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科学と愛は冒険の始まり  作者: トレア
第2章
28/72

2-13 信頼

 5日目の朝、姫様はいつも通り僕を起こしに来て、いつも通り僕の服を持ってきては、いつも通り笑顔で部屋を後にした。

 何か言って励ましてあげたいという気持ちはもちろんあるのだが、なんと声をかけてあげればいいのかがわからない。「好きな相手なんて・・・目の前に僕がいるじゃないか(ドヤ)」なんてそんなバカげた台詞は論外として、「元気出してください、きっといい相手が見つかりますよ!」なんて励ますどころかテンプレ発言過ぎて、「うわ、こいつ言うこと思いつかなかったから当たり障りのない言葉を使ってきたーーー」とか思われたくないし、そもそも僕的にもいい相手が見つかってしまうと困るのでこの案も却下。などというやり取りを頭の中で勝手に一人でやっていても、どうも最適解というものが見つからなくてこうして悩んでいるというわけである。ちなみに、睡眠はたっぷりとれたし姫様のおかげで身体の痛みはほぼ完治している。なんと立派な白魔法。


 そうこうしているうちに朝の支度は無事に終わり、残すは毎日恒例朝の王族食事タイムのみとなった。食事場には昨日とは違い、いつも通り王様が一番端に座っており、その隣を姫様と爺さんが埋めているという陣形だ。せっかくこれだけ広い机を使っているのだからもっとスペースを有効活用すればいいのにと日々思うのだが、姫様曰く「それでは何のためにみんなで揃って食事をしているのかわからないじゃないですか。親しい人と同じ空間で一緒に食べるということが、一番おいしく料理を食べる調味料なんですよ♪」だそうだ。・・・まあ僕の疑問にはいまいち答えてもらえなかったんだが、とりあえず可愛かったので二つ返事でなるほどと言い返してしまった以上、今更その話題を掘り返せなくなっているのが現状である。僕的には、食事ってみんなでワイワイ話しながら食べるイメージがあるから、食事中をひたすら無言で貫き通されるとかえって居心地が悪いように感じてしまう。いやまあ居心地の悪さは、いつも僕の目の前に爺さんがいるというのがだいぶ強く影響しているように思うんだが。


 そして食事も終わり、爺さんは相変わらず私室に籠り、王様はいつも全く何をしているかわからないけどとりあえず外出という、2日目にして早くもいつもの流れ(と、この先も呼べそうな状態)へと移行していった。そして僕のいつもの流れと言うと、


 「よう、樹。身体の方は大丈夫そうだな。」

 「おはようございますタツキさん!今日も張りきっていきますよ!!!」


 宗次とお嬢がやってくるから、しばらくその相手をするという流れだ。姫様は毎日のルーティンとして、王宮の兵士たちのところまで行って、コミュニケーションをとりつつ食べ終えた食器を洗いもののスペースへと持っていき、そのまま片付けの手伝いをする、ということをこなしている。これも、「王宮の皆さんに今日も一日頑張ってくださいと鼓舞してあげると喜んでくれるんです。それにお父様も、自分の身分に驕らず、自分にもやれることは手伝ってあげなさいって言うので、小さい頃からずっとやっているんです」という、100点満点なのに思わず1億点くらいあげたくなるような返しをしてきたから、その様子を微笑ましく見守ることにした。あ、ちなみに居候の身だし、僕も姫様に付いて仕事をしようと思ったが、兵士たちの僕を見る視線があまりにも冷ややかでとげとげしかったので、一日でリタイアした。でも今度再挑戦しようとは思っている。僕の姫様と結婚しちゃいましょう計画がうまくいった場合、この国の王様という立場になるわけだし、一兵士とのコミュニケーションも今のうちにやっておくと後々生きてくると思うからね。・・・なんかこの台詞だとまるでこの国を乗っ取ろうとでもしてるのかと思われそうだ。


 そんな感じで姫様の仕事も終わって、時刻はだいたい40界ほど。修業開始は45界からだから、元の世界でいう、7時に起きて着替えて歯を磨いて朝ごはんを食べて9時までに学校へ行くみたいな感じである。修業場はこの王宮の庭だから、実質登校時間はあってないようなものだ。そうすると、だいたい8時半から9時までの30分ほどを4人の談笑時間に使える。この時間と昼飯、夕飯後が基本的に僕のオアシスタイムになりそうだ。言うまでもなく、150界から210界までが地獄の時間である。


 さて、この先何事もなければ、基本的にはこの流れで一日が過ぎていっているということを理解していただいたところで、しばらくは日常と修業編は特筆すべき点がなければカットという感じで!


