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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
34/72

2-19 暗夜の葛藤

 今僕の隣に座っている、超絶イケメン王が治める王国、クランジア王国。この世界の名前をなんというかは知らないが、少なくともこの世界に人類が文化を形成し、町を立ち上げたことに成功したのは、ここクランジア王国のみらしい。

 でも誰かから、この世界にも昔はもっとたくさん国があったという話も聞いたような気がする。まあこれも曖昧な記憶なんだ、真実かどうかは定かじゃない。


 とにかく王様の話では現在、王国に向かって魔獣の群れが進軍中で、その進軍ルートもまたとても奇妙であるとか。


 「そもそも、魔獣なんていう自らの意思を持たない生物が、団体行動をして一か所を目指しているなんていう事態が異常だ。それにその魔獣の集団は王都の北と南で2つもあると来たもんだ。残念ながら、こんな状態だと真っ先にお前に王都全体から嫌疑がかけられても文句は言えねえんだよ。」


 「い、いや待て!!!知っての通り、俺は坊主の誘拐でそれどころじゃなかったことくらいお前にもわかるだろ!?」


 「そりゃあごもっともな言い訳なんだがよ。・・・でもこうも考えられねえか?お前はタツキを誘拐するために王都にやってきた。そしてそこで運よく、マイヤと本命であるタツキに会った。でも本来ならこんな玄関口で会えるなんて思わないはずだろ?なら、先に魔獣を王都にけしかけておいて、その間に自分は王都に潜入してタツキを探す作戦だった・・・。結果的に必要なくなったのに、魔獣にその命令の解除を伝え忘れてしまったせいで、今になって襲撃を開始した・・・。」


 「そ、そんなことあり得ない!!!仮にそんな計画を立てていたとしたら、わざわざ門でマイヤちゃんを呼ぶなんて真似はしていないだろう!?最初から問答無用で魔獣をぶつけて攫っていた!」


 「いやいや、そうはならんよレージ。だって、お前はタツキを知らないからな。王族や政に携わっている人間ならこの国に住む人間のことを知っているはずだと考えるなら、まずは襲わずにマイヤを呼び出してタツキの情報を得ようとするのは道理だからな。そしたらたまたま本人ご登場という偶然に恵まれた。」


 「いや残念ながら、それだと一つ問題があるだろうよ。その方法だと、マイヤちゃんを危険に晒す可能性がある。魔獣の襲撃なんてことをしたら、万が一にでもマイヤちゃんが怪我をする可能性があるだろ?俺はそんな危険性のある作戦はとらない。お前にならわかるはずだガルディン。」


 「・・・昨日までのお前なら信じてたかもわからんが、今日のお前はマイヤと魔法の応酬を繰り広げたって話があるからどうもその話は。」


 「マイヤちゃんには傷一つつけてねえ!!!むしろ今この状況こそマイヤちゃんが傷ついている可能性があるだろうが!!!」


 いまいちこの世界の事情に精通していないせいか、この2人のやり取りをうまく呑み込めない。が、少なくとも僕には一つだけ確信を持って言えることがある。


 「あの・・・。魔王さんはその事件には無関係だと思いますよ?」


 その一言で、白熱した口論を繰り広げていた両者が一斉にこちらに視線を向ける。


 「その、ですね。まず第一に、お姫様に傷はつけないとかって話は僕にもしてました。それに、婚約者だからという理由で僕にも傷をつけることはできないとも言っていましたしね。・・・まあ結果的に鳩尾は殴られるわ、記憶は吹っ飛ぶわで災難ですけど。」


 魔王さんは、再び気まずそうな顔で下を向いてだんまりの構え。王様は僕の考えを最後まで聞きたい様子で、僕に意見の続きを話すようにその先を促す構えだ。


 「それで、第二の意見ですが、これは魔獣についてあまりよく知らない僕の意見ですからデタラメかもしれませんけど。・・・一つ不審だと思う点がありまして。」


 不審という言葉に反応して、2人は増して強い集中力を僕に向ける。なかなか今までこんなに真剣な表情で僕の話を聞いてもらえるという状況がなかったからか、心なしか緊張するな。


