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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
29/72

2-14 悩み

 突然デートに行けという謎の指令を出されたわたくし天梨樹。しかし、言い忘れていたが今の僕と宗次には休暇が10日に一度しか存在しない。つまり、その指令をこなすには、単純に今日を含めてあと8日待つ必要があるということになるのだ。

 まあ、その間にどこに行きたい、何をしたい、どういう観光名所があるのか、などなどいろいろなことを姫様に聞くチャンスがあるというのはいいことではある。いくら何でもまだこの世界に来て一週間にも満たない人間が、この地を知り尽くしている(はずの)姫様とのデートのリードをするのは、予備知識なしでは無謀に近い。なので、ここは素直に見栄を張らずに姫様に相談をするのが得策とにらんだ。

 

            *     *     *


 特筆すべき点もなかったので、デート直前の日の夜までカットさせていただいた。いや、今まで毎日ピックアップしていたのに急にカットしすぎだろ!とか、カットした日数の方が今までの話で進んだ日数よりも多いな!とか色々なクレームが来そうなものだが、信じてくれ。この8日間を今まで通りのペースで語ったところで、変わり映えしなさ過ぎて絶対につまらないから!だからせめてこの8日間のハイライトだけでも紹介しよう。


 姫様との楽しい楽しい白魔法講座は、10日目にしてようやく少しまともな魔術っぽいものの習得というステップへとたどり着いた。ちなみにそれまでは、目薬魔術に始まり、指先から光をキラッとさせるというこれまた意味の分からない魔術だったり、その光を前方に飛ばす練習だったりと、やはり実用性がいまいちよくわからないようなことばかりをさせられていた。

 それで、今言ったのがいわゆる実技の授業で、実はそれ以外にもお嬢と宗次と合同で魔力の授業も行っている。普通に日々の生活を送るだけなら、こんなことをしなくても問題はないらしいのだが、戦闘に駆使したり、より上位の魔術を身につけるためには、こういったメンタルトレーニングのようなものをしないと、キャパシティが足りなくなるらしいのだ。まあいわゆるMPを増やしているみたいな感じ。具体的に何をやるかと言うと、体の魔力の巡りを把握するための瞑想とか、魔術の専門書を読むとか、そういうものだ。実際、こういうものも大事だけど、一番大事なのはやっぱり実際に魔術を使い続けることらしいんだけどね。

 

 そして10日目にして、僕はヒールの魔術(と勝手に僕が呼んでいる)の第一歩みたいなところへとやってきた。ちなみに白魔法の適性がない人は、初日にやったあの目薬魔術ですら習得するのに1年ほどかかるらしい。思わず耳を疑ってしまったが、姫様が「ちなみに勇者様が白魔法以外の魔術を勉強しようとすると、同じような状態になりますよ♪」と言われてしまったのでぐうの音も出ない。事実、最初の魔術適性診断の時には、白魔法を唱えて手のひらがキラキラ光ったこと以外は何も起きなかったのだから。

 なんていう、心えぐられる姫様からのありがたいお言葉を受けながらも練習した結果、僕はそのヒール魔術を1日でマスターしてしまった。姫様もさすがに予想外だったようで、「やはり白魔法に関してはこの国で最も優れた才能をお持ちですね勇者様!」と褒めちぎられた。素直に喜びたいところではあるが、やはり複雑ではある。


 ちなみに宗次はまだ地魔法の初歩中の初歩らしい。地属性の初歩、つまりは目薬魔術ポジションとなる魔術は、物質の強度の強化らしい。最初聞いたときは目薬との差に思わず嫉妬してしまったが、やっていることは、元の世界でいう卵?のようなものを強化して、10cm上から固いところに落としても割れないようにするという、なんともコメントし難い地味なことをやっていたようなので、どっこいどっこいだ。今では15㎝までなら大丈夫だと自信満々に語られたが、ぶっちゃけ違いがわからん。ちなみにあまり地属性の適性がないお嬢は10m、姫様は思いっきり卵?を地面に叩きつけても大丈夫らしい。・・・いやなんの自慢やねん。