            *     *     *


 しかし、何事もない生活というのはなかなかないものでございまして。いや実際は、爺さんの修業内容が相変わらずハードだったということ以外は何事もなかったんだけどね。鬼教官から解放されている宗次は色々と練習内容を試行錯誤している。素振りならぬ素突き?をとりあえず僕と同じ回数隣でやっていたり、足腰の筋トレを行っていたり、隙を見つけては爺さんに立ち合いをお願いしたりと、いい感じのモチベーションを保ちながらやっているみたいだ。ちなみに宗次はシャミノさんに治療をしてもらっているらしい。本人曰く、その後もお嬢と会話をしたり、双子たちの世話をしたりと、それなりにナユリア家には溶け込んでいるという自信はあるらしい。そういえば、お嬢から爺さんと槍の話を聞いたとか言ってたっけか。今度僕も聞いてみるか。

 

 と問題はそこではない。僕からするとそれは結構些細なことだ。というのも、僕はこの平和な毎日を過ごす際に、姫様のハートを上手いことキャッチしてハッピーエンドを迎えないといけないという使命があるからな!昨日はなんか想像以上にヘビーな話になってしまったせいで気まずくなってしまったけど、今日はどんどん盛り上げていく感じでいくぞ!

 という心持ちで魔術の修業をしていたんだけど、晩飯の時になると修業の疲れがどっと溜まっているせいで、そんなことを考える余裕すらなくなってしまうのが辛いところである。食事が終わると、やはり昨日と同じように爺さんは部屋に籠り、姫様はルーティンをこなしているので、僕は王様と2人きりの時間を過ごすことになる。僕が言うその何事かはこの王様との2人きり会話以降が相当する。


             *     *     *


 「おいおい、これから毎日お前のそんな萎れた顔を見ることになると思うとうまい飯もまずく感じちまうなあ!?いや、逆にそのお前の様子を見ていると、フォークとナイフがむしろ進んでいるのだけれどな!はっはっはっはっは!!!」


 「・・・いつかその余裕ぶっこいたあなた様に一泡吹かせてやるから待っててくださいよ・・・。」


 「お、珍しく強気じゃねえかよ!でもたとえお前が1upキ〇コとやらを100個くらい食って俺の前に立っても、食った分だけ全員黄泉送りにしてやるから安心しろ!はっはっはっはっは!!!」


 「いやあれはバーチャルの世界だからできる所業ですからね!?」


 クッパなんか比じゃないくらい強そうだよあんたは。てかそんな知識どこで手に入れたし。


 「んでどうだ?昨日部屋に連れ込んだんだろ?やったか!?」


 「何聞いちゃってんのあんた!?してるわけないでしょうよ!?してたら大問題でしょうよ!?」


 一国の姫を部屋に連れ込んで関係を持った日にはいよいよ打ち首でしょうよ!


 「ま、そんな度胸はねえとは思ってたけどよ。それに、仮に「はい」なんて答えられた日には色々と面倒なことになるからそれだけは結婚するまではなしの方向で頼む!」


 「いや恐れ多いわ!そんな勇気もないし・・・。そもそも姫様にそこら辺の知識が備わっているかも正直怪しいですよね。」


 「ふむ、確かにお前の疑問はもっともだな。そういった類の話は自然とどこかから覚えてくるものだと思っていたが、あいつに関してはかなり怪しい。」


 まあ、あれだけピュアの塊みたいな雰囲気出してるしとても教えられる感じではないわな。


 「ふむ・・・。やっぱお前には勇者として、改めてマイヤの護衛を頼む必要がありそうだな。」

 

 「な、なんですか急に。そういう教えづらいことをあれこれ教えてやれと言われても困りますよ僕?」


 というか父親が知り合いの男に、「娘にそういう類のことを教えてやってくれ!」なんて頼む状況、普通に考えて頭おかしいよねえ!?


