俺もさすがに過労死するぜ。」


 空元気で笑って見せるも、やはりセイラスの顔を見ようとはしないガルディン。その様子を察したセイラスは、無言で一礼。ガルディンの隣を通り退室しようとする。


 が、ドアから半身を外に出したところで後ろから「ああ、そうだ。」と声がして動きを止める。


 「爺、タツキがマイヤを彼女にしたらしいぞー。」


 「な!?今なんと!!!!!!!?????????」


 「さっさと出てけ!はーーはっはっはっはっは!!!!!」


 最後の最後に鉛のように重かった空気をぶち壊していったガルディン。その衝撃的な内容に思わず大声を上げてしまったセイラス。


 「・・・やれやれ、歳はだいぶ余分に重ねているはずなのにあなたには敵いませぬな、若。」


 しかし、そんな反応とは裏腹にセイラスの顔には思わず笑みがこぼれていた。 


 それと同時に、次の日からの剣術指南がこれまでの3倍厳しくなることが確定した。


            *     *     *


 村とは名ばかりの、たった5人しか住んでいない空間、カルシウ村。しかし、その敷地はそれなりに広く、木造建築の家と呼べそうな建物が4つ並んでおり、土地にはきちんと人の手が加えられ、畑のようなものが数多く作られている。しっかりとそこには農作物がたくさん作られており、それだけで人5人が住むには十分な食料が確保できそうなほどである。

 そんなのどかな雰囲気漂う村だが、王都を囲む城壁の外に作られているため、常に魔獣との生存競争の中を生き抜いている。魔獣の脅威にさらされる危険性の少ないところに村自体は作られているため、四六時中魔獣に脅えながら暮らしているわけではないが、簡易な柵で囲われているだけの村であるため、多少凶暴な魔獣が接近してきた場合には村が危険にさらされることもある。

 そんな環境の中でもたくましく生きているのが、村長ギリアンテと4人の若い兄妹たち。その若者4人は王都では、通称『魔獣戦線』と呼ばれており、彼らの剣術によってこの村の安寧は護られていた。


 比較的安定した暮らしを送っていたカルシウ村だったが、先日の魔獣襲撃事件では魔獣たちの標的にされてしまい、襲撃を退けた現在でも不安という名の傷跡がギリアンテの心をひどく抉っていた。


 「結局、先日の魔獣襲来の原因は不明とのことです、ギリアンテ様。」


 4人の中で最も生真面目な最年少であり、この村唯一の女性、コウセキ。

  

 「やーれやれー、そんなことでこの先だーいじょーぶなんですかねー?」


 4人の中で最も不真面目な三男、フウラン。


 「何があろうと、またこの水剣で全て飲み斬るのみですがね。」


 4人の中で最も落ち着きのある次男、スイシュウ。


 「・・・不安は残るがな。」


 4人の中で最も寡黙で厳格な長男、エンガ。


 「原因不明で済まされるのはこちらとしてはたまったものではないがね。何せ、この先何度もあのようなことが起きたとしたら、真っ先に狙われるのはこの村なのだから。・・・捨てられることが決定しているこの村なんだからな。」


 そんな個性あふれる若者たちを束ねるこの村の長、ギリアンテ。


 彼ら5人は村の中央にある広場で、コウセキが預かってきたザイロンからの報告書に目を通していた。


 「ギリアンテ様、またそうやって悲観的になられる。私たちがいるのですから少しは前向きに生きてください。」


 「そーそー。どーしてそんなに俺らの信用がないのか知りませんけど、もう少し気楽に生きてみたらどーですかねー?」


 「お前ほど気楽になられても正直困りものだけどな、フウラン。お前と主を足して2で割ったくらいがちょうどいいだろう。」


 「・・・村は護る。・・・主も護る。・・・それだけだ。」


 各自様々な反応を示す中、ギリアンテだけはその報告書に強い憤りを露わにしていた。

 

 「何があろうとこの村だけは必ず消させたりはしない。―――それが私がこの世界に生を受けたという証だからな。」 


 「ええ、それが我らが亡き両親から受け継いだ意思ですから。―――命に代えてもお守りします、主。」


 そのギリアンテの意志を尊重するように、スイシュウはその決意を明確に示す。


 「はい、シュウ兄上の申す通りです、ギリアンテ様。ですからご安心を。」


 それに続いてコウセキもまた、膝を折って主への忠誠を誓う。


 「そりゃーまー、それが俺たちの仕事ですしー?やることはやりますよー、主様。」


 両手を頭の後ろで組みながら、気だるそうにへらへらとそう告げるフウラン。


 「・・・我らにお任せあれ。」


 そして最後に言葉少なながらも、重く強い意思を示すエンガ。


 

