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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
30/72

2-15 正直に、ただまっすぐに

 「・・・はい?」


 「ですから、昨日の夜の発言は本当なのですか?」


 姫様の言う問いとやらは、かなり想像のはるか上をいく内容のものだった。『本当に私のことが好きなのですか?』だと・・・?好きに決まってるでしょうよ!いやただ、僕はそれを姫様に打ち明けた覚えなど一切ないのだが。

 ま、まさか寝ている間に大声で愛を叫んだとか!?それを偶然近くにいた姫様に聞かれた・・・?いやさすがにミラクルが過ぎるわ。ダメだ、全くどの発言に対する追及なのか見当がつかん。


 「いやすいません姫様。どの発言について言っているのか全くピンと来ていないんですが。」


 「どの発言も何も、昨日お父様の部屋で言っていた発言ですよ?覚えてらっしゃらないのですか?」


 ・・・ん?昨日王様の部屋で僕がした発言・・・?昨日僕が王様の部屋に行ったのは、シャワーを浴びた後眠りにつく前に恋愛相談に乗ってもらおうと思って行ったあの時だけなんだが。


 「え、それって具体的にいつくらいの時間の話をしてます?」


 「S75界くらいだったと記憶しています。私がお父様の部屋にいたときに、突然タツキ様がドアをノックしてきたので、思わず押し入れの中に隠れましたから。」


 S75界ということは255界ってことだから、つまり午後11時頃・・・。確かに僕が王様の部屋を訪ねた時と一致する。え、あの時あの部屋には姫様が隠れていた・・・?隠れていた・・・。隠れていた!!!!????


 「え、ちょ待ってください!姫様あの部屋にいたんですか!?」


 「はい。・・・初めてのデートということで緊張してしまいまして・・・。それで、お父様に何かアドバイスをいただこうと思って部屋を訪ねていました。お父様は仕事がどうとか言ってなかなか相手にしてくれませんでしたが、ここにいて気が楽になるならいていいと言ってくださったので、話を聞いてもらっていました。」


 昨日ソファに座った時、生暖かいという感想を抱いたのは、そのついちょっと前まで姫様が座っていたってことか・・・。


 「そしたら急にタツキ様が訪ねてきたので、どうもここで鉢合わせしてしまうのは、ばつが悪いように思えたので隠れさせてもらいました。そしたらものすごい音がして、そこから遠くの方で声が聞こえたのがわかりました。そしたらそのままタツキ様が部屋の中にまで入ってきた様子だったので、ばれないように息を殺していました。すると・・・。」


 あ・・・。


 

 ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!

 聞かれてしまったのかあの発言をおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!

 うおおおおおおいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!


 「と・・・ということはつまり、姫様がさっきからずっと言っているあの発言というのは・・・。」


 「ずっと前から好きでした・・・とおっしゃいましたよねタツキ様?」


 あ、ああ・・・。やっぱりその台詞拾われたのか・・・。それで動揺しているというわけか・・・。

 

 ああ、なるほど。全て合点がいった。あの時王様がよくわからないあんな行動をとった理由も、僕を無理やり部屋から連れ出した理由も、さっき王様が不慮の事故と言った理由も、このことについて若干の責任を感じている理由も・・・。

 お、終わった・・・。天梨樹の姫様のハートガッチリキャッチ大作戦が・・・というよりこの王宮での平和な和気あいあい生活が終わってしまった・・・。魔術修業もついでに終了のお知らせか・・・。


 いやでも待てよ。そうなってくると、姫様の反応がいまいちよくわからんぞ。動揺、困惑といった感情は十分すぎるほど理解はできる。でも、どうして考え事をする必要がある?いや、そもそも考え事というのは僕とデートに行くか否かなんていう些細なものなのか?読めん、全く読めんぞ。平常心が欠けているだけに全くわからん。


 「ですから、私のことを・・・。そ、その・・・。す、す、好きでいらっしゃるのですか?」


 果たしてこれはどう答えるのが正解なんだ!?え、っていうかこんな流れで告白する羽目になるのか僕は!?はっきり言って今の状態で告白したところで、いいところ全くないんだが?印象も悪いだろうし・・・これはいわゆる最悪な展開というやつなのでは!?