 そして一方の地獄の剣術修業の方だが、やはり身体がまだ全然出来上がっていないとのことで、相変わらず筋トレがメインの時間となってしまっている。その上素振りの回数が日に日に増えているのが地味に辛い。毎日100回も増やされると、最終的には何回振ることになるのかと気が気でない。とはいえ、筋トレをしないといけない羽目になっているのは、単純に今までの自分が運動をしてこなかったせいではあるので、一概に爺さんを恨むことはできない。

 ちなみに余談だが、なぜかあの爺さんは修業開始以来、執拗に自分のことを師匠だの先生だのと呼ばせたがる。その謎のこだわりのせいで、何度か爺さんと呼んでしまったときに思いっきり肩を修業用の刀でしばかれることになっているのが、個人的には納得がいかない。まあともかく剣術の方は何も変化なしと言っていいだろう。 


            *     *     *


 「いよいよ明日じゃねえかタツキ。どうだ、最高のデートプランはたてられたか?」


 「いやあ、それがですね?どこに行きたいかと聞くと、「そうですねえ・・・、街の中は一応回り尽くしたので、行きたい場所と言われると特に思い浮かびませんね。」とバッサリ言われましたよ・・・。」


 そしてデート前日の毎夜恒例、晩飯後の王様との2人語りの時間がやってきているのだが、この8日間の恋活の成果を報告をさせられている。


 「うむ、さすが我が娘。デートプランを練ろうとする男を無意識に一刀両断したというわけか!はっはっはっはっは!!!」


 「おかげで随分と苦労しましたよ?結局プランとしては、僕が行きたいところを回るという流れになっちゃいましたし。」


 「まあ、初回はそれでいいんじゃねえか?あいつには短期勝負より、気長にアプローチする方がいいような気がするしよ。・・・それに、いくら平和的な計画に見えても、いざ2人きりになると何が起きるかわからないのが「デート」ってもんだからな!」


 「・・・なんかニヤニヤした顔でそういう言い方をされると、まるであんたが色々とハプニングを仕込んだりしてるように聞こえてならないんですけど。」


 「そりゃあ、後ろから密かに尾行してその一部始終を見届けるってのも面白そうだけどよ。あいにくと俺もそんなに暇じゃねえんだよ。」


 とそう言いきられても、相変わらずこの人が日中の間何をやっているのかはわかっていない。まあ恐らく初日の時のように、女のところを渡り歩くという名目で治安維持をしているんだろう。なぜ素直に治安維持のためにパトロールをしていると言わないのか謎ではあるが。


 「ま、せいぜい頑張って振り回されるんだな!勇者様なんて恥ずかしい肩書背負ってるんだから、たまにはマイヤを護ってやれ!はっはっはっはっは!!!」


 「勇者になれとか言ったのあんただろうがあああああ!!!」


 実に腑に落ちない。勇者なんていう肩書は今すぐ返上したいと常々思っているというのに。


 「あらあら、なんかこの光景も見慣れてきた感じがしますね勇者様。」


 でも未だに返上していないのは、こうしてここにいる姫様(天使様)がこうして親しみを込めて勇者様と呼んでくれるからでありまして。


 「よし!じゃあ俺は風呂に入って寝るから、お前らも適当に過ごせ。じゃあな!」


 そして姫様がこちらに戻ってくると、やはり王様はいつものように風呂に入ると言い残してこの場を姫様と2人きりにして去っていく。この流れも10日も経てばすでに見慣れた光景である。


            *     *     *


 「もう修業を始めて10日が経ったのですか。早いものですね勇者様。」


 「本当こちらの世界に来てからは一日一日がとんでもない速さで終わっていきますよー。でも前半の内容が濃すぎたせいか、まだ僕がここにきて13日しか経ってないという方が驚きですかね。」


