2-6 魔獣さんこんにちは
激しい言葉の応酬を繰り広げ、今はすでに朝日が射す15界。あれから各自の部屋に戻って、満足のいく睡眠をとった・・・はずだった。
「どうしたお前ら。なんだか眠そうだな。睡眠は大事なんだぞ?肌にも大切だし、頭もうまく働かねえだろ?せっかくわざわざ睡眠がとれるように、無理やり会議を切り上げたってのに俺の良心を無駄にするんじゃねえよお前らー。」
「す、すいませんお父様。でも頭が興奮していたり、眼が冴えていたりしてなかなか寝付けなくて・・・。」
「寝る前にあれだけ叫んで、快眠が取れると思っていたわしがバカじゃったわ・・・。」
「爺さんに激しく同意です。というよりむしろなんであんただけぐっすり眠れてるんですか。」
「俺は寝ようと思ったらたとえどんな場所でも状況でも寝れる自信があるんだ!でも、絶対8界くらいには目が覚める体内時計になってるんだぜ?はっはっはっはっは!!!」
身体は疲れてるのに脳が興奮して寝れないってよくあるよね。まあそれですよそれ。それなのに、朝7時に絶対起きないといけないのが王族ルールらしいようで、王様に頭をしばかれて叩き起こされました。本当容赦ねえし、こういうところだけはしっかりしているのがかえって腹立たしい。
「さて、当面の目標だがタツキ、俺にいい考えがあるんだよ。もちろん聞くよな?」
「はあ・・・。とりあえず心の準備だけさせてもらってもいいですか?」
「お前には勇者の仕事らしく、魔王退治してもらう!」
「いやほらもうまたこれじゃないですかー!無理だってー!絶対無理だってー王様!」
眠気覚ましの一発としては完璧な一撃をありがとうございます王様!じゃねえよまじで。
「ちょ、お父様。いくら何でもそれは無茶ではないですか?そもそも勇者様にはまだ戦う術だってないじゃないですか!?」
「いくらこいつの存在が気に入らないとはいえ、死地に雑魚を送り込むのはさすがに気が引けるぞ若。少しはまともな提案をしてくれ。」
「王様の指導係なんだったら、少しはあんたもまともな言葉遣いを心掛けてくれ爺さん。」
いくら本当のこととはいえ、雑魚はさすがに傷つくぞ雑魚は。
「全く、これだからしっかり睡眠をとっていない奴らは・・・。早とちりするなよお前ら、当面の目標って言っただけで別に今すぐ魔王に勝負を挑めなんて一言も言ってねえだろ。ただ、これから魔術や剣術を習得する際のモチベーションにできると思ってだな。」
「まあ、確かに何か目標がないと技術の向上は望めないしのう。その目標があまりにも遥か高みなのはさておいて。」
「でも、魔王様にも勝てる魔術を身につけようと思うと、かなりの時間が必要になるかと思いますが。」
「なんせ、現時点で武器は握ったこともなく、魔法は白魔法の初歩を一回唱えただけのド素人ですからねえ僕。」
魔王の強さがいったいどれほどの強さなのかはわからないが、少なくともあの壮大なスケールで行われた戦闘に今の自分がついていこうと思うと、莫大な時間を要することになるだろうということは想像に難くない。
「誰も一日二日で強くなれる奴なんていねえんだ。わかったらさっさと強くなるんだな。なにせ、お前にはいずれ娘の面倒を見てもらわんといかんからな!」
「お、お父様、またこの場でそういうこと言うと・・・」
「わしは認めたわけじゃないからな!こんな未だに何も一人でできないような小僧に」
「あーもうやめてやめてやめてええええええええ!!!!」
「はっはっはっはっはっはっはっはっは!!!!!」
こうして、3日目の朝は喧騒と共に新たな無茶ぶりをされたところからのスタートとなった。
* * *
「マイヤ様~~~~!おはようございます~~~~!」
睡眠不足の主従の頭に再びエネルギーを注ぎ込んできたのは、青緑のショートヘアーをサラサラと揺らしながらキャンキャンと吠える一匹の子犬・・・ではなくサラお嬢。
「おはようサラ。」
「ん、お嬢か。今日は昨日と違って早いんだな。」
「昨日はあの変態親父が家から出禁くらってたせいで、私が代わりの仕事をこなしてたんですよ。街の外に出て、村からやってくる食料輸送の人たちの対応をしたり、ざっとそこらへんにいる魔獣を倒して食料調達したり、家から出られないからって魔術研究の素材を取りに行かされたりでもう大変だったんですよ!?」
