2-12 修業開始
「はーい、それでは魔術の修行を始めますよー。」
「さあさあ、張り切っていってみましょー!」
「思いのほかやる気だなあの2人。」
「う、うん。やる気があるのは嬉しいけどあの2人のやる気って少し怖いんだよね僕。」
王様の鶴の一声が場を収束してから15界、ナユリア家大黒柱及びその妻、息子並びにその弟妹は元の居場所に戻っていった。あとから事情を聴くと、どうやらシャミノさんはあの夜この王宮に泊まっていったらしく、ごはんが家になかったためナユリア家総出で王宮に殴り込みに来たという事情だったらしい。って、え、まさかあのまま王様の部屋で一夜を過ごしたのか!?おいおい、危ないにおいがしてくるな。くれぐれも王族のドロドロ展開とかはやめてくださいよ・・・?
こほん、まあそれはともかく早速修業に励めとの王様の言葉だったので、姫様とお嬢にこうして第一回魔術講座を開いてもらっているということです。さあ、改めて最強への道を歩もうではないか!
「まずは、ソージの魔術適性を見ましょうか。得意の魔術を伸ばすのが最初は大事ですからね。」
「俺が魔法かー。なんか今まで全然想像してこなかったから変な気分だなー。これで全部の魔術適性とか出したらやばくね?早く元の世界に戻れるぜ?」
「はは、そんなことあるわけないだろ!王族の血を継いでる姫様とかザイロンさんとかそのレベルしか無理だって。」
「よほどの天性の才能をお持ちでしたらあるいはといったところでしょうかね。ザイロン様はそちらの類だとお聞きしましたし、可能性はゼロではないですよ。」
まあ、確かに可能性はゼロではないかもしれないし、宗次が強くなれればぐっと戦闘が楽になるのは間違いないんだろうけど・・・。いや、決して嫉妬とかしないんだからね?魔術適性が何も出ない方が面白いとか決して考えてないんだからね?本当だからね?
「ということで入門書全部持ってきたから一通り唱えてみてよ!ごちゃごちゃ言うのはその後ってことで!」
* * *
「ふむふむなるほど。ソージは地属性の適性がかなり高いね!あとは、火がちょっと良くて他は普通かー。・・・うん!なかなかいい結果じゃないかな!」
「そうね。先ほど散々持ち上げちゃったから残念に思うかもしれないけど、これでも十分すごい方ですよ?苦手がないってだけでも魔術適性は十分にあるって言っていいくらいですからね。」
「ま、地属性ってなんか俺らしい気もするな。俺もそれなりに満足かな。」
適性反応の結果、まあそれなりに優秀という何ともツッコみ難い結果・・・いやいい結果が出て、宗次は満足そうな顔をしている。僕もこれくらいでよかったんだけど、どうして極めて特殊な体質なんか持っているんだ?てっきり異世界組はこういう何かにずば抜けた才能を持つ的な流れかと思ってたのにどこか肩透かしを食らった気分である。
「じゃあ、まずはソージは地属性の基本魔法を教えよう。タツキさんは白魔法の基礎をマイヤ様から習っておいてくださいね。」
本人曰く、お嬢は4属性は基本的に全部備えているらしく、その中でも風がずば抜けているが、白魔法だけは苦手らしく、使えないし教えるのはもってのほかなんだそうだ。「いやー私は人を攻撃することしかできないんですよねーあはははは!」と満面の笑みを浮かべていた様子にどこか鳥肌が立ったことをよく覚えている。
「それでは勇者様。白魔法の基礎は私の方が教えますね!」
何はともあれ、お嬢が白魔法が苦手なことは、ある意味僕にとってはありがたいことだ。何せ、これからの魔術練習は姫様と二人きりの練習になることが約束されたからな!
「ふふ、どうしたんですか勇者様?どこか嬉しそうな様子に見えますね。」
「いやあ、こうして姫様に魔術を教えてもらうことになるなんて思ってもなかったんで、なんか不思議な感覚なんですよ。」
「ええ、私も何か不思議な感じがします。勇者様になってくださいと頼んだのは私なのに、私が勇者様に戦い方を教えることになるなんてね、ふふふ」
「白魔法が戦う術になるかどうかは誰も保証してくれてないんですけどね。」
「そこはソージさんにお任せするしかないかもしれませんね。」
「えーそんなー!」
ああ、なんだろう。こうして何も考えずに会話をしたのなんていつぶりなのだろうか。何も悩みがない中でこうして誰かと他愛ない会話ができたのはいつ以来なのだろうか。こんなに誰かと話して心地よい気分になったのはいつが最後だっただろうか。
きっと、それは15歳のころまで遡らないといけないんじゃないか。・・・玲那と2人でよく遊びに出かけていたあの頃まで。思えば今の状況は、やってる内容こそ天地の差があるけど、場の雰囲気や僕の心の持ちようはあの頃と同じだ。この8年間失われていたものがやっと戻ってきたような感覚が・・・ってあれ?