 僕の部屋のベッドの上で、いつも通り僕らは他愛ない会話を交わしている。相変わらず傍から見るとなかなか衝撃的な映像ではあるだろうが、そこはもうご愛嬌ということでノーツッコミでお願いしたい。何せ姫様が警戒心ゼロでやってくるもんだから、いちいち僕が心配する方が馬鹿馬鹿しく思えてしまうのだ。


 「ふふ、最初の3日間のイベント盛りだくさんだったあの頃がすでに懐かしく思えてきますね。今はもうだいぶ落ち着いてきましたから。」


 「まあ僕にとってはこの10日間もそれなりにハードではありましたけどねえ。現にこうして姫様の助けがないと全身に痛みが走りますし。」


 「それでも最近は普通に晩ご飯も口にできているように見えますけどね。」


 「まあ初日と比べたら幾分かマシにはなりましたよ。それでも痛いのは痛いです。」


 などというような平和な会話を淡々と、カットされた数日間でも行われていた。僕にとっては癒しの時間ではあっても、何も変わり映えしないしひたすら平凡に会話をしているだけの様子をお伝えしてもしょうがないかと思いましてね。

 そしてそんな普通の会話を長々とした僕と姫様だったが、肝心の明日のことについて話すことはなく、そのまま姫様は部屋を後にしてしまった。僕からすると楽しみという気持ちももちろんあるのだが、それ以上に姫様と異世界でデートというすごいよくわからない状態に、未だに脳が付いていけていないということもあり、僕から会話を切り出すことができずにいただけなのだが。一方の姫様は、あまりデートということを強く意識している様子も感じられなかったように思う。これで姫様も緊張していたからその話題に触れられなかったなんていう展開だったら、心のときめきがやばいことになりそうだ。・・・間違っても忘れてるなんてことはない・・・よな・・・?


 ともかく、1人部屋に取り残された僕は部屋に備え付けてあるシャワーを浴びることにした。あ、ちゃんと毎回剣術の稽古の後に風呂に入っているから、決して汚い身体を姫様にマッサージさせているわけではないからね!?

 そうして身体がいい感じに温まった状態で普段ならそのままベッドに行くのだが、今夜はどうもそういう気分にはならなかった。どうやら恥ずかしいことに、明日が楽しみで気持ちが昂ってしまっているらしい。そんな状態で眠れないと早々に悟った僕は、明日のアドバイスをもらいに王様の部屋へと足を運ぶのだった。


            *     *     *


 「もしもーし、王様ー。まだ起きていますよねー?少し話し相手になってもらってもいいですかー?」


 冷静に考えたら、この国を治める王様に対して何とも馴れ馴れしい態度をとっているのだろうか。この人に愛想をつかされたら僕は一巻の終わりだというのにまるで危機感がないのは、自分でも呆れるレベルである。なんてことを思ってはみたものの、どうせここで下手にへりくだったような様子で部屋にやってきてしまったら、それこそ王様にめちゃくちゃな態度をとられそうなので、これくらいのフランクな態度が王様と会話をする上では最適だろう。

 それにしても部屋の中からの返事がなかなか返ってこない。もしや部屋にいないのか?


 「いないんですかー?明日のことで少し話をと思って来たんですがもしかして寝ていますかー?もしもー・・・」


 「寝てると思うんだったらそんな大声で叫ぶんじゃねえよドアホ!!!!!」


 「ブボォオオオ!?」


 二回目のノックを切り上げようとした瞬間、ノックしていたはずのドアが猛烈な音を立てて内側からぶち破られた。ドアが蹴り破られたのだろうか、その衝動でドアが僕に直撃するという悲劇が起きた。


