表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
31/72

2-16 再来

 時刻はR105界を回ったくらいか。本来の予定であれば、すでに4時間ほどデートを楽しみ、現在は団欒の昼ご飯タイムだったのだろうか。

 

 前もって宣言しておく。僕は今とても不機嫌である。理由は・・・全く今日という日が僕の予定通りに進まないからとでも言っておこうか。いやまあ僕の人生において、予定通りに物事が運ばないのはむしろ平常運転といえるんだけどね。それが、だいたい僕の考えが甘いからというのが原因だからあまり文句は言えないんだけど、今回ばかりは色々と不幸が重なったが故の結果だと言える。だから文句を言わせてほしい。


 姫様に僕の本心がばれてしまったのは、若干僕の不注意のせいではあるのかもしれない。でもさすがに、姫様が王様の部屋に隠れている可能性を考慮して発言をしろというのは、さすがにエスパーでも備わっていないと無理じゃありませんかねえ?いくら何でも、デート直前で興奮している僕にそれを要求するのはおかしいでしょうよ?たとえ僕じゃなくても、好きな人とデートする前の日くらいは興奮するでしょうよ。よってこれは不可抗力だ。したがって、僕には文句を言う権利がある。・・・はず。


 でも結局、おかげで人生初の告白というステップへと踏み出すことができたのは大きな収穫であったと言えるだろう。告白しただけで答えはまだもらってないし、なんで本当は好きだったのにナユリア家では結婚しないという嘘をついたのかの釈明もしていないから、まだ何も解決はしていないんだけど。でも少なくとも、今の時点では告白したことを後悔はしていない。だからまあこのことについての言及はこの辺にしておく。


 ではなぜそんなにも不機嫌なのか。それは、


 「フハハハハ!!!我がラブリープリンセスよ待ちわびたぞ!!!我になかなか会えなくて泣きわめいている頃ではないかと思って会いに来てやったぞ!!!」


 いつぞやの中二病金づるヘボ野郎が、突然街を襲ってきたからである。


                  ~約15界前~


 「い、一大事でございます!!!!!」


 大きな叫び声が王宮の外にこだまする。そしてそれはテラスで穏やかな時間を過ごしていた僕と姫様の注意を引くには十分すぎる声量だった。


 「何事ですか!?」 

 

 「ああ、お姫様!至急ガルディン様へとお取次ぎ願えませんか!?」


 兵士はよほど慌てているのか、この時間帯は王様が勤務中で王宮を空けているという、この国の兵士なら誰でも知っているはずの情報を考慮に入れずに、王宮まで走ってきたとみえる。


 「落ち着いてください、ここにお父様はおられませんわ!何か火急の用でしたら私やセイラス様に報告をお願いします!」


 「そ、それが、魔王が再びこの街へ襲撃にやってきたんです!なんでも、今回は姫様に会うのが目的のようで、プリンセスを我の下へ連れて来いと門の外で叫んでいます!」


 う、うわあ・・・。そういえばいたなあ、変な魔王とか呼ばれてるガキのようなおっさんが・・・。


 「レージ様が私を?いったいどういったご用件なのでしょうか。」


 「どちらにせよ面倒なことになりそうじゃないですか?無視した方が身のためじゃないです?」


 「無視なんてできません!もし無視なんてしてしまったら、この街がどうなってしまうことか!」


 いや、あの人が街を襲うとはとても考えずらいのだが。


 「過去にレージ様を怒らせたときには、実際に門付近にあった街が吹き飛ばされたことだってあるんですよ!?要求を無視してあの方を怒らせてしまったら今度はどんなことが起きてしまうか・・・。」


 「街が吹き飛んだ!?」


 「はい、あれはまだ魔王という名を名乗り始めた頃でしたが、あの頃のレージ様はその名の通り、魔王のような所業を繰り返していました。今のようなどこか飄々とした雰囲気ではなく、まさに闇に堕ちたという表現がふさわしいようなオーラを纏っておいででした。」


 なんか前に会った時の雰囲気のイメージがあってどうも信じがたいんだよなあ。まだあの人のことをよく理解できてはいないけど、どうやら放置しておくまずそうな人間であることは確からしい。


