2-9 ナユリア家の戦い
決意新たに本日2度目の宗次との戦闘に入ろうとしている僕の足取りは軽い・・・わけではなかった。僕が下した決断に対して宗次は一体どんな反応を示すだろうか。とりあえず表向きではやる気を出して元の世界に頑張って自力で辿り着くことを決めたと伝えるつもりではいるが、いつかは必ずこの世界に留まることを伝えないといけない日がやってくる。そうなったとき、果たして宗次は僕にどんな反応を示すだろうか。まあ、間違いなく止められるだろう。それでも、
「まだ少し不安そうな表情をされてますが大丈夫ですか勇者様?」
隣にいるこの姫様もとい女神様にハートを射抜かれてしまったのだからどうしようもない。
「宗次との仲直りがすんなりといった経験が今まで一度もないんですよねえ。あいつは僕の心を読むことに関しては僕の両親すら凌駕するんで。」
そもそもあそこまでガチな喧嘩と言えるようなものは今まで一度もしたことはなかったんだが。僕が何かと宗次に文句や不満や愚痴などをぶちまける度に、宗次はいつも結局は僕の方が悪かったという事実を見抜き、僕にこっぴどく説教するというのが恒例だった。だから喧嘩っぽいものをしても、だいたい僕が悪かったと謝罪することになるのだった。・・・よく考えたら口論になるときっていつも僕の方に問題がある時ばっかりなんだよなあ。
「でも、今回だったらきっとソージさんも納得してくれますよ。大丈夫です、勇者様に落ち度はどこにもありません。もし、ソージさんが理不尽なことを言ってくるようでしたら、私がお説教をして差し上げますわ。」
そう言って姫様は慈愛に満ちた笑みを浮かべて僕を見つめる。夕日をバックに見る姫様の笑顔は、金銀財宝なんて比じゃないほど輝いている。ああ、実はここは天国なんじゃないだろうか。
* * *
宮殿を出て徒歩20分(5界)ほど、姫様とのデートは最終目的地に到着したことで終わりを迎えた。
「ここがお嬢の家かあ。改めて見るとやっぱでけえなあ。」
「ふふ、さっきは心ここにあらずといった感じでじっくり見ていませんでしたからね。ここの家も代々続く由緒あるお家ですから立派でしょう?」
とはいえやはり僕と姫様が一国民の家を立派だと評価したところで、王宮で暮らしている贅沢者のただの嫌味にしか聞こえない。とはいってもあの王宮って意外と住みずらいということもここでアピールしておきたい。部屋数少ないくせに一部屋一部屋が無駄に広いから庶民暮らしが長かった僕からすると落ち着かないんだよねえ。
「では、突入しますよ勇者様?」
「いや言葉選びが物騒だからね姫様!?」
警察の作戦開始前みたいな雰囲気漂う掛け声と共に姫様が両開きのドアに手をかける。すると、
「やあ!!!初めてのデートはどうでしたか姫様!?どこまで行ったんですか!?あ、タツキさん!しっかりマイヤ様をエスコートしてあげられました???」
なぜか僕らは家主から背後からの奇襲を仕掛けられた。その衝撃で思わずその場で飛び跳ねてしまった。実に恥ずかしい。
「やあ!!!じゃねえわ!!!心臓飛び出るかと思ったわ!!!」
「チッチッチ、甘いなタツキさん。私にとって、三階の窓から飛び出して気配を殺して背後に忍び寄ることくらいお茶の子さいさいなんですよ?」
「ふふ、もちろん私は知っていましたけどね?この家に来るときはこの洗礼を受けるのがお決まりになってるんです。驚かれました勇者様?」
「ってグルやったんかい姫様!」
この2人の遊び方は常識外れすぎて笑えない。3階から飛び降りて、大気に干渉して気配を遮断し、風の速さで僕らの背後に回り込むという技を平然とやってのける18歳とそれを簡単に見抜いてしまう18歳。うん、頭がおかしい。