「その様子だと、さすがに今日はザイロン様もお仕事できるみたいですね。よかったですわ。」
「あのー、僕的にはその仕事内容の方が気になるんですけど?まず、魔獣とかいう物騒なものの質問をしてもいいです?」
「え、タツキさん魔獣を知らないんですか?」
「勇者様、魔獣については昨日説明したと思うのですが?」
「え、えーっと、そうでしたっけ?」
「はい、その部分は勇者様も随分と理解が早かったと記憶していますが。もうわかったと言わんばかりに何度もうなずいていたじゃないですか。」
あ、姫様。それ多分僕ウトウトしてただけです。
「まあ魔獣っていうのは、私たち人間が存在する前から存在していると言われている動物です。害のないものから人間に襲い掛かってくる凶暴な種類までたくさんいるんですよ。その生態にはまだ謎が多いんですけど、研究するのも父さんの仕事なんですよ。」
「とりあえず魔獣から採れる素材や肉は私たちの生活に大きく貢献してくれているんです。でも、先ほどサラも言った通り凶暴なものも多いので、そのために剣術や魔術を学ぶというのが一般的なんですよ。ただこの街で暮らすだけなら、生活に役立ち魔術だけで充分ですし、戦う術なんて基本的には必要ありませんからね。って思い出していただけました?」
「え、ええ。ありましたねそんな話。」
もちろん初耳である。でもこの話で、この前の魔王襲撃の時の対応力の低さ、というより緊張感のなさに合点がいった。魔王なんて大層な名前がついている奴が攻めてきたのにあの危機感のなさはもう平和ボケというレベルを超えているように思えた。なんか王国に危機が迫っても王族とその側近が何とかするだろっていう雰囲気で街があふれていた。いやそれなら本当に危機が迫った時くらい、すっと王様とその側近を解放してほしいんだが女性たちよ。
「それに、白魔法の存在のせいで万が一自分の身に危険が及んでも回復できる世の中になってしまいましたからね。まあ、こうやって国民が平和に生活できているのは王族の立場としては喜ばしい限りなのですけどね。」
「まあそういうわけで、力がある私たちがこの国を護っていかないといけないんですよ。わかりましたか、次期国王様?」
「そういういじり方はやめようかお嬢?まだそこまで話は進行していないから勝手に一人で妄想を膨らませないように。」
どうやら昨日の王様の発言だけ聞いて帰宅してしまったサラ嬢の頭の中では、すでに僕と姫様は婚約者ということになってしまっているらしい。このいつにも増してキラキラした笑顔はそういうことか。そしてさりげなく姫様の身体を僕の方に近づけようとして姫様をグイグイこっちに押すのもやめようか。
「それでそれでそれで!いつ結婚するんですか!?いよいよマイヤ様の晴れ舞台ですかー!!!キャーこれは楽しみですね!!!もちろん私も呼んでくれるんですよね!?いやー、あの恋愛話にとんと疎かったマイヤ様に結婚相手ができて、それが勇者様なんて呼ぶ男の人だなんて!絵にかいたようなシンデレラストーリーですね!羨ましい、羨ましいですよマイヤ様!」
「ちょ、ちょっとサラ。勝手に話を進めないで?確かに結婚はしますが、そうなるには色々と段階を踏まないといけないじゃない?」
「あ、もう姫様の中で結婚はする方向でシナリオができてるんですね。」
正直、今のところ評価が散々でボロボロな気がするんだけど。過程があってからの結果なのに、先に結果を定めると過程が大変なことになる気がするんだけど。
「タツキさん、ちょこっと抜けてて、ちょこっと常識知らずで、ちょこっと世話が大変な子だけど、めっちゃいい子だからどうか面倒を見てあげてくださいね!何か困ったことがあったら私がいつでも相談に乗りますよ!」
「じゃあ今すぐにでも相談に乗ってもらっていい?」
「お、なんですなんです!?どんとこいですよタツキさん!」
「姫様が僕のことまだ好きじゃないみたいなんだけどどうすればいい?」
「・・・はい!?どういうことですか!?」
「とりあえず私の話を聞いて?」
「いや姫様に任せるのは怖いんで僕がやります!」
* * *
「マイヤ様、そんな形式にこだわらなくていいんですよ。夫婦の契りを交わしたら自然とキュンとすることだってあると思いますし!」
「でも、ちゃんと好きになってからじゃないと勇者様にも失礼じゃないかしら。お父様に結婚しろと言われたから結婚しましたって感じで結婚するなんて許せませんわ。」
