2-11 王の一声
「はっはっはっはっは!お前、思った以上に変わった奴だったんだな!俺の見込み以上だ!はっはっはっはっは!!!」
「どの発言に対する感想なのかはよくわかりませんけど、とりあえず嬉しくないです。」
「いやあ、俺の権力を使うんじゃなくて純粋にお前の魅力で娘を落とそうなんていう、その心意気に素直に感心したんだよ!そうか、少しはマシな人間だったかー。夜遅くに帰ってきて俺の寝室まで来て話があるなんて言うからどんな用事かと思えば・・・はっはっはっはっは!!!」
「いい加減高らかに僕のことを笑い飛ばすのやめていただけませんかねえ!?」
ナユリア家での攻防からようやく帰還した僕と姫様は、昨日(というか今日の夜中というか)よく眠れなかったことも相まって疲労がピークに達していた。今日のところはもう風呂に入って寝ましょうと言い残して、僕は密かに王様の寝室へと足を運んでいたというわけだ。姫様に聞かれてはまずい内容だったのだから仕方ない。
「んで、なんでそいつまで一緒に連れてきたんだよタツキ。」
「い、いやー、これには深ーい訳がございましてね?」
「この子が帰り道で爆弾発言をしたものだからその真意を問いたださないと寝るに寝れないなと思って。それで話をよく聞いてみると、まさか内心そんなこと考えてただなんてねえ?さっきまでの時間が本当無駄じゃないのよ、どうしてくれるのよ坊や。」
「そ、そこは謝りますからくれぐれもこのことは内密にお願いしますシャミノさん・・・。」
やれやれ、どうしてこのようなことになってしまったのか。原因は数十分前に遡る・・・ってだいたいあの後のことは想像できると思うし簡潔に説明しよう。
爆弾発言をしてしまったことにすぐに気づいた僕はすかさず、「なーんて、一日前の自分だったら言ったんでしょうねー。」という苦し紛れの文章を付け足して姫様を誤魔化すことには成功した。決してちょろいなこの姫様なんて言ってはいけない。その一方で、シャミノさんがここまでついてきているということは、まあそこまでちょろくはなかったということですね、はい。完全にやらかしました。
「実はマイヤちゃんのことが好きなのに、ソージ君が来たせいでそれを公にできなかっただなんて、なんか少しがっかりよねえ?好きな子と結ばれたいのなら周りなんて気にしたら負けというものよ?」
「そうは言われましてもあいつにだけはそのことを簡単には言えない理由があるんですよ!何のためにこの世界に来たと思ってるんですか!僕の昔からの想い人と再び親交を築くためですよ!?」
「という目的だったのに、いつの間にか想い人が変わったんですものね。ダメとは言わないけど、結局「は、その程度の愛だったのかよ!」って言いたくなるわね。は、その程度の愛だったのかよ!」
「いや言うんかい!」
その台詞グサグサ心にくるんでやめてもらっていいですかねえ。最低であることは重々承知しているんですよ。
「でもまあ、マイヤちゃんなら仕方ないかなあ。あんな子に寄り添って慰めてもらったりなんかしたら私だって恋に落ちるわよ~。ほんっと、あんたの娘とは思えないくらいいい子よねえ。ねえ、もらっていい?もらっちゃっていい???」
「この国の唯一の跡取りを養子にしようとか正気の沙汰とは思えねえなあシャミノ!?」
「あらー?そうやって言って本当はただ単に寂しいだけなんでしょー?素直に一緒にいてくれないと泣いちゃうって言ったらどうなのー、ガル?ねえねえ~。」
いや夜中の男の寝室で既婚者2人が何をいちゃついてんだ。あれか?もしかして王様って親友の嫁ともそういう関係なのか!?いや、いくら何でもさすがに・・・。あり得るな。2人の表情がまんざらでもねえのが怖いわ。
「でもいいのー?その大事な愛娘を簡単に異世界から突然やってきたとかいう男に渡すなんて、それこそ正気の沙汰とは思えないんだけど?」