 「姫様、突然こんなに動揺させてしまってすいません。いろいろと思うことがあるかとは思いますけど、僕の話を一から聞いてくれませんか?」


 この問いに対する姫様の答えは無言だった。それは『はい』なのか『いいえ』なのかはわからないけど、ここはもう都合よく『はい』と捉えるしかない。

 とりあえず、決定的な言葉を明言することは避けながらなんとかこの場をしのぐことにしよう。とはいえ、この何とも形容しがたい顔でまっすぐ僕の目を見てくる姫様を相手に、僕のメンタルがどこまでもつだろうか。


 「そのですね・・・。僕も今日という日をすごく楽しみにしていたんですよ。姫様には・・・その、この世界に来てからずっとお世話になっていますし、一緒にいると楽しいから・・・。」


 いかん、こんな言い回しだと今から本当に告白しそうになってしまう。でも、姫様の僕を見る目が少しだけ和らいだように見えるから、少し気持ちが落ち着いてきた。


 「そ、そもそも!僕と姫様があったのはまだ2週間前です。それなのに勇者になって護衛をするとか、結婚するとかしないとか、いろいろあったじゃないですか?」


 何とか話の路線を別の方向へと持ち込もうとしてはみたが、さっきの一言目と内容がかみ合わなくて、支離滅裂なことを言ってしまっている。おまけに、自分でこんな話題にすり替えておいて、この先に続ける言葉が思いつかない!あー墓穴を掘りまくってるーーー!!!


 「もともとこの世界に来てしまった理由は、姫様もよくわかっていると思いますが、やり直したい過去があったからです。そのために僕と宗次は長い年月をかけてタイムマシンなんて大層なものを作って・・・その結果たどり着いたところがここです。」


 何度この部分を説明してきたことか。姫様の耳にもタコができていることだろう。


 「約20年間くらい同じ人に執着してきました。こんな言い方したら、一途を通り越して気持ち悪いと思われそうですが、それくらい好きだったんです。」


 前の文とつながりのない言葉を、どうにか必死に紡いではいるが、姫様の頭上にはきっと?マークが浮かんでいることだろう。何せ自分でも何が言いたいのか、何を言うつもりでいるのかまるで把握できていないのだから。こんな自分でも自分にあきれ返りそうになっているような状況だというのに、姫様はそれでも真剣な眼差しを向けるのをやめない。

 

 ・・・なんだろう。そんな姫様を見ていると少し・・・。いや相当自分がバカな奴だなあと思う。姫様はいつだってまっすぐで、純粋で、裏表のない態度で僕に接してくれる。いや、僕だけでなく彼女の周りにいるすべての人間にそれができてしまう。周りに気を遣って自分の言いたいことを我慢していることはあるけど、それは周りを気遣っているが故のものであり、断じて僕のような完全に自己中心的な理由ではないのは明らかである。


 ああ、なんでこんな好きか好きじゃないかなんていう単純な問いかけ一つに、僕はこんな回りくどいことをしているのだろうか。いっそのこと素直に好きと言ってしまえば楽になれるのだろうか。そんなこと僕にはわからない。

 ・・・けど。・・・だけど。・・・もうなんか嘘をつくのが嫌になってきてしまった。これだけ純粋でまっすぐな視線を向けてくれる女の子にどうしてこれ以上嘘をつかないといけないんだ?なんで好きだという気持ちは本当なのに、それを言うのにここまでためらいを覚えなければいけないんだ!?・・・どうして目の前に好きな女の子がいるのに、その好きという自分の正直な気持ちにこれ以上嘘をつかないといけない!?

 

 「・・・でもっ!姫様に出会ってしまった!姫様が与えてくれる優しさに心を動かされてしまったんです!」


 姫様の目に動揺が走ったのがわかった。でも僕の口は知っての通り、勢いに乗ってしまったらもう止まることはない。いやむしろ、どうして止めないといけないのか。


 「たった2週間ですが・・・。僕が姫様に恋をするには十分すぎる時間でした。きっかけは、宗次が来たあの日に慰められたことでした。・・・そんな些細なことからでしたけど、そこから姫様と一緒に過ごす時間に何にも代えがたい心地よさを感じるようになりました。周りにいる人たちだけでなく、国のことまで考える器の大きさ、そしてその器の大きさ故に自分の幸せを犠牲にできる意思の強さを知って、勝手ながら護ってあげたいという気持ちが湧いてしまいました。」