 「勇者様、私はレージ様に会ってまいります。本っっっ当に申し訳ありませんがデートはまた落ち着いたらということにしていただけますか!?」


 「え!?あ・・・。はい・・・。そうですよね・・・。こんなことが起きたらそんな浮かれたこと言ってられないですよね・・・。」


 な、なんてことだ・・・。ショックすぎて声が出ない・・・。せっかくデートには行けると思ってたのに・・・。遅くなったけど、ようやく2人の楽しい時間がやってくると思っていたのに・・・。


 「兵士さん!魔王様は今どちらに!?」


 「今は西門の外で中型の魔獣を3匹引き連れて待機しております!」


 「わかりました!すぐに向かいます!」


 魔王の居場所を把握した姫様は、思わず膝を床につけそうな勢いで意気消沈している僕には目もくれずに、二階へと続く階段へ向かって一目散に走り始めた。っておい、ちょっと待て!


 「いや待ってください姫様!あなたがターゲットだってわかっていますか!?そんな危ない人かもしれないって聞かされた以上、尚更魔王の下へ行かすわけにはいかないでしょ!」


 「でも、私が行かないといけないんです!今この国を護るためには、私が行かないといけないんです!」


 「じゃあそのあなたをいったい誰が護るんですか!?この状態で姫様一人が突撃したって、飛んで火にいる夏の虫ですよ!」


 「・・・?とにかく私は行きます!止めないでください勇者様!」


 頭にはてなマークを浮かべた顔をしていたが、結局姫様の足は止まろうとはしなかった。ああもう!自分のことには本当無関心だなあ!


 「姫様!!!ならせめて僕も連れていってくださいよ!!!」


 「え!?いえ、それは危険です!前回は魔獣もいなかったし、サラもいたからよかったけど、今回は訳が違います!それに、万が一お父様が帰ってきたときの為にも残ってもらえると・・・。」


 ・・・はあ?この期に及んで危険ですだあ!?


 「いや、このまま姫様を一人で行かせるほうがよっぽど危険ですって!姫様一人だと魔王の口車に乗せられるかもしれませんし!」


 「それはそうですが、万が一魔術戦になってしまったときに勇者様のことを護りきれる自信が私にはありません。わかってください!命が危ないんですよ!?」


 姫様にしては珍しく聞き分け悪く、しつこく僕に遠慮するように強要してきている。きっとそれは姫様なりの優しさなんだろう。だけどそんな優しさは、今の僕にとってはただ逆鱗に触れようとしているようにしか受け取れない。デートを邪魔されたという怒りと相まって、僕の心の怒りが沸々と煮えたぎってきている。


 「・・・なんだよ。」


 握りしめていた両拳がキリキリと音を立てているのがわかる。強く拳を握りすぎて爪が肉に食い込んできているが、そんな痛みを感じる余裕なんてまるでない。ああ、肩が小刻みに震えているのを感じる。・・・間違いない。僕は確実に今、キレている。


 「・・・なんなんだよあんた。」


 姫様には聞こえないくらいの小声で恨み言をこぼす。・・・いや、どうやら聞こえてしまったようだ。魔王の下へと急ごうとソワソワしていた姫様の足が静止したのだから。


 「え・・・?今なんと・・・?」


 「僕のことを勇者様だなんて呼ぶくせに、あんたは僕のことなんかお荷物程度にしか思ってなかったってか。」


 「え、何を言って・・・」


 「勇者だの護衛だの好き勝手呼んでおいて、いざ事件が起きたら安全なところに避難させて、黙って無事を祈ってろってか。どうせ戦えもしない護衛なんて使えないから後ろにすっこんでろってか。」


 「そ、そんなこと思っていません。私はただ・・・」


 うん、知っている。決してそんな風に思っていないだろうということくらいは、他人の気持ちをよく理解できない僕にだってわかる。でも、そういうことじゃない。要は、傷つけられてしまったんだ。自分が護りたい、カッコつけたいと思っている相手から、危ないからついてくるなと言われてしまったら、もう僕のプライドなんかズタズタだ。