「はっはっはっはっは!別にこいつが何の見どころもねえクズだったらそんなこと言わねえよ!まー、とりあえず頑張ればいっぱしの勇者になれると思ったからな。」
「いや、絶対あの流れその場で決めたくらいの適当感ありましたけど!?」
「バカいえ!仮にも王女の娘の将来をその場の思い付きで決めるわけねえだろ!?それなりに人は選んでるっつーの。」
いくら王様でも姫様のことは大事に思ってるんですね、って言いかけたけどさすがに一国の王様にその台詞を吐くのは無礼が過ぎる気がしたからやめておこう。それに、王様が珍しく少ししんみりとした顔になってたもんだから、聞かなくても愛の深さが伝わってしまったというか。
「まあ、そういうことだから坊やは頑張って自力でマイヤちゃんを振り向かせてみるのね。あの子があなたのものになるかは今後の行動次第よ?」
「あいつは博識だし頼りがいもあるけどどっか抜けてるからなー。意外と苦労すると思うぜ?まー気長にアプローチするこった!はっはっはっはっは!!!」
ま、とりあえず親の許可は得たということで、少しはこの先動きやすくはなったかな。まだ今後の方針、主に修業のこととかで相談したいことはあったけど、時間も遅いし、疲れて頭ももうそんなに回らない。今日のところは退散といこう。
「それじゃあ今日のところはこの辺で。夜分遅くに失礼しました。シャミノさんも護衛ありがとうございます。・・・くれぐれも内密にお願いしますよ?」
「はいはい、そんなにポンポン言いふらしたりしないから安心しさいな。」
「ま、自分で茨の道を進むって決めたんだ、せいぜい気張れや。」
そう言って僕の方を見る2人は、やっぱり長年連れ添った夫婦のように見える。ザイロンさんドンマイ。にしてもこの2人、恋愛面の頼りがいがめちゃくちゃありそう。シャミノさんにバレたのはある意味正解だったかもしれんな、うん。
あーとりあえずもう今日は風呂入って寝よう。日付ももう変わってるじゃん!一日は早いねえ。
* * *
「それで、私にくらいは何を考えているか教えてくれてもよくないかしらガルディン?」
「純粋に娘の幸せを願う姿がそんなに俺には合わないか?」
「合わないとは言わないわ。あなたがどれほどあの子のこと愛しているかは私が一番よくわかっているつもりだもの。」
「随分と知ったような口をきくなって普段の俺なら言ってるだろうけど、今は素直に認めてやるよ。」
「それはどうも。だからこそ聞かせてもらうわよ。あの子の幸せを願うのなら、尚更急にあの坊やと結婚させようなんて言い出す理由がわからないわ。」
「マイヤもまんざらじゃなさそうだったからな。それにタツキに秘めた力が眠っているというのも決して大袈裟ではねえ。ならきっといつか俺がいなくなってもあいつがマイヤを護ってくれるだろ。」
「護ってくれる人がいいなら他にもたくさんいるじゃない。それこそ村に行けばきっと強い若者たちがいっぱいいるわ。」
「・・・・・。」
「・・・いい加減1人で背負うのはやめなさいよ。私じゃそんなに不満?信頼できない?」
「だから何もねえよ。お前が心配するようなことは何もねえから。」
「ガル、あの日以来ずっとその調子じゃない。少しはずっと心配している私の身にもなったらどう!?」
「・・・今日はここで泊まっていっていいからもうお前も休め。」
「・・・そうさせてもらうわよ。明日またたっぷりと付き合ってもらうわ。」
「・・・勝手にしろ。」
* * *
「勇者様、朝ですよ。起きてくださいませ。」
深い眠りから現実に意識を引き戻したのは、とても心地よい女性の声だった。つい昨日この声に励まされ、この声の主に心を奪われたんだったなあなんて思いながら重い両瞼を開く。
「あ、おはようございます勇者様。今日もいい天気ですね!」