 「まずその魔獣の進行状況ですが、王都の北と南からやってきたんですよね?」


 「ああ、見事に逆方向からの進行だ。意図的に戦力を分散させるための動きだとしか思えん。」


 僕の問いかけに対する返答が即座に返ってくるあたり、王様の集中力は極限にまで達していると言えよう。これはいよいよ下手なことが言えなくなってきたな。


 「それで、この家の方角は王都からどちらにあるんでしたっけ魔王さん?」


 「王都からは・・・。まあ西北西と言ったところか。まあほぼ西と言って間違いないな。」


 やはりか。気絶していたから、どちらの方向に飛んでいたのかあまり自信がなかったけど、何とか読みは当たっていたようで安心する。

 あの紐無しバンジーを皮切りに、何度も太陽の位置を確認していたから、太陽の動きとあの獅子魔獣の飛んでいる方向が同じだということにはなんとなく気が付いていたんだ。

 それに、その魔獣の進行がいつ始まったのかは知らないけど、少なくとも僕らは空中から魔獣の群れなんてものを観測した記憶はなかったから、北でも南でもないのではないかと思ったわけだ。


 「それで、何が言いたいんだタツキ?」


 「いや、仮に襲撃目的で魔獣を用意したと考えるなら、西からも魔獣を出せるのに出さない理由がわからないと思いましてね。」


 王様と魔王さんはお互い腕を組んで、今の僕の発言の吟味を始める。即座に反論が出てこないことから、多少は僕の言い分も通用していると見ていいだろう。


 「・・・ふうむ。続きを頼む。」


 「はい。確かに北と南から魔獣を出すということが意表を突くという利点があるのは、今の王様と魔王さんの会話からなんとなく理解しました。

 でも、だからと言って西からも魔獣を出さない理由がないんですよ。あ、そもそも魔獣を出す余裕がなければ論外ですけど、少なくともこの家の周りに魔獣がたくさんいるのは確認済みです。十分出せそうだと判断できます。」


 現に、王様がドアを蹴破ったせいで、外の魔獣のガヤガヤが家の中まで聞こえてくる。それにあの家に入る前に恐怖を植え付けてくれたあの黒馬がチラチラと僕の座っている位置から見える。とても怖い。


 「僕を誘拐した後、魔王さんが逃げる方向は西です。その西から魔獣を出せていれば、逃げる際に追手を阻む役割を持たせられます。それに、単純に数が多い方が時間稼ぎにもなりますからね。わざわざ違う方角から王都を攻める計画を立てるような人が、そこの一手を打たないのは正直謎です。

 ・・・何ならあえて西から魔獣を出さないことで、魔王さんにこの魔獣侵攻を知られないようにしてるなんて考えもできますよね?」

 

僕の足りない頭で考えた拙い考えの披露を終え改めて2人を見ると、なんとも意外そうな顔で目をパチクリとしている。これはどちらの反応だろうか。


 「あ、あのー。批評の方はどうでしょうか・・・?」


 「・・・いや、なんというか。お前がここまで真面目なことを話しているのは初めて見た気がしてな。」


 「どんだけあんたの中の僕の評価低かったんですかねえ!?」


 え、もしかして復活していない記憶の中でとんでもないことでもやらかしてんのか僕!?なんでこんな馬鹿キャラみたいな扱い受けてんの!?


 「さて、ガルディン。今の坊主の意見に対する反論を聞きたいところだな。」


 「ふうむ・・・。正直なところ、反論らしい反論は思いつかねえなあ。確かにある程度こいつはこの世界の常識に疎いところはあるが、それでも今の意見には頷けるポイントの方が圧倒的に多い。・・・まあこいつに免じてお前が犯人である説は取り下げてやろう!よかったなレージ!」


 「なんでそんな上から目線なんだよお前・・・。」


 はっはっは、こいつは一本取られた!と言わんばかりの笑みを浮かべて満足そうな王様と、不服そうながらもホッと一息ついた魔王さん。どうやら口論はこれで落ち着いてくれたらしい。これでさっき記憶喪失を暴露して、火に油を注いだ行為の罪を帳消しにしてほしいものだ。


 「それでだが、レージ。これがお前の仕業じゃないと決めつけた以上、次の問題があるんだよ。わかるな?」


 「・・・そうだな。この事態の原因を解明しないといけない。でも残念ながら、現時点では推論が何も立てられそうにない。実際にこの目で現場を見ない限りは何も言えないからな。」


 腕を組んで悩み始める魔王さん。確かに魔王さんの身の潔白を証明するようなことをしてはみたが、だとするとこの事態に他の理由を探さないといけないわけで。

 そしてそこばっかりは、本当にこの世界について知らない僕にとってはお手上げな部分なわけで。


            *     *     *


 「詳細を教えてくれガルディン。その魔獣の進行に対してどんな対処をしてあるんだ?」


 「対処も何も、戦える人材を2分割してそれぞれに充てるしか方法がないからな。北には村の魔獣討伐隊を、南にはナユリア家を総動員してある。援軍に向かうとしたらレージが南で俺が北だと思うんだが、」