 

 自分でも驚くくらいに舌が回る。いつになったら止まるのだろうか自分にも想像がつかない。もう姫様がどんな顔、どんな表情をしているかを確認する余裕なんて僕にはない。

 いや、余裕がないのではない。きっと怖いのだ。その表情が絶望に満ちていた時が怖いのだ。拒絶を前面に押し出した表情を想像したくないのだ。だから僕は続ける。続けざるを得ない。ここまで来て止まるという選択肢はもうない。


 「・・・それを僕にだけ教えてくれたことに、不謹慎ながらも喜びを感じてしまいました。親愛を込めて勇者様と呼んでくれることに幸せを感じていました。だからその呼び名に恥じないような男になろうと思って修業をしてきました。・・・でも今のところ、恥ずかしいところを見られてばかりで・・・。こんな状態では・・・とても想いを告げるなんてできなかった。」


 ここまで完全に一方的な僕の語りにしかなっていない。姫様からは言葉が一言も発されてはいない。問いを投げかけることも、拒絶反応も、何も返ってきていない。もしかしたら、熱くなりすぎてその言葉が耳に届いていないという可能性もあるが、その可能性を考慮できるほど僕の頭は冷静ではない。だってもう、


 「それでも、質問されてしまったので僕は正直に答えます。かっこ悪くても・・・もういいです。姫様!・・・っ僕は!僕は!!!




 あなたのことが好きだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」



 愛の言葉を伝えることしか頭の中になかったから。


            *     *     *


 心臓に悪い沈黙が場を支配する。未だに僕は姫様の顔を見れておらず、視界に映るのは姫様の部屋の床。聞こえてくるのは不自然なほどに早く脈打つ自分の心臓の音だけだ。

 ・・・いやあ、困った。告白した後のことを全く考えていなかった。気まずさマックスで死にたくなるレベルだ。


 「・・・・・」


 「・・・・・」


 え、これって僕がもう一回何か言った方がいいパターンのやつ!?告白なんてリア充の行事だと思い続けてきたせいで、予備知識が全く無いんだが。だ、誰か助けてくれええええええ。



 「す、すいません!!!」

 「ご、ごめんなさい!!!」


 って最悪なタイミングで被ってしまったああああああああああ!!!もう死にてええええええ!!!誰かもう僕を殺してくれええええええ!!!


 ってちょっと待て。今なんて? 


 「どうして姫様が謝るんですか!?」

 「どうして勇者様が謝るんですか!?」


 ってまた被るんかい!!!なんだよこのベタベタなラブコメみたいな展開は!?


 「・・・ふふふ。」


 「・・・ははは。ははははは!」


 もう笑うしかないわ。僕らが似たもの同士だなんて自惚れたことを言うつもりは微塵もなかったけど、こればっかりは似たもの同士だ。だって、告白をした側もされた側もこれが初めての経験だったんだから。


 「いえ、まさかタツキ様がそのようなことを考えていらっしゃっただなんて、全く想像していなかったのでびっくりしてしまいました。・・・それを強制的に言わせてしまっただなんて、私はなんてひどいことをしてしまったのだろうと思ったら・・・。」


 どうやら姫様は、あの沈黙の間ですらも僕のことを気にかけていたといい始める。全く、一体どれだけお人よしなんですかあなたは。


 「・・・あれだけ叫んでおいてこんなことを言うのもなんですが、忘れたかったら忘れてくれて構いませんからね?」


 「何を言うんですか!人生で初めて告白されたんですよ!?・・・もう一生忘れることなんてできないですよ・・・。」


 よく見ると、姫様の顔はかなり赤かった。まさか、照れていたというのか?僕なんかの告白で、照れてくれたのか!?