 「誰もそんないかがわしい話ばっかり教えろなんて言ってねえよ!・・・あいつは少し過保護に育てられちまったからな。この国の上に立つ者なら、国民の感性や価値観も理解しなければならねえだろ?」


 「え、いや、まあ確かにそうですねえ。」


 思ったより真面目な返しが飛んできて少し戸惑ってしまう。どこか最近の王様には、出会った頃の豪快な雰囲気よりも、国を統べる者としての貫禄のようなものを感じることが多いように思う。


 「だからお前があいつをデートに誘って、庶民感覚を養ってやれ!」


 「・・・はい?」


 「だーかーらー!お前があいつと2人きりで、お前が主導の下、あいつを変えてやれと言ってんだ!」


 ・・・ん?僕と姫様で2人きりのデート・・・?・・・いきなり?僕と姫様が・・・?


 「っていやいやいやいやいや!!!僕にはハードルが高すぎますって!姫様はあのままでいいじゃないですか。優しいし、他人を思いやれるとてもいい方ですよ。」


 「はあ!?お前せっかく父親が、娘のことが好きだという男に娘とデートに行かせる許可を出してんのに断んのか!?ぶっ飛ばすぞ!?」


 「ひいいいいい、行かせていただきます!行かせてください!」


 別に断るつもりはなかったけどさー。こんな強制的に父親からデートフラグ立てられてもどうやって反応すればいいかわからんでしょうよ。


 「・・・これで、マイヤにも気持ちの変化があれば嬉しいんだけどな。」


 「え、なんか言いました?」


 「あん?せいぜいあいつに尽くして好きになってもらうんだなって言ったんだよ!」


 いや勝手に一人でキレないでくださいよ。情緒不安定すぎるでしょうよ。

 なんてことを考えていると、姫様が仕事を終えて帰ってきた。


 「お父様、今日は勇者様をいじめてないでしょうね?」


 「お、戻ったかマイヤ。今度こいつと2人きりのデートな!」


 「え!?」

 「だから毎回毎回唐突なんですよあんた!」


            *     *     *


 「お父様がそんなことを・・・。何か意外でした。」


 「確かに僕もまだ出会ってまだ全然経ってないですけど、あんまりそういうことを言うキャラだとは思わなかったです。」


 そしてこれまた定番の状態になるかもしれない、僕の部屋での姫様による白魔法治療の時間がやってきました。一日の中で一番心休まる時間であり、一番楽しみな時間である。

 ちなみに今僕が姫様には話したのは、王様が姫様を過保護に育てすぎたと言い放った時のことである。


 「ふふ、きっとお父様は私が何も知らないと思っているのでしょうね。」


 「お、隠し事か何かですか姫様?年頃の女の子らしいですね。」


 「いえ、そんな可愛らしいものではないですよ?・・・一番私のことを過保護にしてきたのはお父様なのになあって思っただけです。」 


 「へ?あの人が元凶なんですか?」


 これはまたなんというギャップ・・・とこの世界に来たばかりの僕ならそう思っていたところだけど、ここ最近の王様を見ていると、意外とびっくりするような話でもないかとも思える。それでもやっぱり実際に姫様にデレデレしてる姿とかは想像できないんだけどね。


 「あの人がそんな過保護にするようなキャラには見えないんですけどねえ。「え、悩み?そんなもん笑っとけば勝手にどっか行ってるさ!はっはっはっはっは!!!」とか言って、超大雑把に育児してるイメージといいますか。」


 「あら、実際に言われたことありますよその台詞。私がお父様に話しかける時はいつもそんな感じのノリですし。」


 「娘と話してる時も常にそんなノリなんだあの人!?」


 なるほど、性格自体はあれで間違いないということなのだろうか。それとも娘にも見せない裏の顔なんてものがあの人にはあるのだろうか。


 ・・・いや、きっとあるんじゃないか。特に確信があるわけではないが、かといってあのチャラい状態の王様があの王様が全てだとは思えない。あんな感じでいつも飄々としているが、王様のあの適当に聞こえる発言には、いつも何かしらちゃんとした理由がある。昨日の朝には、ザイロン将軍のあの強硬姿勢を、説得力ある意見で打ち破るという快挙を成し遂げている。僕を姫様と結婚させようとしていたのも、表面上では自分が楽できるし面白そうだなんていうめちゃくちゃな理由を述べていたが、実際はこの国の謎のルールに反しない方法で、僕の悩みを解決しようという思いやりに溢れるものだった。