 「いや悪いが俺とお前の別行動は勘弁願いたい。自業自得ではあるが、こんなことをして生きている身分である以上、俺一人で行動すると逆に黒幕が出てきたと勘違いされかねないからな。」


 「まあ、そこは本当に自業自得だな。ということなので、頑張って説得したうえで、戦闘に参加したまえ!はっはっはっはっは!!!」


 「あんた本当血も涙もないなあ!?」


 魔王さんへの非情な宣告に、思わず横から庇うようなツッコミを入れてしまう。なぜか知らないが、魔王さんと王様のやり取りを見ていると、どうしても魔王さんに味方してしまいたくなってしまいたくなる症候群的なものに感染してしまったようで、つい助け舟を出したくなってしまう。同族意識でも持ってしまうのだろうか。・・・いや、この人と同族というのもなんかそれはそれであまり嬉しくないな。


 「まあ冗談はさておき、戦力は均等に割り振ったつもりだ。どちらも助けなんて出さなくても問題はないと思って、ああしてお前の家でくつろいでたわけなんだが。」


 「人の家のドアを蹴破っておいてなんちゅう発言をしやがるんだてめえは。」


 ようやくそこにツッコんだか、とつい内心ツッコミを入れてしまう。


 とまあそんなことは置いといて、今はさっきまでのあのでかい飛ぶ魔獣のヴァーグに乗って今度は3人でさっき通った道を逆走中だ。目的はもちろん王都へ進撃中の魔獣の撃退である。

 さっきまでとは違い、今はすっかり日が落ちてしまっているため、真っ暗闇の中を飛行しているわけなのだが、魔獣はどうやら夜でも昼同様に目がきくらしいので迷子になる心配はない。ただ乗っている身としては、ただひたすら暗い夜道を飛んでいるだけというのはつまらないが。


 聞いた話によると、魔獣の侵攻というのは実は今回が初めてではないらしく、そのおかげで素早い対処が実現しているらしい。ちなみに今回こそ例外らしいが、今までの侵攻は全て魔王さんによるもので、大抵の目的が、


 「わざわざ魔獣を使ってまでしてそのお姫様の様子を知りたいだなんて、なんだかキモイですよね。」


 「キモイとか言うなよ!?さすがに魔王なんて立場になっちまった以上、普通にマイヤちゃんに会いに行くなんてできないんだよ!」


 「とまあこんな感じで、自分からマイヤに嫌われていくスタイルを貫いているのがこいつの可哀想な所なんだよ。いやあまったく、哀れすぎて涙が出るわー。」


 魔獣の侵攻に動揺して、町の外に出てくるお姫様を一目見るためとかいう、思わずちょっと引いてしまうような理由だったため、さすがに擁護できなかった。

 そういえば、なんかお姫様を攫うために魔王さんはいつも王都まで来ているなんてことを誰かが言っていたような・・・。相変わらず靄がかかっていてはっきりと思い出せないのが気持ち悪い。


 「とりあえずタツキはマイヤに会いに行け。お前の記憶を取り戻すためにも、そしてあいつの精神状態を回復させてやるためにもな。」


 「いいか坊主?絶対に記憶を取り戻すんだぞ!?万が一取り戻せなかったとしても、絶対にバレるんじゃないぞ!?わかってるよな!?」


 「わ、わかってますって!!!てかあんたにそこまで強く言われたくないんですけどね!」


 反省をたっぷりしているとはいえ、加害者側からそこまで強く念を押されると、さすがに少しイラっとしてしまうなあおい。


 「それでタツキを送り届けた後は、俺たちは南側に加勢。ザイロンと三人がかりで一気に南側のケリをつける。」


 「久々に俺たち3人の共同戦線か。なんか昔を思い出すねえ。」


 「今回は、いつも留守を守ってくれていたシャミノとその娘まで一緒だ。激熱胸熱の5人戦線だぞ!」


 「へえ、シャミノも前線出てんのかよ!おまけにいつものマイヤちゃんの護衛の娘っ子までいんのか!確かにこれは少し気分が高揚するな!」


 「はっはっはっはっは!!!今回は魔獣が相手なんだ!みんなリミッター解除して好き放題やってるだろうさ!」


 あわや国の危機だというのに、全く王様からは緊張感を感じない。よほど彼の部下たちを信頼しているのだろう。

 それどころか、魔王さんが一緒に戦ってくれることをとても喜んでいるように見える。魔王さんもそれをかねてから望んでいたかのような嬉しそうな表情だ。


 ・・・魔王さんが魔王なんて呼ばれるようになった理由は一体何なのだろうか。これまた出処不明の情報だが、魔王さんは昔は王様たちと一緒に鍛錬をした仲だったなんていう話を聞いたことがあるような気がする。 

