2-7 樹、親友に会う
少し間が空きました。大学生なんでご勘弁願います。さーせん。
「いやいやいやいや、これはさすがにやべえぞ。これはやべえ世界に来ちまったぞ。明らかにこの牛は・・・」
「モオオオオオオオオオオ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「いかれてるよなああああああ!!!!!!!??????」
そう言って僕に背を向けて前方を全力疾走しているのは、3日前までタイムマシン作製をともに行っていた中学時代からの腐れ縁、蒔田宗次で間違いない。タイムスリップ直前にあいつは、「面倒くさい」の一言でタイムマシンの利用をきっぱりと却下したはずだったんだけど・・・。というよりなぜ魔獣らしきものにタイムスリップ早々襲われているのだろうか。いつもだったらここで「マジ超ウケる」とか「日頃の行いだ」なんていう罵詈雑言の嵐を浴びせてやるところだけど、今回ばかりはそうもいかない。
「お嬢!悪いが、あの男に傷一つつけずに助け出してくれ!やっぱりあいつは僕の知り合いで間違いない!」
「了解したよタツキさん!・・・・・っはあ!!!」
返事と同時にお嬢は、一瞬で爆風を呼び起こしてその爆風に乗るという神速の神業を披露して見せた。そして、再び僕がお嬢を視界に捉えた頃には、
「ヴェントスパーダ!!!」
風の吹きすさぶ轟音と共に魔獣が一刀両断されていた。僕の呼びかけに答えてから、風を起こして、1㎞ほどの距離を詰めて、魔獣を一刀両断するのにかかった時間は約5秒ほどだろうか。
「・・・姫様、護衛2人もいりますか?」
「ふふふ、サラは1人で10匹の魔獣くらいは軽くなぎ倒してしまいますからね。たいていのことはサラ1人で片が付いてしまうかもしれませんわ。」
「戦力外通告ありがとうございます!!!」
改めて自分の非力さ、というより自分と同じ護衛の肩書を持つもう一人の圧倒的な力を思い知ったところで、それ以上に気にしなければいけないことがあったことを思い出した。
「おーーーーーーーーい、宗次!!!」
「・・・ん?・・・・・は?・・・・・いや、やっぱり樹だよなお前!?」
さすがは腐れ縁。まだ800mはありそうな距離から僕をシルエットと声色から特定するとは。
「ちゃんと傷一つつけずに守って見せましたよ!どうですか私のこの技量!」
「いやマジでほれぼれするよ。同じ護衛として心強いというか僕の存在そのものを全否定された気がするというか。」
「まだまだタツキさんはこれからですよ!いつか私なんてぼっこぼこにされますよ~。」
いやそんな謙遜されると余計に惨めになるというか凹むから素直に勝ち誇ってほしいんだが。まあまだ距離があるせいで表情がわからないから何とも言えないが、まあドヤ顔をしているのだろうということは容易に想像ができる。
そしてようやく僕と姫様はお嬢と宗次に合流することに成功した。
「樹、とりあえず状況説明から頼む。まずはこの世界と、お前の現在の立ち位置とお前を挟んでいる2人の美女の詳細からだな。よし、話せ。」
「いや随分と冷静だなお前!?いつも通り過ぎて普通に引くレベルで気持ち悪いんだが。」
「いきなりタイムマシンから出て、数歩であんな怪物に襲われて、しばらく逃げてたらいきなり後ろで爆風と共に美女が出てきて怪物を一刀両断したという状況に呆気にとられて、かえって平常心が戻ったと言えば理解できるか?」
なるほど、人間は混乱を極めるとまわりまわって冷静になれるのか。新たな発見である。
「姫様、お嬢。事情が変わりましたし、一度街に戻らせていただけませんか?こいつもきっと3日前の僕みたいな状況で大変なようなので。」
とにかくまずは宗次に現在の状況を伝えてやるのが先決だと考えた僕は、姫様に戦略的帰還を提案してみた。
「とりあえず勇者様のお知合いということには間違いなさそうですね。見たところ悪い方のようにも見えませんし。一度落ち着いて話ができる場所まで戻りましょうか。門の近くのあそこにでも招待しようかしらねサラ。」
「そうですね~。剣術の稽古はまた今度ということに。それにタイムスリッパー2人目だなんてワクワクしますし!」
「いや、ワクワクされても残念ながら何も期待には沿えないと思うんだが。樹がはたしてどれだけ君らをワクワクさせたのかは確かに気になるところではあるけれども。」
「いやー、タツキさんは本当に面白い人ですよ~!何せ初日から」
「一旦黙ろうかお嬢さん。」