そう言ってニコッと笑うのは、異世界生活4日目にしてすでに正妻感をいかんなく発揮している我らの癒しのオアシス、マイヤ姫である。いや我らって他に誰が含まれているのかは知らんけど。
「おはようございます姫様。本当毎日毎日いい天気ですねえ。逆に悪天候だった時ってあるのかと聞きたいレベルですよ。」
「ずっとこの国はこの調子ですよ。本の中の世界とかだと、空から水が降ってくる世界なんてあるみたいですけど。あ、勇者様の世界ってもしかしてそんな世界だったりするんですか!?」
「あーうん、雨だったり、ひどかったら雷が落ちたり、寒かったら雪が降ったり・・・。」
「え、本当にそんな世界があるんですか!?すごい!私見てみたいです!」
そう言って目を輝かせる姫様はいつになくテンションが高い。そうか、この世界には晴れしかないのか。まあ魔法があれば水は確保できるし、天の恵みなんて必要ないのか。
「いつかそのタイムマシンという機械が直ったら連れていってくださいよ勇者様の世界!」
「いやー、この世界の方が圧倒的に住みやすいですよ?何せ魔法がありますからね。」
「あ、そっか!魔法がない世界でしたね!ではみんなはどうやって生活している・・・って寝起きなのにすいません!私ったらつい・・・。」
急に我に返った姫様は顔を赤らめて上目遣いでこちらを恥ずかしそうに見ている。あー早く結婚してえ。
「はは、別にまたいつでも話しますから今は食事に向かいましょうか。僕もすぐに準備して向かうので。」
「はい!お待ちしておりますね、勇者様!」
そして失礼しましたと一言添えて部屋を後にする姫様。この国のたった二人しかいない王族様の1人にこんな召使のような真似をさせていいのだろうか。罪悪感がすごくこみ上げてくる。でも可愛い。朝からこう健気に僕の部屋に来てくれるなんてこれだけで十分満たされている気がする。いい世界だ。
* * *
ルンルン気分でシャワーを浴び、姫様が魔法で清潔にしてくれた(仕組みは知らんが)愛用の服を身につけ、食事場へと足を運ぶと、
「おはよう、坊や。昨日はよく眠れたかしら?」
「タツキさんおはようございます!朝早くからお邪魔してます!」
「すっかりここでの生活にも慣れたみたいだねタツキ君。実にいいことだ。」
「ふん、勝手にこっちにやってきて王宮生活だなんて随分と恵まれたもんですね。」
「こちとら心配事が多すぎてよく眠れなかったってのに、随分と呑気なもんだな樹。」
「おーきゅーおーきゅー!いつみてもひろーい!!」
「キレーキレー!!」
いつもは広いスペースを持て余すはずの食事場が、ナユリア家総勢7名のご一行がすでにスタンバイしていた。そして、その部外者の混じった家族に、
「今日はやけに騒がしい食卓じゃのう。ま、久々にこうして娘家族と一緒に朝食というのも悪くはないか。」
珍しくどこか嬉しそうな爺さんが微笑みを浮かべている。やはり普段は機嫌が悪い爺さんも人の親なんだなあ。少し安心したというかなんというか。あ、ちなみに王様と姫様はすでに着席していて、僕とナユリア家ご一行の着席を待っている。
「では、本日も良き日であるように!いただきます!」
王様の掛け声と共に、僕を含めた総勢11名のいただきますが食卓にこだまする。
食事中は相変わらず静かで行儀よくというのが王族の暗黙の了解になっているため、昨日の夜とは違い、大人数でも実に静かに時が過ぎた。双子はいつものように騒ぎたそうだったが、双子の間に座っていたシャミノさんがにらみをきかせていたからか大人しくしていた。いや、シャミノさんのことだから何か魔術を施していたのかもしれない。
食べ終わった人たちが各々食器を給仕室にいる召使の人に預けに行く。それは別に僕たちだけではなくその他の部屋で朝食をとっていた兵士たちも例外ではない。そういえば、昨日の話から考えると、普段この王宮にいる兵士についてはどう説明するつもりだ?