 というたった5日間しか知らない中でもそういった聡明な一面も見てしまった以上、あのパリピモードが素だとは思えないのである。それを娘にも見せてないというのは少し気になるところだがまあそこを考えるのはまた今度にしよう。


 「ちなみにどんな感じに過保護なんです?」


 「そうですねえ・・・。まず魔術を習得するまでは絶対に一人では行動させてくれなかったですね。」


 「え、じゃあ習得するまではどうしてたんですか?」


 「基本的にはサラとずっと一緒にいましたよ。大人の力が必要なときはいつもシャミノ様に頼っていました。そういうことがあったのでナユリア家には今も昔もずっとお世話になっているんです。」


 一昨日の姫様を見た時のナユリア家のあの歓迎ムードは、そういった過去の積み重ねがあったからか。


 「でもまあ、王族の唯一の跡継ぎなんですしそれくらい心配されるのは、普通といえば普通なのでは?」


 「それはそうだと思います。他にも夜は王宮から出ないとか、知らない人とは話さないとかそういったものもありました。」


 なんかルールが、小学生に適用されるようなルールで何ともコメントしがたい。一応、一国の姫なんだし国民と話す機会くらいは設けてあげても良かったのでは?と思わなくもない。


 「まあ多少は過保護かもしれないですねえ。でもまあ大事にされてる証拠じゃないですか?」


 「ええ、私もそのルールに文句を言ったことはありませんでした。ただですね、」


 「ただ?」


 「先ほど少し言いましたけど、お父様は”過保護な父親”というレッテルを私に貼られるのが嫌だったのか、お父様の口から直接こういったことを私に言うことはなかったんです。こういうことを言うと厳しい父親、思ったことを素直に言えないような怖い父親というイメージを与えるんじゃないかって心配していたみたいなんです。ですから実際にこういうことを細かく言っていたのはセイラス様で、お父様は寛容な態度を崩すことはなかったですね。」


 娘から嫌われたくない父親というありきたりの父親像が、あの王様にもあったというのがとても面白い。あの人は誰にも媚びなさそうというか、周りがどう思うと俺は関係ないぜ!みたいなタイプだと思っていただけに、そこのギャップはまあまあ感じるというか。


 「じゃあなんで姫様はそのことを知ってるんですか?」


 「ある日、お父様がセイラス様と私のことについて話しているのを見てしまいましてね。それもその内容が、私がお父様のことをどう思っているのかを聞いてくれなんていうものだったんで、面白くなってしまってナユリア家でその話をしたんです。そしたらシャミノ様が先ほどの話をしてくれました。私が10歳くらいのことだったかしら。」


 「・・・あの人、相当姫様を溺愛してますね・・・。」


 それも結構引くレベルで。


 「その話を聞いて以来、お父様を見る目が少し変わってしまいました。ただの愉快な人というイメージだったんですけど、裏ではすごく繊細で優しい人だったんだなって。」


 そう言った姫様の表情からは、あの王様への心からの尊敬の念を感じる。お互いに話しているときは本当の気持ちを言いあわないけど、裏ではお互いを心の底から信頼しているのがわかる。実にいい親子だ。


 だからこそ、尚更わからないことがある。


 「だったら、そんなに大事にしている姫様をどうして僕なんかと結婚させようとしたんでしょうか。いくら困っている人がいるからって、最愛の娘を・・・言い方が悪いですけど、まるで僕の悩みを解決するための道具扱いしたようにも思えてしまうんですが。」


 どうしてあの人は、そんな大事な娘を得体の知れない僕なんかにあげるというとんでもない決断を、出会って2日目で簡単にできたっていうんだ。どこにその最愛の娘を幸せにできる要素が僕にはあると判断したんだ。どうして僕なんかをそこまで信頼してくれるんだ?・・・いや、僕を信頼しているが故の決断なのか?