 「異世界からの突如現れた異分子。この安定していた世界の調和を乱す存在。―――私の存在を脅かす存在は許してはおけぬ、な。」


 そんな威風堂々とした兄妹に囲まれたギリアンテは、口を歪ませて天にそう呟くのだった。

 

            *     *     *


 「で、いつまでお前はここにいるつもりなんだよ。お前みたいなイケメン、と言ってもガルディンほどじゃねえが、養うほど俺もお人好しじゃねえからな?」


 「さすがに俺もいつまでもここに居候させてもらう気はありませんよ。居候する家はこの世界に来た初日にあてがわれているんで。」


 魔獣騒動から一夜経った魔王城改めただの木造建築には、ガルディンに拉致されていた玲那、それを連れ戻すことに成功したこの家の主である魔王、そしてなぜか玲那についてきてはやたらと保護者ぶっている謎の男という立ち位置に置かれている宗次の姿があった。


 「この状態の伊理夜をあんたに預けるのは色々とまずい気がしましてね。色々あって気が動転しているってのに、その上魔王なんて呼ばれているあんたと王都の外で二人暮らしなんて状態、メンタルが持たねえだろ。」


 「気を遣わせてごめんなさい。蒔田君にも帰る場所があったのにわざわざついてきてもらっちゃって。・・・でも確かに君がいてくれると少し落ち着いてしまうダメな私がいる気がする。」


 その保護者に甘えるように謝罪の言葉を口にする玲那。いつものからかい上手でよくクスクスと笑っていた彼女とは思えない弱気な姿勢に、宗次は思わず腰かけていた椅子から立ち上がろうとする。


 「おいおいおい!なんか俺の前でそういう展開にするのやめてもらえる!?それにさらっと俺一人じゃダメって言われた気がして悲しいよ!?魔王、拗ねちゃうぞ!?」


 が、それは目の前に座っていた魔王の一声によって遮られる。そんな魔王は、そこら辺のモブキャラのような悲鳴をあげながら椅子をすりすりと玲那の方へと近づける。

 ちなみに、席の配置は、玲那と魔王が隣同士で宗次がその2人に向かい合っている形である。


 「魔王とか呼ばれてるからどんな奴かと思えばなんだよ、ただのかまってちゃんじゃねえか。」


 その魔王の動作に蔑みの視線を送る宗次。対して魔王はその発言に含まれる悪意が気に召さなかったのか、気味の悪いすりすり動作を中断して宗次を睨みつけた。


 「馴染みのない言葉だけどわかるぞ!俺に対する悪口だろそれ!」


 「そうだよ、年甲斐もなく若い女に付きまとう変態魔王だって言ってんだ。」


 「ああん????てめえ、魔王相手にいい度胸じゃねえか。何なら俺の力、たっぷりと思い知らせて・・・。」


 「はいはい、そこまで。年甲斐もなくみっともない喧嘩をしてるのは二人とも一緒です。少しは落ち着いてよ。」


 「・・・なんで俺まで。」


 「・・・魔王が説教されるなんて。」


 バチバチと散らされた火花を見かねた玲那が、机に乗り出しそうな勢いの魔王のマントを引っ張りながら、嘆息を交えながら戦闘終了の号令をかけた。

 号令を聞いた宗次は、ぶつぶつと文句を言いながらも蔑視を解除。未だ落ち着きのない魔王から話の焦点を再び玲那に変更した。


 「それでこれからどうするんだよ伊理夜。まさかあのめちゃくちゃ王の言いなりになるって言うんじゃないよな?」


 「・・・私がここに戻ってきたことがその問いへの答えって言ったらあなたは怒る?」


 「・・・正気か伊理夜!?じゃあ本当にあんな言葉を信じるってのか!?」


 問いへの答えを明言しなかったにも関わらず、その意図が読めてしまった宗次は思わず声を荒げる。


 「でも私たちも目の当たりにしちゃったじゃない。最初は私だって半信半疑だったけど、あんなの見せられちゃったら信じるしかないじゃない。」


 「でもだからってどうして俺たちが!・・・いや、どうしてお前がそこまでするんだよ!あの村の村長にも、俺たちは災いを引き起こす可能性を秘めた異分子だって散々罵られたじゃねえか!こんな国の、あんな王の言いなりになんかになる必要なんてねえだろ!」


 「確かにあの村長さんには思うところはあったわ。でもあの王様の言葉は、態度は、・・・気持ちは信じてあげるべきじゃないかな?」


 カルシウ村にかくまわれていた時に村長のギリアンテから受けた陰湿な言葉責めが脳裏をよぎり、顔をしかめる2人。それでも玲那は、その忌々しい記憶をかき消すように首を横に振って宗次に再び語り掛ける。

 その玲那の考えに納得がいかない様子の宗次。その考えを否定しようあの手この手で心変わりさせようと試みる。

 