 「ですが・・・。」


 「ですが・・・?」


 ですが・・・ってこの流れで一番聞きたくない言葉だなあ・・・。


 「私はどうすればいいのでしょうか?」


 「それ僕に聞きます!?」


 あ、さすが姫様。いつも予想の斜め上の答えが飛んでくるわ。


 「いえ、こんなことは初めてでどうしたらいいのかわからなくて・・・。」


 とはいえ確かに姫様からすると、恋愛とは何かを知らない状態で、いきなり今まで世話をしていた男から突然告白されたという状況なわけであって。どうすればいいのかわからなくなるのも無理はないか。

 

 あれ、でもそれだと姫様はいったい昨日の夜から今日の朝にかけて何を考えていたんだろうか。僕がこういう行動に出るかもしれないということは、昨日の僕の発言を聞いていたのなら想像できたはずだ。てっきり、姫様は僕から告白されたときにどう答えればいいのかということを悩んでいたのだと思っていたんだが、このテンパっている現状を考えるとそういうわけではなかったんだろう。


 「別に今すぐどうこうという話ではないですし、姫様の気持ちはまた落ち着いたときにゆっくり聞かせていただけたらそれでいいです。返事がいただけるまでいくらでも待ちますから。」


 「重ね重ね申し訳ありません。無理やりこんなことを言わせてしまっただけでも相当ひどいことをしてしまったというのに、その返事がすぐにできないだなんて・・・。私は最低な女ですね。」


 姫様の赤らめていた顔は、その申し訳なさからか、いつの間にか元の色に戻ってしまっており、その罪悪感から俯いてしまっていた。さすがにこの状況は僕にも収拾がつけられそうになくて内心焦っている。とりあえず今の僕にできることは、


 「そんなことないですよ!突然王様の部屋で僕のあんな発言を聞いてしまったんですから、気が動転してしまって当然です!」


 と励ますことくらいだ。


 「・・・いいえ。私は本当に最低な女なんです。だって、タツキ様はこんなにもまっすぐな想いで私に気持ちを伝えてくださったのに私は・・・。ずっとタツキ様の気持ちなんて考えもせずにひたすら、なぜタツキ様はレナさんが好きだと言っていたのに私のことを好きだと言ったのかとか、なぜソージさんやナユリア家の皆さんの前ではそのような素振りを一切見せないのだろうとか、・・・タツキ様はいったい何を考えているのだろうなどという失礼なことすら考えてしまいました。」


 そうか、よく考えたら姫様が抱いていた疑問は至極もっともだ。あれだけ散々玲那への想いを語っておきながら、突然姫様のことが好きだなんて言ってしまったら、姫様が混乱するのは当たり前のことじゃないか!そんなこと全く考えずに僕は、『何を考えているのかわからない』なんて思考によくもまあ至ったものだ。無神経にもほどがある。


 「いや、それは当たり前の思考回路ですからね姫様?もしこの国の人全員が今の姫様の立場になったとしても、おそらく誰もが抱いていた疑問でしょうから!疑うのも当然の流れですから!」


 「・・・ですが!」


 「姫様は最低なんかじゃない!」


 いかん、つい自虐ばかりに走る姫様を止めたくてまた大声を出してしまった。おかげで姫様は驚いて固まってしまっているではないか。・・・これは一旦、この場の空気を換えた方がいいだろう。


 「・・・バルコニーでお話しませんか?昨日からずっとこの空間で籠りきりだったのがマイナス方向の思考を生み出しているのかもしれませんし。」


 「・・・そうですね、私も少し外の景色が見たくなってきました。爽やかな風を浴びることで、落ち着いてお話ができそうですからね。」


 僕の意見は、数時間ほど引きこもりになっていた姫様をあっさりと部屋から連れ出すことに成功した・・・かのように思えたが、


 「ですが、少しお待ちいただけますか?」


 「どうかしましたか?まさか、具合でも悪くなりましたか!?」


 「い、いえ!そうではなくてですね。その・・・。」


 「その・・・?」


 「・・・お腹が空いてしまいました。」


 人間の三大欲求の一つである、食欲の前に呆気なく敗北したのだった。せっかくわざわざ運んできたのに、よく考えたら手をつける余裕なんてさっきまでなかったから仕方ないね、うん。


            *     *     *


 デートの開始予定時間からすでに30界ほど遅れている現在はR75界。元々の出発予定が朝の9時だったって、今思うと早すぎだろって思うが、結果的にこうして遅れてしまっているのでそういうツッコミはなしの方向で。