こうして、妙にハイテンションな小娘と、この場において一番頼りになる姫様と、この状況を何も理解できていない宗次を連れて、僕ら一行は街を出てわずか15界ほどでとんぼ返りすることとなった。
* * *
「まあとりあえず現段階で確実に言えることは、ここは間違いなく過去の日本なんかじゃねえってことくらいか。大方、異世界とでもいったところか。」
「さすが宗次、理解が早いじゃないか。僕は日本ではないことはすぐに察したけど、真っ先に異世界であるという結論は出なかったんだけど。」
「そりゃ魔獣に襲われて、それを魔法で退治するなんていう頭のおかしい状況を目の当たりにしたら誰だって異世界っていう結論に至るだろうよ。」
確かにこの境遇を聞いてしまうと、街中にタイムスリップできた僕は相当運がよかったんだということを感じる。まあその後の展開はなかなか他人には聞かせられないような悲惨なものだったわけだけど。頼むから自業自得なんていう言葉を僕に浴びせないでください。
「いやあ、あれは危機一髪だったよ!えーと、ソージさんでいいのかな?」
「宗次と呼び捨てで大丈夫ですよ。一応身分を証明しておくと、俺の名前は蒔田宗次。樹とは、まあ腐れ縁ってやつです。樹と同じ手段でこっちにやってきたところ、さっきの怪物に襲われていたってところです。さっきは危ないところを助けてもらい、本当にありがとうございました。」
「ソージさんですね。私はマイヤと申します。この国の王女を務めております。こちらにいるのは、」
「サラです!マイヤ様の護衛をやってます!あ、ちなみにタツキさんも一緒にマイヤ様の護衛やってるんだよ!」
「いやいやすいませんちょっと待ってくれ。なんでこの国の姫様の護衛なんかを樹がやってんだ。というよりまず姫様がこんなところにいていいんですか?」
宗次が混乱してきたところで現在の状況を説明すると、今僕たち4人は街に戻ってすぐのところにある喫茶店のようなところの4人テーブルでひと段落ついているところである。うん、この世界で出されるコーヒーのようなものも悪くないなんて前に座っている宗次が呟いていたところを見る限り、こちらの飲食に対してそこまでの不安を抱いているようではなかった。それを宗次の隣に座っているお嬢と、僕の隣に座っている姫様が微笑ましく見つめていた。何とも絵になる光景だ。
「勇者様は、いろいろあって勇者をやってくださっているんですよ。」
「いや、姫様。それ何の説明にもなっていないです。」
相変わらずの天然っぷりをいかんなく発揮している姫様。でもそれを笑みと困惑が混じった顔で何か変なことを言ったのだろうかとでも言いたそうな雰囲気を醸し出してるところがまた愛らしい。
「タツキさんは、いろいろあって姫様の許嫁になったんですよ!」
「絶対今のタイミングでそれを言ったのはわざとだよなお嬢?」
対してこちらは持ち前の快活さでウケを狙いに来ているお嬢。してやったりといった顔でニヤニヤとこちらを見てくる顔には、思わず一発フックを打ち込みたくなる衝動と思わず頭をなでてやりたいと思わせる衝動を同時に湧きあがらせる不思議な魅力がある。結局かわいいは正義なんですね。
などと一人で気持ちの悪い感想を述べていたからすぐには気づけなかったが、宗次の表情は明らかに喫茶店に入った時とは違う表情をしている。僕にはわかる。宗次のこの表情は「うわ、こいつマジか。」と言いたいときの表情である。
「樹、どうやらこれは相当長い説明になりそうだな?」
「いや全くもってその通りだ。こっちに来てから今に至るまで、イベントが発生しなかったことがないという状態だからな。説明を求めたからには長丁場になることを覚悟してもらうぞ?あ、あとできれば説明を聞く際には一切口答えをしないという誓約もできればしてもらいたいんだが。」
「今のその女の子の爆弾発言以上に後ろめたいことがあるってか。全く、呆れてものが言えねえな。」
返す言葉もありません。言い訳できる気がしません。だから黙っててほしいんです。
「じゃあ私がソージさんに魔術を仕掛けておきますね!・・・・・はあっ!」
そう言うとお嬢は宗次に向かって緑色の光を飛ばした。すると・・・
「・・・・・」
「お嬢?宗次がなんか水槽の中の魚みたいなことになってるんだけど?」
宗次は懸命に口をパクパクと動かしているのに声がこちらに全く届いてこない。
「さっきの光でソージさんの声帯を包んだんですよ。これで声帯を震わせても、風に振動が伝わらないので声を発することができなくなりました。さあ、これで思う存分話せますねタツキさん!」