「この王宮には兵士がいるようですね。てっきり護衛のあなたたちしか王族の方の身を護る人はいないと思ったんですが。」
と思っていたら同じ疑問に至ったのか宗次がザイロン将軍に質問を投げかけていた。
「ああ、彼らの仕事はあくまでパトロールだ。戦闘能力はほとんどないよ。一般市民を取り押さえることができるぐらいの力しかないから別に警戒する必要はないよ。」
なんだ、頑張れば数日くらいであの兵士たちをなぎ倒せるのか。そしたら今度こそ初日に出会った兵士Aにリベンジを・・・ってもはやどうでもいいかあんなやつ。
「まあ、タツキと・・・ってよく考えたらお前誰だ?」
「いや誰か知らずに一緒に飯食ってたんかい!?」
この人警戒心ってものがなさすぎない!?てかまだ王様に宗次のこと話してなかったわ!自分のことで精いっぱいで昨日の夜に話すの完全に忘れてたわ。すまんな宗次。
「ってよく見たらわしの家族に知らん奴が混じっておるではないか!?」
「いやあんたもかい!?」
あんたは親バカをなんとかしろ。
「あれ、俺のことはてっきり樹から聞いているかと思っていましたが。」
「いや知らん。お前誰?」
「それが一大事なんだよガルディン。彼もまた異世界から来たらしいんだ。」
王様の問いに答えたのは宗次ではなく、その質問を待っていましたと言わんばかりにスタンバっていたザイロン将軍だった。
「え、マジか。タツキ2号か。とりあえずよろしくな2号!」
「いや2号は勘弁してください。宗次っていう名前なんでどうぞ宗次と呼んでいただければ。」
「おう、分かった!よろしくな2号!」
「・・・・・」
宗次が黙り込んだ。あいつが黙り込むときはだいたいイライラしている時だ。つまり、あいつは今イライラしているのだ。あいつこの世界に来てから自分のペース乱されまくってんじゃん。ウケる。ちなみに、
「ニゴー!ニゴー!イソーローはニゴーだ!」
「イソーローニゴー!」
「ふはははは!あんたにはその呼ばれ方がよく似合ってるんじゃないか?」
姉を除くナユリア家3兄弟はいらん結束力を発揮して宗次を全力で煽りまくっている。その姉はというと、
「こ、こら!・・・ふふ。だ、ダメでしょそうやって・・・ふふ。・・・煽ったら・・・ふふふふふ。」
思いのほか2号がツボに入ったようである。結果として4姉弟が揃って宗次を煽っている状態である。これではしばらく宗次の口が開かれることはないだろう。・・・こいつこの先やっていけるのだろうか。
「だがガルディン、2号が来たことは笑い話では済まされないんだよ?この先3号4号と続いて何人も来られるとさすがに異常事態だろう?というより現時点ですでに異常事態だろう?」
「そうじゃ、若!これは笑い事ではないのではないか!?」
そんな笑いの空気を一蹴するように、ザイロン将軍の深刻な問いかけと新たにザイロン側に加勢に入った爺さんの言葉が突き刺さる。が、王様はいつもの軽い姿勢を崩さない。
「まあまあ別にこいつら自体はそんな悪い奴じゃねえしいいじゃねえか。今のところ国全体に異常なことが起きているわけでもねえんだ。」
「起きたらどうするんだ!?起きてからでは遅いんだぞ!?たまには深刻に物事を捉えてはくれないかいガルディン!?」
昨日に引き続きザイロン将軍は強硬姿勢を崩さない。これは平行線のまま喧嘩突入コースかなあ。と思っていたら王様は平然とした態度で口を開いた。
「んで、深刻に物事を捉えた結果、出した結論は何なんだよ?過程はいい。この先を何をするべきかを言えよ。どうすれば物事は改善の一歩を踏み出すんだよザイロン?」
「・・・それを議論するために君に物事を深刻に捉えろと言っているんだが?」
「じゃあ、俺が前々から言っていることで正しいだろ?」
「・・・残念ながらマイヤちゃんとの婚約は昨日破棄されたよガルディン。タツキ君から何も聞いていないのかい?」
う、なんか面倒くさそうな展開へと持ち込まれたぞ?頼むから昨日の夜の会話の内容は言わないでくれよ王様?あとそこのジジイ、密かに後ろで少しニヤついてガッツポーズするのやめろ。
「いやーまあその話は昨日聞いたけどさー。あれだけ一昨日も昨日も結婚する意思を聞かされてた俺としてはどうも信じられないというかなんというか。なあタツキ?」
いやいやいやいやどういうパスを投げてきてるんですか王様!?え、何?はいって言えばいいの?いいえあれは嘘ですって言えばいいの!?いったいどうしろと!?