 そんな大事なデートもせずに何をしているのかというと、先ほどの提案通り、昨日王様に連れてきてもらったバルコニーで、今度は姫様と2人で過ごしている。

 この状況に至るまでには実は少し時間が経っている。というのは、あれからしっかりと朝食を摂った姫様が、『今朝から王宮の誰とも顔を合わせていないのに、どうも食器を返しに行くという理由でみんなの前に姿を現すのが恥ずかしい』と言うので、代わりに僕が食器を返しに行くことになっていたからだ。それだけならすぐ終わるはずだったんだけど、その際に姫様がいつもの調子に戻られたという報告を王宮にいる人たちに伝えた方がいいと思って、食器を受け取ってくれた王宮の給仕係の人とか、廊下でどこかソワソワしてた様子でいた師匠に報告していたので、それなりの時間がかかってしまったのだ。ちなみに、王様にみっちり恨み言を言ってやりたかったので、あえて現状は伝えていない。

 でも、その報告をした時の給仕の人や師匠の安堵した様子を見ていると、今回の姫様の行動がどれほど珍しいことだったのかということがよくわかった。と同時に、どれだけ今回のことが姫様に衝撃を与えたのかということも深く思い知ったのだった。


 そしてその後姫様の部屋に寄ったのだけれど姿が見えなかったので、その足でバルコニーへと向かうと、何か独り言を言っていた姫様がいたのだった。少しずつ元の調子に戻ってきているようで、声色も表情もいつも通りの明るいものへと戻っていた。こうやって今の状態とさっきまでの状態を比較してみると雲泥の差である。さっきまでは本当暗いトーンだったし、疲労感満載の顔をしていたからねえ。


 「今日は本当に私のせいでいろいろと迷惑をおかけして申し訳ありません。」


 とまあ相変わらず謝罪ばかりしているのだが、さっきまでとは声のトーンが全然違うおかげで、こちらの心にグサグサくるようなことはなくなった。


 「まあまあ、もう謝罪はいいじゃないですか!僕の方にもかなり大きな非があるわけですし、もう謝罪はなしってことで。」


 とはいえ、いつまでも謝罪の言葉をかけられ続けるのも苦しいので、もう終わりにしてほしいとは思うんだけど。


 「それで、ですねタツキ様。」


 「は、はい。なんでしょう?」


 そしてこの後に続くセリフはきっと、さっきの僕の発言に対する答えになるだろうということは想像するに難くない。

 どのような答えが返ってくるか。それを姫様の食器を返しに行くときに何度考えたことか。『はい』という答えが返ってきたときの喜び、『いいえ』という答えが返ってきたときの悲しみ。その両方を想像しては悶えるということを繰り返しながら、ようやくこの時を迎えたのだ。

 こんな時がいつか来るとは思っていた。けど、それが今日この時に来るとは全くもって予想外だと言わざるを得ない。こういうことを考えるのは、告白を決意する前にするべきだったのだろうけど、あまりにも唐突な流れすぎてそれを考える余裕すらなかったのだから仕方ない。ということで一足遅いドキドキタイムがここにきて発生してしまっている。ああ、世の中のリア充は誰もがみんなこんな経験をしているのか。なんて心臓に悪い行事なのだろうか。


 でも、これだけ長い独白をしておいてこんなことを言っても信用無いかもしれないが、実はどこか安心している自分もいるのだ。バルコニーで1人佇んでいる姫様を見てそう思ってしまった。

 それは決して、姫様の表情を見てよい答えを得られるという確信を得たからというわけではない。ただ、


 「・・・答えは今日の予定をこなしてからでよろしいですか?」


 「ええ、そう言うと思ってました。」


 姫様は王宮の外に出る準備を済ませた状態でバルコニーに立っていたからね。少なくともデートには行ってくれるのだろうということが、その容姿を見て容易に想像できてしまったのだ。でも結果的に答えを後回しにされてしまった以上、ただただ緊張するタイミングが少し後になっただけなんだけどね。

 一方の姫様は、僕の今の発言を聞いて『えー、どうしてわかったんですかー!』とでも言いたそうな顔でこちらを上目遣いで見ている。うん、反則だわこの顔は。


 「今すぐ出発しますか姫様?」


 「・・・もう少しだけここからの景色を見ていてもよろしいですか?」


 そう言うと姫様は、僕が姫様に声をかける前の状態へと戻った。

 こうして傍からその様子を見ていると、どこか昨日の王様の姿が姫様と重なって見えるから不思議なものだ。やはりこういうところで姫様と王様はやっぱり実の親子なのだということを思い知らされる。


 「昨日王様と一緒にここに来た時も、同じような顔をされてましたよ?」


 「本当はいつも考え事はここでしているんです。解放感があって、前向きに物事を見られるようになりますからね。・・・今回は衝撃が強くて、思わず部屋から出られなくなってしまいましたけどね、ふふふ。」


 調子が少し戻ったと思うと、平気でこちらのメンタルをえぐろうとしてくるところも、ある意味親子だなあと思う。似なくてもいいところだと思いますけどねえ!?