 「ったく、一体何なんだよてめえ・・・ってどうせ明日が楽しみすぎて眠れないとか言うんだろうよ。はあ、なんともめでてえ野郎だなおい。」


 「い、いや・・・。それより・・・。身体のダメージが・・・。」


 「あん?ドアの1個や2個あたったくらいで悲鳴上げてんじゃねえよ。貧弱だなあ相変わらず。」


 「逆にあんな勢いで飛んできたドアに当たっても誰も悲鳴を上げないのこの国!?」


 いくら非常識な世界だからといって、さすがに国民が全員屈強であるという事実だけは信じたくない。そして今頃気づいたけど、王様の部屋のドアはなぜか穴が空いているどころか、凹み一つすら入っていない。いったいどんな技術を使えばこんな頑丈なドアに仕上がるのだろうか。それとも、もしかすると本当に王様は大した力を入れてなかったのだろうか。でも僕の身体は確実に当たった衝撃で後ろに吹っ飛ばされたんだが。

 とまあそんなことはもうこの際どうでもいい。あんなことを言いながらも、ドアに見える部屋のソファーを指さすジェスチャーをしてくれている王様の良心に甘えて、中へと入れてもらおう。


            *     *     *


 「ったくよ。もう255界を回ろうってのに、そんな浮かれた理由で俺を巻き込むんじゃねえよ。おかげで全く仕事が終わらねえじゃねえか。」


 部屋に招かれた(強引に押し入ったに近いが)僕は、とりあえず指さされていたソファーに腰かけた。ノックするまではここに座っていたのだろうか、妙にソファーが生暖かった。

 そしてようやく、スルーしかけた「仕事」という言葉に僕の脳が反応した。


 「仕事って、こんな時間に何をしてるんです?」


 「こんな時間って一体誰のせいだと思ってんだよ!?」


 「いや確実に僕は関係ないですよね!?」


 王様の得意技、責任転嫁が見事に炸裂したところで、王様は急に我に返ったかのように真面目な顔になった。


 「いや、とりあえずお前のせいだから。うん、お前のせいだから。いろいろ辿ればきっとお前のせいになるから。だからお前のせいだ。」


 「いやなんで!?真面目モードになったと思ったらなんでより転嫁が激しくなってんの!?」


 そして新技?の責任転嫁・改も見事に炸裂した。が、なぜか王様は落ち着きを失っている。どゆこと?


 「ふん、この話はもうこれで終わりだ。それでさっさと本題に移れ。言いたいことはなんだ。」


 うーん、どうも話題を逸らされた感がするが、まあ確かにさっさと本題に入った方がよさそうではある。仕事の内容が何かはまた今度聞くとして、今日のところはさっさと人生相談に移ろうか。


 「いやー、じゃあ言いますけどね。王様は僕に、姫様に男性との付き合い方的なものを教えろって言ったじゃないですか?だったらいつ姫様に僕の好意を伝えるのがベストなのかなーとか考えていましてね。どうしたらいいと思います?」


 「ちょ、おいおい!急にまた変な話をし始めるんじゃねえよ。」


 いや、いつもなら普通にさらっと聞き流せる程度の発言だったはずだが?そんな動揺するようなことでも言ったか僕?


 「え、急も何もずっと前から姫様のことが好きだって言ってたじゃないですか。そりゃ明日デートなんていう大一番を迎えるわけだし、そういう話もしますでしょうよ。」


 「ガッシャ――ッン!!!」


 するとなぜか今度は、急に椅子に座っていた王様が、大きな物音を立ててそのまま椅子から転がり落ちていた。え、何?新手のギャグかなんかですか?アルコールでも入ってますか?仕事のやりすぎで頭がおかしくなりましたか?


 「あ、あっちいなあこの部屋は!どうだ、こういう話はバルコニーでしねえか?うん、それがいい!ほら、行くぞタツキ!」


 そして派手にズッコケた王様はすぐさま立ち上がると、場所の移動を提案してきた。なんでこんな挙動不審なのこの人?全然暑くないし。勝手に暑くなってるのあんただけだし。


 「はい?何を言ってるんですk、って引っ張らないでください!わかりました!わかりましたから自分の足で歩かせてください!!!」


 そしてその挙動不審の人からの提案には拒否権なんてものはもちろんなく、強制的に王様の部屋を後にすることとなった。去り際にまた微かに部屋から物音がしたような気がしたんだけど、さすがに王様はここにいるし気のせいだろう。


