1-1 時をかけr(以下略
あれから8年の月日が流れた。僕はあの日以来玲那とは一度も話していない。まあ近所だから姿を見ることはあるけど、向こうが僕を許すはずもなくて。
でもそれは別に玲那に限ったことではなかった。僕はただ1人を除いては、あれからほとんど誰とも会話と言えるような会話をしていない。クラスのみんなからは完全に浮いた存在。クラスの隅にいる物静かな男にひそひそと噂話をするクラスメイトの姿に気づいていないふりをして過ごす毎日。この際言っておくが、わざわざ本人に聞こえないようにひそひそ言ってるけど、ああいうのって全部まる聞こえだからな!ひそひそする意味なんかねえからな!
という愚痴はさておき、僕が教室の隅で1人で過ごし、家に帰ると一歩も外を出ずに行った努力は・・・
「できたあああああああああああ」
「終わったああああああああああ」
8年後のこの日、ようやく報われた。僕と宗次は8年間という長い長い年月を費やして、タイムマシンなんていうものを作り上げてしまった。いやあ、8年間棒に振れば意外と作れるものだね。みんなは真似しちゃだめだよ?ちゃんと高校大学で青春しなよ?僕にだけは言われたくないと思うけど。
「んで、しっかりお前の真似をさせられて、8年間そのバカげた計画に付き合わされた俺にはどう埋め合わせしてくれるわけ?」
「いや、元はといえば、お前があの時変なこと言って僕を暴走させなければこんなことにはならなかったんだよ。むしろ僕の埋め合わせだからなこれは。」
「あれを真に受けて、あんないい子をラブホテルに連れ込もうとするお前の頭のいかれっぷりには8年間未だに驚きっぱなしだわ俺は。」
うん、何も言い返せねえ。ド正論過ぎてぐうの音も出ねえ。
* * *
「なあ、宗次よ。本当にこいつを使えばあの日の俺の湧いた頭に冷や水ぶっかけられるんだろうな?」
今更ながら、タイムマシンなんて大層なものを作ってしまったことへの恐怖が僕を襲っていた。
そもそも、過去の出来事をなかったことにするために、本気で過去に戻る方法を考えた結果タイムマシンを作りだそうだなんて発想、頭がおかしいとしか言いようがない。どこぞのネコ型ロボットもびっくりだぞこれ。
「お前も一緒にこいつを作ったってのにそれを疑うんか?実験用にぶち込んだ俺らの宝物はきれいさっぱりなくなってたのは樹も見てただろ?」
僕と宗次の宝物なんてどうせ大したものではないとだけ言っておく。もう散々堪能したし、きれいさっぱりお別れするためにタイムマシンにぶち込んだのである。あれ、てことは過去の世界に僕たち選りすぐりのエロ本たちが転送されているってことか!?なんてことをしてしまったんだ。。。
「でも、実際こいつに乗り込むって考えるとさすがに恐怖がこみ上げてくるわけでございまして・・・」
「お前なあ、こいつに乗り込むのに必要な勇気とあの日玲那ちゃんにあんなことを言うために必要だった勇気のどっちが大きいと・・・・」
「あああああああああああああああ言わないでええええええええええええええ」
こいつ、僕の傷のえぐり方だけはギネスに載るレベルに上手いんだよなあ。そんな才能将来いつ使えるっていうんだよ。
「わかったらさっさと行く!何のために8年も費やしてこいつを作ったと思ってんだ。お前は今から過去をやり直すからいいとして、俺の人生は単純に8年間棒に振ったって言っても過言じゃねえぞ?」
そう、僕はこれから過去に戻って人生をやり直すわけだからこの8年間なかったことにできるわけだけど、宗次はこのまま8年間を無駄な研究に費やしたままこの先の人生を送らなければならない。なお、一緒に過去に戻ろうという僕からの提案は「面倒くさい」の一言でバッサリ却下された。こいつも僕に関わってしまったばっかりに災難な人生だな全く。
「謝りたい気持ちはやまやまだが、もともと過去に戻らなければいけなくなった原因はお前にもあるというのが俺の反論なんだが。」
かといって慰めたり、謝罪の言葉を言う気にもなれなかったから最後の最後まで僕はこいつに過去の出来事の責任を追及しようと試みた。内心は申し訳ない気持ちでいっぱいなんだけどな。
「もう行け。その話はもう耳にタコができた。」
「ま、何はともあれ世話になったな宗次。」
「まったくだ。んじゃまあ、昔の俺によろしくな。くれぐれも今回みたいに8年かけてタイムマシンを作るなんてバカみたいな真似させないように言っといてくれ。」
「何言ってんだ。仮にまた失敗したときにはまたお前には僕のタイムマシン作成を手伝ってもらうからな。」
「もう頼むから幸せになってくれよお前。俺の人生のためにも頼むよお前。てか次失敗したらもう自害してくれよお前。」
「・・・・・じゃあ行ってくるよ宗次。」
「・・・・・ああ、しっかり玲那ちゃんと結ばれて来いよ、樹。」
この世にもう未練はない。僕は確固たる意志を持ってタイムマシンのドアを開けた。設定を9年前、つまり中学3年生の冬休み最終日、天梨邸にある僕の部屋にセット。転送と書かれた(自分で書いたんだけどね)スイッチを恐る恐る押した。すると次の瞬間、僕の周りの世界は白い光に包まれた。目の前で僕の様子を、なんやかんやで心配そうに見ていた宗次の顔が白い光とともに消えていった。
ああ、僕は今、時間を渡っているんだ。待ちに待ったこの瞬間がようやく訪れたんだ。忌々しきあの日をやり直せるチャンスが。期待と不安でぐちゃぐちゃな頭を落ち着かせようと必死になっていたら、いつの間にか白い光は消えていた。
「戻ってきたのか・・・・・?」
僕はまたも恐る恐るタイムマシンのドアを開けた。
「これは・・・・・どういうことだ・・・・・?」
眼前に広がっていたのは、見たこともない西欧風の建物の数々とその中心にそびえたつ大きな宮殿一つ。
「ここどこおおおおおおおおおおおお!??????????????」
そして、その王国の中心では発狂した男が一人呆然と立ち尽くしていた。
本編開始でございます。一応あと2,3話くらいまでは、構想がしっかりできてるんですけどそこから先はまだぼんやりとしか決まってないのでどうしようかなあといったところ。