 魔獣をわざわざけしかけたりしないと、お姫様の顔すら見れないような立場にまでなってしまったのは一体どんな背景があるのだろうか。


 ・・・それを今聞くのは、きっと空気が読めない人間がすることだろうな。


 「ところで、この魔獣もうちょっとスピード出せねえのか!?こんなスピードじゃ日が暮れちまうじゃねえか!!!」


 「グルルルルゥアアアアアアア!!!!!」


 「てめえ、ヴァーグの背中で暴れんじゃねえ!!!こいつも今日はずっと飛びっぱなしで疲れてんだ・・・っておい、背中をビシバシ叩くのをやめろおおおおおお!!!」


 「・・・あんたら、少しは落ち着いたらどうなんですか。」


 やっぱり、少しは緊張感を持ってもらった方がいい気がするのは僕だけだろうか。飛行が不安定になる魔獣の背中で一人そんなことを思うのだった。


            *     *     *


 今日一日でどれだけ魔獣飛行を楽しんだことだろうか。実はこの飛行、セーフティーネット的なものがないから動き回るのがちょっと怖い。というか実際一回落ちてるわけだし。さっきはつまらないなんて言ったが、今思うと下の景色が見えないのはむしろラッキーだ。

 とはいえ、こんな状態をもう合計4時間ほど過ごしているんだ。いくらぶっ通しではないとはいえ、さすがに少し体がなまるというものだ。・・・過去にタイムマシン研究をしていた時は、研究所から全く出ずに一日過ごしたこともあったと言えばあったのだが。

 

 魔王さんは相変わらず魔獣の世話で忙しそうにしており、その後ろで王様がマシンガントークを繰り広げているのを適当に相槌を打ってやり過ごしている。いや、やり過ごすというよりはこの2人なりのコミュニケーションの形という感じだろうか。


 そして彼らがそうしている間に、僕はずっとある考え事をしていた。

 マイヤ姫と玲那のことだ。


 「いきなり結婚なんて言われてもなあ・・・。」


 率直な感想が思わず口からこぼれる。・・・なんかこの台詞、まるでつい最近発したかのような感覚があるな。心なしかすごく言いなれている感がするなあ?


 「別に今すぐ結婚しなくたっていいんだぞ?」


 「うわあ!!!!急に後ろから話しかけないでくださいよ!?驚きすぎて落ちるかと思ったわ!」


 慌てて背後を見ると、そこにはにやけ顔のイケメンフェイス。ダブルミーニングになってるな。

 もう少し後ろに目をやると、ちゃんと魔王さんまで顔だけしっかりとこちらを見ていた。


 「そうだよガルディン!俺にもちゃんと説明してくれよ!一体どういう経緯でマイヤちゃんが結婚を決意したってんだよ?」


 「あーその話?まだ婚約も何もしてないぞこいつら。あ、いや俺の知らない間にしてたんだったらそれはそういうことだろうけどよ。」


 「へ?」

 「は?」


 え、婚約していない・・・?????????

 

 してないのおおおおおおおおおお!!!!!????


 「え、でもなんかめっちゃしてるみたいな雰囲気流れてたじゃないですか!?」


 「いや、なんかお前らの中でそんな話になってたから、てっきりそういうことなのかなーって。」


 「いや俺は確かに聞いたぞ!?マイヤちゃんが、将来を約束した仲だ!って宣言してたし。それに、坊主を攫った時のあのマイヤちゃんの表情は、どう見たって恋人を奪われて怒り狂ってる彼女にしか見えなかったんだが!?」

 

 「あのマイヤがそんな顔したってか?へえ、なかなかに愛されてんじゃねえかタツキ。良かったなおい。」


 「は、はあ。なんかもう訳わからなくなってきましたよ・・・。」


 この2人の会話を聞いても、いまいちよくわからないなあ。それとも、やっぱり僕とそのお姫様の2人だけの秘密とかだったりするのだろうか。 


 記憶が戻ればはっきりするのだろうか。記憶が戻ればちゃんとお姫様とのその約束も思い出せるのだろうか。僕がお姫様との結婚を決めた理由をちゃんと思い出すことができるのだろうか。

 正直なところ少し僕は怖いのだ。玲那がこの世界にやってきたことを知ってもなお、僕の心にお姫様との結婚を望む気持ちが残るのかどうかということに。

 結婚を決めた動機が思い出せない以上、この悩みもまた無駄なことは重々承知はしているのだが、それでもこれから会いに行く女性に対する心の不安というものは拭えそうにない。


 「でも、坊主はレナちゃんに会うためにわざわざこの世界まで来たんだろ?それがマイヤちゃんと結婚って改めて聞くと、お前の心情の変化ってやつが俺は気になるな。」


 と今不安に思っていたことを堂々と口にする魔王さん。それがわかっていればこんなに悩むことなんてないんだよ!