「ゆ、勇者様!?どうかされましたか!?もしかして今の言葉がお気に召しませんでしたか!?」
「え、あ、あれ?・・・もしかして今、僕泣いてました?」
「ご、ごめんなさい!まさかそこまで気にされてるとは思わなくて!なんとお詫びを申し上げればよいか!」
「いやいや!違いますよ!これは姫様のせいではないです!目が乾いてしまったところにゴミが入るというダブルパンチを食らって涙が出ただけです!」
あああああ、何をやっているんだ僕は!まさか二度も姫様の前で泣き出してしまうとはああああ!情けない!なんて情けないんだ僕は!
「あらあら、それは災難でしたね。でもそんな時にも使えるのが白魔法ですよ?・・・えい!」
ってうわあああ!視界がキラキラしてる!ってなんだこれ、すごい気持ちいい。何この超高級な目薬を差しましたみたいなこの清涼感!いや超高級目薬なんて知らないけど。ああ、いい!
「ふふ、どうですか?すっきりしましたか?」
「天に昇るような心地でした。このままずっとこれが続けばなんて思ったくらいです!」
「ふふ、随分と大袈裟ですね。では、まずはこの魔法をマスターしましょうね勇者様!」
「・・・やっぱ戦いには向かなさそうですね白魔法。」
* * *
「ふん、来おったか小童ども!今日が貴様らの命日だと思え!」
「いや剣術を教えてくれるんですよねそうなんですよね!?」
「なんで目からそんなにギラギラとした殺気が溢れ出てるんですかお爺さん・・・。」
姫様とお嬢の楽しい楽しい魔術修業を終えた僕たちは(その間、昼食を摂るなどの息抜きもあったが)、爺さんとの約束の時間の150界に道場へと足を踏み入れた。そしたら足を踏み入れただけでこの一言である。
「ふん、孫娘たちからは随分と甘やかされとるようじゃが、わしはそんなに甘くはないぞ!やると言ってしまったからには徹底的にビシバシとやるからな!さあ、さっさと始めるぞい!」
そう言うと、木刀のようなものを2本手に持って僕らの足元へと投げてきた。
「そいつを握れ。握ったら手始めに素振りを1,000回じゃ!ほれ、始めんか!」
着くや否やすぐに特訓を始めさせようとする爺さんは、いつも以上の鬼気を放っている。いったい自分たちが何をしたというのか。娘たちにおだてられて始めた仕事に今更ながら不満を感じているのだろうか。だとしたらキレられる筋合いなど微塵もない。なんて思っていたら宗次が突然変なことを言い始めた。
「あのー、一つ聞きたいことがあるんですがー?」
「なんじゃ!?不満があるならさっさと出て行け!」
「いやー、そう構えないでくださいよ。・・・この世界には剣術しかないんですか?」
「は?何を馬鹿なことを言っとるんじゃ?そりゃあ武器が剣しかないからな。当たり前じゃ!」
「いえ、実は俺、剣よりも槍の方に興味がありましてね。もしこの世界に槍があるなら槍がいいなーなんて思ったんですけど。」
おいおいおいおい!何勝手なこと言いだしてるんだこいつ!?これで爺さんがさらに腹を立てたらどうするつもりだよ!ほら、爺さんだって変な顔してんじゃねえか!・・・ん?変な顔?