 「あんたが散々危険だって言って僕を遠ざけようとしている場所に、あんたは1人で行こうとしているんだろ!?」


 「それは・・・この国を護るため・・・」


 「国を護るためなら自分は犠牲になっても構わないってか!?随分とご立派な志ですね!」


 「わ、私はこの国の王女です!この国を護りたいと願って何がいけないんですか!?」


 「1人で勝手に無茶をしようっていうのが気に入らないんですよ!今あんたの目の前に、あんたの役に立ちたいと心の底から願っているやつがいるんですよ!あんたが僕のことを心配してくれるのと同じように、いやそれ以上にあんたのことを心配しているということを知ってほしいんだよ!」


 「あ・・・。」


 「姫様がこの国を護るために無茶をするんだったら、僕に姫様を護るための無茶をさせてくれたっていいでしょう!?」


 姫様は完全に沈黙した。僕の言葉が彼女に届いたのだろうか。その答えは僕にはわからなかったが、姫様は険しい顔をしたまま僕の顔をただじっと見つめている。

 やがて、姫様は少し俯き始めた。両手で顔を覆うようなしぐさをしたまましばらく顔を上げようとはしなかった。

 またもや感情に身を任せて思う存分言ってしまったが、今回ばかりは一片の後悔もない。姫様はもっと知るべきなんだ。自分が犠牲になれば解決するという考えは甘いということを。姫様を心配する人だってたくさんいるんだということを。誰も姫様1人に犠牲になって欲しいなんて思っていないことを。・・・僕の好きという気持ちは紛れもなく本物だということを。


 2階へと降りる階段の手前でただ立ちすくむ僕と姫様。長い沈黙が続いたが、数分後ようやく姫様は顔を上げて、


 「・・・ふふ、2人とも頑固者だと将来苦労しそうですね勇者様。」


 と意味深な言葉を発して、いつもの満面の笑みを僕に向けるのだった。 

 

            *     *     *


 「ふふ、今は色々あって楽しい日々を送っています。なのでご心配は無用ですよ魔王様?」


 そして、あれから全速力で魔王がいると言っていた西門へ向かって、現在に至るというわけだ。あの言葉の真意を聞き出すのは、このもめ事を解決した後にしようと思って無心でやってきてはみたが、改めてこのアホの顔を見ると、こいつによってデートを邪魔されたんだという怒りが込み上げてくる。


 「そう無理に強がらなくてもいいんだよプリンセス?我がいないとデイリーライフにインパクトが不足するだろう?今日はそんな君にドキドキするイベントを用意してきたんだ。受け取ってくれるかなプリンセス?」


 自分が元からイラついているからか知らないけど、前に会った時よりも一段とキャラに濃さが増していてよりウザく感じるんだが。


 「魅力的なお話ですが、魔王様が来なくても今日は予定が埋まっていたので大丈夫ですよ?もしそれが本日のご用件だったとしたら、申し訳ないですけど日を改めていただけると助かりますわ。」


 対する姫様のこの対応の手慣れぶりが半端じゃない。僕みたいにあの人のスタイルに反発していく姿勢じゃなくて、それを当然のように受け入れていく姿勢をとればあんな冷静でいられるのか。いやはや恐れ入る。


 「まあまあ、そうつれないことを言わないでくれよ。お前が良くても、俺はちょっと困ってるんだよ。しばらくの間俺の住処にいるだけでいいからさ、来てくれないかな?な?」


 「申し訳ありませんが、お父様の許可なく外の世界に長時間滞在するのは禁じられているので魔王様の家には行けませんわ。」


 なんだろう、あの魔王って見た目を魔術で誤魔化して20代っぽくしているせいで、ただ若い女の子をナンパしているようにしか見えないんだよねこの構図。おまけにさっきまでプリンセスとか言ってたのに、急にお前とか言い始めてるし。キャラがブレブレなんだよこの人。


 「いったい何が目的なのですか?お父様にまたひどいことをされたのなら謝罪いたしますから、どうか怒りを鎮めていただけませんか?」


 「勝手にガルディンにいじめられてるキャラにするのやめてもらえる!?・・・はあ、まあいっか。マイヤちゃんにはちゃんと説明するから、説明聞いたらちゃんと俺んちに来てね?アンダースタンド?」


 んで、急にまたキャラが変わったし。というか素に戻ったという表現が正しいのか?というよりどちらが素なのかもわからんし。

 そして「よいせっと!」という掛け声と共に、魔王の見た目が本来の年相応のものへと変化した。忍びか!それとも狸か!