 「それで・・・。お前は本当にいいのかよ!?せめて樹にもこのことを伝えた方が・・・。」


 だが、この一言だけは言ってはいけなかった。言った直後に宗次も自分の発言に後悔を浮かべたが、口から零れ落ちたその言葉はすでに玲那の耳にも届いてしまっていた。


 「それはダメだよ蒔田君。それは誰も幸せにならない。彼も、王様も、私も、・・・お姫様も。」


 「あ、いや、そのだな・・・。今のは冗談というか、ついカッとなって言っただけであって別に・・・」


 「樹君があの場から走り去った時、おのずと運命は決まっていたのかもしれないね。」


 「っ!んなことはないだろ!?それはただの決めつけだ!」


 「ううん、だってもう決めちゃったもの。―――もう彼には会わない。来るべき時が来るまでは・・・ね。」


 「な・・・。」


 「だって王様だって言っていたじゃない。これは樹君の為でもあるの。だからこれは必要なこと。私にしかできないことなの。・・・わかって、蒔田君。あなたの気持ちはすごく嬉しい。でもだからこそ、私はこの道を選ぶ。たとえ行く先が茨だろうと、この道を進んで私は前に進むわ。」


 唇を固く結んだ玲那の顔が、彼女が下したその決断の重さを物語っていた。向かい合う宗次は何一つ納得がいってない様子で、テーブルに跡が付きそうなほどの強さで両手の爪を食い込ませていた。


 相変わらず一人置いてきぼりの魔王は、それでも自分のマントを掴む玲那の手の力が強くなっているのを感じて、ただ黙ってその手を上から握った。


 「魔王さん、一つお願いがあるの。」


 「え、ここで俺にお願い?・・・いいとも!なんでも言うがいい。衣食住はとりあえず保証するぞ?」


 その握るというアクションへのクレームが来るのかと思い、彼女に優しい甘い言葉を囁きかけることで何とか免れようとする魔王。しかし、玲那の表情はそんな下心満載の魔王とは対照的に真剣そのものだ。



 「私に魔術を教えてください。できれば、闇魔法なんて呼ばれているものを。」


 そして、魔王の予想の範疇をはるかに超える角度からの言葉を浴びせかけた。 


            *     *     *


 「お疲れ様です、パパ!魔獣の襲撃はどうなりましたか!?」


 「なかなかに凄まじいものだったよあれは。あれがそう何度も起こったら、さすがに王都はもたないだろうね。」


 「そんなにすごいものだったんなら僕も見たかったです!」


 「何を馬鹿なことを。あんなものは興味半分で見るものなんかじゃないよ。大抵の人は震え上がる類のものさ。」


 「それでも見たい!いずれは僕もあいつらとやりあうことになるんでしょ!?」


 「いいや、お前にはそんなことをさせるつもりはないよ。そんな危険なことは・・・ね。」


 「でもでも!いずれは王国最強の魔術師になるんでしょ!?だったら・・・。」


 「王国最強の魔術師になったら魔獣の討伐なんて危険でもなんでもないんだよ、メイギス。もっとも、さっきも言ったようにお前に任せることはそんなことではないがね。」


 「・・・パパ。前々から思っていたけど、パパはこの魔術実験場で何の研究をしているの?」


 「おかしな質問をするものだね。その名の通りじゃないか。僕たちは常に新しい魔術の開発、それと魔術が我々に与える影響を調べている。それは一番近くで見てきたお前ならよくわかっている話だろう?」


 「それはわかっているけど・・・。なんでだろうね、最近僕たちのやっていることに少し鳥肌が立つような感覚があって。」


 「そりゃあ、この世界に住む人たちの誰も知らない知識を生み出しているのだからね。その偉業に震えるのもおかしなことではないよ?」


 「そういうもの・・・なのかな?」


 「ああ、そうさ。お前は何も心配しなくていいんだよ。・・・さあ、今日はもうお休み。」


 「・・・うん。そうする。おやすみなさい、パパ。」


 「ああ、よく眠りなさい、我が子よ。



 やれやれ、どこでそんな迷いが生じることがあるというのか。僕がやろうとしていることは、歴史に刻まれる大きな大きなものだというのに。―――僕は人の親としても不良品なのかもしれないね。」


 部屋に戻る我が子を見守るザイロンの顔には、血の通った人間とは思えないほど歪んだ笑みが浮かんでいた。

 


これにて2章完全に終結です。

まさか一年以上かけることになるとは微塵も思っていなかった・・・。

そしてこの先どんどん長くなることを想定すると、終わるのは俺が社会人になる頃なのでは(震)


そんなことはどうでもよくて、次回はキャラ紹介その2になります。今回増えたキャラもいるし、それなりにまた長くなりそうですね。

後、一つ知り合いの方にこの作品の絵を描いてもらったのでそれも次回載せたいと思います。


あ、3章は2章から少し時を進めるつもりでいるのでそんな感じでぜひお楽しみに。

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