「・・・お前、その名前をどこで聞いた?」
「いや、どこって言われても・・・元の世界でですけど?」
宗次がそう言うと、爺さんは少し驚いた表情を浮かべて、武器蔵だと思われる場所へと戻っていった。
「おい宗次、お前が生意気なこと言うから爺さんが怒っちまったじゃんよ。」
「え、そうか?俺には怒ってるようには全く見えなかったけど。」
なんていう会話をしていると、爺さんが槍を一本握って戻ってきた。
「お前が言う槍とは、もしかしてこれのことだったりしないよな?」
「なんだ、この世界にもあるじゃないですか槍。」
「でも爺さんは剣術しかできないから槍術は教えられないんじゃないか?」
「なんと・・・。本当にこれが・・・。」
突然爺さんがうろたえ始めた。まるで今までこれが槍だという確信がなかったかのように、爺さんは手にある槍をまじまじと見つめている。
「・・・ソージとか言ったか。お前はこの武器を知っているんだな?・・・というよりこんな武器がお前たちの世界にはあるんじゃな?」
「・・・?え、ええ。かなり有名な類の武器ですけど。」
「使い方はわかるのか?」
「わかるというか、まあテレビとかで戦争ものを見る時に兵士がよく持っているのを見たりはしますけど。」
「・・・じゃあお前はこれを使えばよい。お前はその槍とやらを極めておれ。」
「は、はあ。でも誰も教えてくれないんじゃ、強くなれないんじゃ・・・?」
「じゃからお前がその槍術とか言ったか?とやらを考えろ!」
「はあ!?んな無茶な!」
「これはお前が言い出したことじゃ!なんとしても成し遂げろ!お前が槍術の起源になるんじゃ!」
「いやめちゃくちゃですやん!?」
なんかよくわかんないけど、かつてないほど爺さんが興奮している気がする。いったいあの槍になんの意味があったんだろう。というかあったのに誰も使わなかったし、名前すらも知らなかったのか?んーこの世界はこういう細かいところで謎が多い。
「!?何をボーっとしておるんじゃこの変態坊主!お前はさっさと素振り1000回じゃ!」
「いややっぱり僕へのあたりが強すぎません!?」
* * *
「はっはっはっはっは!!!その様子じゃ随分と爺にしごかれたようだなタツキ!」
「う、腕が・・・。もう現時点ですでに筋肉痛なんですが・・・。」
「じゃあ、お前が今練習している白魔法でその痛みを治すんだな!」
「ま、まだそこまで上達していません・・・。」
「じゃあ諦めて苦しめ!あっはっはっはっは!!!」
「この鬼畜王めえええ!!!」
爺さんによる超絶ハードなトレーニングから解放された僕は、ようやく晩ご飯にありつくことができた。とは言っても、フォークを握るのも一苦労だった僕は、食べるという行為自体にすら苦しめられたわけだが。そして今は、その苦しんでいる姿を一部始終見ていた王様と2人きりで一服中である。爺さんはさっさと私室へ、姫様は食べ終わった食器の片付けの手伝いだ。うん、本当できた姫様である。
「ま、最初からうまくいけばお前は神かなんかだ。この俺だって剣術は十数年かけてやったんだ。お前なんかもうどう頑張ったって俺には追いつけねーよ。」
「王国最強が見ず知らずの男に追いつかれたらシャレにならないでしょうよ。第一、僕もう20代ですからね?この歳からこんなに無茶するなんて思ってませんでしたからね?」
年相応の疲労の蓄積ってものもそうだし、何より今までろくに運動してこなかったつけがここにきて回ってきている。これが元剣道部とかだったらだいぶ話が違うんだろうけど、あいにく僕は昔から剣術よりも弓術の方が興味があったせいで弓道にしか携わっていない。まあ、それもアニメの影響で始めただけで、そこまでうまいわけではない。ましてやすでにあれから8年の年月が経っている。ブランクが長すぎる。
「でも、真面目にその痛みは早めにマイヤに診てもらった方がいいぞ?それこそ明日の練習にも大きく響くしな。」
「うう、また姫様の世話になるのかあ。本当ダメな部分しか見せてないなあ僕。」
「・・・目標に向かって頑張って取り組んでるやつを嘲笑うような女じゃねえよあいつは。」
「ん?なんか言いました?」
珍しくあの王様がボソボソと聞き取れないトーンで喋っている。
「・・・あのな。この期間をただの特訓期間にするだけじゃダメだからなお前?」
「そ、そりゃあわかってますけど。でも少なくとも今は無理ですよー。こんな調子じゃいいとこなんか見せれっこないですよ。」
「そんなもんお前の努力次第だ。俺が口出しする話じゃねえ。」
「えー、恋愛マスターなんだったら教えてくださいよ王様!どうしたら気になるあの子は振り向いてくれますか!?」
「さあて、どうだろうなあ?振り向いてくれなかったことがねえしなあ俺は。お前の気持ちはわからねえなあ!あっはっはっはっは!!!」
「爆ぜろクソリア充!!!」
何が恋愛マスターだクソッたれ。結局世の中ルックスじゃねえか!