「まあまあ、とりあえず2人とも中に入ってくださいよ!ちょうどソージもこの家に少し慣れてきたところなんで。」
お嬢はそう言うと、未だに閉ざされたままだったドアを開いて僕ら2人を招き入れてくれた。
両開きのドアの先には、意外にもそのでかさに圧倒されるような雰囲気はなく、むしろ居心地の良さが全面に出ているとても住みやすそうな空間が広がっていた。元居た世界と違ってテレビやパソコンといった文化がこの世界には存在しないため、1階に広がるのは座り心地のよさそうなソファーに食卓を囲めるテーブル、そしてその隣にある大きなキッチンスペースといったところだ。ところどころ装飾なども施されているが、基本的に外から見た空間の広さは主に子供たちが遊べるような空間として機能しているようだった。そう、というのも・・・
「イソーロー!イソーロー!遊んで遊んで!!」
「ウォーターシューティングやろうよイソーロー!」
どうやらこの家には遊ぶのが大好きそうな子供たちがいるみたいだからだ。
「だから俺の名前は宗次だ!居候っていうのは今の俺の身分だ!」
「じゃあやっぱりイソーローじゃん!イソーローイソーロー!」
「イソー・ロー?イ・ソーロー?どっちで区切ればいいの!?」
「あー!なんだこのちびっ子たちは!あと強いて言うなら居と候で区切るんだ!」
そしてなぜかその2人の愉快な子供たちはこっちの世界に来てまだ間もない20代の男の周りをピョンピョンと跳びまわっている。
「うふふ、相変わらずアイナとレイトも元気そうね。」
「本当この2人のエネルギーは凄まじいですよ。我が妹弟ながらこのパワフルさにはさすがの私も参るというか。」
どうやら、というよりもおおよその察しはついていたが、この2人はお嬢の双子の弟と妹のようだ。さっき散々アウトローなパワフルぶりを見せたばかりの姉が参るというのだから、相当この2人はやばいんだろうということが窺える。これは宗次にとっては一たまりもないだろうなあ。うける。
「あ、やっと帰ってきた!おい、この2人を何とかしてくれ!お前がいきなり『我が家に新しくやってきた居候です!』なんて紹介したせいで名前が居候になっちまったじゃねえか!」
「あはははは!イソーロー!イソーロー!」
「ソーロー!ソーロー!」
「あああああああ!うるせええええええ!!!その呼び方はやめろ!!!」
「いやあ、こいつはまた賑やかな家になってしまったようだ!賑やかなのは大歓迎だよソージよ!いやあ、これからは君にこの2人の面倒を見てもらおうかな!アッハッハッハッハ!」
そしてお嬢はその様子を見て高笑いをしている。うん、王宮で拾ってもらえてよかったわ本当。
などという感想をこぼしている場合ではない。わざわざここに戻ってきたのは子供の相手でタジタジになっている友の様子を眺めるためではない。いやまあこの現状を見ているだけでお茶碗一杯かき込める行けるくらいにはメシウマだけど。
「・・・宗次、話がある。」
「いや、無理だ。残念だがそんな状態じゃねえ!って服を引っ張るな服を!」
「あんまり見ない服着てるねー!おもしろーい!」
「こっちの兄ちゃんも変わってるよー!わーいわーい!」
「ってさりげなく僕のも引っ張らないでくれませんかね!?」
どうやら話し合いの場にこの家を選んでしまったのは大きなミステイクだったようだ。
「お嬢!助けてくれえええええええ!!!」
* * *
「そ、それでだなあ宗次よ。」
「あ、ああ。いや、待ってくれ。一旦落ち着いてからにしたいんだが。」
「・・・激しく同意。」