 「理由によってどうするかは考えます。なのでとりあえず話していただけますかレージ様?」


 「いやまあ、実はそんな大したことじゃないんだけどさ。ちょっとある事情で人探しをすることになっているんだけど、俺ってこの身分じゃん?」


 「人探し・・・ですか?長い間お父様や私としか関わりを持ってこなかったレージ様がまたどうしてそんなことに?」


 え、この人って極度の人見知りでしたーとかそういうオチ?魔王とか名乗ってるのも、人と関わらずに暮らす方が気が楽だからーとか言うタイプの人?


 「まあ色々あったんだよ俺にも。それこそ予想外の事件ってやつ?てなわけで、どういう目的かもいまいちはっきりしてねえし、意味も正直よくわからないけど、とりあえず人探しやらされてるんだよ。」


 「それが仮に本当の理由だったとしたら、なんで魔獣を3匹も連れているんですか?」


 「散歩のついでみたいな?当初の予定は、マイヤちゃんを拉致して、返してほしかったらその人物を連れて来いとか言うつもりだったからさ。だからまあ脅迫道具みたいな?」


 さらっととんでもねえこと言ってんなこいつ!?一国の姫を拉致とか頭ぶっ飛んでんな!?


 「それで、その方を連れていったらどうなるんですか?」


 「さあなー。俺もどういう理由かは知らんからな。・・・でも俺の機嫌を損ねたら残念なことになるかもなあ?」


 へ、その人命懸かってないそれ?機嫌次第でこの世からさよなら説ない???


 「・・・危険な目に遭う可能性があると知った以上、その人を引き渡すにはいけません。お引き取り願います。」


 「いやいや、そうかっかしないで。あくまで物のたとえだよマイヤちゃん。実際、その男には俺も興味は湧いてるんだ。だから協力してくれないか?」


 物のたとえが怖すぎるんだよ。


 「あら、その方は男性なのですね。」


 「ああ、おまけにそいつの名前がなんかよくわかんねえ長ったらしいんだよ。親の顔が見てみてえってな。」


 こっちの世界にもあるんだろうかキラキラネーム的なやつ。ちょっと気になるなそれ。


 「・・・名前だけでも伺いましょうか。私も少し興味がありますその名前。」


 ってちょっと食いついてるんじゃないよ姫様。仮にもその人の命かかってる可能性があるんだよ!?


 「えーっと、なんだったかなー。確か、アマ・・・ナシタ・・・ツキとかいう名前だったか?」


 「アマ・ナシタ・ツキ・・・。確かに長い名前ですね。とても珍しい名前です。」


 確かにこの国の人の名前にしては長い。それになんかイントネーションが気持ち悪いな。アマ・ナシタ・ツキっていう3つの言葉を無理やり繋げたみたいな感じに発音するもんだから余計に変に聞こえる。もっとこう、アマナとシタツキで二区切りとか、アマナシとタツキで二区切りみたいな感じでさ。ほら、なんかすごく耳馴染みのある響きになった。アマナシ・タツキ。アマナシ・タツキ・・・。アマナシ・・・。タツキ・・・?アマナシ・タツキ!!!???


 「おい、ちょっと待ってくれ!アマナシタツキを探してるんですか!?」


 「ん・・・?なんだお前。どっかで見たことあるな。んでなんだよ、そのアマナシタツキの知り合いかなんかかお前?」


 「あら、勇者様はこちらの世界に来たばかりで、知り合いは私たちしかいませんよ。」


 「違いますよ姫様!アマナシ・タツキですよ!アマナシ・タツキ!」


 「アマナシ・タツキ・・・?そうやって区切ると勇者様の名前とよく似ていますね。」


 よく似ていますね!じゃないよ!本人だよ!いまあなたの目の前にいるやつがアマナシ・タツキだよ!

 ってよく考えたら姫様にフルネームで自己紹介したことあったっけか?どちらにせよ、一度もフルネームで呼ばれた経験はないし、きっと忘れているだろうけどね。


 いや問題はそこじゃない!まず僕を探している人っていうのはいったい誰だ?こんな世界で僕なんかに会いたがる人間なんて一体どこにいるってんだ?おまけに僕のフルネームを知っているときた。え、マジでわからん。闇の組織かなんかですか!?タイムスリップ許さない教みたいなやつでもあるんか!?