「えーっと、いやそのですねー?まああれはなんというかですねー?」
「それともなんだ?お前はその友達とやらが来たせいで満足に自分の思いが言えなくなっちまったのか?んだよっ!度胸のねえ糞野郎だなお前!本心はどっちなのかはっきりしやがれお前!」
ひ、ひいいいいいいい。めっちゃ怒ってるーーーーー!!!芝居ですよね?芝居なんですよね???これ本心じゃないですよね!?って、シャミノさん陰でクスクス笑ってんじゃないよ!!!
「王様、樹は昔から別の女性にずっと想いを寄せていました。こちらの世界にやってくることになったのも、元はといえばその愛があったからこそです。彼の心に嘘偽りはないと俺は思いますが。」
やめろお前は!後ろからグサグサ槍で刺してくるな!これどっちを答えても地獄じゃねえかよ!
「いやだからそれはだね宗次?僕にも深い事情というものがあってだね?というかお前が僕の深いじじょ・・・」
「昨日こっちに来たばっかりの新参者のお前が、あいつと俺の娘が昨日どんな濃い関係になったのかも知らないでよくそんなことが言えるなあ!?」
「ちょ、お父様!?何を言っているのですか?」
「いやあんた誤解を招くようなこと言わないでくれます!?」
こんな言い方、まるでもう僕と姫様が色々と深い関係みたいな感じになってんじゃん!?ってみんな僕を見ないでね!?嘘だからね!?
「・・・おい樹、ちょっとこっち来ようか?」
「え、いや、それは誤解だ!僕たちはいたって清廉潔白な関係をですね!?決して一つ屋根の下だからといってそのようなことは!」
「てめえのその浮気癖治してやるからちょっとこっちにこいと言っているんだが!?」
やばい、これは稀にみる鬼の宗次モードだ。誰か、誰かーーー!!!姫様ーー!!!お嬢!!!と言わんばかりに目を合わせてみる。
「そ、ソージさん?私たちは別にそういう関係では・・・。」
「そ、ソージ?この姫様はそういう事柄にはとんと疎いからそういう心配をする必要はないと思うけど?」
「いいや、こいつを甘く見たらいかんぞサラ。なんせこいつは昔好きな人を連れて夜の・・・。」
「あーーーーーー!!!わかりましたついていきます!ついていきますから!!!」
こうして場の全員から冷たい視線を浴びながら僕は宗次に無理やり部屋から追放された。ってこいつ場の勢いに任せてなんてことを言いふらそうと・・・、って王様と爺さんには初日話したか。
* * *
「念のため確認しておくが本当に何もなかったんだよな?」
「ない!なかった!いくら何でも僕はそこまで馬鹿じゃないぞ!?」
あーとりあえずあの場を抜け出せたことは素直に喜ばしいが、宗次の機嫌が良くなっていないのが問題である。
「しっかし、樹よ。あの王様相当なやり手だな。」
「は?なんだよ急に。あの王様ほど直情的な人もそういないだろ。」
あんな何も考えずただ本能のままに生きていそうな人などそういないだろうというのが僕の見解なのだが。まあ裏がありそうだと思わなかったことがないわけではないけど、親切にしてくれているのだから疑うのは申し訳ないと思うのよね。
「いやまあ詳しい話はまた今度するとして、とりあえず部屋に戻ったあとは俺と王様の話に無理やりにでも合わせろ、いいな?」
「いやさっきから言ってることがめちゃくちゃなんだが?」
「だから後で説明するって言ってんだろ。とりあえずうまく場の雰囲気に合わせれば先に進めるんだ!」
こいつもうわけわかんねえ。なんでちょっと勝ち誇った顔してんのこの人?嫌な方向に進まなければいいけど。
* * *
「なんか勝手に出ていっちゃいましたねタツキさんとソージ。」