とりあえずお嬢が帰ってからあったことを全て説明して、今は実は結構珍しい二人の女子トークをただひたすら聞くだけという、またもや場違い感半端ない状態に陥っている天梨樹でございます。あ、ちなみに時間を無駄にしないようにとお嬢から白魔法入門書という魔術書を渡されたから一応その本を開いている。テーマが「僕」の女子トークが、すぐ隣で繰り広げられている中で集中できるわけないけど。
「考え方が固いんですよ姫様!タツキさんと結婚すること自体が嫌じゃないんだったら、いつ結婚したって同じですよきっと。むしろ先に結婚しちゃった方がもっと早く好きになれる可能性だってありますよ?」
「ほ、本当?じゃ、じゃあ・・・結婚しますか勇者様?」
「いやいやいやいやいやいやいやこのノリでプロポーズ!?おまけにまさかのプロポーズされる側ですか僕!?」
「おー!!!おめでとうございますタツキさん!これでやっと結婚できますね!」
「いや認めねえよ!?僕のプライドが許さねえよ!?」
「えー何言ってるんですか?女の子にプロポーズさせておいてその態度は男としてないと思います!」
「そういう話じゃないでしょおおお!?」
その結婚の仕方の方がよっぽど僕に失礼だと思うんですがどう思いますか姫様よ。
「でもどのみち、マイヤ様と王族血合してタツキさんの魔力を覚醒させないと、あのヘボ魔王と戦うなんて無理ですよきっと?たとえ私が今日から毎日タツキさんに血反吐を吐かせながら剣術を叩き込んだところで、1年くらいはかかると思った方がいいですよ?それであいつに勝てるとも思えませんし。そもそも魔王退治なんて、父さんとガルディン様が本気出せばすぐ終わると思うんですけど。」
「まあ単純に魔王を軽視してるだけでしょ。遊び相手としか思ってないんじゃない?一昨日だってザイロンさん簡単に魔王の魔術打ち消してたし。」
「いえ、魔王様の問題点はあの強大な闇魔法だけではないのですよ。魔王様は魔獣を使役する力を持っているんですよ。お父様とザイロン様だけだと、魔獣に阻まれて魔王様と戦うことができないみたいですよ。まあ一昨日になって、魔王様とお父様たちは密かに何回か会っていることが分かったので、いよいよ魔王退治に全く本気じゃない説が濃厚になっているんですけどね。」
「要は、僕の修行に魔王を有効活用してやろうという王様の思惑でしょう。遊び相手になってやれってことですよきっと。」
「実際、魔獣と戦うのは危険が伴いますけど、修行にはピッタリですからね。そうだ!魔術と剣術の勉強の一環ということで、魔獣狩りに試しに行ってみませんか?」
「え、そんなことして大丈夫なんですか?」
「そうよ、勇者様はまだ護身術すら身につけていないんだから危険じゃない?」
「私とマイヤ様で護衛すれば問題ないですよ!」
「いや僕と姫様立場逆転してるからね!?」
それに、せっかく姫様からの好感度を上げようという裏目的もあるのに、姫様におんぶにだっこだと色々とまずい気がするんだけど・・・。
「まあまあ、行きましょう!外の世界を知ることも、次期国王には大事なことですから!ね?」
そんな心配事はそっちのけですかそうですか。こっちの世界の人ってどうも押しが強いんだよなあ。
というわけで、なんかやけにテンションの高い同僚の誘いで僕と姫様は危険に晒される羽目になりました。まああれだけ言うんだからきっと、お嬢だけでもなんとかなるんだろう。なんかこの台詞フラグ臭いからやめよう。
* * *
そうして、お嬢の道案内で僕たち3人は街の外に向かって散歩を始めた。よくよく考えたら、こうして落ち着いてこの街を散策する機会は今回が初めてだったということもあり、僕はどうも都会に出てきた田舎の人みたいな落ち着きのなさを見せてしまっている。こういうときにどっしりと構えていられないのも、姫様からの減点ポイントになっているんだろうか。
それにしても、この王国は改めて眺めてみると、ひときわ目立つ王宮はあるわ、町の中心にはでっかい噴水のある商店街があるわ、家の一つ一つがそれなりの大きさがあってボロ屋敷のようなものは一つもないわで、まさに平和、安心、繁栄を象徴しているかのような街並みである。前王までの政治がそれほどよかったのだろうか。今の国王がこれを成し遂げたとはとても思えないし。まあ、平和に関しては多少の貢献度はあるのだろうけど。