何とかこの家に激しく渦巻いていた双子大旋風は鳴りを潜めたが(かかった時間約30分)、その間ずっと嵐の中心部に触れていた僕ら異世界にやってきちゃいましたコンビは、すでにノックアウト状態であった。
「それにしても、シャミノ様の力はいつ見ても圧巻ですね。」
「そのせいか今でも母さんに触れるのに少し委縮してしまう自分がいるんですけどね・・・。」
ちなみにあの双子大旋風を鎮圧したのはあの場にいた誰かではなく、とある事情とやらで家を留守にしていた例の双子とお嬢の母親、シャミノさんだった。それにしても、背中を軽くポンと叩いただけであの2人を眠りに誘ってしまうなんて、やはりこの人も只者ではない。ちなみにそのシャミノさんは双子を2階の寝室へと両手で抱えて連れていっている最中である。
「まあ何はともあれこれで少しは落ち着けるってもんだ。なんせここに来てからずっとあの調子だったからなあいつら。」
「昔から子供嫌いだもんなー宗次は。騒がしいだの言うこと聞かないだのあれやこれやと子供に対して文句ばっかり言ってたよなー。」
中学時代、2人での下校中に、後ろから走ってきた小学生が宗次にぶつかったことがあり、そのぶつかった小学生がなぜか逆に宗次を睨んで舌打ちするという事件が発生して以来、宗次は子供、特に元気な子供が大嫌いになった。その子供も相当なクソガキだったけど、それをいつまでも根に持つ宗次も子供じゃないかなあと思わなくもない。
なんてことを思い出していると、双子を置いてきたシャミノさんが1階へと降りてきた。
「それでサラ、他にも騒がしそうな人たちが2人もいるけど?あなたの話では、その異世界からやってきたとかいうよくわからない設定の人は1人だけだと認識していたのだけど?」
設定って言うな設定って。
「あはははは・・・。実は今日新しい異世界からの探訪者が現れてね。タツキさんみたいに何もわからずあたふたしてるっていうわけなんだよ。」
「そんな非常識的なことが立て続けに発生されると、私としてはあまりあなたみたいにウキウキワクワクしてられないんですが?それに、そんな訳の分からないことが連続して起きているとなると、何か良くないことが起きる前触れではないかという心配の方が大きいわね、とてもじゃないけど、私はあなたみたいに大らかな気持ちで彼らを迎え入れられないわね。」
なんか随分と子供たちとは雰囲気の違う人が出てきたなおい。というかまずそもそもこの人がお嬢やあの双子の母親というのがまず信じがたいのだが。顔の若々しさや肌の艶からはとてもじゃないが親子と呼べるほど歳が離れているとは思えない。むしろ同級生といっても疑わないレベルである。顔はお嬢と違って美形で、大人の風格を漂わせている近づき難い感じの女性だ。お嬢と同じくらいある高身長な背丈と紺色の長髪が威圧感をより一層際立てており、誰も逆らうことができなさそうなオーラを放っている。うん、なんか怖え。
「あ、あの・・・シャミノさんでよろしいですか?」
「随分と馴れ馴れしいのね。まあいいわ、あなたがきっと最近王宮を騒がせているタツキ君ね?」
「はい、一昨日からこの世界に来て、王宮の方々におんぶに抱っこされているタツキと申します。」
我ながらひどい自己紹介である。
「そ、それでですねシャミノさん。僕やここにいる宗次がこちらの世界にやってきてしまったのは、この世界の厄災とかとはきっと関係なくてですね。というのもこちらの世界にやってきてしまったのも、言ってしまえば事故みたいなもので、僕たちは元の世界に戻る方法を模索している最中なんですね。なので決して災いを振りまく疫病神などではなくてですね。」
「王宮の方々におんぶにだっこな現状で災いを振りまいてないと?」
「ひい、すいません!災いも厄介事もめっちゃまき散らしてますすいません!!!」