「早とちりしやすい感じの方なんですかねソージさんは。」
「あらあら、仲がよろしくていいじゃないの。いいコンビねあの2人は。」
「ニゴーおこってたね!カリカリしてた!」
「カリカリニゴー!カリカリー!」
「ふん、朝っぱらから騒がしい奴らだ。これだから異世界の野蛮人とやらは。」
「あ、あやつ・・・もし今のが本当ならこの場で即刻処刑してくれるわ・・・。」
「いやセイラス様、違いますからね!?あれはお父様のデタラメですからね!?」
各々が勝手に適当な感想を交わしあう中、あの2人の議論は続いていた。
「結局妙な言い合いをしているせいで議論が進まないじゃないか。ガルディン、彼は元の世界に想い人がいるらしいんだ。マイヤちゃんと結婚できない以上は・・・。」
ザイロンは呆れた声でガルディンに文句を言い始めた。
「いや、それでもあいつらには力をつけてもらわないといけない。お前の言う不測の事態が起きる前にな。」
「な、正気かガルディン!?あのルールを破るのか!?どうして君はそこまで彼らの肩を持つんだ!」
突然のガルディンの宣言にザイロンは思わず大声をあげる。団欒ムードで会話をしていた他の数名の視線を一斉に集める。
「いや、別に俺はあいつらの肩を持ってるんじゃねえ。むしろお前の意見を尊重したが故のこの判断なんだぞ?」
「僕は彼らに力を与えてはいけないという内容の意見を述べたはずなのだが?」
「俺が拾ったのはそこじゃねえよザイロン。この国に異常事態が起きる前に何とかしてこの事態を収束させようっていうのがお前の主張だったはずだろうがよ。」
「・・・ああ。だが、力をつけさせると異常事態が起こるかもしれないとも言ったはずだ。」
「その根拠はどこにある?それぞれタツキは俺が、2号はお前が見ているんだ。万が一お前の言う悪者だったとしても、それを阻止できないくらい俺たちはポンコツなのか?」
「なめてもらっては困るな。これでもこの国最強の魔術師の肩書をいただいている身だ。だが・・・」
「現時点でそのタイムマシンとやらを修理できるのはあの2人しかいねえんだ。修理に何が必要なのかもあいつらにしかわからねえんだ。これ以上の異世界からの干渉を防ぐにはあいつらにその転移装置を修理してもらうのが一番手っ取り早いだろうがよ。」
「・・・・・」
ガルディンの主張にその場の全員が思わず息をのむ。それがあの王様からまともな意見が飛び出したからなのか、その主張内容が的を射ていると納得したからなのか、はたまたその逆なのかは定かではない。
「シャミノ、お前はどう思う?俺の言っていることはそんなに的外れか?」
思いがけないタイミングで名前を呼ばれたシャミノは思わずたじろぐ。
「い、いえ。単純にそんなことを考えていただなんて思いもしなくて少し驚いただけよ。・・・うん、でもこの方法なら誰も不幸にならずに済むんじゃないかしら?ねえ、サラ?あなたはどう思う?」
今度はサラがシャミノと同じ反応を返す。
「う、うん。・・・私は最初からあの2人が悪者だなんて考えてなかったし・・・。こういう流れになってくれるんなら歓迎したいな。」
「ええ、私も賛成です。これで勇者様が本懐を遂げられるのならこれ以上の最善策はないんじゃないかしらね、お父様。」
サラの意見にマイヤも重ねて、共に同意を示す。
「爺、お前は反対か?」
次にガルディンは反対勢力のセイラスを制しにかかる。
「む、むう。正直若が今までそこまで考えていたとはこのセイラス、少々考えが足りなかったやもしれませぬな。」
「じゃあ賛成側ということでいいか爺?」