            *     *     *


 「てめえ、心臓に悪いじゃねえか。俺の寿命を縮めるつもりかこの野郎。」


 「いや、だからなんで勝手に寿命削られてるんですか。いきなりズッコケたりするんですから、こっちの方が心臓に悪いですよ。」


 そして無理やり連れてこられた場所は、王様の部屋がある2階から1階上がった3階にあるバルコニーと呼べそうな場所だった。広さは小さいコンビニくらいはありそうかな?端には柵が立てられており、そこからは王宮の敷地が一望できるようになっている。王宮の入り口を通ると、いつもこのバルコニーが見えてはいたのだが、実際にここに立つのは初めてだ。うん、眺めはとてもいい。


 「まさかこんな早いうちにまたここに来ることになるなんてな。お前が来てから予想外が本当続くなあおい。」


 「え、なんか訳ありなんですかこの場所?」


 「訳ありって言うとなんか響き悪いなおい。まあ確かに訳はあるが、そんな不吉な場所ではねえよ。」


 何があったのか、すかさず聞いてみようとしたが、その問いかけの言葉が口からこぼれることはなかった。王様の横顔を一瞥したときに、それはおそらく簡単に踏み入ってはいけない内容なのだろうということを悟ってしまったからだ。


 「・・・何じろじろと人の顔を見てんだよ。ぶっ飛ばすぞおら!?」


 「なんでいきなり不良チックな発言!?」


 「はあ、いつかお前がマイヤの心を掴むことができたら、その時に話してやるよ。だからさっさと悩み事を話しやがれ。」


 「いやだからさっき言ったじゃないですか。まあ単刀直入に言って、いつ僕の想いを伝えるべきかって話ですよ!」


 「あーはいはい。そんな話だったなそういえば。そんなもん、いい感じの雰囲気になった時に言うだけだ!以上!!!」


 「聞くのめんどくさいからって適当になってませんか王様!?」


 いや夜の11時にいきなり部屋に押しかけておいてこんなこと言える立場ではないんだけどね。

 

 そしてそれからしばらくは僕の思いのたけを語ったが、疲れていたのか、王様が真面目に僕の恋愛相談に乗ってくれることはなく、不完全燃焼な気持ちを抱いたまま僕は部屋に戻ることになった。

 

            *     *     *


 そして気づけば朝になっていた。ベッドの上にダイブしたところまでは記憶があるのだけど、そこから先の記憶がない。どうやら恥ずかしい話、ベッドで横になった瞬間そのまま爆睡してしまったみたいだ。あれだけ熱く語った後だというのに、ベッドというものは実に偉大である。


 「ん?そういえば・・・。」


 頭が回転し始めてしばらくして、ようやく僕は自然と目が覚めたという事実の違和感にたどり着いた。そう、今までは寝起きの時は必ず近くに赤髪の美姫がいたのだ。それなのに今日はやってきていない。すでに15界は過ぎているというのになかなかやってこない。なんだろうこの違和感。謎の胸騒ぎがする。


 とにかく起きなければいけない時間なのは間違いなかったので、僕はせっせと朝の支度を済ませた。ただ、いつもなら姫様が僕の服を持ってきてくれるはずなのだが、今日はまだ来ていないのでそのまま寝間着で食事場へと向かうしかなかった。


 食事場へと向かうと、いつも通りの光景が待ち構えていた・・・というわけではなかった。やはりいないのだ。いつもなら王様の隣、そして僕の隣に座っているはずの姫様が。王様はどこか気まずそうな顔で、爺・・・改め師匠もまた普段とは違い、少し落ち着きがなさそうな顔で僕の顔を見据える。


 「よう、タツキ。その様子じゃお前もマイヤには会えてねえようだな。」


 「お前もってことは、2人も姫様には会ってないのですか?」


 「姫は何か思いつめているそうじゃ。坊主、お前は何もしておらんじゃろうな?」


 姫様が思いつめている?思いつめる・・・ってやっぱり今日のデートのことでってことか?