なんだろう、この全く声のトーンが変わらないという謎の恐ろしさ。感情的になってボロクソに批判してくる人よりも、こう淡々と棘のある言葉の応酬を浴びせてくる人の方がよっぽど相手しづらいし、恐怖を感じる。ここはどうにか宗次に頑張ってもらうしかあるまい、僕には無理だ。
「どうも初めまして。蒔田宗次と言います。あなたの娘さんの説明にもありましたが、ついさっきこちらの世界に飛ばされてきたばかりで、いろいろと頭が混乱している最中にここにいる人たちに助けていただきました。そのような状況なので、これからいったい何をすればいいのか、どうすれば元の世界に戻れるのかといったことが現在不透明な状態にありましたところ、娘さんからこちらのお宅に身を寄せるのはどうかというお言葉をいただいたのでこうして参った次第なのですが、もしご迷惑と仰るのならば今すぐにでもこの家から立ち去ります。」
「あら、ご丁寧な挨拶をありがとうございます。ですが、今ここを出ていったとして拠り所がどこにもあなたはいったいこれからどうするというのですか?ほかに当てがないのだったら、ここは意地でも私を説得してこの家に置いてもらえるようにしてもらうのが最善の策ではなくて?」
「それは・・・。」
そして、いつもは簡単に僕を論破してくる宗次すらもあっさりと撃沈されるという異常事態に陥ってしまった。おいおい、ここにきてこの世界で最も手強い人物に出会うとは思ってもなかったぞ。いや他がちょろすぎるだけなのだろうが、そのちょろさに感謝をしてもしきれない身分の人間がそれを言うのはよそう。
「ちょっと母さん、あまり彼らをいじめたらダメだよ。まだ2人ともこの世界にあまり慣れていないんだから威圧なんてしちゃったら病んじゃうよ!」
「こういうのは第一印象が大事なのよサラ?こいつはちょろいから何言っても許されるなんて思われてしまったら癪に障るでしょ?それにこうして何にでも疑ってかかる人が1人くらいいないと、あなたもマイヤちゃんも優しすぎるからコロッと騙されちゃうじゃない?だからこれくらいした方がいいの。」
「シャミノ様、別に私たちは騙されてるわけでは・・・。」
「わかってるわよマイヤちゃん。別に今回に限っては騙されてるようには見えなかったけど、一応彼らの人柄も見てみたかったしね。それにしても不思議だわ。彼らって何て言うか僕たち困ってます!って感じのオーラが全身から溢れ出ているし、あなたたちが世話を焼きたがる理由がなんかわかる気がするわ。こんなに低姿勢だと、きっとガルディンのいい暇つぶしにでもされてるんじゃないかしら?」
ん、なんか急に雰囲気が変わったぞ?それにさらっと僕の王宮生活の実態も暴かれたぞ?超能力者とか預言者とか占い師とかそういう類の人か?
「意地の悪いことをして悪かったわねお2人さん。でももうあなたたちもわかってると思うけど、この2人ってとんでもない甘ちゃんだから、私がこうしてしっかり娘たちの面倒を見てあげないといけないじゃない?」
「ええ、確かにこの2人だといつ騙されて闇討ちをかけられるかわかったもんじゃないですね。」
「そうなのよー、でもそこがまた愛らしいじゃない?こんな可愛らしい女の子2人に優しくされて嬉しくない人なんて絶対いないと思わない?いやー、あなたたちは本当幸せ者よねえ。今すぐにでも私があなたたちのポジションを全力で奪いに行きたい気分よ。」
「は、はあ。」
なんか急に見た目相応の若々しさを全力でアピールしてくるんだがこの人。なんかさっきまでの怖いイメージを何とか取り返そうとしてそうで対応に困るんだが。さっきまで第一印象が大事で、なめられたら癪に障るとか言ってなかったこの人?