 「記憶がない状態の僕に言われても何とも答えかねますね。・・・記憶が戻る前の僕は一体どんな気持ちでお姫様と・・・」


 「まずその『お姫様』っていうのから気持ち悪いな。その『お』ってやつがよ」


 「姫様・・・。確かにこっちの方がなんかしっくりする感じがしますね。」


 このしっくりくるこないという感覚がある以上、僕と姫様の関係がそれなりに長いことを表しているのだろう。

 あとは、その長い関係が戻れば言うことなしなんだが・・・。


            *     *     *


 「・・・あと2界ほどすれば町が見えてくる頃合いだ。ガルディンは先に降りてザイロンの援護、俺は坊主を連れてマイヤちゃんに会いに行けばいい、それで間違いないな?」


 「お、なんだ。だいぶやる気になってきたじゃねえかお前。そんなに俺らと一緒に戦えるのが嬉しいのか?ほう、そうかそうか。苦しゅうないぞ!?はっはっはっはっは!!!」


 「俺の返事を少しは待ったらどうなんだ!?・・・魔獣が騒動を起こして問題になっている以上、俺も他人事ではいられない気がしてな。原因をなんとしても突き止めてやるさ。」


 いつも以上に険しい顔でそう覚悟を口にする魔王さん。魔獣関連となると、魔獣マスターとしての彼の血が騒ぐとかそういった理由なのだろうか。


 「・・・それにお前の顔や態度を見ていると、どうもただ事ではない気がするんだよ。」


 魔王さんのその言葉に、思わずいつものあの剛毅な王様の態度が崩れた。硬直は一瞬で、すぐにいつもの反応を返そうとしているのがわかるが、その表情の変化を一部始終目撃してしまった僕にとっては、魔王さんの言うことが図星だったようにしか見えない。


 「ほう、なんだてめえ。俺ら精鋭部隊がたかが魔獣ごときに遅れをとるって言いてえのか?仮にあいつらが苦戦してたとしても、俺が合流すれば全部済む話だ。それともなんだ?俺の腕が鈍ってるとでも言いてえのか?」


 「いや、お前とその宝器があれば殲滅くらいわけないとは思っている。だからこそ、時々チラチラと見え隠れしているお前のその「後悔」だの「懺悔」とかいう感情の理由が知りたくてな。」


 今度こそ完全に王様の表情が硬直したのがはっきりと見て取れた。正直なところ、今までの王様の態度のどこをどう見たらそんな感想を抱けるのかさっぱりなのだが。


 「・・・お前のそういうところマジで大っ嫌いだわ。やっぱ一生山奥暮らし決定な!!!」


 「言われなくてもこれが終わったら帰ってやるさ。」


 バツが悪そうに魔王さんを睨みつける王様と、それを涼し気な顔で受け流す魔王さん。かつて、2人が王宮で切磋琢磨していた日々の1ページを垣間見れた気がして、妙な特別感を感じてしまった自分がいる。

 

 魔王さんの過去に一体何があったのか。そんなことすら気になってしまうほどに。


 「ガルルルルルルル!!!」


 そんな1コマをぶち壊すように、魔獣ヴァーグは咆哮を轟かせる。


 「ん?ついに魔獣を観測し・・・。・・・おい、ガルディン。こいつは結構やばい状況じゃねえのか?」


 「・・・ちょっと悪いが先に行かせてもらうわ。レージはこいつをマイヤのところに連れていったら、そのまま全員連れて北の戦線の確認に向かえ!!!」


 「え、ちょっと王様!?」


 そう言い残すと王様は、懐から剣の柄ようなものを取り出して、そのまま魔獣ヴァーグの背中から飛び立っていった。 


 「一体何をそんなに慌て・・・。な、なんだよ・・・あれ。」


 2人に遅れて、王様が飛び立っていった方向へと目をやると、無数の赤く小さな光が見えた。感覚としては、夜に高いところから下を見下ろすと見える車の光のようなものだが、その光の数が尋常じゃない。


 「俺の想像の範疇を軽々と超える大群だ・・・。それに後ろの方に中型と大型の姿まであるだと・・・?」


 そしてようやく僕も気づいた。その赤い光の正体が魔獣一匹一匹が放つ眼光だということに。そして、僕一人だけが魔獣の認識に遅れたのは、決して視力に圧倒的な差があったからではなく、魔獣の身体の色が黒や赤褐色であるという前提知識に欠けていたからであったということに。