 「でもやはり、お父様も私もこの場所に来るときは同じ表情になってしまうのでしょうね。」


 そう言うと、姫様は少し儚げな表情へと変化させた。それはやはり昨日見た光景と・・・。僕が『ここは訳ありの場所なのか』と尋ねたときに王様が見せたものと非常によく似ていた。


 「そういえばこの場所には、王様と深い事情があるようなことを昨日仰っていました。」


 「ええ・・・。ここにはお母様がいるのですよ。」


 「姫様のお母様・・・ってことはこの国の王妃様!?」


 そして、王妃様ということは王様の奥さんのことか。ということは、このバルコニーは言ってしまえば、王妃様のお墓ということになるのか?


 王妃様か・・・。あのめちゃくちゃな王様が唯一本気で好きになった女性っていうわけだし、さぞかし綺麗で魅力的な人だったのだろう。目の前にいる姫様があの可愛さなのだ。綺麗な方だったというのは言うまでもないな、うん。


 「はい、残念ながらお母様に実際にお会いしたことはないのですけどね。ですが、とても立派な方だったとお聞きしています。なので何か困りごとがあったら、いつもここに来てお母様に相談に乗ってもらっているんです。」


 「え、お会いしたことはないのですか!?」


 しまった、つい驚いて反射的に聞いちゃったけど、もしかして触れてほしくない話題だったか!?


 「はい、私も詳しい事情は聞かされていないのですけどね。なので、お母様にいったい何があったのかは残念ながらわからないんです。」


 やっぱり、想像通りそこそこの重い話が返ってきてしまった・・・。あーやってしもうた。


 「ですが、お母様はここにいるとお父様は話してくださいました。ですから、私は別に会えなくて寂しいとは思っていませんよ?ですからそんな、『いけないことを聞いてしまった』って感じの顔をされなくても大丈夫ですよ、ふふ。」


 ぐ、完全にすべて見透かされていた・・・。そしてさらに気まで使わせてしまった・・・。うう、情けない・・・。


 「タツキ様が親切に私の朝ごはんを返してくださっている間に、お母様とこうしてお話をしていたんですよ。なので、最後にお母様に挨拶をしようと思いまして。」


 「・・・え?あ、ああ!だから景色を見たいと。」


 「はい、そういうことです。ふふ、お母様もきっとタツキ様に会えてうれしいのではないでしょうか。・・・ほら、気持ちいい風が吹き込んできましたよ!」


 あまり僕は霊とかそういう類は信じない質なんだけど、こう笑顔で語られると少し信じてみたくなってしまうから、本当、姫様は不思議な力を持った人だと思う。まあ、魔術なんてものが存在する世界なんだ。霊の一つや二つくらい本当に存在していたとしても今更驚くかっての。


 「では、お待たせいたしました。・・・本当に長い間お待たせしてしまいましたが・・・。改めてデートの方、よろしくお願いしますね、タツキ様。・・・今は勇者様とお呼びしましょうか、ふふふ。」


 その使い分けにどんな意味があるのか、僕にはいまいち理解ができていないけどまあいいか。


 「それで、結局王妃様はなんとおっしゃってたんですか?」


 その僕の問いかけに姫様は少しためらってから、顔を少し赤らめて、


 「・・・ふふふ、それは秘密ですよ、勇者様。」


 と、とんでもない破壊力を秘めた笑顔で答えるのだった。

 そうして笑う姫様の赤髪を撫でるように、風がまた穏やかに吹き込むのだった。


            



 そしてその笑顔の姫様の後ろに見える王宮の正門から、兵士らしき男が息を切らしながら、



 「い、一大事でございます!!!!!」


 と穏やかな空気を一変させる大声を上げるのだった。 

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