「まったく、そうやって一日頑張って修業してお疲れの方をからかって遊んではダメよお父様?初日からかなりハードなタスクをこなしてきたはずなんですからその苦労を少しは労ってあげてはいかがですか?」
と思ったら癒しの女神降臨のお知らせだ!やったぜ!
「お、来たかマイヤ。ちょうどいい。あとのこいつの世話は任せたぞ!俺は風呂に入る。」
「え、ちょっと!?お父様ー!?」
「いや、露骨すぎませんかね王様!?」
そう言うと、王様は本当にさっさとこの場を去ってしまった。まったく、あの人は僕を応援する気があるのかないのかさっぱりわからん。まあ、あるんだろうけど。でもここで、「まったく、素直じゃないんだからーこのこのー」なんて煽りをした日には、何人から「お前が言うな」というクレームが来るかわかんないから言わないでおこう。
「何が露骨なんですか勇者様?」
「あー!!その台詞は忘れてくださいね!!!」
* * *
「まあ!?全身の筋肉の損傷がかなり激しいですわね!特に腕なんて繊維がめちゃくちゃじゃないですか!」
「ええ・・・。あの爺さんにこっぴどくやられたんでね、あ、そこ持ち上げないで!痛い痛い痛い!!!」
「ああ、すいません!!!待っててください、すぐに治しますから!」
部屋に戻って治療をした方がいいという姫様の一言で、とりあえず僕の部屋に来てもらったわけだが(同じ屋根の下で暮らしている&朝起こしにいつも部屋に入ってもらっていることもあり、部屋に呼ぶのには慣れた)、部屋に入るなりすぐにベッドに横にされ、姫様に身体をほぐしてもらっているという超絶ハッピータイムが始まっている。いや、この状況を楽しむ以上に身体の痛みの激しさが主張してくるので、全然ハッピーではない。
「セイラス様の修業は厳しいとはうかがっていましたが、まさか一日のわずか60界ほどでここまで全身を損傷するようなことになるなんて想像以上です。」
「いやあ、内容自体はきっと超強豪校剣道部なんかとそんなに変わらないんだと思いますけど、いかんせん僕の体力が全盛期とは違って落ちてますからね・・・。」
「その超なんとかかんとかというのは存じ上げませんが、このまま毎日これが続きますと身体が持たなくなりますよ?」
「実際問題、姫様がいなかったら多分明日はベッドから起き上がれないと思ってましたからね。だから助かりましたよー。これで何の気兼ねなくこれからも修業に励めますから。」
「いえ、私にできるのはこうして損傷部分に治癒魔法をかけて、自然治癒能力を高めるだけですよ?これがさらにひどくなると、魔術を施してもなかなか治らなくなりますからね?」
ん?つまり即効で回復するわけじゃなくて、治るのを早めるだけってことか。よっぽど派手に筋肉痛になると何日間も痛みが治まらないし、そうなるとまずいってことか。
「でもあの爺さんが手を抜いてくれると思えないんだけどなあ。初っ端、今日がお前の命日だ!とか言われましたし。」
「ふふ、それは随分とひどいことを言われましたね。でもこうして生きてるだけよかったじゃないですか!」
「死んだら元も子もないじゃないですか!」
なーんて他愛のない会話をして、ベッドでうつ伏せ状態の僕と、その状態の僕を揉み解してくれている姫様は笑いあっていた。・・・やっぱりこの空気をとても心地よく感じるということは、僕は姫様のことが好きなのだろう。8年前のあの時と同じような心の温かさを感じるから。
思えば不思議な感覚だなと思う。髪色も目の色も年齢も全部玲那とは違うはずなのに、その性格だけは似たようなものを感じるというか。優しく全てを包み込んでくれるような穏やかなそのオーラだけは本当によく似ている。この一緒にいる時の安心感だけは、世界を越えても僕の心を刺激してくる。
「勇者様ー?」
「・・・・・」
「終わりましたよー勇者様ー?」
「・・・・・」
「タツキ様!」
「は、はい!?」
はー、いかんいかん!また一人のシンキングタイムに没頭してしまった。っていつの間にか姫様が目の前にいる!?