 「変なことは何もしてないですよ?昨日もいつも通り治療を施してくれたら、そのまま挨拶をして去っていきましたからね。」


 とはいえ師匠には、今日の予定を話していないので、それがもしかすると問題の原因かもしれないということは黙っておくしかなかった。バレたらめんどくさそうじゃん?


 「でも、思いつめているという内容はいったいどこで仕入れた情報なんです?」


 「いやー、なかなか今日はマイヤの姿が見えねえと思って部屋まで行ってみたんだよ。そしたらあいつの部屋の入口にこんな張り紙が貼ってあってよ。」


 そう言って王様は僕に一枚の紙きれを渡してきた。


 「どれどれ、『しばし考えたいことがあるので、1人にしていただきたいです。考え事が終わり次第、今日の予定へと移るつもりです。あと、お手数をおかけしますが、朝ごはんの方は部屋の入口に置いておいていただけると大変助かります。』・・・ですか。つまり、起きてはいるけど部屋に引きこもってるという感じなんですね?」


 「まあそういうことだろうな。だからとりあえずは先に俺たちも飯を食おうぜ。ほら、爺も仕事あるんだから先にやることをやる!」


 「そうは言いますけども、姫がこのようなことをなさるなんて、生まれてから一度たりともなかったではありませんか。さすがのわしも少しは心配しますぞ。」


 さすがのとか言っておいて、親族には相当心配症だと思うんですが師匠。


 「まーあいつだって思春期の女子なんだ。たまには好きにさせてやってもいいだろ。」


 王様のこの発言が想定外だったのか、師匠はその一言を聞くと、「ふうむ。」とうなだれた声をこぼしたまま何も言わなくなった。


 「ということで・・・」


 王様が目の前に置かれている食事に目を向ける。その動作を確認した僕と師匠もまた、食事の合図だと悟り、言葉を飲み込み目の前の食べ物へと意識を集中させる。


 「いただきます!!!」


 そしてその掛け声と共に、僕たちは食事をとり始めるのだった。


            *     *     *


 「むむぅ。何かあったら必ずわしを呼んでくだされ若。」


 「はいはい、とりあえず業務に励め、爺。」


 食事を終え、いつものように・・・ではなかったが渋々師匠は、国の仕事へと向かっていった。この人がいなくなったらこの国はどうなるのだろうかと心配になるが、今はそれよりも心配なことがある。


 「んじゃ、タツキ。マイヤのことはお前に任せたからな。俺にできることは全てやったつもりだ。」


 「やったって、一体何をやったんですか?」


 「いわゆる親子の会話ってやつさ。・・・まあ今回は不慮の事故ってやつではあるものの、少し考えが甘かった俺のせいでもあるからよ。とりあえず一言すまんとだけ言っておく。」


 「え、何があったんですか?書置きにあった今日の予定って、あのことで間違いないんですよね!?」


 あの王様に謝られて、僕の内心はますます謎の焦りに駆られていた。何かあったとすると、昨夜か?または今日の朝か?・・・いや書置きが朝発見されたんだ。それに、王様は今日は一度も姫様の顔を見ていないと言っていたし、問題は昨日の夜に起きたと考えるべきだろう。とすると、僕が王様の部屋を訪ねる前か?後か?・・・昨日の王様が、夜にあんな態度をとっていたことを考えると、前に起きたとみるべきか。あの謎の行動、僕の話にも集中していないようだったあの様子は明らかに何かがおかしかった。その理由が姫様と交わした親子間の会話によるものであったと考えるのが一番ありえそうである。


 「僕が昨日、王様の部屋に行くまでに何かあったんですか?」


 「全部あいつに聞けば解決するさ。あいつの考え事もお前に会えば解決・・・するかはわからんが先には進むだろきっと。」


 しかし、僕の推理の答え合わせをなぜか王様は拒む。なぜ何も話してくれないのか。それを問いただしてもいいが、王様の言う通り姫様に会えばわかるんだったら、今は姫様に会いに行くのが先決だろう。