「ねえねえマイヤ様、なんかここってこんな感じでしたっけ?」
「ごめんなさい、あまりにも表現が雑で何を言いたいのかが伝わらないんだけど。」
「だから、なんかちょっと違和感があるというか・・・。まあいいです!きっと私の勘違いですよーだ!」
「ごめんなさい、なんで勝手に一人で拗ねられたのかがわからないんだけど。」
というような乙女二人組の心温まる会話を聞きながらする散歩はそれなりに楽しい。ちなみに、その謎の違和感の正体は来てまだ3日目の僕には絶対にわからないので華麗にスルーさせてもらいます。まあ強いて感想を言うなら、ここら辺の景色だけはあの初日のおもらしの悪夢を彷彿とさせるような街並みで若干不快だというところだろうか。まあどこを見ても同じような景色が並んでるわけだし、その感想を言い始めたらきりがないんだが。
そんな感じで平和に、街と外を隔てるゲートまでたどり着いた僕たち一行は、ゲートの兵士にもっともな言い訳をして外に飛び出した。そういえば、初日に王宮の門番として、姫様に僕の変態ぶりを暴露してくれちゃうというナイスプレーをしてくれやがった兵士AとBは元気にしているだろうか。今度会ったら居候の立場をフル活用して、あの時の仕返しをしてやろう。そうしよう。
「やっぱ外の空気はいいですねー。街では吸えない新鮮な空気が吸えますし、自然が綺麗です!」
「私も実は街の外に出るのは結構好きなんですよ。この緑が広がる草原とか、向こうに見える山岳地帯とか、奥の方に見えるのどかなカルシウ村とかを見ると心が落ち着くと言いますか、癒されると言いますか。」
「なんか随分と、骨が丈夫になりそうな名前の村ですね」
なんだ、牛乳を大量に作ったりでもしてるんかその村は。
「でも変ですね。なんか東側からなんか妙な空気振動を感じます。」
「空気振動を感じるってなんか耳馴染みのない文章だけど、それも風魔法の一つなの?」
「はい、私ほどの使い手になったら、風の調子とか振動から声がどこからしているのかとかがわかるようになるんですよ!街の中だと常に騒がしいからあまり効果はないんですけどね。」
万能ね、風魔法。
「魔獣同士で喧嘩でもしているのでしょうか。サラ、振動から何か分析できない?」
「どれどれ、ちょっと耳を澄ましてみますね。・・・ふむふむ。「いったいどういうことだー。やっぱりここは普通の世界じゃないじゃねえかー。なんでタイムスリップして早々、こんな怪物に襲われてるんだー。」って言ってます。」
・・・は?
「まあ大変!誰かが襲われているってこと!?」
「いやちょっと待て、今タイムスリップって言ったかお嬢!?」
「は、はい。確かに風はそう震えてましたけど。ってなんかタツキさんみたいなこと言ってますね!最近流行ってるのかなタイムスリップ。」
「いや、流行ってたまるか!」
でも、タイムスリップなんて言葉をこっちの世界の人たちが平気で使うとは思えない。でもだからといって、僕みたいな人間がそう何人も現れるなんて可能性もゼロに極めて近いはず。そもそもタイムスリップなんてことを企む人間なんて僕くらいのものだろう。たいていの人間は与えられた現状を受け入れる。過去を変えたいなんて考えたことはあっても、実際にそれを行おうとするバカみたいな人間なんて僕以外にいるはずがない。せいぜいタイムマシンを作ることができ・・・・・。
「え・・・・・。いや・・・まさか・・・。いやいやいや、絶対にありえない。だって、あいつは・・・。そんなことあるはずが・・・。」
「どうしたんですか勇者様?何やら思いつめた顔をしていらっしゃいますが・・・?」
「ちょっと、タツキさん!マイヤ様!誰か襲われているんですから助けないとまずいですって!村の人がはぐれちゃったのかもしれないじゃないですか!とにかく行きましょう!」
「ええ、そうですわ。参りましょう勇者様!」
「は、はい!とりあえず見れば解決するかもしれませんし。」
あってほしくない。でも、あり得るとしたら絶対にあいつ以外ありえない。そしてそいつが今襲われているのだとしたら絶対に助け出さないといけない。だって、
「なんで・・・・・来たんだよ、宗次。」
黒い角を生やしたでかい牛に襲われているその男は、僕の生涯の友だからだ。
魔獣設定まだ出していなかったことにようやく気付いた作者なのであった。
少し次遅れますすいません。