「ふふ、勇者様はいつもそうやって急に自分の世界に入られますよね。」
「え・・・」
え、何だろう、なんかこの台詞を聞いたのって初めてじゃないような気がする。いや、そりゃあ何回か言われたことはあるのかもしれないけど、なんか似たような状況が昔あったような・・・。というより今、一瞬マジで玲那と姫様が重なって見えた・・・?って、今はとりあえず目の前だ。ベッドに座りなおすところから始めよう。
「す、すいません。ちょっと考え事をしてました。」
「ふふ、今日の修業中も同じような顔をしてましたよ?心がどこかふわーっと遠くへ行ってしまっているそんな顔をしてました。そしたら急に涙を流されていたので、一体何が起こったのかと心配になりましたよ。」
「あ、あの時のことはもう忘れてください!あれは僕の中でも予想外のことだったんですから。」
あれは本当に黒歴史だ。まさか昔を思い出して泣くことになっただなんて口が裂けてでも言えない。ダサすぎる。
「ふふ、忘れようとも思ったんですけどね。ですが、あの時の表情が昨日の時の表情とはどう見ても違っていたので少し気になってしまいました。」
「あああああああ!!!あの時のことももう忘れてもらっていいですからあああああ!!!」
そして次に投下されたのは黒歴史オブ黒歴史。わずか4日でよくもまあここまで黒歴史を残せるものだなあ!?
「今日の勇者様、まるで生き別れた家族にでも出会ったかのような顔で泣いてらっしゃったので。」
「だ、だからあれは目にゴミが!」
「ふふ、私、勇者様の涙が本当か嘘かはもうちゃんと見抜けるようになりましたよ?」
う、なんて屈託のない笑顔だ・・・!この顔でその台詞は反則ではあるまいか姫様・・・!?
「勇者様との修業の後に、あの涙の理由を考えてみたんです。・・・もしかして勇者様は昔のことを思い出されていたのではないですか?」
「え!?どうしてそれを・・・?」
「ふふ、ただの天然で騙されやすい女だと思ってたら足元すくっちゃいますよ?」
う、本当に足元をすくわれただけに何も言い返せない。
「・・・あんな顔で泣かれたらさすがの私でも察しますよ。玲那さんのことを思い出していたんだろうということくらいは。」
んー少し姫様が思っていることとはズレが生じているだろうけど、思い出している内容自体は同じだからまあいいか。とりあえずここは話を合わせておこうか。
「僕は8年間という年月を棒に振りましたからね。ひたすら研究に明け暮れ、会話相手は宗次と家族とたまに行くコンビニの店員のみ。それも宗次以外はほとんど会話という会話をせずに過ごしました。その宗次とも、会話内容はだいたいタイムマシンのことと玲那のこと。」
姫様はただ険しい顔になることもなく、昨日のあの時のような慈しみの笑みを浮かべている。こんな話をしたってしょうがないことはわかっているが、僕の口は相変わらず言うことを聞いてくれない。
「この8年間、僕には感情というものが欠落していたような気がします。こっちの世界に来て、色んな人に出会って、普通に会話するようになって、そしてようやく今日になって心を落ち着かせられるような状態になって・・・。そんなときに姫様と普通に会話をしていたら、突然8年前の楽しかった頃の記憶が蘇ってきたんですよ。ただ楽しかったあの頃の思い出に浸っていたら、なぜか涙が出てしまって。」
「・・・・・。」
やはり返ってくるのは反応に困ってしまったと言わんばかりの無言だ。無理もない。いきなり無駄に重い話を聞かされて、それに対する返答をすっと出せる人なんてそういない。というか僕は姫様に好きになってもらおうという意思があるのか!?と思わず疑問を抱きたくなるくらい好感度を上げる会話というものができていない。これはまた王様のお説教タイムが待っているかなあ。
「・・・やっぱり、どう返せばいいか困りますよね。すいませんこんな話をして。今のことは忘れてください!こんな重い話されたって・・」
「いえ違うんです!・・・普通に興味があったんです。・・・勇者様が昔住んでいた世界には、私の知らない日常がきっとあって・・・、私が想像できないような生活がきっとあって・・・、私が経験できないような楽しいことがいっぱいあって・・・。一国の姫としてではなく、ごくごく普通ののどかな場所で暮らす一人の民として日々を享受できるそんな世界があるのかなって。これってやっぱり、ないものねだりなんでしょうかね?」