「それでソージ君だったかしら?きっとあなたまで王宮に行ったら王宮の方もいろいろと大変だからってサラがこの家に連れてきたっていうシナリオで正しいかしら?」
「まるでその場にいたかのような察しの良さですね。」
「そりゃあ娘の考えることくらい手に取るようにわかるわよ。何年母親やってると思ってるのよ。18年よ18年。」
だからその発言が信じられないと言っているんだよお母さん。
「あら、今とてもそんなに歳が開いているようには見えないなんて思ったでしょ?やだ、お上手ねータツキ君。何か甘いものでもあげましょうか?」
「いや何も言ってないんですが・・・。というかなんで僕を甘いもので釣ろうとしてるんですか。」
「あら、甘いものは苦手だった?マイヤちゃんもサラも好きだからそうかと思ってたけど、異世界の人たちは子供でも甘いものは好きじゃないのね。」
「いや僕らもう24なんで・・・。」
「あら、意外といってるのね!その割には幼く見えるわよ2人とも、大丈夫大丈夫!」
いや何がどう大丈夫なんですかねお母さん。
「あのー、もうそろそろ俺の未来の住居の話に戻ってもらえませんか!?」
* * *
日はすでに落ち、今晩はナユリア家の食卓にお邪魔しております。威圧感がすっかり無くなったシャミノさんは、久々の姫様の来訪と、初めてやってきた僕と、これから居候になる宗次の歓迎を兼ねて、豪華な手料理をふるまってくれた。そのどれもが頬がとろけるような美味しさだったのだが、やはり元の世界のどの料理とも形容しがたい。いやあ、こちらの世界の料理には疑問が尽きない。
あ、さらっと流してしまったけどちゃんと宗次とナユリア家の間での居候契約は無事に結ばれ、晴れて宗次はホームレスの称号からおさらばすることができた。とはいえ、この家の大黒柱のはずのザイロンさんは相変わらず家には帰ってきておらず、その大黒柱がいない間で結ばれた契約というのが後々面倒な事態を引き起こしそうだと宗次も僕も気になっていたのだが、シャミノさんもサラも「あいつの許可なんていらないから大丈夫!」と口を揃えて言うのでまあ深くは考えないでおこう。
さて、宗次の異世界生活はとりあえず安泰な未来が保障されたわけで、ここでようやくこの家に来た当初の目的を果たす時が来たようだ。双子たちに邪魔をされ(いつまで眠る魔法をかけたのか気になるが今起きて来られても面倒なだけなのでそこについては考えないでおこう)、実質的なこの家の大黒柱であるシャミノさんとの決戦も終え、いよいよ天梨樹の3日目最後の一大イベントである旧友との仲直りイベントまでようやく漕ぎつけたわけである。・・・今日の朝までは誰がこんな結末を予想しただろうか。
「それで、今後の方針についてなんだが・・・。」
とりあえずそう口にして、第2次異世界大喧嘩の火ぶたを切って落としてみる。
「・・・それでお前が出した結論はなんだ樹。」
お互いに満腹状態なのが功を奏しているのか、話し合いの雰囲気はどこか穏やかである。いやまあ言葉だけ聞くと不穏な空気が流れているように思えるが、声色がどこか優しい。
「今日この世界を知ったばかりのお前には悪いが、明日から僕たちはこの街の外の世界で戦っていくための修業を行うことになった!」
「・・・その心は?」
「王族血合はやらない方針で行く!だからタイムマシンを修理するための素材を調達するための力を頑張って僕ら自身が身につけないといけない。」
「それは姫さんより玲那を選んだ、お前はそういう答えを出したという認識で間違いないんだな?」
宗次の顔が真剣なものに変わった。ここの受け答え次第できっと僕の未来は大きく変化するだろう。だが、僕の心はもう決まっている。
「ああ、僕は元の世界に帰ることを選んだ。それが僕の答えだ。」
「玲那のことが好きなんだな?」
「・・・ああ、そういうことだ。」
これでもう後戻りはできない・・・なんていうこともなく、僕はしゃあしゃあと宗次に嘘をついてやった。いやほらだって、冷静に考えてみたら後々宗次に「あの時俺に嘘ついたのか!」って言われても「いやあ、あの時は本当のこと言ってたんだよ?でも段々姫様のことが」とか言っておけばいくらでも誤魔化せるじゃん?