 「お父様が何を思ってその話をしたのか、その本意は私にもわかりません。ですが、勇者様ももうすでに感づいてはいらっしゃると思いますが、あの人はあんな風に見えて、大事なことは決してその場のノリなどでは決めない人です。ですからきっと勇者様を助けるという理由以上に何か考えていたんでしょうね。」


 その姫様の考えには僕も同意見である。ただ、その僕を助ける以外の理由というのがとても気になるわけで。その理由を導き出すには知恵も情報も足りないからまあ無理だ。


 「それにお父様の人を見る目だけは確かですよ?ですから、そのお父様が言うのですから、きっと私は勇者様と結ばれたら幸せになれるのでしょうね、ふふふ。」


 な・・・それはもはやプロポーズOKのサインなのではないのですか姫様!?これは「勇者様さえ望んでくれるのなら私はいつでもあなたのものに・・・。」みたいなフリではないですか!?誘ってるんですか?その笑顔は僕を誘っているのですか姫様!?


 「ひ、姫様?それっていったいどういう・・・?」


 「あ、いえ、特に深い意味はないですよ?私はお父様も勇者様も信頼していますから、きっとお父様の言う通りにしていたらいい感じの家族になってただろうなという私の率直の意見ですよ?」


 それのどこが深い意味がないんですかねえ!?もう何?やっぱり誘ってるの!?いやでも待てい天梨樹!お前は過去の失敗を忘れてはいけない。8年前のあの過ちを何度も繰り返してはいけない。慎重に相手の出方を窺うんだ。相手はあの恋愛には無頓着なんていう言葉では言い表せないくらいに疎い姫様だ。焦って暴走しては、今度こそ取り返しがつかないぞ。


 「いやですからね姫様?そういう言い方をされるとですね?僕も少ーし動揺するわけですよ?だってほら、姫様はその・・・か、可愛いじゃないですか・・・?」


「あ、別に勇者様を困らせるために言ったわけではないですよ!?勇者様には想い人がいらっしゃるのにこんなことを言っては反応に困ってしまいますよね!すいません!」


って急に心のシャッター閉められたああああああ!!!

 せっかくいい雰囲気だったのに自分のついた嘘によって全てをおじゃんにされたあああああ!!!。

 いやまあ、今告白してしまうのは時期尚早ではあるだろうし、万が一待望のokサインをいただけていたとしても、他の面々にどう説明すればいいのかわからないので、ここはそれとない返事に留めておこう。・・・はあ、悲しい。


「・・・いやいや気にしないでください。むしろ姫様のような方にそこまで言ってもらえる僕はとても幸せ者です。ありがとうございます。」


ふ、決まった。こんな爽やかな返しをこの一瞬で思いついた僕はなかなか冴えている。これは側から見た人でもかなりの好印象な青年に見えるはず!・・・ベッドにうつ伏せの状態で姫様にマッサージをしてもらっていなければの話だが。


「ふふ、では勇者様、治療の方が終わりました。明日も修業頑張ってくださいね!」


「いやあ、毎回すいません。でもこれがないと本当に次の日動けるか怪しいので・・・。」


「いえいえ、気にしないでください。一応私の護衛のためということも兼ねてもらってますから、私にもこれくらいはさせてください。」


うう、なんていい子なんだ・・・。やはり天使や女神の類なのではないだろうかこの子。


「それではまた明日起こしにきますね!・・・デートの方も楽しみに待たせていただきますね。」


「え、楽しみにしてくれるんですか!?」


「生まれて初めてですから少し緊張もしますけどね。でもきっと勇者様とどこかへ行くのなら、それは楽しいものになると思いますから。」


そういって照れくさそうにニッコリと笑い、姫様は部屋を後にしようとした。だが、姫様は部屋を出る瞬間にまたこちらを向いて、


 「・・・だからしっかり私をエスコートしてくださいね、勇者様?」


と一言添えて今度こそ部屋を後にしていった。その笑顔が僕の本日の睡眠時間を15界ほど奪っていきましたとさ。


 ということで、僕は姫様とデートする約束をいきなり取り付けることに成功した。果たしてどこに連れていけばいいのか、どうしたら楽しいと思ってくれるのか。本格的なデートの経験が僕にもないのが辛いが、姫様にも言われた通り、ここは年上であり、男である僕が今までのダメダメな印象を払拭するまたとない好機なのだ。失敗はできない。ここで男らしさをアピールしてしっかりとハートキャッチしていくんだ天梨樹!