そう語る姫様は、どこか檻の中から外を見上げるような、自由への憧れのようなものを含んだ表情を浮かべていた。やはり、王族というものは、そういった普通の人が知らないところでストレスを感じるものなのだろうか。
「僕も別に貧しい家の子供というわけではなかったですけど、もし王族という身分に生まれていたら、なんていう想像をするくらいには憧れてましたからね。人間なんてそんな生き物でしょうきっと。」
「ええ、きっとおっしゃる通りでしょうね。ですから私も一国の姫として生まれたことはとても幸せなことだと思って生きております。」
自分の生まればかりは自分には決められない。自分の場合、不幸になる原因は全て自分にあるから完全に自業自得なんだけどね。やばい、本当に僕と姫様じゃスケールが違いすぎる。
「ただ・・・ですね。」
「ただ・・・?」
そう言葉をためる姫様は、ほんの少しだけ顔を紅潮させていた。
「私も勇者様みたいに恋をしてみたかったなあと、そう思うのですよ。」
「え、恋ですか?」
意外・・・といえば意外だったかもしれない。今までもお嬢にいじられたり僕の恋について言及はしていたものの、姫様自身が本気で恋をしたいと思っているかどうかは疑わしいと思う自分もいたから。
「私もこういう身分ですから、なかなか出会いの機会というものがなくて。それに仮にあったとしても、私のこの身分のせいで身を引かれる方や、崇拝の対象にされてしまってとても恋愛なんてものができる状態ではなかったです。」
「はあ~、散々恋愛に疎いって言われてましたけど、これは仕方ないとしか言えないですね。」
どっかのアニメだったら、ある日王宮を抜け出すと、そこには運命的な出会いが・・・!みたいな展開になりそうなものだけど、姫様がそんなやんちゃするとは思えないしねえ。これは確かに王族という身分を呪いたくもなるわな。
「ん?でも姫様、いずれは結婚することになるんですよね?」
「はい、いつかはすることになると思います。その場合、きっと村にいる魔獣戦線の方々の誰かとお見合いすることになるかと思うのですが・・・。」
そう言うと、姫様の顔が少し曇った。
「私が自分の結婚相手になってくださいと言って、その人の運命を問答無用でこちらの過酷な世界へと連れてきてしまうなんて、恐れ多いと言いますか、申し訳ないというか・・・。」
一国の姫と結婚できるなんてこの上ない誉れだっていうのに、この人はまるで自分と結婚する人に同情するとでも言いたそうな口ぶりである。もう少しこの人は自分の価値、というか魅力に気づいた方がいいんじゃないかな。
「ですから、これはお父様や他の人には言わないで欲しいのですが・・・。」
「はい。」
「・・・やっぱり結婚する相手は、私を好きでいてくれて・・・、そして私が心の底から好きになった人とがいいな。」
「姫様・・・。」
しばらく何も言葉が出なかった。こんな当然のことすら望めぬ理不尽さとか、それを言うとわがままになるとわかっているから他の誰にも打ち明けられずにいた境遇とか。
「・・・だから私の分まで、タツキ様は幸せになってくださいね。約束ですよ?」
「・・・・・。」
「そ、そんな深刻な顔をしないでください!別にこの運命を恨んだことなんてないですからね!きっと私も幸せになれますから!ね?」
「・・・はい。」
「あら、随分と長い間話し込んでしまいました。また明日も修業がありますし、今日はもうゆっくり休んでくださいね!では、おやすみなさいませ。」
「あ・・・。」
自分で作り出したこの空気に耐えられなくなったのか、姫様はそそくさと部屋を後にした。
僕はその日、風呂に入っても、寝る時間になってベッドで横になっても、姫様の発言が頭から離れなくなっていた。
4日目の夜、頭と全身が鈍い痛みを訴えて幕を下ろした。
最近ゼノブレイド2というゲームを始めたんですが、そこに出てくるホムラというキャラクターに私は戦慄しました。
「こ、こいつ!?俺が描いていたマイヤ姫とほぼ瓜二つじゃねえか!!!!!?????」と。
キャラ紹介ページに書きましたが、一応キャラ一人一人のビジュアルは私の中でできています。絵が下手くそなんで実際に描くことはできませんが、ホムラを見たときにあまりにもイメージと似すぎていて、脳内をのぞき見されたかと思わず疑うレベルでした。服装とか髪の長さは違うんですけどね。でも声までイメージとよく似ていました。
ま、まあこの作品は2017年8月からやってるし???ゼノブレイド2よりも早かったし???天下の任天堂様がパクっただけだし???
・・・もうこっちの名前もホムラにしてしまおうかな(狂乱)