いやさすがにそこまでしろとは言ってなかったんだけどまあいいか。呼吸はちゃんとできてるみたいだし。いやあ、便利だなあ風魔法。
「こほん、では私の方から説明させていただきますわね。勇者様は・・・。」
「・・・お嬢、姫様にもその光浴びせてくれない?」
「合点承知!!!」
そしてなぜかこのタイミングで空気も読めずに語り始めた姫様にも同じ境遇を味わってもらうことになった。
* * *
「・・・・・」
「それで、魔術と剣術の訓練と魔獣見学を兼ねて街の外に出たらお前があの変な牛に襲われてたんだよ。それで、ようやく今に至るってわけ。・・・わかった?わかったなら疲れたから少し休ませてくれ。」
声を発せない宗次相手に一方的に話すことおよそ30界ほど。ようやく3日分の出来事を語り終えることに成功した。あ、ちなみに姫様への沈黙魔法は、姫様の悲痛の表情があまりにも見るに見かねたので解除していた。その結果、いらない情報を次々と盛り込んでくるという最悪の横やりを刺しまくってきたんだけど。悪気がないから全く怒れないというのもあって、余計に疲れが溜まるという結果になりましたとさ。
「・・・はあ。なんとコメントするべきか。想像以上に訳の分からない世界に足を踏み入れちまったみたいだな俺は。」
「というわけでまあ、お前に一番伝えたかったことは僕たちはこのままでは元の世界には戻れないってことだ。理解オッケー?」
「いや、そこに関しては全くオッケーじゃねえ。むしろ一番引っ掛かる点がそこだ。」
「は?なんだよ、まさか今すぐにでもタイムマシンを修理できるとでも言うつもりかよ?」
「そうは言わん。修理をする方法は俺にも全く見当がつかん。でも一つ言えることは・・・。」
「言えることは・・・?」
「元の世界に帰ることとお前がマイヤ姫と結婚することが結びついているのだけはどうも納得がいかん。」
どうやら、宗次は僕の話に途中からついてこれていなかったらしい。むしろそこが一番大事な点だったと思うんだが、どうしてそこの理解ができていないんだこのポンコツは。
「はあ?だからさっき説明しただろ?姫様と結婚したら戦う力が手に入るんだ。そしたら街の外も自由に探索できるし、タイムマシンの修理に必要な素材もきっと見つけることができるって寸法だよ。アンダースタンド?」
「それがおかしいって言ってんだ。それでどうしてお前がマイヤ姫と結婚するっていう話になるんだよ。」
「いやだから探索するためだって言ってんじゃん!強くないと街の外を探索できないんだよ!さっきまで魔獣に襲われてた張本人がそれを理解できないとは言わせないからな!?」
「でもだからって、お前がマイヤ姫と結婚したら意味ねえじゃねえか。お前はどうしてこの世界に迷い込んだ思い出してみろよ。どうして俺たちは高校時代から今に至るまでを全て棒に振ったんだったか思い出してみろよ?お前の最大の目的はいったい何だったか忘れたわけじゃねえよな?一刻も早く元の世界に戻ることか?・・・・・違うだろ!?思い出せよ!俺とお前でタイムマシンを作っていた頃のあの志を!」
「でもだからって、このままだったら元の世界には戻れないじゃねえか!そうなったら最初の頃の目的なんて何の意味も持たないんだよ!今はどんな手を使ってでもいいから元の世界に帰らないといけないんだよ!」
「じゃあ仮にその方法で本当に戻れたとしてどうするんだ?あっちは異世界だったからって言ってマイヤ姫との結婚はなかったことにして、伊理夜にまた告白でもするつもりかよ!?そんなことやろうって言い始めたらいよいよ本気でぶちのめすぞてめえ!」
「誰もそんなこと言ってねえだろ!僕の昨日の葛藤を何も知らねえくせに偉そうなこと言ってんじゃねえよ!」
「そんな大事なことをたった一晩悩んだだけで決められるなんて、随分と決断が早かったじゃねえか!なんだ?こっちの世界に来て、美女が自分の世話をしてくれて、それで結婚までしてくれるし、おまけに強大な力まで得られるなんて言われたから、あっさり乗り換えたんじゃねえのか!?」
「・・・それ以上言ったらマジでキレるぞ宗次?」
「おいおい、いくら図星だったからってキレるのはみっともねえんじゃねえか?これじゃあマイヤ姫にもすぐ愛想つかされそうだなあ?」
「・・・てめえええええええええええええええええええええ!!!!!!」