 そして、王都に近づくにつれて光を浴びていくことで、その魔獣の全貌が明らかになった。

 狼やら猪やらヤギやらバッファローといった四足動物たちが、遠目から見ても伝わる獰猛さを纏って大量に王都へ向かって突撃しているのだ。

 そしてその後ろには巨大な虎やゴリラといった強靭さを備えた、魔王さんが言うところの中型魔獣。そしてさらに後方には、


 「あんなのが攻めてきたら一たまりもないんじゃ・・・。」


 エジプトのスフィンクスを想像させるような巨大なシルエット。その尻尾の一振りで門を破壊しかねない大きさを伴ったその魔獣は、明らかに血に飢えた魔物そのものを表している黒と赤を基調とした色に身体を染めており、全身から毒々しさを放っている。


 「あの後ろのそこそこのサイズのあいつらはともかく、小さいのが物量で攻めてくるのは何も問題はないはずだ。」


 「いやいくら何でもあんな平地を埋め尽くす魔獣の量は辛くないですか!?」


 僕の不安満載で落ち着かない態度に対し、魔王さんは驚いたのも最初の間だけでその後は何も問題はないと言わんばかりの余裕さを見せている。


 「普段なら、あの魔獣を従えているのは俺なんだ。だったらその魔獣をいつも撃退している王宮の戦士たちがあんな雑魚どもに後れを取るとは思えない。・・・不安ならまあ見てろって。」


 そう言うと魔王さんは、門の近くに佇む3人の人影を指さした。そしてその3人とはどうやら深い面識があったようで、


 「っっっっっっっ!!!!・・・またこの感じか!!!???」


 僕の記憶の引き出しが勝手に音を立てて、唐突に膨大な情報量を頭に押しこんできた。この記憶が戻った時のスッキリ感を人生でこう何度も経験する人間なんてそうはいないだろう。この瞬間はそれなりに気持ちのいいものではあるが、それまでの時間がとても苦しく、窮屈で、精神的に心や頭が締め付けられているような錯覚に陥る。


 「あ、あれは・・・。ザイロンさん、シャミノさん、それにお嬢か・・・?」


 「・・・!?そうか!ナユリア家のことまでも忘れていたのか。」


 戻った記憶の整合性を魔王さんが保証してくれたことで、ひとまずは安心だ。


 そしてようやく、魔王さんが見せていた謎の余裕の理由が明らかになった。


 

 3人の謎の詠唱(上空から眺めているだけだから何を言っているのかがわからない)のようなものが終わるのと同時に、大地を埋め尽くしていた有象無象の魔獣たちが、悲鳴のような雄たけびを次々と上げる。その光景は、あんな魔獣が大地を埋め尽くしている絵面なんて比べ物にならない程、非現実的なものだった。



 右側には、触れたもの全てを巻き込んで切り刻む巨大な真空波でできた竜巻。その周囲にも風の刃が次々と降り注がれており、辺り一面を斬撃の雨で覆っている。


 左側には、巨大な氷塊が形成されており、上空に生み出されたそれが地上を押しつぶし、その足元までを氷の世界へと変容させている。


 そして中央では、炎が大地を駆け巡り、その炎の軌跡を辿るように巨大なマグマが地下から大地を破って噴出している。そしてマグマの海に染まった大地に再びザイロンさんが手を振り下ろすと、その海の中心地へと小さな太陽のものが投下され、そこから触れたもの全てを破壊するような爆発が何度も繰り返された。

 


 そんな現実とは思えない現実を前に、僕の身体は無意識のうちに小刻みに揺れ始めていた。

 

 「こ、これが本当にこれが人間がなせる業なのか・・・?」


 そのあまりに凄絶な光景に僕が抱いた感情は、その超常現象をいとも簡単に起こしてしまうことへの羨望ではなかった。

 それは羨むどころか一種の恐怖と言えるようなものだろう。


 「な、言ったろ。あいつらに魔力を放出させる時間を与えた時点で魔獣側の敗北だ。ま、後ろに控える中大型軍団にまでは範囲が届いてないけど、そこはあの無鉄砲キングが片付けるんだろうさ。」


 「・・・そうだ!王様は!?」


 魔王さんの一言で我に返った僕は、暗闇に消えた王様を探そうと闇雲に目を走らせようとしたが、その動作は、


 「―――――――――――――――――!!!!!!!!」


 突如、超常現象の奥で発生したとんでもない爆発音と、一瞬だけ形成された白い世界によって止められた。

 あれは間違いなく、


 「か、雷・・・!?でもこんなの、自然発生するものとは明らかに規模が違う!」


 まるで天から大きな光の柱が降ってきたかのように見えたその一撃は、中型魔獣が何匹か編成されていた領域にどでかい風穴をこじ開け、そのあたり一面を電気による二次災害が容赦なく襲っていた。