 「内容によっては後で王様にも事情聴取しますからね!」


 「はあ、気が重いなあ。まあとりあえず、さっさとお前の大事なもんを取り戻してこい。」


 「大事なもんを取り戻すって・・・そんなに深刻なんですか?」


 「だって困るだろ?その恰好でデートなんてよ。」


 「服のことかよ!?」


            *     *     *


 姫様の部屋に来るのは、結婚の話が出たときに、姫様がどう思っているのかを直接本人に問いただそうという、王様のバカみたいなアイデアに付き合わされて2人で訪ねた時以来か。あの時は姫様がまさかの、『クソ親父』などというはしたない言葉を使って、王様の顔面を火球で吹っ飛ばすとかいうすごい事件が起きたっけか。


 王様の話の内容的に僕が関わっていそうな気がプンプン・・・というかほぼ100%する。おまけに、何も考えずに部屋をノックするだけだったら門前払いを食らうかもしれないからと言って、姫様の朝食を僕に持たせるという徹底ぶり。ますます何があったのか気になってしまう。僕がいったいどう絡んでいるというのか。デートのことで悩んでいるにしても、突然今悩み始めた理由がわからない。というより僕が門前払いを受ける可能性があるってどういうことよ。いったい何をしたっていうのよ。

 だからとりあえず書置きの通り、部屋の入口に朝食を置いてみた。でも無言で立ち去るのも変な話なので、一応声だけはかけておこうか。そう思い部屋のドアをノックする。


 「あのー姫様。朝食、書置きの通りにここに置いておきますね。・・・もし、その考え事に決着がついたら、今日の予定を聞かせてください。・・・僕とのデートに問題があるならなしにしてもらっても構わないので。・・・それでは。」


 とりあえず、状況もわからないので控えめなコメントだけ残してみた。が、中からの反応はやはりない。どうしたというのだ。

 

 さすがに原因不明で拒否反応を起こされるのはどうも腑に落ちないので、やはり意地でも直接会って話がしたいのだが、部屋から出てきてもらえない限りはどうしようもない。なのでここは、せっかく持たせてもらった朝食を利用させてもらおうではないか。朝食を取りに部屋のドアを開けたタイミングで、接触を試みる作戦へと移ることにした。


 トラップを仕掛けてからおよそ10分弱、ようやくターゲットは姿を現した。全く、この待ち時間が永遠に続くんじゃないかと思って、すごくひやひやしたわ。でも作戦の甲斐あって、ようやく今日初めて姫様の姿を拝むことに成功した。だが、姫様は朝食のすぐ後ろで正座をして待っていた自分を見つめても、驚く反応を示すことはなかった。 


 「まるで、僕がここにいるのを想定していたと言わんばかりの反応ですね、姫様。」


 「そうですね、タツキ様なら必ず私が部屋から出てくるまで待っているだろうと思っていました。それでも少しは驚いているんですよ?本当にいるかどうかは、確認してみないとわかりませんでしたから。」


 「それは、今の姫様にとっては、幸か不幸かどちらなのでしょうかね。」


 「それはわかりませんが・・・。タツキ様には色々聞かないといけないことがあるのは確かです。なので、そういった意味では幸か不幸かと問われれば幸だったと思います。」


 いつもの笑顔が素敵な姫様ではなく、本当に長い間一人で悩み続けていたということを物語っているような、疲労感漂う顔をしていた。今から僕はいったいこの疲労感マックスの姫様に何を言われるのだろうか。心当たりがあるようでないのがとても不安である。


 「タツキ様。」


 「・・・はい、なんでしょうか。」


 



 「あなたは本当に私のことが好きなのですか?」


春休み中にたくさん更新しようと決意したものの、結局あまり更新ペースが変わらずに終わってしまいました。あっという間に終わってしまった・・・。でも、ストーリーはまだまだ続きます。

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