「皆の申す通り、これがわしにも最善のように思えるのでな。・・・異論はない。ただし、あやつらが怪しいそぶりを見せるようならわしが止める。」
そう言うと、セイラスはプイっとそっぽ向いて不満げな顔をした。ザイロンの顔色が曇る。
「安心して!僕はパパと同じ意見だかr・・・」
「お、タツキと2号が帰ってきたな。おい、お前ら!」
「ちょ、ガルディン様!?僕の話も聞いてくださいよ!?」
* * *
話を合わせるって一体どうすればいいんだよ・・・。とりあえず部屋に戻ってきてみたけど、またあの王様の圧に押されたら耐えられる気がしないんだけど。
「おい、お前ら!」
「は、はい!」
ほ、ほら!開口一番また口論の始まりを匂わせてきてますやん!おい、宗次頼むぞマジで。
「今日から頑張って修業に励め!特訓の許可を下す!以上!」
「・・・は?」
「・・・え、どういう風の吹き回しですか?」
いや、何この流れ!?僕らがいない間に何が起きたの!?いやだって、ほらー、ザイロンさんもまだ煮え切らない顔してるじゃんよー。爺さんもなんか不満そうですやん。
「ちょ、僕はまだ認めたわけじゃないぞ!?」
「じゃあ対案を出せ。文句しか言わねえ奴の意見は俺は聞かねえ。あ、こいつらを牢獄につなぐってのもなしな。」
「っ!でもそれが一番安全・・・」
「王族の威厳に関わる。困ってるやつを牢獄送りにするなんて王族にあるまじき行為だ。そうだなマイヤ、爺?」
「は、はい!その通りだと思います。」
「確かに仮にこれが公になると、良い評判は聞かないでしょうな。」
「よし!じゃあこれで一件落着だ!ほら、さっさといつも通りの朝に切り替えろ!解散だ!」
お、おお・・・。すべてが丸く収まった・・・。なんだこの王様、めっちゃ頼りになるやん!普段あんなふうなのに、本気を出すとこんなに威厳があるのかこの人・・・。これは女性陣ギャップ萌え待ったなしですやん!
「はは・・・。話、合わせるまでもなかったな樹。」
珍しくあの宗次まで感服して、思わず笑いがこぼれている。それほどまでにさっきの王様のオーラは見るものを魅了するものがあった。
「ほら、お前らも早速今日から修業に励め。魔術はサラとマイヤ。武芸は爺の担当だ。わかったな?」
「あ、はい!頑張ります!」
「精進しますガルディン王!」
「ふふ、人に何かを教えるなんて緊張しますねサラ。」
「2人で頑張りましょうねマイヤ様!」
おお、とうとう天梨樹最強伝説の始まりか・・・。興奮してきたぞ!
「ってわしはやらんぞ!?そんなことやりたくないし、そんな暇もないわ!勝手にやれ!」
と思ったら爺さんがまだ最後の砦で残っていた。空気を読んでくれ。
「そう言うなよ爺、お前だけが頼りなんだ。頑張れ!」
「セイラス様、私からもお願いします。私は武術は教えられないので・・・。」
「いや、そう言われても公務もあるしわしには無理なんじゃ。」
「お爺様、お爺様が教えてくれるならきっとこの2人もすぐに強くなれますから頼みますよ!」
「ええ、きっとお父さんが適任者でしょう。引き受けてあげてくれないかしら?」
「・・・ふ、ふん。若造どもよ。わしが指導するからにはどれだけ血反吐を吐いても弱音は吐かせんぞ。」
「いや家族にはちょろいなあんた!?」
「いや家族にはちょろいなあんた!?」
こうして4日目の朝、ようやく事態が前に進もうとしていた。
書いてる文字の量は昔より倍以上も増えてるのに、ストーリーがなかなか先に進まないという。
でもまあこれで結婚騒動編終了です。ただただ女々しい主人公と、同じことをただ延々と言い争い続けるだけの展開で退屈だったかもしれないですね。
こっから少しずつ展開が大きくなる・・・はず。