            *     *     *


 樹とマイヤが部屋にいる間、王宮の3階にあるバルコニーでは別の二人の男がいた。


 「・・・この時間にこの場所でこうして会うのは久々ではないですか、若?」


 「俺はあんまりこの場所に来るのが好きじゃねえからな。それで久々に来てみたらお前に鉢合わせするなんて、やっぱりこの場所には来るべきじゃなかったかもな。」


 「相変わらずわしに対する扱いがひどいのう。この国の業務まで任せきりにしておるんじゃから感謝の言葉の一つもかけてくれてもよいのでは???」


 「適材適所って言葉があんだよ。俺はデスクワークより実務活動の方が向いてると思ってるから俺に向いていない仕事はお前にやらせてるだけだ。文句あるか!?」


 「文句しか出て来んわい!全く、人使いが荒いったらない。おまけにあの坊主たちの世話まで見させられて、いよいよ過労死する未来が見えてきたわい。」


 「大丈夫だ、お前がまだまだグチグチ言いながらピンピン働いてる未来が俺には見えるからな!」


 「それはそれで大丈夫ではないわ!」


 「・・・」


 「・・・」


 「それで、いったいどうしたというんですか若。あの居候変態坊主が来てからというもの、若はまた変わられたように思えるんじゃが。」


 「ふ、それは気のせいというものよ爺。俺はいつだってガルディンだ。それが急に別の誰かになるわけがなかろう。」


 「その台詞はもう耳にタコができるほど聞きましたわい。・・・何か考えておられるとは思っておりますが、まさかあれだけ溺愛していた娘を結婚させようなんて言うんじゃからさすがに驚きましたぞ。」


 「・・・まあお前が驚くのは無理ないだろうな。でも、あれもあいつのことを思ってのことだ。俺は決してあの誓いを忘れたわけではない。」


 「誓い・・・のう。もうあれから18年も経ったと思うと随分と感慨深いですなあ。」


 「18年・・・か。・・・そう言うと、すごく長く聞こえるのが不思議なもんだ。実際はあっという間すぎて100年以上は生きているような感覚だな。」


 「それをわしに言うなど、勝負を挑む相手を間違えましたな。何せこの爺はもう・・・。」


 「あーハイハイわかったわかった。わかったから口を開くな。」


 「拗ねますぞ!?」


 「はいはい、拗ねろ拗ねろ。」


 「はあ、ひどい王様がいたもんじゃのう。」


 「・・・」


 「・・・のう、若。ここに来たということは、やはり何か悩んでおるのではないか?」


 「ったく、なんなんだよお前ら親子は。揃いもそろって俺を鬱患者みたいな扱いしやがって。」


 「そうではないが・・・。若がここに来るということは、それなりに大きな心情の変化があったと見ておるんじゃが。」


 「・・・はあ、だから一人が良かったんだ。もういい、戻る!お前も体を冷やす前にさっさと寝ろ!」


 「あーいや、失礼した。いくら若にとはいえ少々プライベートに踏み込みすぎてしまいましたな。わしが先に戻ります。王もくれぐれも身体を冷やさぬように。」


 「気を利かすのが遅えんだよ。・・・心配すんな、俺は大丈夫だから安心しろ。」


 「・・・何かあったらわしにでも娘にでも言ってくだされ。わしらは王の味方です。気など使わぬように。」


 「ああ、わーってる。じゃあな、おやすみ。」


 「はい、失礼いたします。」


 そして一人の男は去り、バルコニーには残されたもう1人の男と静寂が残された。


 「・・・よう、久しぶりだなミアラ。久々ついでに面白い奴の話をしてやるから、ちょっと付き合ってくれよ。そいつはタツキって言ってな・・・。」


 男は静寂を破るかのように独りごとを言い始めた。


 「そんでそいつがやっぱり本当はマイヤが好きだって言いやがるんだよ。でも、あいつはまあ変な奴だけどいい奴だからよ、前々からの計画通りあいつにマイヤをくれてやることにした。お前は会ったこともねえし心配だろうから、いつかここに連れてきてやるよ。もちろんマイヤも連れてくるからな!楽しみに・・・。楽しみに・・・。」


 話し続けること20界。男は喜怒哀楽をふんだんに混ぜながら独り言を続けていく。


 「なんで死んじゃうんだよ・・・。お前がいねえとやっぱり意味ねえんだよっ!クソっ!」


 男は嗚咽を漏らす。そして、この言葉を最後に再びバルコニーは静寂に包まれるのだった。 

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