 おまけに、理由はわからんけどそこにいる魔王の機嫌を損ねると僕は殺される可能性があるらしい。まず、この人に殺されないといけない理由が僕には全くないんだが!?確かに魔王と勇者という名前だけ聞いたら、殺し合いを始めるのに理由はいらないような気がしてくるけど、僕はまだ勇者らしい活動は一切行っていないし、魔王は魔王で別に魔王という名にふさわしいほど邪悪なオーラもなければ、むしろ素を見せるとただの普通の人間だ。え、マジで意味がわかんないんだけど。


 よし、今は素性を隠して魔王さんには帰っていただこう。


 「その、アマナシタツキさんとやらはこちらで探すとして、今日のところは魔王さんもお帰りになられたらどうです?僕も姫様も今日はそれなりに忙しいので・・・」


 「でもそういえば、ソージさんも本当の名前はもっと長かったですよね!?もしかして、勇者様の本当の名前ってアマナシタツキっていうんですか!?」


 へ、ちょ、姫様!?あんたなんていうタイミングで暴露しちゃってくれてるんですか!?魔王が妙な勘の良さを働かせたら、僕はもれなく拉致ですよ!?


 「い、嫌だなあ姫様。僕の名前はタツキですよ!そんな変な名前なわけないじゃないですか!」


 「あら、そうなんですか?てっきり勇者様がいた世界ではそういう長い名前が普通なんだと思ってました。」


 「そ、そんなことないですよ?宗次がちょっと変わってるだけで・・・」


 「ん?おい、ちょっと待て。勇者様がいた世界ってどういう意味だ?」


 む?むむむ?なんか妙なところに注目し始めたぞ!?なんかこれ以上情報を漏らすのはまずい気がしてきたぞ?


 「あ、勇者様は別の世界からの転移者なんですよ。ですから・・・」


 「あーーーーー!!!もうこれ以上余計なことを言わないでください!!!」


 頼むからここでお得意の天然を発揮するのやめてくれ!死んじゃう!僕死んじゃうよ姫様!聞いてないよね魔王さん?スルーしてくださいね?普通の人なら信じないよねこんな話?


 「・・・おいお前、ちょっと聞きたいことができた。俺の住処まで来い。」


 ぎゃあああああああああ、終わったあああああああ!!!猛獣のような目でこっち見てるうううううう!!!


 「い、いやあ・・・。ちょっと今日は忙しいですねえ・・・。ねえ、姫様・・・?」


 「そうですね、確かに今日はこの後予定がありますからね!」


 いやまあ確かにそうなんだけど、なんで受け答えがそんなに楽しそうなわけ!?僕の身に現在危険が及んでいるということを理解してる!?


 「いや、悪いけどこっちの方も相当な急用だ。拒んでも無理やり連れていくぞアマナシタツキ!」


 「えええええ!!!完全に僕の正体バレてんじゃねえか!?」


 「は!やっぱりお前がアマナシタツキじゃねえか!?」


 「あああああしまったあああ!!!墓穴を掘った!!!!」


 「え、やっぱり勇者様の本名だったんですね!」


 「バレたのあんたのせいだよ!!!」


 あーもうめちゃくちゃだよ!!!いつの間にか姫様を護るという目的が、自分の身を護るになってんじゃねえか!


 「なんだ、ずっと今まで俺の目の前にいたとはな。無駄な抵抗をすると、俺の・・・。いや、我のブラックスペルが火を噴くぞ?さあ、俺と来い!」


 「いや、機嫌を損ねたら殺されるんでしょ!?絶対行かねえわ!」


 「今俺の機嫌を損ねたら、その時点で塵になるぞてめえ!?」


 「じゃあもう死亡確定ですやん!?」


 ど、どうする・・・?進んでも死、退いても死・・・。万事休すか・・・?


 「お待ちください、レージ様。勇者様が必要なのはわかりましたが、今勇者様は私のものですから、私の許可なく連れていくのは許しませんからね!」


 な・・・姫様!なんちゅう発言を!?その言葉の意味わかって言ってますか!?