僕の理性が頭から失われていくのを感じた。目の前のあの憎たらしい顔を一発殴ってやらないと気が済まなかった。怒りと憎悪で頭が全て支配された気分になった。でも振り上げた右拳は隣にいた姫様に止められた。
「落ち着いてください勇者様!こんなところで言い合いも殴り合いもよくありませんよ!」
「ちょちょ、ストップストーーーーーーップ!!!!何熱くなってんのよタツキさん!ソージもそんなタツキさんを煽るようなことを言って、いったい何がしたいんですか!?」
「・・・・・悪い、さすがにちょっと挑発が過ぎた。」
「・・・すいません姫様、ご迷惑をおかけしました。」
とりあえず僕たちは表面上での争いは一時収めることにした。が、近いうちに第2ラウンドが行われるであろうことは、僕も宗次もきっと予感している。だって、結論も出ていなければ解決もしていない。
何が宗次の癇に障ったのかはわからない。・・・いや、なんとなくあいつが何が言いたいのかは伝わってはいる。だけど、それに対してうまく返すことができないからこっちもついカッとなってしまったのだろう。頭ではわかっているつもりだけど、また同じ話題になった時にお互い冷静でいられる自信がない。
それほどに宗次の指摘は、昨日考えることを放棄して、流されるままになっていた自分にひどく突き刺さるものだった。
* * *
声を荒げた言い合いをして、他の客から嫌な注目を浴びてしまったせい僕たち一行は、あの喫茶店には居づらくなってしまったので、しぶしぶ店を後にした。もちろん僕たちを取り巻く雰囲気は最悪である。
「それで、結局どうしましょう。とりあえずソージさんもここがいったいどういう場所なのかという知識も一応身に付いたことだと思いますし、一度王宮に戻りましょうか?」
「一度ガルディン様に謁見した方がいいかもしれませんしね~。それにきっとソージもこの先ガルディン様にお世話になることだろうし。」
「でも、さっきの樹の話を聞く限りだと、その王様って王宮にいないんじゃないですか?」
「それに、宗次が落ち着ける場所なんて王宮にまだ残っていましたっけ姫様?」
さりげなく、また王様に世話を見させようとしている図々しさにはどうか目を瞑っていただきたい。
「確かにこのままですと、個室がもう空いていないので過ごせる場所がありませんわ。それに、お父様も何も条件を付けずにソージさんを王宮に置いてくれるとは思えませんし・・・。」
「無理言っているようですいませんマイヤ姫。俺もさすがに野宿生活はつらいので、姫に頼るしかなくて・・・。」
いくらあんな派手な口論を交わした直後とはいえ、お前なんかそこら辺の地べたで寝てろなんて極悪非道な発言はさすがに口には出せない。いくら気候が安定しているからといっても、一人で野宿なんて心細いなんてもんじゃない。元の世界でもそんなことはしたいとは思わない。
「なんなら、うちに来るかいソージ?ちょっと騒がしいけど、君1人を引き取ることくらいは余裕でできると思うけど。」
「え、でもいいのか?単純に大食いが一人増えるって言う計算をしなきゃいけないんだぞ?」
「いいってことよー。それに客人が来たって言ったらうちの家族も喜ぶと思うしね!」
「サラがそうしてくれると安心ですね。ぜひそうなさったらいかがですかソージさん?」
「そういってくれるなら、俺もありがたくお言葉に甘えるとするよ。よろしく頼むよサラ。」
とりあえずは宗次の生活問題は、お嬢が世話をしてくれるのだったらきっと丸く収まるだろう。一安心はしているのだけど、素直に「よかったな宗次」と一言言えないことに、自分の心の狭さを感じる。
どうしてこんなことになったのだろうか。僕がしたことはただこの3日間で何が起こったのかを話しただけだ。それがどうして姫様との結婚の件をめぐって、親友と公共の場で声を荒げるほどの大喧嘩をすることになったのだろうか。・・・いや、心の内くらいは嘘をつくのはやめよう。宗次が怒っている理由は実に簡単で、もっともなものであると僕自身自覚はしている。そして僕が昨日自室で悩みに悩んでいた原因もまた宗次がさっき追及していた内容であったはずじゃないか。結局何も解決していなかったんだ。昨日、姫様に会って姫様が結婚について考えることを後回しにしたことをいいことに僕は姫様と結婚することの重大さについて考えることを完全に放棄していた。全て丸く収まったように思いこんで何も答えを出していなかったんだ。それを宗次に指摘されてたことで、考えないようにしていたことを思い出させられて無意識に拒絶しただけだ。つまりは、ただ僕がへたれていたというだけの実に単純な話だった。