「・・・ならもう何も言わな・・・。」
「えええええええええええちょっとタツキさあああああああん!?」
「あら、聞いてた話と違うじゃない!? どういうことなのよタツキ君!?」
あ、そうか。こうなるとお嬢にも嘘をつかないといけないのか。これはめんどくさい。てかなんでこの話知ってるんですかお母さん。
「朝のあの下りは何だったんですか!姫様が僕を好きになってくれないとかなんとか言ってしょぼくれてたあのタツキさんはどこ行ったんですか!?」
「いやあのお嬢、話を・・・。」
「私は・・・私は見損ないましたよタツキさん!せっかく姫様にも恋ができるチャンスが来たと思ったのに・・・。せっかくお2人の仲睦まじい様子を傍で見守れると思っていたのに・・・。」
あのー後者の方の文句はただのあなたのエゴじゃないですかねお嬢さん。
「っ姫様はそれでいいんですか!?これっていわゆる婚約破棄ですよ!?浮気ですよ!?姫様の気持ちを弄んだ極悪人ですよ!?」
「それは違いますよサラ。・・・私は勇者様・・・いえ、タツキ様に無理をさせてしまっただけなのですから。元々彼は、レナさんという方と結ばれることだけを考えていました。それが気づけばこちらの世界にやってきてしまい、無理やりお父様に結婚させられそうになってただけですから。だから、これは浮気でもなんでもないんですよ。タツキ様は最初からずっと、ただひたすら一途に一人の女性のことを想い続けているだけですから。それなのに彼は私に気を遣ってずっと悩み続けてくれていた・・・。タツキ様はとても優しい方だったというだけです。」
ちょっとおおおおおおだいぶ美化されてるんですけど!!???めっちゃ良いひとみたいにされてるんですけど!!???僕一途でもないし!?姫様への気遣いとかしたことなかったし!?結構真剣にどっちと結婚するか悩んでたし!?それで結局姫様選んじゃってるし!?それを言わずに今しゃあしゃあと嘘ついてるし!?
「・・・すいません、そんなこととは知らずに私、タツキさんにひどいことを言ってしまいました。まさか、そんなに深い愛情がタツキさんの心の中に眠っていたなんて知らずに私は・・・。」
いやちょっと凹まないでくれますか!!?君が凹むとその数倍僕の心が痛むんでやめてくれますか!?
「素敵ねタツキ君。その一途さは本当に尊いと思うわ。私もあのくそ旦那にこの話を聞かせてやりたいわね。全く、今日はどこをほっつき歩いてんだか。あいつ、家族をほったらかしにしやがって!少しはタツキ君を見習ってほしいものねあの糞男!!!」
あーーやめてやめてやめて!!!僕そんないい子じゃないんで!!!でもさすがにザイロンさんよりはいくらかマシな人間だとは思うんで、少しだけなら見習ってもいいかもしれないけどとりあえず僕を美化するのはやめてええええ!!!
「ま、こんだけ大々的に公表したんだ。さすがに今回に限って今の発言が嘘ってことはねえだろ。・・・これでようやく俺とお前の目的は晴れて一致したわけだし、しがらみも無くなった。仲直りといこうじゃねえか、相棒。」
いや嘘なんですよ!?嘘です!なんかすごいいい話になってるけど嘘ですよ!?ってすごく言いたいけどもう言えねえじゃんよ!
「・・・ああ、これからも力を合わせてやっていくぞ宗次。」
「なんせタイムマシンまで作っちまったんだ。俺らに不可能はねえわな。」
「・・・はは、違いない。」
ってどの口が言ってんでしょうかねえ!?よくもまあしゃあしゃあと仲直りハッピーエンド感出せましたねえ僕!?
「・・・でもこれでとりあえず一件落着ですかねマイヤ様?」
「ええ、とりあえずこの2人が仲直りできてよかったですわ。」
「あら、仲直りできたのは素晴らしいけど、タツキ君が選んだ道はかなり険しいものよ?」
「そこは、私たちが頑張ってサポートするしかないですね!姫様!」
「ふふ、一応勇者という肩書は絶対に捨てないってタツキ様は意気込んでましたしね。護衛を育成するという意味では面倒見て差し上げないとね。」
「その必要はないんじゃないですかね。」
「ああ、それは僕もちょっと賛成しかねるな。」
僕の嘘が作り上げた見事なハッピーエンドの雰囲気をぶち壊したのは、遅れて登場してきたこの家の真の大黒柱ザイロン将軍と、見た目中学生相応の憎たらしそうな子供だった。
皆様、遅ればせながら明けましておめでとうございます。今年も作者作品共々よろしくお願いします。
色々考えながら書いていたらいつの間にか1月が半分終わっててびっくりです。
こんなに再開が遅くなったにも関わらず、次回もまた少し間が空きます。すいません。