 魔術なんてものが存在する世界というのをどうやら僕は甘く見ていたらしい。使えたらかっこいいとか、厨二心くすぐるとか、色々な憧れを持っていたはずなのに。

 いざ目の前で、あんなド派手なものに巻き込まれて命を落としていく生命を見ると、湧きあがってくる感情は畏怖しかないのだということに僕は気づいてしまった。


 「坊主。ぶるってる暇なんかねえぞ?もうじきマイヤちゃんに会うんだ。そんな青ざめた顔で再会なんてしようもんなら、また俺がなんかやったんじゃないかって疑われるだろうがよ。ほら、シャキッとしろ!」


 「痛い痛い!!わかってますって!今は目の前のことに集中しますよ!」


 僕の気持ちを察して僕の背中を強く二度叩いて喝を入れてくれた魔王さんの粋な計らいに感謝して、今目の前で起きた惨劇を忘れることにした。


 未だに完全に戻ってきていない記憶に、この世界になぜか来てしまったらしい玲那。今僕が考えないといけないことは、山ほどあるんだ。魔術がもたらす恐怖なんてものにまで思考を割いている余裕なんてどこにもないっての。


 「しっかし、おかしいなあ。あいつの話だとマイヤちゃんはこのあたりで戦況を確認しているはずだって聞いてたんだけど。おい、ヴァーグ!マイヤちゃんの気配を探れねえか!?」


 命令を受け魔獣ヴァーグは軽く頷き、辺りの警戒を始めた。なんやかんやで主に忠実なこの魔獣は、やはりさっき散々見たあの魔獣と比べると、知能レベルが桁違いなのだろう。忠犬ならぬ忠獣だ。


 しばらくして、忠獣ヴァグ公は急に旋回して北の方角へと進路を変更した。


 「南からの大規模な魔力と、周囲にたくさん寄ってきている魔獣の群れ、それに夜で辺りが暗いせいで察知しづれえけど、北の方から微かに今日の昼頃に感じた魔力を拾ったらしい!マイヤちゃんは北の戦線の方に向かったのかもしれん!」


 「え、姫様まで戦闘に参加してるってことですか!?」


 「どういう意図かは知らねえけど、どちみちガルディンからも北の援護を任されてんだ。俺たちも行くぞ!」


 「は、はい!」


            *     *     *


 王都から北にはずれた場所にカルシウ村とかいう、わけわからないネーミングの村があるという話を確かお嬢がしていた気がする。そしてその村には魔獣戦線と呼ばれる、魔獣狩りのプロフェッショナルの集まりがいるという話も。


 そして魔王家からここに来るまでの間で聞いた追加情報として、その場所には村という名前がついていながら、住んでいるのは少数の人間で、その魔獣戦線というのも4人の若武者しかいないとのこと。

 単純な人数差で言うと、南側には3人で北側には4人。だから先に南の方を片付けて、後で北の方へ全員で向かうという作戦だったはずなんだけど。


 「物量攻めで来られると、むしろこっちの方が押される可能性があってな。ナユリア勢と違ってこっちは大魔術をド派手にぶっ放すとかいうタイプじゃねえんだよ。

 それに気づいたマイヤちゃんが援護に向かったって可能性は十分にあり得るんだが、それだけの理由で自分の持ち場を離れるとも思えん。何か良くないことが起こってるんじゃねえかこりゃ。」


 南の戦場から離れたことで灯りが消え、再び暗く染まった夜空をヴァグ公が舞う。


 喝を入れられたことでとりあえずは平静を保つことに成功している僕は、姫様がいないことで緊張感が走っているという状況にあるにも関わらず、来るべき姫様との再会のことばかり考えてしまっているのだった。


 そんな無防備な状態でいたときだった。


 「―――――!おい坊主!踏ん張れ!!!」


 「・・・え!?」


 叫び声につられて正面を見ると、夜空を照らす大きな火球がこちらへかなりの速度で接近してきていた。


 「ヴァーグ!!!防げ!!!」


 掛け声で翼に緑色の光を纏い始めたヴァグ公は、その翼を全力で正面の火球へ向けて仰ぐ。


 すると、そこから放たれた二本の巨大な風の刃が、衝突間近にまで迫っていた火球を霧散させた。


 「ガウ!!!グラァ!!!」


 「よし、上出来だ!このまま降りるぞ坊主!」


 「は、はい!!!」


 何が起こったのか理解するのに遅れた僕は、言われるがままに着陸の体勢を整えるしかなかった。


 「さて、いよいよご対面だ。回復する記憶に意識持ってかれないように気張れよ!?」


 「え、でもまだ地面が全然見え・・・。」


 「ヴァーグに乗ってたらさっきみたいに敵だと思われて攻撃されかねねえんだよ。だからほら、俺の手をしっかり掴んでろ!」


 ん、まさかこれってまた・・・?