 

 「な・・・お前!?そんなことはあり得ないと思ってたけど・・・。てめえまさかマイヤちゃんの彼氏なのか!?」


 そりゃあもちろんそういう捉え方するよねえ!?いや、確かに嬉しいけど!ちょっと顔が熱くなってきたけど!でも、軽々しくそういう嘘をつくもんじゃないよ!?


 「え、いや、あの、それは・・・。ど、どうなんでしょうかねえ・・・?そりゃあそうなれたら嬉しいけどねえ・・・?」


 「って、なんか煮え切らない返事しているけど、どういうことかなあマイヤちゃん?」


 もうあの人に話を振るんじゃないよ!あの人さっきからこの場をかき回してしかいないんだからさ!


 「・・・何を言ってるんですか勇者様?私たちは将来を約束した仲ではありませんか!」


 は・・・?・・・・・はあああああああああああ!!!???

 さっきから何言ってんですか姫様!?


 「ほほう・・・。で、なんでお前はそんな「ええええええ!?この人何言っちゃってんのおおお!?」みたいな顔してるのかな?」


 そりゃ内心そう思ってるからねえ!思わず顔に出ちゃうよねえ!?


 「こ、こほん。とにかく、そういうことですから勇者様を連れていくのは遠慮していただけますかレージ様?」


 と思ったら、姫様の顔も真っ赤ですやん!?なに自分で言って自分で恥ずかしくなっちゃってんのこの人!?え、なにこれ。こんな状況なのにすごく萌えるんだが。


 「・・・やれやれ。そんな2人揃って顔真っ赤にされたら、こっちもその仲を引き裂きずらくなるよなあ。はあ、いいねえ、若いって。」


 「はは、ははははは・・・。」


 落ち着け!落ち着くんだ天梨樹!これは姫様が考えた、魔王が僕を連れ去れないようにするための嘘なんだから!だから、だから顔の熱よ引いてくれ!


 「お、お分かりいただけましたか?ではそういうことですので、そろそろ私たちは失礼いたしま・・・」


 「いやいや、話はまだ終わってないよ。・・・「光源を断ちし黒煙ブラインドフューム」!」


 うわ、なんだ!?視界が真っ暗になった!?なんだこれ、煙か!?いやなんだこの煙!ただの煙じゃない・・・?


 「いやー本当心苦しいよ。あのマイヤちゃんにとうとう恋人ができたというのに、その仲を引き裂かないといけないんだからね。いやー辛いなあ。」


 「・・・!?勇者様、気をつけてください!・・・お願い炎よ!間に合って・・・!」


 僕の右後ろくらいから姫様の声と、ゴオッという魔術の音が聞こえる。その音と一緒にすごい熱がこちらに接近してくるのが伝わるが、どうすればいいのかがわからない。

 それに煙を摂取してしまっているせいか、思考がおぼつかなくなってきている。頭がふらふらする。


 「ゴオオオオオオオ!!!」


 そしてその炎の音と思われるものが僕のすぐ近くまで接近してきた。しかし、僕に直撃するかと思われたその炎は、僕を包むように展開され、やがてそれは、


 「ボウッ!」


 という爆音と共に煙を吹き飛ばして消えた。何が起きているのかわからないまま、再び視界だけは元に戻った。が、その戻った視力が真っ先に映したものは、


 「失礼。」


 さっきまで遠くにいたはずの男と、その男を乗せた一匹の四足歩行型の中型の魔獣だった。そしてその回復した視力は、みぞおち辺りへの強い衝撃と共に、その男の手によって意識もろとも奪われてしまった。


 「・・・しゃさま!・・・さま!・・・さい、・・・ま!・・・。」


 姫様の叫び声がわずかに聞こえる。けど、だんだんそれは僕の耳には届かなくなっていく。


 ああ、これなら姫様の言いつけ通り王宮でおとなしくしておけばよかったのかな・・・。でも、僕がいなかったらきっと姫様が連れ去られていたんだろうし、そう考えると僕がその役を代われたことで少しは役に立てたのか・・・?


 


 そして、魔王との2度目の邂逅からおよそ30分後、今度こそ天梨樹の意識は失われたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