きっと宗次に言われて時点で気づいていたんだろう。宗次は何も間違っていない。だとしたら謝らなければならない。悪いことをしたら謝るというのは、幼稚園児でも知っているこの世の常識だ。でも、僕はヘタレだからそんな簡単なことができずに意地を張ることしかできない。批判するならどうぞ思う存分僕を批判してほしい。僕のようなダメ人間はそれくらいされた方がきっとためになるだろう。
でも、今はそんな批判を聞いている暇なんてない。今僕がやらないといけないのは宗次との仲直り、そして先送りにしていた姫様との結婚について真剣に向き合うことだ。いやあ、ヘタレにはハードルが高いよまったく。
そんなことをずっと考えていたらいつの間にかお嬢の家の近くまで来たみたいだ。ちなみにもちろん僕はお嬢の家は知らない。
「もう着きますよー、ソージ!タツキさん!」
その声を合図にずっと俯いていた顔を見上げてみると、まるで高級住宅街のような風景が目に飛び込んできた。王宮暮らしの僕が言うと何とも言えないが、一家族が住むにはどの家も有り余るほどの敷地を有しているように見える。まあ、王族の護衛を代々務めていることを考えると当たり前か。むしろほかの家には誰が住んでいるのか気になるレベルだ。
「家についたら何しますかー?父さんもいないし少しはゆっくりできると思いますよ!」
「いや、お父さんが聞いたら泣くぞその台詞。」
「いいんだよ!私の父さんとんでもないろくでなしの人でなしだから!」
「はあ、何かまたキャラが濃い人でも出てくるんだろうか。」
まあ、ザイロンさんと宗次の絡みは確かに楽しみではある。長い間僕と付き合ってきたその適応力があの人に通用するかはまさに見ものである。ましてや同じ空間でこれから過ごすことになるとなるとなおさら興味が湧いてくるというものだ。
だが、そのイベントはどうやらお預けだ。
「お嬢、僕はちょっと姫様を連れていきたい場所があるんだけどいいか?」
「え、私をどこかに連れて行ってくださるのですか勇者様?」
「お、将来の婿として好感度稼ぎですか~?いいですよ!そういうことなら私も水を差すわけにはいきませんからね!」
どうやら2人は何も勘繰ることをする気配はなさそうだ。さっきあれだけ姫様との結婚のことで僕と宗次が喧嘩していたっていうのに。この2人の脳内はどうなっているというのか。いや、今回ばかりはそれに感謝するしかないわけなんだけど。まあ、もちろんそのさっき喧嘩した相手が僕を見る目は厳しいものだったけど。
「宗次、お前が何を言いたがっているのかはわかっているつもりだ。だから僕もあえてこういう行動に出させてもらう。お前と今度こそきちんと話し合うために。だから今は黙って見逃がせ。」
宗次はやっぱり僕を睨むのをやめなかった。それでも、
「それで整理がつくっていうんなら好きにしろ。」
そう僕に言うのだった。
* * *
「このままでよろしいのですか勇者様?ソージさんは親友なのでしょう?一刻も早く仲直りをした方が・・・」
「わかってますよ姫様。そのためにあえて姫様と二人きりにさせてもらったんですから。」
姫様を連れていきたい場所があるとほざいて連れ出したのにも関わらず、この世界の地理にはとんと疎い僕が連れ行ける場所なんてあるわけはもちろんない。ただ目的地が定まらないまま歩いているだけだ。
「それで、わざわざ私と二人きりになりたかったのは、やはり私との結婚のことで話があるからということで間違いないですか?」
「・・・珍しく鋭いですね姫様。その通りです。」
「珍しくとは心外ですわ。」
思わずこぼれた本音に、。姫様はプンプンなんていう効果音がマッチしそうな顔で僕の顔を見つめる。こんな時ですら、姫様を見ていると和む。やっぱり姫様の癒し効果は半端ない。
でも今は真面目な話をしないといけない。ふわふわした雰囲気に呑まれてはならない。昨日みたいに姫様に会話の手綱を握られるわけにはいかない。だから切り出さないといけない。
「姫様。」
「・・・はい。」
「・・・僕が姫様と結婚するかどうかまだ迷っているって言ったら怒りますか?」
だいぶ展開がころころと変わるなあと我ながら感じます。というよりもはや小説じゃないよねこれ。樹の一人語りと化しているよね。
ちなみに樹と宗次どっちが好きですかね。頼むから樹派の人いてください。
姫とお嬢のアンケートも気になりますね。