 「ひ、紐無しバンジーーーーーーーーーーーー!!!!!?????」


 と叫んだのが最後。僕はそのあまりの高さからの落下の途中で、その薄っすら村の灯りで見えていた周囲さえも何も見えなくなってしまった。


            *     *     *


 「樹!おい、しっかりしろ!」


 「勇者様!?ああ、よかった!!!本当にタツキ様なのですね!?」


 吹っ飛びかけていた意識は、どうやら僕を気遣ってくれる声のおかげで一応覚醒してくれたみたいだ。

 臓器がひっくり返るようなあの気持ち悪い感覚がないということは、紐無しバンジーは一応うまくいったらしい。もっとも、うまくいってなかったらここは黄泉の世界ということになるのだが。


 ぼやけていた視界が徐々に鮮明となっていくのを感じた僕は、すでに今日で何回目になるのかわからない状況整理の時間へと突入する。

 周りを見渡すと、灯りに照らされた農村の風景。家やこの整えられたスペースを見る限り、ここはカルシウ村で間違いなさそうだ。


 だけど、そののどかな雰囲気とは対照的に、耳に入ってくるのは魔獣たちの遠吠えや悲鳴という、なんとも風情のない耳障りな音ばかり。でもすぐ真横の方から聞き馴染みのある男の声、そして頭上の方から耳馴染みがあるような女の声が聞こえる。でも実際に感じる人の気配は3人だ。別の真横にもう一人誰かいるみたいだな。


 「おい、気がついたなら返事をしろ樹!」


 「・・・ん?」


 僕の名前を呼ぶ声で、やっと声を発するという行為を今の今まで忘れていたことに気が付いた。

 そして、気が付いたのも束の間。突然赤い髪が視界に映ったと思えば、そのまま僕は謎の柔らかい感触に身を包まれた。


 「ああ、無事でよかった!!!本当に良かった!!!あなたを目の前で連れ去られてしまった時はもうどうしようかと!!!本当に・・・本当に・・・!!!」


 僕に覆いかぶさって涙声で無事を喜んでくれているのはとんでもなく綺麗な女性だった。僕をこれほど強く心配してくれるなんて、一体この人と僕はどういう関係だったのだろうか・・・?


 「勇者様!!!私がついていながら本当に申し訳ありませんでした!でもこうして、無事でいてくださっただけで私は・・・!私は・・・!」


 「ゆ、勇者様・・・?」


 勇者様・・・。なんかどっかで何度も聞いたような台詞だな・・・?それにこの声もどこかで聞いたような・・・?クソ、なんなんだ!?強く頭が締め付けられるだけで、何も浮かんでこない・・・!!!


 「あ、す、すいません!私ったら思わず勇者様を苦しめてしまいましたわ。さあ、起き上がれますか?」


 急に顔を赤面させた超絶美女は、慌てて僕から離れた。


 「え、ええ・・・。」


 この何もはっきりとしない気持ち悪さを胸に抱えたまま、僕はその言葉に促されるように両足で地に着く。

 改めて周りを見渡すと、ただ草原の中に人間の文明を築き上げただけという感じがしてならない場所だな。


 そして見渡す過程で、隣からの声の主と視線が合った。


 「気分は平気か樹?あの、魔王とかいうやつにおぶられて来たときはすげえ吐き気を催したような顔してたけど。」


 「そ、宗次!?お前なんでここに!?」


 中学時代からの腐れ縁、蒔田宗次がそこに立っていた。


 「なんでも何も、これだけ大量に魔獣が襲ってきたからよ。ナユリア家は全員出張って行ったから、お前に代わってお姫さんの護衛をしてたんだぞ?」


 「お姫さん・・・?」


 そういえば、魔王さんが散々言っていた姫様というのはどこだ?その人に会って、僕は記憶を取り戻さないと!


 そういえばもう一人、僕の近くに誰かがいたはずだ。僕の背後から気配を感じるその人へと視線を向ける。




 「・・・樹君?」


  

 

 するとそこに立っていたのは、僕が知っている頃とは違う、だけど本能的に確信している。

 

 

 「・・・玲那。」



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